オーク樽熟成に由来する香りを強く持つワインは、秋冬にかけてググっと人気が高まります。
赤ワインも白ワインも『リッチ』な印象を持つので、寒い季節に体の中から温まるイメージがあるのでしょう。
樽熟成しているか否かだけでなく、その方法によりワインの風味は様々に異なります。
濃厚な樽リッチワインを好みに合わせて選んで、寒い時期の晩酌をより充実させましょう。
樽熟成で風味はどう変わる?
ブドウを醸造してワインにする過程において、熟成容器の選択はワインの風味に大きな影響を与えます。
その容器として主なものが、ステンレスタンクとオーク樽です。オーク樽熟成することでおこるワインの風味変化。ものすごくシンプルに述べるなら『リッチに』なります。
風味変化はなぜ起こる?
「熟成」という言葉はワインにおいていくつかの意味を持ちますが、醸造においては発酵に続く過程として、数か月から数年の間保管することを指します。温度管理された環境で大きな容器に入れられて保管されます。
熟成中に起こる反応・変化はいろいろあります。その中でステンレスタンクとオーク樽を比較したときに違いが大きい点が、成分の抽出と酸素接触でしょう。
成分の抽出はわかりやすい。オーク樽の木材に含まれる成分がワインの中に溶けだして、香りが付与されるのです。
オーク樽は微量の酸素を通します。木目を通してワインがゆっくりと酸化することで味わいの変化が起こります。特に渋味の感じ方が違います。
樽熟成で香りはどう変化する?
オーク樽熟成によってワインに付与されるのは、ココナッツ、ヴァニラ、クローヴ、炭、アーモンドやキャラメルを思わせる香りだと言われています。
オーク材に含まれており、それぞれの香りのもととなる成分が特定されています。
ここでは具体的な成分名は述べません。詳しくはこちらの記事をご覧ください。
オーク樽由来の香りの中には、甘いニュアンスのものが多いです。だからワイン自体は別に甘くないのに甘そうな香りがするとすれば、それはオーク樽によるものかもしれません。
甘い香りをつければワインが美味しいというものではありません。そこは好みです。
しかしオーク樽の香りが付与されれば、風味は複雑になります。いろいろな香りを感じる『リッチ』なワインになるのです。
樽熟成で渋みはどう変化する?
大まかに言って赤ワインの渋味は樽熟成でまろやかになります。
これはおそらくタンニンが減るわけではありません。
タンニンは「タンニン」という物質があるわけではなく、タンパク質などにくっつきやすい水溶性成分の総称で、ポリフェノールの一種です。
ワインを口に含んだ時、口内粘膜と結合して洗い流すので、歯茎が引っ張られたり口が乾くような刺激になるのです。
酸素と接触することで、ワイン中のタンニンの一部はその結合しやすい性質がなくなる/弱くなります。その一部は澱(おり)となって沈殿します。熟成中に沈殿した澱は瓶詰前に除かれるので、タンニンはある程度減ると言えます。それゆえ樽熟成するの渋味がまろやかになります。
一方でタンニンはオーク材にも含まれており、それが熟成中に溶けだします。だから樽熟成によってタンニンが増えるとも言えるのです。
先ほど「おそらく」とあいまいな言い方をしたのはそのためです。
タンニンというと赤ワインを思い浮かべるでしょうが、樽熟成した白ワインもタンニンを含みます。特にブルゴーニュの高級ワインなどには感じやすいです。渋味というより味わいの骨格として感じられます。
タンニンの少ないワインとまろやかなワイン
渋い赤ワインが苦手なら、タンニンの少ないブドウ品種やタンニンをあまり抽出しない醸造法のワインを選ぶ方法もあります。
ボジョレー・ヌーヴォーはまさに、すぐ飲んで美味しいようタンニンを抽出しない手法でつくられる赤ワインです。
そういったタンニンの少ないワインと、樽熟成によって豊富なタンニンがまろやかになったワインは、口当たりが違います。後者の方が味わいに厚みがあり、飲みごたえを感じます。
よくワインの口当たりは布に例えられます。「シルクのような」「ベルベットのような」などと表されるのがその厚みの違いです。
どちらが優れているというものではありません。樽熟成しなくても口当たり滑らかなワインはあります。
しかちどちらのワインに『リッチ』という表現があてはまるかといえば、樽熟成して厚みのある口当たりのワインでしょう。
ワインスペックを読み解くポイント
