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生産者規模と関係するワインの味わいとは みんな大好きマーケティングワイン

2024年10月10日

生産者規模と関係するワインの味わいとは みんな大好きマーケティングワイン
 
2000本つくるのか100万本つくるのかで、目指すべきワインの味わいは大きく違います。ならばその生産者の規模を知ることで、味わいの傾向を推測することができるでしょう。ワイナリーごとの成り立ちや販売戦略によって、目指す方向性は変わるからです。生産者の背景とワインの味をリンクさせて捉えれば、ワインのウンチクがもっと面白くなること間違いなしです。
 

醸造家が目指すところ3パターン

 
価値観は人それぞれで千差万別であるように、ワイン造りの方針は生産者によりけり。そこに正誤も優劣もありません。
とはいえいくつかのグループには分けられるのではないでしょうか。私は次の3つと考えます。
 

生産者が目指す方向性

醸造家個人やワイナリーの「理想とするスタイル」を守る
土地やヴィンテージの個性、テロワールを表現する
消費者が求める味に近づける

 

 
この違いが出るのは「美味しいワイン」の定義が極めて難しいからです。
 
 

「美味しいワイン」をつくる難しさ

 
「美味しいワイン」ってどんなワインですか?即答できるものではありません。
 
ワインは飲み物であり嗜好品なのですから、美味しいに越したことはありません。でもその「美味しい」を定義するのが難しい。
消費者ならば「美味しい=自分の好き」でもいいでしょう。でも売り手側、造り手側としてはそんな簡単ではない。好みは人によって違い、また経験によっても変わっていくのですから
自分が好きな味につくるのは、極論自分と異なる味覚を持つ人に「不味い」と言われる覚悟が必要です。
 
 
個人経営の小規模ワイナリーなら、そこまで深く考えなくてもやっていけるかもしれません。しかしチームで醸造をするような大規模ワイナリーなら、醸造家間の意思統一は必須でしょう。
 
 

理想とする「美味しいワイン」を目掛けて

 
ワイン好きが高じてオーナー醸造家として独立する。そんな生産者もたくさんいます。きっとそのような人には、「こんなワインを自分も造りたい」と決意するような、理想のワインがあるはず。言葉として表現するか否かは別にして、「こんなワインが良いワイン」というイメージがきっとあるのでしょう。
 
 
そうしたワイナリーが発展して代を重ねると、「伝統の味」というものが形成されてきます。100年200年と続くうちに、「伝統の味」を守るのが使命となるでしょう。醸造家個人の好みより優先されるはずです。
例えばボルドーワインやシャンパーニュのように複数品種をブレンドし、しかもその比率をヴィンテージで変えるワイン。そのブレンド比率はどうやって決めるのでしょうか。個人の「美味しい」で考えてはどうにもならない。「うちはこういう味」というイメージなり哲学があり、それに近づくようブレンドしているのでしょう。
 
 

「テロワールを表現する」とは

 
例えばブルゴーニュの生産者の中に時折みられます。
「きっとこの人、美味しいワインをつくろうとはしていない」
では何を目指すかというと、その畑や土地、ヴィンテージの個性をワインに表現することです。小規模ながら多種類で、オンリーワンのワインをつくろうとする生産者がこのようなことを口にします。
 
  
単一畑やもっと小さい単一区画のブドウを使い、他のワインと同じように醸造する。そうすれば「ワインの違いは畑の違い」と言える。去年と味が違うのは、「ヴィンテージの個性」と言える
だから自分の理想とする味に近づけるために、あれこれテクニックを使うのは良くないと。
 
必然ワインは少量生産となるため、人気のものは価格が高騰しやすい傾向です。
 
 

勝手につくった言葉「マーケティングワイン」とは

 
今どんなワインがより多くの消費者に求められているのか。多くの人が「ちょうどいい」と感じる凝縮感・酸味・渋味の強さはどれくらいか。この味と価格ならば他社製品と比べて選んでもらえるかどうか。
 
そういった消費者の好みを考えて、あるいは調査してワインのコンセプトをつくる。それに合わせて原料を調達し醸造法を決める
そんなマーケティングに基づいた方針でつくるワインを、私は「マーケティングワイン」と呼んでいます。「コンセプトワイン」と言ってもいいかもしれません。
 
