「飲みやすいワインください」実はこれほどソムリエを困らせる質問はありません。
どんな味わいのタイプを「飲みやすい」と感じるかは人それぞれだからです。
そう感じる理由を分解して考えれば、自分好みのワインを選ぶヒントが得られます。
次ワインを相談するなら、「〇〇な味わいで飲みやすいワイン」と注文しましょう。
「飲みやすい」の反対は「飲みにくい」?
「このワイン、とっても飲みやすいね!」そうやってワインを褒めるのをよく耳にします。
ワインに限らず、コーヒーやそのほかのお酒でも、この表現が使われることがあります。
でもジュースに対しては見聞きしたことがありません。何が違うのでしょうか?
「飲みやすい」とは奇妙な表現
実は「飲みやすい《味の》ワイン」という言葉自体が奇妙なんです。
「食べやすいクッキー」と言ったらどんなものを思い浮かべますか?
一口サイズでパクっといける。
個包装になっているので手が汚れない。
しっとりとしていて、口の中がパサパサしない。
そういった物理的な性質を指して「食べやすい」と使いませんか?
「食べやすい味のクッキー」なんて謳い文句、見たことがありません。
「飲みやすい」という言葉がつくもの。
例えば薬の「水なしでも飲みやすい工夫」などなら分かります。
他に考えられるのが、「子供にも飲みやすいように甘い味がつけてある」など。ここにヒントがあります。
「飲みにくい」があるから「飲みやすい」と言いたくなる
子供が薬を嫌いだとしたら、「飲みこみづらい」という物理的性質の他に、「苦い」という味の問題があります。だから甘味をつけて「飲みやすく」する例もあるのです。
ワインに関しても、「飲みにくい、飲みづらい味だったけど仕方なく飲んだ」という経験があるのでは?だからそうじゃないものを「飲みやすい」と言いたくなるのでしょう。
飲んでてなかなかなくならない。
もう一口飲むためグラスに手を伸ばすのが億劫になる。
たくさん口に入れるのがためらわれる。
それって要するに、そのワインが「不味い」ってことじゃないですか?
「飲みやすいワイン」は「美味しいワイン」
やや極端ですが、「飲みにくい」ワインとは、「不味い」と感じているワインなのです。
なら「飲みやすい」ワインはその逆。「美味しい」と感じている、「好き」と感じているワインなのです。
ワインショップのスタッフなら、「美味しいワインのおすすめはなんですか?」と聞かれたら、「全部です!」と答えるのが務めですよね。
だから「飲みやすいワインどれですか?」と聞かれても困るわけです。
ワインを「飲みづらい」と感じさせる原因は?
ワインを飲んでて素直に美味しいと言えない、どうも進まない原因はいくつか考えられます。
その中には単純にワインの品質が低いという理由、それからワイン自体は悪くなくてあなたの好みにマッチしていないという理由に分けられます。
ワインの品質が低い | 好みのミスマッチ |
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「この味好きじゃないな」と感じる原因を分解していけば、このようなものに当てはまるのではないでしょうか。
左側の純粋にワインを不味くする原因はなるべく少なく。そして右側の味わいのタイプをあなたの好みにあわせる。そうすれば「飲みやすい」と感じるワインを選べるはずです。
オフフレーバーとは
ワインの醸造中に発生してしまう欠陥臭のこと。イメージしやすいのは酢酸、つまりお酢の臭い。意図せず酢酸菌が繁殖してしまい発生します。この欠陥臭は致命的なので基本製品化されません。
エチル系の香り(揮発酸とまとめられることもある)やブレタノマイセスという酵母に由来する香りは、一定量まではワインにプラスに働き、強すぎると欠陥臭とみなされます。
感じ方に個人差があるので一概に不良品と言えず、返品対象にはなりません。当店ではなるべくオフフレーバーのリスクが少ないワインを選んで仕入れています。
タイプ別「飲みやすい」と感じる理由とは
白ワインに渋味はないように、ワインのタイプごとに「飲みづらい」と感じやすいポイントは異なります。
どのタイプも一概には言えません。タイプ別に「飲みやすい」と感じてもらいやすそうな味わいを整理します。
オフフレーバーのあるワインを避けるには
オフフレーバーの中には確率の問題で避けられないものもあります。とはいえいくつかポイントを押さえれば、無視できるほど低い確率にすることができます。
〇そのブランドに対して安すぎるワインを避ける
〇大規模な生産者のワインを選ぶ
〇信頼できる生産者のワインを選ぶ
〇専門性を持ったスタッフが在籍するショップで買う
「シャンパンなのに〇〇円!」みたいなその地域のワインにしては安すぎるものには、企業努力以外に安さの理由があるものです。
大規模なワイナリーは価格の割に安定して高品質なワインをつくれるから、この規模に成長できたのです。そう考えると年間の生産本数がある程度信頼の証と考えられます。あなたが過去に飲んだ生産者のワインから選ぶのも、失敗は少ないはずです。
これらの判断にはワインの知識が必要です。それが難しければ人を信頼すること。
信頼できるワインショップが選んで仕入れたものなら、安心して購入できます。
飲みやすい赤ワインはどんなもの?