ワインは樽熟成している/していないの両極端ではありません。
樽熟成に関する公開されている情報を読み解けるようになれば、未飲のワインに対してもどれくらい『リッチ』なワインなのかを推測できます。
樽熟成のパラメータを知れば、より自分好みのワインを選ぶことができるのです。
新樽と古樽
先ほど述べた樽熟成の効果は、新品のオーク樽に入れた場合が最もワインに強く影響します。2回目使用樽だと大きく効果が落ちて、その後徐々に効果が減っていき、やがて風味を付与する効果はなくなります。
「オーク材の成分が溶け出す」という効果である以上、それが減っていくのは自明の理。その効果がなくなったオーク樽を「ニュートラルオーク」と呼ぶこともあります。
されに木目がワインの酒石酸結晶などの成分で詰まることで、空気を通す影響も弱くなります。それでもステンレスタンクに比べると緩やかな酸化を促すので、あえて古いオーク樽を使い続ける場合も少なくありません。
オーク樽の価格
一般的な225Lの小樽には300本分のワインが入ります。その価格はメーカーによりピンキリですが、およそ9万円と言われています。つまり新樽100%でワインをつくるには1本あたり300円の樽熟成コストがかかるということです。
実際にはオーク樽は1年使って廃棄したりはしません。洗浄して別のワインに使ったり、古樽として販売したりするので、上記のような単純計算にはなりません。しかし新樽熟成はコストが高く、手頃なワインほどその割合が高くなるのは確かです。
実際にはオーク樽は1年使って廃棄したりはしません。洗浄して別のワインに使ったり、古樽として販売したりするので、上記のような単純計算にはなりません。しかし新樽熟成はコストが高く、手頃なワインほどその割合が高くなるのは確かです。
新樽比率は高いほどいい?
新樽熟成したワイン1樽分に対して古樽で熟成したワイン1樽分をブレンドすると、新樽比率50%です。
新樽1に対して古樽3なら、新樽比率25%です。
この新樽比率は高いほどコストはかかります。しかし新樽比率が高いほど美味しいかというとそれは違います。
ブドウ自体が持つ風味の強さ、つまりブドウのポテンシャルとオーク樽の風味のバランスが重要。ブドウ本来の香りとオーク樽熟成由来の香りがちょうどいいバランスで調和する。そのとき素晴らしいワインが出来上がります。
オークの香りが弱すぎても、「果実感がピュアに表れたワイン」となって、高級感に少し欠けるかもしれませんが別に悪いものではありません。しかし樽香があまりに強すぎるワインは、人工的なニュアンスが強すぎて好ましいものではありません。また世界中どこでもつくれるつまらない風味のワインとなりえます。
しかしバランスがカギである以上、そこには個人の好みが存在します。またワイン業界のトレンドも影響します。
しっかり感じる樽香が好きな人もいれば、控えめな樽香が好きな人もいる。飲むときの気分で使い分けてもいいのです。
アメリカンオークとフレンチオーク
樽熟成において味を左右するのは新樽比率だけではありません。オーク樽の材質も重要です。
メジャーなものはフレンチオークとアメリカンオークです。アメリカンオークはウイスキーの世界ではホワイトオークとも呼ばれます。
木材としての性質から、同じ太さの木からアメリカンオークの方がより多くの板を切り出せます。それもあってアメリカンオーク樽の方が安価です。
溶出する成分においては、フレンチオークの方がタンニンを多く含み、アメリカンオークの方が多くのヴァニリンを含みます。ゆえにアメリカンオークで熟成したワインの方が、ヴァニラのような甘い香りを強く感じます。
樽熟成とワインの渋味
先述の通り、樽熟成によってワインの渋味がまろやかになる効果があります。それは古樽よりも新樽の方が強くなります。
また大きなオーク樽より小さなオーク樽の方がより効果が表れます。小樽の方が容量当たりに樽材に触れる表面積が大きいため、酸化の影響を大きく受けるのです。
オーク樽の大きさによる渋味の感じ方を比べたければ、イタリアのバローロに着目するといいでしょう。小樽、ちょっと大きな樽、大樽。生産者の哲学にしたがってそれぞれの樽を使い分けています。「若いうちから楽しみやすい」とされるバローロは、小さ目の樽を使ったり、ある程度の比率で新樽を使っている場合が多いです。
「甘い風味」は好き?嫌い?
