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ピノ・ノワールの美しさを再発見!控えめで繊細で偉大なワインをつくるフュルスト醸造所

2023年12月26日

ピノ・ノワールの美しさを再発見!控えめで繊細で偉大なワインをつくるフュルスト醸造所
 
 
繊細でありながら華やか。軽やかでありながら緻密。元来のピノ・ノワールが持つ美しさを表現する。
地球温暖化の影響で高アルコールのワインが増えるなか、忘れていた美味しさに気づかせてくれるのがルドルフ・フュルストです。
世界中で評価と人気がうなぎ上りなのに、それをドヤらず今日もひたすら畑仕事。
ワインの飲み手のみならず他国の研修生をも引き付ける、とんでもないピノ・ノワールの生産者を紹介します。

 

こんな方におすすめ

◎ドイツ産ピノ・ノワールの美味しさに気づき始めた!
◎ピノ・ノワールにパワフルさは必要ない!
◎とっておきのワインをストックしておきたい
 

目次

スタンダードクラスでフュルストの哲学を感じ取る

 
フュルストが目指すのは、この地ならではのピノ・ノワールの表現。それは何より繊細さ。主張しすぎないのに風味が詰まっているワインだと語ります。
ジョルジュ・ルーミエやアルマン・ルソーは敬意を払い参考にする生産者ではあるけど、決して彼らのワインの真似をしたいのではありません。
 
同じドイツワインでも、バーデンのベルンハルト・フーバー醸造所やファルツのフリードリッヒ・ベッカー醸造所などともまた別のゴールを目指している。
スタンダードクラスである「トラディション」を飲めば、それをしっかりと感じていただけるでしょう。
(シュペートブルグンダーとはピノ・ノワールのドイツ名です)
 
 
 
KATAYAMA
淡く鮮やかなルビー色が、このワインの抽出が穏やかで酸度が高いことを示しています。サワーチェリーやクランべりーのような赤色ベリーのピュアな香り。そこにほのかに血液や鉄分のようなニュアンスも感じます。
ともかく口当たりの質感が極上です。シルクの薄布のごとく軽やかでつややか。決して重量感はなく軽やかなのに、余韻がしっかり長くつづくため、物足りない印象は全くなし。飲みこんだ後も味わいが続き、飲み切った後も満足感が続きます。これでスタンダードだと!?
 
 

アルコール13%の心地よさ

 
ワインの味わいにおいてアルコール度数は非常に重要です。
舌や口内で感じるアルコールの熱さやボディ感。それにわずかな甘みに大きく関わりますが、香りの感じ方にも影響を与えます。
 
フュルストが目指しているのは、12.5~13%のアルコール度数。これは世界的にかなり低め。他の地域で真似しづらくなっている値です。
 
 

糖度の上昇と風味の成熟

 
ブドウの収穫は開花からおよそ100日後と言われています。そのブドウが樹になっている期間を「ハングタイム」と呼びます。
ハングタイムはブドウ品種によっても異なりますし、同じブドウ品種でも畑の気候・その年の気象で違ってきます。さらにその生産者がどんなワインをつくりたいかによっても、「完熟」のタイミングは変わります。
 
 
ブドウの成熟に最も関係するのが積算温度です。簡単に言うとその日の気温と日数の掛け算です。それが主に糖分の蓄積と酸味成分の分解に影響します。暑い日が続くとブドウは早く甘くなるのです。こうした糖度や酸度の値で測る成熟は「分析的成熟」と呼ばれます。
一方で「生理的成熟」と呼ばれるものもあります。色素やタンニンといったフェノール類がしっかりと蓄積し、風味豊かなブドウになっているかどうか。ブドウを食べて種を割って舌と鼻で判断する成熟です。この生理的成熟はおよそハングタイムの長さに比例し、積算温度には関係しないと考えられています。
 
この両方でブドウが完熟していないと、素晴らしいワインにはなりません。
 
 

