価格による味の違いが大きいピノ・ノワールは、市販価格で3000円のボーダーがあるように感じています。2000円台からプラス1000円の予算で、味わいにぐっと深みが出るように感じるのです。大まかな味わいのタイプ別に、3000円以下では味わえない点に注目してご紹介します。いつもよりちょっと贅沢な風味に酔いしれれば、また明日がんばるエネルギーが湧いてくるかも?
価格が高いピノ・ノワールは何が違う?
日本市場に何万と種類があるピノ・ノワールの赤ワイン。楽天市場で調べれば1000円前後のものから1000万円超えのものまで見つかります。価格が上がればどんな味わいに期待できるのでしょうか。
もちろん一概に語ることはできません。生産者ごとに様々な創意工夫をしていますので、手頃で美味しく感じるものもあれば、割高に感じるものもあります。販売店がセール価格を出しているから、味の割に安い場合もあります。
その上で価格が上がることによる『結果』として、次のような傾向が挙げられます。
高価なピノ・ノワールの特徴
- 香りのボリュームが豊かになる
- 香りにより多くの特徴を感じる複雑性が増す
- 風味のち密さが増す
- 余韻が長く続く
- 高い熟成ポテンシャルを持つものが増える(※1)
- 味わいを比べる楽しみが増す(※2)
- 熟成したものを選ぶこともできる
※1 熟成ポテンシャル
これは諸刃の剣になり得ます。20年後、30年後に飲んでも美味しいワインには、豊富なタンニンと高い酸味が必須です。そういったワインを若いうちに飲むと、渋くて酸っぱいと感じる場合もあります。最近のワインには減ってきましたが、およそ1万円超えのピノ・ノワールを買ってすぐ飲むときは注意が必要です。
※2 比べる楽しさ
ピノ・ノワールは産地や醸造の特徴を風味によく反映する品種です。ゆえに一つの生産者が単一畑や単一区画で多くの種類のピノ・ノワールをつくることがよくあります。1本のワインとしての満足度はもちろんですが、「畑が違うだけで風味が全然違う!」という驚きもピノ・ノワールの大きな魅力です。
上記のような価格による味わいの傾向が、2000円台と3000円台の1000円差ですら感じるように思います。
当店で扱っているワインで具体的にご紹介します。
違いを感じるちょっと贅沢なピノ・ノワール8選
3000円台はピノ・ノワール全体としては、まだまだ低価格帯です。それでも「普段飲みのワインにはもう少し安い方が・・・」という方も多いでしょう。
ちょっとぜいたくするなら、相応の味を期待したい。その期待に応えてくれるであろう3000円台のピノ・ノワールをご紹介します。
3000円以下にはない風味の複雑さ
フルーティー&滑らか系
試飲会で一口飲んで、その風味の複雑さにほれ込んで仕入れを決めたのがこちら。
果実味と樽香の甘いニュアンスがあるのを「カリフォルニア産ピノ・ノワールらしい」とするならば、こちらはその「らしい」ワインです。一方でメンドシーノ・カウンティという海岸近くの冷涼地区でつくられるため、程よい高さの上品な酸味も兼ね備えています。べったり重たい印象はありません。
チェリーのような赤系果実の香りに、クローヴのようなスパイスのニュアンス。控えめな樽香が見事に調和しています。ピノ・ノワールとして軽くもなく重たくもなくな口当たりは、しなやかでスムース。意識しなければ酸味は感じません。
いつもは3000円以下を基本とする方には、「ちょっといいワインを飲んでいる」感をしっかり感じていただけるでしょう。
味わいの向こうに笑顔が思い浮かぶ
フルーティー&滑らか系
ニュージーランド全域でワインをつくる「インヴィーヴォ」という生産者。そのワインの特徴は、「大衆が好む味にあわせるのが上手」だと私は考えます。パッションフルーツなどのフルーティーさが全面に現れた「インヴィーヴォ X SJP ソーヴィニヨンブラン」などがその典型です。
なのでこのシリーズとしてピノ・ノワールが発売され試飲した際も、「インヴィーヴォらしい味」というのをまず感じました。
非常に明るく明確に現れた赤いベリー系フルーツのアロマ。その透明感のある味わいが素晴らしい。
マールボロの2000円台ピノ・ノワールに、私は頻繁に無理してつくっているような違和感を感じます。「これはピノ・ノワールの香りじゃない」と採用を見送るワインも多いです。その質の高くない原料をどうにか飲めるようにしたようなニュアンスが全くない。
このワインを買って飲む方が香りを嗅いでおもわず笑顔になる姿。インヴィーヴォの風味からそれが目に浮かびます。
そのブランドネームに違わぬ価値あり!
