シャルドネ好きもリースリング好きも気に入る可能性が高いのがシュナン・ブランという品種。
ロワールと南アフリカにて大部分が生産される、非常に余韻のキレがいい白ブドウ品種です。
2大地域の違いとスパークリングや甘口などのバリエーションを知らねば、この品種の魅力を理解したとは言えません。
単なる「スッキリ系」で片づけられない、シュナン・ブランの魅力をご紹介します。
ブドウ品種シュナン・ブランの詳細
シュナン・ブランを本当に一言で表したいなら次のとおり。
「繊細で控えめな香りと軽い口当たり、高い酸味を持つ、スッキリ系白ワインをつくる白ブドウ品種」
この特徴に当てはまるものが多い一方で、シュナン・ブランの魅力はこれだけではありません。
シュナン・ブランの栽培面積
少し古い2005年のデータですが、OIV(世界ブドウ・ブドウ酒機構)の統計によると、シュナン・ブランの全栽培面積はおよそ3.3万ha。
うち1.8万haが南アフリカで1万haがフランスであり、2か国でほとんどを栽培しています。フランスといってもほとんどがロワール地方の中部、アンジュー地区とトゥーレーヌ地区が大半です。
シュナン・ブランを知るには、まずこの2地域から探せばOKです。
シュナン・ブランの起源
シュナン・ブランが最初に文献に登場したのは15世紀の終わりのこと。「プラン・ダンジュー」というシノニム(ブドウ品種の別名)の名のごとく、アンジュー地区で栽培されてきたと考えられます。
この名前はシュナン・ブランを含むいくつものブドウ品種をフランス全土から取り寄せて植えられた、「モンシュナン」修道院に由来すると言われています。
ちなみにシュナン・ブランの別名で「スティーン」というものがあります。南アフリカで使われてきた呼び名です。いつの段階かで南アフリカに持ち込まれ、ずっと栽培されてきたものが1960年代にシュナン・ブランと同一であるとわかったそうです。
※ジャンシス・ロビンソン著『The Grapes』による
シュナン・ブランの栽培上の性質
シュナン・ブランのブドウとしての性質を挙げるなら、発芽が早くて霜害にあいやすいという点です。それもあってロワール地方では特にロワール川のそばで栽培されてきたのでしょう。大きな川の近くにある畑は、霜害を免れやすい性質があります。
加えて特徴点なところとして、ブドウの熟度が粒ごとにばらつきがあることが挙げられます。
ブドウ1房の中でも、果汁糖度に違いがあるのは一般的です。房上部の肩の部分が最も甘く、先になるほど糖度が低くなると言われています。
その傾向がシュナン・ブランにはあまり当てはまらない。
粒によって熟度が違うのは、収穫のタイミングを決めるのを困難にします。
1粒だけの果汁で熟度の判断ができないので、いくつかの房を絞って平均値を出す必要があります。
シュナン・ブランのワインとしての特徴
シュナン・ブランでつくる白ワインは共通して高い酸味を持ちます。この酸味ゆえに上質なものは何十年と熟成していくポテンシャルを持っています。
高い酸味を保ちやすい性質は、上質な甘口ワインの生産を可能にします。ロワール地方の中にはいくつか甘口シュナン・ブランで有名な地区があります。またスパークリングワインにしてもスッキリ心地よい味わいのものができます。
ボディ感は基本的に軽めです。熟度が高いブドウでアルコール度数が高くなれば、ある程度はボリューム感も出ます。それでも同じ度数の他の品種に比べてスマートな印象を感じます。
それを補うべく、オーク樽熟成されることもあります。
体表的な香りは、ハチミツやリンゴ、白い花など。シャルドネやソーヴィニヨン・ブランといったより有名な品種に比べると、香りの特徴は控えめです。ブラインドテイスティングで当てるのは結構難しい品種でしょう。
シュナン・ブラン タイプの多様性 甘口ワイン
シュナン・ブランは辛口・甘口・スパークリングワインになりますが、やはり辛口のものが一番多く日本で流通しています。
なので辛口を最後にして甘口のものからご紹介していきます。
