アルコール度数はワインの味わいに非常に重要で、インパクトや重量感・ボリューム感を高めます。
濃厚なワインを飲みたいなら、アルコール度数が高い物を選ぶのが分かりやすい指標です。
品種や産地を選りすぐって、アルコール15%以上の赤ワイン・白ワインを集めました。
飲みごたえのあるストロング系ワインで、体の中からホットになりましょう。
※ご紹介するワインのアルコール度数は執筆時のものです。ヴィンテージ変更に伴い変化していることがありますのでご了承ください。
アルコール度数と味わいの関係
まず初めに高アルコールワイン=高品質なワインではありません。まして「美味しいワイン」というわけでもありません。
アルコール度数が違えば風味が異なり、それに好き・嫌いがあるだけです。
アルコール度数の高低でワインの味わいはどう変化するのでしょうか。
ワインの標準的なアルコール度数とは
ワインのアルコール度数は割とばらつきがあります。正確な平均値のデータはおそらく存在しないでしょう。筆者の感覚ではタイプ別に次の通りです。
タイプ | 見かける値の幅 | 主な分布 |
赤ワイン※ | 12~17% | 13.5~15% |
白ワイン(辛口) | 11~14.5% | 12.5~14% |
白ワイン(甘口) | 5~14% | 7.5~13% |
スパークリングワイン | 11.5~13.5% | 12~12.5% |
※甘口を除く
アルコール度数はお酒を販売する際の必須記載事項です。なのでラベルのどこかに必ず書いてあります。
ただし日本の法律では表記の±1%の誤差が許可されているので、目安程度である場合も多いです。
熟度が高いゆえの芳醇な風味
同じブドウ品種のワインを異なる地域・アルコール度数で比較したとしましょう。
よく熟したブドウをつかった高アルコールのワインの方が、風味により熟したフルーツのアロマが現れます。
例えばドイツのモーゼル地方やラインガウ地方産リースリングは、柑橘や白桃などのアロマを持つものが多いです。
一方でより温暖なオーストリア・ヴァッハウ地方のリースリングは、パイナップルやアプリコットなどの熟したニュアンスを強く感じます。
味覚は香りに引っ張られます。実際にワインに糖度はほとんどなくとも、甘いフルーツの風味があればある程度「甘い」と認識します。
もちろん生産者の特徴や地方内の立地、ヴィンテージによっても影響を受けます。だからこれほど単純に言えるものではありませんが、大まかな傾向として知っておいて損はないでしょう。
風味の種類に優劣はありません。上品に引き締まった風味と、豊満で甘やかな風味、どちらが好きかです。
アルコールの熱さ
蒸留酒をストレートで飲むと、口の中で「熱い」に近い刺激があります。
この刺激は弱いながらもワインにもあります。アルコール度数が高いワインには、熱さに近い刺激を感じます。口の中のどこで感じるかは個人差があるようで、喉で感じやすい人もいれば、頬のあたりで判断する人もいます。
このアルコールの刺激、それから香りに含まれる「アルコール臭」は、アルコール度数に完全に比例するわけではありません。高くてもアルコール感を感じさせないワインもあれば、13.5%程度でもアルコールの目立つワインもあります。当然後者にはあまり高い評価は与えられません。
重量感とわずかな甘み
アルコール度数の高いワインは、舌の上で感じる重量感があります。どっしりと力強い風味に感じるのです。
ただ「力強い」という印象には、風味の凝縮感やタンニンの強さも影響します。アルコール単体の影響だけを切り取って語るのは難しいです。
またアルコールは味覚においてわずかな甘みとして感じます。だから15%のアルコールがあって甘いニュアンスがないワインというのを、私は知りません。
ただしその影響は果実の熟度やオーク樽熟成に由来する甘い風味に比べて軽いものと考えられます。
低いことが多い酸味
ブドウの糖度が上がるにつれて、リンゴ酸が分解されてブドウの酸度は低下します。
それゆえ収穫期を遅くして糖度を上げたワインは、酸味が低いことが多いです。「酸っぱくないワインの方が好き」という方もおられるでしょう。あくまで好みの問題ではありますが、酸味が低すぎるワインはべたっと平坦な味わいになりがちです。
ただし酸味は加えることもできます。
ヨーロッパ以外の国で捕酸が禁止されているという話は聞きません(※)ヨーロッパの国々でもヴィンテージによっては捕酸が許可されます。
「足りないなら補えばいいじゃん」というのも、美味しいワインをつくるための工夫です。
※各国の醸造規定までは詳しくないので、私が知らないだけかもしれません。
渋味は弱く感じる
赤ワインの渋味の元であるタンニンの刺激は、酸度が高くアルコール度数が低いほど強く感じます。つまり高アルコールで酸味の低いワインは、渋味が穏やかなものが多いのです。
ただしこれもブドウ品種やつくり方次第です。
