ワインのつくり方

【ワインの用語解説】「Cuvee キュベ、キュヴェ」とは ラインナップの名づけ方

2023年4月20日

【ワインの用語解説】「Cuvee キュベ、キュヴェ」とは ラインナップの名づけ方 
 
Cuvee(キュベ、キュヴェ)の意味を直訳するならば、発酵槽(はっこうそう)つまりワインの発酵タンクのことです。
でもワインの名前に使われる「キュヴェ」は、「バージョン」ですとか単に「ワイン」という意味が近いです。
なぜそうなるのかは、ワインの名付けルールを理解すれば納得できるでしょう。
キュヴェという言葉がどんな意味で使われているのか、詳しくご紹介します。
 
 

発酵タンク(キュヴェ)でワインの味が違う

 
Cuvee = 発酵槽なんて醸造用語が、どうしてワインの名前に用いられるのか。
キュヴェに名前がつけられるのは、発酵槽によってワインの味が異なるからです。
 
 

ブドウはタンクでワインになる

 
ワインはブドウを発酵させてつくります。
ブドウそのままの状態では発酵は始まりません。ブドウを破砕したりプレスすることで、果皮についた酵母が果汁と接触。一定以上の温度があると発酵が始まります。
 
南アフリカ ぐれネリーの発酵用ステンレスタンク
 
その発酵容器はオーク樽だったりステンレスタンクだったりコンクリートタンクだったり。アンフォラという陶器の容器が使われることもあります。
容器の大きさには限りがあり、穫れたブドウ全部を一つの容器に入れることはありません。いくつもの容器にブドウを分けて入れ、それぞれに発酵させます。
 
南アフリカ カノンコップのコンクリートタンク

コンクリートタンク

 
発酵タンク = キュヴェごとに、酵母の状態は一定ではありません。だから発酵の進み具合もキュヴェによって違い、ワインの味わいもそれぞれ異なります
 
 

キュヴェごとの違いを管理する

 
キュヴェごとに細かな味わいの違いが出るのは当然。ならばそれぞれに目的を持たせよう。
 
たとえばタンク1はカベルネ・ソーヴィニヨン、タンク2はメルローというように、ブドウ品種で分ける。
同じカベルネ・ソーヴィニヨンだけど、タンク3は畑の中の区画A、タンク4は区画Bだ。
同じ畑の区画でとれた同じ品種のブドウだけど、タンク5は酵母を添加して発酵させ、タンク6は自然酵母で発酵させる。
 
これらの例は極端なものですが、様々な理由によってキュヴェごとにワインの味は違うのです。
 
 

キュヴェをブレンドするか、しないか

 
いくつもあるキュヴェをどれだけブレンドして何種類のワインをつくるか。それは生産者の方針によります。
いくつかの品種のキュヴェから適切な割合でブレンドし、1種類のワインをたくさんつくることもできます。品種ごとにそれぞれのワインとして、生産本数の少ないワインを多種類リリースすることもできるのです。
 
 
ブドウ品種による区別なら、その品種の名前を記せばいい。
でも場合によってはわかりやすい基準で区別できない場合もあるのです。
 
 

ワインの風味が変わるポイント

 
ワインの味わいは何で変わるか。
細かく挙げればきりがないですが、重要なポイントは次の5つです。
 

ワインの味わいが変わるポイント

ブドウ品種
産地(気候、土壌、地形など)
ヴィンテージの特徴
熟成度合い(ヴィンテージの古さ)
醸造法(樽熟成ほか)
 
 

ワインの名前は選びやすいように

 
納得できないかもしれませんが、ワインの名前はなるべく消費者がワインを選びやすいように定められています
 
アメリカやニュージーランドなどのワインには、「カベルネ・ソーヴィニヨン」などといったブドウ品種名がよく記載されています。それはブドウ品種名によってワインの味わいが想像できるようにという目的です。
ヨーロッパのワインには「シャブリ」のように産地の名前が記載されている例が多いです。それは「シャブリと書いてあったら、シャルドネからつくられる酸味の高いスッキリとした白ワイン」というように、産地名とおおよそのスタイルが紐づいているから
 
例えば醸造法については、この「バリック ファーメント」のように樽熟成されていることが記載されていることもたまにあります。
 
 
でもなんでも書けばいいというものではありません
例えば発酵に使用する酵母の種類はワインの風味に影響を与えます。でも培養酵母の製品名を書かれたところで、一般消費者どころかソムリエですら、何がどう違うのか予想できないのです。
 
 

ワインを分けるオリジナル基準「キュヴェ」

 
ある生産者が2つのワインAとBをつくっていたとします。
その2つはブドウ品種が同じでブドウは一つの畑の中でとれたもの。醸造法も大して差がありません。
 
 
ただし味わいには確かに差があって、Aの方が美味しい。混ぜて一種類のワインとして売るのはもったいないから、Aの方を高くして、Bを手ごろに販売したい。
そんなときに独自基準でワインに名前をつけます。それが「キュヴェ」です
 
 

「キュヴェ」が使われるときと使われないとき

 
「キュヴェ」という単語がワイン名に使われるとき、「キュヴェ〇〇」や「□□キュヴェ」のように何かしらの言葉とセットです。たいていは固有名詞です。
この〇〇、□□にはブドウ品種やワイン法で定められる生産地名は入りません。基本的には決まった意味のない言葉が入ります
 
 
たまに「Cuvee Vieilles Vignes キュヴェ ヴィエイユ ヴィーニュ」という記載を見かけます。これは通常より樹齢の高いブドウの樹からつくっているワインであるという意味です。
ただ、「Viellies Vignes」には何年以上という定義がないので、生産者が好きに記載できます
 
他にどんなパターンがあるのかご紹介します。
 
 

キュヴェにつけられるのは何の名前?

