
「このワイン、値段バグってない?」そんな驚きの体験をしてみませんか?ワンランク上のワインに引けをとらないような、「風味の複雑さ」を備えるワインは確かに存在します。あえてメジャーなタイプでないところを探すのが、掘り出し物に出会うためのコツ。プロの視点で数千本試飲して選んだ、価格と価値にギャップのあるワインをご紹介します。
高そうな味のワイン8選
普段飲みの価格帯なのに、2ランク上くらいに感じる風味の複雑性。今回はそこに絞って、高価に感じるワインをご紹介します。
高価なワインの味とはどんなものか。
なぜ紹介しているワインは、馴染みの薄いマイナーなものが多いのか。
後の章でご紹介します。
余韻の広がりは高級ワイン気分
「値段の割に高そうな味がする!」試飲会で一口飲んでそう感じました。イタリアワインとはまた違った雰囲気の端正な力強さ。特に余韻に広がる香りのボリュームと、鼻を抜けていく風味の多様さは秀逸で、とてもこの価格のワインとは思えません。
とはいえ、クシノマヴロ+メルロー+シラーという、馴染みの薄い構成。何かきっかけがないと目に留まらないワインだからこそ、このテーマでご紹介するワインとしてまず最初に思い浮かびました。
若いワインなのに熟成感!?
このワインはグラスからより口の中で感じる香りが豊か。シャンパンの熟成香にも似た、イーストやスパイスの不思議な香りが鼻を抜けていきます。ともかく「上手につくっているな~」という印象。このワインは2023VTが日本初入荷ですが、おそらくこれは高い醸造技術ゆえの美味しさ。次のヴィンテージ以降も安定して美味しいものが期待できます。
品種と樽のコンビネーション
品種由来の華やかな香りが、見事に樽香と調和しています。フルーツ、花、ハーブ、スパイス、樽といった全ての要素を感じるような複雑さ。ゲヴュルツトラミネールに代表されるようなアロマティック品種のワインとは、一味も二味も違います。試飲して「なんだ!?これは」と混乱した、面白いワインです。
1日で飲み切るのはもったいないタフさ
手頃な赤ワインは渋味を抑え気味につくられることが多いです。しかしこちらは「サペラヴィ」というブドウ品種の力強さがよく表れており、フルーティーでパワフル。豊富なタンニンを持ち、そこにオーク樽の複雑な風味が加わります。だから美味しさが日持ちするのが魅力。5日程度かけて飲むことで、渋味は段々と滑らかになっていき、風味の変化も楽しめます。
高級シャルドネ好きの普段飲みに
シャルドネは人気品種ゆえ、様々なタイプ・味わいがありますが、価格と味がしっかり比例します。低価格帯で濃厚なシャルドネは、酸が低くべったりと甘くなりがち。実はローヌ・ブランの方が上品な酸味を感じることも多いです。きちんと酸味に支えられた非常に高い凝縮感と、樽香とともに感じるフルーツのアロマ。1杯でしっかり満足できるので、パーティー用途やちびちび飲みにピッタリです。
花とハーブの新感覚
「よく分からないけれど飲んでみたら美味しく、そして安い」失礼を承知で言うなら、ポルトガルはそんなワインがたくさん見つかる国。ピノ・グリのようにオイリーでリッチな味わいなのにアルコール低め、そして花やハーブのアロマがこんなにも広がるワインは、他に似たようなものを知りません。「値段高そうなワイン」というより、新感覚すぎて「値段がまったく分からず大混乱」
風味とタンニンは「レセルバ」の効果
もともとタンニンが少ないのと、豊富なタンニンが熟成でなめらかになったのは、同じ穏やかな渋味でも違います。熟成が長いからこそのフルーツと樽が調和した複雑な風味。そして奥行きのあるしっとりとした味わい。こんなワインが1000円台というのは、スペインならではといえるでしょう。
これぞテクニックの美味しさ
この価格でフルーツと調和する豊かな樽香のワインなんてありえない!輸入元情報で「ステンレスタンク熟成」とあるのに豊かな樽香を感じる。オークチップによるものでしょう。完全に工業的に大量生産されたワインであり、高い技術で効率化された美味しさです。COCOSのスタッフで試飲して、全員一致での採用となりました。
ワインの味の評価基準とは
味の好みは人それぞれです。「好き/嫌い」「美味しい/イマイチ」は主観的なもので、個人的にワインを楽しむ上では最も重要なものです。
その一方で商業的には、個人の好みとは切り離して、ある程度普遍的な評価基準というものも求められます。高い評価を得られる「高品質なワイン」とはどういうものでしょうか。
ここでは「WSET」というワインの教育機関が教える評価基準をご紹介します。
WSETとは
WSET(Wine & Spirit Education Trust)は、ロンドンに本部を置く世界最大のワイン教育機関です。世界70カ国以上で導入されており、日本でも多くの人が学んでいます。
認定ワインスクールの授業を受けてからテストをパスすると、Level1~4の称号がもらえます。そのLevel3で学ぶことの一つが、「BLIC」という評価基準に基づく5段階の評価です。筆者片山もこのLevel3を取得しています。


