ドサージュとは、スパークリングワインのデゴルジュマンの後に目減りした液量を補うとともに糖度の調整を目的として、リキュールを加えること。
またはリキュールを加えた結果としての仕上がり糖度のことを指します。

端的に言えばこれだけなのですが、これで「なるほど~」となる人はまずいないと思いますので、詳しくご紹介してまいります。
ドサージュの意味を理解し、自分が感じる味わいと数値の関係を理解する。
そうすれば今の気分にあったシャンパン・スパークリングワインを選ぶヒントの1つになります!
スパークリングワインの作り方 おさらい
スパークリングワインの製法はこちらの記事にてご紹介しておりますので、今回は簡単におさらいだけ。
簡潔に述べるなら、白ワインに酵母と糖分を添加してもう一度発酵させ、発生する二酸化炭素をワインの中に閉じ込めるとスパークリングワインになります。
もう少し詳しく、シャンパンや多くのスパークリングワインに用いられる瓶内2次発酵の製法は次の通りです。

- ブドウを収穫する
- プレス、果汁を絞る
- 1次発酵
- 瓶詰
- ティラージュ(酵母とショ糖を加える)
- 瓶内2次発酵
- デゴルジュマン(澱引き)
- ドサージュ
- 打栓(コルクを打つ)
- パッケージング
- 熟成(省かれる場合もある)
- 出荷
このうちスパークリングワインのテクニカルシート(ワインの詳細情報)には、ブドウ品種とともに瓶内2次発酵の期間が記載されていることが多いです。
これは瓶内2次発酵の期間が味わいに大きく影響するからです。一般的に長いほどいいとされます。
実はこの瓶内2次発酵の期間よりも大きく味わいに影響する項目があります。
それはドサージュの量です。
しかし、テクニカルシートにはあまり書いてありません。ワインのバックラベルに書いてるのはもっと稀です。
なぜなら、エチケットに必ず書かれているからです。
スパークリングワインでよく目にする「Brutブリュット」の文字。これがドサージュ量を表しているのです。
そのことについて述べる前に、どうしてドサージュが必要になるのか、ドサージュとセットで行われるデゴルジュマンについてご紹介します。
デゴルジュマンとは
ティラージュをしたワインは、ボトルに王冠などで栓をされてセラー、カーヴで保管されます。
カーヴとはもともと洞窟の意味。
特にフランスのシャンパーニュ地方はチョーク質の石灰岩土壌のため、地下に鍾乳洞などの洞窟ができやすい傾向があります。
洞窟はいわば天然の冷蔵庫。
1日を通してあまり気温が変化しない涼しい場所で最低15か月、長いときは10年を超えて保管する。

ポル・ロジェのカーヴ
定温倉庫を作ることが可能な現在でも、昔ながらの洞窟をつかってワインを熟成させる生産者は少なくありません。
瓶内2次発酵の間、酵母はショ糖を食べてアルコールを生成し、二酸化炭素を排出します。
瓶内は密閉されており逃げ場がありませんので、二酸化炭素はワインに溶け込んでいき、発泡性のワインとなります。
やがでエサとなる糖分を使い切りアルコールが上がると、酵母は死滅し澱(おり)となって沈殿します。
この澱はアミノ酸の塊であり、時間とともに自己消化が進んでワインに溶け込んでいきます。
完全に溶け込むのが何年後かは諸説ありますが、2,3年ではありません。もっとかかります。
これが瓶内2次発酵の期間が長いほど上質とされる理由で、ワインに酵母由来の複雑な香りやアミノ酸のコクが加わります。
この澱が残ったまま出荷されるスパークリングワインも中にはあります。
しかし基本的には見栄えも口当たりも悪くなるので、澱を取り除く必要があります。
そこでまず行うのがルミアージュ(動瓶)という作業。
口を斜め下にしたワインボトルをピュピトルPupitreという台に差します。

ポル・ロジェのルミアージュ
この状態で瓶を回すと、だんだんと瓶口に澱があつまってきます。
回すと言っても、1日に45度ずつ回す、などゆっくりとしたペース。およそ6週間かかるそうです。

澱が瓶口に集まる -ポル・ロジェ
瓶口に澱が集まったら、冷却液に瓶口を漬けて瞬間的に凍らせます。
そして栓を外すと、ガス圧によって澱が飛び出します。
これがデゴルジュマンです。
大手では完全機械化されていますが、小さな生産者だと手作業でデゴルジュマンを行っています。
上記の動画でデゴルジュマンを行ったあと、ポンプで透明な液体を注いでいました。
これがドサージュです。
ボトル内の液量が少な目だったのにお気づきでしょうか。
澱と少量のワインを抜くので、その分全体の量が減ってしまいます。
もともとはその減った量を補う意味合いが強いのがドサージュです。
何のためのドサージュ?
