ワインのつくり方

アイスワインはなぜ甘い?デザートワインを知って選ぼう!

2021年9月15日

アイスワインはなぜ甘い?デザートワインを知って選ぼう!
 
「アイスワイン」は非常に濃厚な甘口ワイン。梅酒やリキュールを割らずに飲む、くらいの鮮烈な味わいです。
それでいて砂糖で甘くされたそれらとは違って、甘味が上品で美味しい!
その響きが覚えやすいからか、「甘いワイン=アイスワイン」と思っておられる方も多いようです。
おすすめのアイスワインとともに、その違いを基礎からご紹介します。
 
 

アイスワインはなぜ高い?

 
アイスワインって甘口のワインがあるんだ。ちょっと飲んでみたいな
 
そう思って百貨店のワイン売り場で尋ねてみると、ちっちゃい瓶なのにまあまあいいお値段するものがおすすめされるはずです。
楽天市場の通販で「アイスワイン」と入れて検索しても、ハーフボトル(375ml)で2000円くらいからです。
(大量にアイスワインじゃないものが出てくるので、選ぶのは大変です)
 

アイスワインはハーフボトルのものが多い

 
あまり安いアイスワインがないのって、どうしてなのでしょうか?
それは、アイスワインの製法に理由があります。
 
 

ワインはどうして甘くなる?

 
ワインが甘い理由は大きく2つ。
発酵を途中で止めているか、もともとの果汁糖度が高いかです。
そしてアイスワインくらい甘いものをつくるためには、必ず後者のもともと果汁糖度が高いというのが条件です。
 
 
スパークリングワインも考えるともう一つあるのですが、今回は割愛します。
 
出来上がったワインに砂糖加えたらいいんじゃない?
 
確かにそれでも甘くはできますが、さすがにそれほど人工的だと味わいに出てしまうのでしょう。ほとんど見かけません。国によっては禁止されています。
稀に低価格ワインで濃縮ブドウ果汁を仕上げに加える、というものはあります。それにしたって味の調整程度で、辛口ワインを甘口にするほどではありません。
 
 

発酵に使った残りが甘味

 
ワインはブドウを発酵させてつくるお酒。
ブドウの糖分がアルコールに変わるのです。
しかし、発酵の際に働く酵母には限界があって、ある程度のアルコール度数になると自らの生み出したアルコールで殺菌されて死んじゃうのです。
 
ワインのアルコールはどんなに高くても17%ほど。たいていは12~14.5%くらいです。
もちろん、含まれている糖分を使いきれば発酵は止まりますが、酵母が使い切れないほど果汁の糖分が多いと、糖分の残った甘口ワインになるのです。
 
 

極甘口ワインはアルコール度数が低い

 
高い糖度は酵母や微生物の動きを悪くします。
水あめは常温でも腐らないですし、砂糖には賞味期限がないですよね。
 
高い糖度の果汁の中では、アルコール発酵の酵母も通常のようには働けません。
通常よりも低いアルコール度数で活動が止まってしまいます。
 
アイスワインにはアルコール7~10%程度のものが多いのは、このためです。
 
 

アイスワイン、果汁糖度の高め方

 
アイスワインはもともとの果汁糖度が高いから甘い。
ではどうして果汁糖度が高いのでしょうか?
 
それは凍結したブドウの果汁を絞るからです。
 
夏場にスポーツドリンクなどのペットボトルを、凍らせて飲んだことはあるでしょうか?
もしくはチューペットなどのシャーベット菓子でもかまいません。
 
 
溶けかけを飲めば通常よりも甘くておいしいですが、後に味が薄くてスカスカな氷部分が残ってしまいます。
 
この最初の甘い部分だけを使うのが、アイスワインなのです。
 
 

アイスワイン用ブドウの収穫

 
-7℃以下にまで気温の下がった夜明け前。アイスワイン用のブドウの収穫が行われます。
ヘッドライトをつけて、凍ったブドウを一つずつ収穫していくのです。
そのまま素早くワイナリーに運ばれ、凍ったままプレス機にかけられて濃厚な果汁が絞られます。
 
 
凍った部分は使われないので、絞られる果汁は収穫したブドウに対して、わずかです。
これがアイスワインが高価な最大の理由
 
ブドウに対して、つまり畑の面積に対してつくれる量が少ないからです。
 
 