産地によってブドウ品種の向き・不向きがある理由

 
栽培家は決して自分の好きな品種を畑に植えているのではありません。その地の気候や土壌に適した品種を厳選しています
 
仮にそのブドウ品種にとって適温よりも暖かい場所で栽培したらどうなるのか。
糖度は積算温度に比例するので、通常のハングタイムより短い期間で目標となる糖度に達するでしょう。しかし生理的成熟はそれに追いつきません。そうすると色や風味の薄くて甘いだけのブドウになり、アルコール感だけが目立つワインになってしまいます。
かといって生理的成熟を優先して収穫を遅らせると、今度は酸味がなくてベタっと甘く、アルコールが強すぎるワインができあがります。
 
 
ピノ・ノワールはブルゴーニュ原産の、冷涼な気候でもよく熟す黒ブドウです。必要とする積算温度が低いのです。
この品種が人気だから・好きだからという理由で温暖な地域に植えても、この品種の魅力である豊かな香りはなかなか表現できません。
 
地球温暖化によってかつてはその品種に適していた産地が、最適とは言えなくなっている事例も発生しています。
 
 

晴れが続けばグレートヴィンテージではない

 
例えばボルドーの2003年。この年は記録的な猛暑に見舞われた年でした。
とある生産者のメルローとカベルネ・ソーヴィニヨンで比較したとき、ブドウがある糖度に達した日付は例年より2週間ほど早く、しかしアントシアニン(色に関わるフェノール類)の蓄積は35%近く低かったそうです。
(※安蔵光弘著「ボルドーでワインを造ってわかったこと」より)
このヴィンテージのワインは最初こそ「果実味豊かで飲みごたえのある素晴らしいヴィンテージだ」と歓迎されました。しかし生理的成熟度はむしろ他の年より低いワインが多く、熟成にあまり耐えられていないものが少なくないようです。
 
 
エマニュエル・ルジェといえば押しも押されぬブルゴーニュのトップ生産者です。その2019年。目を疑いました。「エシェゾー」のバックラベルに表記されているアルコール度数が15%。さらにワインアドヴォケイトのレビューを信じるなら、実際のアルコールは16.2%だそうです。
(※アルコール度数の表記は±1%の誤差が許されています。それにしても誤差が大きいですが・・・)
意図せずミスで高アルコールになりすぎたとは考えられません。生理的成熟を待った結果こうなってしまったのでしょう。
もちろんこのワインを飲んだわけではありませんが、ブルゴーニュワインに求める繊細さは期待しすぎない方がいいでしょう
 
 
 
 
おそらく50年前なら、雨の少ない暑い年がいいヴィンテージでした。しかし現代はそうとは限らなくなっています。
 
 

アルコールの高いピノ・ノワールはどんな風味?

 
アルコール14%を超えるピノ・ノワールは、ボディに厚みがあり力強く、風味が豪華な傾向にあります。カリフォルニアのソノマコーストには、そのようなワインがたくさん見つかります。
かつて「カリフォルニア産ピノ・ノワール」といえば、イチゴジャムのような甘い果実香があって酸味がなく、べったりとしたつまらないワインが多く輸入されていました。しかしその認識は古い物。アルコールは高めでありながらキチンと酸味も高く、上品に仕上げられています。その分、値段も張りますが。
しかしアルコールの高さは感じます。だから決してブルゴーニュワインの代わりにはならない。
 
 
アルコールの高低は好みであり、どちらが優れているというものではありません。でも力強さや風味の豪華さを求めるなら、必ずしもピノ・ノワールじゃなくてもいい。カベルネ・ソーヴィニヨンやシラーにも、豪華な風味を持つ力強いワインはあります。
 
アルコールの低いピノ・ノワールと比べてみましょう。
 
 

13%のピノ・ノワールの心地よさ

 
ブルゴーニュやドイツの高級ピノ・ノワールは、香りに明確なフルーツを感じられないことが多いです。なんとも言えない複雑で繊細、抑制された香り。「濃厚」という印象はないのに、風味がち密に詰まっています。十分にハングタイムが長いからです。
単に酸味の高さだけではない、繊細な口当たりと上品さ。わずか1%そこらのアルコールの違いで、飲んだ印象は大きく違います
 
あるソムリエさんはフュルストのワインを飲んで、「20年前のブルゴーニュワインを思い出す」とおっしゃったそうです。
いかにブドウを完熟させるかに腐心した時代。控えめながら洗練された風味の美しさ。温暖なヴィンテージが続いて忘れかけていた繊細さを思い出させてくれます。
 
