リースリングという白ブドウ品種を血液型に例えるならAB型です。
辛口から甘口、スパークリングまでタイプを変えながら、品種特性の現れたワインになるからです。
その魅力を詳しく知っていけば、シャルドネと比べたときの相対的な安さに愕然とするでしょう。
ワイン初心者もディープな愛好家も魅了する、リースリングという品種についてご紹介します。
リースリングの抑えるべきポイント4つ
〇タイプによらず貫く「リースリングらしさ」とは
〇気候・土壌を表現するリースリング
〇価格による味わいの違いとは
〇初心者に、玄人に受ける理由
この記事では以上の4つのポイントを知っていただき、リースリングを選ぶ、もしくは選ばない選択に役立てていただければと考えます。
リースリングはどんなブドウ品種?
リースリングはドイツ原産の白ブドウで熟すのが遅く、寒さに強い性質を持ちます。
味わいにおいては上品な酸味が最大の特徴で、世界中で栽培されています。
リースリングの主要栽培国
リースリングの国別栽培面積は次の通り。
第1位 | ドイツ | 約24,000ha |
第2位 | ルーマニア | 約6000ha |
第3位 | アメリカ | 約4600ha |
第4位 | フランス | 約4000ha |
第5位 | オーストリア | 約3000ha |
全世界計 | 約64000ha |
リースリングといえばまずはドイツで、ひょっとしたら次くらいにフランスのアルザスが挙がるかもしれません。しかし実質は第4位でドイツの1/6と、決して多くはないのです。
3位がアメリカなのは少し意外では?確かなデータは見つけられていませんが、その生産量の多くはニューヨーク州だと推測されます。
3月13日はリースリングの誕生日
1435年の3月13日。現存する資料としてはその日初めて文献の中に「Riesling」の文字が登場します。
それにちなんでこの日をリースリングの誕生日と定め、世界中でリースリングのイベントが開催されると言います。
ドイツのラインヘッセン地方北部で見つかった1435年の会計書類に、リースリングの苗木の売買記録があるのです。
17世紀にはドイツにて高貴品種と認められており、栽培が推奨されてきました。
リースリングの語源
品種の由来は、今日に至るまで明らかになってはいません。
おそらくヴァイサー・ホイニッシュとヴィーティス・ジルヴェストリスの自然交雑、あるいはヴィーティス・ジルヴェストリスとトラミーナの交配品種とヴァイサー・ホイニッシュの自然交雑ではないかと推測されています。
(※出典 Wines of GermanyのHPより)
名前の由来もハッキリとはしていません。
文献でよく目にするのは花ぶるい(Verrieseln/フェアリーゼルン)を起こしやすいことがその由来になった、という説です。
稀に目にするリースリングの別名がヨハニスベルクJohannisberg 。
スイスなどで使われていたそうですが、リースリングの中心地であるラインガウの地名よりとったのでしょう。
リースリングが知名度の割に希少なわけ
リースリングという品種の知名度は、白ブドウの中でシャルドネとソーヴィニヨン・ブランに次ぐ知名度があるでしょう。
しかしその栽培面積はソーヴィニヨン・ブランの半分。世界のブドウ畑の中でわずか0.85%です。
決してリースリングのワインが多くない理由。それはリースリングが畑を選ぶからです。その晩熟性ゆえにどこでもいいブドウができるわけじゃないのです。
晩熟性とは、ブドウがきちんと熟して収獲できる時期が遅いということ。
通常ブドウは開花から100日前後で収穫となると言われます。しかしリースリングはその期間が120日以上と言われます。
暖かいところで栽培すれば、ブドウの糖度が早く上がるので、もっと短い期間で収穫してワインにはできます。しかし風味は伴ないません。
かといって寒すぎる地域では十分に糖度が上がらない恐れもあります。
リースリングはちょうどいい塩梅に冷涼な気候でこそ真価を発揮する、ワガママなブドウなのです。
変幻自在なリースリングの魅力
みなさま、血液型による性格診断を信じますか?私はあまり信じていないのですが、AB型は「人当たりがよく相手にあわせることができるけど、自分の譲れないところは変えない」というふうに言われていると思います。
この姿がリースリングそっくりなんです。
辛口ワイン、半辛口ワイン、甘口ワイン、極甘口ワイン、スパークリングワイン。リースリングというブドウは全てのタイプで一流のワインになります。
それでいながら、どのタイプのワインでも「リースリングらしさ」を感じる。それが他のブドウ品種ではマネできないところです。
YouTubeでも解説しております。