特にアメリカンオークの新樽で熟成した場合、ワインに甘い風味を感じるようになります。この甘い風味は、結構苦手とする方がいます。
実際に甘いわけではありません。「甘そう」と感じさせる成分を含むため、甘いと錯覚するのです。鼻をつまんで飲んで味覚に集中すると、まったく甘さがないことがわかります。
ある程度甘い風味があった方が、ワインは親しみやすい雰囲気になります。当店でリピート率が高いワインの多くは、オーク樽熟成による甘い風味を強く感じます。
そんな甘い風味を持つワインを好きだったとて、何も恥じることはありません。ただしそういった風味を「甘ったるくて苦手」とする人もいるということは、頭の片隅にいれておいても損はないでしょう。
数字だけでは語れない
ワインの詳細な醸造情報を調べると、「新樽比率〇〇%のフレンチオークで18か月熟成」のように、熟成についての情報が公開されていることも少なくありません。
しかし熟成の手法は醸造における重要なノウハウです。それを公開しているということは、「この程度が知られたところで、同じように醸造できるわけがない」ということの証拠です。
新樽比率とサイズ・樽材・熟成期間で語れるほど、ワインの熟成は単純ではないのです。
オーク樽の製造業者はどこか。樽材のローストはどれくらいで注文するか。澱引きやバトナージュの頻度は。そういった細かな調整をワインを見極めながらする。ワインのスペック表にあらわれない技術こそ、ワインメーカーたちのメシの種なのです。
だから我々も数字に囚われすぎてはいけません。ワインのスペックはあくまで参考。ワイン選びの指標に使ったとしても、実際に飲んで感じたことを優先すべきです。
なめらか樽リッチな赤ワイン
白ワインと違って赤ワインは、1000円以下の格安ワインを除いてほとんどが樽熟成してから出荷されます。それは白ワインと違って渋味を持つため、渋味をまろやかにする熟成期間が必須ということでしょう。
樽熟成によってヴァニラの甘い風味となめらかで厚みのあるタンニンを備えた、手頃で濃厚な赤ワインをご紹介します。
この価格で新樽100%!分かりやすさ重視の方に
新樽比率100%|オーク材不明
「樽リッチワインといっても今まで意識したことないから、好きかどうかよくわからない」
そんな方はまず、思いっきり樽香が強いものを飲んでみてはいかがでしょうか。もちろん口に合わない可能性があります。だからこそ手頃なもので。
2000円以下なのに新樽100%熟成のこのワイン。本来はタンニンが強いサンジョヴェーゼを見事に滑らかリッチに仕上げています。樽香の甘く香ばしい風味が主体なのが好き嫌いの分かれるところ。樽リッチワインが好きかどうかのリトマス試験紙に。
樽香の香ばしさがお好きならば・・・
新樽比率25%|フレンチオーク
オーク樽は製造工程において内部を火で炙ってローストします。樽熟成による風味の出方には、そのローストの強さも結構影響します。
ロースト具合まで事細かに書かれていることは稀で、このワインについてもデータはありません。なので筆者の所感ではありますが、689セラーズの赤ワインは余韻にスモーキーな香りを持つものが多く、ローストの深い樽を使っているのではないかと予想します。
最初の1杯目からムンムンと香るベリーの香りと樽香。火を通したフルーツのような甘い香りが、チョコレートを思わせるような香ばしい樽香に包まれているかのよう。タンニンは樽熟成によって、渋味というより「厚みと重量感」として感じます。
ボルドーとは全く別物の濃密さ!
新樽比率50%|フレンチオーク
サン・マルツァーノが得意とするワインは「安くて濃くて旨い」もの。主戦場はこのワインよりもう少し下の価格帯ですが、だからこそプレミアムレンジの味わいには目を見張るものがあります。
メルローは本来渋味も酸味もある程度はある品種。そのイメージを裏切るほどのあふれるような果実味と重量感のあるワインで、渋味は完全になめらかになっています。旨安ワインとして好かれる味わいをそのままスケールアップしたイメージです。
春しか飲まないのはもったいない!
