青カビチーズのひとつであるゴルゴンゾーラの美味しさは、ワインでより引き立ちます。
ただしなんでもいいわけではありません。クセの強いチーズなのでその組み合わせもシビアです。
同じ青カビチーズでも、種類が変われば相性のいいワインも変化します。
なんとなくじゃない、明確な「あう」を見つける考え方をご紹介します。
YouTubeでも紹介しております。
チーズは基本、ワインにあわない
世間のイメージほど、ワインとチーズの相性は良くありません。1000円程度のいささかバランスの良くないワインを飲むならいざ知らず、とっておきのワインにはチーズはもったいない。ワインの味わいを感じ取る邪魔をする。
ワインの専門家でありワインショップ店員の立場として、私はそう主張します。
「基本的にチーズとワインはあわない。でも中にはとびぬけてあう組み合わせもある」こう考えてください。
主張の根拠についてはこちらの記事をご覧ください。
熟成したナチュラルチーズの中にはあうものもある
「ワインの味を感じ取る邪魔をする」その代表格がプロセスチーズです。風味の個性が弱い、安価で賞味期限の長いチーズです。
プロセスチーズはナチュラルチーズを原料に加熱処理してつくります。熟成が進まないので、個性的な風味は弱いのです。
一方でナチュラルチーズの中には熟成させてつくりチーズもあります。その熟成方法によりいくつかに分類することができ、その1つが青カビチーズ、ブルーチーズです。
ナチュラルチーズだからワインにあうというわけではありません。ナチュラルチーズを熟成させるから強い風味を獲得し、強い風味があるからそれを引き立てることができるワインにあうのです。
「風味をひきたてる」には強さが必要
ワインと料理の美味しい関係、いわゆる「マリアージュ」や「ペアリング」には、ある程度の風味の強さが必要です。
ワインと一緒にバケットを食べるのがお好きな方はたくさんいらっしゃるでしょう。「ワインにバケットがあう」というフレーズは目にしたことが何度もあります。
しかし「バケットにあうワイン」というのは聞いたことがありません。バケットと一緒にとあるワインを飲むことで、バケットの風味がより引き立つ。そうなるほどの強さの風味がないからです。
だからきっと「白ご飯にあうワイン」や「そのままの冷ややっこにあうワイン」も無理です。
その点でプロセスチーズは、乳脂肪の味と塩味くらいしかないから、引き立てるものが難しい。チーズに何か具材を混ぜることでワインに近づけることは可能でも、チーズ自体は寄り添ってくれないのです。
しかしブルーチーズには強烈な風味がありますよね。臭いチーズの代表です。これならあわせることが可能です。
青カビチーズとは
青カビチーズとは、ナチュラルチーズを熟成させる際に青カビを繁殖させたものです。
風味が強烈で塩味も強く、クセのある味わいなのが特徴です。
その分、チーズの旨味は非常につよいタイプです。
青カビチーズの製法
青カビチーズの作り方は、簡単に述べると以下の通り。
原料となる生乳を加熱殺菌し、乳酸菌や酵素(レンネット)を加えます。するとタンパク質が凝固します。
これを乳清(ホエイ)と分離すると豆腐のような塊になります。「カード」と呼びます。
多くのナチュラルチーズは圧搾によりこのカードを目的の形に成形します。
しかしここがブルーチーズが他とことなるところ。きっちり固めてしまうとチーズの内部に空気が入らず、カビが繁殖するのが表面だけになってしまいます。そこでカードをあまり固めず、粒をバラバラにした状態で成形します。
熟成中は針や金串で空気を通るようにします。
このため出来上がったブルーチーズは比較的もろく、崩れやすい質感です。
毎日少しずつ塩をすりこむので、塩分濃度が他のチーズよりも高めです。
熟成期間は数週間~3か月程度。賞味期限はせいぜい1,2週間で、独特の臭さは強くなります。
青カビチーズの代表銘柄