繊細&エレガント系
「Bourgogne」広域スタンダードより一応上に位置付けられる「Haute Cote de Nuits」。昨今はそんなに有名でない生産者でも5000円、8000円つけてたりします。
なので買いブドウで大量生産するわけではないのに3000円台、しかも前半というのは驚き!ブルゴーニュワインの相場を知る者からすれば、それだけで買って試してみる理由に十分です。
つい先日試飲しましたが、味わいも決して悪くありません。執筆時2021VTで冷涼な難しい年だったのですが、薄さは全く感じず適度な凝縮感。香りは「複雑」というより「ハッキリしない」と言った方がいい、あまり洗練されていないもの。このあたりはマイナス要素ですが、ブルゴーニュらしい上質な酸味はそれを補ってあまりあります。
飲んだ後だと、ブルゴーニュらしくないけれども格好良くはないこのエチケットの、味わい深さが増します。
果実の凝縮感が前に出てきます!
フルーティー&滑らか系
あまり酸味が高くない、フルーティー系ピノ・ノワールとして、突出はしないがそこそこ優秀。
日本で見かけることは少ない、ボジョレー地方のピノ・ノワールです。ワインの産地区分としてはブルゴーニュ地方の一部ですが、どちらかというとラングドック地方などでつくられるものに近いバランス感。前に出てくる凝縮感のある果実味を適度な酸味が支えています。
風味の複雑さや上品さは価格相応、期待は超えないでしょう。しかし風味がち密に詰まっている凝縮感はなかなかのもの。2000円台にブドウを過熟させることでもっと甘濃くしたピノ・ノワールはあります。でもこのワインはピノ・ノワールとして適切な酸味を保ちながらの力強さ。
十分に評価できます。
2000円台では難しい薄旨系
薄旨&スムース系
グラスの向こうが容易に見通せる、薄いルビーレッド。これは発酵時にピジャージュ(※)を頻繁にせず、果皮からの抽出を穏やかにしていることが察せられます。
これをしないこと自体はどんな価格帯のワインでもできます。しかしそれは単に「色も風味も薄いだけのワイン」になってしまうリスクがあります。色が薄くタンニンも穏やかなのに、香りはしっかりと広がり余韻も長く続く。それでこそ「薄旨」です。
どのラインを「薄いだけ / 薄旨」のボーダーとするかは人それぞれ。私はこのワインを「薄旨」だと判断しました。
フルーツ感は甘く熟した印象があるのに、タスマニア島の冷涼気候による上品な酸味がやさしく引き締めています。
※ピジャージュとは
赤ワインは果汁を果皮や種と一緒に発酵タンクに入れます。発酵中、果皮が浮かび上がってきて「果帽」と呼ばれる層をつくります。そうするとあまり果汁に触れません。それを専用の棒でタンク中に押し下げることを「ピジャージュ」や「パンチングダウン」と言います。風味やタンニンをより抽出する効果があります。
RWGお墨付きの「薄旨」
薄旨&スムース系
こちらも色合いが淡くタンニン穏やか、軽い口当たりの「薄旨」ピノ・ノワール。今度は「薄旨」であることを、リアルワインガイド誌が保証しています。
先ほどのムーリラとの違いは香りの質。ムーリラがピュアなフルーツ感だったのに対し、クレッツァーの方が土のニュアンス豊かに複雑性があります。オーストリア、ウィーン近郊の気候はブルゴーニュやドイツなどと比べると温暖。キリっとした酸味はなく、エレガントさよりもフルーティーさが際立ちます。
紙面では「唯一無二のフルーティさと大地の風味の混じりあい」と紹介されました。
味も価格もちょっと産地らしくない?
繊細&エレガント系
ラブ・ブロックのワイナリーはニュージーランドのマールボロにありますが、ピノ・ノワールの自社畑は遠く離れたセントラル・オタゴに。そこは世界に名だたるピノ・ノワールの銘醸地ですが、事情は少し異なります。
セントラル・オタゴは地球最南端の産地の一つ。冷涼で昼夜の寒暖差が大きな半大陸性気候と長い日照が特徴です。出来上がるワインは高い酸味を持ちつつ凝縮感のあるメリハリボディ。アルコール14%に達する力強いものも少なくありません。
40年前くらいまでは、「寒すぎてワインづくりは無理」と考えられていたとは、にわかに信じられません。
セントラル・オタゴについてはこちらの記事で詳しく▼
セントラル・オタゴは長期熟成可能な高級ワインをつくれる気候と、僻地にあって輸出に不利な条件から、高単価ワインを少量生産する傾向。ゆえにピノ・ノワールは5000円くらいのスタートが基本です。
その中でラブ・ブロックの3000円台半ばという価格は安い!ただしセントラル・オタゴらしい凝縮感はなくて、繊細で軽やかな口当たりです。それでもセントラル・オタゴの上品なピノ・ノワールをこの価格というのは、他に私は知りません!
