誰もが美味しいと認める3,000円以下の手ごろなピノ・ノワールなんて存在しません。
限られた予算でこの品種のワインを楽しみ満足するには、自分の好みにあわせて不完全さを楽しむのが重要です。
風味や味わいを細分化して、期待をかけるべきポイントごとにおすすめ銘柄を紹介します。
完璧とは言えないがあなたは美味しいと感じるピノ・ノワール、ぜひ見つけてください。
ピノ・ノワールが人気な理由とは
ワインショップで働く者として、赤ワインの中ではピノ・ノワールの人気が一番強く感じます。カベルネ・ソーヴィニヨンの2トップと考えることもできますが、特集などへの反響はピノ・ノワールが上。
カベルネ・ソーヴィニヨンに比べてより様々な銘柄が幅広く売れていく印象があります。
私自身もピノ・ノワールが好きです。ではワイン愛好家はなぜこれほどピノ・ノワールにひかれるのでしょうか。
ピノ・ノワールの風味面での魅力
他のブドウ品種と比較したとき、ピノ・ノワールの香りや味わいは、次のような特徴があります。
ピノ・ノワール 人気のポイント
- 香りのボリュームが大きい
- 様々な要素を持つ複雑な香りを持つ
- 洗練された香りのイメージ
- 比較的おだやかなタンニン
- 軽い口当たり
- 高く上品な酸味
もちろん全てのピノ・ノワールがこれを備えるわけではありません。
それでもあなたが「これは美味しかった!」と記憶しているピノ・ノワールは、これらの中にいくつも当てはまる要素があるのではないでしょうか。
ピノ・ノワールは違いを感じて面白い
ピノ・ノワールは栽培環境と醸造法の特徴を如実に風味に反映するブドウです。
これはつまり「違いを感じやすい」ということ。
温暖な産地なら果実味豊かになり、冷涼な産地なら酸味高く上品になる。これは他のブドウと同じです。
ピノ・ノワールはそれだけじゃありません。土壌の組成で風味が違う。除梗するかどうか、両方で上質なワインができる。
「畑が違えばワインの風味が違う」というのが明確に感じられるブドウ品種は、そう多くありません。
ピノ・ノワール好きな方は、「同じ銘柄をたくさん買うのではなく、いろいろ買って楽しみたい」という方が多いのではないでしょうか。
だから常に「ほかに美味しいものはないか」と探しもとめる。一種の浮気性ですね。そんな人が多いからこそ、おすすめの記事へはアクセスが多いのでしょう。
ピノ・ノワールは高価!?
ピノ・ノワールのブドウを育てること自体が、他のブドウに比べて明確にコストがかかるという理由はありません。比較的病気には弱い品種ではありますし、多収量品種というわけではありませんが、だからといってそれがブドウ価格に影響するのはわずかです。
生産者が多くの品種からワインをつくる場合、ピノ・ノワールも他の品種と同じ価格であることが多いです。
一方で「ピノ・ノワールを好きでいるのはお金がかかる」という人もいます。
それは安いピノ・ノワールにイマイチに感じるものが多いからです。
ワインを安くつくるには
手ごろで高品質なワインは、大量生産によるスケールメリットによって実現しています。大量に安価なブドウを確保しようと考えるなら、次のような地域を選ぶと有利です。
- 広い畑を確保できる安い土地
- 安い人件費
- 機械作業がしやすい平地の畑
- 雨が少なく、特に生育期に降らない気候
- ブドウがよく熟す温暖な気候
たくさんブドウを得るために、1本の木、単位面積あたりに実るブドウの量は減らしたくない。なるべく収量制限はしたくないのですが、そうするとブドウへの栄養が分散して熟しにくくなります。だからそのブドウに適した気候の範囲内で、温暖な畑の方がワインをつくりやすいのです。
例えばカリフォルニアやチリ。冷涼な沿岸部よりも温暖な内陸部の方が、手ごろなワインを大量生産している産地です。(どちらも「セントラル・ヴァレー」と呼ばれます)
ピノ・ノワールは大量生産に向かない
ピノ・ノワールは早熟な品種です。「早熟」というのは、低い積算温度で糖度が十分に上がるということ。同じ環境でもカベルネ・ソーヴィニヨンやシラーなどに比べ早くブドウ糖度が上がるのです。
一見良く思えますがそうではありません。風味の成熟が追いつかないのです。ブドウの収穫は開花から100日後と言われます。その標準よりあまりに早く糖度が上がってしまうと、色味や香り・渋みの乏しいアルコール感が強すぎるワインになってしまいます。かといって風味の成熟を待つと、アルコールが高すぎて酸味のない厚ぼったいワインが出来上がります。
