ドイツを代表するピノ・ノワールの生産者として、非常に評価が高いフーバー。
上品で整った酸味に支えられた、緊張感と旨味のあるワインはファンの心をつかんで離しません。
品質基準を年々上げてきているため、その名声とは裏腹に手を出しづらくもなってきています。
決してブルゴーニュの代替ではない魅力。ベルンハルト・フーバー醸造所がつくるワインをご紹介します。
「ブルゴーニュより安くて美味しい」はもはや失礼
私がフーバーのワインを知ったころは、3000円くらいで買える「シュペートブルグンダー」という品種名表記のワインがありました。その品質がブルゴーニュの村名格(当時5000円くらいから)に匹敵すると感じていたので、「ブルゴーニュより安くて美味しいですよ」とおすすめしていました。そしてそれに満足してもらっていました。
現在スタートが7000円前後になってしまったというのもあります。でもそれ以上に、フーバーはフーバーであり、安い代替品としておすすめするのは違うと感じるようになりました。どこかのワインと比較するまでもなく、フーバーのワインは卓越したブランドを築いています。
1本買って飲んでもらえれば味わいが何より雄弁に語るのですから、筆者の使命はその始まりの1本に興味を持ってもらうことです。
フーバーの哲学が詰まった「マルターディンガー」
フーバー醸造所はドイツのバーデン地方、「ブライスガウ」という産地区分の中のマルターディンゲン村にあります。
そのいわゆる村名格がこの「マルターディンガー・シュペートブルグンダー」です。シュペートブルグンダーとはドイツにおけるピノ・ノワールの別名です。
決して安くはないですが、これがスタンダードクラスでありフーバーワインの入り口。まずはこのワインから飲み始めることをおすすめします。
「マルターディンガー」の味わいと「ここがスゴイ!」
KATAYAMA
テイスティングノート
赤や黒のベリー系アロマがみずみずしくピュアに香ります。熟成に新樽を30%用いていますが、ヴァニラの甘い香りは明確には現れません。密度がありながらも決して押しつけがましくない味わいはどこまでも上品で、きめ細やかなタンニンが舌をやさしく叩きます。20分、40分と時間とともにグラスの中で成長していき、この価格として十分以上の深みを感じさせます。
赤や黒のベリー系アロマがみずみずしくピュアに香ります。熟成に新樽を30%用いていますが、ヴァニラの甘い香りは明確には現れません。密度がありながらも決して押しつけがましくない味わいはどこまでも上品で、きめ細やかなタンニンが舌をやさしく叩きます。20分、40分と時間とともにグラスの中で成長していき、この価格として十分以上の深みを感じさせます。
「ブルゴーニュ以外のピノ・ノワール」としてフーバーが格別なところは、香りの洗練さだと考えます。
テイスティングコメントには「ベリー」と書きましたが、ソノマやオレゴンのものと比べると果実味はあまり前に出てこず控えめ。それでいて決して香りが弱いわけではなく、華やかに広がります。完全無欠に整ったイメージ。あるべきものがあるべきところに収まっているようなバランス感が、ヴィンテージに寄らず崩れないこと。
価格的なメリットは大してないです。それでもブルゴーニュ好きのソムリエに着実に認められていったのは、それに比肩しうる洗練さがあったからではないでしょうか。
一代で名声を気づいたフーバー醸造所の歴史
ベルンハルト・フーバー醸造所は、先代にあたる故ベルンハルト氏が一代で大きく成長させたものです。
ドイツでNo.1といっても言い過ぎではないほどの高い評価を受けるようになったのです。その歴史をかいつまんでご紹介します。
バーデンで高品質ピノ・ノワールをつくると決意
もともと栽培農家としての歴史は長いのですが、当時は農協にブドウを収めていました。単位重量あたりで金額が決まるので、システム上ブドウは決して高品質なものではありませんでした。それに当時は完全に"質より量"の時代だったのです。
おそらく何かしらの理由で、「自分の手で素晴らしいワインをつくりたい」という気持ちはあったのでしょう。それを行動に移すきっかけの一つとして、ある古文書との出会いがありました。
700年以上前にフランスから布教に来たシトー派の修道士が、この地にピノ・ノワールを持ち込んだとの記載があったのです。マルターディンゲン村がピノ・ノワールの約束された土地であることを確信したのでした。
1987年に彼は実家から独立します。ベルンハルト・フーバー醸造所として自分の名前のワインをつくり始めたのです。
フーバーの快進撃!設立当初から高評価
ベルンハルト氏のワインは設立当初から高い評価を受け続けます。その受賞歴は次の通り。
年 | 受賞内容 |
---|---|
