カベルネ・ソーヴィニヨンでつくる赤ワインの特徴は、一言で言えば『濃厚で力強い』もの。しかし産地も価格帯も様々であるため、きちんと比較すると味わいは全く異なります。好みのカベルネ・ソーヴィニヨンを選ぶポイントと、意外性のある銘柄をご紹介します。好きな方も苦手な方も、きっと「こっちのタイプは飲んだことがないな」という発見があるでしょう。
カベルネ・ソーヴィニヨンという品種の概要
カベルネ・ソーヴィニヨンはボルドー原産の黒ブドウで、世界一広く栽培されているブドウです。
数百円のワインもいろいろ見つかる一方で、数十万円の高級ワインも生産されています。
そのワインの特徴は、力強い渋味と上品な酸味。香りとしてはピーマンなどに例えられるグリーンノートを感じやすいです。
ただしこの特徴に当てはまらないワインも多く存在します。その理由は次の章で詳しく解説します。
カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培面での特徴
世界一広く栽培されているということは、美味しいワインがつくれるということもあるでしょうが、まずは栽培がさほど難しくないという証拠でもあります。
ただし、気候は選びます。
カベルネ・ソーヴィニヨンは晩熟、つまりブドウが甘く熟すまでに時間がかかる品種です。それゆえ温和~温暖と表現される、暖かめの産地に適しています。
かといって暑すぎると酸味が落ちて、高品質なものはつくれないようです。
カベルネ・ソーヴィニヨンは水はけのいい土壌を好みます。さきほどの晩熟であることもあわせて、雨の多い地域にはあまり向いていません。
カベルネ・ソーヴィニヨンの風味の特徴
カベルネ・ソーヴィニヨンが特徴として持つ風味も、生産地の影響を強く受けます。
共通して持っているのはベリーのような香り。ただイメージするベリーの種類は、生産地の気候によって変わります。
カベルネ・ソーヴィニヨンの栽培地としては涼しい地域ではカシスやブラックベリーなどの、あまり甘くなくて酸っぱいベリーの印象を持ちます。
一方で温暖な地域のものは、もっと甘いベリー。ブラックチェリーやプラムといったフルーツの風味に近くなります。
加えて涼しい地域のカベルネからは、ミントやピーマン、シダなどの「グリーンノート」を感じることがよくあります。
一方で暖かい地域のものでも控えめに感じることもあれば、全く感じない場合もあります。これはどんなカベルネ・ソーヴィニヨンのワインをつくりたいか、そのためにどんな熟度のブドウを収穫するかに寄ります。
カベルネ・ソーヴィニヨンのルーツ
カベルネ・ソーヴィニヨンの故郷はボルドー。
ソーヴィニヨン・ブランとカベルネ・フランの自然交配で生まれたと言われています。どちらもボルドーで盛んに栽培されているほか、ロワール地方でもメジャーな品種です。
グリーンノートを感じやすいのは両親となる2つの品種も同じ。適度なら「清涼感」とポジティブにとらえられ、度が過ぎると「青臭い」と悪い評価となります。
カベルネ・ソーヴィニヨンの主要栽培国
世界のブドウ栽培面積において、カベルネ・ソーヴィニヨンは巨峰につぐ2位。ワイン用のブドウとしては第1位です。
(OIV2017年の統計による)
同資料によると主要生産国は、中国、フランス、チリ、アメリカ合衆国、オーストラリア、スペイン、アルゼンチン、イタリア、南アフリカの順番。詳しい内訳が分かる近年の資料は見つけられませんでした。
世界の総栽培面積は34万ha。これは栽培面積世界3位のイタリアと比べて半分以上。4位のアメリカよりはるかに広い値です。
たくさん栽培されているということは、それだけ飲まれているということ。カベルネ・ソーヴィニヨンは大人気のブドウなのです。
スタイルを大きく左右するポイント
市場にはとてつもない種類のカベルネ・ソーヴィニヨンが流通しています。その中でいかに自分好みの銘柄を選ぶか。
その際に考えるべきポイントは大きく3つ。風味の方向性・酸味・渋味です。これらは独立して動くパラメータではありません。おおよそ次のように連動しています。
そのキーポイントはブドウの熟度です。