何といっても一番知名度が高いのは、「ゴルゴンゾーラDOP」でしょう。ロンバルディア州にゴルゴンゾーラ村があり、そこが発祥。州の堺の近くにあり、ピエモンテ州側でもつくられます。
塩味が強くピリッとシャープな味わいの「ピカンテ」と、青カビのクセが控えめでクリーミーな「ドルチェ」の2タイプがあります。
スティルトンはイギリスのブルーチーズで、「スティルトン」も町の名前です。まるで大理石のように白いチーズに走る青い稲妻模様が美しい。青かびチーズ特有の風味が強く現れます。
「ロックフォール」はフランスのブルーチーズで、ピレネー山脈のあたりでつくられます。羊のミルクをつかってつくられるのが他との違いではありますが、青カビが羊乳の脂肪酸を分解するため、羊乳独特の臭いはありません。その代わり青カビの鋭い風味と塩味の強さがあります。
この「ゴルゴンゾーラDOP」「スティルトン」「スティルトンAOP」をあわせて、世界三大ブルーチーズと呼ぶそうです。どれも青カビの風味は強めです。
もし青カビの風味がそこまで強くないものから入門したければ、「フルムダンベール」を選ぶといいでしょう。フランス中南部にあるオーヴェルニュ地方のチーズで、青カビの刺激や塩味が穏やかなマイルドな味わいが特徴です。
チーズにあうワインの探し方
ワインと料理の相性において、「同郷のものは相性がいい」という定説があります。チーズも同じ。闇雲に相性のいいものを探すより、チーズの生産地からその土地の伝統ワインに目星をつけると、ワイン選びの手助けになります。
今回メインでご紹介するゴルゴンゾーラチーズの生産地は、イタリアのピエモンテ州とロンバルディア州です。
ゴルゴンゾーラにあうワイン
今回は実際に百貨店で買ってきたゴルゴンゾーラ・ピカンテといくつかのワインをあわせてしました。阪急百貨店で100gあたり1800円でした。
あわせて美味しいならどう美味しいのか。美味しくないならなぜだめなのか。その理由もあわせて考察していきます。
【GOOD!】ゴルゴンゾーラにあう「バローロ」
バローロはピエモンテ州の銘醸ワイン。ネッビオーロ100%でつくられる、上品でタンニンの多い、熟成ポテンシャルが素晴らしく高いワインです。
その典型的な味わいでありながら値段が高すぎないものとして、カッシーナ・グラモレーレのバローロをあわせてみました。
結果としては抜群!
ゴルゴンゾーラの強烈な臭さ。チーズがまだ口に残っているうちにワインを飲むことで、不思議とその臭さが気になりません。かといってワインがチーズを打ち消しているわけではなく、ゴルゴンゾーラの旨味はしっかり長く感じます。
チーズと合わせることでやはり強い渋みは緩和されます。これをプラスにとるかマイナスにとるかは難しいところですが、飲み込んだ後にもきちんとバローロの風味を感じるので、「お互いを引き立ている」と言えるでしょう。
飲み込んだあとのワイングラスの臭いを嗅いでみてください。チーズを食べた口が触れたところはめちゃ臭いです。それが自分の口の臭いであるはずなのですが、ワインを飲んだらそれをあまり不快に感じないんです。
この銘柄を選んだ理由
当店のバローロのランナップはそこまで厚くはないです。とはいえもう少し安い銘柄もあります。ただ、それらはバローロでありながら果実感や樽の甘い風味を少し感じるんです。低価格帯のバローロとして親しみやすさを求めるなら、正解な味づくりではあると思いますが、典型ではないとして外しました。
「バローロらしいバローロ」として探せばもう少し安いのがあるとは思います。それでも4000円は超えてくるかなと考えます。
【GOOD!】ゴルゴンゾーラにあう貴腐ワイン
ゴルゴンゾーラに限らず、極甘口の貴腐ワインはブルーチーズによくあいます。
ただし貴腐ワインは味がかなり強いので、一度に多く口に含むとチーズの味をかき消してしまいます。意識してちょっとだけ口に含むといいでしょう。私は食べたチーズと同じ体積だけ口に入れるイメージを持っています。
今回はクラッハーの貴腐ワインを選びました。
この相性も素晴らしい!
