ピノタージュでつくる赤ワインは、その風味のスタイルを4つに分類することができます。
そのスタイルによって価格帯も変わるので、おのずと適した楽しみ方もまた様々。
南アフリカを代表するこのブドウは、お手本となるワインがないからこそ面白い。
4つのタイプのピノタージュをシーンや気分に応じてどう選ぶか、ご紹介します。
ピノタージュの概要
ピノタージュは人工的に交配された品種です。
開発されたのは1925年のこと。ステレンボッシュ大学にてピノ・ノワールとサンソーから生まれました。
ただし「Pinotage」の名前がワインとして登場するのは1961年のこと。実質まだ60年ほどの歴史しかない、新しい品種です。
実質南アフリカの固有品種
少し古いデータで2015年のものですが、全世界のピノタージュの栽培面積はおよそ7,300ha。そのほとんどすべてが南アフリカで栽培されています。(※1)
カリフォルニアやブラジル、ニュージーランドなどでも少量栽培されているようですが、実験的な量でしかないと言っていいでしょう。(※2)
ゆえにピノタージュは南アフリカ固有の品種といっても言い過ぎではありません。
南アフリカにとってももちろん重要な品種ではありますが、南アフリカにおける栽培面積ではカベルネ・ソーヴィニヨンの方が上。黒ブドウとしてはカベルネ・ソーヴィニヨンとシラーに次ぐ第3位です。(※3)
※1 OIV2015年の資料による
※2 The Grapes / Jancis Robinsonによる
親品種との共通点
ピノ・ノワールはよくご存知の品種でしょうが、サンソーというブドウはそれほどメジャーとは言えないでしょう。
サンソーはフランスのローヌ地方からラングドック・ルーション地方にかけて広く栽培されているブドウです。
サンソーは乾燥に強い品種です。特に内陸部において乾燥した地域の多い南アフリカにおいて、その性質が期待されたのでしょう。ただ、ピノタージュ自体は特別乾燥に強いということはないようで、ある程度保水性のある土壌の方が向いています。
病気に対する弱さはピノ・ノワールの性質を受け継いでおり、他国に広まらない理由の一つでしょう。
一部の例外はありますが、南フランスにおいてサンソーは普段飲みワインをつくる品種。あまりお金のとれる品種ではありません。酸味は中程度でタンニンは穏やか。熟成能力のあるワインにはなりにくいのが大きな理由でしょう。どちらかというと、果実味主体でリーズナブルなワインがつくられる傾向にあります。
そしてそれはピノタージュも同じ。少し前まではピノタージュは質より量の安ブドウ。歴史から見ると「大切にされてきたブドウ品種」とは言えないでしょう。
ピノタージュの4タイプ
冒頭に述べたピノタージュの4つのタイプ。次のように分類できます。
ピノタージュの4タイプ
- 果実味主体のシンプルなスタイル
- 力強いボルドースタイル
- 上品なピノ・ノワールスタイル
- コーヒーピノタージュ
こうして同じブドウからいろいろなスタイルのワインがつくられる理由。もちろん大きな理由は、どのスタイルでもそれなり以上の品質でワインをつくれるからでしょう。それに加えてピノタージュが普及し始めてせいぜい60年。まだ若い品種なので、どうつくるのが美味しいか実験段階であるともいえるでしょう。
次第にピノタージュというワインのスタイルが、4つのうちどれかに集約されていく可能性もあります。一方でたとえ100年後でもピノタージュのスタイルは定まらず、4つ以上のタイプが混在しているかもしれません。
その理由は、ピノタージュのお手本となるようなワインが未だ誕生していないからです。
お手本となるピノタージュがない
ワイナリーは営利団体です。だからワイナリーが儲かるように、つまりたくさんの人に買ってもらえる品質・価格でワインをつくることが何より大事。
その上で「流行っているもの、高額に取引されるものに寄せたワインをつくる」というのは当然の選択です。
例えばピノ・ノワールについては、「ロマネ・コンティ」という、輸入自動車が買える価格のワインがあります。
カベルネ・ソーヴィニヨンについては、かつてはボルドー5大シャトーのようなワインが目標でした。今のナパ・ヴァレーには、スクリーミング・イーグルやシェーファーなどをはじめ、5大シャトー以上の価格で取引されるカベルネ・ソーヴィニヨンがいくつもあります。そういったスターワインがあれば、そのワインに挑むように同じスタイルでつくる生産者もいます。
