ワインのつくり方

用語解説 樽熟とは?ワインにおけるオーク樽の役割

2019年6月15日

 
 
ワインのテクニカル情報を理解できれば、ワインの風味を予測し自分の好みにあいそうかどうかの判断基準になります。
そのワインがどのように醸造されたかにおいて、大きく風味を左右する要素の一つが「オーク樽熟成」です。
専門用語を知れば、ワインの情報とあなたが実際に感じる味わいが紐づきます。
オーク樽熟成がワインづくりにおいて果たす役割をご紹介します。
 
 

オーク樽の登場 運搬容器としての歴史

 
ワインにオーク樽はいつごろから使われ始めたのでしょうか。最初は味わいのためよりも、保管・運搬する際の容器として使われ始めました
 
オーク樽の普及以前は、アンフォラと呼ばれる陶器製の甕(かめ)にいれて保管されていました。4000年~5000年ほど前のものが、コーカサス地方(グルジアのあたり)で見つかっているそうです。詳しくはいずれ。
しかしアンフォラは重く、なにより割れやすく脆い。なのでより頑丈で安全なオーク樽でワインを運搬することが、一般的になっていきます。
 
下の写真は、ドイツのモーゼル地方、トリアー市のあたりで発掘されたもの。ノイマーゲン遺跡で見つかった3世紀初頭の彫刻で、船にこぎ手とワイン樽が載っているのが彫られています。
 

(ノイマーゲンのワイン船:Neumagener Weinschiff Wikipediaより引用)

 

ワインと船舶輸送の結びつきは強く、今は1000kgを意味する「トン(t)」という単位はもともと船の積載量を表すのに使われていましたが、これはボルドーワインの計量単位「トノー(tonneau)」に由来するといいます。
 
次第にワインの発酵容器、保管・熟成容器として一般的になっていくオーク樽ですが、次第にただの容器以上の効果があることが判明してきます。
 
 

オーク樽の種類 バリックって何?

 
オーク樽の種類は3つの点で分類されます。
 
  1. 材質、木材の種類
  2. 大きさ
  3. 新旧

オーク材には種類がある

 
オークとは、ブナ科コナラ属に属する樹木の一種。楢(ナラ)という木の仲間です。たまにオークを「樫」(かし)と訳されていることがありますが、これはちょっと間違い。樫は常緑樹、楢は落葉樹という違いがあります。
 
ワインの樽に使われるオークは3種類ヨーロッパナラ(別名イングリッシュオーク)とツクバネガシ(別名セシルオーク)、それからホワイトオークです。前の二つをまとめて、その主な産地から「フレンチオーク」と呼び、ホワイトオークを「アメリカンオーク」と呼びます。
 
 
それぞれがワインに与える風味の違いは後述しますが、他にも木材の性質に違いがあります。「チロース」と呼ばれる繊維組織の密度が、アメリカンオークはフレンチオークに比べて高いのです。
するとどうなるか。板が水分を通しにくくなります。これゆえに、フレンチオークとアメリカンオークでは、1本の丸太から何枚の板材を切り出せるか、という歩留まりが異なってきます
アメリカンオークの方が効率的に板材を切り出せるため、結果としてオーク樽の値段はアメリカンオークの方が安くなります。
 
 

オーク樽の大きさ

次にオーク樽の容量による違い。
よく耳にする「バリック」とは、樽の大きさを指し、225L前後の小樽のことを言います。(ボルドーでは225L 、ブルゴーニュでは228L)
時々インテリアやディスプレイとして目にするワイン樽は、ほぼこの「バリック」と考えて間違いありません。
 

ブーケンハーツクルーフの大樽

 
一方、バリックよりも大きな樽「大樽」と呼ばれるものもありますが、これはサイズがまちまち。450L、500L、1800L、2000L、2400Lなど様々なものを見かけます。また、110L程度の小さい樽もあるようです。
オーク樽のサイズが大きいほど、容量あたりのワインが接するオーク樽の表面積は小さくなります。樽が大きいほどワインに与える影響は小さくなり、樽が小さいほどオーク樽熟成の風味が強く表れます
 
2400Lの大樽のことを、ドイツでは「ドッペルシュトゥック」と呼ぶそうです。ドッペルシュトゥックで熟成されたワインがこちら。
 
 
「小樽」といっても、結構な大きさがあり、その重量は新樽で50㎏ほど。
使い古しの樽になると、水分を吸ってさらに重くなります。転がして運ぶことはできても、ちょっと一人で持ち上げることはできないですね。
できないですよね?
あれ?
 
