
ドイツのシュペートブルグンダーの大きな魅力は、手頃な価格でも多様なスタイルのワインを堪能できることです。上品な口当たりの赤ワインはもちろん、ロゼやスパークリング、白ワインも造られる品種は、他になかなかありません。この記事ではピノ・ノワールとの対比も交えて、家飲みに適した手頃なおすすめワインをご紹介します。変幻自在なドイツのこの品種は、いつもの晩酌をより楽しく発見のある時間にしてくれるでしょう。
手頃で多様なシュペートブルグンダー8選
シュペートブルグンダーはピノ・ノワールのドイツにおける別名です。とはいえ中身が全く同じとも言い切れないのが興味深いところ。
まずは様々なスタイルに変化する、手頃なおすすめシュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)をご紹介します。
安くて美味しい理由に納得
TYPE 辛口赤ワイン
ドイツはドメーヌが至上とされます。高級ワインはほぼ全て自社畑からつくる生産者。ハルティンガーのような協同組合は下に見られがちですが、スケールメリットがあるのは間違いない。安く美味しく楽しめます。
「シュペートブルグンダーらしさ」を手頃に味わえるのが魅力。上品で軽い口当たりで控えめな果実味は、ドイツならではです。
ピノ・ノワールらしさをミニマムに
TYPE 辛口赤ワイン
買いブドウから造るネゴシアン型だからこそ実現可能なこの価格。ドイツワインは基本的に、チリやイタリア、スペインほど低価格ワインに強いわけではありません。ヨーロッパの中でも工業が強く、人件費は高いのです。
なので過度な期待は禁物です。数千円のワインに匹敵したりはしません。しかしピノ・ノワールらしい赤いフルーツ的でチャーミングな風味と、渋みのない軽やかな口当たりは確かにあります。
トップ生産者の味をこの価格で
TYPE 辛口ロゼワイン
ピノ・ノワールのロゼワインは他にもあります。それでも普段飲み用としてやや高価なこのワインをご紹介するのは、生産者の格ゆえ。パーカーポイント100点をドイツで最も多く獲得している、マーカス・モリトールがつくるからです。
リースリングで特に評価が高いのですが、ピノ・ノワールも高級品をつくっています。ロゼに関しても妥協がなく、風味がち密に詰まっています。リースリングやピノ・ノワールの赤ワインは、結構な熟成が必要な種質ですが、ロゼワインは最新ヴィンテージこそ美味しいです。
事情を知ればお買い得感が増す!?
TYPE 辛口ロゼスパークリング
ヨーゼフ・ビファーのワインが安くて美味しいのは、輸入元の身内だからです。
このワイナリーの社長兼醸造家は、日本人女性の徳岡史子氏。輸入元「徳岡」一家の血縁者です。それもあって生産者のワインを日本で広く流通させるべく、多大な企業努力をしているからこそ実現するこの価格です。
もちろん味わいは価格以上のもの。ピノ・ノワールのロゼらしい、チャーミングな赤いフルーツの香りが広がります。
プロも驚くこの美味しさ
TYPE やや辛口白ワイン
ピノ・ノワールをやさしく色が出ないようにプレスし、果汁だけで発酵させた白ワイン。このような黒ブドウからつくる白ワイン「ブラン・ド・ノワール」は、ドイツにおいてワイン用語として定着しつつあります。
オーク樽熟成は一切していないのい、黒ブドウらしいボリューム感と酸味の柔らかさを持っています。
インポーターが定期的に開催している、一般消費者も入れる試飲販売イベント。そこで出品される度に評判の高いこのワイン。様々なワインを飲んでいるプロでも、「これすごいね!」と驚いています。
表記が年によって変わる!?
TYPE 辛口白ワイン?