ピノタージュにはそのような絶対的に高価に取引されるワインというものが、(少なくとも私の知る限りは)ございません。だからこそお手本となるワインをみんなが真似るという状態にはならないのです。
「こういうピノタージュが美味しい」という評価基準のようなものがないからこそ、こうして4つのスタイルがそれぞれに面白いのです。
親しみやすさが◎果実味主体のシンプルなスタイル
サンソーの遺伝子によるものでしょうか。リーズナブルな価格帯の多くのピノタージュは、果実味豊かにタンニンは抑えめな赤ワインに仕上がる傾向にあります。
風味としては赤系のベリーを思わせるもの。それほど複雑味はなく、シンプルなフルーツ感です。酸味は高いというほどではないです。これは品種特性によるものなのか、それとも南アフリカで比較的暖かい地域で栽培されているからなのかは不明。樽熟成はしないかごくわずかであることが多いため、ボディ感は比較的軽く、酸味は相対的にやや高めに感じるかもしれません。
「本来の味」というのが定まっていないのがピノタージュなのですが、あえて一番ブドウの風味そのままにというなら、この果実味主体のスタイルでしょう。
果実味主体ピノタージュのおすすめ銘柄
複雑さや飲みごたえといった「高いワインの味」を求めないのであれば、ワインは欠点があまりないという前提で安い方がうれしい。
そういう尺度でならこの「マン ピノタージュ」は、期待しすぎは禁物であるものの、期待を裏切ることもないワインです。
ワイン飲み始めの人に勧める赤ワインとして何が適当か。強い渋味が最初からOKな人はごく稀だと思います。渋味の少ないワインとしてはピノ・ノワールがまず思い浮かびますが、ピノ・ノワールは酸味が高いのが基本。「渋味や酸味が低く、より果実味豊かな赤ワイン」として、ピノタージュは有力候補と言えるでしょう。
このステラーがつくる「ランニングダック・ピノタージュ」は、よりピュアな果実感が表現されています。
ただし酸味も渋味もそう高くないピノタージュは、抜栓後の劣化がやや早いです。特にこのワインは亜硫酸無添加なので、翌日には風味が悪い方に変わってしまう可能性があります。
1日で飲み切るつもりで開けることをおすすめします。スルスル飲める味わいなので、2人で飲めば余裕でしょう。
力強い味わいの高級品、ボルドースタイル
先述の果実味主体のピノタージュが渋味抑えめなのは、おそらくその味わいを狙って醸造を工夫しているから。
ピノタージュというブドウの性質としては、小粒で果皮が厚いため、しっかり抽出すればある程度渋味がある赤ワインになります。
このスタイルをつくるには、ある程度の果実の凝縮感が必要。それには収量制限か樹齢の高さが求められます。必然的に価格はやや高めで、1000円台でつくるのはちょっと難しいでしょう。
力強く濃厚なボルドースタイルのおすすめ銘柄
果皮からしっかりタンニンを抽出し、凝縮感が高く熟成ポテンシャルのあるスタイル。樽熟成をして少しボルドーワインを思わせるスタイルに仕上げる代表格がカノンコップです。
「南アフリカのピノタージュといえば・・・」で必ず名前の挙がる生産者であり、ワインスクールでもよく使われます。
カノンコップのワインの味わいが力強いのには、醸造に工夫があります。
黒ブドウの果皮から色素や風味・タンニンをしっかり抽出するには、パンチングダウン(ピジャージュ)を多く行うのが効果的です。ブドウの発酵中、発生するガスによって果皮や果肉が果汁の表面に浮いて固まります。それでは果汁と接触せず抽出があまり行われませんので、その果帽を押して沈める作業があります。それがパンチングダウンです。
パンチングダウンは頻繁なほどいい、というものではありません。どんなワインをつくりたいかに寄ります。カノンコップはパンチングダウンをしっかりやることによって力強いワインをつくる代表格です。
ワインのアルコール発酵は少なくとも数日間にかけて起きます。カノンコップでは2時間おきに24時間体制でパンチングダウンを行うといいます。
それゆえに出来上がるワインは、ピノタージュとしては濃厚で渋味もあり、パワフルなスタイルのワインになるのです。
