
近年は濃厚赤ワインとは真逆の「薄旨赤ワイン」が、じわじわとファンを増やしています。穏やかな口当たりと優雅な香りで、肩の力を抜いて楽しめるのが理由でしょう。旨いと感じる理由を深掘りするとともに、日常で楽しみやすい薄旨おすすめワインをご紹介します。じわっと旨み広がるやさしい赤ワインで、日ごろの疲れを癒しませんか?
じわっと旨味ひろがる「薄旨赤ワイン」おすすめ8選
「旨味」とは五味の一つ。主にアミノ酸に由来するコクのある味わいを指します。
厳密には旨味とは違うものも含めて、旨みを感じるようなおすすめ赤ワインを、どうしてそう感じるのかというポイントとともにご紹介します。
無濾過ゆえの「にごり」が旨味とコクに
特徴:無濾過ゆえの澱の旨味
ブラック・クイーンやマスカット・ベーリーAはタンニンがほとんどない品種なので、「薄いワイン」をつくること自体は難しくありません。肝心なのは、そこに「いかに旨味を乗せていくか」です。
このワインは、加熱殺菌も濾過も一切行わないことでそれを実現しています。グラスに注ぐと少しにごりのある色調で、口に含んだ瞬間にプラムのような果実味とともにじんわりと旨味が広がり、独特のコクと出汁のようなニュアンスを感じさせてくれます。
タンニンや酸味の引き算
特徴:淡い抽出と品種特性
サンソーは南フランス原産の品種で、タンニンが控えめなため、軽やかでフルーティーなワインが多く造られます。
しかし、ただフルーティーでシンプルなだけでなく、しっかりと深みを感じさせる「薄旨ワイン」に仕上げるためには、何よりもブドウの質が欠かせません。南アフリカのスワートランドという乾燥した地域で収量を抑えて栽培することが、高品質なブドウを生む要因です。過度な渋みや重さを引き算しながらも、優しい味わいの中に風味がぎゅっと詰まった、しなやかな口当たりのワインに仕上がっています。
実はロゼワイン分類だけれども・・・
特徴:淡い抽出と熟成
このワイン、実は輸入元の分類上は「ロゼワイン」となっています。しかし色合いはしっかりと濃く、見た目も味わいも赤ワインに極めて近いため、今回の特集でピックアップしました。
口に含むとなんとも言えない独特で不思議な風味とともに、非常に軽やかな味わいが広がります。少しシャープな酸味とともにじんわりと旨味が染み渡り、驚くほどスムーズな口当たりですっと喉を通り抜けていく。これは「1958年植樹」という古木のブドウを用いていること、そして適度な熟成によって若々しい果実味が適度に“引き算”されたことによる賜物でしょう。
気候がつくる穏やかさ
特徴:穏やかな気候によるやさしい味わい
「ピノ・ノワール=薄旨」と思われがちですが、すべてのピノがそうとは限りません。冷涼地ならではのキリッとした高い酸味が強すぎると、かえって旨味が感じにくくなってしまうからです。かといって、果実味が前に出すぎたフルーティーすぎるワインもまた「薄旨」とは言えません。
このマクファーソンの主な産地は、オーストラリア内陸部のマレー・ダーリング。大きな川が流れる広大な平野に畑があり、豊かな灌漑によって水分ストレスなくのびのびとブドウが育ちます。凝縮感が高すぎることもなく、酸味も非常に穏やか。この引っかかりのない優しい口当たりだからこそ、じわっと染み入る旨味を素直に感じ取ることができます。
熟成による引き算で現れる
特徴:手頃な価格と熟成
このワインが持つのは「熟成による旨味」です。主体のサンジョヴェーゼという品種は本来、酸味や渋みがしっかりと主張するため、あまり薄旨ワイン向きの品種とは言えません。
しかしこのワインは、デイリーな低価格帯ゆえに過度な抽出や重さがもともとありません。さらに2018年ヴィンテージという熟成を経たことで、角のあった果実味やタンニン、酸味が穏やかに落ち着いています。強い刺激が“引き算”されたことで、隠れていた旨味を感じ取りやすい質感へと変化しているのです。熟成由来のキノコや土のような複雑なブーケも、口にする前から心地よい旨味を予感させてくれます。