アイスワインがつくれる国

 
アイスワインの生産が正式に行える国。
実はドイツ、オーストリア、カナダの3か国のみです。
ブドウが健全に成熟するほど暖かく、なおかつ冬場が-7℃以下まで下がるほど冷涼。
そんな限られた気候条件の国でしかつくることができないのです。
 
 
なお、ドイツ語圏であるドイツやオーストリアでは「ICE WINE」という表記ではなく、「Eiswein アイズヴァイン」という表記が主流です。法律でも規定されています。
 
 

アイスワインのリスク

 
アイスワイン用ブドウを収穫する時期は、12月や1月。
当たり前ですが、それまで畑にブドウを残しておかないといけません
これはリスクです。
 
通常の辛口~やや甘口ワインをつくるためのブドウが成熟するのは、遅くとも10月下旬くらいでしょう。それをさらに2,3か月樹につけておくのです。
その間に雨が降れば、ブドウがカビてしまうのを防ぐために、葉っぱを減らして風通しを良くしたり、カビ防止の農薬をまくひつようがあります。
それどころか、ブドウが水を吸って玉割れを起こす場合もあります。成熟したブドウは果皮が柔らかくなっており、土壌の水分が急に多くなって水を吸い上げると、果皮が破れて果汁がこぼれることがあるのです。
全ての粒が一斉に割れるわけではありません。しかし、破れた粒から腐敗が広がって、ひと房まるまるダメになってしまうこともあります。
 
 
周りの畑のブドウが収穫を終えているなら、アイスワイン用のブドウは鳥たちにとって格好のおいしいごはんでしょう。
 
それらのリスクを乗り越えても、暖冬でアイスワインにならない、アイスワインとしての販売が許可されない場合もあります。
 
これらのリスクをとるためのマージンが含まれているのも、アイスワインを高価にする理由です。
 
 

アイスワインの類似品?

 
アイスワインが生産されるのはドイツ、オーストリア、カナダのみとご紹介しましたが、中にはそれ以外の国でつくられるもので「ICE WINE」表記のあるものがないわけではありません。もしくは似たような表記が見られることもあります。
 
たいていそれらは、安価です。
何か理由があるのでしょうか?
 
 

クリオエクストラクション

 
収穫したブドウを冷凍庫に入れて凍らせ、アイスワインと同じような状態を人工的に作り出す手法を「クリオ エクストラクション Cryo-extraction」と呼びます。日本語にすると「氷結搾り」といったところでしょうか。
これなら温暖な地域においても、アイスワインと同様の甘口ワインをつくることができます。
 
 
 

クリオ エクストラクションの優劣

 
アイスワインの自然凍結に比べて、クリオ エクストラクションが品質面で劣る点。
私は今のところ文献などで目にしたことがありません。
 
ドイツなど3国の伝統的なアイスワインに敬意を払う一方で、「自然にできるものの方が素晴らしい!」という考え方を私は全く持っておりません。
クリオ エクストラクションでも美味しければいーじゃん」というのが持論です。
 
ただ、現状はクリオ エクストラクションはあまり高額なワインをつくるためには行われておりません。
もともとのブドウの質が劣れば、手法の優劣はどうあれアイスワインほど美味しくないのは当然。
 
安くて美味しければいいのであれば、「ICE WINE」の名称は使ってほしくないですが、クリオエクストラクションもありでしょう。
ただし、ワインに詳しい方へのプレゼント用途は、「こんなまがい物!」という風に思われる可能性もありますので、おすすめしません。
 
 
そして「甘くておいしいワイン」が飲みたいのであれば、アイスワインだけにこだわる理由はありません
 
 

他にもあります!甘口ワイン

 
アイスワインは甘口ワインのカテゴリーの一つにすぎません。
他にも果汁糖度を高める方法はいくつもあります。
 
甘口ワインについて、当店では甘さによって2段階に分けてご紹介しております。
 
 

甘口ワインとデザートワイン

 
当店では商品ページに独自の「味わいチャート」を表示しております。
白ワインの場合は、縦軸は甘さが基準です。
上から「完全な辛口」「糖分の甘味はないが、風味はちょっと甘い」「ほのかな甘さの半辛口」「甘口」「極甘口のデザートワイン」と分けております。
 