上記のワインをつくっている、ベッカーさんです。
 
樽の風味が強ければいいというものではありません。ブドウ自体の味とのバランスが肝要です。
どういったワインを目指すかで、どういった大きさの樽を使うかを決めます
上記の「ドッペルシュトゥック シュペートブルグンダー」はドッペルシュトゥック100%で熟成されますが、それは樽の影響があまり出ないワインをつくりたかったから。他の赤ワインについては基本的にバリックで熟成しています。
醸造家の哲学と腕の見せ所というわけです。
 
 

オーク樽の新旧について

 
オーク樽は使い捨てではなく、洗浄・消毒のうえ何度も繰り返し使われます。しかし「新樽、つまり新品の樽でしかつかない風味」というものもあります。
 
ボルドー地方は伝統的に新樽を多く使う傾向にあります。3万円を超えるような高級ワインは、新樽100%のものが多くみられます。ブルゴーニュでも上級ワインには、多くの新樽が使われます。
一方でローヌ地方の生産者の中には、樽を繰り返し修理しながら何十年も使う人もいます。決してケチっているのではなく、古樽だからこそ表現できる味わいがあるのです。
「新樽比率50%」という記載を見かけることもあります。これは新樽熟成したワインと、古樽で熟成したワインを1:1でブレンドしたということ。
当然ながら新樽としては1回しか使えませんので、毎回新しいものを購入する必要があります。これがなかなかの金額で、新樽バリック1つでおよそ10万円と言われています。(5万円~40万円と、記述されている価格に開きがあります)
 
これはつまり、新樽100%でつくられたワインの価格のうち300円強はオーク樽のお値段ということ。だから3000円以下のワインで新樽100%の熟成というものはほとんど見かけません
1000円台半ばで新樽100%熟成のこのワイン。「だから美味しい」というわけではありませんが、値段はバグってると思います。
 
 
 

オーク樽はどうやって作る?

 
オーク樽にするには、木の太さは直径50~80㎝は必要で、それだけ成長するためには100年程度、フレンチオークだと150年程度必要だそうです。
それだけ太い木でも、1樽作るのに長さ1m分ほど必要だとか。樽の金額が高価になるのも頷けます。
 
板材としてカットされたオークは、2年から5年ほどの期間をかけて乾燥させます。この際、あえて雨ざらしの屋外に放置することで、木材に含まれるタンニンが流され、ワインに余計な渋さがつくのを抑えるそうです。
 
乾燥したオークの板を、再度研磨してタンニンによって黒くなった表面をきれいにしたら、オーク樽の形に組み上げていきます。あの独特のふくらみは、中で火を焚いて板材を湾曲させることでつくられます。
 
 
この火入れも、ワインへの影響を考えると非常に重要。中をローストする際の、火の強さやロースト時間によって、ワインに移る風味が異なってきます
 
一般に焼き加減はライト、ミディアム、ハイなどと表されますが、メーカーによって基準がことなります。同じメーカーの樽を使い続けるワイナリーもあれば、数社の樽をその個性に応じて使い分けるところもあり、それこそ醸造家・ワインメーカーの哲学といえます。
(ただし樽のロースト具合まで詳細な情報はあまり公開されていません)
 
オーク樽の製造工程に関しては、ファインズ様が公開された動画で、ベガ・シシリアのオーク樽工場の映像が分かりやすいです。




 
樽をしっかりローストすれば、当然スモーキーな香ばしい風味が生まれ、その風味が果実味の強いワインに加わると、コーヒーのように感じることもあります。
ボルドーやナパのワインにもたまに現れますが、南アフリカのこのワインがわかりやすいです。
 

 

オーク樽の役割 酸素供給と保温性

 
オーク樽が直接ワインに与える風味を述べる前に、醸造においてオーク樽が果たす機能についてご紹介します。
機能といっても、オーク樽が何らかの役割を果たして、その結果出来上がるワインの風味が変化するのですから、間接的にワインに与える風味とも言えます。

 
 

発酵容器としての役割

ワインのアルコール発酵に用いられる容器は、主に次の3つです。
それぞれに特徴があり、メリット・デメリットがあります。
 
材質 酸素透過 再利用 温度調整 発酵温度 サイズ
オーク樽 低~高 小~中
ステンレスタンク × 低~高 中~大
コンクリートタンク × 低~中 中~大
  
オーク樽の再利用が△というのは、「新樽として」は1度しか使えないという点と、再利用はできるがほかの容器に比べると破損しやすいという意味です。そのぶん、導入コストは一番安価です。
 