タンニンを豊富に含むブドウを使えば高アルコールでも強い渋味を持ちます。タンニンをあまり抽出しない醸造法もあるので、熟成を前提としない低価格ワインにあまり渋味は感じません。
高アルコールワインの風味傾向
以上をまとめると、高アルコールワインの風味は次のような傾向があります。
風味 | 熟度の高いフルーツの印象 白ワイン:トロピカルフルーツなど、赤ワイン:黒色のベリーなど |
口当たり | アルコールの刺激と重量感 |
酸味 | 低い傾向(品種や醸造法次第) |
渋味 | 穏やかな傾向(品種や醸造法次第) |
高アルコールワインをつくるには
上記のような高アルコールワインの特徴が、あなたの好みにはまりそうだとします。
どうやってワインを探しましょう。
実はインターネットで1本ずつワインのアルコール度数を確認するのは大変です。
アルコール度数はヴィンテージによって変わります。ネットショップでアルコール度数を明記しているところは、当店を含めあまりありません。ヴィンテージが進むたびに確認するのが非常に大変だからです。
また輸入元のホームページをあたっても、どちらかというと記載がない会社が多いです。
高アルコールワインをつくる方法を知れば、どんな条件で探せば見つかりやすいかがわかります。
ブドウの糖分がアルコールに変わる
ワインのアルコールはブドウの糖分を酵母が発酵により変換したものです。
つまり標準より高いアルコールのワインをつくるには、通常より甘く熟したブドウが必要です。
生食用としてスーパーなどで販売されているブドウでも、発酵さえすればワインになります。でも美味しいワインをつくることは不可能です。ワイン用のブドウにはもっともっと高い糖度が求められます。高いアルコールのワインをつくるならなおさらです。
コストをかけたブドウ栽培が必要
ブドウの熟度を上げる方法には例えば次のようなものがあります。
糖度の高いブドウを栽培する方法
- 収穫のタイミングを遅くする
- 仕立て方を工夫して光合成を促す
- 1本の樹、単位面積あたりに実らせるブドウの量を制限する
1番の方法はコストアップがあまりありません。その代わり秋に雨が降らない気候でないとリスクがあります。
3番の収量制限、いわゆる「間引き」は糖度とともに風味の凝縮感を高めます。ただしダイレクトにワインの価格に跳ね返ってきます。
糖度の上がりやすいブドウ品種を選ぶ
赤ワインの場合はこの方法が一番有効です。糖度が上がりやすいブドウ品種のワインから選ぶ。
「糖度が上がりやすい」には2つの意味があります。
1つは寒い地域でもよく熟す。ドイツで選ばれてきた黒ブドウ品種はこの傾向があります。
2つは熟すスピードは特別早くないものの、高い糖度に達する。この代表が南フランスやスペイン、イタリアなどで栽培されるグルナッシュです。高アルコールワインを選ぶ際の有力候補です。
他に高アルコールワインをつくりやすい黒ブドウ品種は次の通りです。
高い糖度に達しやすいブドウ品種
ジンファンデル(カリフォルニア)、シラーズ(オーストラリアなど)、プリミティーヴォ(イタリア)、テンプラニーリョ(スペイン)
力強いワインのイメージが強いカベルネ・ソーヴィニヨンは、熟すスピードが遅い品種です。実はあまり高いアルコールのワインは多くありません。
一方で繊細なイメージがあるピノ・ノワールで、アルコール15.5%のものを見たこともあります。
白ワインの場合はあまり品種では選べません。
白ブドウの中ではシャルドネが高い糖度に達しやすい品種です。しかし世界中で栽培されすぎてて、12%程度のシャルドネもたくさんあります。
後ほどご紹介する2本の白ワインも、主な栽培地域では高アルコールワインにはなりません。
ブドウが熟しやすい温暖産地を選ぶ
ブドウの糖度蓄積は、積算温度によると言われています。積算温度とは1日の気温が一定以上だった日数とその温度を掛け算したもの。簡単に言うと暖かい地域ほどブドウ糖度は上がりやすいのです。
一方で雨が降ると木が水を吸ってブドウの実が膨らみます。糖度や風味が薄まってしまいます。日本ワインに高アルコールなワインがないのはそのためです。
それゆえブドウ栽培は雨が少な目な地域が向いています。特に収穫期に雨が降らないことが、品質の安定につながります。
場合によっては特殊な醸造法をとる
ワインのアルコール発酵を担うサッカロミセス・セレヴィシエという酵母。実はある程度のアルコール度数になると、自ら生み出したアルコールによって死滅すると言われています。そうなると糖分が残っていたとしても発酵過程は終了します。
甘口ワインは酵母が使いきれないほどの糖分を持つ果汁を発酵させるから、ワインになった後も甘いのです。
そのアルコール度数は14%台だと聞いたことがあります。その上でアルコール耐性のある酵母を添加することで、さらに発酵を進めることもできます。18%に達するようなアルコールのワインをつくることも可能だそうです。
一方で「酵母添加はしない、昔ながらの手法でつくりました」というアルコール16%のワインもたくさんあります。そのあたりの理屈は私にはわかりかねます。
