こどもの日にちなんで、親から子へ、子から孫へと受け継がれてきた生産者がつくるワインを飲みませんか?
100年、200年、それ以上の歴史がある。だからこそできる未来への投資。
4世代以上つづく家族経営の生産者がつくるワインの中で、おすすめをピックアップしました。
今回見つけるお気に入りは、きっと10年後もあなたのお気に入りワインでしょう。
家族経営のワイナリーは美味しい?
家族経営の生産者だからといって、つくるワインが美味しいとは限りません。
ワインが高品質かどうかはワイナリー次第。それは家族経営かどうかに関わらず、いいとこも悪いところもあります。
しかし全く同じかというとそうではない。
家族経営のワイナリーだからこそできること。そんな生産者がつくるワインへの信頼があると考えます。
家族経営のワイナリーとは
父ちゃん社長、母ちゃん経理。息子や娘があくせく働く。まるで日本の小さな会社。
多くの家族経営のワイナリーは、そんな姿を想像しても、そう間違いではありません。
しかし中には、何世代も続く中で成功をつづけ、大規模ワイナリーとなった家族経営の生産者もいます。だから必ずしも小規模な生産者とは限りません。
家族経営のワイナリーというのは、家の長がワイナリーのオーナーであり、やがて息子や娘に受け継がれていくもの。代表者を「当主」という場合はたいてい家族経営です。厳密な定義ではありませんが、こういったものだと捉えてください。
家族経営じゃないワイナリーとは
では家族経営じゃないワイナリーとはどんなものがあるかというと、まずは株式会社など企業としてのワイナリーです。
社長がオーナーである場合もありますが、オーナーが別にいる場合も多いです。そして時にオーナーが代わります。醸造家も雇われた人なので入れ替わりもあります。
中にはいくつものワイナリーを傘下におさめているワイナリーグループというものもあります。
例えばイタリアにて旨安ワインで定評のある「ファンティーニ・グループ」は、複数の州にまたがってそれぞれでワインをつくりながら、流通をまとめることで効率的に販路を広げています。
ナパ・ヴァレーにおいては「ロバート・モンダヴィ」や「シュレイダー」を擁する「コンステレーション」が、高級ワインに特化したグループとして有名です。
ボルドーの有名ワイナリーの多くは、長い歴史の中で何度もオーナーが代わっているものが多いです。オーナーが代わって品質が向上したという話もよく聞きます。日本のサントリーが買収してから復興した「シャトー・ラグランジュ」がいい例です。
手ごろなワインが見つかりやすい農協
その他のワイナリーの形態として、生産者が共同で醸造設備を所有する協同組合も無視できません。日本に例えるなら農協です。
傾向としてまず挙げられるのが、ワインが手ごろなことです。
たとえばこの「テッレ・デル・バローロ」。相場として4000円台半ばスタートなバローロが3000円強と割安感があります。
醸造設備を持たない農家からブドウを買い取り、まとめてワインにします。それが効率的だからこその値ごろ感でしょうか。
テッレ・デル・バローロば一つのブランドとしてワインをリリースしています。一方でローヌの「エステザルグ」は比較的小規模な組合であり、名称は共通しながらもエチケットは組合員ごとに別のものとして差別化している例もあります。
(上記は株式会社稲葉さまの輸入ですが、他のインポーターからもエステザルグの別のワインがいろいろ入ってきています)
厳密な線引きに意味はない
現実的に、生産者の形態で区別して美味しい/美味しくないを論じることはできませんし、その境界はあいまいです。
たとえばボルドー5大シャトーの筆頭、シャトー・ラフィット・ロートシルト。
オーナーはその名の通りロスチャイルド家。ロスチャイルド家は一説には世界第2位の資産を有する財閥です。
ラフィット自体の生産本数も年間数十万本ですし、他にもボルドー内外で様々なワインを手掛けています。
一家が所有しているのですから、『家族経営の生産者』と言えるのかもしれません。すさまじく違和感がありませんか?
