Pick Up 生産者

Pick Up 生産者 それは瞑想の酒 ルチアーノ・サンドローネがつくるバローロ

2019年11月24日

 
 
看板ワインの「カンヌビ・ボスキス」がかつてワイン漫画「神の雫」に掲載され話題に。
きっかけはそれだとしても、一度飲み手の心をつかんだら話さないような、卓越したワインだからこそ、ファンが増え続けています。
 
ルチアーノ・サンドローネの2代目、バーバラ・サンドローネさんの来日セミナーに参加して、私はサンドローネがもっと好きになりました!
彼女が継承する、父ルチアーノの哲学と、そのワインの魅力を皆様にお伝えします。
 
 

バローロとは?

イタリアで有名なワインを2つ挙げるとすれば、「キャンティ」と「バローロ」
バローロはそれくらい有名ではあるものの、スーパーなどでは売っていないしあまり身近なワインとは言えません。
イタリアンレストランのボトルワインリストにはたいていありますが、それ以外では意外と飲む機会はないでしょう。
 
有名だけど縁のないワイン。バローロって何なのでしょう?
 
バローロとはイタリアの北西部、ピエモンテ州のワインです。
トリノという年の近郊と言えば、冬期オリンピックの行われた都市ですし、イメージしやすいのでは。
 
もちろんD.O.C.G.に認定されています。
D.O.C.G.とは簡単に言うとイタリアのワイン法で認定された上級ワインということで、産地・品種・最低アルコール度数・熟成期間などが決まっています。
 
バローロとは、ピエモンテ州のバローロ村周辺でとれたネッビオーロというブドウ100%でできたワインです。
収穫からリリースまでに、最低樽熟成2年、瓶熟成1年する必要があります。
 
収穫から最低3年必要なワインであり、やや高価なワインです。
「手ごろなバローロ」と言えば¥4000くらいのものを指し、2000円台のものはほとんどありません。
  ネッビオーロというブドウは、非常に豊富なタンニンが特徴です。
それほど果実味は強く表れなくて、フルボディの中では軽め、ものによってはミディアムボディなのですが、渋さは強い。
ですので、価格的にも味わい的にも、初心者向けとは言えません。
  しかしそのタンニンと強い酸ゆえ、上質に作られたものは半世紀くらい余裕で生き延びます。
  だからこそバーバラは語ります。
バローロは瞑想のワインだ
  瞑想のワインとはどんな味わいがするのか。
その前に、そのワインを作り出すルチアーノ・サンドローネの歴史を見てみましょう。
 
 

前当主ルチアーノとその歴史

設立者であるルチアーノ・サンドローネは1946年生まれ。
代々ワインづくりをしてきたわけではなく、両親は大工の仕事をしていました。
 
15歳の時から、バローロの著名な生産者であるジャコモ・ボルゴーニョのもとで働き始めます。
そこで彼は「ネッビオーロの情熱」を学んだと言います。
 
その後、1970年からマルケージ・ディ・バローロで働き始めます。
そこではセラーマイスターとして、ワインづくりの中核を担っていました。
  どちらの生産者のバローロも、グーグルで検索すれば彼が働いていた時代のものが普通に購入できます。
バローロの恐ろしいところです。
  有名ワイナリーで働く傍ら、自分の哲学でワインを作りたいという思いは募っていたのでしょう。
1977年、現在のトップキュベをつくる、「カンヌビ・ボスキス」の畑と出会い、購入します。
ここからルチアーノ・サンドローネの歴史は動き始めました。
 
1978年に初めて自分の名前でワインをリリース。
1981年にヴィニタリー、イタリアのワインの見本市に出展したところ、いきなりアメリカの企業から声がかかり、輸出することになります。
 
「こんなに簡単に自分のワインが売れるとは思わなかった」
彼はそう語ります。なにせ、自分のワインを家のガレージで作るのは、マルケージ・ディ・バローロで働く傍らだったのですから。
 
当時のエチケットは、クラシックなバローロにありがちな、イタリア語がたくさん書かれた垢ぬけないもの。
アメリカへも輸出するにあたり、本当に消費者が必要とする情報は何かを考えます。
そして出来上がったのが、現在のデザイン。鮮やかな青の正方形に、生産者名・畑と原産地呼称・ヴィンテージだけのシンプルでわかりやすいデザインでした。
 