対照的なのがシャルドネ。樽熟成したリッチな白ワインと、フレッシュなリンゴの香り漂うシャンパン。どちらも素晴らしいワインではありますが、同じ品種なのに共通項を探すのは難しいでしょう。
一貫したリースリングの風味特性
リースリングはタイプによらず一貫して高い酸味を持ちます。
これはブドウの性質によるものです。どのブドウ品種も収穫期になって糖度が上昇するにつれて酸度が下がります。その下降曲線がリースリングはゆるやかなのです。
これは極甘口のデザートワインをつくる品種。ソーヴィニヨン・ブランやセミヨン、シュナン・ブランやフルミントなどと同様の特徴です。
リースリングらしい繊細で研ぎ澄まされたような酸味は、他の品種でなかなかマネできないところです。
一方で香り・風味特性はワインのタイプで変化します。甘いワインは甘いフルーツや食べ物を思わせる風味を持ちます。
種々の要素でもちろんいろいろな風味を感じますが、タイプ別に代表的なものを記します。
辛口 | レモン、ライム、白い花、白桃 |
半辛口 | 白桃、白~黄色の花、アプリコット、熟した柑橘類 |
甘口 | 黄桃、はちみつ、アプリコットやそのコンポート |
極甘口 | アプリコットなどのドライフルーツ、はちみつ、マーマレード |
スパークリング | 白桃、白い花 |
リースリングは選びにくい
全てのタイプで高品質なワインをつくれるが故のデメリット。
ワインショップなどでリースリングのボトルを見て選ぶとき、非常に選びにくいです。というのも、手に取ったボトルが辛口なのか半辛口なのか甘口なのか、わかりにくいからです。
極甘口はやたら高かったりハーフボトルだったりするのでまあいいでしょう。スパークリングワインも瓶の形で一目瞭然。
しかし「スッキリ辛口だと思って買ったら、意外と甘かった」なんてことは往々にしてあるでしょう。
ドイツワインなら「Trockenと書いてあれば辛口」「GGと書いてあれば辛口」など見分け方がありますが、一般の方がご存じないのも無理はない。
英語圏のリースリングで「Dry」表記があれば辛口と考えることもできます。
でも生産者独自のルールを設けているところもありますし、なによりアルザス産がよくわからない。プロでも飲んでみるまでわからないものもあります。
(アルザスでは改善の動きがあるようです)
「飲んでみるまで分からない」では普通は5000円のワインは買いません。ワインの選びにくさはリースリングの弱点の一つです。
リースリングとぺトロール香
タイプに寄らずリースリングに感じることの多い「ペトロール香」という香りがあります。
別名、石油香。
その正体は1,6-トリメチル-1,2-デヒドロナフタリンという物質。
生育期のリースリングが、強すぎる直射日光や水分不足にさらされると生成されると言います。
この香りは基本的に多くのブドウ品種が持ちます。ただし香りを感じる閾値が比較的高く、特に多く含有するリースリングで感じやすい、というわけです。
なので「リースリングに感じやすい香り」ではありますが、「すべてのリースリングで感じる」というわけではありません。
ぺトロール香の感じ方には地域性があります。生育期の直射日光の強さがカギになることから、オーストラリアなどの低緯度帯ではハッキリ感じる傾向。逆にドイツやアルザスでは猛暑だった年以外はあまり感じません。
立地による気候の違いという点もありますが、醸造家やマーケットの好みも関係します。ドイツやアルザスの人は若いリースリングのぺトロール香は欠点だと考える人が多いようです。なので生育期にブドウの房が葉の陰になるように剪定して、ぺトロール香を抑える工夫をすることが多いのです。
若い時にはぺトロール香を感じないリースリングも、熟成に従って現れてくることがあります。熟成によるものは共通して「品種の個性で欠陥ではない」と考えられるようです。
実際、「石油香」「ガソリンの臭い」というとポジティブにとらえることは難しいですが、適度なぺトロール香はワインの香りに複雑味を与えます。決してイヤなものではありません。
あまりに強く感じるものはそもそも仕入れないのですが、このリースリングはバランスもよく、わずかに感じるペトロール香は魅力といっていいでしょう。
リースリングの醸造方法
リースリングは多くの地域でステンレスタンク発酵・ステンレスタンク熟成でつくられます。
モーゼルやラインガウといった地域では、大きなオーク樽で発酵・熟成を行うものも少なくありません。しかしその目的は適度な酸素接触により風味に複雑性をもたせるため。
オーク樽の風味を添加することは目的としないため、何十回と繰り返し使った古い樽を使うことがほとんどです。
リースリングの上品な酸味を活かすため、基本的にはマロラクティック発酵は行いません。(※)