 
フュルストがつくるピノ・ノワールは温暖だった2020年ヴィンテージこそアルコール13%を少し超えますが、それでも13.5%未満。例年は13%以下です。
近年このアルコール度数の上質なピノ・ノワールが安定してつくれるのは、シャンパーニュのコトー・シャンプノワやオーストラリアのタスマニア島、アルゼンチンのパタゴニア地方くらいではないでしょうか。
 
ドイツにおけるピノ・ノワールの有名な銘醸地よりさらに冷涼。フランケンだからこそのピノ・ノワールです
 
 

目指したのはかつての銘醸地の復興

 
ルドルフ・フュルスト醸造所があるのは、ドイツのフランケン地方、「マインフィアエック」と呼ばれる地域。執筆時に楽天市場で調べた限り、この地域のピノ・ノワールはフュルストの他に輸入されていません
では突飛な地域にピノ・ノワールを植えてたまたま成功したのかというと、決してそうではないのです。ここは西暦1500年代というずいぶん昔から、赤ワインの銘醸地でした
 
 
たとえば「シュロスベルク」の畑を持つクリンゲンベルク村。音楽家エラスムス・ヴィトマンは「ワインが最高だ」という歌を残しているそうです。さらに1646年にメリアンによって描かれた版画でも、クリンゲンベルク産のワインが絶賛されています。
 
 

地域を巻き込んでの畑改革

 
フュルスト醸造所自体は、1600年頃から続く長い歴史を持つものでした。
しかし昔から著名生産者だったわけではありません。
パウル・フュルスト氏が1979年に父の急逝によってわずか21歳でワイナリーを引き継いだ時、畑は2haにすぎなかったと言います。
 
 
彼が取り組んだことの一つは、ビュルクシュタット村にある畑の改革。
自分の畑だけを良くしたのではありません。地域の生産者を巻き込みました。他のワイナリーはライバルではなく仲間
かつては段々畑だったというビュルクシュタットの畑を、ブルゴーニュのような緩斜面の畑として植え替えます。作業用の道もつけ、区画も昔からの情報をもとに区切り、高品質なワインをつくれるものへと向上させていきました。
その結果としてまずは彼がとびぬけた生産者となり、それに続く生産者も出てきているといいます。
 
 
それほど特色となるものがないこの村にワインという銘醸品ができた。ここの市長からも深く感謝されているそうです。
 
 

親子2代で輝かしい受賞歴

 
パウルさんだ最初のピノ・ノワールをリリースしたのが1989年。その品質はすぐにワイン評価誌が放っておかなくなります。
2003年にはゴー・ミヨ誌にて最優秀醸造家に選ばれたのでした。
 
さらに現当主のセバスチャン・フュルストさん。
醸造学校を出た後で世界各地で修行し、2008年に実家に戻ってきて、2018年に当主を引き継ぎます。
それを待っていたかのように今度はファルスタッフ誌がセバスチャン氏を最優秀醸造家に選んだのです。
選んだワイン誌は違うとはいえ、親子2代で最優秀醸造家賞を得ることは非常に珍しく、素晴らしいことです。
 
 
そればかりか2021年、ヴィノム誌からも最優秀醸造家賞を受賞しました。
一人で2冠という快挙。
それだけヨーロッパ中が、フュルストがつくるピノ・ノワールに注目しているということです。
 
 

受賞歴をドヤらない謙虚な人柄

 
自分やワインがこんな評価を得たというのを自慢するのがイヤだ
自然とみんなが楽しんでくれる。それがいいんだ
そう語る彼は未だにSNSをやっていないといいます。シャイなんですね。
 
 
ワインをプロモーションすることには、それほど力を入れていない。
その代わりに何をしているかというと、ひたすら畑仕事です。
 
 

研修生も驚く異常な量の畑仕事

 
フュルストには近くにあるヴュルツブルクの大学から多くの研修生が来るそうです。みな口をそろえて「フュルストの畑の仕事量は圧倒的だ」というそうです。ずっと働いている、ずっと仕事があると。
 
 