WSETが教える「高品質なワイン」とはどのようなものか、簡単にご紹介します。
品質評価のBLICとは
WSETでは、ワインの品質を「BLIC(ブリック)」という4つの指標で評価します。
- B(Balance / バランス):果実味、酸、アルコール、渋みの調和。
- L(Length / 余韻):飲み込んだ後に心地よい風味がどれだけ長く続くか。
- I(Intensity / 凝縮感):香りと味わいがどれだけはっきりと力強いか。
- C(Complexity / 複雑性):ワインから多様な香り・風味を感じるか。
これらが基準以上のワイン、バランスがとれていて、余韻が続き、凝縮感のある多様な風味を持つワインを、WSET的には「高品質なワイン」と評価するのです。
この基準が絶対とも全てとも言いません。とはいえ、こんな味のワインなら確かに美味しそうですし、高価であっても納得ではないでしょうか。
品質はワインの価格を決める要素の″1つ″
ワインの品質は確かに価格に影響します。
高品質なワインには高い価格がつきますし、高いワインの多くを品質評価すれば高品質です。
でもワインの価格の要素は品質だけではありません。様々な要素が絡み合うので、プロの視点でもブラックボックスです。


同じ8000円のワインでも、片方は豪華な味で納得するけれど、もう1本は美味しいけれど物足りない。「ワインの値段ってなんだろう?」と首をひねる。そんなことはいくらでもあります。
特に10万円を超えるようなワインの場合、ブランド価値や希少性の与える影響も重要です。評論家がつける得点が価格に影響することもあります。
その点で普段飲み価格のワインの方が、より品質と価格が関係しやすいです。大量生産するものなので希少性がないから。類似商品が多く価格優位性が低ければ淘汰されるからです。
同一生産者で比較すると納得
WSETの評価基準「BLIC」については、同一生産者のワインで比較してみると分かりやすいです。特に「安くて美味しいワイン」として紹介されるようなものと、その生産者がつくる上級ワインの比較が適しています。
たとえばこの2本。イタリアのサン・マルツァーノという大規模生産者で、どちらも希少性はありません。
バランスについては、どちらも甘やかな果実味が前に出るタイプ。好みの差こそあれ、これは狙っての味ですので、どちらもバランス〇です。
他の3つの項目、余韻の長さ、凝縮感、複雑性については圧倒的に違います。特に複雑性については上位互換のようなもので、「タロ」に感じる風味は「セッサンタアンニ」にも感じ、さらに多くの風味が漂います。


なるほど、高品質なワインはこういう風に美味しくなり、高価になるんだ
そんな学びになるでしょう。
完璧ではないから「高そうに」
今回ご紹介したワインは、この評価基準のうち「複雑性」があるから「高そうな味」に感じます。
バランスや凝縮感は、1000円台の手頃なワインでもそこそこのものがあります。
一方で余韻や複雑性はそうはいきません。特に余韻の長さは、おそらく一番コストのかかるブドウの質によるところが大きいのでしょう。なかなか誤魔化しがききません。


その点で複雑性は、コストが大きくはかからない醸造テクニックで強化しやすいポイントです。
分かりやすいのは新樽熟成。確かにコストはかかりますが、1本あたりせいぜい数百円です。それで風味の複雑性は上がります。そうして美味しくなるかどうかは、醸造家の腕次第、飲み手の好み次第。しかし豪華な風味の高そうな味になります。
複雑性だけで2000円のワインが1万円のワインに化けたりはしません。でも専門のテイスターでない人に「4000円くらいでも買う!」とは言わせられるかも。
今回は完璧ではないけれども、ワンランク上の価格帯に引けをとらない複雑性に注目して、ワインを選んでいます。
掘り出し物はマイナーワインに
今回ご紹介したワインの多くは、「おすすめされないとまず注目することはなかった」というものではないでしょうか。有名産地のカベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールといった、安心して選べるものは全くありません。
メジャーなタイプのワインに際立った掘り出し物はそうそう見つからないと感じています。その理由をお話します。
人気のタイプは常に比べられる
例えば「2000円くらいのカリフォルニア産カベルネ・ソーヴィニヨン」といった人気のタイプは、国内にかなりの種類が流通しています。楽天やAmazonといったモールで検索しても、1本選ぶ前に疲れてしまうほど種類が多いです。
だからこそ常に比較されます。モールのレビューやVivinoのようなワインアプリの点数など、どのワインのコストパフォーマンスがより高いかは関心事です。
値段以上に価値を持つものがあれば、インフルエンサーがこぞって紹介しますし、SNSで話題となるでしょう。
いつの間にか味相応の価格に・・・
メジャーなタイプのワインにも掘り出し物はあります。しかしたいていは、話題となった数年後には適正価格となっています。
というのもワインの価格というのは変動し、基本的に上がり基調です。「安くて美味しい」とされていた銘柄ほど、値上がりの幅が大きめで、いつの間にか「あれ?別に安くないよね。普通・・・」となっていることもしばしば。
たとえばこちら。10年前ごろ、3000円以下だったからこそたくさん飲んでいたという方も多いのでは?昔の価格がバグっていただけで、今冷静に比較しても適正なのですが、売れ行きは圧倒的に悪くなりました。
市場原理が働くのでしょう。需要の高いタイプのコスパワインは、その価格が上手にじわじわ 是正されがちです。
輸入元が日本での価格を決める
コスパワインがやがて適正価格になる。その裏には輸入元の判断もあるでしょう。
日本での希望小売価格を決めているのは、ワインの輸入業者さんです。
ワイナリーの出し値をもとに、輸送や販売コスト、為替の変動見込み、税金などを加算して、必要経費から導く売価の設定もあるでしょう。一方でそこに戦略的に価格を上下させることもあるはずです。
例えばこのワインはマイナーなタイプだから、値段をあえて抑えめに設定しよう。あるいは逆に少々安くしたところでたくさん売れないだろうから、しっかり利益を確保しよう。