それゆえ同価格帯のワインで風味の複雑性という点では、シャルドネに劣る場合が多いように感じます。
※マロラクティック発酵
ワインに含まれるリンゴ酸を乳酸に変え、とがった酸味をまろやかにする反応のこと。
赤ワインは基本的に全てマロラクティック発酵を行います。白ワインは品種によりけりで、シャルドネの場合は行うことが多いのですが、リースリングやソーヴィニヨン・ブランのようなスッキリとした風味が特徴のものは、マロラクティック発酵をブロックします。
タイプ別おすすめリースリング5選
先述した辛口~甘口~スパーククリングまでの5タイプ。
それぞれの特徴を表している上で手ごろな価格のおすすめワインをご紹介します。
もし「これからワインをいろいろ飲んで勉強していこう。リースリングはなにを飲めばいいかな?」と考えておられるなら。
いろいろタイプを変えるリースリングは、たくさん飲まないといけないから大変でしょう。
ゆえに各タイプの特徴をしっかり感じながら、リーズナブルに楽しめるもので選んでみました。
辛口リースリング オーストラリア産
オーストラリアのリースリングは基本すべて辛口です。
一部極甘口もつくられますが、それはラベル表記だったりワインの色だったりで容易に判別できます。「ちょっと甘いワイン」というのはほとんどありません。
先述のとおり緯度の低いオーストラリアのリースリングは、多少なりともぺトロール香を感じます。しかしぺトロール香が問題になるのは「ぺトロール香しか感じない」という状態。
このワインはちゃんとフルーツや花の香りがまず主張し、その中に適度なぺトロール香があります。
手ごろな辛口リースリングで美味しいものは別にこのワインに限りません。産地がそれほど有名でないからか、同程度の品質のリースリングより2割以上安く感じます。
「オーストラリアの」リースリングの雰囲気をとらえるのにはコスパのいい選択でしょう。
半辛口リースリング モーゼル
半辛口~半甘口のワインをつくるためのリースリングのブドウは、多くの場合辛口用とそれほど変わりません。
中には収穫期を分けている場合もありますが、同程度の糖度のブドウを使って辛口と半辛口の両方をつくります。ブドウの糖分をほぼ全てアルコールに変換したら辛口。途中で発酵を止めて糖分を残せば半辛口から半甘口です。だから半辛口は少しアルコール度数が低く、8~11%程度のものが多いです。
発酵を止めるには発酵タンクの温度を下げてやります。しかし一旦ストップしても温度が上がれば再開してしまうので、清澄しフィルターをかけて酵母を取り除き、再発酵しないようにします。
そういった半辛口のリースリングがたくさんつくられるのが、ドイツのモーゼル地方。ドイツのラインヘッセンでもままありますが、モーゼルの方が概ね高品質です。
半辛口リースリングは正直人気のないカテゴリーではありますが、「飲まず嫌いは人生損している」と断言できるほど、癒し系の美味しさを持つ白ワインです。
甘口リースリング モーゼル
甘口ワインの定義に関して、当ブログと当店では100g/L前後の残糖を考えております。半辛口や極甘口とのボーダーは明確に定めておりませんが、50g/L~150g/Lくらいと考えてください。
飲んで明確に「甘い」と感じつつ、多くの人がグラスワイン1杯100mlを無理なく飲めるレベルです。
(WSETの基準で「甘口」は貴腐ワインやアイスヴァインなどに当たります。WSET基準の『極甘口』があまりに流通が少ないので、このように分類しております。)
これくらいの甘さになると、もともとのブドウ糖度が高い必要があります。収穫日を遅くすることでブドウの糖度を上げることができますが、秋口に雨が降りやすい地域ではこの方法をとるのは難しいです。また、鳥がブドウを食べてしまわないよう対策する必要もあります。
黄桃やアプリコットなどの熟したフルーツとはちみつのような甘い香りを持ち、豊潤な甘さとそれがベタつかない酸味を持つワイン。
欠点はちょっと食中酒としては楽しみにくいところです。普段の夕食の最中にコーラを飲みますか?お好きな方を否定するつもりはありませんが、多くの方にとっては甘すぎて選択しないでしょう。
同程度の糖度がある甘口ワイン。あう料理は限られます。どちらかと言えば食後にワインだけで楽しむことをおすすめします。
極甘口リースリング ドイツのアイスヴァイン
極甘口のデザートワインをつくるには、リースリングにおいてはアイスヴァインか貴腐ワインの2択です。
ブドウを収穫せずに冬まで残しておき、-7℃以下で完全に凍結してから収穫する。水分が凍結し濃縮された果汁を発酵させてつくる極甘口のアイスヴァイン。
ボトリティス・シネリアという貴腐菌がついて干しブドウ状になったものからつくる貴腐ワイン。
どちらも同じ数のブドウの房、同じ面積の畑で比較したとき、辛口ワインと比べて生産量が数分の1になります。
