グラスからあふれるようなフルーツの香りは、ワイングラスに鼻を近づけるだけで思わず笑顔になります。
好みのフルーツの香りをヒントにワインを選べば、あなたの鼻を大いに楽しませてくれます。
ボリュームのあるフルーツ香を持つ、『アロマティック品種』と呼ばれるブドウのワインをあつめました。
慣れ親しんだブドウ品種からちょっと冒険するのに、好きな香りを道しるべとしてみましょう。
アロマティック品種とは
アロマティック品種とは、ブドウ由来の香りが明確にボリューム豊かにワインに現れるブドウ品種のことです。
ただし明確に「このブドウはアロマティック品種だ/違う」という基準はありません。
その違いは「ワインをたくさん飲めばわかるようになる」というレベルではありません。
たとえワインの人生経験10種類程度の人でも、「これまで飲んだワインと違う!」と違いを感じることでしょう。
知っておきたいワインの香り分類
通常ワインのアロマは三つに分類されます。
(ここではWSETの定義に従います)
第一アロマ(プライマリーアロマ)
ブドウ自体がもともと持つ香り。フルーツや花、スパイスなどに例えられる
第二アロマ(セカンダリーアロマ)
醸造中に生まれる香り。オーク樽由来のヴァニラ香やマロラクティック発酵に由来するバターの香りなど
第三アロマ(ターシャリーアロマ)
リリース直後にはなく、熟成で発達する香り。皮革や腐葉土、クレームブリュレのような香りなど
中にはきっちり分類できない香りもありますが、今回の趣旨とは違うのでおいておきます。
この中で第一アロマが突出しているのが、アロマティック品種でつくるワインの特徴です。
ブドウ酒から他のフルーツが香る不思議
アプリコットの香りって書いてあるけど、アプリコットが入っているの?
たまにそう疑問に思われる方がいらっしゃいますが、そうではありません。ワインの原材料はブドウのみです。
そのワインのいい香りをどうにか言葉にしようとしたとき、一番近いと感じたものがアプリコットだっただけです。なので「アプリコットを想わせる香り」というのが正確な記述。文字数の都合で省略しているのです。
ただ、中には本当に例える植物と同じ香り成分を持っていたりするので、人間の鼻も侮れません。
イチゴからはイチゴの香りしかしません。ブドウの香りを嗅いでもブドウの香りしか感じないのに、ワインになると他のフルーツが現れる。不思議ですよね。
フルーツの香りはブドウ由来
フルーツを想わせる香り成分の多くは、ブドウが本来持っているものです。つまり第一アロマ。
シャルドネのブドウを食べても、別にリンゴやパイナップルの風味は感じません。でもその成分を含んでいるから、ワインに現れるわけです。
「シャルドネだからこの香り」という明確なものはありません。産地によって第一アロマの質も変わりますし、第二アロマの方が強く現れることもあります。だから「ニュートラルな」品種と呼ばれます。
アロマティック品種はそれと対照的です。世界のどこで栽培しても、アロマにある程度共通点を見出せる。それほど香りに品種個性が強く、なおかつ香りにボリュームがあるから、そう呼ばれるのです。
香りはシンプルなものが多いけど・・・・
「このワインからはマンゴーの香りしかしない!」というハッキリした香りのワイン。
「マンゴー、パイナップル、黄色い花、セージ、クローヴ・・・」というように、注意すればいろいろな香りを感じるワイン。
点数をつけるなら後者の方がずっと上。香りに複雑さがあるからです。シンプルな香りのワインは高くは評価されません。
でもワインの評価と感じる好き・嫌いは、一致しないこともあります。
シンプルでも豊かなフルーツの香りは、たとえ専門家の評価が低くたって、きっとあなたを笑顔にしてくれます。
とっておきのワインじゃなくて、普段飲みワインの中の1本なら、それで十分なはずです。
アロマティック品種にはどんなものがある?
