寒くなる季節、濃厚で飲みごたえのある赤ワインが恋しくなります。少しだけ予算をかけると、濃密な風味と重厚な口当たりで満足度の高いワインを楽しめるのが魅力です。特に3000円クラスのフルボディワインなら、少量でも深い味わいに満たされ、飲む量を控えながらも充実したひとときが得られるでしょう。今回は、そんな3000円前後のおすすめ濃厚赤ワインを厳選してご紹介します。
大人気濃厚赤ワイン2本
この2本は見たことある・飲んだことあるって方も多いのではないでしょうか。
当店でも人気、日本中で人気の濃厚赤ワインをまず2銘柄ご紹介します。
もう知っているよという方は読み飛ばして、次の段落でおすすめ銘柄をご覧ください。
試飲販売で爆発的人気!50%ずつのブレンドがいい!
例えば百貨店で行われる大規模な試飲販売イベントでは、必ずと言っていいほど登場するのがこのワイン。それは過去の実績がスゴイから、別のものに変えたくてもためらっちゃうからです。
そう、このワインには最初の一口で一般消費者の心をつかむパワーがある!
プリミティーヴォとネグロアマーロという、プーリア州の土着品種を50%ずつブレンド。それがワイナリー50周年につくられたから、「50」を意味する「チンクァンタ」が名前につけられました。プルーンやブラックベリーのような完熟フルーツの香りがあふれだし、まさに「フルーツ爆弾」。樽香の甘く香ばしい香りとあわせて、風味の濃密さがこの価格帯でトップクラス!そりゃあこぞって買うわけです。
とびきりリッチで甘やかな香りに満たされる!
「ブレッド&バター」のブランドは、まずはシャルドネが大人気。その名の通りパンやバターを始め、ヴァニラのような甘い樽香がわざとらしいまでに強く感じる個性的なワインです。
同シリーズのカベルネ・ソーヴィニヨンもまた同じ路線。完熟フルーツの香りを包むような甘い樽香。カベルネ・ソーヴィニヨンらしい豊かなタンニンや酸味はほとんど感じず、ひたすらに甘くリッチでなめらかな味わいです。高アルコールによるガツンとしたインパクトにノックアウトされてしまうかも!?
周りのソムリエさんの中には「このワインはグラス1杯も飲み切れない」という人もたくさんいます。それでもこのワインがたくさん売れ続けているのは事実です。
好みが分かれるのは間違いないですが、手頃な価格で濃厚ワインがお好きな方にとっては、万歳ものである確率が高いです。
大人気濃厚赤ワインの共通点
この2本、それから当店で他に人気の濃厚ワインは、ある共通点があります。
それは「甘濃い」味わい。よく熟したベリー系フルーツのような、あるいはオーク樽熟成に由来するヴァニラのような甘い香り。その香りに引っ張られてか味わいもほのかに甘く感じ、渋味は穏やか。味が濃密なので酸味は強く感じない。
こういう「甘濃い系」ワインが非常に人気です。
一方で「食事時に食べるから、甘い風味が強いと料理の邪魔をしがち。もうちょっとタンニンがあって力強い方が好き」そんな方もいるでしょう。好みの問題です。
なので「力強い系」として甘い風味は濃厚ワインとしては控えめ。それでいて適度な渋味を持つワインも選びました。
2つのタイプでおすすめする濃厚赤ワイン
ここでご紹介する6本は、ブドウ品種が少し珍しかったり、日本に入って日が浅かったりで「有名」とは言い難いワインが多いです。
その分だけ、いろいろなワインを楽しみたいあなたにとっては、新たな出会いを提供できるはずです。
重厚な口当たりとスパイス感がGood!
力強い系
このワインを試飲会で初めて飲んだのは真夏で、「今じゃないな~」と感じたのを覚えています。
ともかく風味が個性的。商品ページには「桜チップや東南アジアの香木」と書きましたが、実は納得しているわけではありません。なんとも言えない不思議な香りが、飲みこんだ後に鼻を抜けていくのが面白い。
プリミティーヴォに近い甘濃い風味はあるのですが、比べるとしっかりとタンニンがあって味わいに厚みがあるイメージ。なので「力強い系」に分類しました。
濃厚ワインを飲みなれている方ほど新しい発見があるかも!
