イタリアはワイン大国として名高く、そのワインは世界中で愛され続けています。イタリア独自の品種から生まれるワインは、個性豊かな風味と料理との絶妙な相性が魅力です。本記事ではワイン初心者でも楽しめる、イタリア全土の代表的なワインとその楽しみ方を解説します。時代を超えて選ばれてきた伝統のワインを味わいながら、イタリア文化の奥深い世界に足を踏み入れてみませんか?
これだけは知っておきたい!イタリア有名ワイン
ここで言う「有名ワイン」とは、特定の銘柄のことではありません。産地に紐づいたいわばワインのブランドです。
昔からその土地でつくられてきたワインが、「他にはない優れた香味がある」としてその典型的なタイプを定義。消費者はその名称を目印にすれば、期待通りのワインを選ぶことができます。
伝統国のワインの名称については、ワイン初心者にとっては非常にややこしいところ。だからソムリエを志すならまず最初に勉強します。
本記事では誤解しやすいところと要点だけをかいつまんで、ワイン初心者にも分かりやすいように詳しく説明します。
「バローロ」はたくさんの人がつくっている
「サッシカイア」はイタリアの有名ワインであり、これは特定の銘柄を指します。だからヴィンテージの違いはあれど、「サッシカイア」と名の付くワインは「テヌータ・サン・グイド」という生産者がつくる1種類だけ。難しいもなにもない、ただ知っているか知らないかです。
高級ワインですし、相対的に有名であるとはいえ、触れる機会がない人は知りません。
一方で「バローロ」といったらワインのタイプです。
ピエモンテ州の特定地域で、「ネッビオーロ種」というブドウ100%でつくられる辛口の赤ワインです。ブドウ品種と産地特性ゆえに、おおよその味わいも決まっています。
ただしこれは「ワインのタイプ」であり「ワインのブランド」のようなもの。数多くの生産者がバローロをつくります。
「松坂牛」ブランドの牛肉はどれも美味しいですが、厳密なことを言えばどの畜産農家が育てたかでも品質は違う。例えるならばそういうことです。
あるレストランに入ってワインリストに「サッシカイア」と「バローロ」が載っていたとします。サッシカイアの方は、その銘柄を知っていなければ味の想像はつきません。一方でバローロは、たとえその銘柄は初見であってもだいたい味がわかります。過去に「バローロ」ブランドのワインを飲んだことがあれば、その味わいに近いと推測できるからです。
伝統の高品質ワインを保証する「D.O.C.G.」
昔からその伝統のスタイルを守ってきた有名ワインなのか否か。ワイン大国であるイタリアは、法律で分かりやすく定めています。それがキャップシールなどに貼られているこのシール。
法律で定義される上級イタリアワインの格付け・規格を、DOCGと呼びます。
これは「デノミナツィオーネ・ディ・オリジネ・コントロッラータ・エ・ガランティータ」(Denominazione di Origine Controllata e Garantita)の略称ですが、覚えるメリットはありません。そういうものがあるんだ、くらいの認識で大丈夫。
それより1つ下級のワインとして、DOCのグレードもあります。ともにワインの産地とワインのタイプ、ブドウ品種や製法などが規定されており、その名称から期待通りのワインを選べます。DOCの中で特に品質が高いとされるものが、数年に1度DOCGへの昇格を果たします。
2024年現在、イタリアのDOCGは77個。DOCはその数倍の数が認められています。
代表的なものだけピックアップ
DOCGを知っていればワインのタイプが分かるとはいえ、普通は77個も憶えてられません。それにDOCGの中でも知名度や生産量、日本での流通量には大きな差があります。プロでも実物を見たことがないDOCGもたくさんあります。