冷涼なブルゴーニュ生まれのピノ・ノワール。その豊かな香りは、冷涼な気候のもとじっくり時間をかけて成熟してこそのものです。他の品種よりも大量生産には向かないのです。
完璧ではないがいいところもある
3,000円以下のピノ・ノワールがないかというと、そんなことはありません。当店では2023年9月現在60種類ほども扱っていますし、楽天市場などに流通するのはそれこそ数えきれないほど。
しかしそのほとんどは、「ピノ・ノワール好き」を自称する人からすると、どこか不満の残るものであることでしょう。
「安くて美味しい」が難しいピノ・ノワール。手ごろなものの味わいは、決して完璧ではありません。「凝縮感が低い」「口当たりがとげとげしい」「余韻が短い」悪いところを探せば見つかります。
それでもそのピノ・ノワールは選ばれたものです。無数につくられるものの中から、まずは輸入元のバイヤーさんが「これは日本で売れる」
と判断して仕入れる。それを我々COCOSのバイヤーが「これはお客様にも納得してもらえる」と考え扱っているのです。
先に挙げた愛好家がピノ・ノワールを好きになるポイント。そのうちどれか一つはいいところがある。だから取り扱っておすすめしているのです。
ワインの香りや味わいの中で、ワインの良し悪しを判断するにあたり重視するポイントは人それぞれです。香り豊かなワインを好む人、口当たりのなめらかさを大事にする人、酸味の質に注目する人、様々です。だからそのワインの魅力に感じるポイントが、自分にとって譲れないポイントと一致するワインを選ぶといい。そうすることで、妥協できるポイントでは妥協して、低い予算で高い満足を得ることができます。
手ごろな価格なりに持つストロングポイントに注目して、自分好みのピノ・ノワールを選んでみましょう
期待するポイントで選ぶピノ・ノワール8選
2023年9月現在、税込み3,000円以下で販売しているピノ・ノワールの中から、この品種の良さを特に表現できているものをピックアップしました。次の5つのポイントで整理しています。
香りのボリューム
香りの複雑さ
洗練された香り
軽い口当たり
上品な酸味
穏やかなタンニンも人気の理由の一つですが、それは3,000円以下では全てのピノ・ノワールに共通するといっても言い過ぎではありません。ここで違いは出ないので省略しました。
人気は1番!香りのボリュームと洗練さが◎
香りのボリューム
洗練された香り
「もともとワイナリーの手違いで日本だけやたらと安く販売されている」そのお得感も手伝って、とりわけ売上本数の高いこのワイン。
実は2019VTまでとは畑が異なります。2020VTからステレンボッシュの自社畑でつくることとなり、前のエルギンに比べて温暖なためアルコール度数が上がりました。14%に達しているので、割とアタックの強さがあります。
ピノ・ノワール好きの中では好みが分かれそうですが、今のところ全体的には好評だそうです。
私は口当たりは少し荒々しさを感じたのですが、試飲したのが入港したてだったからなのかもしれません。
コート・ドールの良心
洗練された香り
上品な酸味
いろいろなピノ・ノワールの産地が「ブルゴーニュのように冷涼」というのを謡います。実際に数値で比較すれば、もっと冷涼であることも少なくありません。それでも実際に感じる味わいとしては、ブルゴーニュ産ピノ・ノワールの上品な酸味は特別に感じます。
このワイン、2020VTの温暖さによる豊かな果実感はありますが、やはり酸味の上質さは他の地域とは違います。3,000円以下という価格を考慮すれば、数万円のブルゴーニュワインをよく飲んでいる方にも納得していただけるでしょう。
上品さなら優るとも劣らない
軽い口当たり
上品な酸味
ブルゴーニュのワイン好きには、ニューワールドのピノ・ノワールが持つ熟したフルーツを思わせる甘い風味に抵抗を感じる方もいます。ひと昔前に流行った、カリフォルニアのピノ・ノワールのイメージが強すぎるのでしょう。近年はそんなこともないのですが。
とはいえフルーツ感がほとんどない引き締まった風味が好きなのであれば、選択肢は多くありません。暑くないヴィンテージのブルゴーニュか、ドイツでしょう。
「ブルゴーニュに似た気候」と言われるバーデン地方。ブルゴーニュで修行した生産者も少なくなくありません。”ブルゴーニュの代わり”を求めるなら、まず1番に探すべき産地です。
エントリークラスゆえに風味の複雑さなどは高望みできませんが、酸味の質などは大いに期待していいでしょう。
果実感は強いがボリュームはバッチリ!