一応Googleで検索して3ページ分くらいヒットしなかったので、一般に使われている言葉ではありません。
 
 
私が一番「マーケティングワイン」だと考えているのは、チリの生産者「コノスル」です。
コノスルは理想とするワイン像のようなものを持っていないと言います。上記のとおり求められる味と価格を調査して、それに近づけていく。その姿勢だからこそ短期間でこれほど巨大な企業へと成長したのです。
 
悪い言い方をするなら「売れるワインをつくる」です。こう書くとワイン好きのみなさまは、あまりいい印象は持たないですよね。
でもお客様が求めるものを提供するのは、商売の大原則であり基本です。基本に忠実な企業が成功するのは当然と言えます。
 
 

3つの要素のどれが強いか

 
上記の3つの方針は、きっちり分けられるものではありません。
 
「理想とするスタイルを目指す」と言っても、全く突飛なものはそうそう造れません。基本はその土地や品種の特徴を反映した味わいですし、ヴィンテージの特徴も出ます。その上で「周りのワイナリーと比べたとき、一貫した特徴はあるか」という話です。
 
「テロワールを表現する」と言っても、著名な生産者はみな確かな栽培・醸造技術を持っています。ある程度の「高品質なワイン」という枠組みの中で個性が表現されるようコントロールしています。
 
 
明確に「この生産者はこのタイプ」と分類はできません。しかしそのワイナリーの情報から読み取れることはたくさんあります。設立された経緯や、オーナーと醸造家・コンサルタントなどの来歴、生産形態やラインナップなど。
それらはワインの味わいの方向性に影響しています。特にカギとなっていると考えるのが、年間生産本数です。
 
 

大規模ワイナリーを発展させ続ける難しさ

 
ワイナリーが成長を続けていくには、生産規模を拡大しつつワインが売れ続ける必要があります
年間生産量が10万本か1000万本なのかは、ワイナリーの方針が大きく違います。
 
 

家族だけの小規模生産者なら

 
一般的に所有する畑が10haなら小規模ワイナリーと言っていいでしょう。仮に単位面積当たりの収穫量を60hl/haとするならば、年間生産量は8万本です。1本1000円で出荷したとしたら、年間売り上げは8千万円です。
ワイナリー経営の内訳まで私にはわかりませんから、製造コストがどれくらいかかり、税金でどれほど持っていかれるのか詳しくはわかりません。しかし家族経営なら生活できない数字ではないはずです。
 
仮にあなたが35歳の時にワイナリーを始めて、65歳まで働く計算をしていたとします。30年間で240万本のワインをつくる計算です。
 
 
一度飲んで気に入らなくてもう飲んでくれない人もいます。何度か買ってくれる人もいます。種類を増やせばいろいろ飲んでくれるかもしれません。仮に一人当たり平均4本飲んでくれたとしましょう。
そうすれば60万人に手に取ってもらえれば、あなたの生活は安泰なわけです。世界80億人の中の60万人です。単純計算1万人に1人にしっかりと「美味しい!」と言ってもらえれば十分なのです。
 
これなら「自分の好きな味」を追求しても、それを実現できたなら成り立ちそうではないでしょうか。
 
 

大規模生産のメリット

 
食品にせよ工業製品にせよ、基本的には大量生産・大量販売した方が利益は出やすいです。
小規模で始めたワイナリーで利益が出たとして、それを投資に回し規模を拡大すれば、次のようなメリットがあります。
 

大規模生産のメリット

  • ワイン1本あたりに換算する設備投資額が小さくなる
  • 資材の調達でスケールメリットが生まれる
  • 醸造家やコンサルタントを雇用して品質を上げやすい
  • 広範囲からブドウを調達することで味が安定する
  • マーケティングにお金や時間を使える
  • 輸出業者・消費国の輸入業者に対して交渉が有利

 

 
小規模な家族経営ではできなかったことがいろいろ可能となります。
大雑把に言うなら、規模を拡大することでより「安くて美味しい」ワインがつくれるようになるでしょう。
 
 