なので本記事では、これだけは知っておくべきというDOCGを独断と偏見で8個選びました。こちらは間違いなく「イタリアの有名ワイン」です。
イタリアの主要DOCG
- コネリアーノ・ヴァルドッビアデネ・プロセッコ
- フランチャコルタ
- ソアーヴェ
- グレコ・ディ・トゥーフォ
- キアンティ
- ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ
- アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ
- バローロ
イタリア専門のワインショップはもちろん、総合的なワインショップやお酒の量販店、あるいは百貨店のワイン売り場。そこへ行けば上記のワインの半数は手に入るでしょう。
飲まれ続けているからこそ有名ワイン
上記のワインには日常消費用のものも高級品もあります。そのうえでどれも膨大な生産量があります。だから世界中に輸出され、常にイタリアワインの棚に並び、多くの人の目に触れる有名ワインとなったのです。
それだけ生産されるということは、世界中の愛好家が飲み続けているということ。中には日本円で5000円声が普通のものもあります。世界中に美味しいワインがあるなかで、イタリアの伝統ワインが選ばれ続けているという事実。
カベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールといった国際品種のワインでは代わりになれない個性を持つこと。そして高価なワインであってもまた買って飲みたいと思わせる魅力があること。この証明であると言えるでしょう。
ならばこそ、ワイン初心者であっても見逃したままはもったいない。もし飲んだことがないのであれば、典型的なものからトライしてみる価値があります。
これまでもたくさんイタリアワインを飲んできた方にとっても、目を向ける価値のあるコスパの高い銘柄をご紹介します。
コネリアーノ・ヴァルドッビアデネ・プロセッコ
ヴェネト州
スパークリングワイン
普段飲みワイン
「プロセッコ」はヴェネト州でつくられるスパークリングワイン。DOC格付けです。
その中からDOCGとして独立した上級ワインが「コネリアーノ・ヴァルドッビアデネ・プロセッコ」です。なので「プロセッコ」の名前の方が有名であり、世界中で大人気。
DOCGのものを含めた「プロセッコ」全体の生産本数は6億本を超え、世界一人気のスパークリングワインです。
プロセッコについてはこちらの記事で詳しく
プロセッコの典型的な味わい
プロセッコの典型的な味わいは、フレッシュで控えめな香り、そして軽やかな口当たりとキレのいい酸味です。
グレラという品種のブドウを使用しており、青りんごや梨、柑橘類の爽やかな香りが広がります。酸味の高い品種なので、スパークリングワインの仕上げに添加される甘味(ドサージュ)は平均よりも多め。辛口(Brut)もありますが、やや辛口(Extra Dry)のタイプが典型的です。
アルコール度数11%前後のものが多く、12%か12.5%につくられるシャンパンより少しだけ低め。泡の気圧もやや低めのものが多いのが特徴。ゆえに軽快な酸味とフルーティーさが際立ち、食事の始まりや軽めのアペリティフとして最適です。だからこそ1本目に紹介しました。この飲み心地の軽さが大量消費される理由でしょう。
特に暖かい季節に冷やしてゴクゴク飲むと、爽快感がさらに引き立ちます。
DOCGである「コネリアーノ・ヴァルドッビアデネ・プロセッコ」は上級らしく、風味の密度や余韻などはよりち密で洗練されたもの。ただ味筋としては同じで、純粋にスケールアップした感じです。
COCOSおすすめのプロセッコ
当店ではDOCクラスのもっと手頃なプロセッコも扱っておりますが、やはりおすすめしたいのはDOCGクラスのもの。味わいのクリーンさ、キレイな酸味と上手く調整された甘味のバランス感を味わってもらいたい。特にワイン単体で味わったときの満足度は、コネリアーノ・ヴァルドッビアデネ・プロセッコになると1段階上がるでしょう。