先述のとおりアロマティック品種に分類するかどうかで議論が分かれる品種もあります。そういうものが「セミ・アロマティック品種」と記載されることもあります。
メジャーなものをまず名前だけ列挙し、詳細はワインとともにご紹介します。
アロマティック品種
ゲヴュルツトラミネール、ヴィオニエ、リースリング、トロンテス、モスカート(ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン)、ルケ
セミ・アロマティック品種
ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリ、アルバリーニョ
「アロマティック品種」と呼ばれるブドウのほとんどは白ブドウです。
アロマティックワインの醸造の特徴
アロマティックワインの香りにボリュームがあるのは、純粋に香り成分が多いというだけではありません。
むしろ醸造において「第一アロマを際立たせ、第二・第三アロマを抑えよう」という工夫が必要です。
上記のアロマティック品種を使いながら、製法によっては香りが大人しいワインだって存在します。
第一アロマを保つ嫌気的な醸造
第一アロマは酸化によって失われやすいと言われています。
例えばブドウの圧搾。白ブドウはブドウを絞ってジュースのみを発酵させます。
その際にゆっくりと絞ればそれだけブドウが長時間空気に触れるので、ジュースは酸化してしまいます。
例えばワインの発酵・熟成に用いる容器。
高級シャルドネの醸造によく使われるオーク樽は、わずかながら酸素を通します。木目を通しての緩やかな酸化はワインに良い変化をもたらすことも多いですが、フレッシュなフルーツの香りは失われがちです。
ステンレスタンクは空気を通しませんので、発酵・熟成過程における酸化は最小限です。
クロージャーも関係します。コルク栓とスクリューキャップ、どちらを採用するかという話です。
一般にスクリューキャップの方が酸素透過率がずっと低いため、ワインの出荷後もフレッシュなフルーツの香りが保たれる傾向にあります。
なので普段はコルクのワインを好んで飲む方も、香りが良いワインはスクリューキャップのものから探した方がいいかもしれません。
こうして酸化を防ぐことでよりハッキリとフルーツの香りが現れるワインがつくられ、それがキープされます。
低温・長時間発酵
低い温度で長い時間をかけて行うと、より明確なフルーツの香りが現れると言われています。
こちらはアロマティック品種のワインではありませんが、華やかなフルーツの香りを持ちます。このグループの白ワインは低温・長時間発酵をしている旨を書いてあるワインが多いように感じます。明確なフルーツ感のあるワインを目指しているのでしょう。
もちろんやりすぎはよくありません。極端だと吟醸香のようなものが出てくると聞いたことがあります。
樽熟成は"基本"しない
アロマティック品種を用いてフルーティーな香りのワインをつくる場合、樽熟成はあまり行いません。ステンレスタンクで発酵・熟成が主体です。
これはオーク樽に由来するヴァニラやココナッツなどの香りが、第一アロマを隠してしまうから。ワインのいいところを邪魔してしまうからです。
ただし熟成を前提とした高級ワインは別です。
ドイツの高級リースリングは大きな古いオーク樽で熟成されるものが多いです。そういったものは若いうちはフルーツの香りがあまり現れず、安いリースリングより香りのボリュームが控えめなことも。しかし何十年と熟成させることで、驚くほど複雑でいい香りのワインになるものです。
買った時が飲み頃
今回後ほどご紹介するワインは、熟成を狙ってつくられてはいません。購入してからワインセラーの中で香りがどんどん良くなるのは考えにくいです。新しいうちの方がよりフレッシュなフルーツを感じられます。
アロマティック品種に熟成能力を持つものは、あまり多くありません。特に嫌気的な醸造をしているものはなおさらです。
もったいぶらずに飲みたいときに飲むのがいいでしょう。
フルーツで選ぶアロマティック品種のワイン
香りがいいからといって、味まで気に入るかどうかはあなたの好み次第です。100%はありません。
珍しい品種もご紹介しますので、試しやすいよう手頃な価格に絞りました。
ぜひ好きな香りの特徴から選んで、1つ2つとお試しください。
甘いライチの香りが華やかに香る
アロマティック品種、ゲヴュルツトラミネールの香りはまさに『アロマティック』。ライチやバラといったこの品種の典型的な香りをハッキリと感じるやや甘口ワインです。香りが甘いので、それに引っ張られて実際の糖度よりも甘いワインに感じます。
ゲヴュルツトラミネールの特徴
ライチやバラ、トロピカルフルーツなどの甘い香りのボリュームがずば抜けた品種です。代表的な産地はフランスのアルザスやドイツ、イタリア、ニュージーランドなど。品種の特徴が強すぎて、産地の特徴はなかなか感じられません。
糖度が上がりやすいブドウで、熟度の高いものからつくるとアルコール14%超えもあります。その分、酸味は控えめです。余韻にほのかな苦みを感じるものが多いです。
甘いライチやカーネーションの香り
辛口に仕上げられるゲヴュルツトラミネールは、比較的早めに収穫されるからか香りの印象も少し違います。このワインは「バラ」というより、ラベルに描かれているカーネーションを思わせるような上品なアロマ。香りは甘いのに食事時に活躍するドライな味わいです。
まるでハチミツレモン
リースリングは案外手頃な価格帯のものの方が香り華やかなものが多いです。理由は先述の醸造法によるものと酵母の選択でしょう。土壌の影響でも香りの質が変わります。もともと持っている柑橘の香りに、甘口に仕上げたハチミツのような香りが混ざってハチミツレモンに。
リースリングの特徴