大規模生産の難しさ

 
もちろん規模を拡大することは言葉で言うほど簡単ではありません。
 
その一つは品質を保ちながら生産量を増やす難しさです。
生産量を増やすには、自社畑を増やすかブドウを購入するどちらか。前者なら畑を取得し従業員を雇って栽培を管理するのが大変です。既にあるブドウ畑ならすぐにワインを造れますが高価。新しく開墾するなら収穫できるのは4~5年後以降です。
たいていは後者。ブドウ農家と契約して購入しますが、高品質な原料を手に入れるには目利きとコネが必要です。
 

 
たとえ高品質にたくさん造る難しさを乗り越えたとしても、たくさん売る難しさが待っています。
 
 

「市場の飽和」とは

 
「知っている・飲んだことがある」というのは、ワインを買う理由にも買わない理由にもなり得ます
もちろんそれは他の飲み物・食べ物についても言えますが、ワインはより「買わない」理由として働くことが多いと考えます。
 
それは他のお酒に比べてワインは種類が圧倒的に多いからです。選ぶ面倒くささと楽しみが両方あります。数あるお酒の中でワインを好んで飲む人は、次々に飲んだことのないものを楽しむことに価値を感じる方が、どちらかといえば多いと考えています。
 
 
一時は「安くて美味しい!」と人気になった銘柄が、やがて飽きられていく。そのスピードは他のお酒より速いかもしれません。
決して品質が下がったのでも、他により優れたものが現れたのでもない。「これは飲んだことがあるから他のワインにしよう」というだけ。
 
これはいわば「市場の飽和」です。
 
先ほどの例の年産量8万本では、市場の飽和はまず起きないでしょう。ほとんどの人はその銘柄を知らないまま一生を終えます。
一方で生産量が2桁多いならば。100人に一人は飲んで欲しいとしたら話は変わってきます。なにせ世界80億人の中には、お酒を飲めない子供も飲まないイスラム教徒も含まれます。
100人の中でワインを飲む習慣があり、その人にとって価格がちょうどよく、味を気に入ってリピートしてくれる人。そうなるとマーケットは割と小さいのかもしれません
 
 

ブランドの乱立と「顔の見えないワイン」

 
市場の飽和に対する対策の一つがブランドを分けることです。
 
例えばこの5本
 
全てつくっているのは「シャイド・ヴィンヤーズ」というカリフォルニアのワイナリーです。自社畑はなんと2000haもあるそうです。先ほどの例とはまさに2桁違います。決して単一ブランドで販売しきれる数ではありません。
様々なブランドを展開することで、多くの価格帯・客層にアプローチできるように図っているのです。
 
 
こちらもカリフォルニアの生産者で「フィオール・ディ・ソル」。ワインのどこを見てもそんな名称は書いてありません。
 
 
全てのワインを飲んだ上で、私はつくっているところが同じことを知りました。ワインになんとなく共通点があり、深く納得したものです。
 
これらのワインは総じて「コスパ抜群!」「旨安ワイン」として紹介されますし、私もそう感じます。ただし輸入元の紹介を見ても、生産者に関してはあまり語られません。
生産者の顔の見えないワインなのです。
 
 

生産者規模と味の方向性

 
こういった大規模生産者がつくるワインは、ブランドを分けた上でなお単一銘柄が膨大な数量です。
それゆえに限られた層ではなく幅広い消費者層に好かれる味であることが求められます。また幅広い層に届くチャネルで販売しやすいワインであることも求められます
 
 

嫌われにくい味とは

 
全ての人に好かれる味のワインはありません。一方であまりワインを飲まない人に嫌われやすい味なら定義できるでしょう。
 

嫌われやすい味

  • 雑味や不快な風味
  • 赤ワインの強い渋味
  • 高すぎる酸味
  • 熟成ワインの風味

 

 
こういった味わいを抑えることで、ワイン通だけでなく多くの消費者に嫌われにくいワインになります。
ドライすぎるのもあまり好まれないので、わずかに糖分を残して醸造されることも多いです。
 
 

多くの消費者が求める「マーケティングワインの味」

 
上記の嫌われにくい味の範囲で、なるべく多くの消費者に「美味しい」と言ってもらえるよう、好かれやすい味を追求します。
その点でヴァラエタルワイン、ブドウ品種名を表記したワインは有利です。「Chardonnay」と書いたワインを選んで手に取る人の頭には、「シャルドネのワインはこんな味で美味しそう」というイメージがあるはずだから。そのイメージに近いものを提供できれば満足してもらえるからです。
 