ブドウの熟度 | 低い | 高い |
---|---|---|
風味の方向性 | カシス、ピーマン、ミント | ブラックベリー、ダークチェリー |
酸味 | やや高い~高い | 中程度~穏やか |
渋味 | 中程度~やや高い | 中程度~やや穏やか |
ブドウの熟度は品質ではなくスタイル
ブドウの熟度が高い/低いと書くと、「熟度が高い」方が良質と考えがちですが、それは違います。
生産者によってつくりたいカベルネ・ソーヴィニヨンのスタイルが違い、それぞれの「適熟」があるということです。
例えばこのようなナパ・ヴァレー産のカベルネ・ソーヴィニヨン。
詳しいデータがあるわけではありませんが、おそらくかなり遅摘みをしています。ブドウが樹の上で乾燥し、果皮にしわが寄って少しレーズンのようになったものを収穫しています。
その上でその糖分を完全に発酵させず、少し甘みを残して止めているものと思われます。
だからこそ濃密で複雑な風味と、甘濃く渋味と酸味穏やかな味わいに仕上がっています。
この味わいを「豪華な風味なのに親しみやすいから好き」という人は多いです。一方で「甘い風味が強すぎ、酸味が弱くてバランスが悪い」と捉える人もいます。
ヨーロッパの多くの醸造家は、このカベルネ・ソーヴィニヨンを収穫したタイミングは「過熟」だと判断するでしょう。熟しすぎていると。
そう言う醸造家が「良いワイン」としてつくるのは、もっと酸味も渋味も明確なワインです。
一言で言うなら「好みの違い」なのですが、納得の理由があります。
ブドウの糖度・酸度・風味の経時変化
スタイルの違いの前に、ブドウがどういう風に成熟していくかを簡単に紹介します。
ブドウの糖度は積算温度で上がっていきます。暖かい日が続くと急激に甘くなるわけです。
それと同時に酸味成分であるリンゴ酸の分解が進みます。酸味が減って糖度が増す。どんどん甘くなるのです。
一方でフェノール類の成熟、風味の発達も進みます。これは暖かい/涼しいはあまり関係なく、ブドウが樹に実っている期間に比例すると言われます。
ブドウの糖度は完全に発酵させるとアルコール度数に直結します。過熟気味のブドウからは、酸味穏やかでアルコール度数が高く、風味豊かなワインが出来上がります。
ボルドーをお手本にするならば・・・
カベルネ・ソーヴィニヨンの故郷であり2大高級産地であるフランスのボルドー地方。そこでつくられる高級なカベルネ・ソーヴィニヨンを中心としたブレンドワインは、必ず渋味も酸味も高いワインです。
このタイプのワインからはミントやピーマンのような「グリーンノート」を感じやすいです。
タイプ別グリーンノートを明確に感じるの章においては「グリーンノートを明確に感じる」としました。
ボルドーは海洋性気候。大西洋から偏西風で運ばれてくる湿気により、年間を通して降雨があります。
収穫期にも雨が降りやすい気候においては、収穫のタイミングは極めて難しい問題です。雨が降ればブドウが水を吸って糖度が下がり、風味の凝縮感が下がります。湿度がカビ病を運んでくることもあります。
ブドウの熟度が上がるのを待ちつつも、雨が降る前に収穫を終えてしまいたい。その駆け引きが重要なのです。それでも酸味が下がる「過熟」の状態まで待つことはできません。なのでしっかりと酸味を感じます。
これまで「ブドウの糖度がよく上がって風味が熟した年」=「当たり年」でした。
こういった適度に酸味の残った、あるいは未熟で高い酸味を持ったブドウからワインをつくってきたのがボルドーです。酸味と渋味のしっかりとある熟成ポテンシャルが高いワインが良いワイン。その認識が受け継がれて来たのは当然でしょう。
ボルドーをお手本としてカベルネ・ソーヴィニヨンを植えた産地も、同様の味わいを目標にする傾向があります。
地中海性気候ならタイミングは自由自在
それに対してカリフォルニアのナパ・ヴァレーやイタリア、南アフリカ、チリの一部などは地中海性気候です。夏に安定して乾燥し、雨は冬場にまとめて降るのが特徴。収穫期に雨の心配がほとんどありません。
それゆえ醸造家が望むタイミングでブドウを収穫できます。