年中途切れぬ畑仕事

 
春には芽かきして下草刈ってグリーンハーベストして・・・そういったブドウ生育期にやる一般的な農作業は当然高いレベルでこなします。
それだけでなく収穫が終わってからの冬の作業も多い
たとえばこの写真。シュロスベルクの畑に干し草を撒いています。
 
 
フュルスト醸造所があるあたりは乾燥した気候です。雑草の生育が止まる冬の間も枯草で地面を覆うことで、土壌の湿度が保たれるそうです。それが微生物の働きを助け、土の状態を良好に保ち、翌年の収穫に影響するそうです。
 
おおよそ11月から3月くらいまでは休耕期。多くのワイナリーで休みをとったり海外にプロモーションに出かける季節です。その時期ですらフュルスト醸造所にはなにかしらの作業があるといいます。
 
 

「試しにやってみよう!」が早い

 
2024年フュルストでは、イラクサなど畑で育つハーブを煮出したハーブティーを畑に散布してみるそうです。
 
これはいい結果が期待できるとはわかっていないのだとか。「畑に良いかもしれないのなら、試しにやってみよう!効果がなかったら辞めたらいい」その判断のハードルがフュルストでは非常に低いといいます。
 
 
これは働くスタッフのモチベーションが非常に高いから。研修生を含め全く手を抜かず畑仕事にベストを尽くす雰囲気がフュルストにはあるそうです。
 
 

手の届く範囲にしか畑を広げない

 
これだけ有名になってワインも高く販売できるので、畑を拡大して生産規模を増やすこともできます。しかし「手の届く範囲以上に生産を増やすつもりはない。妥協なく畑仕事ができる広さでいい」と語ります。
 
 
フュルストの自社畑は現在21haほど。
もしいい畑が売りに出されるなら購入するが、同時にあまりポテンシャルの高くない畑は売却するのだそうです。自分がコントロールできる範囲で、より良いワインを追求する姿勢が見て取れます。
 
 

畑仕事が徹底しているからこそ醸造はシンプルに

 
ブドウの質が高いゆえに、ワインの醸造についてはあまり変わったことはしていません。
 
赤ワインは3日間の低温浸漬のあとでオークの開放樽で発酵。その後バリックで熟成。全房発酵の比率や熟成に使う新樽の比率をワインのグレードで変えるくらいです。
 

 
あえて特色を挙げるとすれば写真のオーク樽。樽の上部だけでなく側面にも栓をしてあるタイプで、ここから熟成が終わったワインを抜き出します。
ここに穴をあけてワインを抜くのは手間がかかるそうで、ドイツで同じような樽を使っているところは知る限りないそうです。
メリットとしてはワインを抜くのにポンプで吸い上げないでいいこと。上部の穴だけであればポンプで吸い出す必要があります。いわゆる「グラヴィティーフロー」を可能にするので、よりワインにストレスを与えません。それがクリアな味わいにつながっていると考えられます。
 
 

ドイツ・ピノの銘醸地、バーデンやファルツとの違い

 
フュルストがつくるワインは、ドイツの中でもひと際繊細でエレガントです。その理由はまず気候の違いです
 
ドイツにおいてピノ・ノワールが多く栽培されるのは、ブルゴーニュに気候が近いバーデンやファルツです。次いで栽培の多いモーゼルも、比較的暖かい気候です。
それらと比べてももう一段階、フランケンは寒いのです。
 
 

産地を気候で比較する

 
こちらの表はビュルクシュタット、クリンゲンベルクの年間平均気温と日照時間、それから降水量を、バーデンおよびファルツと比較したものです。
 
産地 平均気温 平均日照時間 平均降水量
ビュルクシュタット/ツェントグラーフェンベルク 10.6℃ 1644.7h 644mm
クリンゲンベルク/シュロスベルク 10.5℃ 1637.4h 698mm
ファルツ/シュヴァイゲン/ゾンネンベルク 10.7℃ 1723.1h 859mm
バーデン/ブラウスガウ/マルターディンゲン/ビーネンベルク 10.6℃ 1736.2h 864mm
 
平均気温の差は実のところごくわずかですが、日照時間が100時間近くも短いです。日照時間が短いと夜寒くなります。そうするとより豊富な酸味を蓄えるようになり、味わいにメリハリのあるエレガントなワインになります。
 