ともかくしっとり舌を包む
甘濃い系
ネグロアマーロはプーリア州でメジャーな品種。濃厚なワインというだけなら、もっと安くでもたくさん見つかります。
にもかかわらずこのワインを試飲した瞬間に、「濃いワイン好きの方にご紹介したい」と感じました。まるで舌をやさしく包み込むような、全く引っ掛かりのない質感にほれ込んだからです。きっとこれは、2000円前後のワインをつくるには不可能な、丁寧な選果作業をしているのだと推測します。
濃厚なのに渋くなくてスムース。そして目立たないけれど適度な酸味があります。甘濃いのに割と万人受けしそうなバランス感です。
お値段以上に『高そうな味』
力強い系
この輸入元は本当にお値段以上なワインを探してくるのが上手だと感じています。
シチリアは暖かい産地。ネロダーヴォラもシラーも濃厚ワインをつくりやすい品種ですから、出来立ては抜群にパワフルだったことでしょう。しかしちょっとだけ古いヴィンテージなので、適度に角がとれてスムースな口当たりになっています。さらにこの余韻の長さは熟成も関係しているのでしょう。ワンランク上、5000円程度の味わいに感じても不思議ではありません。
自宅で楽しむだけじゃなく、親しい友人の家に持参し手飲むのにもいいでしょう。気を使わせない程度の価格で、ちょっと上の満足が得られます
「誇大広告」じゃない濃厚さ!
甘濃い系
689セラーズがつくるワインの味筋は、一貫して甘濃い系。その風味の濃厚さと手を出しやすい価格が人気の理由です。
赤ワインは一般的には完全発酵させてつくります。ブドウ由来の糖分はワイン1L中に2gも残っておらず、ほぼ感じない甘さ。なので多くのワインに感じる甘い風味は、香りが甘い印象だから騙されるだけ。鼻をつまんで飲めば甘味は感じません。
しかし689セラーズの赤ワインの多くは、あえて糖分を残して発酵を止めていると推測します。それはきっと「その方が消費者が喜ぶから」という彼らのリサーチに基づくもの。単にブドウの熟度が高いだけでなく、甘味によるものもあわせて、口当たりに厚みがあってなめらか。濃いのにまろやかなワインがウリです。
「HYPE = 誇大広告」という変わったネーミングですが、飲めばわかる、けっして「誇大」ではなく「期待以上」だという自信の表れでしょう。
世界を股にかける醸造家がつくりたい味
力強い系
クロ・デ・ロス・シエテはその名の通り7人の醸造家によるジョイントベンチャー。その中心人物はなんといってもミシェル・ロラン氏。「フライングラインメーカー」として名をはせる、世界トップクラスの醸造コンサルタントです。
そんな彼が共同出資で850haもの敷地を手に入れてワインをつくるのです。よほど素晴らしい土地が見つかったのでしょう。ここでワインをつくらなければもったいないと思ったのでしょう。
コンサル先は世界中にありますが、特にボルドーやナパ・ヴァレーの有名生産者に多いです。
「濃厚で力強いワインながら、タンニンがち密で若いうちからも楽しめる」
決して飲みつくしているわけではありませんが、コンサル先のワインの共通点について私はそう考えます。
このワインもそう。果実味と酸味のバランスはボルドーワインを意識したようなエレガントなもの。しかしアルゼンチンらしい果実味の明るさがあり、どっしりとしたボディは同価格帯のボルドーに勝ります。先の「ハイプ」とは対照的に、親しみやすさだけじゃない適度な緊張感が、「上等なワイン」感を醸し出しています。
バーボン樽の奥深い風味
甘濃い系
甘い香りといってもこのワインに関しては、バーボン樽由来の芳醇な香り。バーボンウイスキーを熟成したあとの香りが移った樽に入れて、カベルネ・ソーヴィニヨンを熟成します。
カベルネ・ソーヴィニヨンはワイン用ブドウとして栽培面積No.1なだけあって、あらゆる価格帯で多種類のワインがつくられています。だからつくる側・販売する側からすると、オンリーワンのワインをつくりだすのはめちゃくちゃ難しい。「こんな違いのあるカベルネ・ソーヴィニヨンですよ」と消費者に請求しにくいのです。
そのなかで違いを示しやすいのが風味を添加すること。熟成にバーボン樽を使うのはその一例です。「バーボン樽熟成したら濃厚になる」というのは少し違います。しかし風味が芳醇で複雑になるのは確か。
当店には似たようなワインがいくつかありますが、このバレルバーナーはブドウの熟度自体は抜群。一例として2021VTのアルコール度数は16.5%と、カベルネ・ソーヴィニヨン全体を見渡してもかなり高い値です。パソ・ロブレスという産地ゆえ、今回ご紹介した「甘濃い系」ワインの中ではある程度タンニンがあるほうでしょう。
パソ・ロブレスについてはこちらを参照▼
寒い季節に濃厚ワインが美味しいわけ
秋から冬にかけては、ワインに限らず濃厚な味わいのものがプロモーションされます。例えば秋味のビールやカフェのシーズナルドリンクなど。
これは暑くてたくさん汗をかくからさっぱりとしたものを食べたい・飲みたい夏の反動でしょう。
濃厚だからちょっとが美味しい!