しかもどちらもその年の気象条件によってつくれないリスクもあります。だから高価。
私の相場観でいえば、リースリングのアイスヴァインはハーフボトルで1万円強がスタートライン。その点でこのルドルフ・ファウスのアイスヴァインは文句なしに『破格』。
「アイスヴァインを飲んでみたい」という方には、なかなか他にないものです。
リースリングのスパークリング モーゼル
こう言っては語弊があるかもしれませんが、リースリングのスパークリングワインで品質を追求しても、シャンパーニュの「サロン」クラスのものはつくれないでしょう。
風味の複雑さや熟成香、余韻の長さという点では、シャルドネやピノ・ノワールにリースリングは勝てません。少なくともその可能性を感じさせるリースリングのスパークリングワインは飲んだことがありません。
ただそれは、お金に糸目をつけない最高品質のワインの話。2000円のワインではリースリングは決して劣りません。
2000円のスパークリングワインに風味の複雑性なんて、シャルドネでもピノ・ノワールでも持ちようがない。
「スッキリ爽やか」という魅力を押し出すほかないのです。その点でいえば、リースリングの品種特性の得意分野。
「シュワっとさわやかなスパークリングワインをゴクゴク飲みたい」
そんな気分のときにリースリングのスパークリングワインは賢い選択肢です。
リースリングの味わいを決める気候・土壌
リースリングはファンの多いブドウ品種であり、量を問わなければ世界中といっていいほど広く栽培されています。
しかしその中で「高いお金をとれるリースリング」をつくっている地域は限られています。
何が違うのか。やはり気候と土壌でしょう。
温暖産地の限界
ワインは手間をかければ最高品質のものができるとは限りません。偉大なワインをつくりうる環境というものは、条件があります。
リースリングで本当に風味豊かなものをつくろうと思えば、冷涼な気候は必須であろうと考えます。
先ほど「他のブドウ品種の生育期間が100日なのに対し、リースリングは120日」と申しました。開花から収穫までの日数です。
詳しい資料はありませんが、おそらくこれはドイツでの値。温暖な産地ではもっと早く収穫しているものと考えられます。十分に糖度が上がってしまうからです。
同じ果汁糖度が得られたとしても、ブドウが樹になっている日数、つまりハングタイムは風味の豊かさに影響します。
「畑が温暖で早く熟すから早く収穫しよう」では、最高のブドウはできないのです。もちろん「冷涼なほどいい」というわけでもないのでしょうが。
温暖な産地で3000円の素晴らしいリースリングはあります。でもおそらく2万円の素晴らしいリースリングをつくることはできないのではないかと考えます。
リースリングに適した土壌
最高品質のリースリングを生む土壌。それはおそらく粘板岩土壌か片麻岩土壌です。
それぞれリースリングの産地としては、ドイツのモーゼル、ラインガウ、ナーエ地方などに分布する土壌と、オーストリアのヴァッハウで見られる土壌です。
粘板岩の土壌分類については、調べてもちょっとハッキリしないところがあるので、保留させてください。
粘板岩は写真のような石で、堆積土壌が強い圧力で押し固められてできます。「Schiefer シーファー 」とか「Slate スレート」と呼ばれます。この粘板岩と「Schist シスト(片岩)」が同じという記述もあります。一方で堆積岩と変成岩の違いがあるという文献もあります。
《参考》
片麻岩は片岩(シスト)と似ており、より高温の条件下で変性が進んだ岩石です。
ラインガウやアルザス地方などにも一部分布します。
オーストリア、ヴァッハウ地方のプラーガーの畑に見られる片麻岩土壌
粘板岩や片麻岩土壌は、水はけがよく栄養素は低く固い土です。自然とブドウの樹自体が成長する力は抑制され、ブドウに栄養がまわります。
粘板岩土壌のリースリングの違い
ラインガウやモーゼルの粘板岩土壌のリースリングと、非粘板岩土壌のリースリングを比較すると、前者の方が舌の上にグリップ感があります。豊潤な風味が舌にハッキリと長くとどまるのです。それもあって味わいにスケール感を感じ、「高そうな味」に感じるのです。
非粘板岩土壌のリースリングが美味しくないわけではありません。それぞれに良さがある。
しかし「どちらのワインの方が高価だったとしても飲みたいか」と問われれば、粘板岩土壌のものだと感じます。
粘板岩と片麻岩土壌のリースリング
それぞれの土壌からつくられる最高品質のリースリングを味わいたければ、次の2本がおすすめです。
アルコールが高いワインなら、「舌を包み込むようなまったりとした質感」も想像しやすいでしょう。しかしこのブロイヤーのワインはアルコール度数12%以下です。(2019VT)
