収穫後に陰干しすることでブドウの糖分や風味を凝縮させ、リッチなワインをつくる手法があります。
イタリア、ヴェネト州の「アマローネ」が有名な高級ワインですが、同様の製法は各地にあり手頃なワインもあります。
風味豊かで甘やかな果実味を持つ手頃なワインがお好きな方は、見逃す手はないでしょう。
干しブドウからつくるワインの代表格から掘り出し物まで、お買い得なおすすめ銘柄をご紹介します。
陰干し製法の専門用語を整理する
陰干しした干しブドウからつくるワインは、イタリアの一部地域のものが有名です。その名称が他の地域のワインに表記されていることもあります。
その用語が指すものは、ワインの製法なのか、ワインのスタイルなのか、法律で保護されたブランド名称なのか。
まずはきちんと整理しましょう。
D.O.C.G.とは
後の説明のためにイタリアワインの規格について予備知識。
DOCGとはイタリアのワイン法で定義されるジャンルの一つ。その地域の伝統品種を規定の製法で醸造したことを示しており、その名称が保護されています。いわば産地のブランドワイン。代表格がトスカーナ州の「キアンティ」などで、他の地域・規定外のブドウでは「キアンティ」を名乗るワインをつくることはできません。
消費者としてはDOCGの名称を知っていれば、表記からワインのおおよそのスタイルを知ることができるメリットがあります。
正確には「Denominazione di Origine Controllata e Garantita」の略称で、キャップシールを見ればそれがわかります。
「アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ D.O.C.G.」はブランド
干しブドウからつくるワインの代表格といえば、ヴェネト州の「アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ D.O.C.G.」です。「アマローネ Amarone」といえばこれを指します。
適切な熟度で収穫したブドウを、風通しのいい小屋の中で網の上などに広げて、3~4週間乾燥させます。約40%の水分が失われるそうです。なので「干しブドウ」といってもドライフルーツのレーズンほど乾燥はしていません。
その乾燥したブドウを破砕して発酵をスタートさせワインをつくります。乾燥により糖分が凝縮しており、アルコール度数が高いワインができます。風味も濃密なものとなり、独特のレーズンのような香りを持ちます。
「アマローネ」とは「苦み」を意味する言葉で、チョコレートのようなほのかな苦みを感じるワインが多くありますが、これは決してワインの欠陥ではありません。
「アマローネ」は陰干しブドウからつくるヴァルポリチェッラであり、ヴェネト州の高級赤ワインです。基本的に辛口ですが、わずかに甘味が残っているものもあります。
相場としては約4,000円以上。1万円以上の高級ワインも少なくありません。代表生産者はベルターニとクィンタレッリでしょう。
ヴァルポリチェッラとは
「アマローネ」がフルボディの濃厚赤ワインであるため、「ヴァルポリチェッラ」もそのイメージに引っ張られがち。でも実際には口当たり軽く酸味が高いカジュアルな赤ワインで、概ね1,000円台です。「アマローネ」のスタイルとは対照的。だからこそこの製法が使われるようになったのでしょう。
「アパッシメント」は製法
この「アマローネ」をつくる、「ブドウを陰干ししてから醸造する」という製法を「アパッシメント Apassimento」と呼びます。
「アマローネ」はアパッシメントでつくられるワインの一つ。つまりアパッシメントはヴェネト州に限りません。
アパッシメントをすることで、糖度の低いブドウでも十分なアルコール度数のワインをつくることができますし、風味も凝縮されます。つまり収穫時のブドウの熟度がそこまで高くなくても補えるのです。これは単位面積当たりの収穫量を上げることを可能にします。
アパッシメントをすればブドウの量の割につくれるワインは減ります。それでもアパッシメントしたワインに手頃なものも多いのは、これが理由です。
「アパッシメント」を再利用する製法「リパッソ」
「アマローネ」は高級酒なので上質なブドウが使われます。赤ワインをつくったあとの搾りかすにはまだ糖分が残っており、「ヴァルポリチェッラ」用のブドウより風味豊かです。その搾りかすを再利用しようというのが、ヴェネト州の製法「リパッソ Ripasso」です。