ロワール地方中部、アンジュー地区内のボンヌゾーやコトー・デュ・レイヨン、カール・ド・ショーム、およびトゥーレーヌ地区内のヴーヴレやモンルイ・シュール・ロワールなどで甘口シュナン・ブランがつくられています。
また南アフリカでも、数は多くありませんが貴腐によるデザートワインがつくられています。
甘口シュナン・ブランの特徴
ハチミツのような上品で優しい香りを持ち、透明感のある甘味とキレのいい後味。
ワインによる個体差があるのは当然なうえで甘口シュナン・ブランの特徴を表すなら、このようなものでしょう。
それほど濃厚に甘いワインはつくられません。
ソーテルヌに代表される貴腐ワインを想像したら肩透かしを食らうかも。
「高い酸味とほのかな甘みがバランスをとる、甘酸っぱいワイン」
こうイメージするといいでしょう。
甘口ワインの糖度表記
「甘口ワイン」といってもその甘さは様々です。
「買って飲んでみないとわからない」では困りますから、ロワールのシュナン・ブランには下記の表記があることが多いです。
名称 | 残糖値 | 甘さの程度 |
Sec セック | 4g/L以下 | 完全辛口 |
Demi-Sec ドゥミ・セック | 4~12g/L | 注意すれば甘味を感じる程度のスッキリさ |
Moelleux モワルー | 12~45g/L | 明確に甘さは感じるが「濃厚」という表現は当てはまらない |
Doux ドゥー | 45g/L以上 | しっかりと甘味を感じるが「デザートワイン」というほどではないものも含まれる |
ドゥーの最低糖度である45g/Lといっても、実際はそれほど強い甘さを感じません。
缶チューハイに例えるとキリン氷結のグレープフルーツくらい。レモンよりは甘くてオレンジよりは甘くない。それくらいの糖度です。
シュナン・ブランの高い酸味に支えられ、甘味があっても驚くほどスッキリとした余韻です。「私は辛口ワインしか飲まないから」と毛嫌いするのはもったいないです。
南アフリカで上記にならった表記は目にしたことがありません。つくるなら辛口かデザートワインかの2択で、その中間の半辛口・半甘口は見たことがありません。
甘口シュナン・ブランのおすすめ銘柄
品揃え豊富というほどではありませんが、当店で取り扱いのある甘口シュナン・ブランをご紹介します。
ヴーヴレ地区を代表する生産者がユエです。
セック、ドゥミ・セック、モワルーと様々な甘さのシュナン・ブランをつくります。それはラインナップとして決めているわけではなく、自然任せ。暑い年にはセックが生産されないときもありますし、涼しい年にはモワルーは少な目です。
ドゥミ・セックのこちらは注意したら甘味を感じる程度でほぼ辛口です。
通常の「モワルー」だけでなく、より上級の「モワルー・プルミエ・トリ」というグレードもつくられています。
「ジャニエール」という75haしかない小さな生産地域にある「ドメーヌ・ベリヴィエール」も人気生産者。新樽熟成したシュナン・ブランの甘口というなかなか珍しいタイプのワインをつくっています。
シュナン・ブランが全域で栽培されている南アフリカですが、甘口ワインに関しては別にシュナン・ブランが多いということはありません。
このワインはシュナン・ブランが2/3使われています。全体として乾燥している気候ですので、霧が発生しやすいエリアを選んで貴腐ワインを生産しているそうです。
シュナン・ブラン タイプの多様性 スパークリング
シュナン・ブランはロワール地方のスパークリングワイン「クレマン・ド・ロワール」に許可されたブドウ品種の一つ。多くの品種が使えるのでブレンドされることも多いです。
ワインは手頃なものが多いと言いますか、高級品はつくれないとみなされているようです。
またフランス南西部のリムーのあたりでも少量栽培されています。この地の土着品種「モーザック」を主体としたスパークリングワインにブレンドされることがしばしばあります。スッキリとした酸味を補う目的でしょう。
シュナン・ブランでつくる泡の特徴
シュナン・ブランのスパークリングワインは、「クレマン・ド・ロワール」をはじめ伝統的製法によるものが多いです。
高い酸味や軽い口たりといった白ワインの特徴が、スパークリングワインからも感じられます。