あるいは競合他社の類似商品との比較。非常によく検討されているはずです。
A社でよく売れているBというワイン、それよりは高品質だから、これくらい高くても売れるはずだ。
そういった戦略判断による価格決定は、需要の高いタイプのワインにこそ重要です。人気のないタイプのワインにまで、そうそう手はかけられません。
人気がない≠低品質
ワインを販売していて感じます。高品質で価格も安いのに、売れないワインはいくらでもあります。それは我々販売側に伝える力が不足しているからなのですが、簡単には解決しません。
そのワインが選ばれないのは、美味しくないから・低品質だからではありません。「美味しそう」と思ってもらえないから。味が想像できないから。よく分からないから。
自分が知っている美味しそうな他のワインに、もっと欲しい物があるからです。
- 日本に輸入されて間もない国のワイン
- 知名度の低い土着品種のワイン
- 有名でない生産者がつくる品種ブレンドのワイン
こういったものの中にも、値段に見合わぬ味わいで驚くワインが見つかります。高品質だったとしてもバカ売れはしません。だから市場原理が働きにくく、長く「掘り出し物ワイン」でいてくれるのです。
「高そうな味」の使いどころ
ワインの感じ方にとって、シチュエーションというのは極めて重要です。
高そうな味のする手頃なワイン。その魅力を最大限に発揮するのは、気の置けない友人とのカジュアルな食事の場です。
味に大満足なのに気を遣わせない
友人を自宅に招いての食事会。その締めの1本として、高そうな味のワインを選んではいかがでしょうか。
今回ご紹介したような「高そうな味」のワインは、割と味わいが派手な傾向。だからこそ一口目から他のワインとの違いを感じますし、一人が1、2杯程度でも満足度が高く物足りなさがありません。
料理と一緒に飲んでも良いのですが、どちらかというと単体がおすすめ。風味の複雑性を感じる上で、料理が口の中にあると大まかな味しか感じられません。


ゆえに食中酒は別に用意するのがおすすめ。1本スルっと飲めるような、比較的シンプルな風味のワイン。言い方は悪いですが、「潰れ役」を用意すれば、より「高価に感じるワイン」が引き立ちます。
カジュアルな飲み会に、無理して高価なワインを出しても、友人に気を遣わせてしまいます。
「このワイン、高かったんじゃない?」
「そう思うでしょ?そんなことないんだよ」
安さに驚いてもらうくらいの方が、お互いにリラックスした時間を過ごせることでしょう。
改めてよさを知る等身大ワイン
高品質で高そうな味のワインとはどんなものか。それを知ると逆に、「高そうな味はしないけれど、自分は好き」ってワインもあることに気づきます。


例えば山梨県の甲州でつくる白ワイン。樽熟成していないものなら、香りは比較的シンプルですし、余韻も短めです。品質評価するなら低めで、高価なワインの味はしません。
しかしその多くが2000円台。
美味しくないですか?価格に対しての期待値に満たないから、もう買わないって思いますか?多くの人はNOでしょう。
背伸びしない、等身大の優良ワインもたくさんあります。そういうワインこそ、心地よく1本飲み切れ、リピートしたくなるものです。
それぞれ両方の良さを知って、あなたの気分で使い分けられるようになるのが、ワインでQOLを上げるコツです。
ブランドに縛られないワイン選びを
限られた予算でワインを選んで楽しむなら、ブランドに振り回されないことが重要です。
ブランドワインを否定するつもりはありません。「オーパス・ワン」や「ドン・ペリニヨン」といった、誰もが知っている高級ワイン。だからこそ盛り上がるパーティーシーンもあるでしょう。誰もが純粋にワインの味を楽しんでいるわけではないのです。
一方で普段の晩酌に飲むワインなら、一番の目的はあなた自身を満足させること。ワクワクさせることです。


ブランドとは約束であり期待値。「あなたをこんな風に満足させますよ」という実績です。失敗したくないときは、信頼あるブランドを選ぶ方がいい。でも普段のワイン選びからブランドに縛られていると窮屈でつまらないです。
時に慣れ親しんだ品種や産地のブランドをあえて避けて、ノーブランドの逸品探しにワクワクしてみてはいかがでしょうか。