それから30年余り、そのデザインを貫いています。
 
1990年にようやくマルケージ・ディ・バローロを退職して、自身のワイナリーに専念することにします。
それは、娘であり今回来日しているバーバラと、弟のルカがワイナリーに参画してくれたからでした。
 
畑も買い増し生産量も増えてきた1999年、土地を購入しワイナリーを一新します。
新しいワイナリーでは、ワインを瓶で熟成させるスペースが十分確保できました。
 
 
そこで2004年から始めたのがラテン語で「sibi et paucisシビエトパウチ」と呼ばれる蔵出しのバックヴィンテージ。
ネッビオーロは熟成させてこそその真価を発揮するが、一般の消費者に5年も10年もワインを熟成させて楽しむのは難しい。
飲み頃にさしかかったバローロを入手することができるようにと、ワイナリーで熟成させてからのリリースを始めました。
 
ワインは振動や温度変化、日光に弱い。
だから、同じヴィンテージでもいろいろなインポーターやワインショップを渡り歩いてきたものよりも、ワイナリーのセラーで静かに熟成されたもののほうが上質とされます。
その蔵出しの証として、エチケットに「sibi et paucis」の文字がプリントされています。
 
現在、ルチアーノは73歳、未だ健在でワインづくりに励んでいますが、ワイナリーの中心は娘のバーバラ・サンドロ―ネとその2人の子供に移ってきています。
しかし、やっていることは40年前、カンヌビの畑を手に入れたころから変わりません。
 
質の高いワインには、ブドウ栽培こそ重要。
その彼の哲学は、ワインの中にあります。
 
 

ルチアーノ・サンドローネのワイン

トリノの街から南南東へ向かったところにアルバの町があります。
そのアルバの南西に広がるのがバローロの生産地域。
バローロとは、ワインの名前でもあり、生産地域でもあり、その中の一つの村の名前でもあります。
 
ここはリグリア海とアルプス山脈、海にも山にも遠くない場所。
そのため、アルプス山脈から吹き下ろす冷たい風の影響を受けます。
結果、昼間は暑く夜は涼しいという気候になり、これはブドウが豊かな酸を蓄える大きな要因です。
 
そしてその昼夜の寒暖差は、朝の霧を生みます。
ネッビオーロの「ネッビ」とは「霧」という意味。
霧がバローロの味わいに重要な役割を果たしていることが伺えます。
 
ルチアーノ・サンドローネはバローロ地区とロエロ地区、両方に畑を所有しています。
そこで育てる3種類のブドウ品種から、5つのワインを作っています。
 
彼の哲学がつまった、その5つのワインを順番に見ていきましょう。

ドルチェット ダルバ 2015

なにもピエモンテの人が毎日高価なバローロを飲んでいるわけではありません。
ピエモンテの日常消費用のブドウの一つが、このドルチェット。
 
バローロをつくる生産者がついでに作る安ワイン、みたいなポジションのシンプルなワインと考えられがちです。
しかし、サンドローネではドルチェットも単なるシンプルなワインとはとらえていません。
レッドチェリーやフレッシュなグレープジュースのような風味をもつ、手間暇をかけた上質なワインなのです。
 
ただ「Simple」ではないものの「Easy」なワインだと言います。
ワインの方から近寄ってくるような親しみやすいワインなのです。
 
だから、日々の食事に素晴らしくマッチします。
家で作るパスタやのほか、サーモンやツナにあう。
 
最もピッタリなのは、ピエモンテの郷土料理であるヴィテッロ・トンナート(仔牛のロースト、ツナのソース)だといいます。
 

FrankGeorgによるPixabayからの画像

 

バルベーラ ダルバ 2016

非常にフレンドリーでオープンな雰囲気を持つのがこのバルベーラ。
 
バルベーラというブドウの特徴は、その高い酸
だから何も工夫せずワインを作ると、すっぱいだけものが出来上がってしまいます。
 
なのでサンドローネでは7~8月にグリーンハーベストを実施。
樹になるブドウの房を減らして、しっかり完熟するようにしています。
さらに醸造では30%の新樽を使った樽熟成。
 
サンドローネではトノーと呼ばれる500Lのオーク樽を使っています。
一般的な小樽は225Lですので、その倍以上。それだけ樽の壁面に触れる面積が減り、樽の風味は控えめになります。
 
 
溌溂、生き生きとしていて、まるで向こうからその美味しさを伝えてくれるような親しみやすさを感じます。
 
気分を切り替えたいとき、リフレッシュしたいときなどには、サンドローネのバルベーラがピッタリです!