ちょっと背伸びしたしっかり系で将来楽しみ!
タンニンしっかりパワフル系
ブラインドテイスティングの初歩では「ピノ・ノワールはタンニンをほとんど感じない」と教わります。でもある程度価格を上げると、地域によっては力強いタンニンを持つものもあります。例えばブルゴーニュの村名格以上。
この価格帯がブラインドテイスティングの題材になることは稀なので、ウソは言っていません。
何十年と熟成して美味しくなっていくワインをつくるとき、タンニンは必須です。それを目指さないなら、タンニンをなるべく抽出しないというのもアリです。
このワインはちょっと背伸びしています。3000円そこらの値段なのに、開けたては「もうちょっと熟成させるべきだったかな」と思わせるほどの、ハッキリ感じるタンニンがあります。黒系フルーツのよく詰まった風味があり、少し硬い印象。この硬さがほぐれるほどに数年熟成させると、まろやかにより美味しくなりそうです。
こういうタイプは回転重視の2000円台のワインには、ピノ・ノワールに限らずなかなかありません。
こちらは3日以上かけて飲む場合に魅力を発揮します。ひょっとしたら1日目よりも2,3日目の方がまろやかで美味しいかも。
ワインは一人で飲むので数日かかりという方の強い見方です。
ピノ・ノワール、ワインが高価になる『原因』とは
「3000円台のピノ・ノワールの美味しさは、2000円台とは違う」
それがテーマでしたので、今回はワインの説明をとりわけ丁寧に書きました。「美味しいそう!」と感じるものがあったら幸いです。
しかしほとんどの場合、ワインは「美味しいから高価」ではありません。より高いワインを購入して飲んで、より美味しく感じたとしたらそれは『結果』です。
高い価格の『原因』を知れば、「美味しそう」という期待値に裏付けを感じ、安心して購入できるでしょう。
個別のワインについて、なんで高価になったのかはわかりません。しかし一般論としてなら、価格を左右する要因を説明できます。
大きなもので次の通りです。
高価で美味しいワインの原因
- 収量制限 単位面積に実るブドウを少なくする
- 丁寧な選果 健全なブドウのみを醸造する
- 畑の選択 効率の悪い斜面の畑
- 小ロット生産 多種類を比べる楽しさ
- オーガニック等による栽培(?)
収量制限しているから高価で美味しい
ワインの収穫量の多寡は「〇〇hl/ha」(畑1ヘクタールあたり何ヘクトリットルのワインができるか)で表されます。1ヘクトリットルは100Lであり、ワインおよそ133本分に相当します。
生産量は品種や産地の特性で異なるため、「〇〇hl/ha以下なら低収量」とは言えません。参考までに挙げると、数万円するブルゴーニュのグラン・クリュで30hl/ha程度かそれ以下。1000~2000円で取引されるドイツワインでざっと100~120hl/ha程度でしょうか。
収量制限とは1本の樹になるブドウの房を、間引くことによって減らすことです。春先に出た新芽をある程度減らす。夏季にブドウの房を切り落として調整する。灌漑(水やり)が必要な地域なら、その量を減らして実を小粒にする。そうして残った房に栄養が集中するようにし、ブドウの風味を凝縮させます。
ただし実る房の数を半分にしたからといって、風味の濃さが倍になったりはしません。しかし出来上がるワインの数は数字に比例して減っていきます。
美味しいワインは美味しいブドウから。それには収量制限が必須ですが、収量を半分にしたとてなかなかワインの価格は倍にできません。その質と量のバランスポイントが難しい。
収量制限はワインの価格にダイレクトに直結しているポイントです。
丁寧な選果
今回ご紹介した3000円台のピノ・ノワールは、おそれくどれも選果を行っていることでしょう。収穫されたブドウから、健全でない粒を除くことです。
その方法は「ソーティングテーブル」と呼ばれる台を人が囲んで、目で見て悪い実を取り除くもの。あるいは「オプティカルソーター」(光学式選別機)という数千万円する機械を導入して、自動的に悪い実を除外することです。
不良な実を除くことで発酵中に雑菌が繁殖するリスクは下がり、より味わいはクリーンなものになると考えられます。しかしそれにはコストがかかるのです。
畑の選択
そもそもどんな立地や環境の畑を選択するかでも、廉価なワインを大量生産できるか、あるいは高品質・少量生産に向いているかが決まります。