一方で香りの複雑さや果実味の質感といったものに関しては、シャルドネやピノ・ノワールの上級スパークリングワインには及ばないでしょう。
手頃な価格帯で比べたら決して魅力は負けませんが、高い味はつくりにくそうです。
参考記事 伝統的製法について▼
シュナン・ブランでつくるスパークリングのおすすめ銘柄
シュナン・ブランに限らず当店のスパークリングワインで最も人気があるのがこの銘柄です。
風味にやたらと特徴があるわけではありません。基本に忠実な味わいの、手頃で繊細な香りのスッキリスパークリングです。だからこそ飽きずに飲み続けるのでしょう。
シャルドネなどの他の品種をブレンドする場合もあります。主張しすぎない香りが食事の邪魔をしにくいので、相性をあまり考えない夕食のおともに使いやすいワインです。
フルーツの香りのボリュームで比べるなら、同価格で南アフリカ産の方が豊かな傾向だと感じます。
この違いは辛口シュナン・ブランでも感じます。
フランスと南アフリカで比較する辛口シュナン・ブラン
辛口のシュナン・ブランで手に入りやすい銘柄は、次の3つに分類するとわかりやすいです。
辛口シュナン・ブランのタイプ
- アンジュー&トゥーレーヌ地区の繊細で軽やかなスタイル
- スワートランドを中心とした、シャープな酸味とミネラル感を大事するスタイル
- ステレンボッシュを中心とした、樽熟成してリッチなスタイル
もちろんこれに漏れるものもありますが、この3つの方向性をもとにお話ししていきます。
ロワール、代表的なシュナン・ブランの産地とその特徴
ロワールにおいて辛口シュナン・ブランの産地は、まずは「アンジュー」です。ただこれは広域AOCであり、その中にいくつもの小地区を含みます。
甘口シュナン・ブランをつくる地区はいくつもありますが、辛口シュナン・ブランの地区は実は少ない。その中で真っ先に名前が挙がるのが「サヴニエール」でしょう。
この地区にはロワールを代表する生産者「ニコラ・ジョリー」のドメーヌがあります。早期にビオディナミ栽培を導入し広めた生産者として有名で、ブルゴーニュのルロワやルフレーヴもここでビオディナミを学びました。
フラッグシップワインの「クロ・ド・ラ・クーレ・ド・セラン」は特別な評価を受け続けてきたワイン。ただしこれまで紹介してきたソーヴィニヨン・ブランの特徴とは結構違い、ボリューム感豊かで熟したフルーツや様々な花の複雑な風味を持ちます。
その知名度と特異性から「クーレ・ド・セラン」というわずか7haの、ニコラ・ジョリー単独AOCが認められました。
基本は辛口なのですが、ヴィンテージによってやや甘口であることもあります。
シュナン・ブランはアンジュー地区近くのソーミュール地区でもつくられるほか、トゥーレーヌ地区でもわずかに辛口ワインがつくられます。
主に先ほど甘口でも紹介した、ヴーヴレやジャニエール地区です。
先ほどのユエがつくる辛口も抜群に美味しいのですが、人気生産者だけあって価格は高め。このワインはその半額ながら、シュナン・ブランのいいところがちゃんと表現されています。
南アフリカ、繊細系シュナン・ブランの産地とその特徴
このスタイルで高品質なシュナン・ブランをつくる地区は、西ケープ州北西に広がる「スワートランド」です。
西側は大西洋のため特別温暖というわけではないのですが、非常に乾燥していて昼間はかなり暑くなります。南側にあるステレンボッシュよりもブドウがよく熟すのですが、生産者はスマートなスタイルを目指して早摘みするため、シャープな酸味とミネラル感が際立つ味わいに仕上がります。
シュナン・ブランで有名なのは、A.A.バーデンホーストやマリヌー。
※長くメーカー欠品中です。
酸味が高いのはもちろんですが、ロワールに比べるとフルーツの印象がやや強く、よりメリハリのある味わいに感じます。ロワールと比べたときに緯度がずっと低いので、日照の強さによるものでしょう。
ヘメル・アン・アードという冷涼地域でつくられるこの「カルトロジー」も目指す味の方向性としては似ています。決してアルコール度数は高くなく細身な味わいですが、驚くほど多様なフルーツの風味を感じます。