 
キュヴェにつけられる名前で多いものは次のようなものです。
 

キュヴェの名前は何が多い?

〇ワインのコンセプトや位置づけ
〇ブドウがとれる畑の区画名
〇生産者と関係のある人の名前

 
 

ワインのコンセプトや位置づけがキュヴェ名

 
よく見かけるのが「Grand Cuvee グランキュヴェ」の文字。意味合いとしては「偉大なワイン」「いいワイン」みたいなもの。これを上級ワインに使っている生産者もありますが、安いワインにも見かけます。ハッキリ言って大した意味はありません
 
 
一方で「Cuvee Prestage キュヴェ プレステージ」や「Cevee Reserve キュヴェ レゼルヴ」と書かれている場合は、ラインナップの中で中位、もしくは上位のキュヴェであることが多いです。シャンパンの名前に使われることが多いです。
ただしこれも、決まったルールがあるわけではないので、生産者によりけりです。
 
 
例えばこの「キュヴェ キラク」は、その名の通り気楽に飲んでほしいというコンセプトから。
 
  
  

区画名や地域名をキュヴェ名に

 
生産者が独自に決めた区画名をキュヴェ名として使うこともあります。
 
歴史の長いヨーロッパでは、畑の名前は昔から受け継がれてきたものが多いです。
しかしニューワールド諸国では、その土地を購入して植樹した人の名前がつけられていたり、その人が自由に畑名をつけたりしています。
 

「Cuvee」の文字はありませんが、「EMMA'S BLOCK」というのが独自につけた区画名です。

 
その畑のなかで、特にブドウの出来がいい区画が見つかったとします。その区画だけでワインをつくるならば、畑名で区別することはできません。そういうときに区画に名前をつけて、「キュヴェ 区画名」のように名付けることがあります。
 
同様にその生産地域一体の畑でとれるブドウからワインをつくるとき、ワイン法で定められていない地名や目印の名前を使うことがあります
 
 
例えばこのクリストムという生産者。「エオラ・アミティ・ヒルズ」という生産地域なのですが、その中にあるジェアーソン山周辺のブドウを使っているという意味で「マウントジェファーソンキュヴェ」と名付けています。
 
 

人の名前をキュヴェ名に

 
先ほどの2つは、まだワインの味わいを多少なりとも予想することができます。
しかし人の名前がキュヴェの名前という場合は、もう全くをもって飲んでみるまでわからない。
 
例えばこの「キュヴェ サロメ」
 
サロメちゃんという当主の姪っ子の名前です。生まれたのがうれしくて彼女のためにつくったワインなのです。
「ワインの名前、そんなのでいいの?」と思われるかもしれませんが、これが結構多いのです。
  
  

 
「キュヴェ」とは書いてありませんが、オー・ボン・クリマの「イザベル」と「ノックス・アレキサンダー」。これも自分の子供が生まれたときに子供の名前をつけてつくったワインです。この2本はどちらが上級というのはありません。「何が違うか?」と問われれば「キュヴェが違う」としか言いようがないのです。
 
他のパターンとしては、この「アキコズキュヴェ」。生産者であるアキコ・フリーマンさんの名前がつけられています。醸造チームでブレンド比率を決める際、各々がつくったブレンドを飲み比べるとアキコさんが作ったものが毎年一番美味しい。だから「ブレンド比率を決めた人の名前」がつけられたそうです。
 

フリーマン アキコズ キュベ ピノ ノワール ソノマ コースト

 
 
こういうワインは、そのワイナリーのラインナップの中でどんな位置づけなのかもわからないし、味わいも飲んでみるまでわかりません。
でもその名前をつけたストーリーがあることが多いので、むしろ記憶に残りやすいのかもしれません。
 
 

「Cuvee」の文字からわかること

 
上記のとおり、「Cuvee」の文字は必ずしも必要ではありません。「Cuvee Vieilles Vignes」じゃなくて単に「Vieilles Vignes」と書いてあるワインの方がどちらかというと多いです。
「キュヴェ サロメ」じゃなくて「サロメ」だけだったとしても、「そういう名前のワインなんだ」と認識できます。
 
ただし「キュヴェ」と書いてあった方がわかりやすくもありますよね。
ワインを買う人すべてが、ワインの産地やブドウ品種の名前、頭に入っているわけではありません。
「SABRINE サブリーヌ」とだけ書いてあっても、それが地名なのか区画名なのか生産者が独自につけた名称なのか判別できない。「キュヴェ サブリーヌ」と書いてあるから、生産者のラインナップの中での区別なのだなとわかるのです
 
 
「Cuvee」の言葉自体の意味はあまり重要ではありませんが、「Cuvee」と書いてあることは決して無意味ではありません。
 
 

「キュヴェ」はワインを自由に区別する目印

 
今回ご紹介した他にも「キュヴェ」とつくワインは様々な名称があります。
「キュヴェ〇〇」「□□キュヴェ」という名前をつけるのは、生産者がつくるいくつものラインナップの中で、ワインを見分ける目印として
  
地名や樹齢など意味のある言葉であることもあります。子供や父母の名前など、意味はないけどストーリーはある名称であることもあります
 
だから「Cuvee」の意味を強引に表すなら、「バージョン」とか「エディション」などが近いんじゃないでしょうか。
 
ワイン名に「キュヴェ」とついていたら、他にもワインをつくっている場合がほとんどです。もしそのワインを気に入ったなら、「他につくってるものも飲んでみようかな?どう違うのかな?」と気にしてみてください。





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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