品種で味をイメージできないから、ブレンドワインはついついワイン選びの候補から外しがち。
でも飲んでみたら美味しい、複数品種ゆえの魅力があるワインがたくさんあります。
ついリストの中で埋もれがちな逸品を、輸入元で働く7人の営業さんにおすすめいただきます。
各々がそのワインを"推す"理由を見極めれば、日々の晩酌ワインにアクセントが加わるはずです!
「わたしの"推し"ワインダービー」とは
旧題は「インポーターズセレクション」という名前で続けておりましたこの企画。
「そのワインについて日本で最も詳しいのは、小売店や飲食店に対してそれを売り歩く輸入元の営業さんだ」
テーマに沿った1本を、営業さんにそのワインに対する熱い想いとともにご紹介いただくのが本企画です。
美味しいものは独り占めするのではなく、たくさんの方に知ってもらいたい!その想いが文章に一番溢れれているのは誰ですか?
営業さんがそのワインをおすすめする、"推し"ワインである理由を見てみましょう。
3000円以下のブレンド赤ワイン 7人の"推し"
美味しくてその味に対して値段が安ければ、そのワインは売れる。そんな甘い話はありません。
特にインターネット販売においては、「美味しい」だけでなく「美味しそう」が重要。その点でブレンドワインは、ブドウ品種でワインの味を想像しにくいので苦戦しがちです。でもそんなものの中にも「飲んだら美味しい!」ってワインはたくさんあります。
普段は見逃しがちなブレンドワインに、7人の営業さんのおすすめを切っ掛けとして目を向けてみましょう。
"飲みやすい"ワインのニューウェーブ!
ジェロボーム 正道さんの"推し"
「新しい波」という名のこのワイン、自由な発想でつくられたことがよくわかるラベルデザインに、サスティナブル認証をとったブドウ栽培。濃厚すぎずジューシーで"飲みやすい"系の味わい。どれをとっても若き生産者ならではの『今っぽい』ワインです!
「ヌーヴェルヴァーグ」を英語にすればニューウェーブ、新しい波です!このワインにとってその名前はピッタリなんです。
ワイナリーの設立は2000年代初め。まずはこれ。ワイナリーが若くて現代風!
エシェさんとバニエさんの風貌は地元の人にとって「サーファーっぽい」と思われたそうです。「ワインのビーチボーイズだ!」と言われたエピソードに因んで、この名前を付けました。
ワインの味わいも今風です!
南仏で広く植えられているシラー、サンソー、グルナッシュ、カリニャンの4品種をブレンド。パワフルなワインもつくれる品種ですが、熟成せずともすぐ飲んでも美味しい味わいに仕上げました。濃すぎずジューシーで渋味も目立たず”今”飲んで美味しい味。それでいてピノ・ノワールほど酸味も高くありません。フルーティーで『飲みやすい味』と言っていいでしょう。いろいろな品種をブレンドするので、それぞれの特徴が出すぎないからです。
それもあってかワイン法上では「ラングドック産ワイン」ではなく「フランスのテーブルワイン」カテゴリ。地域伝統の味そのままではなく、「新しい波」に相応しい自由なワインです。
エチケットに描かれるサーフボードを持った男性は、一度見たら忘れないですよね。
サスティナブルやSDGsに注力するのも今風です。
ユーロリーフとABマーク(フランス政府によるオーガニック認証)を取得したうえで、ボトル価格の1%が海を保護する団体に寄付されるのだとか。
海やサーフィンを愛する方はぜひ手に取って「エシカル消費」(※)しましょう!
『今っぽい』感じが満載のこのワイン、「若い人にも手に取ってもらいたい」という生産者の願いの現れでしょう。肩肘張らない優しくジューシーな味わいは、普段からたくさんワインを飲む方にとってもほっとする味でおすすめです!
※環境や社会貢献などを謳う商品を選んで消費することで、サスティナブルな社会づくりに間接的に貢献すること。
これぞ真理!生産者が凄腕だから美味しい!
ワイントゥスタイル 福田さんの"推し"
「シュヴァル・ブラン」や「ディケム」といえば、ボルドーワイン頂点の一角。約10万円の高級ワインを統括するピエール・リュルトン氏が、自分の名前をつけてつくるワインがイマイチなワケがない!氏の哲学が詰まった最高のブレンドがこの価格は買いですっ!