干しブドウからつくる「アマローネ」をつくった後につくるのですから、搾りかすを加えるのは収穫の翌年となってからです。リパッソによりアルコール度数が1%は上がるそうで、よりしっかりとした風味のワインが出来上がります。
この「再び発酵させる」というのが肝のようで、加えるのが搾りかすではなくブドウでもいいようです。
手間はかかれどもともとは廃棄予定の搾りかすを使うわけです。出来上がるワインは手頃なものが多いです。
「パッシート」はアパッシメントしてつくるワインのスタイル
アパッシメントによってつくられるワインを指して「パッシート Passito」と言います。ただし製法の名称として使われることもたまにあります。
パッシートのワインには辛口も甘口もあります。「アマローネ」も「パッシート」の一種ということですが、こう言及されることはありません。「アマローネ」の方が名称としてより知られているからでしょう。
イタリア各地にはパッシートの甘口ワインはいろいろあります。乾燥期間が1か月よりもっと長ければ、より糖度の高い甘口をつくることもできます。
トスカーナ州の「聖なるワイン」を意味する「ヴィンサント」などが有名です。
パッシートに似た「パスリヤージュ」は樹上乾燥
ブドウは樹に実らせたまま放っておけば、やがて乾燥して干しブドウ状になっていきます。そうやって糖度を高めてワインをつくる手法を「パスリヤージュ Passerillage」と呼びます。
主に気候の安定した地域で甘口ワインをつくるために用いられる製法です。風味としてはパッシートの甘口ワインに似ています。
甘口ワインに関してはこちらの記事も参考に
「レチョート」はヴェネト州のパッシートの甘口
ヴェネト州には「レチョート・デッラ・ヴァルポリチェッラDOCG」と「レチョート・ディ・ソアーヴェDOCG」というワインがあります。これはそれぞれヴァルポリチェッラとソアーヴェを甘口に仕上げたパッシート。甘口の赤ワインと白ワインです。
搾りかすではなく干しブドウを追加する「ゴヴェルノ」
「ゴヴェルノ Governo」はトスカーナで伝統的に行われてきた製法で、リパッソによく似ています。違いは搾りかすではなく乾燥させたブドウを発酵後のワインに加えて再発酵させること。
ゴヴェルノ製法によりアルコール度数が上がり、より凝縮した果実味を持ちます。
テヌーテ・ロセッティによれば、加えてタンニンの質がよりしなやかでまろやかなものになるといいます。力強いタンニンを持つサンジョヴェーゼをより親しみやすく楽しむ手法なのです。
陰干しワインをつくる理由
「アパッシメント」によってつくられるワインは、他の産地・他の国にも見られます。イタリアとは全く別の品種でつくられることもあります。
ただそこまで多いわけでもありません。その理由はおそらく気候です。
このリンクはヴェネト州におけるいくつかの都市の平均降水量です。
9~11月の降水量が割と多いのが分かります。
収穫期の雨はブドウ栽培において大きなリスクです。糖度や風味の凝縮感を下げますし、カビがブドウをダメにする場合もあります。収穫を遅くするのがリスクだから、収穫後に乾燥させるのでしょう。
逆に言うと収穫期に雨が降らないなら、収穫を待てば糖度や風味が凝縮していくのです。放っておけばリスクなく遅摘みできます。
気候が安定した産地では、「アマローネ」のような高アルコールの辛口ワインをつくるのに、わざわざ収穫後に乾燥させる必要はないのでしょう。(酸味の点で違いは生じます)
とはいえ干しブドウのワインの魅力は、アルコール度数と風味の凝縮感だけではありません。レーズンのような甘やかな風味は独特のものです。その魅力を味わえるおすすめ銘柄をご紹介します。
干しブドウからつくるおすすめワイン7選
アパッシメントによりつくるワインとして、定番の「アマローネ」からイタリア以外のワインまで、コストパフォーマンスに優れたものをご紹介します。
どれも値段以上の飲みごたえを感じます。それゆえガブガブ飲まずとも満足したいときにおすすめです。「健康のために平日の晩酌はグラス1杯のみで」という場合にピッタリでしょう。
「アマローネ」の風味を味わう入口ワインとして
相場以下の手頃な「アマローネ」として優秀な、ルイジ・リゲッティの看板銘柄。
安い理由は家族経営ながら契約農家からのブドウでそこそこの規模で生産していることと、輸出市場を見据えた競争力を狙って。正当な企業努力によるもので、決して安物の味ではありません。
