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サンタ・バーバラの特徴とサブリージョン|ピノ・ノワールとシャルドネに適した地である理由とは

2025年3月25日

サンタ・バーバラの特徴とサブリージョン ピノ・ノワールとシャルドネに適した地である理由とは
 
カリフォルニア南部に位置するサンタ・バーバラは、冷涼な気候ゆれに生産者の意図を楽しむべき産地です。冷たい海と特異な地形が、世界でもなかなかない気候を形成しているからです。ここがピノ・ノワールとシャルドネの銘醸地である理由とともに、目指すワインがうかがえるおすすめ銘柄をご紹介します。美しい酸味を備えた上質なワインで、サンタ・バーバラの陸と海の調和を感じてください
 

サンタ・バーバラとは?知っておきたい基本情報

 
まずはサンタ・バーバラを地図で確認してみましょう。
 
サンタ・バーバラの地図
 
サンタ・バーバラ・カウンティというのは、日本でいうなら都道府県のようなもの。面積は9,814㎢なので、例えるなら岐阜県や青森県と同じくらいです。
その中にサンタ・バーバラという街があります。街と言っても人口8.6万人ほどなので、決して大都市ではありません。むしろ田舎町といっていいでしょう。
 
ワインのラベルに「Santa Barbara」と表記されるときは、サンタ・バーバラ・カウンティ内のブドウでつくられたワインであることを示します。他の産地にまして、この表記はよく目にします。
 
 

カリフォルニア州南部の冷涼産地

 
日本に住んでいると、北に行くほど涼しくて南に行くほど暑いのが常識です。とはいえ地形要因によっては、京都市のように極めて暑くて寒い場所もあります。
サンタ・バーバラはカリフォルニアの中では南にあり低緯度です。しかしサン・フランシスコの北にあるナパ・カウンティや大部分のソノマ・カウンティより冷涼です
 
一例としてサンタ・バーバラのLompoc(西よりの涼しいところ)と、ソノマのペタルマを比較します。
 
 
サンタ・バーバラの方が夏に涼しく冬に暖かいことがわかります
特にブドウの生育期間においては、サンタ・バーバラの方が平均気温はずっと低いです。これが高品質なワインを生む大きな要因です。
 
 

ピノ・ノワールとシャルドネの天国

 
サンタ・バーバラはなんといってもブルゴーニュ品種で有名な地域です。
Capstoneの資料によると、上位5品種の栽培面積は次の通り(執筆時)
 
ブドウ品種 栽培面積
ピノ・ノワール 2,227ha
シャルドネ 1,690ha
シラー 499ha
ソーヴィニヨン・ブラン 318ha
カベルネ・ソーヴィニヨン 191ha
 
総栽培面積は6,300haほどなので、ピノ・ノワールとシャルドネだけで60%以上を占めます
 
 

地球温暖化でサンタ・バーバラが注目される

 
ご存知のように地球温暖化により、世界各地で気温が上がっています。
気温が上がれば植物の生育は早まります。温暖化によりブドウの糖度が上がり、酸度が下がるのは早くなっているのです。同じタイミングで収穫するなら、よりアルコール度数が高くて酸味の低い、もったりとしたワインが出来上がってしまいます。
 
 
特に危ぶまれるのは、ピノ・ノワールやシャルドネといった、冷涼なブルゴーニュ地方が原産の品種。寒い気候に適応しているため、畑があまりに暖かいと熟しすぎるのです
 
ならば早く収穫すればいいというものではありません。風味の成熟にはハングタイム(ブドウの実が樹になっている期間」がある程度必要です。その期間を確保すべく、サンタ・バーバラの冷涼な畑に、多くの生産者たちが注目しているのです。
 
 

サンタ・バーバラがブルゴーニュ品種の名産地である理由

 
冷涼な気候でブドウが育てば、一般にハングタイムの時間を長くとれます。あるいはハングタイムが十分であるなら、ブドウの糖度が低めで高い酸味を保った状態で早く収穫することもできます。
 
サンタ・バーバラといっても東西に長く、その位置で気候も違います。中でも注目を集めているのは西側の冷涼な地域。乾燥した冷涼な気候が、生産者に選択肢を与えるからです。
 
 

カリフォルニアにおける畑が涼しい要因

 
南に位置するにも関わらずサンタ・バーバラが冷涼なのは、その独特な地形にあります。
 
カリフォルニアの主なワイン産地において、その沿岸を流れる海流は北側から流れてくる寒流です。冷たい海で冷やされた風が流れ込みます。ゆえにカリフォルニアにおいてはいかに北に位置するかより、いかに西に位置して海に近いかが、畑の涼しさを大きく左右する場合が多いです
 