それでも2000円ちょっとなのですから、気軽に飲めるのがうれしいところです。
ヴェネト州の文化と郷土料理
ヴェネト州のコネリアーノとヴァルドッビアデネというエリアで生産されているのが本来のプロセッコでありDOCG認定されているもの。その人気ゆえに生産エリアが拡大していきました。この地域の絵のように美しい丘陵地帯は、ユネスコの世界遺産に登録されているほどです。
ヴェネト州は、ヴェネツィアを中心とした豊かな文化遺産があり、美術や建築、音楽などが発展してきました。また、地中海とアルプス山脈の影響を受けた多様な食文化を持ち、魚介類から肉料理までバラエティに富んだ料理が楽しめます。
ヴェネト州の郷土料理で特におすすめなのは、「サルデ・イン・サオール (Sarde in Saor)」という料理です。これは、イワシを酢漬けにして玉ねぎ、干しぶどう、松の実と一緒にマリネしたものです。甘酸っぱい味わいが特徴で、プロセッコのフルーティーさと見事に調和します。また、リゾットやポレンタもヴェネトの伝統料理として広く親しまれており、これらもプロセッコと合わせると、地域の味覚を堪能できます。
プロセッコおすすめの楽しみ方
プロセッコはまず食前酒として最高です。友人や家族との集まりで、食事の前に軽く飲む一杯として冷やして提供すれば、爽やかなスタートを切ることができます。ほんの少しアルコール度数が低いのも、最初の1本から満足しすぎないという点でピッタリでしょう。
その爽やかな味わいは明るい時間から気軽に飲むときのチョイスとしても最適です。
料理とのペアリングでは、前菜や軽めの食事全般と相性が悪いものが少ないです。「相性抜群で互いを引き立てあう」というものは少ないのですが、邪魔しない。色々食べて栄養を取りたい普段の夕食に最適です。
パーティー料理ならフルーツを使って爽やかな甘みを持たせたアンティパストと好相性。プロセッコのフルーティーな酸味が料理の風味を引き立てます。
フランチャコルタ
ロンバルディア州
スパークリングワイン
特別な日に
フランチャコルタは、ロンバルディア州で生産される高級スパークリングワインです。シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵方式で作られ、クリーミーな泡立ちと複雑な風味が特徴です。
使用される品種はシャルドネ、ピノ・ネロ(ピノ・ノワール)、ピノ・ビアンコ(ピノ・ブラン)など。イタリアの高級スパークリングワインとしてはNo.1の地位にあります。ただしシャンパンと比べたとき生産量が10分の1以下なので、「出回りすぎていない」という点でもほどよいプレミア感があります。
フランチャコルタの典型的な味わい
白桃や洋ナシ、花のような繊細な香りを持ちます。瓶内二次発酵とその後の瓶内熟成に由来する、トーストなどの酵母の香りもわずかに感じます。ただし高級なシャンパンに感じるブリオッシュのような豪華なイメージの香りは控えめ。もっと引き締まった印象を持つものが多いです。
きめ細かく持続性のある泡感は、同じスパークリングワインでもプロセッコとは対照的。クリーミーで高級感のある口当たりです。
COCOSおすすめフランチャコルタ
フェルゲッティーナはフランチャコルタの中で「大手」というわけではありませんが、それでも自社畑5haから初めて110haまで拡大してきました。フランチャコルタとしては比較的手を出しやすい価格と、それに見合わぬ高い品質でしょう。
家族経営であり品質にはかなりこだわっています。収穫したブドウの本当に良いところ・果汁の一番雑味のないところだけを使っており、全体の17.5%しかワインにしないそうです。メーカー資料にはありませんが、きっと自分たちは使わないところを他社に販売しているからできるのでしょう。
