ワインのつくり方

用語解説 マロラクティック発酵とは

2020年3月6日

マロラクティック発酵とは、アルコール発酵に続いて起こる反応で、ワイン中のリンゴ酸が乳酸に変わることを指します
ワインの酸味がまろやかになり、微生物的に安定します
 
ワインの教本などにはこのように解説されるマロラクティック発酵。
ワインを楽しむうえで必須の知識ではありません。
しかし使い道がない雑学かというと、そうでもない。
 
 
「マロラクティック発酵」を理解すれば、自分好みのワインを選ぶ一助になります。
ソムリエ試験を受ける人が勉強するような内容ですが、なるべく分かりやすく解説したいと思います。
 
 

マロラクティック発酵とは

 
マロラクティック発酵
フランス語:Malo-lactic fermentation(MLF)英語も同様
ドイツ語:Biologischer Saure Abbau(BSA)
 
 
ブドウ果汁には様々な成分が含まれ、多くの有機酸も含みます。
有機酸とは炭素を含む化合物の酸のこと。高校化学の授業をおさらいするわけでもないので、詳しくは気にしなくて結構です。
単純に「酸味成分のもと」という認識で大丈夫です。
代表的な有機酸は、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸の3つ。
簡単にイメージするなら、それぞれブドウ、リンゴ、レモンの酸っぱさと思ってください。
 
文系の方は拒否反応が出てしまうかもしれませんが、理系の方は化学式を見た方が理解しやすいこともありますので、一応のせておきます。
 
COOH-CH2-CHOH-COOH → CH3-CHOH-COOH+CO2
 
この化学式の「COOH」の部分はカルボキシル基と呼ばれ、酸味成分のもととなります。
このカルボキシル基をリンゴ酸は2つ持つのに対し、MLFで生成される乳酸は1つしか持ちません。
よってMLFによりpHは上がり、酸度は落ちることになります。(pHは値が低いほど酸性)
 
 
リンゴ酸は未成熟なブドウに多く含まれます
20g/Lもの量が含まれているときもありますが、ブドウが成熟するにしたがって代謝により濃度が急激に低下します。
最終的には収穫時期や品種にもよりますが、1~5g/L程度になるようです。
 
 
それに対しワインの主要な酸である酒石酸は、急激な濃度変化はありません。
 
このリンゴ酸濃度の落ちるタイミングはスピードが、ブドウ品種によって異なります。
それがブドウ品種ごとの適した気候を決めている一つの要因です。
 
未成熟でリンゴ酸濃度の高いブドウ果汁からは、青い風味を伴なった尖った酸味を感じます。
 
ブドウは鳥や動物の力を借りて、実を食べて種子を糞ととともに排出してもらうことで、子孫を残し反映しようとします。
実が熟す前リンゴ酸濃度が高いのは「まだ種が成熟してないから食べちゃだめだよ~酸っぱいよ~」というメッセージ。
十分に熟すと「酸っぱくなくて甘いよ~食べておくれ」とばかりに酸度を下げるという訳です。
 
 
ワインをつくるとき、リンゴ酸は少なければいいというものではありません
適度な酸味がなければいいワインは作れません。
 
では何をもって適熟とするのか。
非常に難しい問題です。
栽培家・醸造家はMLFの過程を経た後の状態を想像し、つくりたいワインのイメージから逆算して、収穫のタイミングを決める必要があるのです。
 
 

マロラクティック発酵はなぜ起こる

 
マロラクティック発酵は、アルコール発酵が落ち着いた後に起こります。
 
MLFが起こるのは、木樽や醸造設備の中から乳酸菌(発酵により乳酸をつくる菌の総称)が混入するからだと考えられています。
なのでMLFは非常に不安定。自然に任せて反応が起こらない、ということもあるそうです。
 
よって近年はMLFのスターターとして培養した乳酸菌を加えることも多いと言います。
主にMLFはOenococcus Oeniオエノコックス・オエニLactobacillus Plantarumラクトバチルス・プランタラムという乳酸菌群によって進むことがわかっています。
これらの菌の増殖が順調であれば、他の好ましくない菌が抑えられるのです。
(参考文献:ガイアブックス『新ワイン学』)
 