木材は熱を伝えにくいため、発酵時の温度コントロールはその部屋ごと冷やすことになります。そう細かなコントロールはできません。
それに対してステンレスタンクの中には温度コントロール機能を持つものもあります。温度により風味の抽出を変えることができるのです。
コンクリートタンクは基本温度管理はできません。しかし大きな質量を持つコンクリートは温まりにくいため、基本的に低温長時間発酵が行われます。
 
 

赤ワインの発酵と熟成

 
赤ワインの醸造の場合、発酵→圧搾→熟成という工程です。発酵と熟成の容器は別のものを使います。
 
赤ワインの場合は果皮や種と一緒にアルコール発酵を行います。効率的に皮から風味が抽出されるよう、パンチングダウン(浮き上がってきた果帽を押して沈める作業)が随時必要です。だから発酵容器の上蓋が開いている/開けられる必要があります。
ゆえに赤ワインの発酵にはどちらかというとステンレスタンクやコンクリートタンクが多い。オーク樽でもある程度大きなサイズ、下記画像の左側の樽のようなものが用いられます。
 
 
一方で熟成に関してはかなり多くの割合で樽熟成されます。ステンレスタンクで熟成されるのは、1500円以下くらいの手ごろで樽熟成のコストがかけられないワイン。
赤ワインはブドウの果皮や種と一緒に発酵させるため、タンニンやアントシアニンといった抗酸化物質を多く含みます。その口当たりをまろやかにするために、オーク樽熟成による適度な酸素供給が必要なのです。
バリック(225L 樽)にワインを入れて1年間熟成すると、1Lあたり20~40mgの酸素がワインに溶け込むといいます。その結果赤ワインは色素が安定しタンニンが和らぎます
 
 

白ワインの発酵と熟成

 
対して白ワインの醸造の場合、圧搾→発酵→熟成という工程です。
発酵で生じた澱(おり)を除くため、別の容器で熟成させることもあります。しかし発酵が終わったらそのまま澱と一緒に熟成という場合も少なくありません。これを「シュール・リー(澱の上)」といいます。
 
澱は酵母の死骸でありタンパク質の塊です。シュール・リーで熟成させると、タンパク質が分解されてアミノ酸となり、ワインに旨味を加えることができます。コクのある味わいになるのです。
過剰なシュール・リーでワインが「澱臭く」なることもあるので万能ではありませんが、高級白ワインにシュール・リーが用いられることは少なくありません。
 
シュール・リーは容器の種類によらず可能です。
ただし容器の容量いっぱいにワインを満たしている必要があります。余分なスペースがあれば空気が入り、過剰な酸化をしてしまうのです。
「サイズいっぱい」という状態にするのが難しいのか、白ワインのコンクリートタンク熟成はあまり多くありません。
白ワインの発酵・熟成は、全体としては主にステンレスタンクが多いでしょう。しかし品種や価格帯によっては、シャルドネや高級白ワインは樽発酵・樽熟成されたものが少なくありません
 
低温長時間発酵した白ワインは、フレッシュなフルーツを思わせるアロマや吟醸香に似た香りが出やすいそうです。
それを狙って樽発酵とコンクリートタンク発酵を組み合わせてつくるシャルドネがこちら。
 
 
 

オーク樽の風味 樽熟で味はどう変わる?

 
「木の香り」「木の味」と聞いたら、皆さまはどんなものを想像されますか?
 
 
ヒノキ風呂の香りでしょうか。はたまた「新しい家の香り」みたいなものでしょうか。
鉋屑(かんなくず)かもしれません。味なら、小さいころ割り箸をギシギシ噛んでた経験を思い出すかもしれません。
 
 


 
木材に香りやにおいがあるのは、何かしらの物質が揮発したり溶け出したりするからです。まずは代表的な物質と、その風味をご紹介します。
 

  • メチルオクタラクトン(オークラクトン)  ココナッツのような甘い香りの正体。状態によっては、土臭さや草の香りにもなり、それを決定づけるのはオーク樽を作る際の木材の乾燥度合い。また、樽製造時のローストが強いと減少する。アメリカンオークの方が含有量が多い。
  • バニリン  天然バニラの香り。オーク材にもともと大量に含まれている。トーストが強いと減少する。ワインをアルコール発酵させると、アルコールと反応して無臭のバニラアルコールに変わる。そのため、白ワインでアルコール発酵した後、そのまま樽で熟成したものに比べ、ステンレス発酵・オーク樽熟成したものの方が、オークの香りは強くなる。
  • オイゲノール  クローブ(丁子ちょうし)の香り。
  • グアヤコール  炭のようなスモーキーな香り。正露丸や歯医者さんの香りともいわれる。オーク材に含まれるリグニンがトーストによって分解されてできる。
  • フルフラール、メチルフルフラール  どちらも糖や炭水化物の熱分解でできる。つまり樽製造時のトーストの過程で生まれる。アーモンドやキャラメル、バタースコッチのような香り。
  • エラジタンニン  オーク樽からは渋さのもとであるタンニンも溶出する。とはいえ、オーク樽熟成=渋いワイン かといえばそうでもなく、先述の酸素供給の機能により、むしろ和らぐこともある。