酸味を大事にするならば早めに収穫することもできます。先述のようにレーズン状になるまで待って収穫することもできます。
こういったカベルネからは、プルーンのような甘く熟したフルーツや、それを煮詰めたジャムのような甘い香りを感じます。
タイプ別おすすめの章では「完熟フルーツの香りを感じる」としました。
気候に恵まれた産地では、どんなワインをつくりたいかでタイミングを選べるのです。
ターゲット層が広いなら
酸味や渋味は強ければいい/弱ければいいというものではありません。他の要素と強さのバランスがとれている上で、各個人の好みがあります。ただ渋味については、ワイン飲み始めの人やライトなユーザー層には嫌われる傾向が強いです。
もしもそのカベルネ・ソーヴィニヨンを手頃にたくさんつくり、スーパーマーケットにも卸して大量に販売したいとします。そうなるとワイン通だけでなく幅広い消費者層に好まれる味、嫌われないスタイルである必要があります。
そのためには渋味が穏やかな方が有利。渋味をまろやかにする手法の一つが遅摘みなのです。
今飲むべきワインか10年後のポテンシャルか
カベルネ・ソーヴィニヨンはつくり方によっては酸もタンニンも豊富。ゆえに高い熟成ポテンシャルがあります。ものによっては50年後、100年後に飲んでも素晴らしいものでしょう。
だからと言って全てのカベルネが熟成前提につくられてはいません。むしろ「10年後の方が美味しい」というのはごく一部です。
飲みごろで分類する3タイプ
- リリース直後が飲み頃で数年続き、その後ゆるやかに劣化していく
- リリース直後は「硬い」印象で数年かけて美味しくなる
- リリース直後から十分に楽しめるが熟成もできる
1番目は手頃な価格のカベルネ・ソーヴィニヨン全般です。
加えてだいたい1万円くらいまでは、すぐ飲むこと前提のものもつくられています。例えばアメリカの市場は新しいもの好きで、熟成させて飲みたい人は限られると言われます。
先述の渋味を抑えてつくるカベルネは、ターゲット層の好みに合わせるという他に、すぐ飲めるから回転が良くなるメリットもあります。
昔はボルドー、メドック地区の高級ワインこそ2番だと言われていました。評論家の飲み頃予想のスタートはリリースから5年、10年後。熟成させず若いうちに飲むなんてもったいない。冒涜だ。
確かに若すぎる状態で飲むと、香りもあまり立ち上らず渋くて酸っぱいワインと感じがちです。そういう状態を「硬い」と表現します。
とはいえ「ワインは熟成させて飲むもの」という価値観を実践できる人は一握りです。ブランドの確立した銘柄といえど、熟成ありきでは売りあぐねる状況が見られ始めました。加えて地球温暖化によりボルドーの気候が変わってきており、ブドウの熟度が上がりやすくなっています。
最近のボルドーは若いうちから飲めるようになってきたとよく耳にします。つまり3番のタイプが増えてきているのです。
ナパ・ヴァレーでつくられる数万円以上のカベルネ・ソーヴィニヨンも、やはりアメリカ市場がターゲットだけあり3番のタイプが大半です。
樽熟成でも変わる風味
1000円以下くらいの廉価品を除き、カベルネ・ソーヴィニヨンの赤ワインはほとんどオーク樽熟成して醸造されます。豊富なタンニンを和らげるためです。
樽熟成はその板材から溶け出す成分で、ワインの風味にいい影響を与えます。カベルネ・ソーヴィニヨン自体の風味とも相性がいいです。
まずはヴァニラやココナッツ、トーストのような樽そのものの香り。加えてコーヒーやチョコレート、タバコなどの香ばしい香りは、ブドウの香りと合わさって感じるものでしょう。
カベルネ自体の香りをしっかりと感じつつ、樽香が複雑さを加えている。こういった状態が「良いバランス」と専門家に評価されます。
一方で「バランスが悪い」とされるほど樽香が過剰に甘く香るものも需要があります。むしろ一般消費者にはこのようなタイプの方が好まれやすいです。香りのボリュームが豊かで豪華に感じ、値段がそう高くないものが多いからです。
こういったタイプを多くの醸造家はあまりつくりたがりません。というのも同じような製法でつくれば産地が違っても同じようなワインになるからです。風味に特徴があり個性的なようで、実は没個性的なワインなのです。