ゴルゴンゾーラの旨味と塩味。ワインの甘味と酸味。それぞれの要素がより鮮烈に印象づきます。よりメリハリのある味わいに感じるのです。
イタリアンレストランなどでチーズプレートを注文すると、はちみつが添えられていることがあります。ブルーチーズにはちみつを付けて食べると美味しいですよね。そのはちみつの代わりにはちみつみたいな味わいの貴腐ワインを飲むイメージです。
この銘柄を選んだ理由
世界中でいろいろな貴腐ワインがつくられるなかで、クラッハーのこの1本を選んだ理由。忌憚なく述べると量と値段です。
検証にはそれほど量を必要としないので、1/4ボトルにあたる187mlの小瓶がちょうどよかったのと、2000円ちょっとの価格です。
だから他の貴腐ワインに置き換えることも十分可能でしょう。しかしあまり安くしすぎると凝縮感でゴルゴンゾーラと釣り合わないことがあります。
目安としてハーフボトルで4000円前後かそれ以上と考えるといいでしょう。
【BAD】ゴルゴンゾーラにあわないソーヴィニヨン・ブラン
あうワインばかり検証しても信ぴょう性が薄れるかと、あわない組み合わせもご紹介します。
とはいえ「ゴルゴンゾーラに対してあわない」となるとしたら、原因は明白。ゴルゴンゾーラの風味の強さに対してワインが弱い場合。風味の強さにおけるアンバランスです。
他のチーズとの相性を検証する際に用いた、ロワールのソーヴィニヨン・ブランで試してみました。
結果としては「ワインがもったいない」。
チーズを食べてワインを飲む。飲み込んだ瞬間から口の中はゴルゴンゾーラ一色です。ワインも酸っぱさが目立って香りはまず感じられません。
ハッキリとワインを殺してしまう組み合わせです。
【BAD】ゴルゴンゾーラにあわないグレコ・ディ・トゥーフォ
もう一つ同じように爽やか系の白ワイン。別のチーズとの相性を検証するために開けたものです。
こちらもやはり「ワインがもったいない」。
爽やかな風味の魅力を、ゴルゴンゾーラの刺激的な香りが完全に塗り消してしまっています。
広げて考察するブルーチーズにあうワイン
ゴルゴンゾーラにバローロをあわせるのも貴腐ワインをあわせるのも、別に私が考えたわけではありません。昔から相性がいいとされる組み合わせをなぞっただけです。
それでは情報として価値がないので、この2つの好相性の理由はどこにあるのか、考察していきます。
なぜ美味しい?ゴルゴンゾーラとバローロ
「同郷のワインとチーズは相性がいい」とは言いますが、それは「相性がいいからその組み合わせが選ばれて残った」のです。同郷"だから"美味しいというのは違います。
同じ産地から探すというのは、相性のいい組み合わせを見つけるヒントになる。でもそこで思考停止するのではなく、「どうして相性がいいのか」を考察しなければ。そうすれば応用ができるはずです。
どうしてゴルゴンゾーラとバローロは相性がいいのか。おそらく互いが持つ「強い刺激」が同調したのでしょう。「似たもの同士は相性がいい」理論です。
ゴルゴンゾーラのピリっとくる刺激と強い風味。バローロのタンニンの刺激。この二つが同じ方向を向いていたから。
だから余韻にお互いの風味を感じるような、寄り添う組み合わせとなったのではないでしょうか。
「試してみたいけど、渋みの強いワインは苦手。チーズ食べきっちゃった後、美味しくのめるか不安」
そんな方は渋みを弱くするよいうより、果実味も強いワインを選んでみましょう。おすすめはナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨン。甘濃い果実味に包まれた渋みは、それほど尖って感じません。
例えばこのあたり。
ゴルゴンゾーラチーズ単体でも美味しいですが、例えばステーキやパスタのゴルゴンゾーラソースのように料理としてあわせてもいいでしょう。
なぜ美味しい?ゴルゴンゾーラと貴腐ワイン
ブルーチーズと貴腐ワインのマリアージュは、典型的な「補完のマリアージュ」だと言われています。
人間の舌で感じる五味。甘味・酸味・塩味・苦味・旨味。このうち苦みを感じるのはネガティヴな反応であることが多いので、その他の四味。それが同程度の強さでしっかり感じられると、「美味しい」の感情があふれ出してきます。きっと人間に必要な栄養をバランス良く摂取することに体が喜ぶのでしょう。
塩味と旨味は他のナチュラルチーズも持っています。だから貴腐ワインを他のチーズとあわせても、口に含む量を少なくしてバランスを調整したらそこそこ美味しくいただけます。ただし旨味や塩味の強さは控えめな分、鮮烈な美味しさはブルーチーズほど感じないでしょう。
他にゴルゴンゾーラにあうワインは?
強い風味のゴルゴンゾーラにバランスがとれるのは、ワインではフルボディの赤ワインか極甘口のデザートワインくらいでしょう。
フルボディの赤ワインといっても、果実味主体で渋みや酸味が弱いものは、おそらく負けてしまいます。ゴルゴンゾーラの刺激と釣り合わないのです。
デザートワインでもアイスワインは避けた方がいいでしょう。アイスワインは風味が貴腐ワインに比べてシンプルな傾向にあります。ゴルゴンゾーラの風味に負けてしまうと予想します。
もし他にあわせるお酒を提案するなら、ポートワインやマディラのような酒精強化ワイン、あるいはジンなどの蒸留酒の方が可能性があるでしょう。
もっと手ごろなブルーチーズにあうワインは?