生産量ベースでいえば、温暖なパール、マルメスブリー、オリファンツ・リヴァーなどで栽培面積が大きいです。ただ高品質なものは少なく価格も安いので、樽熟成なしで「南アフリカ」や「西ケープ州」表記のものとして販売されているのでしょう。
南アフリカ、樽熟成シュナン・ブランの産地とその特徴
スワートランドよりは涼しい「ステレンボッシュ」の方が、アルコール度数が高くリッチなシュナン・ブランをつくる傾向にあります。
一部新樽を使った樽熟成によって風味も豊かになっていますので、一般消費者にウケがいいのはスワートランドよりステレンボッシュでしょう。
当店で人気が高い生産者はステレンラストで、まさに先ほど述べた特徴の典型例です。
ステレンラストについてはこちらで詳しく▼
シュナン・ブランを選ぶべきシーン
シュナン・ブランの味わいを言葉にしたとき、樽熟成していたらシャルドネに近くなり、樽熟成していないものはリースリングと似てしまいます。
「だったら別に冒険せずとも、慣れ親しんだブドウ品種のワインを飲めばいい」という気持ちもわかります。
他の有名品種じゃなくてシュナン・ブランがいいというシーンをご紹介します。
野菜料理と一緒に
樽熟成なしのシュナン・ブランは繊細で控えめな香り。だからこそ繊細な料理の邪魔をしないんです。
例えば前菜として食べる野菜のサラダ。シャルドネや香りが強めのリースリングだと、風味が勝ちすぎることがあります。シンプルに塩コショウで味付けた野菜炒めなどでもいい。
シュナン・ブランの控えめな風味と高い酸味は、野菜料理で生きると考えます。
これに関してはもっと特徴のない白ワインでも代替できるでしょう。例えばミュスカデやトレッビアーノなどでもいい。そういった個性が強くない品種のなかでは、シュナン・ブランは味をイメージしやすい方でしょう。
シャルドネ好きの気分転換に
樽熟成したシャルドネと同価格帯で比べたとき、ステレンボッシュ産のシュナン・ブランはより酸味が高く味わいが立体的です。
樽香の強弱はワインにより様々ですが、ボディ感はしっかりとあるので「酸っぱい」とは感じにくいはず。
酸味が高ければワイン単体で飲んだ時の後味のキレがいい。暑い時期などはシュナン・ブランの方がより美味しく感じるでしょう。
また酸味は料理の油脂を切る効果がありますので、バターやクリームを使った料理をより引き立ててくれます。
何も考えない晩酌のガブ飲みワインに
西ケープ州産のシュナン・ブランは、1000円台前半のかなり手頃なものを選んでも、極端に味のバランスが悪いものはありません。
シャルドネと比較したとき、ガッカリするようなワインに当たる確率は低いはずです。
価格の安さゆえに薄っぺらい味わいになるものは多いですが、真剣に味わうのではなくガブガブ飲みたい日などはちょうどいいでしょう。
このワインは少量ブレンドしたヴィオニエが良い仕事をして、薄っぺらくなるのを防いでいます。
いつもの夕食に名わき役、ワイン会の影の主役
ここまでご紹介した通り、シュナン・ブランでつくるワインは一部を除いてド派手は味わいのものはありません。
だからこそ普段の晩酌に飲むワインの1本としては、基本的には脇役に徹します。美味しい夕食を楽しむための1本。クレマン・ド・ロワールなどはまさにその典型です。
しかし5000円を超えるような高級シュナン・ブランは、十分主役級の個性を持ちます。しかも有名品種と違って、地域を代表する生産者のトップクラスが何万円もしません。十分現実的な値段で著名ワインを楽しめます。
ワイン好きが集まる会に持っていき、何本か開ける中の1本として楽しんでほしい。パッと一口飲んだ時の印象は、そりゃあ濃厚な赤ワインには負けます。しかし全部のワインを飲んだあとに振り返る印象では、シュナン・ブランの上品な余韻を一番に思い出すかも。
表の主役でなくとも、影の主役になりうるのが高級シュナン・ブランです。
「こういうときには〇〇というブドウ品種のワインを飲もう」
あなたのワイン選択肢の中に、シュナン・ブランはぜひ加えるべき品種です。