それゆえか「コンセプトワイン」が多いです。巨大なワイナリーが運営するブランドの一つとして、ターゲットに対して「こんなワインをつくる」というコンセプトを明確にしたワイン。生産者の顔の見えないワインです。
タイプ別おすすめの章では「過剰気味の樽香」と表しました。その良し悪しを決めるのは飲み手であるあなたです。
カベルネ・ソーヴィニヨンとブレンド
カベルネ・ソーヴィニヨン100%のワインもたくさんありますが、同じくらいカベルネ・ソーヴィニヨンを主体としたブレンドワインも多くつくられます。多いのがメルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドとブレンドされること。
ボルドーのメドック地区のワインの多くが上記のブレンドでつくります。そのためカベルネ・ソーヴィニヨンを主体にメルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドなどのブレンドを「ボルドーブレンド」と呼びます。マルベックが入ることも多いです。
多くの生産国では「85%ルール」が適用されます。「Cabernet Sauvignon」とラベル表記しても、15%までは他の補助品種をブレンドすることができます。
このようにラベル表記があれば、たとえブレンドであっても「カベルネ・ソーヴィニヨンらしい味」に仕上げられていると考えていいでしょう。
一方でボルドーワインのカベルネ比率は一般にもっと低く50%前後のものも。単純に「カベルネ・ソーヴィニヨンの味」と言いきれないところはあります。言い換えれば「この品種はこういう味」という物差しに頼らず、生産者が理想とする味を追求しているわけです。意図を感じながら味わえばその楽しみも一層深まるでしょう。
ピノ・ノワールとの比較
ピノ・ノワールが人気な理由の一つに、「オンリーワンのワインをつくりやすい。その特徴を感じやすいから、飲み比べをいろいろやりたい人に好まれる」というのがあります。だからブルゴーニュにならって単一畑からつくるものが少なくありません。
それに対してカベルネ・ソーヴィニヨンは、ピノ・ノワールほどは土地の個性を表現しにくいのでしょう。高級品を除いてあまり「単一畑からつくるカベルネ・ソーヴィニヨン」という話はあまり聞きませんん。
それゆえか当店に届く注文情報を見ていると、カベルネ・ソーヴィニヨンは単一銘柄をまとめ買いされる方が多いように感じます。お気に入りのワインが見つかったらリピートするタイプの方です。
比べるとピノ・ノワールは「みんな違ってみんないい」が精神。気に入った銘柄に出会っても「美味しかった~次何を飲もう」とする人が多い印象です。
タイプ別に比べて面白いカベルネ・ソーヴィニヨン5選
ここではCOCOSバイヤーが選りすぐって採用したものの中から、様々なタイプ・価格帯のカベルネ・ソーヴィニヨンをご紹介します。
次のポイントを目印に選んでみてください。
私はこのタイプが好きそう。こっちは飲んだことないなぁ
そういうのが見つかるといいです。
グリーンノートを明確に感じる
完熟フルーツの香りを感じる
タンニン穏やかで大衆受け狙い
過剰気味の樽香
熟成させずに飲むべきワイン
今飲んでもよく数年~10年程度は熟成可
今飲んでもいいが熟成させるとより美味
単一品種
ブレンド
故郷の味にして本来の風味
グリーンノートを明確に感じる
今飲んでもよく数年~10年程度は熟成可
ブレンド
カベルネ・ソーヴィニヨンはよく飲むけれども、ミントやピーマンの香りといわれてもピンとこないなあ
そんな方はこのワインを飲めば明確に認識できるでしょう。グリーンノートがはっきり表れています。酸味高めで細身な味わい。渋味はしっかり感じるものの「パワフル」という表現は当てはまらないでしょう。
ある程度熟成ポテンシャルはあるでしょうが、価格的に「わざわざこの値段のワインを大事にとっておかなくても・・・」というもの。
一方でこのタイプは抜栓後も味の劣化がゆるやかです。2日目の方がまろやかで美味しくなっている期待が持てます。
著名生産者のブランドに恥じない高級感
