
長年愛され続けるマウント・エデンのワイン。大ヒットすることはなくとも、常に求められ続ける理由は明白です。単に美味しいだけでなく、「他に似たものがない」から。サンタ・クルーズ・マウンテンの特異な気候が、3つの品種すべてで高品質なワインを生み出し、独自の存在感を確立しています。ブルゴーニュ品種のパイオニアとしての歴史とその特異性を、セミナーをもとに詳しくご紹介します。
サンタ・クルーズ・マウンテンという特異な環境
マウント・エデンの畑とワイナリーがあるのは、サンタ・クルーズ・マウンテンという生産地域です。
下記の地図の通りサン・フランシスコに非常に近く、その空港からは車で45分ほど。にもかかわらず決してメジャーな産地とは言えないでしょう。
古くて高品質なワインを生むのに人気産地でない理由は、その地形にあります。

サンタ・クルーズ・マウンテンAVAの概要
サンタ・クルーズ・マウンテンは、1981年にAVA(アメリカ政府認定のワイン産地)に認定された、カリフォルニアで最も歴史あるワイン産地のひとつです。
航空写真で見れば明らかですが、そこは山ばかり。ナパ・ヴァレーやソノマのような広大な畑はなく、険しい山の斜面に点在する小規模なブドウ畑が特徴。なのでエリアは広いのにブドウ畑の面積はさして広くないのです。
サンタ・クルーズ・マウンテンの特徴
・太平洋の寒流の影響を受ける冷涼産地
・標高で区切られるAVAの境界線
(海側では標高120m以上、内陸側では標高240m以上)
・雲の上に広がるブドウ畑
・サン・アンドレアス断層による複雑な土壌
雲の上のブドウ畑
サンタ・クルーズ・マウンテンのワインを語るうえで欠かせないのが、「霧の上に畑がある」 という点です。
カリフォルニア沿岸部の多くの産地では、朝晩に霧が立ち込め、日照が制限されることが一般的。しかし霧はある一定の標高より上には上がってきません。それがサンタ・クルーズ・マウンテンAVAの境界として定められています。
それゆえ霧がかかったエリアの上でしっかり日照を得る畑は、まるで雲の上に浮かんでるかのよう。

朝にワイナリーから谷底方面を見た写真
昼夜の寒暖差を生かしながらも、しっかりと日照を確保できるというユニークな環境が、この地域の特異性です。
サン・アンドレアス断層が生む複雑な土壌
この地域のもう一つの特異性は、土壌の多様性 です。サンタ・クルーズ・マウンテンは、カリフォルニアを南北に走る サン・アンドレアス断層の影響を大きく受けています。

サン・アンドレアス断層の名前は、高校地理の授業で習った記憶があります。というのも、それは典型的な「ずれる断層」だからです。北米プレートと太平洋プレートの境であるこの断層は、それぞれが南北に進行しています。沈み込む断層と違って巨大な地震は生み出さないものの、複雑な地形を形作ります。
通常地層というのは、形成期が古いものの上に新しいものが重なります。しかしサンタ・クルーズ・マウンテンの地域では、サン・アンドレアス断層の影響で地層の隆起と崩壊が起こったのだとか。結果として地層の新旧が逆転してしまったところもみられるなど、様々な年代の土壌が入り組んでいるそうです。

マウント・エデンの畑は、このサン・アンドレアス断層から1マイルほどの距離にあります。そこはフランシスカン・シェール(Franciscan Shale) と呼ばれる痩せた土壌。ミネラルを多く含む岩盤質の土壌で、これらがブドウ栽培に適した水はけの良さを生み、低収量ながら高品質なブドウを育てる環境 をつくりだしているそうです。
ただし先述の通りサンタ・クルーズ・マウンテンにはそれほど多くの畑がありません。著名生産者も少ないため、同エリアで土壌違いの飲み比べというのがそれほど実現しないのがもったいないところです。
マウント・エデンの歴史とその特徴
「カリフォルニアワイン好きなら誰もが知っている」
マウント・エデンにそんな知名度の高さはありません。フランスワインも含めた世界中の上質なワインを嗜み、自身で熟成させて飲むことを楽しんでいるような上級者。主な愛好家はそんな消費者層ではないかと推測します。
それを示すかのように輸入元さんはこう話します。「マウント・エデンは特別なプロモーションを行わずとも、昔から一定数は売れ続けている」
価格はなかなかに高価であるので、決して万人向けのワインではありません。しかし多くのワインを知る人にとっても選ぶべき理由のあるワインなのです。
マウント・エデン創業のきっかけ
マウント・エデンの歴史を語るには、まずポール・マッソン(Paul Masson)という人物に触れなければなりません。
彼は19世紀末、ブルゴーニュのムルソーからカリフォルニアに渡り、サンタ・クルーズ・マウンテンでワイン造りを始めました。キリスト教徒であった彼には、ミサ用のワインが必要でした。このワイナリーは「The Mountain Winery」として現存しています。