ネッビオーロ ダルバ ヴァルマッジオーレ 2017

アルバ周辺でネッビオーロの栽培は盛んですが、「ネッビオーロ・ダルバ」と「バローロ」の間には明確な違いがあると言います。
 
アルバのすぐ北側をほぼ東西に流れるタナロ川が、バローロ地区とロエロ地区をきっちり分けています。
その最大の違いは地質です。
 
川の北側ロエロ地区は、砂質土壌。
やさしくなめらかなタンニンを感じます。
 
それに対して川の南側のバローロ地区は、粘土石灰質。
ストラクチャーのあるワインが生まれます。
 
『ストラクチャー』という表現は、ある程度高級なワインに対してポジティブな表現として使われます。
直訳すれば「構造」です。味わいに立体感がある。スケール感を感じるときに使います。
 
そういう意味でこのワインは、ネッビオーロの強いタンニンはしっかり感じられるものの、バローロに比べると随分親しみやすいワインです。
ベリー系のフルーツやフレッシュザクロのようなアロマ。
生き生きとした味わいを感じるのは、若いワインであることと醸造法によるものでしょう。
 
このワインにはあえて新樽は用いず、2~3回使用したトノーで12か月熟成。
嫌気的な醸造で、若いネッビオーロだとぎゅっと口の中が収縮するようなキツイタンニンを感じがちです。
しかし、実際に飲んだものは、しっかり豊富タンニンが、非常にきめ細かくそしてやさしく口の中を刺激します。
 
 
この秘訣はやはり畑仕事。
ヴァルマッジオーレの畑は合計66haとなかなかの大きさがあり、サンドローネはその中に3haを所有しています。
 
写真の通り非常に複雑な地形の丘陵地帯。
畑の最大傾斜は65~70度!ドイツ以外でこんな急斜面の畑があるとは驚きです。
 
なので、一つの畑の中でも、場所によって大きく標高が違います。
畑の中で140mも高低差があれば、それだけブドウの成熟度合いに差が出てきてしまいます。
 
なのでそれを考慮して、サンドローネでは6~8回にも分けて収穫すると言います。
2017年のような暑い年には、ブドウの葉をたくさん残して房に直射日光が当たらないようにしたといいます。
キャノピーマネジメントによって、荒々しくない上品で上質なネッビオーロを作り続けているのです。
 
最新ヴィンテージの2017年に比べて、sibi et paucisの2013年は、複雑さが違います。
樽熟と瓶熟あわせて6年を経てのリリース。タンニンはよりまろやかになり、キノコのような複雑な風味が加わります。
(こちらは現在入荷しておりません)

バローロ レ ヴィーニュ 2015 & sibi et paucis 2009

近年は、ブルゴーニュにならってバローロでも『畑』を重視する動きが盛んです。
 
もちろん、ブドウ栽培を大事にするのは、世界中の優良生産者がずっと前からやってきたことです。
それを前提として、シングルヴィンヤード、つまり複数の畑をブレンドせずその畑の個性を引き出したワインをつくる。
そして優良な畑の少量のワインに、プレミアム価格をつける。
 
ガヤやロベルト・ヴォエルツィオといった生産者がその代表格で、最新ヴィンテージで4万円前後でリリースされます。
 
サンドローネも、フラッグシップのカンヌビ・ボスキスは単一畑です。
これに関しては、ルチアーノが最初に手に入れた最も大切な畑で、ずっと単一なのでまた違った話です。
 
その流行のアンチテーゼのようなワインがこのLe Vigneレ・ヴィーニュ。
サンドローネが所有する4つの畑をブレンドしています。
(Vignane Barolo , Merli Novello , Baudana Serralunga d'Alba , Villero Castiglione Falletto)
 
複数の畑をブレンドするのが、バローロの伝統だ
そうバーバラは語ります。
 
ブレンドより単一畑の方が美味しいと、だれが決めたのでしょうか?
単一畑の方が高価なのは納得できます。量が少なく、市場への請求をしやすいからです。
しかし、高価なワインだからといって必ずしも美味しいわけではないことは、だれしも経験があるでしょう。
 