1990年 | 「VINUM」誌にて、1988年のシュペートブルグンダーが赤ワインとして最高の評価を獲得。 |
1992年 | ラインガウのホテル「クローネ」の品評会にて、1990年シュペートブルグンダー・レゼルヴァがピノ・ノワール部門トップを受賞。 |
1994年 | ドイツのワイン誌「ワインニュースレター」にて、1992年のシャルドネがブルゴーニュの名門を抑えてトップを受賞。 |
1996年 | イギリスのジャーナリスト、スチュアート・ピゴットが「新しいスターが誕生した」と絶賛。 |
1998年 | 「ゴーミヨ」誌にて、1995年シュペートブルグンダー・レゼルヴァが最高級のシュペートブルグンダーと評される。 |
2002年 | 「ニューズウィーク」誌で特集。 |
2003年 | 「ゴーミヨ」誌にて2000年のシュペートブルグンダー・レゼルヴァがNo.1の評価を得る。 |
2008年 | 「ゴーミヨ誌」にて最優秀醸造家賞を受賞。同時にゴーミヨ評価は、バーデン地方で唯一の5つ房に昇格。 |
2010年 | 「ゴーミヨ」誌にて2007年シュペートブルグンダー・シュロスベルクが最優秀赤ワイン賞。同時に「10年後に美味しい赤ワイン」1位と3位も獲得。 |
2013年 | 「ゴーミヨ誌」にて2010年シュペートブルグンダー・ヴィルデンシュタインが「最優秀赤ワイン」「10年後に飲んで美味しい赤ワイン」「コストパフォーマンスに優れた赤ワイン」前代未聞の3冠を達成。 |
設立から数年で最高の評価を受けたのももちろん偉業です。しかし1990年あたりは甘口ワインブームの全盛期。辛口の赤ワインは決して主流ではなかったはずなので、「敵が少なかった」という見方もできるはずです。
それから20年間、高い評価を受け続けてきた、トップを走り続けてきたというのは並大抵のことではありません。当初の成功に決して満足することなく改善を続けてきたから。息子ユリアン氏が「Step by Step」というように、理想に向かって徐々にワインを良くしていったからです。
今なお続くクローン選抜
ブドウの品質においてクローンの影響は非常に大きなものです。
同じ「ピノ・ノワール」という品種でDNAは同じであっても、樹の性質には違いがあります。1本の樹につけるブドウの数や粒の大きさ、樹勢の強さや成熟度の高さ、病気などの耐性・・・。
ブドウは挿し木で増やします。ブドウの種ではなく切り取った枝で繁殖させることで、元の樹の性質を受け継ぎます。好ましい性質のものは「クローン」として登録されます。「666」[777」などの番号で呼ばれることが多いです。優れたクローンの苗木を植えることが、高品質なワイン造りには不可欠です。
ベルンハルト氏が1990年初頭にフランスからクローンを持ち込んだのは、当時としては珍しい物でした。もともと植わっていたシュペートブルグンダーは、たくさん収穫できる代わりに果皮に未熟な風味が残りやすいものだったそうです。
当時はよりブドウが熟しやすいクローンを選んでいました。それに対して近年は地球温暖化に対応するため、なるべくフレッシュさをキープできるものを選んでいます。どちらにせよ目指すのは、「マルターディンゲンらしい味」を表現できるクローンです。
父と子、変わったものと変えない信念
2014年6月、ベルンハルトさんは55歳の若さで永眠されてしまいました。
偉大過ぎる父の後を継いだのは、当時若干24歳のユリアン・フーバー氏。彼の代になってフーバーのワインは変わりました。驚くべきことに、スタイルを変えつつ勝るとも劣らない評価を獲得しています。
2013VTまでのベルンハルト氏のワインと、2014VT以降のユリアン氏のワイン。変わったものと変わらぬものをご紹介します。
新樽比率と”分かりやすさ"
ユリアン氏の代になって熟成に用いる新樽の比率を下げました。
それが理由の一つとなって、ユリアン氏のワインはワイン初心者よりも玄人に受ける味わいにシフトしたように感じます。
ベルンハルト氏のころの方が開けたてから香りが派手でした。複雑でリッチな香りとともに、上品な酸味とち密な味わいが広がるイメージ。誰彼構わず勧めたくなるワインでした。
ユリアン氏のワインはその点で"分かりやすさ"では劣るかもしれません。開けたては香りがシンプルで硬い印象なこともあります。特にシャルドネは還元状態にあることも多いです。「リッチ」という表現はあまり当てはまらず、繊細な味わい。その分果実味の透明感は増しています。
最低でもグラスワイン半分、座って腰を落ち着けて飲んでからユリアン氏のワインを判断してほしい。だから彼のワインをおすすめするかどうか、私は人を見て選びます。
全房発酵から除梗スタイルへ
ベルンハルト氏のころは全房発酵を取り入れていました。フランスから持ち込んだクローンが全房発酵と相性が良かったそうです。