ちなみに1640時間程度という日照時間は、日本においては都道府県別のワーストである秋田県と同じくらい。全国平均は2000時間弱で、最も多い埼玉県は2366時間もあります。
 
これだけ冷涼な地域で時間をかけて育てるので、例えばフーバーやベッカーがつくるピノ・ノワールに比べてもよりスマートで繊細な味わいに仕上がります。上品なのは共通していますが、その中でも主張しすぎず控えめな奥ゆかしさを持つのが違いです。
 
 

赤色砂岩:ビュルクシュタットで赤ワインが美味しい理由

 
これほど冷涼で日照の短い地域が赤ワインの銘醸地になりえたのは、土壌が関係しています
 
一般に白ブドウより黒ブドウの方が暖かい気候を必要とします。果汁のみを醸造する白ワインに対して、赤ワインには果皮の風味成分が重要だからです。
冷涼なフランケン地方にてピノ・ノワールが十分に熟す理由。それはこの地の赤色砂岩の貢献によるものです
 
 
ビュルクシュタットを含むマインフィアエック地区の土壌は、「雑色砂岩」と呼ばれるものです。その中の一つが赤色砂岩。この赤色は酸化鉄によるものです。
この土壌は非常に水はけがいい他、温まりやすく冷めやすい性質を持ちます。昼間の日照をしっかりと蓄え夜間に放出することでブドウの成熟を助ける。ボルドー左岸の砂質土壌がカベルネ・ソーヴィニヨンの成熟を助けているのと共通します。
 
ビュルクシュタット村にもクリンゲンベルク村にもこの赤色砂岩の赤い土壌がみられます。
この地域ではブドウの樹の背丈を非常に低く剪定します。ブドウが実る高さが低いため地面からの照り返しを受けやすく、これも成熟を助けます。もともと雨が少ないうえに水はけがいいので、カビ病などの心配は他の地域に比べると低く、それが低い樹高を可能にしています。
 
 
気候や土壌、そして人々の工夫。それらが合わさってようやくピノ・ノワールが完熟できる。フランケンはそんな環境なのです
 
 

地球温暖化が追い風に

 
各地で問題になっている温暖化。それがフュルストにとってはむしろ追い風になっているのが現状だそうです
 
かつては十分にブドウが熟さない年も多かったとか。いくら風味が成熟しても、あまりにアルコールが低いと弱々しい赤ワインとなってしまいます。
それが近年は温暖化の影響により、毎年のようにしっかりとブドウが熟すようになってきた。アルコール度数は十分コントロールできる範囲である。そう語ります。
 
「ピノ・ノワールの銘醸地」がより赤道から離れた地域に移動しつつあるのが分かります。
 
 

繊細さ際立つビュルクシュタット村のワイン

 
フュルストがピノ・ノワールをつくるのは大きく2地区。そのうちビュルクシュタット村でつくるワインの方が、より繊細で細身、控えめなスタイルです
 
 

大きな川とワインの味わい

 
フュルストの醸造施設があるのがビュルクシュタット村。そこはフランケン地方で重要な大河であるマイン川からは少し離れています。エルフ川という小川はありますが、気候に影響を与えるほどではありません。
 
水は比熱が高く、温まりにくく冷めにくい性質を持ちます。それゆえ大きな川や海のそばにある畑は、昼間は暑くなりにくく夜間は冷えにくい性質を持ちます。斜面にある畑の麓を川が流れているなら、太陽光の照り返しがブドウの成熟を助けます。
それゆえドイツでは基本的に、川のそばの畑はよくブドウが熟す傾向があります。モーゼルなどでは斜面の上部・下部で熟し方にしっかり差があるそうです。
 
 
しかしビュルクシュタット村の畑は大きな川からは遠く、斜面もドイツとしてはなだらか。日照を集める効果も高くありません
この違いが後述するクリンゲンベルクとの違いを生んでいます。
 
 

ビュルクシュタット村のワイン

 
フュルストはビュルクシュタット村で4つのワインをつくっています。
この4つのワインの畑は基本的には同じ。現ドイツワイン法に則る表記なら、全て「ツェントグラーフェンベルク」の畑に区分されます。それよりも細かいVDP(ドイツ高級ワイン連盟)の区分に従ってグレード分けしていますが、基本的にはスタイルは同じ。
純粋にフュルストにおけるグレードがワインの値段に反映されています。予算と飲みたいタイミングによって選ぶといいでしょう。
 