寒い季節はあまり汗をかかないので、体がたくさんの水分を求めていません。濃厚な味わいのものを自然と美味しく感じるのは、きっとそれが理由。
夏場なら手頃でさっぱりとしたワインをガブガブ水のように飲むのも楽しい!それとは逆に寒い季節は、濃密な風味と重厚な口当たりを持つワインを、ゆっくりと楽しみたい。勢いで飲まない分、自然と量をセーブしつつ満足が得られるのではないでしょうか。
加えて多くの業種で12月は繁忙期です。深酒して翌日頭が重たいのでは、目の回るような忙しさの日にぐるんぐるんが2倍になっちゃう!お酒は飲みたいけれども飲みすぎないように。あまり我慢せずにそうなるようにしてくれるのが濃厚ワインです。
濃厚なワインだからこそ、適量をゆっくり飲むのが美味しい。濃厚ワインの多くはアルコール度数高めですが、量を少なくできればトータルのアルコール摂取量は減らせます。
温度高めが美味しく飲むコツ
ワインには飲み頃温度があります。ミディアムやライトボディの赤ワインに比べると、フルボディの赤ワインは飲み頃温度がより高めです。
ミディアムボディのワインは当店では13~15℃くらいで飲み始めるのをおすすめしています。それに対してフルボディのものなら15~18℃くらいでスタートしていいでしょう。部屋の室温で飲んでいるうちに温度が少し上がって、2杯目~3杯目くらいにもっとも美味しくなるはずです。
寒い季節、いくら暖房をかけていてもあまり冷たい飲み物は気が進まないですよね。そんな季節だからこそ、室温に近い高めの温度がピッタリな濃厚ワインが、晩酌をより心地よいものにしてくれるでしょう。
実は「フルボディ=濃厚」とは限らない?
ではこの季節に美味しくて少量でも満足できる濃厚ワインをどう選ぶか。
「ワインの説明書きに『フルボディ』と書いてあるものを選ぶ」では不十分。
あれ?あまり濃くないじゃないか
ガッカリしてしまうかも。
それは「フルボディ」に明確な基準はないからです。
そもそもワインの「ボディ」とは
主にライトボディ・ミディアムボディ・フルボディと表記されるワインの「ボディ」。
それについてソムリエや販売者が共通認識を持っているわけではありません。
だから「ワインのバックラベルにはフルボディと書いてあるけど、ソムリエさんはミディアムボディと説明する」なんてことも普通にあります。
そもそも「ボディ」は、風味の密度や味わいの凝縮感、口当たりの厚みや刺激の強さなどを総合した印象です。どのポイントを重視するかで、人によって判断基準が異なるのは当然です。
「ボディ」を表示する側の悩み
1000円のワインと1万円のワインでは、風味の密度が当然違います。それは1本の樹、単位面積あたりの畑からつくるワインの量を制限して、栄養を凝縮させているからというのが大きな理由です。
とはいえ手頃な価格帯のワインにも、選ぶ基準が欲しい。なので「弊社のラインナップの中では」「この価格帯としては」という但し書きを省略して「フルボディ」と表記することがあります。明確な基準はないのですから。
1000円の「フルボディ」ワインより、1万円の「ミディアムボディ」ワインの方が、風味の密度が高くて濃く感じる。これは十分にあり得ます。
「フルボディ」だけれど思ってたのと違う!
ボディの判断基準において重要な要素がアルコール度数です。具体的には14%を超えると「フルボディ」表記されることが多いです。
しかし手頃でアルコールだけ高いワインは、風味が詰まっていないのであまり濃厚に感じないこともあり得ます。
例えばイタリアの「バローロ」は判断基準が分かれやすいところ。ネッビオーロという豊富にタンニンを含む品種を使うので、渋味の強さは強烈です。その刺激の強さから「フルボディ」表記されることが多いですが、実は舌の上で感じる重量感はそう大きいものではありません。
「フルボディ」の表記を信じて買ったけれど、思っていたほど濃くない!