それに対して現在のクローンはより品質が高くなることを狙った粒の小さなもので、茎が細いそうです。それがどう影響するのかまでは語っていませんが、このブドウでは全房発酵はすべきでないという判断。全て除梗しているそうです。
その代わりに収穫のタイミングを早くすることでワインのフレッシュさを保っています。アルコール度数13.5%前後が理想であり、それを狙ってタイミングを決めています。
ワインの口当たりが変化したとすれば、この製法の違いによるところが大きいでしょう。
除梗と全房発酵とは
ブドウの粒がついている茎のことを「梗(こう)」と呼びます。赤ワインの醸造においては、粒を茎から外して(除梗)破砕し発酵タンクに移すのが普通。除梗した方が選果の精度は上がります。
一方で房のままタンクに入れて発酵させるのが全房発酵。茎から抽出される成分によりスパイス感やフレッシュさが増したり、酸度が落ちたりといった影響が出ます。
どちらが優れているというものではありませんが、醸造の難易度は全房発酵が上です。
ピノ・ノワールとシャルドネへの注力
ユリアン氏の代になり、それまで栽培していたいくつものブドウ品種をピノ・ノワールとシャルドネに植え替えています。リースリング、ムスカテラー、ミュラー・トゥルガウの大部分、ヴァイスブルグンダーやグラウブルグンダーの一部、そしてフライザマー。それらは現在栽培されていません。
これらの植え替えは「高継ぎ」と呼ばれる手法での植え替えがメインです。樹を引っこ抜いて地面に苗を植えるのではなく、幹に新たな品種・新たなクローンの穂木を移植する。そうすることで何十年かけて伸ばしてきた長い根を持った、望んだブドウ品種となり、すぐに高品質なブドウをつけるそうです。
これは先代と話し合ってのことだと言います。ユリアン氏の代になって急速に進めてはいますが、もともと2人はピノ・ノワールとシャルドネに絞っていくつもりでした。その2品種でバーデンの土地の味を表現することを目指していたのです。
息子の代になっても変わらぬ高評価
父から突然に醸造所を引き継いだのに、フーバーの評価は全く落ちていません。少なくともワインアドヴォケイトによる点数は、赤ワインにおいて平均値は、2013/2014VTの前後で僅かに上がっています。
特に白ワインにおける評価は、ユリアン氏の代になって上がっています。
「フーバーのシャルドネによって世界がドイツのシャルドネに注目するようになった」その功績をたたえて、ファルツ地方のノイシュタットの「伝説のワイン街道」に彼の名前が刻まれています。
さらにドイツで最も権威あるワイン誌「Vinum」にて、2024年の「最優秀シャルドネ賞」1位と2位を獲得。
1位:2021 ヘックリンガー シュロスベルク シャルドネ
2位:2021 シャルドネ アルテレーベン
間違いなく今後のドイツワインをけん引していく若手として、ユリアン氏には多くの期待が寄せられています。
ラベルに現れた「出自を見てほしい」
先ほどの「マルターディンガー・シュペートブルグンダー」。それから対となるスタンダードの「マルターディンガー・ヴァイスワイン」。どちらも表ラベルにブドウ品種名が書かれていません。ヴァイスワインの方がブレンドだからというのもありますが、今後このワインがシャルドネ100%になったとしても書かないか、ほんの小さくにするつもりだそうです。
それは品種よりもブドウの出自で選んでほしいから。「このワインはマルターディンゲン村の風味を持った白ワインだ」そう言いたいのです。
それはブルゴーニュワインへのあこがれでしょう。「Vosne Romanee」「Geverey Chambertin」のワインに品種は書かれていません。それは法律で決まっているからという以上に、その土地の味だからです。
ワインのスタイルが少し変わっても、つくるブドウ品種のラインナップが減っても、「この土地のワインをつくる」という目的は全く変わっていないのです。
ラインナップとフーバーが表現するもの
フーバーの上級ワインは年々手に入りづらくなっています。それはユリアン氏がグラン・クリュワインの品質基準を年々上げているから。畑の面積は変わらなくとも、収穫量を徹底して絞ったうえに基準に満たないものはどんどん格下げするからです。
下級ワインに上級のブドウが使われるということであり、ベーシックの「マルターディンガー」まで含めて品質が上がっています。年々価格も上がっていますが、「理由もなく為替だけで高くなった」のではないのです。
ラインナップを5つの畑とともにご紹介します。
5つの畑名入りワインはVDP、ドイツ高級生産者連盟の認めるグローセス・ゲヴェックス(GG)です。特級畑に相当する区画でつくられた辛口上級ワインであることを示します。
