結婚記念日、凝った料理とともに自宅で楽しむなら、フリーマンがつくるワインはいかがでしょうか。
ただ「お互いが好きな味わい」で選んでは、選択肢が多すぎて迷ってしまいます。
美味しいのはもちろん、ストーリーのあるワインから選びたい。
運命的な出会いでワイナリーが誕生した経緯とそのワインをご紹介します。
フリーマンを知るならこの1本
フリーマンのワインに興味を持ち、最初の1本として飲んでみようということなら、この「ソノマ・コースト ピノ・ノワール」をおすすめします。
同地域のワインとして決して安くはありませんが、優雅なアロマのボリュームと口当たりの上品さは格別。フリーマンの目指すスタイルを十分に体現しているスタンダードクラスです。
KATAYAMA
アメリカンチェリーやマンダリン・オレンジ、オレガノなどのドライハーブのアロマ。かすかなバニラ香。舌先を刺激する生き生きとした酸味から始まり、艶やかな液体が舌全体を覆います。口に含めば果実の甘やかさを適度に感じ、カリフォルニアらしさはあるものの、上品な酸味があつぼったさを感じさせません。余韻の長さは昨今のカリフォルニア5000円クラスとはまた一段階違う次元だと言えます。
嵐が結びつけた2人
フリーマン・ヴィンヤード&ワイナリーの設立は2001年。
しかしその本当の意味でのスタートは、1985年9月28日。ケン・フリーマン氏とアキコ・フリーマン氏が出会った日でした。
運命的な出会い
その日、ケンはカリブ海へ向かってヨットを操縦していましたが、ハリケーンに見舞われてニューヨーク州の港に寄港します。
海に出られないので仕方なく立ち寄ったパーティーで出会ったのが、留学でアメリカに来たばかりのアキコさんでした。
みんなジーパンにTシャツのカジュアルなパーティーに、シャネルのドレスに身を包んでいたというアキコさん。その美しさにケンは一目惚れしたそうです。
嵐が来なければケンはパーティーに参加していませんでした。その時のハリケーンの名は「グロリア」。その名は彼らの畑にも使われています。
嵐が2人を結び付けたのです。
フリーマンHPより
https://www.freemanwinery.com/about/story#jp
フリーマンが目指すワイン
2人の家族はともにワイン愛好家だったといいます。その影響を受け、2人もワインを好きになっていきます。
特にアキコさんはとてつもなくお嬢様な生まれ。ケン氏との結婚は相当に反対されたそうですが、それを押し切って結婚。
2人が「いつかこんなワインをつくりたいね」と語り合ったのは、飲み手を引き込むような上品なワイン。ピノ・ノワールとシャルドネでした。
300を超える畑を視察
2人が畑を探し始めたのは1997年だといいます。
毎週末のようにドライブに出かけ、ピノ・ノワールとシャルドネに向いたカリフォルニアでも特に冷涼な畑を探しました。
先に見つかったのはワイナリーと隣接する小さな家。2001年のことです。
現在では「グリーン・ヴァレー・オブ・ロシアン・リヴァー・ヴァレーAVA」という地区に属します。
最初は購入したブドウからつくるワインでスタート。
その後自社畑を獲得していきます。
エレガントなワインで時代に逆行
フリーマンが設立された2000年代初頭と言えば、世界中で「ビッグなワイン」が持てはやされていた時代です。
いかに熟度の高いブドウから、高アルコールの力強いワインをつくるか。
アキコさんとケン氏は設立当初から、時代と逆行するようにエレガントでバランスのとれたワインをつくることに注力します。
それを助けたのが彼らの氏でありコンサルタントをつとめる、エド・カーツマンでした。
コンサルタント:エド・カーツマン氏
冷涼な気候のもとでつくるピノ・ノワールとシャルドネのコンサルタントワインメーカーとして、エド・カーツマンは長くカリフォルニアワインの第一線にいます。
特にシャルドネに定評のあるワイナリー「シャローン」。1995年にはそこでアシスタントワインメーカーをつとめます。