ヴェネト州伝統の高級酒として、ボリュームのある香りと味わいの力強さを持った豪華な味。パーティー用途にもいいでしょう。
「アマローネ」と地区だけ違う
「アマローネ」と同じヴェネト州産で、主要品種も同じコルヴィーナ。ただし栽培地域として「ヴァルポルチェッラ」を名乗れるところではありません。それゆえ「アマローネ」の雰囲気をリーズナブルに楽しむことができます。
このワインは遅摘みしたうえに1~1.5か月の乾燥を経たブドウからつくられます。それでいてアルコールは14%未満なので、口当たりが強すぎることもありません。
「アマローネ」に似たプルーンのような風味を持ちながら、高級ワインではないので渋味は抑えてつくられています。甘濃く親しみやすい赤ワインとして、昔から安定した人気です。
「干しブドウワイン」の風味をとりわけ手頃に
アパッシメントによるボディ感しっかりと甘濃いワインを驚きの価格で実現している1本。
中部から南イタリアで有名な品種がごちゃ混ぜという珍しい構成をしていますが、品種個性はワインから感じられません。「干しブドウの風味のフルーツ爆弾」。シンプルな美味しさを高く評価されがちなルカ・マローニ誌で98点(99点が満点)という評価がその証です。
バルベーラを使えば甘酸っぱく
ピエモンテ州のブドウ品種「バルベーラ」は栽培の難しいブドウ。しっかりと収量制限をしないとブドウが完熟せず、酸っぱいワインになってしまいます。収量制限はワインの価格に直結します。
パッシートによってその問題を解決しているのがこのワイン。ワインの数値的な情報はもらってないのですが、わずかに糖分を残して仕上げているのではないでしょうか。バルサミコ酢みたいな甘酸っぱさがあり、ヴェネト州のアパッシメントでつくるワインとは一味も二味も違います。
アパッシメントでつくるワインには白ワインもある!
「アマローネ」「レチョート」のイメージから、アパッシメントでつくるワインは赤ワインと甘口ワインのイメージが強いでしょう。でもアパッシメントでボディ感を強化した白ワインもあるんです。
シチリア島の「グリッロ」という品種は、スッキリ軽やかな白ワインになります。それ自体は非常に魅力的なのですが、「南の島」のイメージもあってか夏に飲むワインという印象。それを覆すのがアパッシメントでつくるグリッロです。
完熟フルーツの明るい風味はそのままに、しっかりコクのある味わいは、ちょっと寒い季節にもピッタリでしょう。
リパッソ製法のシラーズは果実爆弾
オーストラリアの多くの地区において、シラーズが完熟するのに困ることはあまりありません。シラーズはもともと果実味もボディ感もしっかりあるブドウ。そこにリパッソの製法を用いれば、さらに果実味が凝縮したワインが生まれます。
一口目から甘濃い果実味がしっかり広がります。そもあってか、メーカーさん曰く試飲販売にとても強いワインであるとのこと。小さな試飲用プラカップでもきちんと魅力が伝わるのです。
となればワイングラスの用意できないアウトドアシーンでも活躍するはずです!
チリで表現する故郷イタリアの味
チリ北部のエルキ・ヴァレーは高温で乾燥した産地。標高の高い畑を選ぶことで、ワインに必要な酸を確保しているようなところです。
となればアパッシメントによる凝縮は必ずしも必要ではないはず。あえてこの製法をとるのは、イタリア人オーナーなりの個性の表現でしょう。
カルメネールは青い風味が出やすくタンニンも強い品種。そのネガティブな要素が上手に隠れているこのワインを飲めば、単に思いつきでつくったものではないことに納得できるでしょう。
チートデイの食卓に干しブドウのワインを
アパッシメントでつくる干しブドウのワインは、アルコール度数が高めでボディ感も豊かな傾向があります。
そういったワインは、繊細でヘルシーな料理よりも、脂肪分高めの濃い味付けな料理とバランスをとります。チーズをたっぷり使った和製イタリア料理などにピッタリでしょう。「料理を引き立てる」というほどではないにせよ、料理とワイン、両方をしっかり味わえるはずです。
だからこそチートデイのワインに。カロリー高く不健康な料理は、背徳感があるからこそたまのご褒美になります。そのお供として、値段の割に甘濃く豪華さがある干しブドウのワインを。
もちろん先述のとおり、量をセーブしたい日の普段飲みとしても適しています。「美味しくて飲みすぎちゃった」には責任を取れませんのでご注意を