「一家で営む小さなワイナリー」のイメージからかけ離れているでしょう。
企業経営のメリット・デメリット
企業経営のワイナリーである一番のメリットは、なんといっても資金調達力でしょう。
多くの資金を集めて積極的な投資を行い、ワイナリーを急成長させることができる。このスピード感は、単に高品質のワインをつくれるというだけでは実現できません。
その分短期間で利益を出し投資を回収することが求められます。
だから良くも悪くもワインのスタイルが変わりやすいのが企業経営のワイナリーです。ワインメーカーが独立するなどで交代したため味が変わったという話もよく聞きます。
このあたりに、歴史ある家族経営の生産者との違いが現れそうです。
歴史の長い家族経営の生産者だからできること
家族経営の生産者といっても、設立してから10年のワイナリーと200年のワイナリーでは、全く事情が違います。
歴史ある生産者のメリットは次の3つが挙げられます。
設備投資が回収済み
ワイナリーの設立には非常にお金がかかります。
「栽培家の家系で土地は先祖から受け継いだもの。醸造所だけ新設して自社瓶詰を開始した」という場合ですらその費用は膨大。畑も購入するならなおさら多くの借金が必要です。
家族経営の若いワイナリーはその返済もワインの価格に乗せる必要があります。もちろん、もともと超お金持ちだったとなれば話は別ですが、それはむしろ例外的。結果としてワインがやや割高な傾向にあります。
例えば南アフリカのエメル・アン・アード地区のワインが割高なのは、設立後せいぜい20年程度のワイナリーが多いことに理由があります。
一方で返済が終わった後は、ワイナリーの規模を拡張しない限りそうそうまとまった支出はありません。オーク樽はワインをつくる度に必要でしょうし、設備や農機具も更新が必要でしょう。でも一度に全てではないんです。
長い歴史を持つ生産者のワインは、品質の割に割安、かもしれないんです。
畑の樹齢が高い
ブドウの木の樹齢が高いほど、ブドウの品質は高い。一般にそう言われています。
何世代にもわたって品質にこだわってワインをつくってきた生産者は、樹齢の高い畑を持っていることが多いです。それゆえの美味しいワインを期待できます。
もちろん例外はたくさんあります。
ワインの樹の寿命はせいぜい50~100年。収穫量が落ちたり病気にかかりやすかったりするので、数十年サイクルで植え替える必要があります。普通は畑の一画ごとにちょっとずつ植え替えます。なので「全てのワインが樹齢の高い木のブドウを使っている」ということは普通ありません。
また、若いワイナリーでも古木が植わった畑を購入できたり、そんな畑からブドウを購入できるなら、いきなり最初から品質の高いワインをリリースできます。
高樹齢のワインは古いワイナリーの専売特許というわけではありませんが、ある程度傾向としては見られます。
遠い未来への投資ができる
ワイナリーに歴史があることによる心持ちの差。
「100年続いてきたワイナリーだからこそ、次の50年ワイナリーが続くことを強く信じられる。」
それゆえに遠い未来を見据えた投資ができるのも、大きな違いでしょう。
畑を管理するうえで、いろいろな選択肢があります。
ブドウ品種は何がいいのか。クローンや台木の選択は?植樹密度はどうするのか?畝の向きは?
これらは一度植えたら容易には変えられません。
一度ブドウを植え替えると、5年程度は収穫できません。その後も品質が十分回復するまで、20年以上と言われることもあります。
「20年前は安ワインの産地だったから、質より量の栽培をしていた。急に8000円品質のワインをつくろうとしたって無理!」
そういった中期的な損失を飲みこみ、長期的な利益を思い描けるか。
企業経営のワイナリーなら、近隣の高樹齢の畑からブドウを買うとか、畑ごと買収する方向で検討するでしょう。
何世代も続いてきたワイナリーだからこそ、たとえ自身の代で結果が出ないだろうとしても、次世代のために長期的な投資ができることでしょう。自分たちもその成果を享受しているのですから。
4代以上のファミリーワイン8選
当主が25歳の時に生まれた子供が後を継ぐと仮定すると、4世代で100年の計算です。
4世代以上の歴史がある家族経営の生産者8軒。そしてそこがつくる入門的なワインを8本ご紹介します。
【13代目】アルザスワインの教科書!