ただしカリフォルニアの沿岸地域には、南北に走る海岸山脈が連なります。海風は直接吹き込むのではなく、山を越えて流れます。高い山を越えればフェーン現象が起こり、空気は暖かくなります。
 
 

サンタ・バーバラの特異な地形

 
その山脈が、サンタ・バーバラがにおいては東西に向きを変えます。つまり冷たい海により冷やされた空気が、山脈を超すことなくダイレクトに産地に流れ込みます。この冷たい空気が畑を涼しくします。
 
 
さらに冷たい海は霧を生みます。霧がかかると太陽光が遮られて、畑が温まりにくくなります。
サンタ・バーバラでは朝に海から霧が流れ込みます。緯度が低いので太陽光は強いのですが、地面に当たる時間が短いために、これほど最高気温が低いのです。
 
 

地球温暖化で寒くなった?驚きの気候変動による影響

 
サンタ・バーバラが冷涼なのには、他にも理由があります。
 
サンタ・バーバラの東には砂漠があります。乾燥した砂漠には日光を遮るものがなく、日中は人が住めないほど気温が上がります。
気温が上がれば上昇気流が生まれます。これにより地表近くでは周りから空気を吸いこみます。暑くない海の方から空気を引っ張り込むのです。
 
 
 
地球温暖化で砂漠はますます熱くなっています。ゆえに空気を引っ張る効果がより強くなっているそうです。
サンタ・バーバラでは冷たい西風による影響がより大きくなり、ここ6年間ほどは過去と比べて最も低い気温を観測しているそうです
地球温暖化により、サンタ・バーバラはむしろ涼しくなっているのです。
 
 

位置と風の影響

 
サンタ・バーバラはただ涼しいだけではありません。
 
一つは海からの距離で気温が変わること。この地域は西に行くほど涼しく、1マイル(1.6km)東へ行けば1度平均気温が上がると言われています
 
更に風の影響もブドウの生育期間に影響します。
サンタ・バーバラは非常に風の強い地域で、昼12時ごろから毎日のように40km/hほどの風が吹くそうです。風があまりに強いと、植物は気孔(葉っぱにある弁)を閉じて、光合成を止めて水分が失われないようにします。ブドウの成長が止まるのです。
一日の間で定期的に成長を止める時間がある。これも生育期間が長くなる要因です。
 
 

ち密に風味の詰まった高品質ワイン

 
こうして長いハングタイムを経て成熟したブドウは、長い期間を経て風味がしっかり成熟しつつ、上品な酸味を蓄えたワインになります
 
一例として、一般に春~夏にブドウの花が咲き、その100日後が収穫期だと言われています。
そのハングタイムが時に120日にも達するのがサンタ・バーバラの一部地域です。
 
 
さらにサンタ・バーバラは生育期間にほとんど雨が降りません。それは風味の凝縮感を上げるとともに、収穫のタイミングに選択肢を与えます。アルコール度数高めのワインをつくりたければ、ただ待てばいいのです。収穫期に雨が降って品質が下がるリスクは、ボルドーなどに比べるとずっと低いものです。
 
ハングタイムはただ長ければいいとは申しませんが、他地域で成功した生産者が目をつけて進出する、大きな理由であるのは確かでしょう。
 
 

個性豊かなサンタ・バーバラの6つのサブリージョン

 
アメリカではワインの生産地域として「AVA」というものが定められています。サンタ・バーバラ・カウンティの中には7つのAVAがあります。そのうち「サンタ・イネズ・ヴァレーAVA」は4つのAVAを内包した大きなAVAです。
ゆえにそれぞれに特徴のある6つのAVAについて、有名生産者とともにこの章でご紹介します。
 
 

冷涼な海風を受けるサンタ・マリア・ヴァレー

 
サンタ・バーバラの北よりに位置するサンタ・マリア・ヴァレーは、海からの冷涼な風をうけて、ピノ・ノワールとシャルドネの名産地です。サンタ・バーバラでも最も涼しくハングタイムが長いのがこの地域です。
その品質の高さは早い時期から認められており、AVAとして認可されたのは1981年。カリフォルニアで2番目に古いAVAです。
 

Snata Barbara County Vintners資料より

 
土壌は砂質ローム、粘土質ローム、シルト、砂礫質ローム、礫、沖積土壌、崩積土壌、チャミセ粘土質ローム、チャミセ頁岩ロームなど様々。特に砂質ロームやシルトなど軽い土壌が多いため、ワインの味わいも次のサンタ・リタ・ヒルズと比べるなら軽いものになるといいます
 