VDPについてはこちらで詳しく
 
まずは村名格にあたるのがこのワイン。
 
 
後述の「クリンゲンベルガー」と比べることで、2つの地域の違いを感じる面白さがあります。このクラスあたりまでは、リリースされてすぐ飲んでも十分に美味しさを感じさせてくれます
 
この「ベルク」からは少し熟成させて飲みたいところ。
 
  
とはいえリリースから1年経過したこちらは、もうそろそろ楽しめそうです。
 
 
特級畑に相当する「グローセス・ゲヴェックス」認定。リリース仕立ては酸味とタンニンばかりで、なかなか香りの複雑さはでてきてくれません。
 
 
2020年VTは温暖で比較的早く楽しめますが、それでも飲む前に1~2時間は待ってほしいものです。
 
ツェントグラーフェンベルクの中の最高区画にあたる「フンツリュック」は、まさにフュルストの集大成
 
 
この畑に関しては選果のレベルが違うそうです。
 
 
この写真のようなブドウ。
房自体が小ぶりで、ブドウの粒が小さく隙間が空いている。一切の腐敗果がない完璧なもの。それだけを「フンツリュック」用に摘み取ります。この基準に満たないものは、フンツリュックの区画であっても他のワインに格下げするのです。
だから天候が難しい年だったとしても、健全な全房発酵が可能なんだそうです。
 
この2020年ですらドイツ・ピノとして驚きの価格でしょう。でも次のヴィンテージの定価は7万円(税抜)まで上がります。今後急激な円高でもない限り、上がることはあっても下がることはありません。
お宝ワインとして確保しておいて間違いないものです。当店もそれを見越して在庫しています。
 
 

軽やかさと力強さのクリンゲンベルク村のワイン

 
ビュルクシュタットと比べると、クリンゲンベルクはよりしっかりとブドウが熟します。結果としてより熟した果実味を感じる力強いワインが出来上がります
しかし2つを比べてアルコール度数に違いはありません。そこは収穫のタイミングでコントロールしています。ゆえに力強さと口当たりの軽やかさを併せ持つワインが出来上がります。
 
その理由は畑の位置と地形、そして石壁です。
 
 

手間はかかるがいいブドウを生む、シュロスベルク

 
クリンゲンベルク村のシュロスベルク。マイン川のそばに広がる西向き急斜面の畑です。
ここは非常に斜度が厳しいため、写真のようなテラス状の段々畑です。当然機械は入れませんし、作業効率も良くありません。
 
 
その代わりにブドウがよく熟します。緯度の高いドイツにあって、急斜面の畑は効率的に日照を受けることができます。しかも赤色砂岩でくみ上げられた石壁が暖められて熱を放出し、成熟を助けます
夜には上部の林から冷気が下りてくるので気温がしっかりと下がり、豊かな酸味を蓄えるといいます。
 
 

クリンゲンベルク村のワイン

 
クリンゲンベルク村からは2つのワインをつくります。しかしどちらも畑は同じ「シュロスベルク」。樹齢などのブドウのグレードに従ってクラス分けしたものです。ゆえに2本とも方向性は同じ。
ビュルクシュタット村のワインと同様に予算と飲み方で選ぶべき。早く飲みたいなら手頃な「クリンゲンベルガー」の方を。大事に取っておいてここぞというときに開けるなら「シュロスベルク」を選ぶといいでしょう。
 
 
 
 

ドイツでNo.3を獲得!アストハイム村のシャルドネ

 
ピノ・ノワールに注目の集まるフュルストですが、シャルドネの品質も飛びぬけています。
味わいの方向性としては透明感あふれる果実味が印象的
 
ピノ・ノワールと比べるなら世界各地にたくさんの選択肢があるシャルドネですが、これほど凛とした雰囲気と美しさを持つものはそうそうありません。
 
 

