ワインの楽しみ方ガイド

ワインの味わい表現 『果実味』とは

2020年6月10日

 
ワインのテイスティングコメントでよく見かける『果実味』という言葉。
他の用途ではあまり使わない表現です。
みなさま、どんな味のことか説明できますか?
 
果実味とは、具体的なフルーツを思わせる風味のことです。
香りだけではなく、甘味など他の要素も複合した表現という意味で「風味」と述べました。
日本語でワインの香り・味わいを表現するのに便利でありながら、実態があいまいな「果実味」に迫ります。
 
 

どこから湧いて出てきた!?『果実味』という言葉

 
今回はよく目にするけれどもよくわからない、『果実味』という表現について私見を交えて説明します。
追って述べますが、確かな論拠があってのことではありません。
私はこう解釈していますが、いかがでしょうか?」というスタンスで臨ませてください。
 
まず『果実味』という味わい表現は、日本ソムリエ協会が教える分析的なプロのテイスティングでは用いられません
「あれ?」と思ってソムリエ教本を見返しましたが、載っていませんでした。
 
さらに『果実味』にあたる英語もおそらく存在しません
仕事柄、Wine Advocateワインアドヴォケイト誌のテイスティングコメントを多く訳します。
その中でも『果実味』と訳す言葉は今のところありませんでした。
しいて言うなら「the core of fruit」が近いのかなと推測します。それについても、「使うレビュアーもいる」というレベルです。
 
さらに驚きました。
あの『Wikipedia』にすら載っていない言葉です。
 
 
しかしながら、テイスティングコメントには頻繁に出現します。
当店の通販サイトには2020年6月現在、約3200のワインが登録されています。
そのうち『果実味』の語句を含むものは1700あまり。
 
過半数のワインの表現に使われているのです。
 
 

果実味とは?フルーティーなこと?

 
「果実味=フルーティー」ではありません
しかし関係がないかというと、そうでもない。
 
『果実味』とはワインのある風味を表すパラメータのひとつ
「渋味」や「コク」みたいなもの。
 
それに対し「フルーティー」は、果実味の表現を含めたワイン全体の印象を表す形容詞
 
「フルーティー」なワインは、「豊かな」「ジューシーな」「親しみやすい」などと表される果実味を備えているもの。
しかし「豊かな」果実味を備えていても、全体の印象は「フルーティー」とは言えないワインもあるのです。
 
 

フルーティーなワインってどんなもの?

そもそも「フルーティーなワイン」とはどのようなものを指すときに使うのか。
具体的なフルーツに例えられるようなはっきりとした風味がある。
そして酸味は比較的穏やかで、複雑な風味のないものに用います。
比較的安いワインです。
 
様々な風味をもつ1万円のワインを指して「フルーティー」という表現をされることはほぼありません。
 
「フルーティー」や、例えば「明るい」「親しみやすい」「Easyな」という包括的な表現をされるとき。
それは細かな表現をまとめて、一般の方に馴染みのある言葉にしようという工夫だと考えてください。
 
 

『果実味』はどのように使われる?

 
ワインはブドウからつくられているのに、一部の例外を除いてブドウの香りはしません。
代わりにその風味は様々なフルーツに例えられます
 
 
例えば赤ワインは程度の差こそあれ、様々なベリーの風味を持ちます。
一方白ワインは、リンゴ、洋ナシ、パイナップル、メロン、マンゴー、シトラスなど様々です。
 
それらのフルーツの風味がはっきりと感じられるワインを、「果実味が豊か」と表現します。
 
例えばこのワインからは「プルーン」のようなよく熟して粘性のある甘味のはっきりとした風味を感じられます。
 
白ワインで分かりやすい例はこちら。いくつかの風味を感じますが、「パイナップル」がわかりやすいでしょう。
 
 
この2つに共通するのはブドウの熟度の高さ
低価格帯のワインでも安定してブドウが完熟するのは、温暖な産地ならではです。
 
連想するフルーツの風味から、「ジューシーな果実味」「フレッシュな果実味」「熟れた果実味」なんて表現も目にします。
 
乱暴にまとめるなら、「温暖な産地のワインは果実味豊か」と言ってもいいのですが、実際にはほかにもいくつかの要素がかかわってきます。
 
 

『果実味』豊かなワインの構成要素

 
冒頭で述べた通り、『果実味』とは香りだけではありません。
『果実味豊か』なワインには次のような共通点があります。
 
  1. 香り
  2. アルコール度
  3. 醸造法
 

〇1.香り

 
具体的にどんなフルーツを思わせる風味かのヒントは香りから得られます。
そしてこれは、品種と生産地域の寒暖によって概ね決まります
 
 
例えば赤ワイン。
同じ品種だとしても、生産地が冷涼なところから温暖になるにつれて、おおまかに次のように香りから連想されるフルーツは変化します。
 
 
 
つまり香りを正確にとらえることができれば、大まかに生産地域の寒暖を類推することができるのです。
 
 
もちろん、ブドウ品種によってこの中でどのあたりの風味が感じやすい、という性格もあります。
また、生産者によって”適熟”と判断するブドウの状態が違い、それが出来上がりの香りに変化を与えることもあります。
 
 
一方で、ワインの香りから具体的なフルーツが思い浮かばないワインも多くあります。
ブルゴーニュのワインやイタリアのバローロなどはその典型でしょう。「〇〇ベリーのようなアロマ」と言われても、いまひとつピンとこない。
だからといってこれらのワインが美味しくない理由にはなりません。
 