この地域の生産者として有名なのは、なんといってもオー・ボン・クリマ。そしてオー・ボン・クリマがブドウを調達するビエン・ナシード・ヴィンヤードでしょう。おすすめのワインは次の章でご紹介します。
他にはカンブリア・エステート、フォクスン・ヴィンヤード、プレスキールあたりでしょう。
 
 

珪藻土土壌が特徴のサンタ・リタ・ヒルズ

 
サンタ・イネズ・ヴァレーの西端に位置し、サンタ・マリア・ヴァレーと並んで冷涼なのがこのサンタ・リタ・ヒルズです。
ここもピノ・ノワールとシャルドネの銘醸地です。
 

Snata Barbara County Vintners資料より

 
ここの土壌は珪藻土、石灰岩&チョーク、粘土質ローム、砂質ローム、ボテーリャ土壌群。特に「ダイアトメイシャス」とも呼ばれる珪藻土の土壌が特徴的で、かつてここが海の底だった時代に、プランクトンの一種が堆石して化石となったもの。水はけが良く保水性にも優れているといいます。
 
この地域の有名生産者は、サンフォード・ワイナリーやブリューワー・クリフトン、メルヴィルなどです。
 
 

温暖なハッピー・キャニオンはボルドー品種の宝庫

 
対照的にサンタ・イネズ・ヴァレーの東端、一番奥に位置するのが「ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラ」です。
なかなか特徴的な地区名ですよね。これは禁酒法の時代、僻地であるここではこっそりと酒づくりが続けられていたことに由来するといいます。
 

Snata Barbara County Vintners資料より

 
海から離れているために、風は温められて届きます。加えて霧がかかる時間も短いものです。結果としてサンタ・リタ・ヒルズなどと比べるとずっと暖かい産地となります。それゆえ栽培されるブドウ品種も変わり、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルローなどのボルドー品種、それからシラーなどのローヌ品種がメインです。
 
ここの有名生産者はスターレーン・ヴィンヤードなどです。
 
 
 

ソーヴィニヨン・ブランがメジャーなロス・オリヴォス

 
サンタ・イネズ・ヴァレー内に位置し、ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラの西側に隣接するロス・オリヴォスAVA。そこはソーヴィニヨン・ブランの栽培が多いといいます。次いでカベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、そしてローヌ品種と続きます。
 

Snata Barbara County Vintners資料より

 
この産地は、フレッド・ブランダー氏がつくるワインの品質が素晴らしかったがゆえに、AVAとして認められた地域だと言われています。
 
 

シラーが盛んなバラードキャニオン

 
サンタ・イネズ・ヴァレー内のロス・オリヴォスより西にある小さな産地のバラード・キャニオンAVA。ここには石灰質土壌があり、シラーをはじめとしたローヌ品種の栽培が盛んです。
 

Snata Barbara County Vintners資料より

 
ここではスクリーミング・イーグル傘下の「ホナータ」というワイナリーが、シラーやカベルネ・ソーヴィニヨンからプレミアムワインをつくっています。
WINE TO STYLEさん取り扱い  COCOS未入荷)
 
 

最も新しいアリソス・キャニオン

 
サンタ・マリア・ヴァレーとサンタ・イネズ・ヴァレーの間に位置するアリソス・キャニオンAVAは、2020年認定と最も新しくできた産地。ここではカベルネ・フランとローヌ品種で素晴らしいワインがつくられるといいます。
 

Snata Barbara County Vintners資料より

 
現状この地のワインはほとんど輸入されていないので、今後に期待したいところです。
 
 

サンタ・マリア・ヴァレー/サンタ・リタ・ヒルズの違いとは

 
先述のとおりサンタ・バーバラの最重要品種は、ピノ・ノワールとシャルドネの2つ。その主要産地はサンタ・マリア・ヴァレーとサンタ・リタ・ヒルズの2か所です。
カリフォルニアワイン協会のセミナーにてこの2つの違いを尋ねたところ、次のような答えがえられました。
 
後に紹介する産地の特徴にあわせて、アルコール度数にも注目すると、味わいの違いを一層楽しめるでしょう。
 
 

目指すワインが現れるアルコール度数

 
ブルゴーニュ品種の味わいにおいて、アルコール度数が13%以下なのか14%を少し超えるのかは、結構印象に違いを感じます。そしてサンタ・バーバラではどちらでも素晴らしいワインがつくれます。
 
ブドウは成熟するにつれ、糖度が上がって酸度が下がります。糖分は発酵によりアルコールに変わります。
糖度が低めのうちに早く収穫すれば、軽く上品な口当たりのワインに仕上がります
一方で糖度がしっかり上がってから収穫すれば、より風味豊かで飲みごたえのあるワインに仕上がります。サンタ・バーバラの環境では、この場合も適度な酸味を備えます。
 