フーバーのシャルドネとの比較

 
現在ドイツで最も権威あるワイン評価誌「Vinum」の2024年版において、フュルストの「シャルドネ R」がシャルドネ部門第3位に選ばれました
同賞にて1位&2位を獲得したワインは、フーバーがつくるシャルドネです。
 
2位がこちらの次のヴィンテージ。1位の「シュロスベルク」は1本も入荷せず。とんでもなく入手困難なシャルドネです。
 
フーバーがつくるシャルドネは、特に現当主ユリアンの代になってからは、還元的で緊張感のあるスタイル。熟成を見越しているのでしょう。開けたては焼けたゴムのような臭いがありますが、時間とともに消えて深みを増していきます。
 
 
それに対してフュルストのシャルドネは、緊張感や硬さはあるものの、還元的ではありません。クリアな果実味がミネラル感とともに感じられるスタイルは、「ルーロがつくるムルソーを思わせる」という人もいます。
 
2020年VTは筆者が勢い余って仕入れすぎたので売れ残っている感はありますが、その美味しさがシャルドネ好きにバレてしまえば瞬く間に消えていくものと信じています。
 
 

緊張感のあるワインを生むアストハイム村

 
シャルドネの畑はフュルスト醸造所から少し離れており、アストハイム村のカルトホイザーという銘醸畑です。
フランケン中部の「マインドライエック」という地域にあたり、土壌は貝殻石灰岩が中心。その中でもカルトホイザーの畑は、大きな石がごろごろ埋まっていて表土の薄い痩せた土壌です。
貝殻石灰質といえばブルゴーニュのシャブリにみられる「キンメリジャン」に近いところもあり、シャルドネに適した土壌。逆にフランケンでメジャーなジルヴァーナーという品種では、あまり高品質なワインはできないそうです。
 
シャルドネは伝統品種ではないので「グローセス・ゲヴェックス」の表記はできませんが、間違いなくグラン・クリュ相当の区画からつくられます。
 
この2本も違いは樹齢などのブドウのグレードで、スタイルは同じです。まずは「アストハイマー」の方から試して、気に入ったら「R」を秘蔵しておくのがいいでしょう
 
 
 
ワインアドヴォケイトは2020VTは未評価ながら、2019年には94点、2018年には93-95点の高評価をつけています。
 
 

フュルストの2020&2021年ヴィンテージ情報

 
現在在庫している2つのヴィンテージについて簡単な味わいの傾向をご紹介します。
ヨーロッパの他の産地と同じく、2021年は近年稀にみる特徴的な年となりそうです。
 

2020年について

2018年から3年続いた暑く乾燥したヴィンテージ。収穫量は少な目で凝縮感高め。
力強さが際立った2018年、繊細で閉じた印象をうける2019年を足して2で割ったような年。比較的早く風味が開くだろう。
繊細さと力強さを兼ね備えたヴィンテージである。

 

2021年について

近年稀に見る冷涼なヴィンテージ。開花の時期に雨が降ったため収量減。
クラシックでありながら力強さを備えた素晴らしいワインが出来上がり、質は決して悪くありません。

 
※2021年はブルゴーニュをはじめとしたフランス各地で大きな霜害のあった年ですが、より冷涼なフランケンではまだ新芽が出ておらず、そのタイミングでの被害は免れています。
 
 

豪華さではなく美しさを追求したフュルストのワイン

 
高い金額を払うなら、豪華な味のワインを飲みたい。その方が価格説得力がある。そう考える気持ちもわかります。アルコール度数高め・樽香強めのワインの方が売り上げは高い傾向です。
 
それに対してフュルストのワインは一歩控えめ。濃厚さとは無縁です。高価なピノ・ノワールを飲みなれてない方が口にして喜ぶタイプではありません。
だからこそワイン通がほれ込む美しさがあります。ワインから迫ってくるのではなく、追いかけたくなるような魅力があるのです。
 
 
金額的にハードルの高い生産者であることは否めません。しかしながら価格は今も上昇途中。数年後に「2023年当時は安かった・・・」と感じるようになるのは見えています。それほど実力に対して日本での認知が追い付いていない生産者なのです。
フュルストが表現したいフランケンの、ビュルクシュタット、クリンゲンベルク、そしてアストハイムで生まれるワインの繊細さ。日本中が気づく前に一足早く堪能ください。





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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