
ドサージュとは、スパークリングワインの製法においてデゴルジュマンとセットで行う工程。
目減りした液量を補うとともに糖度の調整を目的として、リキュールを加えることです。
またはリキュールを加えた結果としての仕上がり糖度のことを指します。
ドサージュの量と味わいの関係を知れば、気分やシーンに応じて最適なスパークリングワインを選ぶ一助となります。
伝統的方式によるスパークリングワインの製法
スパークリングワインの作り方をごく簡単に文字で説明するなら次の通り。
白ワインに酵母と糖分を添加してもう一度発酵させ、発生する二酸化炭素をワインの中に閉じ込めてつくります。
これを1本1本のボトルで行うのが「伝統的方式」と呼ばれる方法。シャンパンをはじめとして、世界中の高級なスパークリングワインはこの製法が採用されています。
イラストとともに簡単にご紹介します。

スパークリングワインのブドウ収穫
白ワイン用、赤ワイン用の余ったブドウをスパークリングワインに使うということはできません。
というのも収穫期が違うからです。
スパークリングワイン、白ワイン、赤ワインといろいろ作っている生産者の場合、一番最初にスパークリングワイン用ブドウの収穫が始まります。最も糖度が低く酸度が高い状態のブドウを使うのです。

糖度が低いということは出来上がったワインのアルコール度数が低いということ。ボリューム感に欠けるワインになり、白ワインや赤ワインでは問題です。しかしスパークリングワインに関しては、後述する「ドサージュ」でボリューム感を調整できるため、それよりも酸味が大事にされるのです。
1次発酵から2次発酵
収獲されたブドウはすぐに絞って、果汁を1次発酵させます。ここでアルコール度数11%ほどのベースワインができます。
通常それは、品種ごと・畑ごとに分けて行われ、後に最適と考えるバランスでブレンドされます。ブレンドのことを「アッサンブラージュ」といいます。
そして「ティラージュ」といって酵母と酵母のエサとなるショ糖を加えたのち、スパークリングボトルに瓶詰されます。
このとき清澄剤も加えるのが一般的だそうです。

2次発酵が進むとこの写真のように澱が沈みます。このボトルはその進み具合を見るため圧力計がついています。
通常は王冠キャップをつけてセラーで保管することで、瓶内で2回目の発酵が進みます。
この「瓶内2次発酵」の過程で、アルコール度数が上がるとともに、発生した二酸化炭素がワインの中に閉じ込められ、シュワシュワしたスパークリングワインになるのです。
デゴルジュマン(澱引き)の目的
添加された酵母はショ糖をアルコールに変えながら増殖します。
しかしショ糖を使い切ってエサがなくなればやがて死滅します。酵母の死骸である「澱(おり)」です。
澱は白い濁りとなって沈殿します。
これでは口当たりも見栄えも良くないので、この澱を取り除きたい。
1次発酵のときや白ワイン・赤ワインの発酵なら、濾過(ろか)したり沈殿を待って上澄みを別の容器に移したりして取り除きます。
しかし瓶内2次発酵後に同じ方法をとると、せっかく閉じ込めた炭酸が抜けてしまいます。
そこでスパークリングワインのために開発された澱引きの方法が「デゴルジュマン」です。
ルミアージュとは
瓶内2次発酵が完了したボトルを、伝統的には「ピュピトル」と呼ばれる瓶を斜めに保管するための台に挿します。
ボトルを日に1、2度回転させながら、およそ6週間かけて澱を瓶口に集めます。
この工程を「ルミアージュ」といいます。

ピュピトルを使う場合は手作業でのルミアージュとなりますが、大手メーカーは当然機械化されています。
「ジャイロパレット」と呼ばれる、ボトルのかごごと回転させられる機械を使い、より短時間でルミアージュを完了させることができます。
デゴルジュマンとは
澱が瓶口に集まったら、冷却液に瓶口を漬けて瞬間的に凍らせます。
そして王冠を外すと、ガス圧によって澱が飛び出します。
これがデゴルジュマンです。

