暑~い1日の終わりにピッタリのワインを、たくさんある中から絞り込んで選ぶ。
我々ショップ店員はワインを仕事にしているとはいえ、いつもタダでワインを飲めるわけじゃありません。
2000種類を超えるワインの中から、今日飲みたい1本をどう選んで晩酌用としているか。
ソムリエの頭の中を覗いて、ワインを選び抜くプロセスをご紹介します。
失敗しないワイン選びとは
自分がまだ飲んだことのないワインを1本買う時、どう考えますか?
「好みのタイプじゃなかったら、価格の割に品質イマイチだったら嫌だな」
そんなふうに"失敗を恐れる"というのは当たり前の感情です。
どうすればワイン選びの失敗が少なくなるのでしょうか。
ワインの選び方 ピンポイントで選ぶ
「このワインを買う」という決断をするとき、どういう根拠で選ぶことが多いでしょうか?
一つはピンポイントでの選び方。「この銘柄が飲みたい」と選ぶ方法です。
例えば「テレビで紹介されていたあのワインを買って飲む」のようなもの。
基本的にワインはその1種類。もしあるワイナリーが紹介されていて興味を持ち、それを買うとなっても、ラインナップはせいぜい10種類くらいのところが多いです。
この選び方は分かりやすい。ワイン売り場に行く、もしくはネットで検索する前に強い動機があるのです。
もしそのワインに類似するワイン、例えば同じ生産者がつくる廉価版のワインを気に入っていたとかがあれば、失敗も少ないです。
一方で、だれかのおすすめを参考に選ぶ場合は、失敗が多いと思ってください。おすすめしていた誰かとあなたの味覚は違うからです。
ワインの選び方 絞り込んで選ぶ
一方で自分の好みなどを参考に、絞り込んで1本を選ぶなら、それほど大きな失敗はありません。
例えば「ソーヴィニヨン・ブラン、産地はフランス以外、2000円台」のようにいくつもの条件で絞り込んで、その中から1本を選ぶ。
それはまるで価格.comでパソコンを選ぶようなもの。上級者はCPUの種類やストレージ容量など、自分がこだわる条件と予算から検索で絞って、それから順番に見ていくはずです。
様々な条件から絞り込んで、残った数本のワインからその1本を選んだ理由は、弱いかもしれません。極端な話、「最後はエチケットの気に入ったほう」かも。
それでもいいんです。ワインのおおよその味わいは想像して購入するので、「不味くて飲めない」はワインの欠陥以外にほぼありません。
絞り込んで選ぶメリット
人のおすすめばかりをアテにしていると、ネタ切れがおこります。
「良さそうなおすすめのワインはもう全部飲んじゃった。次何を飲んでいいのかわからないよう」となってしまうのです。
また、特に実店舗で買う場合などは、目当ての銘柄がなければそこで行き止まりです。
その点、絞り込んで選ぶことができるようになれば、どこでもワインを選べます。
馴染みのワインショップはラインナップが少し分かるから「選びやすい」だけ。全く別のショップでワインを選ぶ際も、情報が十分なら同じように選べます。
では具体的にその日の気分やシチュエーションを想定して、ワイン選びをシミュレーションしてみましょう。
ともかく暑かった1日の晩酌、ワインだけで飲む場合
特にお祝いなどはない平日、仕事帰りに買って帰って自宅で飲むワインを選んでみましょう。
季節は夏。猛暑日で仕事や通勤でしっかり汗をかいて帰るとします。
となれば気分は「スッキリしたもの飲みたい!」と考えるもの。
スッキリとしたワインは山ほどあります。そのなかから如何にして絞り込んでいきましょうか。
まずは冷蔵庫の中を思い出す
やっぱりワインを楽しむ上で、一緒に何を食べるかは重要です。
なので実際、「今日何を食べたいかな~」とか「冷蔵庫の中に何が残っていたかな~」と考えるところから始めることは多いです。