ボルドーのワインって選んで買うのが難しくないですか?
手頃な価格帯にもたくさんのワインがあるのですが、金賞シールが貼ってあってもイマイチなものがちらほら・・・。ラベルもクラシックで似たような感じのものが多くて、違いがわからん!
美味しいものを選ぶ方法はシンプルです。凄腕の人物がつくるワインはいつも美味しい。私が推すのはピエール・リュルトン氏です。
「シャトー・シュヴァル・ブラン」といえばサン・テミリオン地区の最高級ワイン。およそ10万円から。
「シャトー・ディケム」といえば貴腐ワインの王様。およそ7万円から。
そんな高級ワインを手掛けるピエール氏ですが、彼の名前を冠したワインがあることはあまり知られていません。これはもったいない!最高峰シャトーのワインメーカーとして培った経験・技術を込めたワインが、2000円台で楽しめるのに。
高級ワインのように、何十年後に美味しくのむためのつくり方はしていません。
低温に管理されたコンクリートタンクで低温・長時間のアルコール発酵。それゆえチェリーやブラックベリーのようなフルーツの香りが豊かに広がり、やさしいタンニンとともに余韻に長く続きます。樽香がっしりではなく、ブドウ本来の風味を全面に表現した、今飲んで美味しいワインです。
ラベルに描かれるドア・ノッカー。ピエール・リュルトン氏が生家にあったものを描いています。
「新たなるボルドーの扉となる」という意味と「故郷ボルドーヘのノスタルジー」の想いを込めたデザインだといいます。
凄腕醸造家が自分の名前をつけてつくるワインはやっぱりうまい!きっとあなたにとって、新たなボルドーの扉をひらくワインとなってくれることでしょう。
赤身肉のグリルや、やや熟成を感じるチーズ、ブリー・ド・モーやカマンベール・ド・ノルマンディーなどとの相性は抜群です!
なじみの品種で巡礼者も嬉しい親しみやすさ!
アズマコーポレーション 佐々木さんの"推し"
初めて知るワイン産地だとしても、慣れ親しんだブドウ品種なら手を出しやすいのでは?あえてハンガリーで国際品種を使うのはそういった意図から。1000年続く世界遺産の修道院がつくるワインには、訪れる人への思いやり、『愛』がブレンドされています。
ブレンドワインの長所の一つ。それは『安定して美味しい』ことです。
年によって熱い寒いや雨の多少の差はあります。複数の畑・品種を使ってブレンド比率をそのヴィンテージに応じて調整する。自分たちが信じる「美味しいワイン」のイメージに近づくように工夫する。そうすれば単一品種でつくるワインに比べて、年ごとの味わいの違いは小さくなります。
このワイナリーはハンガリー最古の「パンノンハルミ修道院」が運営しています。なんと1000年以上にもわたって、ベネディクト派の修道士たちからワイン造りが受け継がれてきました。その歴史的価値が認められ、1996年にはユネスコ世界遺産に認定されています。
修道院なので世界中から多くの人が巡礼に訪れます。中には定期的に訪れる人もいます。
他の産地では目にしないような土着品種が多いハンガリーですが、このワインに使われるのは親しみのある国際品種ばかりです。
世界中にファンの多いピノ・ノワール。豊かな果実味が人気のメルロー。カベルネ・フランから感じるパプリカの香りは、ハンガリーの人にとっては香辛料として大切なものだといいます。
初めて訪れる人にも安心して手に取ってもらえるようにという『愛』です。
さらにブレンドワインならではの味わいの安定性。一度気に入った人が次回訪れたときにがっかりしないように。いつもの美味しさを楽しめるようにという『愛』です。
とてつもなく長い歴史のある修道院が、1000年物の『愛』を込めてつくるワイン。1本のワインに悠久の時間が詰まっているように感じませんか?
ボルドー好きが思わずうなった味とコスパ!
三国ワイン 今井さんの"推し"
ボルドーワインを愛する友人と飲んだ時「これボルドー右岸のワインっぽくない?しかも格付けの!」とその味わいと、2000円くらいの価格に興奮していたこのワイン。同価格帯のボルドーワインに勝る味わいの骨格を持つのは、さすが老舗ワイナリーです!
