Pick Up 生産者

【Pick Up生産者】価格レンジに応じて楽しめる ベッカーのグラン・クリュ

2021年4月20日

 
3000円から6万円まで。自分の予算に応じていつも満足させてくれるのが、ベッカーがつくるピノ・ノワールの魅力です。
一代で「ベッカー」の名を世界中にとどろかせたシニアの代から、白ワインにも類まれな才を見せるフリッツの代に移っても、それは変わりません。
ファーストヴィンテージの新グラン・クリュ「ラ ベル ヴュー」まで含めて、ベッカーのピノ・ノワールの魅力をご紹介します。
 
 

フリードリッヒ・ベッカー醸造所とは

 
ドイツ、南ファルツに居を構えるフリードリッヒ・ベッカー醸造所。
その魅力の一つは、ラインナップの広さ。特に白ブドウは非常に多くの種類を扱いながら、どれもそれぞれの個性を持ち、個々にそのワインを飲みたくなるシチュエーションが思い浮かぶことです。
 
これについてはこちらの記事で、ちょっと書きすぎなくらい偏った愛をもって語らせていただきました。(実はまだ語り足りません)
 
 

ベッカーの黒ブドウといえばピノ・ノワール

 
一方で黒ブドウはというと、いくつかは栽培されているものの、何といっても主役はシュペートブルグンダー
シュペートブルグンダーとはピノ・ノワールのドイツ名です。
ベッカーの名声を築いたのは、ピノ・ノワールの品質に他なりません。
 

Wikipediaより掲載

 
ベッカーの象徴であるキツネラベル。
イソップ童話の「酸っぱいブドウとキツネ」のお話からとっています。
ベッカー醸造所が独立した当時は、甘口ワインブームの真っただ中。しっかり酸味のあるピノ・ノワールをつくっても「そんな酸っぱいブドウばかり育ててどうするんだ?」と笑われました。
しかしその酸っぱいピノ・ノワールで世界で有名になってしまった。それを皮肉ったキツネラベルなのです。
 
 

ラインナップの幅の広さ

 
そのピノ・ノワールについて、よく比較されるバーデンのベルンハルト・フーバー醸造所は最低約4500円(葡萄畑ココス価格)とやや高級志向です。
ベッカーはというと、最低約2800円から最高約5.7万円と、その価格の幅が非常に広いのが特徴です。
 
これだけ価格の幅が広いのは、当店のラインナップでは、ブルゴーニュのアラン・ユドロ・ノエラくらいでしょう。
 
 
当店は日本に入ってきているベッカーのワイン全てを揃えているわけではありません。それでもベッカーのピノ・ノワールだけで7種類もそろえておりました。
全て飲んだことがあり、やはりそれぞれの特徴が際立つから仕入れたわけです。
それぞれの特徴と、自分ならどんな時に飲みたいかをご紹介していきます。
 
 

ベッカーのラインナップ スタンダード~1級

 
ベッカーのピノ・ノワールのラインナップは、次の図のように大きくは3段階に分けられます。
そのうえで各ランクは横並びではなく、優劣があります。
 
 

ベーシッククラス

 
ベッカーが持ついくつもの畑から、自社ブドウのみでつくられるピノ・ノワール3種。
うち2種は価格が同じで、醸造法違いです。
 
 
聞きなれない言葉「ドッペルシュトゥック
これは2400Lの大樽を指します。
 
 
ベッカー親子と共に写っているのが、ドッペルシュテュックのサイズで模様を特注した大樽。
 
つまり「ドッペルシュトゥック シュペートブルグンダー」は、大樽熟成のピノ・ノワールということ。
 
では普通の「シュペートブルグンダー」の方は小樽かというと、実は大樽8割小樽2割
実は作り方自体はそこまで変わらないんです。
 
でも味わいは、ちゃんと違いがある。
 
小樽というのは一般的にはボルドー的な225Lかブルゴーニュ的な228Lの樽を指します。「バリック」とも呼びます。
樽は小さい方が、ワインの容量に対して表面積、樽に触れる面積の割合が大きくなります。
どちらも新樽を使っているわけではないので、ヴァニラの甘い風味はほぼありません。樽熟成の目的は酸素接触です。
 
オーク樽の効果についてはこちらの記事で
 
小樽で熟成した方がより多く酸素接触するので、タンニンがこなれてなめらかな口当たりになります。
大樽で熟成するとより酸素と接触の少ない熟成をするので、タンニンがフレッシュなままで、より軽快かつ引き締まった印象になります。
 