とはいえ、それを考え出すと想定する選択肢が膨大になってしまいます。また、「料理との相性」がワイン選びの決め手になりますので、今回の「絞り込んで選ぶ」プロセスは参考になりません。
なので今回は料理抜きで考えます。
例えば今日の夕食がどう考えてもワインと合いそうにないものだった。あるいは夕食時は子供にごはんを食べさせるのに忙しくてゆっくり飲めないから、ワインタイムは食後に別枠で楽しんでいる。
ワイン単体で楽しむ、もしくはせいぜいクラッカーなどの相性を気にしないアテで飲む場合の選び方です。
単体で楽しみやすいワイン
おつまみや料理なし、ワインだけで飲み続けても物足りなさや飲み疲れがないワイン。
まずはワイン単体としてバランスがとれていて美味しいことは前提ですが、次のようなタイプが単体で楽しみやすいワインです。
A)スパークリングワインのうち標準的な辛口のもの
B)白ワインのうち、オーク樽熟成の風味がしっかり、適度な酸味のあるもの
C)白ワインのうち、アロマティックすぎず、半辛口で酸味が十分あるもの
D)赤ワインのうち、樽熟成による口当たりの厚みがあり、ある程度上級で渋味がこなれているもの
E)赤ワインのうち、適度な熟成をしていて風味のボリュームが素晴らしいもの
F)極甘口のデザートワイン
一つ一つ理由を述べていくべきところではありますが、先に次の絞り込みをします。
猛暑日に飲みたいスッキリワイン
暑かった日の終わりには、キンキンに冷えたワインが飲みたいですよね。
だからよく冷やして飲んで美味しいワイン。この時点で赤ワインは外れます。また、暑い日にこってり甘いものも積極的に選びたくないでしょう。D)E)F)が消えました。
白ワインの中でも、オーク樽熟成したリッチなワインは、12℃くらいまで温度を上げた方が魅力を発揮します。冷やしすぎはもったいない。だからB)のこのタイプも外します。
そして残ったのはA)タイプの辛口スパークリングワインとC)の半辛口白ワインです。
単体で飲んで美味しい理由
酸が高く軽いボディ感の辛口ワインを単体で飲み続けていると、少し物足りなくなってきます。
例えば典型的な樽熟成していないシャブリ。つい何か食べたくなりませんか?
もちろん高級なワインだと話は変わってきますが、宅飲みワインの価格帯だとそういうものが多い。
そんなとき、少し甘味のあるワインだと物足りなさが緩和されます。
甘味といってもアクエリアスの半分くらい。具体的な数値なら12~25g/Lくらいがいいでしょう。
ドイツワインなら「ハルプトロッケン」「ファインヘルプ」の表記で探すと見つけやすいです。
スパークリングワインの多くは、仕上げに甘味を加えています。ドサージュです。
2回目の発酵で炭酸を閉じ込めて、白ワインをスパークリングワインにする過程で、残っていた糖分を使い切ります。それだと味わいのバランスが崩れることが多いので、仕上げに甘味を添加して調整しているのです。
詳しくはドサージュについて解説したこちらの記事をご覧ください。
スパークリングワインもドサージュによる甘味・ボディ感があるので、単体で飲んでいて心地いいんです。
白のスパークリングワインだけでなく、ロゼもいいでしょう。
価格は2000円台
すごーく大雑把に言うと、高いワインほど濃いです。どっしり力強いものから、風味のボリュームがすごいものまでその現れ方は様々ですが、「なるほど、高いだけあるな」と納得させてくれる風味がある。余韻の長さとして現れるものも多いです。
暑かった日の晩酌に、それは必ずしも必要ではありません。いや、むしろ要らない。
だって暑かったから喉が渇いているんです。グビっと飲みたい。そのときに長すぎる余韻は、次の一口がつっかえます。
単に筆者のお財布事情で安いほうがいいと言っているわけではありません。その日の気分にちょうどいい価格帯ってものがあります。