そのほかテスタロッサ・ヴィンヤードで働いたのち、フリーマンの設立に参画。アキコさんにワインづくりを教えながら、フリーマンのポートフィリオをつくりあげていきました。
彼の手掛けるワインとしては、まずは自身のブランドであるオーガスト・ウエスト。
フリーマンのワインと比べると果実味の甘やかさは少し強め。しかし酸味の上品さに共通するところを感じます。
あまり流通していませんが、「サンドラー」も彼の個人ブランド。
最近は日本に入ってきていないようですが、「ロア」もエドが醸造に関わっています。
フリーマンの2つの自社畑
フリーマンは2つの自社畑を所有しています。
これに数か所の契約畑のブドウを加え、ポートフィリオを形作っているのです。
現在カリフォルニアで活躍する日本人女性醸造家は他にもおられますが、畑を所有しているのはアキコさんだけです。
最初の自社畑 グロリア・ヴィンヤード
2人を結び付けたハリケーン「グロリア」の名前がつけられたこの畑。5.7haのこの畑は、もともとリンゴ畑だったといいます。
ワイナリーに隣接するこの土地を2005年に購入。このうち3.2haに翌年2006年に植樹しました。
太平洋からの距離で20kmほどの「グリーン・ヴァレー・オブ・ロシアン・リヴァー・ヴァレー」という生産地区にあります。
急こう配の水はけのいい畑で、ブドウの収穫量は自然と下がります。高品質なピノ・ノワールの生産に非常に適している畑です。
甥っ子の名を付けたユーキ・ヴィンヤード
さらにソノマ・コーストの地に特別な場所を見出します。
海まで8kmとさらに太平洋に近い標高300mの地に、牧羊地として使われていた土地を購入したのです。
2007年に5.6haのピノ・ノワールを植樹しました。
ここはソノマ・コーストの中でも海に近い西側であり、非常に冷涼。
2022年より「ウエスト・ソノマ・コーストAVA」として認可された地区に位置します。
フリーマンのワインは発展途上
ブドウは一般に樹齢が高いほど高品質と言われます。
樹齢どこまでが若く、何年からが高樹齢といった定義はありません。
フリーマンの畑は2023年現在、グロリア・ヴィンヤードの方でも樹齢17年程度。これはピノ・ノワールとしてはまだまだ若木と言えます。
これは毎年同じようにワインをつくったとしても、年々品質が上がっていくことを示します。
既に高い評価を受けているフリーマンのワインですが、まだまだ美味しくなっていく余地があるとなると、楽しみでなりません。
ラインナップとポジション
フリーマンの基本のラインナップは次の通り
ロシアン・リヴァー・ヴァレー シャルドネ
ワインの名前として付けられた『涼風』は、ロシアン・リヴァー・ヴァレーを吹き抜ける冷たい風を表しています。
その名の通り、ブドウ畑の冷涼さを感じるような、スマートでキレのいい味わい。
例えば2019年ヴィンテージのアルコール度数は13.4%。酸味を大事にするために、周りの生産者に比べて少し早摘みしていることが推測されます。
12%という新樽比率はこの価格帯のシャルドネとして低めでしょう。樽香よりブドウ本来の果実香を強調したい狙いが感じられます。
決してロシアン・リヴァー・ヴァレーのシャルドネが全てこうではありません。
たとえばこちらのポール・ホブスのシャルドネ。
もっと樽香が強く、クリームやバターのような甘い風味を感じ、どっしりなめらかな口当たりです。
決してこれは極端なワインではなく、「バランスがいい」とされる部類。
フリーマンが、アキコさんが目指す「バランスがいい」は、より軽快で上品なところがバランスポイント。いわゆる"ブルゴーニュ的"であることが感じ取れます。
スタンダードクラス
ロシアン・リヴァー・ヴァレーAVAはほとんどソノマ・コーストAVAに含まれます。より限定された地区なので、通常はロシアン・リヴァー・ヴァレーの方が上級とされますが、フリーマンではどちらもスタンダードクラス扱いです。