これは残念ながらあり得ます。でも確率的に低くすることは可能です。
濃厚ワイン見極めのポイント
少しの量でも十分満足できる濃厚ワインかどうか。それをジャッジするのは最終的にはあなたです。
冒頭で紹介した8本を、私は自身を持って「濃厚でフルボディなワインです」と言いますが、それも絶対ではありません。
最終的には飲んでみないと分からないとはいえ、ある程度はワインのスペックや説明から推測できます。
濃厚ワインを見極めて選ぶポイントをご紹介します。
ブドウ品種で絞り込む
濃厚ワインを選ぶ上で、ブドウ品種はやはり分かりやすい基準です。
甘濃く滑らかなワインが多い
ジンファンデル、プリミティーヴォ、グルナッシュなど
パワフルで飲みごたえのあるワインが多い
シラー/シラーズ、テンプラニーリョ、カベルネ・ソーヴィニヨンなど
ただしブドウ品種"だけ"で選ぶのは危険です。カベルネ・ソーヴィニヨンといっても甘濃いものもあれば、スマートな口当たりの上品系のものもあります。品種で大まかに絞り込んだ上で、他の基準に照らしてみるといいでしょう。
暖かい産地がフルボディになりやすい
畑の環境が温暖であるほど、ブドウは良く熟してアルコール度数が上がりやすくなります。なので暖かい産地のワインはアルコール度数高め、濃厚な味わいのものが確かに多いです。
一般に産地は赤道に近づくほど、緯度が低いほど暑くなります。北半球なら南の産地、南半球なら北の産地のワインを選べば、フルボディである確率が高まります。
とはいえブドウ品種や醸造法、生産者がどんなワインをつくりたいかによっても変わります。また地域としては温暖でも、そのワイナリーの畑は標高が高くてスマート&エレガントなワインをつくるという場合もあります。
決定的ではありませんが、「目星をつける」程度には使えます。
熟成方法
ワインはオーク樽熟成することで、ヴァニラやトースト、コーヒーのような複雑な香りが加わります。香りがより複雑でボリューム豊かになるので、風味がよく詰まった濃いワインだと感じやすくなります。
とりわけ高い新樽比率で熟成しているものが、より濃厚に感じやすいでしょう。
樽熟成について詳しくはこちら▼
樽香の強さに注目した特集記事も参考に▼
アルコール度数
先ほど「アルコール度数だけでは決まらない」と申しましたが、参考にはなります。
アルコールはワインの味わいにおいて、熱に近い刺激として感じます。またわずかな甘みと味わいの重量感に影響します。
加えてアルコール度数が高いということは、ブドウの状態で糖度が高いことを意味します。つまりブドウがよく熟してから収穫された証であり、風味もよく詰まっていることが多いです。
目安として14%を超えるものはフルボディと感じる確率が高いです。13.5%でも品種や産地によっては十分濃く感じます。
ただしアルコール度数の表記には、±1%の誤差が許可されています。1%違えば結構味わいの印象が異なるので、表記に頼りすぎるのも危険です。
味わいの説明を読み解く
最後はそのワインの味わいがどのように説明されているかで確認しましょう。
「濃厚」「凝縮感が高い」「パワフル」などのワードが入っていると期待できます。逆に「繊細な」「きれいな」などの記載があると要注意です。
「プルーン」や「ブラックベリー」のような黒い色のフルーツで風味が表現されていると、ブドウの熟度が高いことを意味します。「ジャム」「コンポート」という表現が使われれば、今回の「ブレッド&バター」や「チンクァンタ」のような甘濃い系であることが推測できます。
これらを総合して判断すれば、あなたの納得のいく濃厚さのワインを選べる確率がぐっと高まります。
物足りなさのない晩酌ワインで翌日もがんばれる!
濃厚ワインの弱点が、フードペアリングの幅が狭いことです。料理に合わないわけではないのですが、相応に味の濃い料理でないとバランスがとれない。
日常的に食べる自宅の夕食で、油脂や塩分たっぷりの味付けというのはあまり健康的ではありません。
だからこそというべきか、料理とワインの相性を無視して、ワインの強い味を感じやすいのが濃厚ワインです。それに相性が悪いならば、夕食は先に済ませてあとでゆっくりワインだけを楽しめばいい。
たとえば「手頃で美味しいカベルネ・ソーヴィニヨンを」といろいろ試してみると、割と似たり寄ったりになりがちです。それを「濃厚な味」ということで括ると、飲んだことのないようなワインと出会えるかもしれない。そのワインは同じ濃厚でも、全然違う風味を持ちます。先にご紹介した「ススマニエッロ」などは、ほとんどの方が知らないブドウ品種でしょう。
美味しさの中に「驚き」「発見」がある。それはきっとあなたの好奇心を刺激し、変化に乏しい日常に楽しさをもたらしてくれます。
フルボディで風味の濃厚なワインのある晩酌で、明日もがんばる元気をチャージしましょう。