ジューシーさの奥に感じるコク
特徴:気候による穏やかさとにごり
この地域(オーストラリア・リヴァーランド)としては珍しいイタリア系品種を使いながら、品種の個性をあえてまったく主張させないワインをつくるのが、このリッカ・テッラの面白いスタイルです。
造りはいわゆる「ナチュラルワイン」。通常、無農薬で健全な自然派のワインをつくろうとすると膨大な手間とコストがかかりますが、ここは乾燥していて病気と無縁な地域。その恵まれた気候のおかげで、手頃な価格でありながら極めてクリーンで健全なワインを実現しています。純粋な果実味の奥にじわっと広がるような旨味を感じるのは、あえて濾過をせずに残されたにごり(澱の成分)がもたらす効果でしょう。
早熟品種ゆえの穏やかさ
特徴:産地と品種特性
カナダのオンタリオ湖周辺でつくられる赤ワインには、全体として「柔らかく優しい印象」という共通点があると感じています。その理由は、巨大な湖から地盤を通してもたらされる水分供給にあるのではないでしょうか。ブドウに強い水分ストレスがかからないため、どこか大らかでゆったりとした味わいのワインに仕上がるのです。
耐寒性の早熟品種「バコ・ノワール」で造られるこのワインも、グラスに注ぐと色合いこそしっかり濃いものの、口に含むとタンニンも酸味も驚くほど穏やか。しっとりと滑らかな舌触りの中に、じんわり染みる素朴な旨味感が広がります。
若いうちからの柔らかさ
特徴:気候による穏やかな酸味
同じピノ・ノワールでも、ブルゴーニュのものと比べるなら、アルザスのピノは酸味が穏やかで、比較的若いうちから柔らかい印象に仕上がります。
かといって「単なる温暖な産地」のように派手なフルーティーさがあるわけではなく、果実味が主張しすぎない控えめなバランスに留まっているのが、旨味をしっかりと感じ取れる一番のポイント。気取りすぎず、しっとりと滑らかな口当たりで、飲み込んだ後の余韻にじんわりと染み入るような旨味感が長く続いていきます。
トレンドの「薄旨赤ワイン」、その魅力と「すれ違い」の正体
当店で昔も今もよく売れているのは、濃厚で甘く香ばしい風味のある赤ワインです。その一方で近年じわじわとトレンドになりつつあるのが、淡い色合いで口当たり軽く、渋味穏やかでありながら風味豊かな赤ワイン。いわゆる「薄旨赤ワイン」です。
これはどんなタイプの赤ワインなのか。深掘りしていきます。
薄旨赤ワインが人気になる理由
「昔は濃いワインが好きだったけれども、年をとるにつれてしんどくなってきて・・・」こんな声も時折耳にします。
誰しも加齢によって味覚は変化します。味を感じる敏感さが損なわれるにつれ、補うように濃い味付けを好む人もいれば、やさしい味わいの食べ物・飲み物を好む人も多いでしょう。


ここに健康志向が加わります。誰しも健康寿命は伸ばしたいと思うもの。料理のトレンドも、油脂たっぷりのヘビーな濃い味付けから、素材を活かした控えめな味付けへとシフトしています。
そういった料理とバランスをとるワインは、ヘビーなものではなく軽やかな口当たりが求められます。
薄旨赤ワインは開けやすい?
「今日はどのワインを開けようかな?」そう考えたときセラーに薄旨赤ワインがあると、ついつい手が伸びてしまいます。美味しいことはもちろんですが、抜栓の心理的ハードルが低いからです。
「高級そうな赤ワインの味」はどんなものを思い浮かべますか?
香り豊かで味わいに凝縮感があり、適度に渋味や酸味もあって、余韻が長いワイン。薄旨赤ワインとは対照的です。
そんなワインを飲むなら「今日はいいワインを飲むぞ!」と構えませんか?