「?」ってどういうこと!?って思いますよね。
このワイン、基本は先ほどの「ブラン・ド・ノワール」と造り方は同じです。しかし果皮からの色の出方が年によって違うのか、時折「ロゼワイン」表記で発売されます。通販モールにカテゴリ登録が必要な弊社のような立場からすると「ヤメテクレ」って正直思っています。
そんな面倒くさい商品なのに、値段に対する美味しさを考えると置いておきたい。そう思わせてくれるような、華やかな香りとジューシーな味わいなのです。
ワイン初心者にもおすすめしたい
TYPE 甘口ロゼスパークリング
ピノ・ノワールのロゼワインは、イチゴや赤いフルーツのチャーミングな香りを持つもの。その香りのイメージ通り、甘くかわいらしい味わいに仕上げたスパークリングがこちらです。
一度見たら忘れないようなウサギのエチケットと名前。ワイン飲み始めの人もいるパーティーや、スイーツと楽しむ休日のティータイムなどにピッタリでしょう。
シュペートブルグンダーはドイツの土着品種
「シュペートブルグンダー」はドイツにおけるピノ・ノワールの別名であり、ブルゴーニュ原産です。
「土着品種」という言葉は、主に世界でその土地でのみ栽培されているような品種で使われます。そうでなくとも、その地が原産であったり、最初にその地域で繁栄した品種であるものです。
ドイツの「シュペートブルグンダー」は、これらの条件に当てはまりません。それでも「土着品種である」と主張する根拠は、その歴史の長さにあります。
11世紀以上にわたる栽培の歴史
ブルゴーニュ原産であり「ピノ・ノワール」と呼ばれるブドウがドイツに持ち込まれた。その経緯は歴史に残っています。
西暦884年のこと。フランク王国のカール肥満王がボーデンゼー(ボーデン湖)周辺にブドウの苗木をもたらしたという記録があるのです。
さらに12世紀から13世紀にかけて、シトー派の修道僧たちがラインガウ地方の「クロスター・エーバーバッハ修道院」にピノ・ノワールを持ち込んだ記録も残っています。この「アスマンスハウゼン」の畑は、今でもシュペートブルグンダーの銘醸地です。
比較するなら、ドイツを代表するリースリングについて、ハッキリと分かる栽培の証拠は15世紀のものが最古です。その2倍の年月栽培されてきたというなら、確かに「ドイツのブドウ品種」と言っていいでしょう。
ドイツ独自のクローン
ブドウ品種について「クローン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。


ブドウは基本的に、種から育てるのではなく挿し木や接ぎ木で増やします。そうでないと樹の性質が変わってしまうからです。
それでも長い年月をかけると、突然変異により樹によって性質が異なってきます。病気に強い/弱いや粒が大きい/小さい/不揃いなどといった性質です。
特に優秀なものを選抜して増やしていくので、「クローン」という呼び方をするのです。
ピノ・ノワールは突然変異を起こしやすく、政府機関などに登録されているクローンの数が特に多い品種で知られます。
気候と時代で異なるクローン選抜
先ほどの「優秀なもの」の定義は、その土地の気候や時代が求めるものによって違います。
栽培技術が未発達だった時代、まず求められたのは病気になりにくく健全に育つこと。そして収穫量が多いことだったでしょう。農薬や化学肥料などないのですから。ドイツのような寒冷地で栽培するなら、熟しやすいことも非常に重要です。
現代では違います。大雑把に言うなら量より質の需要が高まっています。たとえ収量が少なくても粒が小さく高品質なクローンが求められる傾向にあります。ピノ・ノワールで高品質なワインをつくれば、それだけ高価な価格で販売できる時代になったからです。
このようにクローン選抜の意図が時代で異なります。異なる土地で1000年以上も別々に栽培すればどうなるでしょうか。同じDNAを持っていたとしても、違う性質になるのは容易に想像できます。だからシュペートブルグンダーはドイツの土着品種なのです。
多様な「シュペートブルグンダー」の楽しさ
いろいろなワインを飲むのが楽しいと感じる方には、シュペートブルグンダーがおすすめです。他の品種・産地に類を見ないほど、様々なタイプのワインが手頃に楽しめるからです。
赤・白・ロゼ・泡、どれも楽しめる
黒ブドウであるピノ・ノワール/シュペートブルグンダーからは、赤ワインとロゼワインは世界各地でつくられます。シャンパンを代表として、白やロゼのスパークリングワインも珍しくありません。
それほど数は多くありませんが白ワインもつくられます。
ピノ・ノワールは果皮が薄い傾向です。あまり色素を持たないので、淡い色合いになりがち。収穫したブドウを房のままやさしくプレスすれば、ほとんど色のつかない果汁が得られます。その果汁を発酵させれば、ピノ・ノワールの白ワインができます。¥
カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローではありえないとは言いませんが、比較するならかなり少ないです。シラーについては、私は見たことがありません。
ただし、このタイプの多様性はドイツだけに限らず、世界中で見られます。
「甘さの幅」の多様性
他国のピノ・ノワールとドイツのシュペートブルグンダーの違い。それはタイプの幅だけでなく甘さの幅があることです。