ピノ・ノワールを目指した淡く上品なスタイル
「ピノタージュはピノ・ノワールの子供なのだから、ピノ・ノワールっぽいワインをつくることもできるはずだよね」
その狙いの下、ピノ・ノワールを意識した淡く上品なスタイルのピノタージュもつくられています。
- 南アフリカの中でも比較的冷涼な畑を選んで植える。
- ボルドースタイルのものとは逆に抽出を穏やかにする。
- アルコールが高くなりすぎないよう、適度な早摘みをする。
こうやってつくるピノ・ノワールは、渋味穏やか、酸味は上品で高め、洗練された香りを持ちます。果実味主体のスタイルとは少し似ているところもありますが、より上品でしなやか。そして価格は高めで、1000円台のものはありません。
ピノ・ノワールっぽさを持つスタイルのおすすめ銘柄
輸入元のバイヤーさんが、最初飲んだ時ピノ・ノワールと騙されたというピノタージュ。
個人的にもピノタージュのイメージががらっと変わった1本です。
果実感は豊かですが、酸味の質が他のピノタージュと比べて一段階高い。樽熟成によって口当たりもなめらかでありながら、重たくはありません。ピノ・ノワールと比較すると確かに酸味は低いのですが、誤差の範囲内とも言えます。
ヨーロッパよりはニューワールドのピノ・ノワール好きの方におすすめ。普段晩酌にいろいろ飲む中の変化をつける1本としていかがでしょうか。
ただしこういうスタイルでつくろうと思えば、ブドウの質がある程度高くないと単なる「薄いワイン」となるのでしょう。丁寧な栽培が前提となるため、価格は果実味主体のものに比べるとやや高めです。
初めて飲むとビックリ!コーヒーピノタージュ
熟成に使うオーク樽。内側をローストする際にその度合いを強くしてピノタージュに用いると、赤ワインにコーヒーのような甘く香ばしいニュアンスが強く現れます。これが「コーヒー・ピノタージュ」というスタイルです。
同じように強いローストの樽でカベルネ・ソーヴィニヨンを熟成させることもあります。その場合も香ばしい風味は現れるのですが、ピノタージュの場合の方がずっと顕著です。樽のかけ方によっては、コーヒーというよりカプチーノを思わせる場合もあります。
このスタイルのワインは醸造のテクニックなので、そう大きなコストはかかりません。逆に醸造の風味が強いだけ原料となるブドウの違いは感じにくいです。結果として手ごろな価格帯であることがほとんどです。
甘く香ばしい香りが漂うピノタージュのおすすめ銘柄
コーヒーピノタージュは世界を見渡しても他に似たようなワインがないスタイルです。
一方でその個性が強いゆえに、輸入元としてはそう何種類も取り扱うメリットが薄いのでしょう。
各社せいぜい1銘柄づつ取り扱っているようです。
コーヒーのような香ばしい風味はメイラード反応、糖とアミノ酸の重合反応によるものです。
フードペアリングの「似たもの同士を合わせる」の法則どおり、少し焦げの風味がある食べ物とあわせると、このワインならではの体験ができるでしょう。
このコーヒーピノタージュのスタイルを開発したのは、ベルタス・フォーリー氏だと言われています。その彼が今も手掛けるのが、この「バリスタ」です。
「焦げの風味」といってもピンとこないかもしれませんが、例えば焼き餃子。あの焦げ目の香ばしさとコーヒーピノタージュの香ばしさはお互いを引き立てあいます。
風味が個性的なので、口当たりなめらかで評価は高いのですが、その風味の強さゆえに一人で飲み切るのは少ししんどい可能性もありませす。
それでもコーヒーピノタージュのスタイルを知っておくと、ちょっとした集まりの際の飛び道具として頭の片隅に入れておくといいでしょう。
ブドウ品種で選ぶ1歩先を
自分でワインを選べるようになる第一歩は、まずブドウ品種の特徴を知って好みのものを見つける事。知っているブドウ品種を広げていくことです。
しかし気に入ったブドウ品種のワインをいくつも飲んでいると、その中にも様々なタイプのワインがあることに気づいてくるはずです。
それは産地的な要因だったり、ワインメーカーが醸造を工夫していたり、価格によるターゲット層の違いだったり・・・
ブドウ品種以外にワインの味を決めるものを理解して、好みのワインを選べるようになる。これが次の1歩です。
「だからこんな味になるんだ!」知識と味覚が結びつけば、ワイン選びはもっと楽しくなるはずです。