高アルコールワインを見つけるには
上記の高アルコールワインをつくる条件をまとめます。
まずはブドウ品種。グルナッシュやジンファンデル、プリミティーヴォ、テンプラニーリョなどの品種から探すと見つかりやすいです。
その上で冷涼な産地よりは温暖な産地の方が見つかりやすいです。熟度の高いブドウを得るにはコストがかかりやすいため、手頃な価格で探すなら根気強く選ばないといけません。
これらの条件に当てはまるものを中心に、具体的にワインをご紹介します。
アルコール15%以上の高アルコールワイン8選
先述の高アルコールワインが持つ特徴が好ましく思えても、ワインは結局バランスが全てです。
アルコールが高いなりに味わいのバランスがとれているかどうか。それは飲んでみないとわかりません。
今回はアルコール表記が15%以上のものに限定して8種類のワインをご紹介します。
この中に「高アルコールだから」仕入れたワインは1本もありません。美味しくて個性的なワインがたまたま高アルコールで、それを今回ピックアップしているだけです。
手頃で高アルコールといえばこの品種
15%(2020VT)
ジンファンデルは主にカリフォルニアで栽培されるブドウで、イタリアのプーリア州を中心に栽培されるプリミティーヴォと同じ遺伝子を持ちます。高アルコールで果実味豊かなワインが手ごろに見つかりやすい品種です。
ただ近年はカリフォルニアワインの値上げ傾向が強く、14.5%まではいろいろ見つかっても、15%超えで手頃なものはありませんでした。
そこでピックアップしたのが、あえてプーリア州で「ジンファンデル」を名乗るこのワイン。
低価格のこの品種は酸味や渋味が低い傾向にあり、フルーツやスパイスの風味が豊かに現れるまろやかなワインになる傾向があります。
この価格帯で15%は珍しい!
15%(2020VT)
今回ピックアップするワインは、3000円台のものが多くなってしまいました。2000円台ではなかなか15%以上のものが見つからなかったからです。
その中でやはりグルナッシュは優秀。手頃なものでも15%に達するものが見つかります。このワインのように2000円前後でも。
大粒のよく熟したベリーやプラムのような、甘やかな風味を共通して持つので「フルーティー」と感じやすいワインです。
世界で他にないソーヴィニヨン・ブラン
15%(2022VT)
ソーヴィニヨン・ブランの主な栽培地は、ロワール地方中部から東部、ニュージーランドのマールボロ、ボルドーなど。いずれもアルコールは12.5~13.5%に仕上げられることが多いです。
その中でロワール東部の小さな産地「カンシー」では、かなり熟度を高めたブドウからワインをつくられるのが伝統だそう。このワインはそのカンシーの中でもやや特別でしょう。
ブドウの熟度が高いため、ハチミツの風味が顕著に現れます。近くの銘醸地「プイィ・フュメ」などのワインにも多く感じますが、それよりもっと明確です。
パワフルなスタイルを昔から
15%(2021VT)
南オーストラリア州のバロッサ・ヴァレーは、暖かく乾燥した気候でパワフルなワインをつくりやすい産地です。
ロバート・パーカーがそんな”ビッグな”ワインに高得点をつけ、それがよく売れた時代。高いアルコールのワインが盛んにつくられていました。
その影響力が下がった今、少しアルコールを下げてバランスを重視する味わいにシフトする傾向があります。
一方で一昔前のパワフルな味わいを、今も守り続ける生産者もいます。トルブレックはその傾向。エントリークラスの「ウッドカッターズ」ですら15%のアルコールです。
環境の厳しさが力強さにつながる
15%(2020VT)
ワインの品質に重要な収量制限。〇〇hl/ha(1ヘクタールの畑から何百リットルのワインをつくるか)の値は、同じ産地・品種で比較すれば意味を持ちますが、それが違えば比較は不可能です。
スペイン中南部において収量の数値はかなり低め。それは水が少ないからでもあります。樹をまばらに植えないと水分を奪い合って枯れてしまうのです。
写真のような「ブッシュヴァイン」という栽培法をとるグルナッシュは、必要とする水分が少ないため乾燥した厳しい気候に適しています。とはいえ繁殖を目指すブドウの樹にとっては決して好ましい環境ではありません。
厳しい環境だからこそ、鳥に食べてもらって他の地に子孫を残すべく、素晴らしいブドウを実らせるのです。
砂漠のような環境ゆえの凝縮感
15.2%(2019VT)
カリフォルニアの内陸部にあるスリーの畑はまさに砂漠。
他の農作物は到底育たないから、転用されずに大昔に植えられたブドウがそのまま残っています。
樹齢の高いブドウは多くの実はつけません。一般に収量が下がる分だけ糖度も風味も凝縮したワインになると言われています。
確かにスリーのワインには単にアルコールが高いだけじゃない、風味のち密さが備わっています。
白ワインでこの度数は驚異的!