VDPと畑区分についてはこちらで解説しております▼
マルターディンガー・ビーネンベルク
フーバーの本拠地であり、15haの畑を所有。うち10ha余りが特級区画です。
畑の名前の由来は「蜂の丘」であり、日当たりが良くいろいろな花が咲くので、養蜂が盛んだったことから。
他の畑に比べて樹齢が高いのが一つの特徴。輸入元の資料では「複雑で優しいワイン」と紹介されています。
筆者の所感では、赤系果実の風味がよく現れる印象です。石灰質土壌の影響を強く感じさせる緊張感のあるタンニンのきめ細やかな刺激。
「マルターディンガー」の味わいを順当にスケールアップした印象です。GGの中ではまだ供給量が多いワインです。
シャルドネもつくられています。
経験上いつも開けたては還元によるゴムのような香りしか感じません。根気強くスワリングすると緊張感のある果実味が顔を出し始め、素晴らしく複雑で豊かなアロマが漂います。硬質なミネラル感を持つち密な口当たりのスケール感に圧倒されます。
ヴィルデンシュタイン
ビーネンベルクの畑内にある最上級区画が「ヴィルデンシュタイン」です。
ここはフーバー醸造所にとって特別な畑で、価格設定も他と別格です。斜面の畑は表土が少なく、酸化鉄が混じった赤い石灰岩が露出しています。
かつてシトー派の修道士がブドウを栽培する畑を探してこの地を訪れ、「ブルゴーニュのミュジニーのようだ」と栽培を始めた記録が残っているそうです。
輸入元の資料では「果実味のしっかりした、複雑でタンニン分もしっかりした、壮大なワイン」と表現されます。
筆者の所感でもアロマから感じるワインの格が他の畑と明らかに違います。果実や樽熟成の洗練された風味が非常に長く舌の上にとどまり、いつまでも続くかのよう。
ビーネンベルクの畑内なのに、後述するゾンマーハルデやシュロスベルクの要素も感じる気がするのは不思議なところです。
ボンバッハー・ゾンマーハルデ
ビーネンベルクに対して北東に位置するゾンマーハルデの畑。そのすぐ近くにはシュヴァルツヴァルト(黒い森)があります。そこから冷気が入ってくるので涼しい気候。「ブドウの成熟期間がほかの畑より長くなるため、香りのきれいな、果実味と酸のバランスが取れたワインに仕上がる」と輸入元資料にあります。
ただワインから感じる私の印象は少し違います。
ラインナップの中で一番黒系果実の風味を感じます。親しみやすく滑らかな果実味が前に出てくるので、あまり冷涼さは感じません。
ヘックリンガー・シュロスベルク
その名の通り昔は城が立っていた畑で、フーバーの畑では最も急斜面です。白い石灰岩がところどころ露出するほど表土は薄く、そこに高密植しているので生産性は悪いです。最も冷涼で最も暑いという寒暖差が大きな畑であり、凝縮感も酸味も高いワインが生まれます。
輸入元の資料では「塩味のようなミネラルを感じる、タンニンも果実味も香りもしっかりした、硬質なワイン」と表現されています。
私も同様に感じており、果実のピュアな味わいが際立つ、直線的でシャープな味わいのワインです。若いうちはなかなかに近寄りがたいのですが、熟成したら誘い込まれるような深みを獲得します。
ここでもシャルドネがつくられています。
ただし「影すら踏ませない」ではありませんが、本当に生産量が少なく昨年は入荷しませんでした。
ケントリンガー・アルテブルク
2019VTからGGとしてリリースが始まった、フーバーの中で最も新しい特級ワインです。それまではブレンド用に使われていました。
石灰岩の基盤岩の上に、薄いレス(黄土)の表土を持ちます。
他の畑と違って近くに山や森がないため風通しが良く、粒の小さなブドウとなって力強いワインになるといいます。
所感では梅のニュアンスを伴うチェリーのようなみずみずしい果実味と、ソフトなタンニンが特徴。しかし余韻はきっちりドライでした。スケール感では現状他のGGに劣ると私は感じていますが、いい意味で他のワインとは違うチャーミングな雰囲気を持ちます。
アルテ・レーベン
ここまでのGGシリーズは、輸入元に年に1度入荷するなり予約で全て完売します。ショップの在庫が無くなれば終わりで、欲しいときに手に入るものではありません。まして飲み頃のバックヴィンテージが手に入るはずもなく、確保してから自宅セラーで何年も我慢すべきものです。
それに対してこの「アルテ・レーベン」は、時間をかければ今から十分に楽しめます。飲む1、2時間前くらいの抜栓で十分その深みを感じさせてくれるでしょう。そして年間を通してだいたいいつでも手に入る!これ重要なところです。
畑名表記はありませんが、ブドウはマルターディンガー・ビーネンベルクのもの。VDPの区分で特級区画ではないところの樹齢の高い(アルテ・レーベン)ブドウを使います。
このワインなら「飲んで美味しかったからもう1本」ができます!