実はワインアドヴォケイト誌での評価において、多くの年でこのレ・ヴィーニュはカンヌビ・ボスキスを上回っています
 
生産量がレ・ヴィーニュの方が多いこともあり、つい下に見られがちです。
しかしその実、品質的な差はなく、ただスタイルが違うのです。
 
レ・ヴィーニュ2018
樽熟成2年、瓶熟成2年を経た最新ヴィンテージです。
 
まだまだ赤ん坊のように若いワインですが、すでにその育ちの良さはあらわれています。
全体として現時点で飲んでも価格に見合った感動はないでしょう。
でもバーバラが語る「いろいろな花をつかった花束」のようは華やかな風味は感じられ、熟成によってもっともっとよくなる期待感を抱かせます。
 
そしてその期待が現実となったものが、sibi et paucis 2009
2009年自体は完売してしまいましたが、年に1度新しいヴィンテージが入荷します。
 
 
 
度肝を抜かれました。
ベリー系の芳醇なアロマがあふれ出し、口に含めば様々な風味が駆け抜けていく
 
田舎の道を夜車で走る。山中のトンネルを抜けたら満天の星空が広がっていた。
思わず車を止めて、圧倒されながらそらを仰ぎ見る。

Rene TittmannによるPixabayからの画像

そんなイメージの広がる、とんでもなくスケール感の大きいワインです。

バローロ アレステ & カンヌビ・ボスキス sibi et paucis

サンドローネのトップキュベは、2013年ヴィンテージに「カンヌビ・ボスキス」から「アレステ」に名前が変わりました
中身は全く変わっていませんので、ご安心ください。
 
どういう意味?なんで変えたの?
実は「ALESTE」とはルチアーノの孫、「アレシア」と「ステファノ」の頭文字をくっつけた名称。
 
2013年のこと、ルチアーノは家族を集めて語りました。
 
「自分は孫たちをあまり甘やかす人間ではない。
 何か高価なものを買ってあげることもなかった。
 だから今、孫たちに何かを残したいと考えている。
 私の一番大切なもの。それはカンヌビ・ボスキスの畑と、そこからできるワインだ。
 それは天から授かったもの。だからこそ、それをお前たちのために改名したい。」
そうして「アレステ」が誕生したのです。
 
カンヌビ・ボスキスの畑は標高270m。それほど高くはなく、暖かいミクロクリマです。
2haの畑の中には、粘土石灰質がつよいところと、砂質の多いところがあります。
その多様性が、しっかりとしたストラクチャーとエレガンスを両立させ、シングルヴィンヤードでも素晴らしいバランスのワインを生むのです。
 

 
 
リリースしたてのアレステは、あまりに若い。
タンニンの奥にわずかに苦味を感じ、香りも単調です。
 
だからこそ、カンヌビ・ボスキス sibi et paucis に震えます。
セミナーで試飲した2009年は完売しましたが、毎年少しだけ入荷します。 
 
 
キノコやトリュフなどの複雑な熟成香をともなった芳醇なアロマに圧倒され、目が覚めるよう。
 
現時点で十分に心を揺り動かすパワーをもったグラン・ヴァンでありながら、今後何十年もかけてさらに美しく熟成していきそう。
ワインに、そして自分の未来に思いを馳せたくなるようなワインでした。
 
※sibi et paucisのリリース量は、世界で1000本前後。
 日本への入荷もごくわずかですので、欠品の場合はご了承ください。
 
サンドローネのワインは、すべてにおいて非常にバランスに優れています。
味わいは整っていてきれいなのですが、透明感を感じさせるものではなく、むしろ容易に見通せないようなち密さが魅力です。
 
だからこそ、ワイン単体で完成している。
大きなグラス、ブルゴーニュグラスで香りを楽しみながら、時間をかけて飲んでいただきたい。
 
ゆったりとした音楽をかけながら、グラスを傾ける。
口に含んだら目を閉じて噛みしめるように飲み込む。
歯茎全体を刺激するタンニンが、ゆっくりと消えていくのを感じながら、鼻から抜ける芳醇な香りを楽しむ。
 
ときを忘れるようなリラックスした時間。そこに瞑想の酒、ルチアーノ・サンドローネのバローロを。





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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