品質は高いのに赤ワインが飲みづらい原因。きっと渋味でしょう。
口内が乾いて歯茎が引っ張られるようなタンニンの刺激。お茶などよりずっと強く他の飲み物にはあまりありません。だから慣れないうちはその刺激が不快に感じる場合が多いです。
だから渋味が少ないものを選べばそれでOKかというと、もう少しく深く考察する必要があります。
キーワードは「甘味」。
赤ワインを甘いと感じる要因は大きく3つ。「残糖」「果実味」「樽香」です。
ブドウ由来の糖分が残っているタイプの赤ワインは、少し珍しいですがあります。そういったものは基本渋味も酸味も控えめ。甘くまったりとした味わいなので飲みやすいと感じる人も多いです。
一方でそれを「べったり甘ったるくて飲みづらい」と感じる人もいます。だから「飲みやすい」は人それぞれなのです。
完熟フルーツの香りや樽熟成によるヴァニラ香で、本当は甘くないのに香りに引っ張られて「甘い」と感じることがあります。これは鼻をつまんで味覚に集中して飲めば印象が変わるのでわかります。
糖分はなくとも風味が甘いので、「親しみやすい・飲みやすい」と感じる方は多いです。
これを「飲みづらい」と感じる人は多くないでしょうが、嫌いな人はたくさんいます。
アルコール度数でも定義できません。
お酒の弱い人にはアルコール度数が低めのものがいいと考えるかもしれません。しかしアルコール度数が13%以下の赤ワインは、たいていは酸味が高めか繊細な風味のものです。
それよりもアルコールが15%に達するようなどっしり濃くてなめらかなワインを「飲みやすい」と感じる人が多いのでは。
口当たりが軽ければ、重ければというものではありません。
だから「飲みやすい赤ワイン」の定義はないのです。あるのはあなたの好みにあうかどうかだけです。
飲みやすい白ワインとはどんなもの?
白ワインの場合は赤ワインに比べて甘口の選択肢が多いです。そして基本は渋味が全くありません。
好みにあわせて白ワインの「飲みやすさ」を決めるポイントは3つ。「甘味」「酸味」「樽香」です。
赤ワインと同様、甘味の有無は飲みやすさに強く影響しますが、どちらがいいというものではありません。加えて酸味との関係があります。
酸味の低い甘口ワインは、良く言えばまったりやさしい印象、悪く言えばべったり甘くキレがない。
酸味の高い甘口ワインは、良く言えば上品な甘みで後味スッキリ、悪く言えば思ったほど甘くない。
このどちらを選ぶべきかは、好きなフルーツで選べばいいです。オレンジとマンゴーのどちらが好きか。桃とメロンのどちらが好きか。桃やオレンジなら酸味の高い方、マンゴーやメロンなら酸味が低い方をチョイスしましょう。
甘味がない白ワインについて、酸味が高いと酸っぱく感じるかもしれません。ワインは数ある飲み物の中で特に酸性寄りなものの一つ。その高い酸味には慣れが必要なので、最初のうちは酸味が高くないものを選んだ方が無難です。
でも酸味はワインに「スッキリ」とした印象を与えます。レモンチューハイやスペシャルティーコーヒーがお好きな方は、酸味が高めの白ワインの方が「爽やかで飲みやすい」と感じるでしょう。
オーク樽熟成したワインは樽から抽出されるバニリンなどの成分によって、甘く香ばしい香りを持ちます。樽熟成は口当たりにも影響を与えます。「甘くクリーミーで飲みやすい」と感じる方も多いでしょう。
一方でワインにもウイスキーにも不慣れな方にとっては、ヒノキ風呂のようで、「飲み物の臭いじゃない」と感じるかもしれません。また赤ワイン同様、強すぎる樽香を嫌う人もいます。
このように白ワインも「飲みやすい白ワインの味わい」を定義することはできません。
飲みやすいスパークリングワインとは
スパークリングワインの味わいの系統は、赤ワイン・白ワインに比べたら少な目です。
基本はスパークリングワインにも渋味はありませんし、アルコール度数の幅も狭い。樽香が強く香ることもありません。