大量生産に向いた畑とは、ある程度温暖な環境の平地です。機械化もしやすく栽培コストが安くなります。しかも生育期に雨が少なく、灌漑(水やり)用の水が確保しやすい環境なら言うことがありません。
人間にとって都合のいい環境は、ブドウにとっても良い環境なのでしょう。樹が環境に満足してしまって、質の高いブドウをつけません。こういった大量生産に向いた環境で、トップレベルのピノ・ノワールがつくれるという話を私は知りません。
むしろ人にもブドウにも厳しい環境でこそ、素晴らしいブドウが実ります。鳥などの動物にとって魅力的で、外に子孫を残そうとするからでしょう。
機械化できない斜面の畑。水分や栄養が保持されにくく痩せた畑でこそ、卓越したブドウが実る傾向があります。そういった畑は手間はかかるのに収穫量は少ない。必然ワインの値段を上げないとコストが見合いません。
そしておおよそ、高品質なワインをつくれる可能性のある畑ほど、高価で入手しづらいものです。
小ロット生産
単一畑や単一区画からつくるワインは、それだけ畑の個性がワインにハッキリと表現されます。飲み比べる楽しさは、数万本単位で生産するワインにはなかなかないものです。
一方でその生産本数が限られます。それは希少価値につながり買ってもらいやすくなるかもしれません。しかし少量・多種類つくることは、製造面では非効率です。
「限定数百本」というワインは、希少価値だけで値段が吊り上がっているわけではありません。製造コストが割高です。
ただこれは3000円台のピノ・ノワールには当てはまらない、1万円弱からの話です。なかなか5000円以下で単一区画のピノ・ノワールをつくりわけている生産者は耳にしません。
オーガニックやビオディナミ栽培
殺虫剤や化学肥料を使わないオーガニック栽培。それに月の巡りなどを取り入れたビオディナミ栽培。
それらがブドウの品質を確実に向上させるかは、おそらくまだ議論が分かれる、あるいはメカニズムがよくわかっていないところです。
ただし「オーガニックやビオディナミに転換して品質が上がった」という話はちらほら聞く一方で、「ワインの味わいを優先して慣行農法に戻した」という話は聞いたことがありません。
状況証拠的に、オーガニックやビオディナミはある程度ワインの美味しさにつながっていると考えられます。
一方でオーガニックやビオディナミは、確実に栽培コストに影響します。特にビオディナミは畑の様子を事細かに観察する必要があり、手間がかかります。さらに病気などのリスクが上がるため、天候に恵まれない年に収穫を失うリスクも計算しないといけません。
地球環境・サスティナビリティの観点から、有機栽培はできるなら取り入れた方がいい。しかし品質を保ってそれを実行するにはコストがかかります。経済的なサスティナビリティが保たれなければ、やがてその畑は荒廃します。
オーガニック栽培はおおよそワインが高くなる原因ですが、風味に関しては必ずしも優れるとは言い難いです。
コストをかけてつくるワインは美味しいことが多い
良質なものを丁寧につくるには、それ相応のコストがかかります。製造業に携わっている方の方が、私よりそれをよく理解しておられると思います。
ワインは基本的に、美味しいから高価なのではありません。コストをかけて丁寧に効率悪く作業するから、高品質なワインになり値段が上がる。結果として「美味しい」と感じる割合が高くなるのです。
そのための生産者の努力を知っていれば、全てのワインをひとまとめに「好みは人それぞれ」なんてとても言えないです。
スタイルや味の方向性として、個人の嗜好はもちろんあります。その上でピノ・ノワールの実売3000円をまたぐプラス1000円には、満足度を大きく左右する効果があると感じています。
ご褒美ワインで明日がんばる活力を
3000円台のワインを「ちょっと高いな」と感じるのは、多くの日本人にとって普通の感覚だと思います。
「ちょっと高いな。だけどその価値あって美味しいな」
そう感じていただけたあとに、「もう少し安かったらいいのに・・・」と思ってほしくない。
「これを安いと思えるように。いつもこれくらい飲めるようになりたい」と思ってほしい。
それが私の希望です。
もっと貪欲になっていいと思うんです。
もっと美味しいものを食べたい。美味しいお酒を楽しく飲みたい。
そのためにもっと稼ぎたい。
もっと暮らしを豊かにしたいという欲求が、お金の巡りを良くし、今の日本をちょっとだけ良くしていく。
そう考えています。
ちょっと高くてより美味しいワインが、みなさまが日々を頑張るためのちょっとした目標になりますように。