 

〇2.アルコール度

 
ワインのアルコール度数は、大雑把に15%とまとめられたりしますが、実際には割と多様です。
 
白ワインなら11%~13.5%がメインで、15%に達するものもあります。
赤ワインなら12%~14.5%ほど。稀に16%のものも見かけます。
平均値としては赤ワインの方が1%ほど高めです。
 
これはブドウの糖分を完全発酵した辛口ワインの話。
糖分を残した甘口ワインの中には、6~9%程度のものもあります。
 
 
アルコール度数が高いワインを口に含んだ時の方が『果実味豊か』と感じる傾向にあります。
 
その理由のひとつはアルコールの甘さ
ワインを「甘い」と感じる理由の一つがアルコールです。
甘く感じれば、フルーツを連想させやすくなります。
 
もう一つの理由はブドウの完熟度
アルコールが高いということは、ブドウの状態での糖度が高いということ。
ブドウの熟度が高いということです。
 
そうすると、ワインがもつフルーツの風味は、より甘さの強く酸味のおだやかなものになります。
つまり1つ目の香りが変化するのです。
 
なお作りたいワインの風味によって、生産者が判断する「完熟」の指標は異なります。
なので「熟度が高い方がいい」とは言えません。
 
 

〇3.醸造法

 
『果実味』に影響する醸造法のわかりやすいものは2つ。
オーク樽熟成と白ワインの発酵温度です。
 
 
ワインを醸造する際、複雑味を与えるためにオーク樽熟成をすることがあります。
中価格帯以上のワインは、ほとんどがオーク樽熟成をしてつくられます。
 
 
オーク樽熟成によって、バニラやココナッツ、オークなどの風味がワインにつきます。
これらの風味は、大樽より小樽、古樽より新樽で強く表れます。
その比率調整や熟成期間によって、醸造家は果実とのバランスをとるのです。
 
樽の風味が強ければ、果実の風味は覆い隠されます
 
 
例えばこちらのジンファンデル。
ブドウから来る果実の風味より、オーク樽由来の風味が勝っています
こういうスタイルもまた、人気があるのです。
 
高級ワインほどブドウの凝縮感は高いものなのですが、それに比してしっかり樽の風味を効かせます。
「豊かな果実味」はそのワインの一部にすぎなくなります。
 
案外、低価格帯の新樽を使っていないワインの方が、果実感が強かったりします。
 
 
話は変わりまして白ワイン。
白ワインの発酵において、低温で時間をかけて行った方がフレッシュな果実味が得られると言われています。
 
そのために、温度調整のできるステンレスタンクやコンクリートタンクを使う生産者もいます。
 
醸造家が目指すスタイルに合わせて、醸造法を選択しているのです。
 
 

『果実味豊か』なワインを生む品種

 
「果実味豊かなワイン」になりやすい品種というものが存在します。
 
 
まず赤ワインにおいて、先ほどご紹介したイタリアの「プリミティーヴォ」はその代表格。
プリミティーヴォと同じDNAをもつ、アメリカの「ジンファンデル」もそうです。
 
 
他には、プティ・シラー、プティ・ヴェルド(主にブレンド用の品種です)、グルナッシュやカリニャンなど。
 
 
カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロー、シラーといった品種はそれらに次ぐ形となります。
しかしそもそも広く栽培されているので、温暖な地域のものは十分果実味豊かです。
 
 
次いで白ワイン。
 
まず「アロマティック品種」と呼ばれるものは、みな果実感に溢れるワインです。
代表格がゲヴェルツトラミネール。
 
ライチの香りのするワインです。
 
そのほか、ヴィオニエトロンテスなどがアロマティック品種に当たります。
 
シャルドネもまた、果実味豊かなタイプもたくさんあります。
 
 
温暖な地域で栽培された熟度の高いシャルドネは、パイナップルの他に桃やトロピカルフルーツのようなアロマを持ちます。
一方でブルゴーニュのような冷涼地域のシャルドネは、あまり果実を感じません。
 
 

『果実味』は豊かな方がいいのか?

 
それは好みです。
 
一つ言えるのは、私はワイン初心者の方にはまず果実味豊かなワインをすすめます
「このワインの風味は〇〇というフルーツみたい」
そう言葉にできたほうが、味をイメージしやすい。
 
 
味わう際もフルーツの風味を先入観として持った方が、「ワインの味が分かった」気になれます。
そして違う風味を持つワインと比べることで、「違いの分かる」ワインの楽しさに気づいてもらえるんじゃないか。
そう期待するのです。
 
 
果実味が豊かとはいえないワイン。
その中でちゃんと作っているものは、代わりにいろいろな風味を感じさせてくれるでしょう。
しかし「このワインは複雑な風味が魅力で~」と言葉にしたところで、伝わるはずがありません。
 
 
そういう点からも、『果実味豊かなワイン』は「親しみやすい」印象を受けます。
「近づきやすい」「理解しやすい」「シンプル」と言い換えてもいいかもしれません。
 
 
ワインは言葉にすることで記憶に残ります。
いえ、それはワインだけではない。口にするもの全てでしょう。
 
次に口にするワインが「美味しい」と感じたなら。
ぜひどんなフルーツが近いか、考えてみてください。
「〇〇のような果実味」と言葉にしてみましょう。
そのワインはきっとあなたの引き出しのひとつになります。
 
 





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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