これはどちらが良いというものではありません。生産者がどのタイプのワインをつくりたいかです。
今回はワインとともにアルコール度数も記載します。その数値にも注目して選んでみてください。
(アルコール度数は執筆時のものです。ヴィンテージで変化するのでご了承ください)
 
 

軽い味わいになりやすいサンタ・マリア・ヴァレー

 
砂質の軽い土壌によって、2つを比較するならサンタ・マリア・ヴァレーのワインは、少し軽い口当たりで繊細な味わいになりやすいと言われます。
また、サンタ・マリア・ヴァレーはピノ・ノワールとシャルドネが半々くらいで栽培されます。
 
この地で有名なオー・ボン・クリマは、アルコール高めとも低めとも言えない13.5%表記。確認した限りではほとんどのワインでこのアルコール度数なので、きっとこれを目標度数として揃えているのでしょう。
 

13.5%:2022VT

13.5%:2022VT

 
知名度は低いものの、アルタ・マリア・ヴィンヤードはサンタ・マリア・ヴァレーらしい軽やかさを手頃に表現しています。現在のラインナップでは最もアルコール度数低めです。
 

12.5%:2021VT

 
それに対してベル・グロスというワインは、かなり高めなアルコール度数で甘やかな風味を目指しています。

14.9%:2021VT

 
 
サンタ・リタ・ヒルズと比較するなら、若いうちからストレスなく1本楽しめるワインは、サンタ・マリア・ヴァレーで見つけやすいでしょう
 
 

骨格のしっかりとしたサンタ・リタ・ヒルズ

 
サンタ・リタ・ヒルズの味わいには、まずはダイアトメイシャスという珪藻土の土壌が関係します。
加えてサンタ・リタ・ヒルズの方がより風が強いそうです。風が強いとブドウは実を守るため、果皮を厚くします。それがワインの味わいによりしっかりとした骨格をつくるといいます。
 
また、ピノ・ノワールの醸造においては、サンタ・リタ・ヒルズの生産者の多くが全房発酵を取り入れています。これも味わいの骨格に影響します。
飲んで一口目からインパクトのあるワインも多いため、COCOSでも非常に多くのワインを扱っています。
 
アルコール度数低めのものとしては、ブルゴーニュの「ド・モンティーユ」がこの地に進出してつくる「ラシーヌ」。昔ながらのブルゴーニュワインを理想とするのか、12.8%と低めです。
 

12.8%:2019VT

 
こちらもスクリーミング・イーグル傘下である「ザ・ヒルト」も、低めのアルコールと鮮烈な酸味が魅力です。

13.0%:2020VT

 
サンフォード・ワイナリーは中程度からやや低め。老舗ワイナリーの一つです。

13%:2022VT

 
それに対してこの地を代表する生産者の一人であるブリューワー・クリフトンは、割と高めです。

14.5%:2022VT

 
全体的に上品ながら表現力豊かなワインをつくる「イガイ・タカハ」は、なんと15%もあります。

15.0%:2018VT

このヴィンテージはまだ上記のグレッグ・ブリューワー氏が醸造していました。
 
サンタ・リタ・ヒルズはブドウの栽培比率に偏りがあり、ピノ・ノワールとシャルドネが9:1くらいだそうです。その割には両方日本に輸入されている生産者が少なくありません。
ピノ・ノワールとシャルドネで大きくアルコール度数が違う例は見つけられませんでした。やはり生産者が目指す味わいがあり、それに合わせて調整しているものと思われます。
 
 

サンタ・バーバラのが今注目される理由

 
近年世界のワイン市場は、アルコール度数が高すぎず上品な酸味をバランス良く備えたワインを求めていると言われています
日本における一般消費者の好みに関して、私はこれに疑問を覚えていますが、ソムリエが求めるワインにおいては間違いないでしょう。油脂を使いすぎないヘルシーで繊細な料理とあわせるためです。
 
しかし地球温暖化が進めば、ワインはむしろ濃くパワフルになりやすいです。
だからこそ今、サンタ・バーバラのような冷涼産地が注目されています。
 
 
ピノ・ノワールとシャルドネばかりに注目されがちですが、東へ行けばカベルネ・ソーヴィニヨンでも高品質なワインがつくれます。様々な環境が狭いエリアにギュッと詰まっているのがサンタ・バーバラです。
まるでフランスの名産地を詰め込んだかのような多様性。一つのエリアでこれほど飽きさせない産地はそうそうありません。
 





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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