アルコールの軽快さとは相反する口当たりの緻密さと味わいの持続性。熟成によってそういう質感になっていくものもありますが、このワインは若いうちからその特徴を示します。
人気生産者につき近年の値上がり傾向には涙目なのですが、風味を思えば「前が安すぎた」と言えるでしょう。
オーストリアのヴァッハウもラインガウに劣らない高級産地です。保水性のいい黄土(レス)土壌の畑に乾燥に弱いグリューナー・ヴェルトリーナーが植えられ、水はけのいい片麻岩土壌にリースリングが植えられる傾向にあります。
飲む上での良し悪しは別の話
だからといって「粘板岩とシスト土壌のリースリング以外に価値はない」なんて言うつもりはかけらもありません。
3000円以下くらいの低価格帯では、土壌による味わいの違いはそれほど大きく現れないんじゃないかと考えます。それは手ごろなリースリングが若い樹齢のブドウの木からつくられる傾向にあるから。地中深くに根を伸ばし、土壌の特性を反映するようになるのは、もっと樹齢が上がってからなのでしょう。
樹齢が上がれば自然と実らせるブドウの房が減り、風味が凝縮します。しかし同じ畑の面積からつくれるワインは減るので、価格を上げる必要があります。
低価格帯のリースリングで比較したとき、ワインの良し悪しにとって土壌はそれほど強い要素ではないようです。
それよりも産地の気候だとか畑の立地や形状、栽培法などの地面より上の影響が大きいでしょう。
高級リースリングはなにが美味しい?
リースリングはそれこそ1000円くらいの安いものから、100万円するような超高級品まで幅広く流通しています。
他の品種と同様、人気生産者の希少なワインがとてつもなく高額になる例はあります。それを除いたとしても、5万円10万円で取引される高級品もあります。
いったい何が違うのでしょうか。高い方がそりゃ美味しいのでしょうが、具体的にどんな味わいを期待したらいいのでしょうか。
糖度による味わいと価格の違い
先ほどリースリングは辛口から極甘口まで様々なタイプのワインをつくる話をしました。
ドイツワインにおいてはそのワインの味わいをエチケットから推定できるように分類を設けています。注意すべき点は、これはワインの甘さではなく、ブドウ果汁の時点での糖度で分類されている点です。
糖度が低い方から「Kabinett カビネット」「Spatlese シュペトレーゼ」「Auslese アウスレーゼ」「Beerenauslese ベーレンアウスレーゼ」「Trockenbeerenauslese トロッケンベーレンアウスレーゼ」です。
モーゼルのマーカス・モリトール作成の下記写真が視覚的にわかりやすいでしょう。
このグレードが上がり、ブドウ糖度が高くなるほど、畑の単位面積当たりの収穫量は減ってしまいます。希少価値も幾何級数的に上がります。
「甘いワインほど美味しい」というわけではありません。しかし「甘いワインほど生産コストと希少価値が高いから、ワインの値段が高い」ということはできます。
特に気象条件が味方した年しか作れない「Eiswein アイスヴァイン」や「Trockenbeerenauslese トロッケンベーレンアウスレーゼ」などは非常に高価です。
辛口ワインの価格による味わいの違い
では辛口のリースリングは、低価格帯のものと何が違うのでしょうか。
一番大きな特徴は、畑の特徴を強く感じる傾向です。
リーズナブルなワインは複数の畑のブドウでつくり、「(生産者名)+リースリング+トロッケン+ヴィンテージ」のような名称。
5000円を超えるような上級ワインは、単一畑の名前表記。そんな生産者が多いです。
単一畑でつくること自体は、ワインが美味しいことを意味しません。ただしその生産者の同等クラスのワインと比べたとき、風味の特徴が明らかに違います。「世界中でその畑でしか表現できない味」という希少価値が、そのワインが高価である主な理由でしょう。
もちろん手ごろなワインとはブドウのグレードが違います。畑の中でも栽培条件のいい区画だったり、樹齢が高かったり。
それによって香りのボリュームや口当たりの緻密さ、余韻の持続性などは大きく違います。それから濡れた石や砕いた岩を思わせるような風味、いわゆる「ミネラル感」をより強く感じる傾向です。
正直、「ミネラル豊かなワイン = 美味しい」と感じるかどうかは、好みと経験値によりけり。「リースリングは手ごろなものの方が美味しい」と感じる方がいても理解できます。若い辛口高級リースリングの中には「固い」印象を与えてしまい、近づきにくいワインもあります。
マーカス・モリトールのワインがいい例です。ロバート・パーカー.comによる飲み頃予想が収穫から10年以上経てようやく始まるというものも少なくありません。