なので考えるべきは甘いか甘くないか。そのどちらが好みかです。甘いチューハイかプレーンのハイボールならどちらを選ぶか。それで選んでもいいでしょう。
スパークリングワインは主に白とロゼですが、飲みやすさの観点ではそれほど違いはありません。
高級なシャンパンの熟成香やミネラル感は、むしろ「飲みづらい」「苦い」と感じてしまうかも。でもそういったものは価格的に「飲みづらい」のでワイン初心者には心配ご無用です。
「〇〇だから飲みやすい」ワイン10選
赤ワイン・白ワイン・スパークリングワインそれぞれに、好みで分かれる飲みやすいタイプを紹介しました。
「わたしはこのタイプなら飲みやすいって感じるかも」とピンときたかもしれません。
そんな方のためにタイプ別に飲みやすそうなワインをご紹介します。
渋くなくて甘くて飲みやすい赤ワイン
赤ワインのタンニンと甘味はあまり相性が良くないため、赤ワインの中で甘味のあるものの割合はごくわずかです。
でも渋味がほとんどない品種を選んでつくられることもあります。
甘口といってもそれほどコテコテの甘さではありません。ポートワインよりはずっと控えめ。
数値的には一般的な缶コーヒーくらいかと思いますが、苦みがないのでもう少し甘めに感じます。
実際に甘味のあるタイプの赤ワインは置いているお店が少ないです。また言葉で好みを伝えるとき、下記の香りだけ甘いタイプと誤解されやすいです。このタイプが気に入ったなら、「ちょっと甘い・・・」などではなく、「甘口の赤ワインありますか?」と聞いてみましょう。
渋くなくてフルーティーでなめらか、だから飲みやすい赤ワイン
ブドウの熟度の高さからくる「甘そうな風味」。
オーク樽熟成からくる「甘そうな風味」。
どちらも兼ね備えながら手頃で渋みも控えめなこのワイン。
これが口に合うようなら、「甘濃い赤ワインください」といえばだいたい好みのものが出てくるでしょう。
渋くなくて軽やか、だから飲みやすい赤ワイン
実は渋くもなく濃くもなく甘くもなく飲みやすい赤ワインというのは、高いです。そういった強い味を持たないのに「美味しい」と思わせるには、ブドウ本来の力が必要だからです。
軽やかな味わいの代表品種であるピノ・ノワールが、気候を選び価格による味の差が大きい品種であるというのも影響します。
そのなかでこのワインはなかなか優秀。
ブルゴーニュ以外でも、フランス人はピノ・ノワールに甘い樽香をあまりつけない傾向にあります。だからこれも酸味はそれほど高くないけれど、甘い香りも控えめ。軽やかで渋味少なく飲みやすい味わいです。
甘酸っぱくてスッキリ、だから飲みやすい白ワイン
甘味があって酸味も高い。そのうえでデザートワインほど甘くない白ワイン。リースリングという品種でたくさん見つかります。
たとえばこのワインはハチミツレモンのような風味。
しっかり甘味があるのに後味スッキリ。しかもアルコール度数低めで軽やかだからついつい飲み進めてしまう。そんな危険なほど「飲みやすい」白ワインです。
甘口だけどスッキリとしたワインください
そう注文するといいでしょう。
少し甘くてまろやか、だから飲みやすい白ワイン
近年の夏の夜は「熱帯夜」を通り越して「猛暑夜」もあるほど。日本の夏ってワインの産地として最低気温が非常に高いんです。だから日本ワインは全体的に酸味低め。加えてヨーロッパ系のブドウ品種に比べてもともと日本にあったようなブドウ品種は、酸味控えめです。
大阪で多く栽培されるデラウェアもそんな品種。
糖分がまだ残っているうちに発酵を止めることで、ほのかな甘みを残した仕上げ。でもデラウェア自体があまり酸っぱいブドウではないので、まろやかな甘さで飲みやすい白ワインに仕上がっています。甘口ワインとしては上記のスッキリタイプが多いので、
甘いワインが好きなんですが、酸っぱいのは苦手です
と正直に伝える方がいいでしょう。
辛口でスッキリ爽やか、だから飲みやすい白ワイン
