ドイツの白ワインと言えばリースリングですが、魅力的なワインは決してそれだけではありません。
手ごろな価格で楽しめる土着品種にも、地元で愛され飲まれてきた理由があります。
今回は晩酌に気軽に開けやすい、手ごろで辛口な白ワインをご紹介します。
冷涼な気候を反映したワインで、暑い時期の家飲みがより充実すること間違いなし!
ドイツの白ブドウ栽培面積
ドイツにおいて最も広く栽培されているブドウはリースリングです。
量においても質においても最重要品種であることは疑いようがありません。
しかし「じゃあその次は?」と聞かれて即答できる方は少ないでしょう。
白ブドウの栽培面積ランキング
Wines of Germanyの資料によると、ドイツにおける白ブドウの栽培面積は次の通り。
1位 | リースリング | 約2.4万ha |
2位 | ミュラートゥルガウ | 約1.1万ha |
3位 | グラウブルグンダー(ピノ・グリ) | 約8千ha |
4位 | ヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン) | 約6千ha |
5位 | ジルヴァーナー | 約4.5千ha |
6位 | シャルドネ | 約2.5千ha |
その後、ケルナー、ソーヴィニヨン・ブラン、バッフスと続きます。
1990年と比較すると、ミュラートゥルガウやケルナーが激減し、ブルゴーニュ系品種が増加しているのが注目すべき点です。
お金のとれる品種
リースリングは手ごろなワインもたくさんありますが、高級ワインもつくれる品種、お金のとれる品種です。
逆にドイツにおいてお金のとれる品種は、白ブドウではリースリングが一強でした。他の品種ではなかなか高い価格を納得させるのが難しのです。
(近年はお金のとれる品種として、シャルドネの栽培が増えています)
高価格帯が優れているからといって、それと低価格帯での優劣は別物です。
普段飲み品種
ドイツはワインの生産量がなかなか多い国ですが、消費量もバカにできません。ワイナリー規模によっては、輸出に頼らずとも十分な国内市場の規模があるのです。
これは輸出ありきのチリやニュージーランドといった国とは大きく違う点です。
ドイツの土着品種でつくるワインは、主に地元消費されているものが少なくないでしょう。それくらい、日本国内での流通はリースリングに偏りがあります。
でもドイツ人だって輸入ワインを飲みます。イタリアやスペインなどの手ごろなワインと比べても、地元のワインを飲みたくなるときが少なからずあるということです。
3,000円以下において、リースリングとその他土着品種で品質の優劣はないのではなくか。
あとは好みと適したシーンの問題だと考えます。
ブドウ品種の特徴とおすすめワイン
栽培面積の多い白ブドウ品種。
- ミュラートゥルガウ
- グラウブルグンダー
- ヴァイスブルグンダー
- ジルヴァーナー
- ゲルバームスカテラー
これらの品種がどんな特徴があって、好みの人におすすめか。どんな時に飲むとより美味しく感じそうか。
具体的にどんなワインがあるのか。
ご紹介していきます。
ミュラートゥルガウとは
ミュラートゥルガウはドイツで最も古い交配品種であると言われています。母方がリースリング、父方がマドレーヌ・ロワイヤルという品種です。
交配されたのは1882年。苗木として市場に出回るようになったのは1960年代になってからですが、その後一気に栽培が広がります。1990年台まで、ドイツで最も広く栽培されるブドウでした。
人気の理由は次の通り。
- 気候や土壌を選ばない
- 収穫量が確保でき、安いワインを大量につくれる
- 酸味が柔らかで万人受けする
白ブドウのようなみずみずしい風味を持つワインは、シンプルながらも飲み心地の良いものです。ただし個性的なワインはつくりづらく、「量より質」の時代に移るにつれて真っ先に淘汰されていきました。
主な生産地域はラインヘッセン、バーデン、ファルツなどです。
ミュラートゥルガウのおすすめワイン
ちょっと香りがよくて、ちょっとスッキリで、ちょっと口当たりなめらかな白ワイン。そんな主張控えめで、だからこそ普段の家飲みワインとして活躍するのがミュラートゥルガウです。
ただしその性質上、「ミュラートゥルガウで飲み比べて突出した銘柄」はなかなか見つかりません。違いを表現しにくい品種です。