1639年設立と非常に長い歴史を持つヒューゲル。2万円オーバーの高級ワインもつくっている一方で、ベースラインとなる「クラシック」シリーズは、買いブドウも用いてリーズナブルかつアルザス地方全体の特徴を表すようにつくっています。
【15代目】いつものワインをこれまでも、これからも
フランケンの地でワインをつくって450年以上!いたずらに高級志向や拡大路線をとらないのは、生産するワインのほとんどが地元で消費されているからでしょう。リースリングより派手でなく、飲み飽きしない味わいがこの品種の魅力です!
【10代目】代々畑を見てきたからこそ「ここは違う!」
畑の土壌によってワインの味わいが違うといっても程度があります。栽培も醸造も質が高くないと、明確に感じ取れるほど表現されません。非常に早い時期から畑ごとのワインに注力したのは、「区画でワインの味が違う!」というのをよく知っていたからです。
【4代目】量より質の時代で先行する!
南アフリカワインの歴史は1994年のアパルトヘイト撤廃がキーポイント。それまでは高品質ワインをつくったとて国際市場で売れない状態でした。ライナカが樹齢40年と比較的高い樹齢の畑を持っているのは、150年以上続く家系だからこそでしょう。
【6代目】従業員まで含めた”家族経営"
ブドウの収穫からワインの醸造まで全て一貫して社員が行うという珍しい生産者。オリーブオイルやパスタなどワイン以外の作物も手掛けることで、従業員を家族として養っています。ゆえに従業員が2代目、3代目というのは、まさに『家族経営』
【4代目】代々の畑を理解しているからこその個性!
本来は特級畑のシャルドネからつくるシャンパンが得意な生産者。しかし4代120年あまりにわたって受け継いできた畑には他の品種も植わっており、それを紹介しないのはもったいない!そうして弊社独占で輸入されたムニエの個性が光る1本です。
【4代目】同等品質の生産者より2~3割安い!
「アマローネ」で有名なヴェネト州の生産者で4代110年あまりの歴史があります。自社畑に加えて契約畑からつくるワインは家族経営の生産者としては多く、国際競争力を持つためほとんどが輸出されているとか。常に新しいチャレンジを続けてきた結果でしょう。
【5世代目】地域を代表する生産者として
「ハンター・ヴァレー」という産地の黎明期から5代。ワインのスタイルを守りつづけ、「ハンター・セミヨン」というワインのブランドを世界中に広めました。まずはシンプルにスッキリなこのワイン。気に入ったら5年熟成で発売される上級クラスとの違いにビックリするはず!
顔の見える家族でつくるワイン
さほど大きくない規模でありながら、長年続く家族経営の生産者がつくるワイン。もう一ついいところを挙げるなら「生産者の顔が見える」点です。
初めてその生産者のワインを飲む段階においては、さほど意味はありません。しかしその1本がとても気に入ったなら、考えませんか?
この美味しいワイン、どんな人がつくっているんだろう?
そのとき、ちょっと調べたらオーナー醸造家の顔写真が出てくるような小さな生産者なら、愛着がわきませんか?その作り手のことをもっと知りたい。他につくっているワインも飲んでみたいと思いませんか?
ワインの名前をGoogle Mapで検索しても出てこないようなワイナリー(OEM生産のようなワイナリー)と比べたら、どちらが印象に残るかは明らかでしょう。
「この地域・品種なら、私はこの生産者がお気に入りです」
なにせ昔から代々受け継がれてきた畑・父から子へと受け継がれてきた醸造なら、そうそうワインの雰囲気は変わりません。
自信を持って「好き!」と言えるようなワイナリーは、きっと歴史ある家族経営のワイナリーにたくさん見つかることでしょう。