それゆえの透明感があるピュアな味わいです。
ロンバルディア州の文化と郷土料理
フランチャコルタは、ロンバルディア州のイゼオ湖周辺で生産されています。ロンバルディアは、ミラノを中心としたファッションやビジネスの中心地としても知られます。
ミラノという大きなマーケットが近くにある。それゆえにフランチャコルタは高級スパークリングワインの産地として成長してこれたのだと言われています。シャンパーニュ地方の近くに大都市パリがあるのと同様です。
郷土料理では、「カッソーラ」という豚肉とキャベツの煮込み料理が有名です。ボリュームのあるこの料理は、フランチャコルタの爽やかな酸味が脂をさっぱりとさせ、絶妙なペアリングを生み出します。
参考レシピ▼
フランチェコルタおすすめの楽しみ方
フランチャコルタは、特別な日のお祝いにぴったりです。
シャンパンほど知名度はないのに、正直シャンパンに近いような価格のものが多いです。一方で風味の派手さ、主張の強さはシャンパンほどではありません。その控えめさが、それほどワインに詳しくない方にとってとっつきやすさにもつながるはずです。
フランチャコルタは内陸部のワインではありますが、魚介料理との相性はなかなかいいです。特にエビのような甲殻類など。イゼオ湖のそばのワインであるからか、あるいはその土壌からくる風味によるものか。素材の旨味感を引き立てます。
一方でその高い酸味は脂を切る効果もあります。肉料理に対して物足りないわけではありません。2人でレストランに行ったとき、フランチャコルタで最初から最後まで通す、みたいな飲み方もいいでしょう。
ソアーヴェ
ヴェネト州
白&スパークリングワイン
普段飲みワイン
ソアーヴェは、ヴェネト州で生産されるイタリアを代表する白ワインです。ガルガーネガ種が主体であり、スパークリングワインタイプもあります。ガルガーネガは1房がかなり大きくなるブドウで収穫量も多く、ワインは手頃なものが大半です。
正確には「ソアーヴェ Soave」はDOCであり、それよりアルコール規定などが厳格な「ソアーヴェ・スペリオーレ」がDOCG。また収穫したブドウを陰干ししてつくる甘口ワイン「レチョート・ディ・ソアーヴェ」という独立したDOCGもあります。
ソアーヴェの典型的な味わい
香りは白い花やアーモンド、リンゴや洋梨のようなフルーティーなニュアンスが控えめに香ります。味わいはフレッシで軽やかな酸味がありながら、柔らかくまろやかな口当たりが特徴です。余韻には心地よい苦みが残り、その苦みが食事を引き立てます。
一口飲んで「うわっ!美味しい」と驚くようなワインではありません。ワイン単体ではそれほど自己主張は強くない。しかし様々な料理が並ぶテーブルにソアーヴェのボトルがあれば、食事がいつもよりスムースに進む。そんな典型的な「メシワイン」がソアーヴェです。
COCOSおすすめソアーヴェ
まさに先述の典型的な味わいの通り。リンゴや白い花の繊細な香りに、生き生きとした酸味。なかなかその美味しさを文字に表すのが難しい、あまり掴みどこのない味わいですが、決して薄くもイマイチでもない。食卓の脇役に徹することのできるワインです。
ヴェネト州の文化と郷土料理
ソアーヴェの生産地域はヴェローナの街があるヴェネト州西部。この地域は中世の城や丘陵地帯が広がり、美しい景観が魅力です。
郷土料理には「リゾット・アッラ・ペスカトーラ(Risotto alla Pescatora)」があります。シーフードをふんだんに使ったリゾットで、ヴェネト州の豊かな海の幸を感じられる一品です。ソアーヴェの爽やかさが、シーフードの旨味を引き立てます。
ソアーヴェおすすめの楽しみ方