 
甘口と極甘口ワインの境界をどこで引くか。もちろん当店なりの線引きですが、「グラス1杯100ml飲めるかどうか」「食前酒としてありかどうか」です。これくらいなら「甘口」と判断しています。
デザートワインはそれよりも少量、30~50mlくらいを食後に飲むのがちょうどいいと感じています。一度に飲む量が少量なので、ハーフボトルのものが多いです。アイスワインもこちらです。
 
ちなみに世の中には「トカイ エッセンシア」や「ペドロ ヒメネス シェリー」のように、ハチミツくらい甘いワインも存在します。しかしほとんど入荷しないので、デザートワインに含めています。
 
 

初心者はまず甘口ワインを

 
普段チューハイや梅酒などが好きで
 
アイスワインって言ってみたけど、別に製法とかなんでもよくて、甘いワインが飲みたいの
 
というワイン初心者は、まずは甘口レベルから始めることをおすすめします。
梅酒ロックを飲む、くらいの分量感覚で飲めば、そう違和感なくいい気持ちになれるはずです。
 
たとえばこのワインくらいから。
 
 
デザートワインを梅酒ロックくらいの分量飲んでたら、摂取する糖分量もすごいですし、「あれ?もうなくなっちゃった」ということになりかねません。まあまあいいお値段してしまいますし。
 
まずは甘口を飲んでみて、物足りない場合や、食後酒として飲みたいときにデザートワインにいくといいでしょう。
 
 

アイスワインだけじゃない、デザートワイン

 
アイスワインは凍結によって果汁を濃縮しました。
他にも甘い果汁を得る方法はいくつかあります。
 
代表的なのが「貴腐」と「アパッシメント」です。
「貴腐ブドウ」というのは、収穫期の白ブドウに貴腐菌がついて、それがブドウの果皮に小さな穴を開けることによって水分が蒸発し、レーズン状になったブドウのことです。一見、腐ってダメになったように見えるブドウから、驚くほど複雑な風味のワインができるのです。
 
 
たとえばこちら
 
こちらは例外的に安価ですが、一般的にはアイスワインと同等の価格と考えた方がいいです。
 
 
「アパッシメント」というのは、レーズンからつくるワインと思ってください。
ブドウとレーズンを比べたら、レーズンの方が甘い。収穫したブドウを1,2か月ほど陰干しして、濃い果汁を作り出すのです。
アイスワインも貴腐ワインもつくれない地域で、時折見かける製法です。
収穫しないまま乾燥してくるのを待つ「レイト ハーヴェスト」も、似たような効果が得られます。
 
 
 

アイスワインの特別な味わい

 
甘味と酸味の絶妙なバランス
ブドウ由来の濃厚でピュアな風味
それがアイスワインの味わいの魅力です。
 
 

酸味があるからすっきり飲める

 
甘いお酒が飲みたいなら、スーパーでクレーム・ド・カシスを買って、ストレートかロックで飲めばいい。
ただ、3口目くらいで胸やけを起こす方が大半でしょう。
 
確かにクレーム・ド・カシスの糖度はアイスワインと比べても2~3倍はあるので、単に甘すぎるというのも理由です。
しかし、クレーム・ド・ペシェ(ピーチリキュール)でやったとて同じでしょう。
 
 
酸味が低いからです。
 
アイスワインは甘味に注目しがちですが、同時に酸味が高いと言われる辛口白ワインの1.5倍ほどの酸味を持っています
凍結により果汁が濃縮される過程で、糖度と一緒に酸度も凝縮されるからです。
 
ゆえにアイスワインは確かに甘いのですが、後味はスッキリなので、「また飲みたい!」という印象が強いのです。
 
 

アイスワインの中の優劣

 
アイスワインの中で最上級とされるのは、ブドウ品種がリースリングであるものです。
カナダでは「ヴィダル」という品種で作られるアイスワインが有名ですが、風味の点ではリースリングが勝ります。
 
風味のピュアさもその理由の一つですが、やはり最大の魅力は酸味の高さでしょう。
ブドウは成熟するにしたがって、糖度が上がり酸度が落ちていくのですが、リースリングはその落ち方が緩やかです。
これは他の甘口ワインで有名なブドウ品種、シュナン・ブランやセミヨンなどと同じです。
この高い酸味が、アイスワインの甘さを上品で心地よいものにしているのです。
(アイスワインは甘さがとっても強いので、酸がいくら高くても「酸っぱい」ことはまずありません)
 
 

リースリング アイスワインの相場

 
ただし、リースリングのアイスワインは高価です。
ドイツ産なら、ハーフボトル(375ml)で1万円前後が相場でしょう。
モーゼルの有名生産者がつくるこちらのアイスヴァインがいい例です。これでも、単一畑でつくっているわけではないのでまだお手頃な方。
 
 
 
その中でルドルフ・ファウスという生産者は例外的な安さ。
 
 
その土地の味わいを感じるような深みはさすがにありません。
しかし、リースリングのアイスワインとしての魅力は、十分に味わうことができます。
 
 

リースリングのデメリット

 
リースリングなら高く売れるんだから、もうリースリングだけつくればいいじゃん!
 