ドサージュの目的は、先ほどの目減り分を補うということ他に、味わいのバランス調整という重要な役割があります。
炭酸があると甘さを感じにくいものです。
市販の炭酸飲料などの飲みかけを放置して、翌日飲んだら甘ったるく感じた、というのはだれしも経験があるでしょう。
スパークリングワインも多少の甘さ、ないし甘い風味があった方がバランスがいい。
ところが瓶内2次発酵が終わった時点での残糖度はほとんど0です。酵母が使い尽くしているのです。
瓶の大きさは決まっていますので、先ほどの動画のように一定量を加えれば、出来上がりとしてどれくらいの糖度になるかを調整することができます。
その仕上がり糖度がどれくらいかによって、「ブリュット」などの表記が決められているのです。
「ブリュット」は世界共通ですが、そのほかの表記は国によって微妙な違いがあり、次の通りです。
フランスの呼び名 | イタリアの呼び名 | ドイツの呼び名 | スペインの呼び名 | 残糖度 |
Brut Natureブリュット・ナチュレ | Brut Natureブルット・ナトゥーレ |
Brut Natureブリュット・ナトゥア Naturherbナトゥアヘルプ |
Brut Natureブルット・ナトゥーレ |
3g/L未満 リキュール無添加 |
ExtaraBrutエクストラ・ブリュット | ExtaraBrutエクストラ・ブルット | ExtaraBrutエクストラ・ブリュット | ExtaraBrutエクストラ・ブルット | 0~6g/L |
Brutブリュット | Brutブルット | Brutブリュット | Brutブルット | 6~12g/L |
Extra Dryエクストラ・ドライ | Extra Dryエクストラ・ドライ | Extra Trockenエクストラ・トロッケン | Extra Secoエクストラ・セコ |
12~17g/L |
Secセック | Seccoセッコ、Dryドライ、Ascicuttoアシュット | Trockenトロッケン | Secoセコ | 17~32g/l |
Demi-Secドゥミ・セック | Semi-Seccoセミ・セッコ、Abbocatoアッボカート | Halbtrockenハルプトロッケン | Semi Secoセミ・セコ | 32~50g/l |
Douxドゥ― | Dolceドルチェ | Mildミルト | Dolceドゥルセ | 50g/l~ |
ブリュットのスパークリングワインは一般に「辛口」と表記されます。
「辛口でも1L当たり最大12g、1本あたりで9gも砂糖が入っているのか」と驚かれるかもしれません。
しかし、甘口ワインに関する記事でご紹介した通り、清涼飲料水に比べたら問題になる量ではありません。
そもそも、糖分よりもアルコールによるカロリーの方が大きいはずです。
ドサージュ量は生産者やワインによっても異なります。
「うちはすべて7g/L」のように決めている生産者もあれば、畑ごと・ヴィンテージごとに細かく変える生産者もいます。
流行としては15年ほど前から割と辛口よりにシフトし、エクストラ・ブリュットも多く作られるようになったようです。
ここ5年ほどはそれが少し戻ったかのように感じます。やはり「ブリュット」が一番売れるということでしょうか。
ワイン好きのあなたにとっての関心事は、それが味わいとしてどう表れるのかでしょう。
ドサージュ量で味わいはどう変わる?