 
一般的にはベッカーの入り口として、私なら「シュペートブルグンダー」の方をおすすめします。
ただ、他の国も色々と飲まれている通な方に初めてベッカーを飲んでもらうなら、「ドッペルシュトゥック」の方が面白いと感じています。個人的な好みはこちらです。
 
 

村名&1級クラス

 
VDPに加入しているベッカーにおいては、村名格は「オルツワイン」、1級畑は「エアステ・ラーゲ」というクラスになります。
 
ベッカー醸造所があるのは「シュヴァイゲン」村ですので、その村にある複数の畑からつくられるピノ・ノワールが、「シュヴァイゲナー ピノ・ノワール」(定価¥6,500)となります。
上記のスタンダードクラスもシュヴァイゲン村のブドウなのですが、このワインは樹齢25~40年のブドウの樹からつくられます。樹齢がより高いのです。
 
 
そして単一畑の「シュタインヴィンガード ピノ・ノワール」(定価¥11,000)
このあたりのクラスから、「凝縮感」や「なめらかさ」「余韻の長さ」という基本的なことだけでない、畑の特徴が感じられるようになります。
 
ただ、現在当店には未入荷です。
もしご興味があれば取り寄せは出来るのでご相談いただきたいのですが、今のところ定番商品とする予定はありません。
上のクラス、下のクラスと比較したときに、「こういう時に飲んでほしい」という提案がしにくい味わい・価格帯だからです。
それほど、次にご紹介する特級クラスとの差はあると感じているので、「どうせならもっと奮発しちゃいなよ!」とすすめてしまうのです。
 
 

ベッカーのラインナップ グラン・クリュ

 
続いてベッカーさんのつくる特級畑のワインをご紹介します。
ドイツのワイン法には「グラン・クリュ」という用語はなく、正確にはVDPが定めるグローセ・ラーゲ(畑)からつくられるグローセス・ゲヴェックス(辛口特級ワイン)です。
とはいえ、ドイツの専門用語は日本人の口になじみにくいと思いますので、今まで通り「グラン・クリュ」と表記します。
 
 
 

特級畑 カマーベルク

 
ベッカーパパが周囲の反対を押し切り独立し、最初に購入してピノ・ノワールを植えた畑
それがこのカマーベルクです。1967年のことでした。なので樹齢はおよそ50年!
 
 
地図を見てわかる通り、ここは完全にアルザス領。
 
 
しかし「畑はフランスだけど、ドイツ人が所有してブドウをドイツにもっていって醸造した場合に限り、ドイツワインとする」という特例があると言います。
 
 
畑の様子はこちらの動画から
 

 
見ての通り傾斜はなだらか。
そのため後述するザンクト・パウルに比べて、石灰岩土壌の上層にある表土が厚いです。
 
 
この保水性があり栄養にも富んだ厚い表土が、ワインに豊かな果実味をもたらします。
ゆえにスケール感のあるピノ・ノワールなのに、親しみやすい。
 
決してカリフォルニア的な親しみやすさではありません。酸もタンニンもしっかりあります。
 
ベッカーの特級畑ワインを初めて飲むなら、私は断然この「カマーベルク」から入ることをおすすめします
個人的には、ザンクト・パウルと何度飲み比べても、カマーベルクの方が好みです。
 
 

特級畑 ザンクト・パウル

 
カマーベルクよりも少し北側、斜面の上部に特級畑「ザンクト・パウル」はあります。
こちらはベッカーが購入して、一から開墾した畑で、樹齢は30年ほど。
フリッツのお姉さんの嫁ぎ先がもともとこの土地を所有しており、その婚姻がきっかけで購入することができたのです。
 
輸入元さま製作の、ザンクト・パウルの畑紹介動画がこちらです。
 

 
カマーベルクと続けてみて頂くと、こちらの方はずいぶんブドウの樹が細いのがお判りいただけますでしょうか。
 
カマーベルクよりも畑の傾斜がきついのが特徴で、それゆえに表土がほとんどありません。雨が降った際に土が流れてしまうからです。
それゆえ石灰岩土壌が露出して、大きな石がゴロゴロとしています。
 
 
そんな土壌の畑からつくられるワインは、より引き締まった印象
カマーベルクと比べるながら少し細身な印象ながら、そのスケール感はむしろ上。エネルギッシュな奥行きのあるワインです。
 
 