ワインの教科書などではアロマティック品種に分類されることの多いリースリング。しかしきちんと選ばないと、豊かなフルーツの香りはあまり感じられません。特に高級品の若いヴィンテージは感じない。どちらかというと低価格品、辛口よりも甘口の方がハッキリとフルーツを感じます。桃やアプリコット、柑橘類がよく現れます。
マスカットの甘い香りにうっとり
ブドウの香りをワインに感じることは稀ですが、マスカット系品種は例外。マスカットに似た「麝香(じゃこう)」と呼ばれるなんとも言えない誘い込まれるような香りが、甘味を伴って漂います。
「ブドウからつくられたお酒を飲んでいる」感は、ワイン初心者にとって親しみやすいものでしょう。
モスカートの特徴
マスカット系品種は類似するものが多く、混同されがちでややこしい品種です。イタリアのピエモンテ州やローヌ地方で主に栽培される「モスカート」と同じものは、「ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン」という長い名称を持ちます。アルザスでも「ミュスカ」という名前で栽培されますが、「ミュスカ・オットネル」も「ミュスカ」を名乗るため、混乱必至。
生食用の「マスカット」は、「マスカット・オブ・アレキサンドリア」といい、これも近縁種です。
※参考 https://tanoshii-wine.com/muscat/
誰も知らない!マスカット+洋ナシの上品さ
とりわけ濃密というほどではありませんが、マスカットや洋ナシに似た甘いニュアンスのある香りがソフトに広がります。ムンムンくるというよりは、「あ!いい香り♪」というくらい。正確な糖度のデータはありませんが、辛口寄りの半辛口と言えるでしょう。
イルサイ・オリヴェールの特徴
「特徴は・・・」と言う前に、このワイン以外にこのブドウ品種を見たことがありません。主にハンガリー、少しスロヴァキアで栽培されます。香りにモスカートと似たところがありますが、直接的な関係はなさそう。1930年に開発された交配品種です。ベテランソムリエにとってすら『珍しい品種』と言えるでしょう。
これぞ大人のレモンティー
マルヴァジアはアロマティック品種というわけではありません。でもその亜種であるからか、生産者の醸造によるものか、香りのボリュームが完全にアロマティック品種のそれです。レモンのような柑橘のニュアンスと、ダージリンのような深みのある香りをあわせて「大人のレモンティー」
マルヴァジア・ビアンカ・ディ・バジリカータの特徴
有名どころではラッツィオ州の「フラスカーティ」をつくるマルヴァジア種は、中南部のイタリアでいろいろな亜種が栽培されています。バジリカータ州のこの品種もその一つで、アロマティックな香りと豊かな酸味が特徴だそうです。黒ブドウのアリアニコにブレンドされることも多いそうなので、パワフルなその特徴を和らげる意図でしょう。
まるでフルーツバスケット!
ギリシャの土着品種としてよく見かける「マラグジア」も香り豊かな品種。ゲヴュルツトラミネールに似たライチのような甘い香りを持ちますが、他のフルーツやハーブなどのニュアンスもあり、まるでフルーツバスケット。フードペアリングのアイデアが掻き立てられます。
マラグジアの特徴
ギリシャ原産と考えられる品種で、他国ではほとんど栽培されていません。香りはバラのように感じることもあり、酸味は低め。ゲヴュルツトラミネールに最も近い品種と言えるでしょう。ブレンドされることも多い品種です。
モザイク越しのパイナップルやグレープフルーツ
アロマティック品種に分類されることは基本的にないショイレーベですが、このテオ・ミンゲスがつくるものは香りも優秀。しっかりフルーツの香りが漂います。でも「フルーツ」というところまでは感じるのに、具体的なフルーツが思い浮かばない。まるでベールに包まれているかのようなもどかしさがあります。あえて言葉にするなら、熟してないパイナップルや苦みのないグレープフルーツ。
あなたはどう感じました?
ショイレーベの特徴
ジルヴァーナーとリースリングの交配で開発された品種で、ドイツワインが質より量だった時代にもてはやされました。収穫量が高く、かつ甘いワインをつくりやすいからです。時代が移るにつれ栽培面積が減少していますが、丁寧に栽培したものにはポテンシャルがあります。グレープフルーツのほか、白ブドウなのにカシスのアロマを持つことが多いと言われます。
バラが咲き誇る植物園のような赤ワイン!
アロマティック品種は白ブドウが中心。黒ブドウでそう呼ぶ品種はほとんどありませんが、その貴重な一つが「ルケ」。ピエモンテ州でも20軒そこらしか栽培されてないマイナー品種ですが、バラのような特徴的な香りと品質で上級ワインに分類されます。
高価なワインで溢れるような香りを持つものはたくさんありますが、2000円台のこのワインが香りのボリュームと華やかさだけなら匹敵します!
ルケの特徴
イタリアのピエモンテ州、アスティ地区にしかほぼ見られないブドウ。バラのような華やかな香りと低い酸味、苦みを伴う余韻が特徴です。
デザートワインもつくられると聞きますが、さすがに見かけたことがありません。
「美味しい」は「美味しそう」から
ワインの魅力はグラスに注いで感じる香りだけではありません。
舌で感じる味わいや刺激、飲みこんだ後に鼻を抜けていく香りももちろん重要です。
それらを総合して、我々は「これ美味しいワインだな~」と判断しています。
その美味しいの前に、「美味しそう」と期待させてくれる香りがあれば、もっといいと思うんです。
ワインの美味しさを見た目で判断することはほとんどできません。キレイなエチケットはあくまでおまけです。
だからこそ「フルーティーで魅力的な香り」は、ワインの美味しさを期待させてくれるものです。だからつい笑顔になっちゃうんです。
フルーツ感あふれるアロマティックワインで、あなたの晩酌の食卓にもっと笑顔があふれますように。