 
単一品種でつくる場合も、様々な地域のブドウをブレンドするのが普通です。ゆえに畑に由来する個性的な風味は平均化され、品種自体の特徴と地域全体の特徴がぼんやりと表現される傾向です。そのワインを特徴づけるような個性的な風味はありません。イメージ通りの代わりに他のワインでも替えが効きそうな味です。
 
 
期待通りである代わりに、想像は超えない。飲まずともある程度味が想像できてしまうから、驚きやワクワクは小さい。その代わりに同じくらいのスペックで同じくらいの濃厚さのワインで比較したとき、安い
 
これがマーケティングワインの特徴だと考えます。
 
 

変化とブレの少ない安定した

 
こういったワインは大量生産されるため、味のブレが少ないです。ボトル差があまりありません。
また時間変化も少ないです。開けたてから味わいのピークであり、開くのを待つような小難しさがありません。
 
いつ開けても何本開けても期待を裏切らない
その安心感は同時に「単調でつまらない」と感じることもあり得ます。ただ、単調に感じる人は様々なワインをこれまで飲んできたワイン上級者であるはずです。
 
 

バックラベルに現れる流通経路の狙い

 
ワインショップや高級レストランなら、ソムリエや専門スタッフが説明して販売します。
ほとんどのスーパーでは、専門家が常駐することなんてありません。消費者は勝手に棚から選んで購入します。
 
ワイン専門店だけに流通させたいのか、それともスーパーマーケットにも卸してたくさんの人に手に取ってもらいたいのか
ワインのバックラベルにその意図が現れているように思います。
 
 
例えばこの2本。バックラベルでしっかりと紹介されている左側に対し、輸入元シールのみの右側。
もちろんこの限りとは言いませんが、明らかに流通経路を考えていることがうかがえます。
 
日本においてワインの購入場所の第1位はスーパーマーケット。これは圧倒的です。これは海外でもそう大きく違わないでしょう。多くの消費者に大量にワインを販売したいと考えるなら、スーパーマーケットで勝手に売れていくことがマストなのです。
 
 

高級ワインにほとんど見かけない「VEGAN」認証

 
大量生産される手頃なワインほど、ヴィーガンやサスティナブルの認証がついていることが多いです。これもより多様な価値観を持つ消費者にアプローチするための意図です。
 
例えばヴィーガン認証。ブドウが原料のワインにとって、ヴィーガン認証をとるには清澄剤に卵白やゼラチンを使わず、代わりにベントナイトを使えばいいくらいです。あとは費用をかけて認証をとるかどうかの意図。
 
 
全体としてわずかな割合であるヴィーガン主義の人たち。そこをターゲットにせずとも売り切れるような生産量なら、わざわざ認証を得るメリットはワイナリーにとってほとんどありません。ゆえに5000円を超えるワインでヴィーガン認証を記載するものは、本当にごく一部です。
むしろ手頃なワインの方が、わざわざ費用をかけてでも認証をとっていることが多いのです。
 
ヴィーガンについてはこちらの記事で詳しく▼
 
 

むしろ大企業ほど積極的なサスティナビリティ

 
このように書くと「大量生産の工業製品的なワイン」とネガティブな印象を持つかもしれません。その面は否定できませんが、決して悪いことではないと断言しておきます。
 
その一つがサスティナビリティです。
大きな企業ほど「社会的責任」が求められます。特に欧米はその意識が強いです。ゆえにほとんどの大規模生産者が持続可能なワインづくりに積極的に取り組んでいます
 

シャイド・ヴィンヤーズの風力発電

 
オーガニック認証こそあまり多くないかもしれません。ブドウを調達する畑をオーガニックのところのみに限るのはなかなか難しいからです。それでも「100%ではない」というだけで、部分的に取り入れているところは多いです。
ワイナリーでの水資源の節約、ソーラー発電などによる温室効果ガスの削減、生態系の保護・・・。なかなか小規模なワイナリーには実践できないことです。
 