グリーンノートを明確に感じる
今飲んでもよく数年~10年程度は熟成可
ブレンド
メドック2級格付けシャトーがつくるセカンドワインなので、「有名生産者のエントリークラス」という位置づけ。ゆえに上位のワインと比べると早く楽しめるのですが、ワインアドヴォケイトの飲み頃予想は2021年の試飲で2023年から。セカンドワインでも「待って飲むべき」という評価です。
先ほどのリーズナブルなメドックと比べ、風味の複雑さもそうですが、味わいのボディ感で大きく勝ります。存在感と飲みごたえがある。だからパーティー用途にも応えられます。ただ強い渋味は人を選ぶので、ワインに慣れた人だけが集まる機会がいいでしょう。
価格請求力のあるザ・コンセプトワイン
完熟フルーツの香りを感じる
タンニン穏やかで大衆受け狙い
過剰気味の樽香
熟成させずに飲むべきワイン
単一品種
先の2つが「伝統的な産地の味わいを守る」というような方針とすれば、このワインはとても対照的。「多くの人に喜ばれてたくさん売れるような味」という意図が明白です。そのために目指したのが「ナパ・ヴァレー産らしい味わいを手頃に」。正しくコンセプトワインです。
コストダウンのためにこのカベルネ・ソーヴィニヨンはステンレスタンク発酵・熟成。しかしオークスティーヴ(樽香をつけるための板材)を使用しています。ゆえに明確なヴァニラやモカの甘い香りがあります。
タンニンは抽出を穏やかにしたのか、あえて酸素を通しているのか分かりませんが、あまり目立たず穏やかです。
同じナパでもエレガントな雰囲気
完熟フルーツの香りを感じる
今飲んでもいいが熟成させるとより美味
ブレンド
同じナパ・ヴァレー産のカベルネ・ソーヴィニヨンといえど、トレフェッセンがつくると大きく雰囲気が変わります。
例えば2018VTのラベル表記ではアルコール度数は14.2%。ヒドゥン・ポストと比べてもむしろブドウの収穫糖度は高いです。糖度だけでなく、酸味成分や風味成分が詰まったより上質で高価なブドウを使っているのでしょう。熟成に使う新樽は多いのに香りに甘い印象は控えめでタイトなもの。しかしグリーンノートはあまり感じず、みずみずしいフレッシュフルーツを感じます。
素晴らしく上品な味わいのバランスは、遠い昔、ボルドーワインを目標にナパでつくり始めたときの哲学を継承しているのでしょう。
熟していても甘くはならず
完熟フルーツの香りを感じる
今飲んでもよく数年~10年程度は熟成可
単一品種
「南アフリカのカベルネ・ソーヴィニヨンは・・・」とまとめて語るには、この国は味わいのバリエーションが広すぎます。
総じて言えるのは過剰気味の樽香を効かせた甘い風味のものは、ほとんど見つからないこと。かといってボルドーほどグリーンノートがあるタイプもあまり見つかりません。甘くはないけれど、フルーツの熟度は高い風味。
中から高価格帯ではステレンボッシュ産のものが多いのですが、樽香は味わいの骨格や複雑さとして現れるタイプが多いように感じます。
型にはまらないカベルネ・ソーヴィニヨン4選
上記のような「正統派の」カベルネ・ソーヴィニヨン。飲み比べれば違いが明白とはいえ、どれも「カベルネ・ソーヴィニヨンらしい」と言える範囲内の香り・味わいです。
カベルネ・ソーヴィニヨンは市場も大きいですが、供給量も莫大。真っ向勝負で飛びぬけた存在として認知されるのは、そう簡単ではありません。
だからこそ「数千本のカベルネの中でも埋もれない奇抜さ」を持ったものもつくられます。そんな型破りなカベルネ・ソーヴィニヨンもご紹介します。
コーヒー風味のカベルネだって!?
「カフェ」の名の通り、コーヒーやコーヒー豆のような香ばしい風味を持つのがこちら。その理由は熟成に使うオーク樽をかなり強めにローストしているからです。樽材の表面でメイラード反応が起こり、その香りがコーヒーに似ているのです。
同様の製法をとったピノタージュの赤ワインは当店にもいくつかあります。しかしカベルネ・ソーヴィニヨンはこれだけです。ただ奇抜なだけじゃなく、凝縮感や風味の豊かさで価格以上の価値があります。
カベルネ・ソーヴィニヨンなのに甘いだって!?