「ニュージーランドのワインといえばソーヴィニヨン・ブラン」ってイメージありませんか?決して間違ってはいません。なにせ生産量の70%を占めているのですから。
だからこのワインを初めて試飲したときは、「ニュージーランドでボルドー品種のブレンドって珍しい!」って印象でした。赤ならピノ・ノワールのイメージでしたから。でも飲んでビックリ!しっかりとした味わいの骨格があって、スパイシーな風味と豊かなタンニンを持ちます。当然ながらピノ・ノワールは全く別物!
そしてこの価格。私の中で同価格帯のボルドーワインは、メルロー主体のチャーミングで軽快なイメージ。悪く言えばちょっと物足りないかも。それにヴィンテージが若いものはたまに硬い印象に感じることがあります。
それと比べてこのヴィラ・マリアは、まろやかな口当たりに適度なパンチがあって、いきいきとした酸とのバランスがいい。まさにコスパワイン!
この味をつくるのは絶妙なブレンドです。凝縮した果実感のカベルネ・ソーヴィニヨン。バランス感としなやかさのメルロー。そこにマルベックの深みとカベルネ・フランの華やかさが個性を加えています。
それをこの価格で実現できるのは、ヴィラ・マリアがニュージーランドの老舗ワイナリーだからでしょう。1961年という黎明期にスタート。2001年には大手ワイナリーとして初めて全商品にスクリューキャップを導入しました。大規模ワイナリーだからこそ品質向上のための研究に余念がないのです。
イギリスの「ドリンクス・インターナショナル」誌にて、「最も称賛されるワインブランド」に9年連続選出。世界60か国以上で愛されているワインなのです。
有名品種の陰に隠れがちなワインだからこそ、ぜひこの機会にお試しください!
規格外のブレンドだからこそ一口目からうまいっ!
フィラディス 星野さんの"推し"
一言で表すなら「濃厚果実が溢れ出すフルボディ!」。それを約2000円という価格で実現できるのは、高級ワインには許されない州をまたいだブレンドだから。イタリアワインの楽しい雰囲気と日本人の味覚にフィットする濃厚ななめらかさに虜になっちゃう!
【格付けにこだわらないから「テーブルワイン」】
イタリアにおいて上級ワインは、産地の特徴を表現したブランド銘柄である必要があります。「キアンティ」や「バローロ」のようなもの。だからこそ隣の州のブドウをブレンドするのはNG。それをすれば最下級の「Vino de Tavola」つまりテーブルワインクラスとなってしまいます。
あえてその最下級クラスでリリースするのは産地に縛られないため。州をまたいだとしても傑出したブドウが手に入るならばつかう。そして"生産者が目指す美味しさ"をとことん追求するためです。
【ブレンド比率はこの年のベスト!】
ご紹介する2021年ヴィンテージは、モンテプルチアーノとメルロー、ネーロ・ディ・トロイアの3品種です。しかしこれは固定ではなく、年によってはサンジョヴェーゼやネグロアマーロも使う5品種のブレンド。抜群の出来だったブドウだけを使うからこそ、溢れるような濃厚果実味が毎年楽しめるのです。
【その多層的な風味は心に突き刺さる!】
このワインは小難しく考えて飲むものではありません。「この土地の味が・・・」とか「生産者の特徴は・・・」なんてものは一切関係なし!
簡単に言うなら「濃厚な果実味が押し寄せるようなフルボディの赤ワイン」以上です。
完熟して濃密なチェリーやブルーべりー。そこにチョコレートのような甘く香ばしいニュアンス。果実味は非常にジューシーで滑らかで、渋みは控えめです。
きっといくつもの品種をブレンドしているからでしょう。風味が多層的といいますか、同時にいくつもの香りが鼻を抜けていきます。その魅力は最初の一口目からしっかり味わえる。一度口にしたならあなたも虜になっちゃうかも?
『ビオ』の悪いイメージ払しょくしてくれます!