若いうちは必ずしも美味しさにつながらないミネラル感。しかし飲み頃まで熟成させたリースリングにおいては、そのミネラル感が言葉で表現できないようなうま味と深みに変わります。熟成シャルドネとはまた違った雄大さを感じさせてくれるのです。
初心者に、ディープなワイン好きに愛される理由
「リースリングはみんな大好き!」そう言いたいところではありますが、実際のワイン販売数から感じる人気ではシャルドネに遠く及びません。
しかしこれには自信があります。リースリングはワイン飲み初めの初心者に好かれるブドウ品種だ。そして様々なワインを飲みつくしてきた玄人にも愛されるブドウ品種だ。
その理由を紹介します。
ワインの入り口としてピッタリなリースリング
とりわけ半辛口~半甘口のリースリングは、まだあまりワインを飲んだことがないという方にとって非常に親しみやすい入口であるはずです。
特にフルーツが好きで他のお酒としてはレモンチューハイや甘いカクテルが好きな方は、抵抗なく楽しめると考えます。
半甘口のワインで必ずしもリースリングが一番とは言い切れないかもしれません。しかしワインの流通銘柄が一番多く、価格競争もあり、それゆえ品質の割に価格が安い。それゆえ特にモーゼルのリースリングには、ワイン飲み初めの若い方に飲ませてあげたい銘柄がたくさんあります。
例えばハチミツレモンのような上品な香りを感じるこのワイン。
「ワインからブドウじゃなくて他のフルーツの香りを感じる」そんな体験を通してワインに興味を持ってもらいたいものです。
ワインの玄人がリースリングを好む理由
さまざまなワインを飲みつくしてきた方の中に、リースリングを愛する方が少なくない理由。
それは「相対的に安いから」と特異なデザートワインでしょう。
先ほど述べた高級リースリングの特徴。畑の個性を表現する。
そのプロセス。その考え方。その品質へのこだわりは、ブルゴーニュのシャルドネと比較して何ら劣る点はありません。
しかし今や、コート・ド・ボーヌで単一畑からつくられる1級畑以上を飲もうと思えば、2万円は覚悟した方がいい。マコンやシャロネーズのワインで妥協するにしても、7000円程度はかかるでしょう。
それがドイツなら5000円程度からいろいろ選択肢があります。
ワインを通して産地を感じる楽しさ。リースリングの注目度の低さゆえ、シャルドネに対して比較的手ごろに楽しめるのです。
デザートワインの中で、いろいろ飲んだうえでリースリングを好む方も少なくありません。
ある程度の予算があるなら、ワイン会の締めのデザートワインで定番はソーテルヌの貴腐ワインです。古酒の流通量が多く、特別感を演出しやすいという理由もあるでしょう。
ソーテルヌと比べたとき、リースリングの貴腐ワイン・アイスヴァインは酸味がずっと高いです。なので同じ極甘口でありながら、より余韻がスッキリと感じます。酸味の高さだけでなく質、研ぎ澄まされたような透明感のある酸味は、他品種のデザートワインにない魅力です。
ソーテルヌと比較したときに、肩を並べる品質。「あとは好みの問題」と言えるはずです。
地域別おすすめ辛口リースリング13選
美味しいリースリングは決してドイツだけではありません。
気候や土壌の特徴を素直に味わいに反映するのがリースリングの特徴。
地域別に「これを飲まねば、この地のリースリングは語れない」というものをご紹介します。
ドイツ モーゼル 辛口 粘板岩土壌
モーゼルはドイツのワイン産地の中で比較的大きいです。
それゆえ手ごろな価格帯のワインもたくさんあります。しかし低価格帯のリースリングは往々にして、単位面積あたりの収穫量がかなり多いです。それでは土壌由来と思われる風味は、あまり表現されません。
その点このワインは樹齢120年超え。こんなリースリングは世界を見渡してもそう多くないでしょう。
フルーツの香りやスッキリとした酸味といったリースリング標準の要素だけでなく、奥深い風味を感じさせてくれます。
ドイツ ラインガウ 辛口 粘板岩土壌
モーゼルと比べると、ラインガウは「中価格帯から高価格帯の産地」という位置づけ。1000円台、2000円台のワインがあまり多くありません。
そして辛口タイプのものが多いです。半甘口や甘口もつくられてはいるのですがそれほど多くなく、辛口と極甘口という2極端な印象。
「川に隣接した南向きの急斜面」という栽培条件が最高のエリアがそう広くはない。そのため高単価が狙えるタイプに特化しているのではないかと予想します。
その辛口ワインにおいて、ラインガウでトップクラスの評価を受けるのがゲオルク・ブロイヤー。特にアメリカでの評価は抜群に高いといいます。
ただし甘口も含めるならロバート・ヴァイルやシュロス・ヨハニスベルク、クロスター・エーバーバッハ、シュロス・フォルラーツなど様々な名前が挙がります。