私もワインづくりのプロではないので、ついそう考えてしまいます。
 
そうしないのは、おそらくリスク分散でしょう。
 
リースリングの語源は、一説によると「花ぶるい」しやすいから。
花ぶるいというのは、受粉不良のことです。
5、6月くらいにブドウの花が咲き、開花している3日間ほどのうちに受粉が行われます。
しかしちょうどそのタイミングで雨が降ると、受粉が上手くいきません。
そうすると収穫量が減ってしまいます
 
 
いろいろなブドウ品種を植えれば、開花のタイミングがずれますので、雨が降っても全部ダメになることはありません。
 
土壌の適性など他にも理由はあるのでしょうが、これが大きな理由のひとつでしょう。
 
 
 

貴腐ワインとの対比

 
ワインを品質面で評価するなら、実はアイスワインは貴腐ワインには勝てません
しかし「貴腐ワイン」よりも「アイスワイン」の言葉が浸透しているのが示す通り、アイスワインの方が魅力的な点もいくつもあります。
最後にアイスワインと貴腐ワインを比較してみます。
 
 

風味の複雑さ

 
貴腐菌が果汁を凝縮させる際、風味にも影響を与えます。
「貴腐香」と呼ばれるセメダインのような香りや、マーマレード、はちみつ、アプリコットのようなアロマが、複層的に香ります。
この香りが幾層にも重なりあったような奥深さは、アイスワインでは表現できません。
 
 
だから「風味の複雑さ」の点でアイスワインは貴腐ワインに劣るのです。
これが「品質面で勝てない」という点です。
 
しかし、風味のシンプルさはわかりやすさでもあります。
ワイン初心者にとって、風味の複雑さは必ずしもプラスではありません。
「なんかよくわからない香りがする」よりも、「ハチミツみたいなピュアでいい香りがする!」の方が幸せになれます。
 
私は初心者の方におすすめするなら、断然貴腐ワインよりもアイスワインです。
 
 

熟成ポテンシャル

 
一般に甘口ワインは高い熟成ポテンシャルを持つと言われます。
つまり、何十年後まで保管して飲んでも美味しいということです。
熟成させることで共通して甘味が上品になっていきます。
 
意外かもしれませんが、アイスワインはあまり熟成ポテンシャルがありません
持ちはするんですが、風味があまり発展しないのです。
 
先日、こちらの約40年前のアイスワインを飲みました。
 
 
ブドウの質がかなり高いため、コルクの状態があまり良くなく酸化しているにもかかわらず十分美味しく飲めました。
しかし、風味がやっぱりシンプルなんです。
40年も待つ価値がない。今も美味しく飲めるが、20年前の方がもう少し美味しかっただろう。
 
この点、上質な貴腐ワインならもっと風味のが広がっていきます。
若いころよりもより複雑になっていくのです。
 
だからアイスワインはそんなに熟成させるメリットはない
むしろ早く飲んでしまっていいでしょう。
 
熟成ポテンシャルの点でも貴腐ワインに劣るわけですが、ワイン初心者にとってなんらデメリットになりませんよね。
 
 

アイスワインと甘口ワイン

 
アイスワインには類まれなる甘美で上品な美味しさがあります。
特にリースリングでつくられたものは、感動を覚えるほど上質です。
 
しかし、気象条件が合致しなければ作れず、リスクもあるためやや高価です。
その価格に見合う価値は十分ありますが、普段使いはなかなかできません。
 
単に甘いワインが飲みたいのであれば、アイスワインは甘口ワインの一種にすぎないので、他にもたくさん選択肢があります。
 
ご自身の予算や飲み方に応じて、「アイスワイン」という言葉にとらわれず、自分に合ったものを選んで楽しまれることをおすすめします。
 





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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