だからこそ「お気に入りのワインを見つけたらずっとリピートしたい。というかいろいろ選ぶのがめんどくさい」という方にはハマる可能性が高いと考えます。
「リープフラウミルヒ」のような甘口ワインにブレンドとして使われることもありますが、単一品種として日本に輸入されるものは、知る限り辛口がほとんどです。
グラウブルグンダーとは
Grauburgunder グラウブルグンダー と Grauer Burgunder グラウアー・ブルグンダーの2通りの記述をされることがありますが、どちらも同じ。ピノ・グリです。シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)の突然変異で生まれたと考えられています。
グラウブルグンダーの栽培面積は増加傾向にあり、30年で3倍程度に広がりました。それだけ質の高くお金をとれるワインがつくれると考えられている証拠です。
このワインの味わいは、つくり手がどんなワイン狙って収穫のタイミングをどう設定するかに大きく左右されます。収穫期に酸度が急激に落ちるタイミングがあるのです。
フランス・アルザスの生産者は、果皮がピンク色に熟すまで待つところが多いのでしょう。アルコール度数は時に14%を超えるほど高く、酸味は低め。オイリーなコクを持つ傾向があります。
イタリアで「ピノ・グリージョ」という名称で販売されるワインの多くは、酸度が下がる前に収穫しています。だからコクはかるくサッパリとした口当たりで香りも穏やかなワインが出来上がります。
冷涼なドイツではどちらのタイプもつくれるのでしょうが、ワインのグレードで分けているようにも感じられます。
手ごろな価格のグラウブルグンダーは、ピノ・グリージョに近いようなスッキリ系。より酸味がシャープです。
5,000円を超えるようなグラウブルグンダーは、アルザスの高級品のように風味が詰まりながらも、もう少しアルコールは低めです。
バーデンやファルツといった南の方が主産地です。
グラウブルグンダー(ピノ・グリ)のおすすめワイン
このピノ・グリはどちらかというとピノ・グリージョスタイル。爽やかな柑橘系の風味と軽快な飲み心地で、飽きずにリピートしたくなる味わいです。
輸入元の営業さんいわく、「カリーヴルスト」と相性抜群だとか。
ちょっと変化球ですが、このワインはブドウの熟度ではなく果皮浸漬によってコクをもたらしているワインです。ブドウの発酵前に実を潰して果皮の風味や色を抽出。その後プレスして発酵させます。オレンジワインのような渋みはほとんどないのですが、より風味豊かな白ワインになります。
ヴァイスブルグンダーとは
Weissburgunder ヴァイスブルグンダー と Weisser Burgunder ヴァイサーブルグンダーの2通りの表記があります。グラウブルグンダーからさらに突然変異したもので、ピノ・ブランの別名です。
主な産地はグラウブルグンダーと同じです。
高級なシャルドネをつくる生産者が一緒につくっていることもあり、その場合はヴァイスブルグンダーも樽熟成されることがあります。醸造法で味わいを割と変化させる品種なので、選ぶ際は醸造に注目するといいでしょう。
樽熟成なしのヴァイスブルグンダーの風味を言葉にすることは難しいです。いろいろな文献でも「繊細な風味」とあいまいに書かれています。シャルドネと同じで品種の特性香が強くないのです。シャルドネに比べるとやや味わいはスマートで、酸味はリースリングよりも穏やか。グラウブルグンダーよりは高い傾向です。
樽熟したヴァイスブルグンダーの多くは高級品になってしまいますが、言葉にすると冷涼地域のシャルドネの表現に似通ってきます。なのでシャルドネ好きの方は違和感なく楽しめるでしょう。
ヴァイスブルグンダー(ピノ・ブラン)のおすすめワイン
樽熟成していないヴァイスブルグンダー、そして代表産地のものとしてこちらをおすすめします。
div>リンゴやほのかな柑橘のアロマに、フレッシュで心地よい酸味。スタンダードクラスのシャブリによく使われる表現でしょう。食事との相性の点でも遜色ありません。
村名シャブリが4,000円を平気で超えていく時代。「ヴァイスブルグンダー」という逃げ道を知っておくのもいいのでは?