例えばカリフォルニアのボーグル社は、重く割れやすいワインボトルに変わり、軽く丈夫でリサイクルが容易なアルミボトルのワインを試し始めました。
 
 
ボトルだけでなく専用の瓶詰ラインをつくる必要があり、おそらく100億円単位のお金がかかります。それでも消費者に受け入れられるかはわかりません。
こういったことにリスクを負ってチャレンジできるのは、優良な大規模生産者である証拠です。
 
サスティナブルなワインを選んで購入することは、地球の明るい未来につながります。その点ではマーケティングワインはむしろ優れています。
 
ワインのサスティナビリティーに関してはこちらの記事で▼
 
 

生産者のストーリーとワインのスタイル

 
先ほどご紹介したのはカリフォルニアの典型的なマーケティングワインでした。
そうでないものも含めて、生産者とその味筋の一例をご紹介します。
 
 

億万長者からの完璧主義

 
ワイン業界外で富を築き、そこからワイン生産に乗り出すタイプの生産者もいます。えてして高級ワインを志向する傾向にありますが、その最たるものはハンドレッド・エーカーでしょう。
 
 
ジェイソン・ウッドブリッジ氏は投資銀行で富を築いた人物。その財政基盤ゆえに完璧主義なワイン造りが実践できます
本当に納得いくものしか世に出しません。マーケティング担当の人曰く、「目の前で10万ドル相当の樽のワインを、気に入らないから流してしまっていた」というエピソードがあるのだとか。普通は名前を出さない契約でバルクワインとして売り払います。
 
 
ワイン造りを学んだのも独学という彼の中には、明らかに「理想とするワイン像」があります。酸の上品さとタンニンのスムースさ、そして前に出すぎない果実味は、全てのワインに共通しているので、そのあたりではないかと想像します。
一方で畑ごとの個性を表現することにもこだわりを感じます。畑を選ぶ段階から、自分の理想のワインに当てはまるものだけに絞ったのではないでしょうか。
 
 

お金持ちだからできる熟成リリース

 
ボルドーの生産者の中には、「ワインは熟成させて飲むもの」という考えの人もきっと少なくないでしょう。そこに資金の余裕があれば、「飲み頃を待ってからリリース」という方針が生まれます
 
 
グレネリーはボルドーの有名ワイナリーを順調に運営したうえで売り払い、南アフリカに移転した生産者。原稿執筆時で2016VTとちょっと古めですが、これが最新ヴィンテージ。さらに時折、バックヴィンテージがリリースされることもあります。
「熟成させて飲むもの」という考え方なので、ワインは渋味も酸味も豊富で堅牢なスタイル。ワイン初心者に好かれるタイプではありません。
決して生産本数は少なくはないはずですが、「時間をかけて売れていけばいい」スタンスなのでしょう。
 
 
ボルドーの上級ワインに慣れ親しんだ方にとっては、この味と値段は「格安」に感じるはずです。
 
 

ブドウ栽培家からの元詰め開始

 
ジャック・セロスやエグリ・ウーリエといったシャンパーニュにおけるスター生産者の誕生。それを受けて「代々ブドウ栽培家だったところが、自身でシャンパンづくりを始める」という動きが活発です。
そういったRM(自社畑からつくるシャンパン生産者)の特徴として、次のようなものが挙げられるでしょう。
 
〇区画ごとに別々の銘柄
〇少量多種類の生産
〇瓶内熟成期間が短め
〇単一年でつくることが多い
〇流通経路は少ない
 
完全に「テロワールを表現する」タイプです。例えばこの「ノワック」は、上記の全ての特徴を備えます。
 
 
単純に大手シャンパンメーカーの逆を行くという意図もあるでしょう。でないとマーケティングの巨人に対して、強い個性がないと埋もれてしまいますから。
好奇心旺盛なシャンパン好きだけが知って飲んでくれたらいい。それゆえに万人受けよりも通受けを狙った味筋です。
 
 

低迷するワイナリーの再建者

 
中~南イタリアで広く旨安ワインを手掛けるファンティーニ・グループ。アブルッツォから始まったこのワイナリーは、拡大していく過程で既存のワイナリーを吸収していきました。
それはM&A的なものとはちょっと違うようです。多くは経営難で苦しむワイナリーに、ワイン造りと経営のノウハウをもって手助けし、再建していったのです。
 
 
自社畑ではなく契約農家が儲かる仕組み
見栄えのするエチケット
低温発酵によるフルーティーさの際立つ味わい
遅積みや陰干しによる滑らかなタンニンなど
 
 
こういった「ファンティーニらしいワインづくりと味」というものが、産地やブドウ品種が違っても多くのワインに共通しています。
「マーケティングワイン」とも言えますし、「理想とする味を持つ」とも言えるでしょう。
 
 

パーティーに持参するならどのタイプのワイン?