特級畑 ハイデンライヒ

 
先ほどのザンクト・パウルの畑内の斜面上部の区画が「ハイデンライヒ」。
ベッカー醸造所ではたくさんの栽培スタッフが働いていますが、この区画だけはベッカー親子しか立ち入ることを許されない聖域だといいます。
ザンクト・パウルよりもさらに傾斜が急で、石灰石がごろごろとしている痩せた土壌です。
 

動画中の字幕、樹齢は間違っています。
 
フリッツ氏いわく、「男性的な面と女性的な面、その両方のいいとこを備えた、熟成ポテンシャルの高いワインだ」とのこと。
 
奥ゆかしく質実剛健なところがあり、派手さはありません。
なので当店での取り扱いは保留中・・・
 
 

特級畑 ラ ベル ヴュー

 
2012年に購入したばかりの、新しい特級畑がこの「ラ ベル ヴュー」です。
 
 
ブドウの樹は植えてから収穫できるようになるまで、3~5年と言われています。
もし購入した畑の樹を一度引き抜いて、2、3年休ませてから新たな樹を植えるとすれば、最大8年ほど収入を生まないわけです。
若い樹はまだまだ根も深くまではっていませんので、上質なブドウが収穫できるようになるまでさらに10年はかかると言われます。
 

「素晴らしい眺め」という名前の通り、アルザスの街並みが見えます。

 
本来なら「ラ ベル ヴュー」がラインナップに並ぶのは、2020年ヴィンテージ以降だったでしょう。
それがこの通り2014年(ファーストヴィンテージ)が日本に入ってきているのは、「高接ぎ」という手法を用いたからです。
 
もともとこの畑には樹齢約50年のゲヴェルツトラミネールが植えられていました。非常に品質は高かったと言います。
ただ、ベッカーが畑を増やしたい、みんなが飲みたいのはピノ・ノワール。
そこでもともとの樹を根本付近で切って、そこにピノ・ノワールの穂木を接着したのです。
 
 
ブドウってこんなことをしても、ちゃんと翌年芽を出して成長するんです。
しかも十分に根をはった古い樹に接ぎ木すれば、最初から品質の高いブドウがとれる。
不思議ですね~
(ブドウに限らず、果物を中心にいろいろな木で行われている技術のようです)
 
 
もちろんデメリットもあります。
樹を植え替えるわけではありませんので、樹の間隔や畝の向きを変えることはできません。
もともと高品質なブドウを育てていたところでないと、期待した品質にはならないのです。
 
そうして出来上がったワインは、いきなりベッカー醸造所の最高額ワインとなりました。
思い入れのある畑をはるかに超える価格設定がされたということは、それだけの品質を自負しているということ。
 
こちらの動画でベル・ヴューの様子をご覧いただけます。
 

 
輸入元さま開催のセミナーで、3年ほど前にこの2014年をテイスティングしました。
オブラートに包んで感想を言うなら、「可能性しか感じない
酸もタンニンも高く、本音を言うなら、閉じすぎててよくわからなかったです。
 
だからこそ将来の姿が楽しみになるというもの。
それから3年ほどたっていても、まだ早いでしょう。
 

しっかり除葉されブドウに日光が当たりやすくなっています。

 
非常に忍耐の求められるワインですが、ベッカーのワインでも随一のエレガンスを誇るこのワイン。いつか“飲み頃”を味わってみたいと思っています。
 
 

番外編 デア クライネ フリッツ シュペートブルグンダー

 
ウサギのイラストがドンと描かれたこの新入荷ワイン。
フリッツ氏の友人が育てたブドウを購入して、ベッカー醸造所で仕込んでいます。
 
 
コンセプトはより親しみやすい「Easy Drinking」なベッカー
そのためワインのタンニンはよりソフトに抽出されています。
 
 
「ワインは普段飲んでいるけど、ベッカーは初めて」という方には、「シュペートブルグンダー」をおすすめします。
一方で「あんまり赤ワインは普段飲んでなくて・・・」というワイン初心者には、デア・クライネ・フリッツの出番でしょう。
 
 

ベッカーがつくるピノ・ノワールの特徴

 
フリードリッヒ・ベッカー醸造所は非常に多種多様なワインをつくっていますが、決して大規模生産者というわけではありません。見ての通り代表が直接相手をしてくれる、家族経営の中小の生産者です。
だからというのもあるのでしょう。ベッカーのワインを飲めば、シニアやフリッツ氏の顔が思い浮かぶような、「ベッカーらしさ」があります。
 