ソアーヴェは上記の通りまず家飲みワイン、そして気軽なランチや友人とのカジュアルな集まりに最適なワインです。天気の良い日にテラスやピクニックで冷やして飲むと、そのフレッシュな酸味と果実味が一層引き立ちます。また、夕暮れ時にリラックスしながらの一杯としてもおすすめです。軽めの前菜やサラダ、シーフード料理と合わせれば、食事全体が爽やかな印象に。ソアーヴェの持つ清涼感と共に、リフレッシュするひとときを楽しんでください。
またソアーヴェは、香りというよりもスッキリとした飲み心地の良さこそ命なワインです。その点では自宅の整った環境で飲んでも、アウトドアの香りを感じにくい環境で飲んでもそう大きく変わらない。キャンプなどに持っていくワインとしてもいいかもしれません。
グレコ・ディ・トゥーフォ
カンパーニャ州
白ワイン
主に家飲みワイン
ソアーヴェに比べると知名度でも流通量でも数段落ちるかもしれませんが、「グレコ・ディ・トゥーフォ」もイタリアにとって重要な白ワインです。
これをつくるのはカンパーニャ州。州の名前よりも「ナポリ」の街が有名でしょう。観光地であり食の都です。
グレコ・ディ・トゥーフォの典型的な味わい
このワインの色は淡いゴールドで、アロマには洋梨や桃、蜂蜜のほか、少しスパイスやアーモンドのような香ばしいニュアンスも感じられます。温暖なイタリア南部らしく、味わいは豊かでフルボディ。それでありながらしっかりとした酸味が特徴です。
これはグレコが南イタリアの温暖気候に適応した品種だから。暖かい環境でもしっかり酸味を保ってくれるのです。きっとシャルドネを植えてもなかなかうまくいかないでしょう。
ヴェスヴィオ火山の山麓で見られる「トゥーフォ」というか前菜土壌に由来して、独特で複雑な風味を感じます。果実味も酸味も力強い味わいが、他の白ワインとは一線を画す印象を与えます。
COCOSおすすめグレコ・ディ・トゥーフォ
後述しますがカンパーニャ州のワインの平均価格は高め。なので自宅で気軽に開けられるグレコ・ディ・トゥーフォはそう多くないのですが、こちらはその貴重な1本。
この生産者は他にカンパーニャの土着品種であるフィアーノやファランギーナもつくっています。それらに比べて確かにボディ感が強く、グレーコというブドウ品種の特徴をしっかり表しています。
かんきつ系の香りにアーモンドのような香ばしいニュアンスが混ざります。
カンパーニャ州の文化と郷土料理
カンパーニャ州は、ナポリやアマルフィ海岸、ポンペイ遺跡などの観光地で知られており、年間を通じて多くの観光客が訪れます。このため、ワインは地元消費量が生産量を上回るほどであり、観光地としての需要が高い地域でもあります。
ワインの名産地でありながら、地元で多く消費されるのが特徴です。生産者からすればわざわざ輸出せずとも観光客が飲んでくれます。ゆえに日本で流通するのはわざわざ持ってくる価値のある中~上級クラス。
手頃なワインが外に出にくいから、ワインの品質は高くて価格も高めなのです。
郷土料理としては「スパゲッティ・アッレ・ヴォンゴレ」が人気で、海の塩気とグレーコ・ディ・トゥーフォのミネラル感が絶妙にマッチします。また、地元の魚介料理や軽い肉料理とも相性が抜群です。
グレコ・ディ・トゥーフォおすすめの楽しみ方
グレコ・ディ・トゥーフォもまた幅広く料理のお供として使えるワイン。先述のソアーヴェと比べるなら、よりしっかりとした味わいの食べ物がいいでしょう。バターやオイルをつかった魚料理や肉料理。普段の夕食というより、どちらかというと自宅でちょっと贅沢したいときのディナーに適しています。
あるいはイタリアワイン飲み比べの1本としても面白いでしょう。イタリアの、特に白品種は初心者でも違いを感じやすい個性派が多い。アルネイス、フリウラーノ、グリッロなどの品種とともに、イタリアを旅するようなワイン会を友達と開くと面白そうです。
キアンティ
トスカーナ州
赤ワイン
普段飲み、一部高級品
これぞイタリアワイン!