ドイツでは伝統的に、キリっと辛口のワインから甘口、極甘口のワインまでつくられてきました。当店には現在ないものの、シュペートブルグンダーのやや甘口赤ワインもつくられています。今回ご紹介した「ブラン・ド・ノワール」はファインヘルプ、つまりやや辛口の仕上げ。希少ではあるものの、ピノ・ノワールのアイスワインもたまに見かけます。
それぞれのタイプで辛口から甘口までのグラデーションがある。しかもその多くが割と低価格で楽しめる。これが他国にはない「シュペートブルグンダー」の魅力です。
ただし、赤ワインの甘口や白ワインについて、卓越した風味の高級ワインはつくられていません。ロゼワインもほとんどないです。低価格だからこそ多様性が楽しめるというのも興味深いポイントです。
品種名表記が混在する理由とは
ドイツのピノ・ノワールだからといって、すべてが「シュペートブルグンダー」表記というわけではありません。少なくないワインに「ピノ・ノワール」と書いてあります。
単に生産者の好みというだけではないかもしれません。
クローンで表記を変える
ドイツ系クローンかブルゴーニュ系クローンか。それによって表記を変えている生産者もいます。
ドイツでは産地によって、栽培が認可されている品種というものがあります。たとえばモーゼル地方においては、ピノ・ノワールの栽培が許可されたのは1986年からです。これはナチス政権下で、この地域はリースリングの生産に専念させたい意図があったからです。
許可が下りてから栽培を始める際、より品質に特化したブルゴーニュのクローンを植える生産者もいました。だからといって「シュペートブルグンダー」表記もできるのですが、あえて「ピノ・ノワール」表記をするケースもあります。


ワインのスタイルで表記を変える
ファルツのベルンハルト・コッホは、「シュペートブルグンダー」と「ピノ・ノワール」の両方をつくる珍しい生産者です。ワインのスタイルで分けており、昔ながらのドイツワインらしいものは「シュペートブルグンダー」、樽熟成の風味を効かせた現代的なつくりのものを「ピノ・ノワール」と表記しているといいます。
「ピノ・ノワール」表記の者の方が上級というのもありますが、確かにこちらの方が洗練された風味があります。シュペートブルグンダーからは、少し田舎っぽいような、森の下草のような香りを感じるでしょうか。
世界中で幅広い人に手に取ってもらいたいから
単純に「ピノ・ノワール」の名称の方がよく知られているからという理由もあるでしょう。
今回ご紹介した、ジョセフ・ドラーテンのものはきっとそのケースです。非常に大規模な生産者で多様なブランドを持っています。実は「ラビット・ゼクト」も同じところがつくっています。
ワインの専門店だけでない、スーパーや量販店の棚に並ぶことを想定したとき、パッケージでいかに分かりやすいかは非常に重要です。その点で「Pinot Noir」の文字は強いのです。


このように、どちらの表記を用いるかの選択には、様々な意図があります。
上級シュペートブルグンダーならではの多様性
ここまでシュペートブルグンダーには低価格帯の多様性があることをご紹介してきました。
高価格帯にはまた違った多様性があります。ほとんどが辛口の赤ワインで、タイプによる多様性はありません。それでも大いに違う風味の多様なワインがつくられているのが、この品種の魅力です。
テロワールをよく表現する品種
ブルゴーニュのクリュを例に挙げるまでもなく、ピノ・ノワールは土地の個性をよく反映する品種です。ドイツにおいても単一畑から多くのシュペートブルグンダーのワインがつくられます。生産者の個性だけでなく、その畑の気候や土壌に由来する個性も表現されます。
その土地でしかつくれないシュペートブルグンダー。これこそワインの多様性の神髄です。
ただしそれを楽しむには結構な予算が必要です。単一畑のシュペートブルグンダーの多くは5千円を超え、その中でも評価の高い生産者となると1万円超えは当たり前です。
これには霜害リスクの高さも関係します。平均気温は上がったとはいえ、春先に急に冷え込む日はあります。霜が降りて新芽が死んでしまうと、その年の収穫量は激減します。ワインの価格にはそのリスク分も含まれています。


霜害を受けた新芽
(Instagramより)
ブルゴーニュに比べると手を出しやすいとはいえ、何もない日に気軽に開けられるものではありません。
繊細さの中に感じる個性
近年高級なシュペートブルグンダーに、ブルゴーニュと比べたときの明確な価格優位性はあまりないでしょう。ものによっては美味しくて安い、くらいです。それでもおすすめする理由は、華やかで優雅な風味と冷涼気候を反映した味わいゆえです。
ピノ・ノワールが土地の個性を反映するといっても、土壌の違いとなるとそう大きな差ではありません。軽やかな口当たりの繊細な味わいだからこそ、小さな栽培環境の違いによるわずかな風味の差も感じとりやすく、比べる楽しさが増します。さらに高い酸味により熟成ポテンシャルにも期待でき、時間による変化も楽しめます。
高級シュペートブルグンダーにも、大いに比べる面白さがあります。
シュペートブルグンダーの当店イチオシ生産者▼
シュペートブルグンダーで毎日の食卓を多彩に
シュペートブルグンダーはドイツで最重要な黒ブドウ品種。低価格帯でも様々なスタイルを飲み比べられる面白さがあります。
「昨日のワインと同じシュペートブルグンダーなのに、今日のワインは全然違う!」
そうした驚きと発見のある晩酌は、代わり映えしない日常の中にも潤いを与えてくれるでしょう。