もちろん、安すぎると味わいが単調になったり雑味を感じたりしてよくありません。
地域や生産者による違いもありますが、およそ2000円台から3000円台前半を目安にするといいでしょう。
スパークリングワインは瓶内2次発酵のもので
製法は瓶内2次発酵のものを選びましょう。
喉が渇いているとはいえ、平日から1本飲み切る方は多くないかと。いや、もし飲み切るならシャルマ方式でもいいんですが、残す可能性が高いなら翌日美味しく飲むことも考えたい。
そうなったとき、泡の持ちは圧倒的に瓶内2次発酵のものが上です。
これも条件に加えて絞り込みます。
候補となるワイン
このあたりまで絞り込む条件が決まると、検索機能などをつかって候補をピックアップしていきます。
スパークリングワインならフランスのクレマン・ド・ブルゴーニュ、クレマン・ダルザス、クレマン・ド・ロワールなど。マイナーどころだとクレマン・ド・サヴォワもスッキリ系です。スッキリ系がいいので、白ブドウ主体のものを選びます。
それからドイツの瓶内2次発酵のゼクト。少し予算オーバーかもしれませんが、イタリアのフランチャコルタ。(当店では該当なし)
(↓ちょっと高い)
(↓けっこう高い)
ニューワールドでつくられるシャルドネ+ピノ・ノワールのスパークリングワインもいいでしょう。
当店なら南アフリカのグラハムベックが売れ筋なのですが、コスパがいい生産者なのでちょっとだけ濃いかなと外しました。
(↓美味しいけどグビグビはいきづらい)
半辛口枠からはこのあたりが候補です。
最後のチョイスは適当でよし!
この6本まで絞り込めば、もうハズレはありません。どれを選んでも、猛暑日だった日の夜、ワインだけで飲んで満足できます。
私の今の気分で1本選ぶならこのワイン。
シャルドネだけでなく、アリゴテもブレンドしているところに惹かれました。
アリゴテはブルゴーニュでシャルドネに次いで栽培されている白ブドウ。高い酸味とスマートなボディが特徴です。
スパークリングワインでも、味わいを一段とスッキリさせてくれることを期待しました。
という最もらしい理由を挙げましたが、実際は「飲んだ記憶が一番あいまいなワインがこれ」という個人的な理由だったりします。
だから本当に最後はどれでもいいんです。
二人で飲むのなら
私は一人暮らしなので2000円台で選びました。
もし夫婦で半分ずつ飲むというのでしたら、予算を3500円くらいまで上げると満足度は大きく違うかもしれません。
日ごろから、「これ美味しいな~、お客様にご紹介したい!」と思うスパークリングワインは、やっぱり3000円を超えてくるものが多いように感じます。例えばこのあたり。
3000~3500円のゾーンに、結構な数の秀逸なスパークリングワインがあります。
一人で飲む方も「2日で飲む前提で」選ぶのもアリでしょう。
消去法で選ぶワイン
「飲みたいワイン」のうち、「飲んだことがない」「買いたい」ワインって意外と少ないんじゃないでしょうか。
そりゃブルゴーニュの有名生産者の飲み頃ワインは、365日いつでも飲みたいですが、手を出せる価格じゃない。
同じものを飲み続ける人ならともかく、次々に新しいワインを飲みたい方にとって、「何かワイン買いたいんだけど、ピンとくるものがない」という悩みはついて回るはず。
特定の銘柄で「コレっ」というものが思い浮かばないなら、消去法で選んでもいいんじゃないでしょうか。
今の気分じゃない、自分の飲み方に合わないものを省いていく。そうやって条件で絞りこんで、数本の選択肢になったなら、1本を選ぶのはそう困らないでしょう。
飲みたいワインが思いつかなければ、飲みたくないワインから考えていく。
悩んだ時のワイン選びのヒントになれば幸いです。