開けたての炭酸が十分強い状態で、エキストラ・ドライあたりまではほぼ辛口と感じます。
セックのスパークリングワインですら、温度によっては甘さはあまり感じません。
変わってくるのは味わいのリッチさ、ボリューム感です。
これは同じブリュットの範囲、6g/Lに近い値なのか、12g/L寄りなのかでも感じます。
まずはスパークリングワインの大多数を占める「ブリュット」と、それより辛口の2つについて。
「エクストラ・ブリュット」と「ブリュット・ナチュレ」の違いはほとんどありません。
ドサージュの量が多いほど、一口飲んだ時リッチで豪華な印象を受けます。
逆に少ないと、繊細で細身なイメージを持ちます。
なのでドン・ペリニヨンやクリュッグ、ベル・エポックといった有名どころのシャンパンは、ほぼすべてブリュットです。
詳細なドサージュ量を公開しているところは少ないのですが、やや多めに感じます。
ドサージュ多めのリッチな味わいの方が、多くの人に高価なワインの納得感を与えられるのでしょう。
逆にレコルタン・マニピュラン(RM ブドウ栽培から醸造まで一貫して行う小規模生産者)の上質なワインは、よりドサージュを減らしたエキストラ・ブリュットで勝負しているところが多いように感じます。
彼らは自分で育てただけありブドウの品質に自身を持っています。
だからこそ、なるべくドサージュでお化粧をせずに、そのままを味わってもらいたいのでしょう。
ブリュットで美味しいスパークリングワイン・シャンパンのドサージュ量を減らせば、エクストラ・ブリュットやブリュット・ナチュレになるかというとそうではありません。
もちろんできるのですが、それだとすっぱくて薄っぺらいワインとなってしまいます。
ドサージュ量を減らしても味わいのバランスがとれるよう、熟度の高いブドウを使うなどの工夫が必要となります。
ポル・ロジェも最初は「ブリュット・レゼルヴ」のドサージュ量を減らして「エクストラ・ブリュット」を作ろうとしたそうです。
しかしうまくいかず・・・
そこでブドウ品種のブレンド割合は変わらずとも、使っているブドウを根本的に見直しました。
最初からドサージュの少ないシャンパンを作るべくブレンドを試行錯誤。その結果出来上がったのが「ピュア」の名前のついたこのシャンパン。
飲み比べると確かにポル・ロジェらしさはあるものの全く別物。スマートできれいな酸味を持つシャンパンです。
おそらくより上質なブドウを使ったことが、この価格さにも現れています。
ドサージュが多ければリッチな味わいになるけれども、ブドウの熟度が高ければエクストラ・ブリュットでもリッチ。
何が違うの?
泡が抜けてきたころには大きな違いが表れます。
ドサージュの多いものは泡が抜けるとやはり甘さが目立ってきて、もったりとした口当たりになってしまいます。
それに対しエクストラ・ブリュットやブリュット・ナチュレのものは、もともと糖分がほとんどないため味わいが崩れません。
なんなら白ワインとしても美味しくのめるものもあります。
このことからどんな時に飲むべきかが見えてきますが、それは後ほど。
エクストラ・ドライのスパークリングワインもたまに見かけます。
多いのがプロセッコ。
イタリア、ヴェネト州のスパークリングワイン『プロセッコ』に使われるブドウ『グレーラ』は、酸味の強いのが特徴。
なのでブリュットくらいのドサージュ量ではバランスが取れず、エクストラ・ドライの方がベターというものも多いのです。
なおそれ以上の糖度、ドゥミ・セックやドゥーなどはほとんど見かけることがなく、飲んだことがありません。
素朴な疑問 ドサージュに使われるリキュールってなに?
多くの専門書におけるスパークリングワインの製造法において、ドサージュは「リキュールを添加する」のように記述があります。
このリキュールって具体的にはなに?
実は筆者もよくは知りません。
例えばドイツの生産者ラッツェンベルガーは、ドサージュに自身の畑で作った甘口ワインを使っていると言います。
「10年熟成のベーレンアウスレーゼを加える」というところでヴィンテージに疑問をもった方は鋭い。
表記のあるヴィンテージの2013年とは違うものが混じっていることになります。
これはEUでのルール、「ヴィンテージを表記するには当該ヴィンテージのブドウを85%以上用いること」というものにのっとったもの。
15%までなら他のヴィンテージを混ぜても問題ないのです。
他にMCR(濃縮ブドウ果汁)を使用するという生産者も見かけます。
シャンパーニュ地方に訪問したこともある知り合いのソムリエさんは、「あんなのただの砂糖水だよ」と言っていました。
さてさて、真相はいかに?