16%(2021VT)
この生産者は意図して高アルコールのワインをつくろうとしています。単に糖度が高いだけでなく、風味が詰まったブドウを得るため、特殊な栽培法もとっています。
その風味の凝縮感ゆえでしょうか。16%のアルコールとは思えない、自然なバランスの味わい。アルコール臭さは全然感じません。
「ブラインドテイスティングでアルコール度数を当てられる人はいない」と胸を張っています。
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これより高アルコールは見たことありません!
17.5%(2017VT)
イタリア、サルディーニャ島の地ブドウ「カンノナウ」は、フランスのグルナッシュと同じことが分かっています。だから高アルコールになりやすいのはわかるのですが、それにしても17.5%は異常!(2017VTは過去最高だそうです)
生産者としては高アルコールワインを狙ってつくっているわけではなく、ブドウの質を求めたら結果的にこうなったのだとか。なので添加酵母で追加の発酵も行っていないそうです。
これほどアルコールが高いためでしょうか。マディラ酒のような不思議な風味を感じます。
番外編:酒精強化ワイン
アルコールの高い"ワイン"ということなら、「酒精強化ワイン」も選択肢に入れてもいいでしょう。
ブドウの発酵途中に蒸留酒を加えて発酵を止めてつくります。甘口が多いですが辛口もあります。
ポートワイン、シェリー酒、マディラ酒などが酒精強化ワインの代表例です。
例えばポートワインはアルコール度数が20%前後と、普通のワインでは到達できない値です。酒精強化ワインは全てというわけではありませんが、抜栓後の保存性が高いものが多いです。
ワインとは味の方向性が結構違います。いきなり1本買って飲むのはおすすめしません。ワインバーなどで見かけたら、最後の1杯として飲んでみるといいでしょう。
高アルコールワインの楽しみ方
もしあなたが純粋に高アルコールワインの味が好きなら、別にシチュエーション関係なく選んで飲めばいいでしょう。
一方で高アルコールワインが適した飲み方というものもあります。別に好きというほどではない方も、嫌いでないならシーンによっては試してみては?
高アルコールワインは酔いやすい?
アルコールが高いワインの方が早く酔っぱらうかというと、そうとも言い切れません。
例えば15%のワインをグラス2杯、200ml飲んだとしましょう。アルコール摂取量は30mlです。
それが13%のワインなら、26mlです。13%のワインを約230ml飲めば同じ摂取量です。その差はせいぜい2口3口。
そして往々にしてアルコール度数の低いワインの方が、スイスイ飲み進めてしまいがちです。
きっちり同じ量を飲むなら、高アルコールのワインのほうが酔っ払います。でも安く酔っぱらいたいなら、そもそもワインを飲む必要はありません。
アルコール度数は味わいに影響するので好みで選ぶ指標になりますが、健康のためとか酔っぱらうために気にするのはあまり意味がありません。
ワインを少しずつ楽しみたいときに
むしろ高アルコールワインの味の強さは、その日に飲むワインの量をセーブしたいときに有効でしょう。
平日の晩酌で明日も仕事だから、1杯ないし2杯に抑えたい。でも物足りなさを感じるのはイヤ。
そういうときはアルコールが低く軽やかなワインより、アルコールが高くどっしりとしたワインの方が向いています。
「美味しいワインだとつい飲みすぎちゃって・・・」
そういう方は晩酌用に、一度高アルコールワインを試してみるといいでしょう。
アルコール度数を目安にワインの使い分けを
アルコール度数が白で14%、赤で15%を超えるワインは、高アルコールワインと言っていいでしょう。
熟したフルーツのような甘い風味を持ち、どっしりと重量感のある口当たりでフルボディですが、渋味は控えめなものが多いです。
赤ワインの場合は、グルナッシュやジンファンデルといったブドウ品種から探すと、そういったワインが見つけやすいでしょう。
アルコール度数はワインの風味に大きく影響しますが、それは優劣ではありません。
「アルコールが高い味」とそんなワインが適した飲み方を知れば、あなたの晩酌ライフはより快適になるはずです。