大手では完全機械化されていますが、小さな生産者だと手作業でデゴルジュマンを行っています。
この工程があるため、瓶内2次発酵は通常はコルクで栓をされることはあまりありません。
王冠に比べて栓を抜きにくいこと。より瓶口から離れたところに澱が集まってしまうことがその理由です。
王冠も瓶ビールに使われるような単純なものではなく、澱を集めやすくするための仕組みがあるそうです。
デゴルジュマンによって澱とともにある程度のワインが飛び出てしまいます。
その目減り分を補うのがドサージュです。
ドサージュとは
デゴルジュマンで減ったワインの量を補うのがドサージュです。
因みにドサージュは「dosage」とつづるので、フランス語的には「ドザージュ」と濁音になるはずだそうです。
しかし「ドザージュ」と表記されている記述はほとんど見かけません。日本では「ドサージュ」が定着しているので、当ブログでも「ドサージュ」で統一します。
ドサージュで加えられるものは同じワインではなく、専門書などでは「リキュールを添加する」と記載されます。
スパークリングワインの仕上がりに添加されるので、「Liqueur d'Expédition リキュール・デクスペディシオン = 門出のリキュール」と呼ばれます。
「リキュール」とは
リキュールとは簡単に言うなら副材料を混ぜてつくる甘いお酒のことですから、クレーム・ド・カシスもリキュールですし第3のビールの一部もリキュールです。
だから「リキュールを添加する」と書いてあったら「リキュールって具体的になに?」という疑問はごもっとも。
中には同じブドウ品種でつくる甘口ワインを添加する生産者もいます。例えばラッツェンベルガーです。
リースリングの10年熟成したベーレンアウスレーゼ(極甘口ワイン)を使うといいます。厳密な定義から言うと混成酒ではないのでリキュールじゃないのですが、文句言う人はいないでしょう。ワインの複雑味に寄与しているはずです。
しかしこんなのは例外で、通常は貯蔵していたワインに甘味を添加したものをドサージュに用います。
そうしてコルクで栓をされ、キャップシールを捲いて出荷されるのです。

ほとんどのワインはこの門出のリキュールの中身について公開していません。
ブドウ以外の原料を使いたくなくて、保存しておいたブドウ果汁を使う生産者もいます。
本当かどうかわかりませんが、「あんなのただの砂糖水だよ~」なんて言っている生産者もいるそうです。
ドサージュの目的
ドサージュで加えるものがリキュール、甘味のついたものである以上、その甘味の強さは出来上がりのスパークリングワインに大きな影響を与えます。
ドサージュの目的は、先ほどの目減り分を補うということ他に、味わいのバランス調整という重要な役割があるのです。
だから「ドサージュ」は、目減り分を補う醸造工程であるとともに、「仕上がりの糖度」という意味も持つのです。
炭酸により甘味が感じにくい
炭酸があると甘さを感じにくいものです。
市販の炭酸飲料などの飲みかけを放置して、翌日飲んだら甘ったるく感じた、というのはだれしも経験があるでしょう。
だから逆に全く甘味がないとドライに感じすぎます。
スパークリングワインも多少の甘さ、ないし甘い風味があった方がバランスがいい。
ところが瓶内2次発酵が終わった時点での残糖度はほとんど0です。酵母が使い尽くしているのです。
それを補うために甘味を加え味の調整を図るのです。
瓶の大きさは決まっていますので、先ほどの動画のように一定量を加えれば、出来上がりとしてどれくらいの糖度になるかを調整することができます。
その仕上がり糖度がどれくらいかによって、「ブリュット」などの表記が決められているのです。
「ブリュット」とは
ブリュットとは、スパークリングワインの仕上がりの糖度が一定の範囲にあることを意味し、スパークリングワインが辛口であることを示しています。
具体的には残糖度が12g/L以下であることを表します。

先述の通り炭酸があると甘味が感じにくくなります。
なので12g/Lと書くと多く感じるかもしれませんが、ほとんど「甘味」としては感じません。しかし意味がないことは決してなく、ワインの口当たりのボリューム感として感じられます。
ドサージュによってボリューム感がある程度補えるので、スパークリングワインはブドウの熟度がある程度低くても問題にならないのです。
「ブリュット」以外の表記の意味は?
ブリュット以外にもいろいろな糖度の表記があります。
「BRUT」は世界共通ですが、他の糖度を表す用語は言語によって違いがあります。
少し表記は違えど、その基準は各国で統一されています。
フランスの呼び名 | イタリアの呼び名 | ドイツの呼び名 | スペインの呼び名 | 残糖度 |
Brut Nature ブリュット・ナチュレ |
Brut Nature ブルット・ナトゥーレ |
Brut Nature ブリュット・ナトゥア Naturherb ナトゥアヘルプ |
Brut Nature ブルット・ナトゥーレ |
3g/L未満 リキュール無添加 |
ExtaraBrut エクストラ・ブリュット |
ExtaraBrut エクストラ・ブルット |
ExtaraBrut エクストラ・ブリュット |
ExtaraBrut エクストラ・ブルット |
0~6g/L |
Brut ブリュット |
Brut ブルット |
Brut ブリュット |
Brut ブルット |
0~12g/L |
Extra Dry エクストラ・ドライ |
Extra Dry エクストラ・ドライ |
Extra Trocken エクストラ・トロッケン |
Extra Seco エクストラ・セコ |
12~17g/L |
Sec セック |
Seccoセッコ、Dryドライ Ascicuttoアシュット |
Trocken トロッケン |
Seco セコ |
17~32g/l |
Demi-Sec ドゥミ・セック |
Semi-Secco セミ・セッコ、 Abbocato アッボカート |
Halbtrocken ハルプトロッケン |
Semi Seco セミ・セコ |
32~50g/l |
Doux ドゥ― |
Dolce ドルチェ |
Mild ミルト |
Dolce ドゥルセ |
50g/l~ |
圧倒的大多数が「BRUT」
上記の糖度表記には様々なものがあれど、実施に市場で見かけるスパークリングワインの大半は「BRUT」です。
そもそもスパークリングワインを飲みたいときとはどんなときでしょうか。
パーティーシーン、「ポンっ」と栓を抜いてシュワシュワ泡が立ち上るグラスを掲げたいとき。もちろんそれもあるでしょう。
しかしその大半は、赤ワインでもなく白ワインでもなくスパークリングワインを飲みたい気分だから飲むはず。
その気分とは、「シュワシュワしたものでスッキリしたい」というものが多いんじゃないでしょうか。