もともと「キアンティ」としての生産エリアでつくられる「キアンティ・クラッシコ」と、そこから拡大したエリアでつくられる「キアンティ」。どちらもDOCGとして認められています。トスカーナ州でサンジュヴェーゼ種主体につくられ、価格の幅が広く手頃なワインも多く出回っています。
その一方で「キアンティ・クラッシコ・グラン・セレッツィオーネ」のような上級クラスも制定。サブリージョンをつくる動きもあるなど、生産地としての工夫も積極的です。
※「キャンティ」表示されることもありますが、「キアンティ」と同じです。
キアンティの典型的な味わい
サンジョヴェーゼは晩熟、熟すのが遅い品種なので、高温乾燥なトスカーナ州でこそ高品質なワインがつくれます。本来の品種特性としては、酸味も渋味も豊富なことが特徴です。
鮮やかなルビー色と豊かなチェリーや赤い果実の香り。低価格帯のものの味わいはフルーティーなものが多く、渋味は抑えてつくられます。一方で中級品以上はしっかりとした酸味と適度なタンニンを持ち、スパイスや土のようなニュアンスが感じられます。
軽やかな口当たりのものから、リゼルヴァと呼ばれる熟成タイプのより複雑で深みのあるものまで幅広く、キアンティを深く理解するのは一筋縄ではいきません。
COCOSおすすめキアンティ
サンジョヴェーゼの土っぽい風味と熟成能力を感じるならこの銘柄。
低価格帯でちょっと古いのに、風味に熟成した感じはまだあまり出てきていません。むしろまだまだフレッシュな中に、口当たりのなめらかさが良くなってきたころ合い。
どっしりと濃くヘビーなニュアンスは皆無で、上品さと複雑な風味を味わうワインです。
キアンティ州の文化と郷土料理
キアンティはトスカーナ州の丘陵地帯で生産され、地域の豊かな農業文化と密接に結びついています。
かつてキアンティは「フィアスコ」というワインボトルに詰められていました。丸く背が低いボトルをわらが包んでいます。これは緩衝材としての役割。古くから文化の中心であった都市フィレンツェを抱え、お土産需要も多かったのでしょう。
トスカーナの伝統料理では、「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」が特に有名。いわゆるTボーンステーキです。シンプルに焼き上げた肉料理と、キアンティのしっかりとした酸味やタンニンが絶妙にマッチします。トスカーナを旅行する多くの人が、現地でTボーンステーキとキアンティのマリアージュを楽しんでいることでしょう。
キアンティおすすめの楽しみ方
キアンティはソアーヴェと並ぶ「メシワイン」です。
先述の通り噛み応えのある牛肉のステーキには抜群にあいます。でも「あうとまでは言わないけれども、相性が悪くなくて、スルスル進むな」という料理が非常に多い。いろいろな料理が並ぶ、それも別にイタリア料理じゃない雑多な料理の食卓にこそ、キアンティはフィットします。
キアンティにも上級のものはありますが、どうしても後述の「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」とポジションがかぶってしまいます。まずは「イタリアきっての食中酒」として使うのをおすすめします。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ
トスカーナ州
赤ワイン
記念日に
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノはトスカーナ州モンタルチーノの丘でつくられる高級ワイン。スタンダードクラスでも最低50か月の熟成が義務付けられています。
ブドウ品種である「サンジュヴェーゼ・グロッソ」はサンジョヴェーゼの亜種。当然風味に共通点はありますが、ブルネッロは高級酒ゆえにスケールの大きさがあるため、印象はある程度違うかもしれません。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノの典型的な味わい
深いルビー色で、ブラックチェリーやプラム、タバコ、革のような複雑な香りが特徴です。
ボルドーワイン的なボディ感とタンニンが豊かなタイプが多めですが、まるでピノ・ノワールのような繊細で軽やかな風味に仕上げる生産者もいます。どちらにせよ高い酸味と味わいの骨格を持ち、長期熟成に耐えます。
まろやかで飲みやすいタイプのものはほぼ無いため、あまりワイン初心者におすすめすることはありません。
COCOSおすすめブルネッロ・ディ・モンタルチーノ