決して悪いことではないです。期待をもって飲んでこそ、高い満足が得られます。
一方で何の変哲もない一日の終わり、特に頑張ったでもなく惰性で過ごした後に、あなたならどちらを選びますか?高そうな味のワインと、高そうな味はしないがじわっと旨味広がるワイン。後者の方が、「今日はこれでいっか」と手を伸ばしやすいのではないでしょうか。
「薄旨赤ワイン」のすれ違い
「薄旨ワイン」という言葉は、まだまだ一般的とは言えません。使う人によって、どんなワインをもって「薄旨」とするかは、かなり幅があるでしょう。
それゆえ、売り手側が「これは薄旨ワインです!」と販売し、購入者が「こんなの薄くてシャバシャバなだけではないか」と感じてしまうすれ違い。これはどうしても生じてしまいます。
その大きな原因が想定している価格帯です。
「このワインは、味わいは強くないのに旨みがあって美味しいな~」
そう感じたワインが、1本2万円を超えるようなブルゴーニュや、「自然派ワイン」と呼ばれるようなものでもトップクラスのものだったとします。
こういった味わいが「薄旨」なのかと期待して、2,000~4,000円でおすすめされる「薄旨」ワインを買ってみても、物足りなさを感じるのは否めません。
今回ご紹介しているのも、「この価格帯としては『薄旨』といっていいタイプでおすすめ」というものです。
そもそもワインの「旨い」とは
「旨」という文字を使うからには、「美味い(うまい)」とは少しニュアンスが違います。五味の一つである「うま味」。その味わいを感じるか、それに似た風味を持っているという意味あいが含まれていると、本記事では定義します。
「うま味」の正体は主にアミノ酸です。中でもうま味成分として代表的なものがグルタミン酸です。
実はワイン中に含まれるグルタミン酸はそれほど多くありません。日本酒の5~10分の1であり、単体では人が感じるほどの濃度でないことがほとんどなのです。
それゆえ「うま味」を感じるようなワインは、醸造法などでうま味成分を増しているか、うま味を感じやすくさせる理由があります。
引き算の美学:マスキングを取り除く
アミノ酸などに由来するうま味は、ワインの中で相対的に弱く感じにくい味わいです。他に強い味わいがある場合、味覚はそちらに集中してしまい、うま味を感じにくくなることが考えられます。
これは研究結果でも示唆されています。イタリアのパドヴァ大学の研究では、高い酸味がうま味の知覚を低下させるという仮説が立てられています。
凝縮度の高い果実味や豊かな甘味、強いタンニンがある場合も、同じようなうま味のマスキングが起きているのではないでしょうか。
例えばボルドーの比較的若い高級ワインを飲んで、うま味に似た味わいを感じ取った経験は、私は皆無です。


濃くない、甘くない、渋味が強くない、酸味が高くない。そんな引き算のワインでこそ、舌の上でじわっと広がるようなうま味を感じます。
香りの印象に脳が騙される
うま味のあるような味に感じるかどうかについて、香りの成分も影響します。
ワインからキノコやフォン・ド・ヴォー(肉汁)のような香りを感じることがあります。そういったうま味たっぷりの食材や料理に似た香りを感じるから、ワインにうま味を感じるような気がする。そのように脳が騙されることもあります。


味覚において、脳が騙されることは珍しくありません。たとえば、ワインに「甘い香り」を感じるケース。中には本当に甘いものもありますが、辛口でもフルーツや樽に由来するバニラ香を甘く錯覚する場合もあります。
そういうワイン、試しに鼻をつまんで口に含んでみましょう。甘い印象が一気に消えたら、それは脳が騙されていた証拠です。
赤ワインが「薄旨」となる条件とは
濃くなく渋くも酸っぱくもない薄旨ワイン。そんなワインをつくるにはどうすればいいのでしょうか。
もちろん品種は重要です。しかしピノ・ノワールだからといって、すべてが薄旨ではありません。
突き詰めるといかに良いブドウを得るかにかかってきます。
淡い抽出をする
赤ワインの色合いや風味は、ブドウの果皮に大きく影響されています。発酵の際にいかに果皮の風味や色素をワインに抽出するか。それが果帽管理です。
発酵タンクの中で、生じた二酸化炭素により果皮は浮かんできます。そのままでは果汁と果皮があまり接触しません。成分の抽出が滞るので、パンチングダウン(ヘラなどで果帽を沈める)やポンピングオーバー(タンクの下から果汁を抜き取って上からかける)を行います。
これをたくさん行えば多くの成分が抽出され、濃いワインになりやすいです。逆に回数を減らすことで、淡い抽出となります。


あるいはプレスジュースのブレンドを工夫します。
発酵終了後、赤ワインはワインと果皮などを分離するため、圧搾機にかけます。
最初は圧力を加えずに流れ出るフリーランジュースです。それ以降に搾られたものはプレスジュースで、より果皮の成分が濃い一方で、雑味を感じることもあります。