辛口に対し、甘口のワインに受ける印象は、「まったり」「濃厚」「まろやか」といったもの。「スッキリ」とは逆です。
だからスパークリングワインには圧倒的に辛口が求められるのでしょう。
「BRUT」表記と「EXTRA BRUT」表記
上記の表で気づかれるかもしれませんが、BRUTのみ糖度の範囲が重複しています。つまり糖度6g/L以下のものは、「EXTRA BRUT」も表記できるし、単に「BRUT」でもいいというわけです。
細かいことを気にしなければ、「BRUTと書いてあったら、辛口のスパークリングワイン」という認識で構いません。
もしそれがドサージュ6g/L以下のスパークリングワインだったとしても、消費者は気にしなくていいということ。それは作り手が「ドサージュが少なくても十分ボリュームのある味わいになっている」と判断している証拠です。

見慣れない「EXTRA BRUT」よりも、一般的な「BRUT」表記の方が、消費者に安心して手に取ってもらえるだろう。
そう考えてもおかしくありません。
「EXTRA BRUT」の狙い
シャンパーニュの生産者の中には、糖度をいろいろ変えて、いろいろな甘さのシャンパンをつくる生産者もいます。
一方でどのシャンパンもドサージュの値は同じ、という生産者も少なからずあります。
自社畑のみからシャンパンをつくる小規模生産者、特に畑の名前をシャンパンに表記してその特徴の違いを楽しんでもらおうとする生産者は、「EXTRA BRUT」が多いように感じます。
そういった生産者は、ブドウの質に自信を持っていまっす。自ら畑仕事をしているからです。

自信を持ったブドウの味をなるべくピュアに感じてもらいたい。そう考えるのか、ドサージュ6g/L以下でリリースするものが多いように感じます。
こういった生産者のワインを飲んでも、ブドウの熟度が高いからなのか、甘くないのに熟した果実の風味があって物足りなさは感じません。
ドサージュをもとにした使い分け
ドサージュの意味や基準はわかりました。
ではその知識をどのようにワイン選びに活かせばいいのでしょうか。
もちろん、「BRUT NATUREやEXTRA BRUTのように糖度が少ないものが上質!」なんてことは全くありません。
自分の好みと気分で使い分けられるようになるのが理想です。
「Extra Sec」以上
まずは「Extra Sec」「Sec」「Demi-Sec」「Doux」などに属する、ハッキリと甘さを感じるスパークリングワイン。
こちらは「好みにあわせて」選ばれるものだと考えます。
普段辛口のスパークリングワインばかり飲んでいる人が「今日は気分で甘口のスパークリングを」というシチュエーションはあまり想像できません。
むしろ「あの方は甘口のワインがすきだから」「ワインに不慣れな人が集まるので、甘口のスパークリングで乾杯したい」という用途でしょう。