ポール氏は一度フランスにもどり、苗木を持ち帰りました。おそらくは友人であったルイ・ラトゥールの畑から持ち込んだピノ・ノワールとシャルドネの苗木。それも特級畑のコルトン/コルトン・シャルルマーニュから採取したものだろうとされています。
ただし彼はスパークリングワインをつくっており、当時シャルドネやピノ・ノワールはつくっていなかったそうです。
カリフォルニア初、ブルゴーニュの影響を受けたワイン造り
その後ポール氏の引退に伴い、ワイナリーを引き継いだのがマーティン・レイ(Martin Ray)です。

彼はワイナリーを引き継いだ後、何かしらの事情があったのか、わずか6年で手放してしまいます。それでもポール氏に「ワイナリーは手放してもブルゴーニュ品種のワインづくりは続けるべきだ」と説得されます。
ワイナリーを売ったお金で近くに土地を買い、The Mountain Wineryから苗木をとって植えたのが1943年。それが「マウント・エデン・ヴィンヤーズ」の始まりです。
彼らがワインをリリースした1946年当時、カリフォルニアでシャルドネ、ピノ・ノワールからスティルワインをつくるワイナリーはなかったそうです。彼らがブルゴーニュ品種のパイオニアなのです。
なぜこの地にブルゴーニュ品種が適したのか?
パール・マッソン氏が持ち込む品種としてシャルドネ、ピノ・ノワールを選んだ理由。単に好みだったという理由もあるのでしょうが、サンタ・クルーズ・マウンテンの気候がブルゴーニュに似ていたという理由もあるはずです。
それは海に近い冷涼な気候と、霧の上の産地であるゆえの日照量ゆえでした。

先述のとおりサンタ・クルーズ・マウンテンは太平洋に近く、涼しい気候です。今でこそ畑が涼しいことは良いことのように語られがちです。しかし当時は、ブドウが十分に熟さず酸っぱいワインになってしまう懸念の方が大きかったでしょう。
その点でサンタ・クルーズ・マウンテンは日照が豊かです。畑が霧がかかるエリアよりも高い標高にあり、十分な日照時間が得られるからです。
マウント・エデンのシャルドネを味わうと、しっかり上品な酸味とともに、凝縮感のある果実味を感じます。ブドウが酸を保ちつつよく熟している証拠です。
受け継がれる「マウント・エデン・クローン」
ポール・マッソンがフランスから持ち込んだブドウの樹は、マウント・エデンの畑からカリフォルニア中に広がっていきました。

粒の大きさにバラツキがあり、全体的に小粒なのが優良点
ブドウの樹を増やす際は、基本的に種を土に植えるのではなく、枝を切り取って地面に挿します。そうすることで採取した樹と同様の性質を受け継ぐのです。なので「クローン」と呼ばれます。枝を採取するのは優良な性質を持つ樹が選ばれます。
ここの畑にルーツを持つブドウは「マウント・エデン・クローン」と呼ばれて、カリフォルニアの優良な畑で栽培されています。
マウント・エデン・クローンの特徴
-
小粒で果皮の割合が高い → 果実の凝縮感が強い
-
酸がしっかりと残る → 長期熟成向きのワインができる
-
病害に強い → 余計な農薬を使わずに栽培できる
このクローンは苗木商やワインづくりの大学が管理しているわけではありません。だれでも入手できるわけではなく、マウント・エデンに依頼する必要があります。
オーナーであるジェフリー・パターソンさんは、知人が欲しいといったら譲っているそうです。ただし条件付きで。条件とは収量制限をして高品質なワインをつくることだそうです。
冷涼産地のカベルネ・ソーヴィニヨンへの挑戦
マウント・エデンが手掛けるワインは、シャルドネとピノ・ノワールだけではありません。非常に高いレベルのカベルネ・ソーヴィニヨンもつくっています。
同じエリアにて栽培条件も大きくは変わらない畑。そこでシャルドネ、ピノ・ノワールとあわせて、カベルネ・ソーヴィニヨンも高品質につくっている生産者というのは、広いカリフォルニアでもあまり例を見ません。