ブルーチーズにもいろいろあります。DOPやAOPでないブルーチーズなら、スーパーなどでも入手できますし手ごろです。
ゴルゴンゾーラなどのブランドチーズと比べたとき、やはり旨味の強さで劣ります。だから塩味がやや尖って感じるものが多いです。
そういったものとあわせるなら、ワインのグレードも少し下げるくらいがいいかもしれません。例えば甘口ワインだけど貴腐ワインではなく、風味のシンプルなものを選ぶ。
このワインは1/3が貴腐ブドウではないため複雑味では劣りますが、それでも2000円台半ばで楽しめるのは秀逸です。
立場の違いによる記述の違い
今回私はあわせたワインについて具体的な銘柄を記載しています。
これはワインの通販ショップという立場であるからで、もし同じ組み合わせを試したければ日本全国どこからでも購入いただけるからです。
一方でチーズの種類やブランド名は記載していますが、「〇〇という生産者がつくるゴルゴンゾーラ」とは記載していません。
当店はチーズの販売はしていませんので、お近くのチーズ売り場か通販にて購入いただかないといけないからです。そのとき、具体的すぎる指定をすると、「これじゃなきゃダメなら、試してみるのやーめた」とならないでしょうか。
チーズ業者の「相性のいいワイン」はあいまい
チーズの専門店のホームページには、各地のブランドチーズについて非常に詳しく紹介されているものもあります。この記事を書く上でも大変お世話になりました。
しかしワインの専門家の立場からすると、紹介されている「相性のいいワイン」の記述には不満を感じます。例えば「辛口の白ワイン」「フルボディの赤ワイン」のように、非常におおざっぱな紹介しかない場合がほとんどだからです。
ドイツのラインガウ産でキュンとした高い酸味を持つ辛口リースリングも、ナパ・ヴァレーのカーネロス地区産で樽香しっかりアルコール14.5%のボリューミーなシャルドネも、チリ産500円のソーヴィニヨン・ブランもすべて「辛口の白ワイン」です。
「あわせるワインはこのどれでもいいよ」って、信じられますか?
あいまいさも止む無し
しかし、これも仕方のないところがあります。
チーズショップはチーズ好きの方に買ってもらわなければ、売り上げがたちません。そのチーズに興味を持っている閲覧者にとって、「相性のいいワインはバローロ。ただし果実味や樽香が強すぎず、ヴィンテージプラス5~10年くらいのそれほど古くないもの。」のような情報は有益でしょうか。「え?難しい!なんかよくわからないからやめておこう」ってならないでしょうか。
だからチーズを販売する立場の人にとってみれば、あわせるワインは「私でも用意できそう」「いつも飲んでいるものでいいんだ」のように、心理的ハードルを下げる方が正解。決していい加減に書いているとは言い切れません。
ただし「白カビチーズにはスッキリとした白ワインがあいます」なんてチーズもワインもあいまいなのはいただけませんね。実際に検証していないのに、頭の中の想像で書いているのがバレバレです。
再現性の高い「チーズとワイン」
「●●には~~~のワインがあう」
情報化社会において、そういった情報は無数にあふれています。
中には書き手が頭の中だけであわせた信用度の低い情報もあります。しかし信頼度の高い媒体できちんとした立場の人が提案するマリアージュは、本当に美味しいです。
ただしその料理を自分が再現できるかは別問題。近くのレストランなら食べに行けば味わえますが、距離があればそうもいきません。
だからそういった組み合わせを紹介されても、「ふ~ん、美味しそうだな~」で終わってしまいます。
しかしチーズに関しては再現度が高いです。
ワインは通販で同じものが手に入ります。ゴルゴンゾーラは割と安いものもあるので、ひょっとすると価格により味の差があるかも。でも今回用いた100gあたり1800円に近いものを買えば、そうそう大きな違いはないでしょう。
チーズとワインは簡単に同じ組み合わせを体感することができます。
だからこそ本当に美味しいものだけを紹介しています。「やってみたけど美味しくなかったぞ!」と言われるのはイヤですから。
チーズとワインの記事は、今回の青カビに続いて、白カビ、ハード、ウォッシュ、シェーブルと続ける予定です。ぜひ続けてご覧ください。