甘さによるスパークリングワインの使い分け
ドサージュの量によってスパークリングワインの味わいの印象は変わってきます。
ではそれぞれどんな場合にその甘さを選べばいいのでしょうか。
エクストラ・ブリュット/ブリュット・ナチュレ
スパークリングワイン、シャンパンの場合に分けてご紹介します。
スパークリングワイン、例えばカヴァなどのブリュット・ナチュレはきりっと辛口、さっぱりとした印象のものがほとんど。
なので初夏の時期や日差しの気持ちいい日の昼酒にぴったりです!
軽く汗ばむような陽気のもと、できればテラス席で軽いおつまみとともにグラスを傾け、友達とのおしゃべりに興じる。
そんな優雅な休日を楽しみたいものです。
シャンパンの極辛口のものは、優良生産者、とくに小規模生産者のものが多いです。
そういったものは先述のとおり泡がなくなっても楽しめます。
その代わり品質は高いのですが、たいていは名前が通っていません。
ワイン好きの友人を喜ばせてやろうと「ドワイヤール持ってきてやったぞ~」と乗り込んでも、「誰それ?」という反応になるのがオチです。
そこそこのワイン通でも知らないでしょう。日本に輸入されて2,3年ですので。
なのでこういったものは自分だけで飲んでしまいましょう。
泡の強い1日目、泡の落ち着いた2日目、ほぼ泡のない3日目・・・・
経過観察するのも楽しいですよ。
ブリュット ドサージュ少な目
もっとも選択肢が多いボリュームゾーンがこのあたり。
スパークリングワインにせよシャンパンにせよ、カジュアルに気構えなく飲めるものが多いです。
値段が手ごろなものも多いので、乾杯や前菜と一緒に楽しむのに向いています。
かといって食事中に飲んだら物足りないってこともないですし、いつ飲むかを深く考える必要はないでしょう。
最も使い勝手がいいので、ぜひとも常に冷蔵庫に1本はストックしておきたいところ。
ブリュット ドサージュ多めの高級なシャンパン
ワイン会など皆で分かち合う場に登場してもらいましょう。
一口目から高級感を感じさせてくれるインパクトが持ち味。量が少なくても満足感があります。
なのでもっと高級な白ワイン・赤ワインがともに並ぶのでなければ、順番は会の後の方がベター。
スパークリングワインというと最初に飲むイメージが強いでしょう。しかし飲み始めはペースが早いもの。
高級シャンパンがすぐなくなってしまっては、「もっと味わって飲めばよかった~」なんてことにも。
エクストラ・ドライ/セック
先述のとおりプロセッコのエクストラ・ドライは、それでバランスがとれていますので、ブリュットと同じ扱いで大丈夫です。
それ以外のスパークリングワイン、シャンパンはそもそもあまり見かけないのですが、あえてお勧めするなら寒い季節です。
甘味が強いと酸味が穏やかに感じます。
汗をあまりかかない寒い時期に、さっぱりしすぎなスパークリングワインはちょっと体が求めてないかも。
マイルドな口当たりのちょっと甘めスパークリングを、暖かい部屋でゆっくりと飲むのも、ほっとするのでは。
ドゥミ・セック/ドゥー
「モスカート・ダスティー」などの甘いスパークリングワインが好きな方に、ある程度の価格のものをプレゼントする。
甘いもの好きであまりワインを飲まない女の子に。
そんなシチュエーションしか思いつきません。
なので需要が少なくほとんど出回っておりません。
スパークリングワイン・シャンパンはそのドサージュ量で雰囲気を大きく変えます。
自分が好きなのはブリュットなのかエクストラ・ブリュットなのか。ブリュットの中でも多めがいいのか少なめがいいのか。
意識して飲んでみると、きっと新たな発見があることでしょう。