この地でカベルネを植える決断をした背景には、「冷涼な環境でボルドースタイルのワインが造れるのではないか?」 という発想がありました。そこでシャトー・マルゴーから苗木を持ち込み、1955年に植樹をしたそうです。
カベルネ・ソーヴィニヨンは本来、シャルドネやピノ・ノワールよりも成熟ために暖かい気候を好みます。マウント・エデンでは収穫時期を遅らせることで、十分に熟すようにしています。
そうして出来上がるカベルネ・ソーヴィニヨンは、銘醸地であるナパ・ヴァレーのものとは大きく違います。熟れたベリーの甘い風味や豊満なボディ感は感じません。代わりに生き生きとした酸味と豊富なタンニンによる味わいの骨格が特徴です。
冷涼産地のカベルネ・ソーヴィニヨンとして、近年ではメンドシーノ・カウンティなど、海沿いの産地でもつくられ始めています。しかしこれほど高価に取引される、歴史あるプレミアムワインというのは、カリフォルニアでなかなか他にないものです。

マウント・エデンがつくるワイン
「手間はかけるが、手はかけない」
これがマウント・エデンのワインづくりに対する哲学だといいます。栽培には手間暇を惜しまず力を尽くすが、醸造においては基本に忠実であり、余計な技術は使わない・必要ないというスタンスです。
例えばシャルドネなら自然酵母による樽発酵・樽熟成。マロラクティック発酵をする。捕酸はなしで余計な添加物は用いないという、特に珍しくもない手法。だからこそマウント・エデンのワインが特異であるのは、サンタ・クルーズ・マウンテンという特異なテロワールによるものなのです。
シャルドネ エステート
マウント・エデンを象徴するワインのひとつが、このシャルドネです。この生産者がつくるものとしては特に評判が高く、最初に飲むべき1本として提案する1本です。
最大の特徴は控えめなフルーツ感と味わいの骨格です。
広域カリフォルニアのシャルドネにありがちな、トロピカルフルーツやヴァニラの甘いアロマは感じません。貝殻のような端正な香りと、白い花やリンゴのような控えめな果実の風味を感じます。生き生きとした酸味を持つのはもちろんですが、フレンチオーク樽熟成に由来すると思われるわずかなタンニンも感じます。
この酸とタンニンが、若いうちは堅牢な味わいの骨格をイメージさせます。ゆえに高い熟成ポテンシャルを持ち、生産者は「余裕で20年美味しく飲めることは実証済みだ」と語ります。
シャルドネは高めの温度で
マウント・エデンがつくるシャルドネは、全て通常の樽シャルドネより高い温度で飲んでください。
12℃くらいではまだ味がでてきません。おそらく15℃くらいまで上げていいでしょう。冷蔵庫に保管するなら、飲む30分前にはグラスに注いでおく。あるいはワインセラーにて赤ワイン用の温度に保管するくらいでちょうどいいはずです。
赤ワインを飲んだあとにもう一度シャルドネにもどってくると、最初よりも甘い香りがあがってくるはずです。
シャルドネ リザーブ
エステート・シャルドネの中でも、特に優れた樽のみを厳選し、追加熟成して造られるのがリザーブ・シャルドネです。
熟成の段階で11樽を選び、澱(おり)を攪拌した後、ステンレスタンクに移してさらに12カ月熟成させます。澱というのは発酵の際に生じる酵母の死骸で、アミノ酸の塊が沈殿したものです。それが追加熟成によって分解され、ワインにうま味として戻っていくそうです。シャンパーニュなどにおける、長い瓶内熟成による酵母の自己分解と同じことです。
これにより、通常のエステート・シャルドネよりも密度のある味わいと、しなやかな口当たりが生まれます。一般的なシャルドネのイメージとは異なり、華やかさよりも奥深い旨味と複雑さが際立つワインです。
いうならば「リザーブ」は通常のシャルドネのバレルセレクションであり、生まれは同じです。2つの違いは非常に興味深いところではありますが、価格差を思うと「エステート」のお得感が際立つというものです。
ピノ・ノワール エステート
マウント・エデンのピノ・ノワールは、果実の甘みが前面に出るカリフォルニアの典型的なスタイルとは一線を画します。ただし「ブルゴーニュワインみたい」かと問われれば、筆者は否と答えます。