「ロシアン・リヴァー・ヴァレー」につかわれるブドウのおよそ半分はグロリア・ヴィンヤードのもの。
そこに2か所の契約畑のブドウをブレンドします。
そして「ソノマ・コースト」に使われるブドウのほとんどは、ユーキ・ヴィンヤードのもの。こちらもそれに昔からの契約畑のブドウを加えてつくります。
この2本はともに、カリフォルニア全体から見ても世界的に見ても酸味が高い部類のピノ・ノワール。なので味わいのバランス的な違いはもちろんあるのですが、文字に表せるほど有為なものではありません。
あえて違いを表現するなら、ベリー系の香りの奥に感じるもの。「ソノマ・コースト」がハーブ系で軽やかな印象なのに対し、「ロシアン・リヴァー・ヴァレー」はスパイス系の風味が奥行きをもたらします。
スタンダードクラスながら自社畑のブドウの比率が非常に高い。上級とされるエステートワインとの価格差が小さいことにも頷けます。
エステートワイン
フリーマンが所有する2つの自社畑。そこからつくられる単一畑ワインがこの2本です。
もしクラス違いで飲み比べるなら、「ソノマ・コースト」とこの「ユーキ・ヴィンヤード」
2つの畑で比べるとより冷涼なだけあり、爽やかな酸味はこちらの方が高め。
よりスマートでスタイリッシュな印象です。
「ロシアン・リヴァー・ヴァレー」に対するのが「グロリア・エステート」。
フリーマンがつくる全てのピノ・ノワールの中でもっとも熟度が高い味わい。ヴィンテージによってはクレーム・ド・カシスのような甘味を伴ったベリーの風味を感じるといいます。
このエステートワイン2本は、やはり飲み比べてこそ価値がある。同じソノマ・コースト内でエリアが異なることによる風味の違いを感じる。それはブルゴーニュワイン好きにとっては興味深い比較となるでしょう。
しかし「それをわざわざフリーマンで」というところには、生産者への愛着がないと理由付けが難しいはず。フリーマンのワインの中で飲む順番としては、一番最後かなと考えています。
トップキュヴェ
冒頭で述べたとおり、フリーマンで最初に飲んでいただきたいのは「ソノマ・コースト」。
もしそれを気に入っていただいたなら、予算が許せば次にお勧めしたいのがこの「アキコズ・キュヴェ」。
オーナー醸造家アキコさんの名を冠したトップキュヴェです。
このワインはフリーマンの自社畑と契約畑それぞれのブドウがブレンドされます。
収穫されたブドウは、畑の区画ごとに分けて発酵・オーク樽熟成されます。熟成中のワインを、アキコさんとエド・カーツマン氏それぞれがブレンドして、スタッフ全員で試飲します。
結果として毎年のようにアキコさんのブレンドを皆が美味しいと選んだそうで、それゆえ彼女の名前がつけられました。
アキコさんが最も美味しいと考えるフリーマンのワイン。それがこのアキコズ・キュヴェなのです。
スタンダードクラスと比べて2倍もしません。そしてもちろん美味しい。香りの妖艶さと口当たりの質感がピカイチです。
いつもよりちょっと豪華な記念日を
期待が大きければ大きいほど、それが満たされたときの満足は大きいものです。
よほど卓越した味覚を持つ方でない限り、ワインの味わいは先入観の影響を受けます。
「店員さんい勧められたから買ってきた」「ワインくじで当たった」
そのような特に大きな期待なしにその場にあるワインと
「君と私が好きそうなワインの中から、結婚記念日に相応しいストーリーのあるワインを選んでみた」
そうやってこの1本である必然性があるワイン。
同じワインを飲んだとしても、その1本にかける期待値で味わいの感じ方は変わるはずです。何年後かにでも思い出せる、記憶に残る1本かどうかが分かれるはずです。
フリーマンのワインは決して安くありません。このワインに合わせるとしたら、それなりにいい材料で手の込んだ料理をつくる必要もあるでしょう。
だからこそ、それだけのエネルギーをつぎ込むことができたなら、高級なレストランで過ごすのに負けないくらい豪華な記念日となることでしょう。