このワインのブドウは明らかにあえて過熟させています。きっと思いっきりレーズン状になっていることでしょう。ゆえに酸味もかなり穏やか。
加えて正確なデータはありませんが、ある程度の糖分を残して発酵を止めています。だから香りだけじゃなく味わいも甘い。ミルクチョコレートのような風味があります。
カベルネ・ソーヴィニヨンとは思えないほどの、まったり滑らかで親しみやすい味わい。好き嫌いが大きく分かれるタイプでしょう。良い意味でも悪い意味でもカベルネ・ソーヴィニヨンの典型的な味わいからかけ離れています。
カベルネ・ソーヴィニヨンが白ワインになった!?
黒ブドウの大半は、果皮は黒に近いほど濃い紫色でも、果肉は薄緑色なものです。赤ワインの色素は果皮から抽出されるもの。
では果皮の色が出ないように収穫してすぐプレスするとどうなるか。このワインのようにカベルネ・ソーヴィニヨンの白ワインができあがります。
あまり白ブドウには感じることのないコクと飲みごたえ。この低価格とあわせて、「どんな味がするんだろう?」と試してみたくなりませんか?
参考:赤ワインと白ワインの違い▼
カベルネ・ソーヴィニヨンで白のスパークリングも!
さらに上記の白ワインをベースにスパークリングワインもつくっちゃいました!
スパークリングワインにするためには、ブドウが甘くなりすぎないタイミングで収穫する必要があります。仕上がりのアルコール度数が高すぎると、厚ぼったくてスッキリ感を損ない美味しくないからです。
なのでこのワイン用のブドウはある程度早く収穫していると思うのですが、その割にはあまり青臭い風味はありません。熟したトロピカルフルーツのような風味を持ち、なかなかどうして素直に美味しい味に仕上がっています。
カベルネ・ソーヴィニヨンを選ぶ理由と選び方まとめ
あなたはカベルネ・ソーヴィニヨンのワインを、積極的に選びますか?それともたくさん種類のあるブドウ品種の一つですか?
前者の方には、「たくさんあるカベルネ・ソーヴィニヨンの中で、好みや今の気分と飲み方にマッチする銘柄の選び方」が最も価値ある情報でしょう。
一方で後者の方には、「他のブドウ品種ではなくカベルネ・ソーヴィニヨンを選ぶべきシーンと理由」を知りたいはずと考えます。もちろんその理由は様々に挙げられますが、タイプと価格帯で3つに大別して一例をご紹介します。
カベルネ・ソーヴィニヨンの選び方まとめ
先に「スタイルを大きく左右するポイント」の章でご紹介したのが、カベルネ・ソーヴィニヨンにおいて風味のバリエーションをつくる主な要因。そして好みの銘柄を選ぶために注目すべきポイントです。
熟度が高すぎないブドウからつくるワインは、ピーマンやミントなどの「グリーンノート」を持つことが多い。酸味や渋味を比較的強めに感じます。それゆえに熟成ポテンシャルがあり、何十年も熟成させて美味しい期待が持てます。さらに抜栓後の劣化も穏やかなので、お酒に弱い方でも「数日に分ければいいや」と開けやすいでしょう。
一方でレーズン状になるほど乾燥し小粒になった、過熟気味のブドウからつくるタイプ。評論家には評価されずとも、その実一般消費者には大人気です。
熟れ切ったベリーやそれをジャムにしたような甘い香り。そこに甘く香ばしい樽香が複雑味を添えます。価格の割に香りのボリュームや豪華さが高いことも、コスパのいいワインを追い求める人たちに刺さるのでしょう。渋味や酸味が穏やかで親しみやすい味わいは、ワインに不慣れな人も集まるパーティーシーンにぴったりです。
厳密にはこんな簡単に二極化できるものではありません。熟度は高いけれどもグリーンノートがあるものもあります。「ある程度の法則性」程度に認識して、自身の中のバランスポイントを探るのがいいでしょう。
《低~中価格帯》タンニンと酸が強めのカベルネ・ソーヴィニヨンを選ぶ理由
適度に清涼感があり渋味と酸味を感じる引き締まった味わい。そんなカベルネ・ソーヴィニヨンを選ぶ理由の大きなものはフードペアリングでしょう。
「肉には赤ワイン」なんて単純なことは言いませんが、やはりカベルネ・ソーヴィニヨンと牛肉やラム肉の相性は良い。様々な調理法で料理を引き立ててくれます。