シャンパンとして有名な銘柄は次の2つでしょう。
1つは「モエ・エ・シャンドン」の「ネクター・アンペリアル」。甘さはドゥミ・セックです。
もう1つは「テタンジェ」の「ノクターン」。こちらはセックです。
この2本は入手性が高い代わりに、「あ~またこれか」の確率も高くなります。
甘口のシャンパンはそう何十種類も流通していないからです。
珍しいものを狙いたければ、年間通して在庫のあるものではありませんが、こんなシャンパンもあります。
甘さはドゥー。しっかりと甘いスパークリングワインです。
まずはパーティーシーンに飲むような高額のものを紹介しましたが、手ごろな甘口スパークリングワインもあります。
「アスティ」「モスカート・ダスティ」というイタリア・ピエモンテ州のスパークリングワインです。
このスパークリングワインは製法が特殊で、伝統的製法ではありませんしこの甘味はブドウ由来のものです。ドサージュは行いませんので、ドサージュの表記はありません。
ほとんどの商品が1000円前後なので、スーパーなどでも入手しやすい反面、特別な日のワインや贈り物には安すぎて不適でしょう。
「EXTRA BRUT」と「BRUT NATURE」
糖度0~6g/Lと0~3g/L。この差は有意なものではありません。舌での判別はほぼ不可能。だから2つ一緒に考えます。
ドサージュがこの2つのスパークリングワインの使い分け。
まず1つめは、「極辛口のスッキリ感を活かす」というもの。暑いときやリフレッシュしたい気分のときに選ぶといいでしょう。


シャンパン以外の4000円以下のスパークリングワインは特に違いを感じます。
先述のとおり小規模生産者のシャンパンは、ブドウの質の高さと個性を強調すべくドサージュを少な目にすることがあります。そうしたものは十分ボリューム感のある味わい。そしてもちろん高価です。
だから「グビグビ飲んでスッキリ!」という飲み方には適していません。
シャンパンほど凝縮度が高くない、他地域のスパークリングワインの方が、この飲み方には向いています。
もう1つ提案する飲み方。それは「泡が抜けても美味い」です。
瓶内2次発酵のスパークリングワインは泡の持ちがいいですが、それでもグラスに注いで何時間もしたり1週間ほど飲みかけを保管すれば、いずれ泡がなくなってしまいます。
ドサージュの多いものほど、炭酸がなくなって甘味が強調され、味わいのバランスが崩れてしまいます。
もともと甘味の少ないスパークリングワインは、泡がなくても甘ったるくなることはありません。純粋にワインの味わいを楽しめます。
上記のカヴァにはちょっとこの飲み方はおすすめできません。
上質なシャンパンでこそ「泡が抜けても美味い」といえるでしょう。
「BRUT」のうちドサージュ多めのもの
ほとんどのスパークリングワインが「BRUT」表記なのですから、6~12g/Lの範囲でも分けて考えましょう。
便宜的に9~12g/Lを「BRUTのうちの多め」とします。
こんな微妙な差が分かるのか?という疑問はごもっとも。そもそも具体的なドサージュの値が非公表のワインも多いです。それに甘味の感じ方は酸度によって簡単に騙されますが、なんとなくの傾向だけ。


10g/Lくらいのドサージュだと、よく冷やした状態でもバランスがいいので、少々の醸造の粗さはごまかせます。
だから「給料日前で手ごろな1本にしたい」というときの選び方は、この"BRUT多め"がベスト。キンキンに冷やして時間をかけるよりグイグイ飲みましょう。
※ドサージュの情報はありませんが、私は多めに感じました。
また、少し多めのドサージュは甘さではなくボリューム感につながるのですから、スパークリングワインが「豪華な」味わいに感じます。
シャンパンをはじめとした上質なスパークリングワインで"BRUT多め"のものを使うなら、8人以上のパーティーで乾杯の1本にいかがでしょう?ボリューム感がしっかりあれば、一人100ml以下でも味わいの印象と満足度は高まります。


「BRUT」のうちドサージュ少なめのもの
ドサージュがワインの種類によらず[7g/L」「8g/L」固定であるワイナリー。時々目にします。
おそらくこの”BRUT少なめ"が一番のボリュームゾーン。
手ごろなスパークリングから高級シャンパンまでさまざまなものがあります。
ちょっとこのゾーンを好みや用途で区切るのは難しい。
それだけどんなシーンにも、甘口好き以外のいろいろな好みの人にもフィットするのです。
カジュアルに家飲みするなら、まずは"ドサージュ少な目"で。
そこから他の要素、品種や熟成期間の長さなどから絞り込んでいきましょう。


スパークリングワインの印象を決める「ドサージュ」
たまに「ワインは料理、スパークリングワインはスイーツだ」と例えられることがあります。
これはワインの方がブドウの味わいがよりストレートに表現され、スパークリングワインは醸造の技術の比重が高いということ。
醸造家のテクニックやその哲学がより味わいに強く表現されるのです。
その際たるものがドサージュの量。仕上がりのワインの「バランス」を決める重要な要素。印象を大きく変えてしまいます。
舌で感じる甘味やボリューム感からドサージュに注目してスパークリングワインを飲むなら、きっと新たな発見があることでしょう。