高級酒であるブルネッロ・ディ・モンタルチーノは、この辺りの価格がスタートライン。スタンダードクラスが1万円以上という生産者も少なくない中で、こちらは価格も味も親しみやすいタイプ。
オーナーがお金持ちだからかワインのリリースを急がず、他のものに比べヴィンテージが少し古め。ゆえに豊富なタンニンはそれほど尖って感じず、厚みがありながらなめらかな質感です。
風味の凝縮感や香り高さはキアンティとはやはり別物。普段飲みワインではない、特別な日の味わいです。
トスカーナ州の文化と郷土料理
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノもキアンティと同じくトスカーナ州で生産されていますが、モンタルチーノという限定されたエリアで作られています。この地域は歴史的な町モンタルチーノの丘陵地にあり、美しい自然と中世の建物が特徴です。
郷土料理には「コッコリ・フリット」や「猪肉の煮込み」があり、ブルネッロのしっかりとしたタンニンがこれらの濃厚な料理と完璧にマッチします。キアンティの生産地域と比較すると、モンタルチーノはより小規模ですが、高級ワイン産地としての地位が確立されています。
コッコリ・フリットはこの動画が美味しそう▼
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノおすすめの楽しみ方
キアンティはカジュアルなシーンで飲まれることが多いのに対し、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノは特別な場面や熟成を楽しむためのワインとして位置づけ。何かのお祝いや記念日、自分へのご褒美として楽しみたいものです。
そのブランドネームを活かして、ワインにお詳しい方へのプレゼントにもおすすめです。
どちらも食事とのペアリングが得意ですが、キアンティはピザやパスタなどの日常的な料理に合わせやすく、ブルネッロはステーキやジビエなど、重めの料理と一緒に楽しむのが一般的です。もし家でブルネッロを開けるなら、料理も素材からこだわりたいものです。
アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ
ヴェネト州
赤ワイン
特別な日に
ヴェネト州で多くつくられる「ヴァルポリチェッラDOC」。その中の一つである「アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ」もまた、イタリアを代表する高級ワインです。
大きな違いは収穫したブドウを陰干しすること。風通しのいい小屋の中で乾燥させることで、糖分や風味が凝縮します。そのブドウでワインをつくれば、濃厚でフルボディなスケール感のあるワインが出来上がります。
この製法を「アパッシメント」と言い、ヴェネト州のみならずイタリア各地でちらほら見かけます。
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アマローネの典型的な味わい
色は深いルビーレッドで、ブラックチェリー、プルーン、ドライフルーツの濃厚な香りと、スパイスやカカオ、タバコのニュアンスが感じられます。特にレーズンのような香りが製法による特徴です。
味わいはフルボディで、しっかりとしたタンニンと豊かな果実味を持ちます。わずかな甘みが余韻に残るものが多く、非常に濃厚でリッチな味わい。そのボディ感によりタンニンは「ブルネッロ」ほどは目立たず、一口目から分かりやすく美味しいものが多いです。
その味わいはトンポーローなどの甘辛い中華料理におすすめです。
COCOSおすすめアマローネ
甘濃く親しみやすい味わいのアマローネもある程度ありますが、「アマローネ」の本来の意味は「苦み」。心地よい大人な苦みのあるこのワインは、変に一般受けを狙わないクラシックで上品なアマローネと言えるでしょう。
ドライフルーツに加えてスパイスやナッツ、チョコレートなど非常に複雑な香りが楽しめます。
おすすめの楽しみ方
アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラは、その凝縮した風味とリッチなボディを生かして、特別な食事やディナーに最適です。少人数でゆっくり時間をかけて飲んでも、8人程度の大人数で飲む数本の中の1本としても、その魅力をしっかりと発揮してくれるでしょう。
高級ワインらしく熟成能力が高いため、ワインセラーで何年も寝かせて楽しむのも良い選択です。その濃厚な風味とボディ感は、暖かい季節よりは冬場にこそフィットする味わいです。