 
あらかじめスターターを加えて、アルコール発酵と並行してMLFを行うという試みもあります。
コ・イノキュレーション(仏 co-inoculation)というそうです。
 
しかし山梨大学工学部発酵化学研究施設の柳田藤寿氏の研究によると、アルコール発酵後にスターターを加えた場合と比べて、多くの酢酸が生成されて、官能検査の結果も劣るものだったそうです。
 
 
 
オエノコックス・オエニは高いアルコール耐性とpH耐性を持っているので、リンゴ酸がある状態なら温度が高ければマロラクティック発酵が起こってしまいます。
温暖な産地のワインで酸味をなるべく残しさっぱりさせたい場合、MLFをしないこともあります。
その場合はアルコール発酵完了時に温度を下げ、早めに澱引きを行う必要があります。
 
少々予定外のMLFがおこり、酸が下がる(pHが上がる)程度ならいいのです。
しかしMLFが完全に完了しリンゴ酸がなくなったあとは、酢酸を生み出す発酵が始まってしまいます。
ワインが酢になってしまえば、完全に醸造上の欠陥として台無しになってしまうのです。
 
必要量の亜硫酸を添加すれば、安全にMLFを終了させることができます。
 
「ワインをなるべく自然につくりたい」と考える生産者の中には、亜硫酸の添加は瓶詰前のみ、さらに無濾過・無清澄という人もいます。
こうやって言葉で述べるのは簡単ですが、MLFの点ひとつとってもリスクを背負って注意深い醸造が必要になるのです。
 
そういったワインは購入後の保管温度によっても影響を受けやすい。
自然派ワインを楽しむには、飲み手の知識と度量が必要です。
 
 
 
 

マロラクティック発酵による風味の変化

 
MLFによって先に述べた通り酸味がまろやかになります
 
その副生成物として、バターや乳製品、もしくはバラの香りが生まれます。
前者はダイアセチル(ジアセチル)、後者はβダマセノンが原因と言われています。
 
 
これらは少量であればワインに複雑で奥行きのある香りを与えます。
しかし過剰に生成されると、オフフレーバー(欠陥臭)となります。
 
 
ダイアセチルの香りがマッチする品種とそうでない品種があります。
前者の代表がシャルドネ。後者の代表がリースリングやソーヴィニヨン・ブランです。
なのでリースリングやソーヴィニヨン・ブランではMLFはあまり行われません
 
 
ワインが苦手な人の中に「ワインを飲むと頭痛がする」という声を聴きます。
最近の研究で、その原因の候補として、チラミン、ヒスタミン、プトレシンなどの生体アミンと呼ばれる物質が挙がっています。
(参考文献:ジェイミー・グッド『新しいワインの化学』)
 
これらはMLFによって生成されることがあります
そして生成されるかどうかはMLFを起こす菌の種類によります。
スターターとして用いられるのは、ほぼ生体アミンを生成しない乳酸菌です。
 
 
つまりそのワインを飲んで頭が痛くなるリスクは、MLFを自然な乳酸菌に任せた場合が高いことになります。
アルコール発酵を自然酵母で行う生産者は、「なるべくワインに手を加えない」ことをよしとしている場合も多く、MLFも自然にまかせがちです。
自然派ワインと呼ばれるワインの生産者です。
 
では自然派ワインの方が頭が痛くなりやすいかというと、経験的にそうではありません。
むしろ「自然派ワインは飲んでも頭が痛くならない」と言い張る人もいます。
(私は経験的には否定しますが。自然派ワインでも頭が痛くなることはあります。)
 
 
つまりワインと頭痛の関係はまだハッキリわかっていないと理解してください。
 
 

ワイン選びの際にこの知識をどう活かす?