甘味がなくてしかも酸味が高い。スッキリ爽やかな白ワインは、実はかなりたくさんあります。だから正直、これだけで絞り込むのは難しい。このタイプはブドウ品種の特性香が出やすいので風味が非常に多様です。
風味もかんきつ系フルーツやハーブのような爽やかさが強いのがいいなら、マールボロのソーヴィニヨン・ブランなどは人気の高いワインです。
一方でこの香りを「青っぽくて苦手」と感じたり、後味がドライすぎるように感じる方もいるでしょう。
スッキリながら風味の個性が抑えめでニュートラルな感じがいいなら、イタリア・ヴェネト州の定番ワイン「ソアーヴェ」はいかがでしょうか。
どちらも辛口で酸味やや高めの白ワイン。そのうえで風味まで爽やかで飲みやすいタイプか、風味は穏やかで飲みやすいタイプです。
辛口なのに香りは甘くまろやか、だから飲みやすい白ワイン
オーク樽熟成したシャルドネは味わいにボリューム感があり、どちらかというと「グイグイ飲みやすい」というよりも「少量で満足できる飲みごたえがある」というタイプ。でも樽由来の甘い香りとクリーミーな口当たりによって「飲みやすい」と感じる方も多いはず。
特に手頃な価格帯の樽熟成シャルドネは酸味が低いことが多く、それも好みによっては飲みやすく感じさせる要因です。これが気に入ったなら
樽熟成したシャルドネのこってり系で
と注文すれば誤解なく伝わるでしょう。
参考記事▼
甘くてジュースみたい、だから飲みやすいスパークリングワイン
ワインからブドウの香りを感じることはあまりありませんが、「モスカート」という品種はその例外。マスカット系の甘い香りを漂わせ、それに偽らず味わいも甘いのがイタリアの「アスティ」です。スパークリングワインか微発泡ワインがほとんど。
ワイン通や酒飲みには嫌われそうな、ジュースみたいにシンプルで甘い味わい。でも「アスティうめー!」ってところから「ワインって美味しいんだ」と思ってソムリエになった人も周りに何人かいます。決して軽んじることなかれ。
辛口でスッキリ、だから飲みやすいスパークリングワイン
スパークリングワインで甘くないものがお好きなら、それほど選ばなくても美味しく感じるはずです。
単純に評価の高い物・人気のものを選んでもいい。突飛な風味がなくて、品質が高いものが飲みやすく感じるはずです。品種はシャルドネかピノ・ノワール、もしくはそのブレンドから。
その中でまずは「Extra Brut」「Brut Nature」といった極辛口の表記のあるものを避けましょう。
炭酸とバランスをとるための甘味調整を抑えたものは、キュっと締まって厳しい印象を与える場合があります。「BRUT」の表記を目印に。
参考記事▼
好みのワインから広がる世界
自分の口にあわなかったワインがやたらと高価だったり、他の人が絶賛していた。
飲みやすいワインをお探しの中には、そんな経験のある方もきっと少なくないでしょう。
「自分のワインの好み、普通じゃないのかな」
そう不安になる気持ちもわかります。
安心してください。世界に何十万、ひょっとすると何百万種類とあるワイン。好みに普通もなにもありません。「人それぞれ」が基本です。
だから初心者のうちは自分が美味しいと感じるタイプだけひたすら飲んでたらいい。
不思議なもので、そうしているうちにふと違うタイプを飲んでも、美味しく感じるようになってきます。
無理に美味しいと思い込む必要は全くありません。嗜好品なんだから、好きなら飲めばいいし、嫌いなら飲まなきゃいい。
ワインの世界は「好き」を突き詰めていくうちに、自然と広がっていきます。
今回は「飲みやすいワイン」という明確な定義はとうていできないこと。だからこそ自分の好みを知って、そのタイプのワインを選ぶ重要性をご紹介しました。
今度ワインショップで相談するときは、単に「飲みやすいワインをください」じゃなくて、「〇〇な飲みやすいワインをください」と言い換えて注文してみましょう。