味わいの点でモーゼルとラインガウを分けることは、非常に難しいです。これが自信をもってできるなら、ドイツワイン上級ケナーのテイスティング試験は余裕じゃない?それくらいです。
私が受験したときは、「ラインガウのワインは高いから試験はたいていモーゼル」という情報をもとに解答しました。ごめんなさい。
片山の意見ではありますが、ラインガウに比べモーゼルのリースリングは、風味が凝縮しきっていないというイメージがあります。これは別に品質が低いということではありますが、ごくわずかな水っぽい風味がある。ラインガウの方が、しっかり太陽に照らされて詰まった風味を感じる。
私はこの風味に注目してこの2地域を判別しています。
ドイツ ナーエ 辛口 火山土壌や斑岩、黒ひん岩、それにスレートや珪岩
ナーエのリースリングをブラインドテイスティングで当てられるはずがない。私はそう思っています。
なにせ様々な土壌があるのがナーエの特徴だから。土壌の特性がなく、糖度や酸度といった味の要素はヴィンテージで変わります。
それくらい理解の難しい地域ではありますが、このワインがとてつもないと理解すること自体はとてもやさしい。
スタンダードクラスなので余韻の長さは持ちませんが、背筋が伸びるような緊張感と親しみやすい明るさを持っています。この酸味がピンと張った感じは、ナーエというより生産者の特徴でしょう。
ドイツ ミッテルライン スパークリング 粘板岩土壌
リースリングのスパークリングワインは、年に1度のような特別な日に飲むものじゃありません。そんなときにはやっぱりシャンパンの豪華さがほしい。
日常のなかのちょっといいことがあった日。気難しく構えず、リラックスした明るい気持ちで飲みたいスパークリングワインです。
中でもこのラッツェンベルガーのリースリングゼクトは、頭一つ抜けて秀逸。泡の細かさ、風味の繊細さ、甘味の上品さと酸味のバランス。全てにおいてケチのつけどころがない。
しいて言うなら「もうちょっとだけ手ごろなら」なんて思っちゃうところ。しかしそれを逆手にとって、「このワインを日常的に何度も消費できるくらい、がんばって稼ぎを増やすぞ」と目標にできるなら、好循環につながりそうです。
ドイツ ファルツ 辛口 石灰質土壌
このワインの「ムッシェルカルク」というのは貝殻石灰質土壌のこと。先ほどまでと違い、粘板岩土壌ではありません。
土壌の違いだけとは言い切れませんが、このワインの特徴は非常にシャープな酸味。アルコール度数は低めで口当たり軽やかなのに、風味の弱弱しさは全くありません。それどころか「濃い」と感じさせるほどの力強さを持ちます。
ドイツのファルツ地方は、ドイツの中でリースリングの栽培面積が実は最も多いんです。ただしその大半は大量生産の低価格品。
2023年3月現在、楽天市場でファルツの1万円超えのリースリングは流通していないようです。
オーストリア ヴァッハウ 東より 辛口
ヴァッハウはオーストリアきっての高級産地。テラス状に整えられた南向き急斜面の畑で、グリューナー・ヴェルトリーナーとともにリースリングが育てられています。
グリューナー・ヴェルトリーナーの高級産地は他にありません。なのでこちらの品種が推されがちですが、ワイン評価誌で高得点がつきやすいのは実はリースリングの方。おそらく高い酸味による熟成ポテンシャルの高さが差になっているのでしょう。
同じドイツ語圏ということで、オーストリアとドイツは似ていると考えられがち。しかし実際はブルゴーニュ品種の産地であるバーデンよりさらに南にあるわけで、気候はオーストリアの方がずっと暖かいです。
その影響でオーストリアのリースリングの方が全体的にアルコール度数高め。それは味わいのボリューム感につながります。
普段シャルドネやローヌ品種のワインを中心に飲んでおられる方にとっては、ボリューム感豊かなリースリングは「高そうな味」と感じやすいでしょう。ドイツの高級リースリングより親しみやすいかもしれません。
オーストリア ヴァッハウ 西より 辛口
ヴァッハウ地方には東側よりハンガリーのパノニア平原からくる暖気が流れ込みます。そのため、ヴァッハウ地方は東にいくほど暖かく、西に行くほど涼しい。先ほどのプラーガーをはじめ、評価の高い生産者は概ね東側に位置します。
それに対してこのヘーグルは北西のはずれ。暖気の影響が小さく、より冷涼な畑です。
故にヴァッハウのワインとしては美しい酸味が高く、非常にエレガント。スマートな味わいです。
ドイツのリースリングがお好きな方は、きっと気に入るはずです。
フランス アルザス 辛口
フランスのアルザス地方は気候分類的には「温和」に分類されます。ドイツの多くの産地は「冷涼」に分類され、その違いはアルコール度数や味わに現れます。アルザスの上級リースリングは、アルコール14%を超えるボリューミーなものもちらほら見かけます。