 
これは別に、片山が輸入元の営業さんによって洗脳されているからではない、と思いたい。
ベッカーらしい味わい」にはちゃんと根拠があります。
 
 

オリジナルのオーク樽

 
樽熟成に使うオーク樽、フレンチオークともアメリカンオークとも記載がありません。
じつはベッカーが所有している森にオークの木が生えているので、フランスから職人を呼び寄せて自前の木でオーク樽をつくってもらっているそうです。
なんともぜいたくな話!
この自社製オーク樽をメインに、ブルゴーニュなどからもオーク樽を購入して、いろいろ試しながら使っているとのこと。
 
 
私もオーク樽の産地にまでは詳しくないのですが、フレンチオークでもどこの森のオークが上質か、といった話はあるといいます。
ベッカー産オーク樽もまた、ベッカーがつくるピノ・ノワールの特徴を出すのに一役かっているのでしょう。
 
 

豊富なタンニン

 
ピノ・ノワールにおいてフリッツ氏の代になり変わってきていることを挙げるとすれば、タンニンの増加です。
より熟成ポテンシャルのある、何年後も楽しめるスタイルのワインにするために、以前よりも少し骨格のしっかりとした印象に変化しています。
 
黒ブドウは成育中に果皮に日光が多く当たると、ブドウを守るため果皮を厚くするといいます。
なのでベッカーでは収穫期前はブドウを覆う葉っぱをしっかり毟って、日が当たるようにするそです。
果皮が厚くなれば、そこに蓄積されるタンニンもより豊富になります。
 
 

蔵出しがデフォルト

 
原稿執筆時(2021年4月)、ブルゴーニュのワインは2018年がほぼ入港が終わり、ちらほら2019年のものが入ってきつつあります。
他方ベッカーは、一番手ごろ「シュペートブルグンダー」ですら2016年です。上級クラスのワインはまだ2014年、2012年が最新というものもあります。
 
これは決して売れ残りではありません。白ワインは2019年がどんどん入荷しています。
「豊富なタンニンを含むベッカーのピノ・ノワールは、数年は熟成させて飲んでほしい。でもワインのライトユーザーに自分で熟成させるのなんてお願いできない。ならうちで寝かせてから出荷しよう」
自身のワインをより楽しんでもらうためのベッカー醸造所の計らいなのです。
 
 

自然酵母が表現するヴィンテージ

 
ベッカーのピノ・ノワールはすべて自然酵母で発酵されています。他の品種についてすべてかどうかは未確認ですが、白ワインの多くも培養酵母は用いません。
それゆえ自然酵母のピノ・ノワールにありがちな、もわっとしたような複雑な香り(適切な表現ができず申し訳ない)は、割としっかり感じます。私は苔むした森の中を歩くようなイメージを持ちます。
これもベッカーらしさの理由の一つです。
 
 
ベッカーのワインは毎年どんなヴィンテージでもしっかり満足させてくれる味わいですが、それは決してヴィンテージ差がないわけではありません。むしろ年によってある程度違いを感じます。
例えば数年前に飲んだ「シュペートブルグンダー 2012」は、その酵母感を結構感じました。
 
天候に恵まれ、手がかからなくても素晴らしいブドウがとれる年もあれば、栽培チームの腕が試される難しい年もあるでしょう。
にもかかわらず、「うん、今年も美味いね」と言わせてくれるベッカーは、本当に稀有な生産者です。
 
 

「ベッカーらしさ」とは何か

 
自然酵母で醸したタンニンの多いピノ・ノワールをオリジナルのオーク樽で熟成させ、数年瓶熟成してから出荷する
文字に起こせばこういったことが「ベッカーらしさ」になるのでしょう。
 
もちろんそれは正しいのですが、ベッカーファンの一人としてはこれで語りつくせた気がしません。
 
よくブルゴーニュの生産者は「目指しているのはテロワールを純粋に表現すること」と言います。
そういう意味では、一貫して「ベッカーらしさ」を感じる彼らのワインは、「純粋な表現」とは言えないでしょう。
だからこそ「ベッカーなら高いワイン買っても、ヴィンテージ良し悪し関係なく満足させてくれるよね」という安心感があります。
 
 
やはり、「ベッカーらしさ」は文字の上にはないのです。グラスの中にあります。
まずはスタンダードクラスか、デア・クライネ・フリッツから、「ベッカーらしさ」を感じてみてください。
 
 
 
 





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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