ジルヴァーナーとは
ジルヴァーナーも多収量品種で、味わいのイメージはリースリングを地味にした感じ。ブラインドテイスティングならヴァイスブルグンダーやミュラートゥルガウと迷うでしょう。
リースリングとの違いは、香りがそれほど華やかじゃないことと酸味が穏やかなこと。あと2品種との違いは、余韻に鉱物的なニュアンスが強いことです。
量の面での中心はラインヘッセン。品質の面ではフランケン地方でいいものが多くつくられています。フランケンのワインは「ボックスボイテル」という独特な形状のボトルで販売されることが多いのも特徴です。
ジルヴァーナーのおすすめワイン
ジルヴァーナーは料理との相性において非常に懐が深いのが魅力です。この点ではリースリングに勝ると言えるでしょう。
高品質なものの多いフランケンからはこちらがおすすめ。
味で突出しているというよりは、他に比べて値ごろ感が高いところがポイント。「ジルヴァーナーは料理とあわせてこそ」と個人的には考えているので、モグモグしながらでは数百円程度の価格差はあまり感じられません。なら手ごろなものの方がリピートしやすいとこの1本をチョイス。
一方で単体で飲んだときには、このワインとの違いは結構感じます。風味の緻密さや口当たりの満足度は「好みの問題」では片づけられない差があります。
最大産地のラインヘッセンにも、品質で頭一つ抜けたワインがあります。
飲み込んだ後に感じる鉱物的なニュアンスがひときわ強く、料理の旨味を引き出しそうな予感があります。
ジルヴァーナーは古い品種なので、「〇〇ジルヴァーナー」という亜種がいくつもあります。その中で主流であり現在の「ジルヴァーナー」と同じなのが「グリューナー・ジルヴァーナー」です。
ゲルバームスカテラーとは
ゲルバームスカテラーは直訳すると「黄色いマスカット」で、アルザスでの別名は「ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン」。いわゆるマスカット系品種の一つですが、アルザスのミュスカよりはかなり香りが派手な印象を受けます。
ドイツにおける栽培面積は、残念ながらランキング圏外で不明。400haを超えることはありません。
マスカット系品種の特徴といえる、白ブドウの甘やかで華やかな香り。酸味は穏やかでフルーティーでシンプルなワインになります。だから決してお金のとれる品種ではありません。この品種に注力する生産者は聞いたことがありませんが、とっても珍しいわけではありません。いろいろな品種をつくるうちの一つとして栽培しているワイナリーはある程度あるのでしょう。
それくらい個性的。頻繁に飲みたくなるものではありませんが、たまの気分転換に飲むなら十分に優秀です。
ゲルバームスカテラーのおすすめワイン
適度なピリ辛系の料理を食べたいとき、真っ先にこのワインが頭に浮かびます。カレーそのものではなくカレー粉で風味付けした料理や、激辛ではないチリソース系の料理。家庭でつくるエスニック料理もいいでしょう。
この甘やかな香りが辛味を優しく拭い去って、「ヒリヒリして痛いだけ」を和らげてくれます。
当店未入荷ですが、このワインの甘口もあります。激辛な料理とあわせるなら、甘口の方がベターでしょう。
手ごろな辛口ドイツワインのレゾンデートル
ワインはいろいろな味わいのものを飲むから面白いんです。「次は何飲もう」とワクワクして、それが日々の活力になる。単にアルコールの酩酊作用で嫌なことを一時的に忘れるだけでない。違いを楽しんでこそ他のお酒に対するアドバンテージがあるはずです。
「安くて美味しいワイン」は誰もが求めるものですが、それにこだわりすぎるとワインの魅力を損ないます。ワイン生産に向いた産地で超大規模生産する。それが最適解ではありますが、同時に画一的なワインばかりが流通することにつながるからです。
言い換えると「チリワインは安くて美味しいけど、それだけじゃつまらないでしょ?」ってことです。
ドイツは先進国で人件費は高いはずです。にも関わらず、割と価格競争力はあります。
それ以上に多くのドイツワインは、他の国のワインでは代替できない個性を持ちます。リースリングは世界中で栽培されていますが、ほとんどドイツでしか栽培されていない品種もあるのです。
それらは決してリースリングの下位互換ではありません。それぞれに品種の個性を持ちます。だからその品種を好きであろう人の好みや、その品種に適した楽しみ方があります。それがドイツ土着品種の存在意義(レゾンデートル)です。
ドイツワインを初めて飲むならまずリースリング。これは変わりません。
でも「ドイツワインといえばリースリング」で止まっていてはもったいない!ぜひ他の品種の個性を知って、あなたの晩酌ラインナップに加えてみてください。