香りのボリューム
軽い口当たり
このワインがしっかりと持つ赤いベリーを思わせるフルーツの甘い香り。そのボリューム感はピノ・ノワールの名に恥じないものです。
一方でこのハッキリと現れすぎる香りを「わざとらしい」と苦手に感じる方もいるかも。「2,000円台で贅沢言うべきじゃない」と思いつつも、個人的には苦手とする方の気持ちもわかります。
チャレンジングな全房発酵
香りの複雑さ
上品な酸味
赤ワインの発酵は、ブドウの実を茎から外してから破砕しタンクに入れるのが基本。対して房ごとタンクに入れる「全房発酵」という手法もあります。ピノ・ノワールはどちらでも美味しいワインができますが、全房発酵の方がリスクが高く難しい手法です。
ブドウの風味が十分に熟していなかったり、酸性度の調整が上手くいかないと、良くない風味になるリスクが高いのです。
このワインは15%だけ全房発酵したものをブレンドしています。わずかな割合ではありますが、風味としては全房発酵に由来するフレッシュ感やスパイスの風味があり、味わいに"効いて"います。それゆえの風味の複雑さには期待してください。
ただしこの価格で販売するのに、少し無理しているところはあるのでしょう。試飲したときはバランス感に関しては完璧とは言えませんでした。それから1年程度は経過していますので、熟成で多少は落ち着いていると思われます。
背伸びせずコンパクトにまとまった美味しさ
洗練された香り
軽い口当たり
イタリアのヴェネト州の生産者ジャンニテッサーリが、メインとして力を入れているのスパークリングワインの生産。ピノ・ノワールやシャルドネはその補助品種として栽培を始め、需要に応じて単一品種でリリースを始めたのでしょう。
ピノ・ノワールでは別に高級ワインをつくるつもりはない。そういう意図が値付けと味わいに現れています。
ここまで紹介してきたピノ・ノワールは、値ごろ感がありながら背伸びして、ワンランク上の味わいを一部分でも感じさせてくれるものでした。
それに対してこのワインは、2,000円台前半の価格なりにコンパクトに風味がまとまっており、背伸びしていない印象です。
ピノ・ノワールらしさはちゃんと表現しながら、複雑さや豪華さはない。そんな味わいです。
酸味は高いのに暗い印象
香りの複雑さ
上品な酸味
筆者の所感ですが、マールボロのピノ・ノワールから赤よりも黒く熟したベリーのニュアンスを感じます。適度に酸味は高く、フルーツの甘く熟した印象は強くないのですが、どこか洗練さとは逆の筋肉質な味の骨格を感じるのです。
マールボロのピノ・ノワールとしては、最安クラスのワインの一つであるヴァヴァサワー。それでもその特徴はしっかりと感じとれます。
風味の特性は優劣ではなく好き嫌いだと考えます。これもピノ・ノワールが表現する産地の個性だと楽しんでみては?
赤系フルーツのチャーミングな風味
香りのボリューム
上品な酸味
先ほどのマールボロと比べると、確かに同じ品種であり、酸味・渋み・ボディ感といった要素はそう大きくは変わりません。にも関わらず風味の方向性は驚くほど違います。
このワインの風味は明らかに赤系。かわいらしいフルーツタルトに乗ってそうなイメージの、ピュアでチャーミングな果実感です。
これを飲めば「甘くべったりとしたカリフォルニアのピノ・ノワール」というのが過去のものというのを実感できるでしょう。それと同時に、例え上品で高い酸味を持っていたとしても、ブルゴーニュとは方向性が違うというのも感じていただけるはずです。
自分にピッタリのワインを探す楽しさを
普段飲むワインは、安くて美味しいに越したことはありません。だからといって、1番美味しいと思った銘柄を買い続けるかというと、ピノ・ノワール好きの中にそういう人は多くないでしょう。
たとえたまにイマイチなワインに出会ってしまうとしても、いろいろなワインを楽しみたい。それはワインに、単に酔っぱらう道具である以上のものを期待しているからだと思います。
ならばこそ、「自分が美味しいと思えるワインを探し求める」こと自体を楽しんでみては?完璧なワインなど到底出会えないのと同様に、いいところが全くないワインもそうそうありません。ならばそのワインのいいところを最大評価するのが、支払いの対価を最大限享受するコツです。
ワインの悪いところに注目するのではなく、いいところを探す。そのマインドはワインをもっと楽しくするはずです。