マルターディンガー 赤と白
先ほどもご紹介したこの2本がフーバーのスタンダードクラス。
フーバーのワインを始めて飲むなら、この赤ワインと白ワインで決まりです。「この土地の味を表現する」という親子2代の哲学がしっかり現れています。
どちらも開けてからの風味が如実に変化します。だから試飲の一口ではもったいない。ぜひ大きなグラスで時間をかけて味わってみてください。
ロゼは2020年がファーストヴィンテージ
「フーバーのロゼを飲んでみたい」
ドイツの知人からは前々からそう言われていたそうです。これまでもロゼのスパークリングワインはつくっていましたが、ロゼのスティルワインはありませんでした。ユリアンにはロゼをつくるノウハウがなかったといいます。
というのも品質基準が高いから。つくるならば果実味主体のイージードリンキングなロゼではフーバーの看板を掲げられない。しっかり食事と合わせて楽しんでもらえるフーバースタイルのものをつくりたい。
そこで彼はシャルドネと同じつくり方でピノ・ノワールを醸したといいます。ブドウを破砕してやさしくプレス。野生酵母で一部新樽を使い樽発酵・樽熟成。マロラクティック発酵を行い、ノンフィルターで瓶詰め。
ロゼワインとしてはもちろん高価ではあるのですが、フーバーのピノ・ノワールと考えると納得の価格です。
このほか当店では取り扱っておりませんが、瓶内2次発酵でつくる高級スパークリングワインもつくられています。
もうすぐ幻となるワイン「マルターラー」
見た目からはフーバーのワインであることだけでなく、ドイツワインであることすらわからないボトルデザイン。このデザインはバーデン地方のフライブルクにある聖カタリナ協会で、長く大切に保管されていた絨毯をもとにしています。
「フライザマー」というバーデンの土着品種とヴァイサーブルグンダーをブランドした「マルターラー」というワインがありました。
新樽熟成のリッチな風味の中に、フーバーらしい気品ある味わいを持った素晴らしい白ワインです。ブラインドで飲めばシャルドネと間違えるかも。
少量バックヴィンテージが入荷しております。
「ありました」というのは、生産終了しているから。
ユリアン氏いわく「フライザマーは手に負えない」とのことで、既にシャルドネに植え替えられてしまっています。2016年が最後のヴィンテージ。
まもなく「歴史の中に存在する幻のワイン」となります。フーバーファンなら、特に先代ベルンハルト氏の味が好きな方なら、セラーに蓄えておくべきレアアイテムです。
ワインを通してつくり手を好きになる
初見でフーバーのワインを買って飲むハードルがなかなか高いことは否定できません。ブルゴーニュでもないピノ・ノワールが、最も安いもので7000円以上なんて。
一方で味を知っているソムリエからの信頼は抜群に厚いのがフーバーのワインです。値段が上がって手に入れづらくなったのを嘆く声はよく聞きますが、文句を言いながらも仕入れているのが常。フーバーのワインをもう売らないなんて選択肢はない。
それはワインを通してユリアン氏を好きになってしまっているからです。カメラを向けると恥ずかしがる好青年は、30代の若さで確かな信念をもって実直にワイン造りをしています。
始まりとなるワイン「マルターディンガー」を飲めば、きっと「どんな人がこの美味しいワインを造っているのだろう?」と気になるはず。味と値段だけではないワインの楽しみ方で、もっとワインという趣味に夢中になれるはずです。