 
ここまでご紹介した3つの方向性のワイン。どれが美味しいというものではありません。あなたの好みにどのタイプが合いやすいかは、ある程度飲んでみるほかないのです。
 
ただし他の人と一緒に飲む、あるいはプレゼントする場合は、相手の属性によって考える価値があります。
 
 

好みがわからない人にはマーケティングワイン

 
例えばあなたがホームパーティーに参加する際の手土産を探していたとします。
そのパーティーにはワイン好きはいますがマニアックな人はいません。むしろワインをあまり飲まない人もいるようです。初対面の人も多く、好みは全くわかりません。
 
 
そういうシチュエーションなら、多くの人に好まれる味を狙ったマーケティングワインがベストです。ある程度有名生産者のものの方がいいでしょう。
その1本をものすごく気に入ってもらえることは、あまりないでしょう。でも「これ口に合わない」と言われる可能性は低い。
 
ワインは主役じゃなくていい。楽しい時間をつくる脇役であればいいというのであれば、この選択がベターです。
 
 

目上の方に失敗できない贈り物なら

 
どこでも見かけるわけではないが、何世代にもわたって続いている生産者のワイン。伝統の味を守るタイプは、昔からのワイン好きにとっては「驚きはないけれども嬉しい」タイプです。
先述の「グレネリー」のように、買ってすぐは開けるべきではない熟成前提のワインであるかもしれません。しかしその飲み方はワインに慣れ親しんだ先方が勝手に判断してくれます。
 
 
次の「テロワールを表す」タイプに比べると、品質にばらつきが少ないと考えられます。
 
 

期待外れも含めて楽しめる場なら「テロワールを表す」タイプを

 
このタイプはいい意味でも悪い意味でもとんでもないワインをつくる生産者が含まれます。なまじ生産者の方針を文字にしたときに同じようなことが書かれているので、飲まずに判断は非常に難しい。飲んで選ぼうにも価格が高めで数が少ないです
以前に飲んだことのある銘柄であっても、ヴィンテージ差やボトル差があり得ます。
 
大切な方へのプレゼントに、このタイプは私は勧めません
 
 
一方で感動するような1本に出会う確率は、むしろこの不安定なワインが高いように感じます。開けてみるまでどれほど美味しいのかわからないので、それを含めて楽しめる場ならピッタリ。つまりワインオタクとの飲み会です。
逆にそういう場にマーケティングワインを持って行っても、「美味しいけれどもつまらない」と言われてしまうかもしれません。
 
 

「自分はどっちが好き?」を選び方のヒントに

 
ワインをたくさん飲んでいくにつれ、好みがマニアックになって「テロワールを表す」タイプが好きになる。そんな決まりはありませんし、そういう人をワイン通というわけでもありません。
私個人で言うならその傾向はありますが、マーケティングワインや大手の味が好きな人もたくさんいます。
 
 
ワインのECサイトや輸入元のHPには、ワイナリーの情報が載っていることが多いです。最初は興味を持って読むかもしれません。でも次第に、どこもだいたい代り映えしないことが書かれていることに気づきます。
そこで見方を変えてみましょう。この生産者が目指す方向性はどれか。どんな経歴で今ワインをつくっているのか
 
そしてこの生産者がつくりあげるワインの風味は、どんな方向性なのか
 
 
そのような視点で見れば、コピペしたに過ぎない情報もつまらないものではなくなるはず。タイプを推測し風味に照らし合わせ好きか嫌いかを判断する。それを繰り返せばワインの味から生産者の意図がくみ取れるようになるでしょう。
1本のワインを通して生産者と対話する。きっといろいろなワインを飲むことが、これまで以上に楽しくなるはずです。





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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