アルザス全体の風味を理解するなら、ヒューゲルの購入ブドウでつくるリースリングはぴったりの教材。ドイツにありがちな「厳しさ」はまず感じません。
本当にご紹介したいのは実はこちら。残念ながら完売しており、再入荷の目途はたっていません。
「クロ・サンテューヌ」はリースリングにおいては最高峰とされるワインの一つです。それゆえ需要に供給が追い付いていません。
オーストラリア クレア・ヴァレー 辛口
オーストラリアが誇るリースリング第1の産地がクレア・ヴァレーです。
標高はある程度ありますが、ひと際寒いわけではありません。気温の日較差が大きく、夜間冷え込むこと。最適なアルコール度数を目指して早摘みすることで、美しい酸味を保っています。
中でも典型的なクレア・リースリングとして名前が挙がる生産者が、このグロセット。素晴らしく洗練された酸とレモンのようなかんきつ系の風味を持つリースリングをつくります。
この生産者、カベルネ・ソーヴィニヨンもつくっています。リースリングとカベルネ・ソーヴィニヨンがそう遠くない畑に植えられる産地。一度この目で見てみたいものです。
オーストラリア イーデン・ヴァレー 辛口
クレア・ヴァレーと同じく南オーストラリア州に位置するイーデン・ヴァレー。ここでも上質なリースリングがつくられます。
そう離れていない産地だけあって、双方のワインは非常によく似ています。
とあるソムリエさん曰く、クレア・リースリングはどちらかというとレモンの風味が強く、イーデンのリースリングはレモンよりむしろライムだと。
適度なぺトロール香も感じますが、それは日照の強さを物語っており、風味はドライで非常に明るいです。晴れの日か曇りや雨の日かなら、絶対に晴れの日。それも快晴で空気の乾いている日に飲みたいワインです。
ニュージーランド マールボロ 辛口
ニュージーランドでは表記がない限りリースリングは半辛口。辛口に仕上げる場合は「Dry」などの表記がされることが多いです。
ソーヴィニヨン・ブランをつくる生産者が、ついでのようにピノ・ノワール、ピノ・グリ、リースリングを栽培している。言っては悪いですが、そんなイメージがあります。
なのでニュージーランド産の1万円超えリースリングはおそらく現在流通していません。
しかし3000円前後の価格で比べたとき、質で劣るってことはない。特にこのワインは、価格に見合わぬ風味のメリハリを持ったワインです。
南アフリカ エルギン 辛口
南アフリカにおけるリースリングは、正直「まだまだこれから」といったところ。南アフリカにおいてリースリングに適しているほど冷涼な地区が、そう多くないのです。
シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンなどは、2000円前後の価格において他国より価格優位性があるのが、南アフリカのいいところ。しかしリースリングについては、そんなに割安感もありません。
でも決してレベルが低いわけではない。
このサワーヴァインは生産規模の少なさゆえに若干の割高感はあります。しかしその味わいは素晴らしく、買って飲んで後悔することはまずないでしょう。
リースリング、「理解したつもり」になっていませんか?
ワインのプロの中にも、飲み始めたきっかけを聞いてみれば「甘口のリースリング」だという知り合いが何人もいます。
きっと一般の方にもそんな事例は多いでしょう。
しかし甘口をあまり飲まなくなるのと一緒に、リースリングを飲まなくなってしまうことが多いようです。もったいない。
リースリングは多様なタイプ全てで高品質なワインをつくります。
リースリングは気候や土壌の特性をワインに反映するので、飲み比べる面白さがあります。
入口としての安い甘口リースリングだけで、全てを知ったつもりになっていませんか?
これだけ書いていますが私自身、まだまだ理解できていないほど、リースリングの世界は広くて深いです。
これを機にあなたの知らないリースリングに出会ってみませんか?
4月28日はドイツワインの日
ドイツワイン German Wineと、ゴールデンウィーク Golden Weekの頭文字が同じだからと、その前日にあたる4月28日がドイツワインの日と定められたそうです。
別にリースリングだけがドイツワインではありませんが、ドイツワインにとってリースリングが最重要であることは確かです。
当店にはドイツのリースリングだけで60種類程度の品揃えがあります。好きだからこそ自信をもって提供できるものを、他の品種より1段階厳しく選んでおります。
これだけ多様なリースリング。飲んだことがあるものとはちょっとちがったリースリングを試すいい機会でしょう。