どちらが良いというものではなく、理想のワイン像に向けて巧みにブレンドします。薄旨ワインを目指すのであれば、プレスジュースを少なくする方が向いています。
こうした淡い抽出により、色が淡くタンニンが穏やかになります。
マスキングする要素の引き算
醸造法の他にも、薄旨赤ワインをつくるための条件は多岐にわたります。うま味をマスキングしてしまう強い要素をいかに減らせるかという工夫です。
まずは産地の気候。高い酸味を避けるにはある程度暖かい気候が有利ですが、かといって暖かすぎると果実味が豊かになりやすいです。
昼夜の寒暖差が大きいと、タンニンも酸味も豊かなワインになりやすいです。高い評価を得られるでしょうが、薄旨赤ワインには向いていません。
先述のマクファーソンは、大きな川が流れて寒暖差が少ない地域で、水分ストレスが少ない状態で栽培されます。なので酸味が尖らずフルーティー過ぎず、穏やかな味わいなのでしょう。


タンニンの量はブドウ品種により大きく異なります。ピノ・ノワールが代表的な渋味の少ない品種ですが、今回ご紹介したマスカット・ベーリーAやサンソーもタンニンが穏やかな品種です。
加えないことで引き出されるうま味感
発酵・熟成の段階まで亜硫酸を加えないことや、培養酵母を使わず自然酵母で発酵させること。これらは複雑な風味をもたらし、うま味を予感させるようなワインになる傾向があります。
培養酵母を加えると、選択的なワイン酵母だけが働くので、発酵は早く安定して進みます。一方で自然酵母の場合、初期の段階で自然に存在するいろいろな酵母が活動します。望ましくない臭いを生んでしまうリスクもありますが、より様々な香り成分が生まれることも期待できるのです。
自然酵母を働かせるためには、初期の亜硫酸添加はしない方が望ましいでしょう。
また亜硫酸は色素の抽出を安定させる効果があります。亜硫酸無添加のワインに色の淡いものが多いのはそのためです。
にごりはうま味のもと?
発酵後のワインには澱(おり)が含まれます。これは糖分をアルコールに変えた酵母の死骸です。
通常のワインは澱下げ(おりさげ)を行い、フィルターでろ過をしてから瓶詰めします。無濾過・無清澄であったとしても、澄んだ色で濁りのないワインをつくることは可能です。
それをあえてにごった状態で瓶詰めすることもあります。室温の高いところで保管すると再発酵が始まるなど、製品としてのリスクは高いです。
あえてにごりをそのままにするのは、うま味感やコクのためです。澱はタンパク質でありアミノ酸の集合体です。そのままうま味として感じるわけではありませんが、クリアなワインよりコクが増したように感じることが多いです。
にごりのあるワインは、醸造学的には評価されるものではありません。品種や産地の特性も隠されがちです。しかし、手頃な価格帯のブドウや凝縮しすぎないブドウからでも、しっかりと旨味とコクのあるワインをつくる有効な手法として用いられています。
求められるブドウの質
抽出を淡くしたり、オーク樽熟成の新樽を控えめにしたり。そういった何かを控えることで美味しいワインができるのなら、もっと多くの生産者がそれを目指します。
安易にこのスタイルを目指すと、ただ単に薄いだけのワインが出来上がってしまう。それが薄旨赤ワインの難しいところです。


薄旨赤ワインは、濃厚ワインに比べて香りのボリュームや余韻の長さは劣りません。軽やかな口当たりの中にもきちんと風味が広がるので、「旨」いワインなのです。
そのためには高いブドウ品質が求められます。ブドウ自体に緻密に風味が詰まっているので、過剰に抽出しようとせずとも、十分に風味豊かなワインになるのです。
亜硫酸無添加、自然酵母で発酵させて醸造を失敗しないためには、何より健全でカビや病気などのないブドウであることが大前提です。
ブドウ自体の味をピュアに表現したもの。それが薄旨赤ワインなので、ワインの価格が全体的に高めなのです。
日々の晩酌に薄旨の心地よさを
赤ワインには様々な味わいのタイプがあり、それぞれに魅力があります。
ボルドーの高級ワインのような、凝縮感もタンニンも酸も豊かなタイプは、最も高級感があります。
ブルゴーニュに代表される高級ピノ・ノワールは、風味の豊かさと美しく緊張感のある酸味が魅力です。
濃厚ながらもタンニンは控えめで、一口目から芳醇さを感じるタイプが、本数としては最もよく売れています。
そして今回ご紹介した薄旨タイプ。威厳や重厚感で圧倒するような気難しさがなく、肩の力を抜いて1本心地よく飲み切ることができるでしょう。
薄旨タイプというのは定義も選び方も造り方も難しい、これまであまり注目されてこなかったタイプです。しかしその飲み心地の良さを知って、自分の中でタイプとして整理できる人が増えれば、自然と注目度は増してくるはずです。リラックスした晩酌にこそピッタリなワインなのですから。