バローロ
ピエモンテ州
赤ワイン
特別な日に
バローロは「ワインの王、王のワイン」と称されるイタリアを代表する赤ワインで、ピエモンテ州のネッビオーロ種から作られます。
おなじネッビオーロからつくられるDOCGワインとして「バルバレスコ」や「ガッティナーラ」「ゲンメ」などもありますが、やはり名実ともにNo.1はバローロ。そのファンは多く他地域でもネッビオーロの栽培は試みられていますが、ピエモンテの品質に迫れるところはいまのところありません。
バローロの典型的な味わい
色は透き通ったガーネット色で、香りにはバラやスミレの華やかさ、さらに熟成が進むとトリュフや革、タバコ、スパイスといった複雑な香りが漂います。味わいとしては強烈なタンニンが大きな特徴。かなり渋いです。加えて酸味は高いため、ワイン初心者にはまずおすすめしないワイン。ボディ感は様々で、エレガントで細身な味わいのものも多いです。
そのタンニンと酸ゆれに類まれなる熟成ポテンシャルを持ちます。熟成によって滑らかさが加わり、長い余韻が続きます。その豊かな構造から、バローロはしばしば瞑想の酒と呼ばれ、ワイン単体でじっくりと楽しむのに適しています。
COCOSおすすめバローロ
非常に華やかで繊細な香りを持つバローロで、タンニンは豊富なのですがどっしり重たいことはなく、上品でスマートな味わい。
スミレの花のような香りが印象的です。舌を包むように細かく口内を刺激するタンニンが心地よく、長い余韻とともにゆっくりと消えていきます。
ピエモンテ州の文化と郷土料理
バローロが生産されるピエモンテ州は、イタリアでも食文化が非常に豊かな地域です。郷土料理として有名な「タヤリン(Tajarin)」は、卵をたっぷり使った手打ちパスタで、バターやトリュフのソースで仕上げるシンプルながら贅沢な一品です。この料理はバローロの複雑な味わいを引き立てるため、特に秋から冬にかけての季節には最高のペアリングです。
バローロと料理をあわせるのなら、卵つながりで「カルボナーラ」がおすすめ。チーズと卵をたっぷり使う本格的なレシピのものがおすすめです。もし手に入るのなら、ピエモンテ州特産のトリュフを散らせば最高です。
またピエモンテ州にある工業都市トリノは、イタリアでも豊かな街のひとつ。その経済力が高級ワインであるバローロの発展を支えたのでしょう。
おすすめの楽しみ方
バローロは、その複雑で重厚な味わいから「瞑想の酒」としても知られています。ある生産者がこの表現を用いたように、食後に何かをしながら、ワイン単体でゆっくりと楽しむのに最適です。食事の後、リラックスした時間に本を読みながら、または静かな音楽を聴きながら、バローロの深い味わいに浸るのはいかがでしょうか。
渋味は強烈です。でも上質なバローロはそれが心地よく消えていきます。早いペースで飲むと舌が疲れてしまいます。だからこそ何かをしながら時間をかけて飲むのに適しているのです。
バローロはその強烈なタンニンゆえに、トップクラスの高い熟成能力を持ちます。なので今でも1980年代くらいの熟成ワインがたくさん出回っています。自分のバースデーヴィンテージのワインを楽しむ、あるいは子供の生まれ年のワインを買い集めて保管しておき、将来一緒に飲べくセラーで熟成させるという楽しみ方にも最適です。
熟成を経たものほど、時間をかけて飲むことで新たな香りや風味が現れ、その奥深さが際立ちます。
イタリアワインは多様性の宝庫
今回ご紹介したのは非常に多種多様なイタリアワインの、本当にごく一部。もう少しマイナーなものから、ソムリエでもほとんど知らない珍しい土着品種まで。全ての州でワインがつくられるイタリアは多様性の宝庫です。
その多様さが選びにくさにつながるデメリットもあります。アメリカやチリ、南アフリカのような、フランス系国際品種が多い国のワインから飲み始めた方にとって、イタリアワインは「何から飲んで良いのかわからない、難しい産地」と感じるでしょう。
そのややこしさは否定できませんが、国際品種にはない様々な個性を土着品種が持っているのもまた事実。どんどん未体験のワインを飲み比べる楽しさ、ワインの冒険があります。
さらにその地域の文化や歴史に興味を持てば、土地に根差した伝統ワインの味わいは、より奥行きをもって感じられるはずです。
きっと現地の方は、私がこの記事で提案したよりもっと様々なワインの楽しみ方を知っています。多くの人に愛され飲まれ続けているイタリアワイン。その深い深い世界に飛び込む第一歩を、今回ご紹介したワインで踏み出してはいかがでしょうか。