いろはわいん 小川さんの"推し"
言葉が独り歩きしていて、欠陥のあるワインも確かにみられる『ビオ』ワイン。悪いイメージを持つ方も今一度試していただきたい1本がこちら。よく熟した上質なブドウだからこそ、香りも味わいも健全で飲みごたえのあるフルボディ。悪いイメージは吹っ飛ぶはず!
化学物質や酸化防止剤を加えないのがいいのではありません。美味しいワイン造りを追求した結果が、なるべく人の手を加えない「ナチュラルな」造りだっただけです。
元バルセロナ市長であるファン・デ・ポルシオレス氏は、引退後に700ヘクタールの広大な土地を購入。長年の夢であったワイン造りを始めます。彼は単にワインを造りたいのではなく、絵本のように美しい農園とその生態系を愛していました。だから野生の豚が見られるその土地で、穀物や野菜をオーガニックで育てています。30%は森のまま残しており、残りのわずか80haでブドウを育て、それをワインにしているのです。
健全な生態系の中で育った完全なブドウだから、ワインにするときに必要な工夫はあまりありません。ステンレスタンク発酵、アメリカンオークとフレンチオークで9か月熟成となんら変哲のないもの。それで美味しいワインとなるのは、ブドウが高品質だから。14.5%の高いアルコールはその証拠の一つです。さらにジェームズ・サックリングなどの評価誌のポイントや、ブリュッセルワインコンクールやデキャンタワインアワードなどの受賞歴が、その味わいを保証しています。
「ガルナッチャ」と「テンプラニーリョ」の2品種はしっかりとした渋味が特徴ですが、3年以上の熟成で滑らかになっています。テンプラニーリョ単一だとドライで筋肉質すぎるところを、ガルナッチャの赤系果実の風味がいい感じに和らげています。飲むならまさに”今”。
美しく健全な自然の中でのワイン造り。このフルボディの赤ワインを飲めば、「ビオワインといっても生産者次第。いい生産者のワインは美味しい」という当たり前のことを再確認できることでしょう。
試飲でやたらと美味いと感じたら、やはり・・・
モトックス 吉川さんの"推し"
社内で定期的に行われる自社ワインの試飲。ひと際光るものがあると思ったら生産者は"あの"ティエンポン家。年始の某格付け番組でおなじみの100万円ワイン『ル・パン』を手掛けるつくり手です。手頃な価格にエレガンスと技術の粋が詰まっています!
古くて貴重なヴィンテージになると100万円をこえる「ル・パン」は、ボルドーでも最高級ワインです。名前と希少性だけじゃありません。その評価も抜群です。
100点パーフェクトの評価をパーカーポイントで3回&ジェームズ・サックリングで8回も獲得。姉妹ワイナリーといえる「ヴュー・シャトー・セルタン」も、ワインアドヴォケイトで3回&ジェームズ・サックリングで5回も100点獲得。まさにワイン好きの憧れワインなのです。
ただしその分、我々庶民が1本買って飲み頃まで熟成させて飲むというのは現実的ではない・・・。
だからこそ今回みなさまに推したい1本。上記の100点ワインをつくる生産者であるティエンポン家が手掛けるバリューワインは、普段飲み価格なのに素晴らしく上質です!「ル・パンを想わせる・・・」というのは言い過ぎかもしれませんが、メルロー主体に体現するパワー&エレガンスは、さすがトップ生産者というところ。その日なん十本と試飲したなかで、味わいのバランス感が非常によく、一番印象に残りました。
手頃な理由は生産地区が違うからです。アントル・ドゥ・メールの中でも北東部。高級ワインの産地からは少し離れており、手頃なワインが多い地域にある4haの自社畑からつくります。土壌は石灰の含有量が多く、これがメルローを得意とするティエンポン家にとって理想的な畑だから、2003年にこのシャトーを購入したのだとか。
そこから年産2万本なので、畑の単位面積当たりの収穫量は38hl/haほど。これは高級ワイン並みの収量制限をしている計算で、手頃な価格だからといって大量生産ではありません。
高級ワイン並みに丁寧に育てたブドウに、100万円ワインの醸造技術を用いてつくるワインが2000円台。ん?価格付け間違えてない?
そう考えたのは私だけじゃないようで、今年のサクラアワードで見事金賞を獲得しました!