 
まず、赤ワインの場合はほぼ100%マロラクティック発酵が行われます
なのでMLFの有無を赤ワインの選択基準にすることはできませんし、そもそもテクニカルシート(ワインの詳細情報)にもほぼ記載がありません。
 
また、先述の通りリースリングやソーヴィニヨン・ブラン(オーク樽熟成していないもの)はほぼMLFを行いません。
爽やかな酸味が魅力なのに、その特徴を殺してしまうからです。
 
また、これらの品種は酸味成分としてクエン酸を多く含みます。
クエン酸が多いとよりダイアセチルを生成しやすいので、やはり適してはいないのです。
 
 
というわけで、MLFの有無が味の決め手の一つとなるのは、まずはシャルドネ。それからシャンパンです
 
コース料理と一緒に数種類のワインを飲む席では、シャルドネの白ワインは魚料理のタイミングで提供されることが多いでしょう。
その魚料理にクリームが使われているなら、ぜひともMLFの行われ、ほどよくダイアセチルを感じるシャルドネがぴったりでしょう。
クリームソースにバターの風味のあるワインは、互いの風味を引き立てます。
 
 
一方で料理が生魚を使ったカルパッチョのようなあっさりとしたものなら、MLFなしのものを選択肢にいれていいでしょう。
MLFをしないということは、リンゴ酸のキレのいい酸味を活かしたいという狙いなので、オーク樽の風味もかなり抑えめなものが多いでしょう。
 
その中間でバターでソテーしているが、クリームソースではない料理なら、中間的な味わいのシャルドネがいいでしょう。
すなわち、一部MLFなしのものをブレンドしていたり、MLFしていてもバターの香りが全くしないものです。
 
バターの香りを感じやすいカリフォルニアのシャルドネに対し、経験的には南アフリカのシャルドネはMLFスターターを使っていなくとも、バターの風味を感じることはほとんどありません
 
 
シャンパンの場合、MLFなしのものは酸が活き活きとしており、細身で繊細な印象になりがちです。
代表的なメゾンとしてMLFをしない主義の生産者は、クリュッグ、サロン、ランソン、ゴッセ、タルランなど。
 
ワインは酸が高い方が熟成ポテンシャルがあると言われます。
その理由の一つとして、酸が高い方がワイン中の亜硫酸が酸化防止剤として働きやすいからです。
クリュッグやサロンといった長期熟成タイプのシャンパンがMLFをしないのは、そういった理由もあってでしょう。
 
 
一方でマロラクティック発酵したシャンパンは、酸味の印象が丸く、より万人受けする味わいです。
冷涼産地でもともと酸が高い傾向にある上、炭酸が入っているので、酸味を際立たせる必要なないと考える生産者が大半です。
暑い時期だけでなく一年を通してシャンパンを楽しむなら、MLFを行ったものがより適しているでしょう。
 
 
ではMLFの情報をどう確認したらいいのでしょうか。
 
ボトルの裏面に詳しく製造法を記す生産者もいますが、大半はボトルに詳しくは書いていません。
なので基本的にはワインショップや輸入元のHPを確認することになります。
 
とはいえ全てのワインの説明文に「マロラクティック発酵をしている/いない」と書いているわけではありません
MLFは「ワインを勉強しよう」と入門書を読むくらいはしないと出会わない専門用語です。
その説明文がどんな人を対象を想定して書かれているか次第で、「難しい言葉は使わない方がいい」と判断することもあるのです。
 
 
ワインのテイスティングコメントに「バター」と書かれていれば、まずMLFを行っています。
だからといってその逆、「バターと書かれていないからMLFを行っていない」とは言えません。
 
残念ながら、MLFの有無をそれぞれのワインに対して確認するのは、簡単ではありません。
ましてMLFのスターターを使っているかどうかはまず記載がありませんし、テイスティングで判断するのも困難でしょう。
 
それでもMLFは醸造家の哲学、そのワインの狙いを理解するうえで道しるべになります。
「マロラクティック発酵」の記載を見かけたなら、その意図を推察し、実際にワインから感じてみると面白いでしょう。
 
 
 

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