 
この成分の割合、分量が、どんなオーク材かによって大きく異なります。
 
例えばシャルドネを熟成する際、アメリカンオーク(ホワイトオーク)はオークラクトンやバニリンの含有量が多く、そのためワインはより甘くトロピカルな風味となります
逆にフレンチオーク、つまりヨーロッパナラやツクバネガシで熟成しても、あまりはっきりと甘い香りにはなりません。その代わり、ワインの味わいの骨格がしっかりとした印象になります。
 
そのためか、カリフォルニアでも高級なシャルドネはフレンチオークで熟成されているものが多いのです
 

 
これらの風味がワインのもつもともとの風味とうまく混ざり合ったとき、ワインの香りに複雑さが増し、より味わい深いものとなります
 
しかし、これらの香りが強ければいいというものではありません。当然名がら、新樽の方がより多くの風味がワインへと移るのですが、新樽比率が高ければいいというものではありません。バランスこそ肝要です。
 
ブドウの品質はあまり高くなく、それ自体の風味がそれほど強くないのに、新樽100%で熟成したら、樽の味しかしないワインとなってしまします。これを「樽負けしている」といい、ワインにとっては不名誉なことです。
逆に、ブドウの品質はかなり高いにもかかわらず、ステンレスタンクでのみ熟成されたワインんは、美味しいけれどもあまり高い金額の値付けは難しいでしょう。
 
そのバランスを、とりわけ高いところでとっているのがこのワイン。
 
 
このワインのうりは、なんといっても新樽260%
100%をこえてるってどういうこと?と思いますが、これは、発酵、熟成で別の新樽を使い、熟成の途中でさらに別の新樽に移し替えるから。
 
それだけ樽の風味がワインに移るのですから、それだけブドウの質も高くなければ「樽負け」してしまいます。それだけ凝縮感のあるブドウを収穫するため、オアジ・デリ・アンジェリは4万本/haというほど、狂気じみた密植、間を詰めてブドウを栽培しています。(通常の8倍ほど)
ここまでブドウの樹が密に植わっていると、木の根は横方向に伸びることができず、下へ下へと根を伸ばすので、収穫できるワインの品質は上がります。
 
 

オーク樽熟成の風味を理解するために

 
オーク樽の風味がどのようにワインに表れるのかを感じるには、樽を使っているものと使っていないものを飲み比べるのが一番
より分かりやすくするためには、樽の有無以外の要素を、なるべく揃えてやるのが理想です。品種、地域、できるなら生産者も。
 
赤ワインは、上手に樽を使っているものは、実は「樽の風味」というのを分けて感じるのが困難です。
なので、樽の風味がわかるようになりたければ、まずは白ワインで、特にシャルドネを飲んでみるのが近道です。
 
 

樽熟成の有無をシャルドネで比較する

 
オーク樽熟成の効果を最も端的に最もお手軽に比較できるのがこちら。
 
エステイト・シャルドネは、1/3を新樽で、残りを古樽で熟成させています。それなのにこの価格を実現できるのは、ラングドックの超大規模生産者、ジャン・クロード・マスが徹底した効率化を図っているから。2つのグラスを並べたら、その違いは香りからして明らかです。
 
 

樽熟成されたワインは好き?嫌い?

 
ワインは樽熟成によって、口当たりなめらかになり風味が複雑になります。結果として「高そうな」味になることが多く、価格の高いワインはかなりの割合で樽熟成してつくられます。
だからといって「樽熟成の風味が表れたワイン = いいワイン」というわけではありません。
 
「樽香の強いワインは、どれも同じ味に感じる」
そんな意見もあります。同じに感じちゃう風味なら、こんなにワインに種類があるのに面白くないですよね。
だから近年は樽香を抑えたつくりをする生産者が高い評価を受ける傾向にあります。
 
だからといって、どちらが優れているというものではありません。あなたにとって樽香が強いものと弱いもの、どちらが好みか。もしくはどちらでもいいのか。
それを理解したうえでワインのテクニカル情報から読み取り、期待通りのワインを楽しむこと。大切なことはこれだけだと考えます。
 

<参考文献>ジェイミー・グッド著『新しいワインの化学』安蔵光弘著『ボルドーでワインを造ってわかったこと』フィラディス様 ニュースレター

 

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※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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