新樽比率100%|アメリカンオーク
毎年桜の季節前にリリースされて、その美しいエチケットゆえに人気のシラーズ。このエチケットゆえに「飲むなら春」「それ以外の季節に飲むのはちょっと・・・」と考えがちですが、実はそれもったいないんです。というのもリリースから半年・1年・3年と割と大きく風味の性質を変え、どんどん美味しくなっていくことで知られているからです。
このワインはアメリカンオークの新樽100%で熟成されています。瓶詰からあまり時間がたっていないと、オークの風味とフルーツの風味が別々に、あまりなじんでいないように感じることがあります。それが熟成によって混然一体の風味となったとき、ワインの満足度は1段階も2段階も上がります。
その調和した風味になるまで10年は待てないですが、1~2年でもちゃんと我慢に応えてくれるのがこのワインのいいところ♪
なめらか樽リッチな白ワイン
白ワイン全体からすると、樽熟成しないタイプの方が多いです。
しかし実際に我々が飲んでいる白ワインで考えてみると、中~高価格帯において樽熟成したシャルドネの商品数は圧倒的です。
樽リッチシャルドネならなん十種類と紹介できますが、それだけでは面白くない。他の品種の樽リッチワインもあわせてご紹介します。
甘く芳醇な香りがあなたを誘う
新樽比率50%|アメリカンオークとステンレスタンク
ヴァニラやココナッツのような甘い香りがトロピカルフルーツの果実香とともに豊かに香る。酸味穏やかで飲みごたえのあるリッチな白ワイン。非常に多くの銘柄がある2000円台の価格帯の方が、案外このイメージに外れるものが少ないんです。
「ロバート・パーカーの時代に流行った、一昔前のスタイル」
「アルコールが高くてその土地の個性が表れていない」
そう批判的にとらえる人もいますが、結局こういうワインがよく売れているんです。それだけ好んで飲む消費者がいるということ。
もちろんカリフォルニアのシャルドネはこういったタイプばかりではありません。甘い香りもアルコールも抑制的でエレガントなものもたくさんあります。ただ、そういったものは5000円超えてこないとなかなか見かけません。
樽香の好みで伸るか反るか
新樽比率90%|フレンチオーク
ソーヴィニヨン・ブランは世界各地でつくられていますが、オーク樽熟成、しかも高い比率の新樽熟成を行うところは多くありません。ボルドーとナパ・ヴァレーのごく一部でしょう。
樽熟成による酸素接触で、「かんきつ系の風味を持つフレッシュな白ワイン」という個性はなくなってしまいます。だからボルドーでも低価格帯のものはステンレスタンク醸造が多いです。そのなかで異彩を放つのがこのワイン。
こってりと効いた樽香は、好きな人にとっては「この価格で!?」と喜ぶ要素であり、苦手な人にとっては「木の味が強すぎる」と感じるでしょう。果実と樽香のバランスは「良くない」といってもいいはず。でもバランスとは好みに左右されます。樽リッチ好きのあなたにとっては、コスパ抜群のワインとなるかも?
シャルドネに勝るアロマの華やかさ
新樽比率17%|フレンチオークとハンガリーオーク
シュナン・ブランは樽香を感じるタイプ/全く感じないタイプどちらでもハイグレードなワインをつくることができます。多いのは樽香なしのタイプで、樽リッチなシュナン・ブランを多く見かけるのはここステレンボッシュくらいでしょう。
ステレンラストは周りの生産者に比べてシュナン・ブランの収穫が遅く、ワインからハチミツのような甘い香りをよく感じます。もともと持つ花の香りともあわせて、樽熟成由来の香りとも親和性が高く、複雑さと厚みを持ったワインに仕上がっています。
焦点の定まったメリハリのある味わい
新樽比率39%|オーク材不明
南アフリカもカリフォルニアと同様、安くて美味しい樽熟シャルドネがたくさんつくられています。
違いを挙げるとするなら、おおよそ5000円以下の価格帯においては南アフリカ産の方がキュっと締まる酸味を持つこと。これはカリフォルニアの方が温暖だということではありません。どちらも温暖な地域から冷涼な地域まで様々な気候の生産地を持ちます。ゆえにその傾向の違いは市場の好みだと考えます。
南アフリカのワイナリーのオーナーはほとんどヨーロッパ系移民です。食生活もヨーロッパ的なものが多いでしょう。ワインの味づくりもヨーロッパのテイストに合わせているのを感じます。
またヨーロッパと時差がないのでバカンス先として人気で、観光客が国内で消費する量はバカにできません。
このシャルドネは新樽比率が高いのである程度樽香の甘さは感じます。しかし高い凝縮度を支えるようにやや高い酸味を持っていて、それが味わいをメリハリのある立体的なものにしています。まさに焦点の定まったワイン。よくできています。
濃厚樽リッチワインで適量の晩酌を
凝縮度が高く重量感のある樽リッチワインと、軽やかな口当たりやスッキリ系のワインでは、後者の方がついつい飲む量が増えてしまうでしょう。樽リッチワインはアルコール度数やや高めであることが多いですが、たくさん飲んだ方がたいていはアルコール摂取量は多いです。
これから年末にかけて、仕事が繁忙期を迎える職種の方も多いでしょう。晩酌をたのしみつつも、明日のために量をセーブしたい日もあるのでは?
濃厚なワインは少量でもしっかり満足できます。「今日は2杯までにしておこう」という自主規制をより守りやすいはずです。
寒くなって汗をかかない季節は、体が求めている飲み物のタイプも変わってきます。季節とシチュエーションに応じて自分にピッタリのワインを選ぶため、この季節は樽熟成に注目してワインを選んでみてはいかがでしょうか?