ブドウは標高の高い畑に植えられ、温暖なカリフォルニアにおいても、冷涼な気候の影響を色濃く受けます。発酵には30〜35%の全房発酵を取り入れ、ブドウの持つ自然なタンニンと複雑味を最大限に引き出します。天然酵母による発酵を行い、マロラクティック発酵も自然の流れに任せることで、ヴィンテージごとの個性を際立たせています。
口に含むと、フルーツの甘さよりも、引き締まった酸とスパイスのニュアンスが広がります。若いうちは閉じた印象がありますが、数年の熟成を経ることで、より繊細な香りと滑らかな質感が楽しめるようになります。
香りには甘いフルーツ感をほとんど感じません。しかし口に含んだ時は適度なベリー感があり、骨太な印象です。
他の産地に例えるのは適切ではないのかもしれません。これはまさに、サンタ・クルーズ・マウンテンのピノ・ノワールそのものです。
カベルネ・ソーヴィニヨン エステート
マウント・エデンのカベルネ・ソーヴィニヨンは、ナパ・ヴァレーのカベルネとは大きく異なるスタイルを持ちます。豊満な果実味や濃厚なボディではなく、むしろ酸とタンニンが際立ち、よりクラシカルな仕上がりです。
醸造では発酵期間をあえて短く(約10日間)設定し、過度な抽出を避けます。熟成にはフレンチオークとアメリカンオークを50%ずつ使用するのが重要な工夫。タンニンをなめらかに整えながらも、過剰な樽香がワインを支配しないように配慮されています。
カシスやブラックチェリーの香りの奥に、ミントやスパイス、わずかにピーマンのようなニュアンスが感じられます。口に含むと引き締まった酸と緻密なタンニンが調和しています。このワインに関しては、クラシカルな上級ボルドーのような印象を受けます。
生産者は「カリフォルニアとボルドーのいいところを併せ持つようなワインをつくりたい」と語ります。
エドナ・ヴァレー・シャルドネ
マウント・エデンのラインナップの中で、唯一購入するブドウからつくるのが、このエドナ・ヴァレー・シャルドネです。その分手頃に提供されます。
エドナ・ヴァレーというのはサンタ・クルーズ・マウンテンよりもずっと南、サン・ルイ・オビスポ・カウンティにあります。そこで1985年からずっと契約している畑から、このワインはつくられ続けています。
醸造法は「マウント・エデン」と全く変わりません。エリアが違うからでしょう。マウント・エデンよりは熟したフルーツの香りが豊かに感じられ、若いうちから親しみやすい風味です。
ドメーヌ・エデン
「ドメーヌ・エデン」は、マウント・エデンの兄弟ブランド。2007年にマウント・エデンが購入したワイナリーです。その畑は同じサンタ・クルーズ・マウンテンのエリアですが、マウント・エデンより2kmほど南にあります。
100%ドメーヌ・エデンの畑というわけではなく、一部はマウント・エデンのブドウを使用し、契約農家のブドウも加えているそうです。
土壌はマウント・エデンとは異なり、「ロス・ガトス・クレイ・ローム土壌」というもの。ブドウの樹のクローンもマウント・エデンほど純粋なものではないため、それぞれの特徴は緩和されます。
よりサンタ・クルーズ・マウンテンの気候を反映したワインと言えるでしょう。マウント・エデンに比べると若いうちから親しみやすい味わいだと言われます。
ヨーロッパのグラン・ヴァンと並べて楽しむ
「我々はワインメーカーというよりはワイングローワーだ。私のワインは畑からくるものだ」
マウント・エデンの現オーナー醸造家である、ジェフリー・パターソンさんはそう語ります。これはボルドーやブルゴーニュといった、ヨーロッパの名産地で高級ワインをつくる生産者が、口をそろえたように語る言葉に似ています。


熟成ポテンシャルがあり、時間に余裕をもって楽しむべきマウント・エデンのワイン。それらはきっと、ヨーロッパの偉大なワインと同じように楽しむべきなのでしょう。
味わいが似ているからではありません。そのワインをつくるにあたっての姿勢が似ているからです。
世界中のワインが広く流通する現代において、選ばれ続けるワインをつくるのは簡単ではありません。多様性が尊ばれる市場で強いのは、やはり土地に根差したワイン。「世界中でそこでしかつくれない味わいのワイン」です。
マウント・エデンが表現するワインには、確かにサンタ・クルーズ・マウンテンの個性が現れています。だからこそ一度気に入った方は、「他のワインでは替えが効かない」とまたこの味わいを買い求めるのでしょう。