一方で魚料理はダメかというと、エレガントで細身なタイプのカベルネ・ソーヴィニヨンなら、割とペアリングの幅は広いです。生魚は難しくとも、しっかり味のついている魚料理なら悪くないことが多い。
甘濃くボリューミーなタイプに比べ、相性がいい料理の幅はより広いと言えるでしょう。
《高価格帯》タンニンと酸が強いカベルネ・ソーヴィニヨンを選ぶ理由
「いつか特別な日に飲むために、このワインは大切にしまっておこう」
そんなとっておきのワインとしてセラーに保管する上で、カベルネ・ソーヴィニヨンの熟成ポテンシャルは適しています。特にエレガントでタンニン豊富なものの方が、未来の味わいに期待が持てます。
とはいえいきなり奮発して買ったワインを「20年後に飲むぞ!」とするのはおすすめできません。古酒には独特の風味があって、あなたの口にあうとは限らないからです。
ばらば試してみればいい。20年前、2005年前後のカベルネ・ソーヴィニヨンは、楽天市場などで探せばたくさん見つかります。既に熟ししたものを飲んでみて、とっておきのワインを熟成させるべきかどうかの判断材料にする。
そういった楽しみ方をするうえで、銘柄数が豊富で熟成ワインも出回っているのは利点です。熟成ポテンシャルが高い赤ワインのブドウ品種は他にもあります。しかし熟成ワインの流通量でカベルネ・ソーヴィニヨンには勝てないでしょう。
若いころは少しとげとげしく感じるカベルネ・ソーヴィニヨンのタンニンは、熟成でまろやかになると口当たりの厚みとなり、豪華で心地よく感じます。その変化もまたなかなか他にない魅力です。
ワインの熟成についての参考記事▼
フレンドりーで渋くないカベルネ・ソーヴィニヨンを選ぶ理由
このタイプのカベルネ・ソーヴィニヨンを選ぶ理由は、「期待通りの味からあまり外れないこと」でしょう。予想通りの味が楽しめるというのはメリットです。
たとえば初めてのレストランに入ってワインリストを開く。ナパ・ヴァレー産のカベルネ・ソーヴィニヨンがボトル1万~2万円でオンリストされていれば、きっとこのようなリッチで甘濃いタイプでしょう。レストラン価格は小売価格の2~3倍くらいと考えられます。
その生産者の名前を聞いたことがなく、ましてや飲んだことがない。それでも味の想像がしやすく、そして裏切らない。
その安心感がフレンドリーなカベルネ・ソーヴィニヨンの魅力です。
一方で「濃厚だけれど渋くない」という点を魅力に感じているなら、カベルネ・ソーヴィニヨンにこだわる必要はないでしょう。本来はタンニン豊富なブドウ品種だからです。
例えばカリフォルニアの「レッドブレンド」。ボルドー品種に加え、ジンファンデルやプティ・シラーなどをブレンドするワインです。もっとフルーツ感豊かで、華やかで親しみやすい香り。それでいて品種特性から渋味は穏やかです。
そして安い。
人気の高いカベルネ・ソーヴィニヨンは、ブドウ取引価格が他より高めです。逆に「カベルネ・ソーヴィニヨン単体でなくてもいい」ということであれば、もっとコストを下げてフルーティーなワインをつくることもできるのです。
お気に入り探求と比べる楽しみ
日本国内だけでも無数に流通するカベルネ・ソーヴィニヨンの赤ワイン。その中から予算の中でいかに自分好みの1本を見つけるか。それも大いに面白いことです。
ただしいくら好きなタイプの味わいでも、そればかりではつまらなく感じる時もあるのでは?ならば自身の好みがわかっているからこそ、たまの1本ではあえて別のタイプを選んでみるもの楽しい。
一方で飲み比べ好きな方があえてまとめ買いする面白さもあります。「2年おきに1本」など間を空けて定期的に飲めば、フレッシュさが無くなる代わりにタンニンがまろやかになっていく変化を感じられるからです。
それぞれのタイプで「全く違うワイン」かというとそうではありません。きちんとカベルネ・ソーヴィニヨンのワインには共通点があります。その上で世界中でつくられるだけあるタイプの多様性は知れば面白い。そして高級品はその価格に相応しい味の違いを感じさせてくれるでしょう。
カベルネ・ソーヴィニヨンの魅力を理解するには、一朝一夕では足りません。