年末の贅沢には、少し熟成したみ頃の赤ワインを。1年頑張った自分を労い、心身を潤すご褒美を自分にプレゼントしましょう。熟成による奥行きある風味は、若いワインにはない特別な時間を演出します。家族や友人と分かち合うひとときも、変化を楽しみながら一人でゆっくり味わう時間も、あなたの心に活力を与えるでしょう。時間の魔法がちょっとだけかかった、手頃な飲み頃赤ワインをご紹介します。
プチ熟成の飲みごろ赤ワイン5選
若いワインにはない熟成の風味を獲得しながらも、希少性は高くなく手を出しやすい価格。
そんな「プチ熟成」した飲み頃赤ワインをご紹介します。
普段飲みよりもちょっと奮発してもいい気分のとき、日常の中にあるたまの贅沢として、ゆっくりリラックスして味わってみてはいかがでしょう。
大変ありがたい輸入元熟成!
ワインを輸入する会社にとっては滞留在庫。それはときにワイン愛好家にとっては掘り出し物。
このワインはヴィンテージが進めば「グラン・セレッツィオーネ」という、キアンティのより上級なグレードに名称を変えます。そして価格も1.5倍ほどに。
輸入元の倉庫で売れのこ・・・・長期間熟成されていたのに、「昨今の相場にあわせて値上げしよう」とはしていないのがありがたい。トスカーナの中~上級ワインの値上がりが激しいこのご時世に、見逃すべきではないワインです。
サンジョヴェーゼはタンニンも酸味も豊富なブドウ品種。若いころの上級クラスは少しとげとげしく感じるものもあります。だからこそこのちょっと熟成したワインに価値がある!ベルヴェットのようなしなやかでまろやかな口当たりと、それを飲みこんだ後に鼻を抜ける香りは、リリース直後にはなかったものでしょう。
スクリューキャップ熟成の安心感!
最初はわずかなコンディションの差でも、熟成の年月によって大きなボトル差が出るものです。なので古いワインはその価格にみあった満足を得られるかどうかにおいて、どれだけ厳選したところで「運」の要素があります。
スクリューキャップはそのボトル差を小さくしてくれます。
スクリューキャップは一般的な天然コルクより酸素透過性が低いです。なので「コルクが劣化して酸素が入り酸化が進みすぎた」ということは基本ありません。その分、熟成の進みは遅い。このワインは10年も前のものですが、まだ熟成香はあまり強くありません。
カベルネ・ソーヴィニヨン+シラーというパワフルになりやすいブドウ品種なのに、ソフトでスムースな口当たり。これは間違いなく熟成の効果でしょう。
この「テール・ルージュ」という生産者は熟成飲み頃リリースを方針にしています。なのでこのワインもこれが現行ヴィンテージ。気に入ったら同じワインをまた飲める。通常の10年熟成ワインにはないメリットです。
小難しいこと抜きに、一口目から「美味しい!」
生産者であるテヌーテ・ロセッティは「ファンティーニ・グループ」に属しています。もともと「ファルネーゼ」という名称だったグループです。
経営難で苦しんでいたロセッティをファンティーニが傘下に加え、そのワイン造りとマーケティングの技術を持って復活させたのです。
ファンティーニの味づくりは、一般消費者に好まれる味にピタっとあわせるのが上手だと私は感じています。ソムリエやディープなワイン愛好家ではなく、もっとライトな消費者の好みに寄せているのです。
その表れというべきが、ルカ・マローニ誌の点数。2015VTは99点満点の98点なのでほぼ満点です。
このイタリアのワイン評価誌は、今飲んで直感的に美味しいと感じるものに高得点を与えます。なので2000円程度で満点を取るワインもちらほら。その傾向を考えると、このワインも小難しいこと抜きに「美味しい!」と感じさせてくれると期待できます。
たくさんのワインをつくる中の最高峰だと、熟成を前提にした厳格なワインがどちらかというと多いです。しかしファンティーニグループのワインについては例外と言えるでしょう。
テヌーテ・ロセッティについてはこちらで詳しく▼
有名ワインにものすごく近い無名ワイン
「有名な生産者〇〇に隣接する畑!」というのはよく使われるうたい文句です。ただし畑の境で土壌構成が変わることもあるためか、比べてみると全然違うこともしばしば。そう簡単に「同じクオリティーのワインを数分の1の価格で」とはいきません。
それでもこのワインには期待できます。なにせ隣接する畑ではなくて、もともとは「シャトー・トロロン・モンド」の畑の一部だったのです。しかもシャトー・マルソランの先代は、もともとシャトー・トロロン・モンドの従業員。退職金代わりに畑の一部をもらったのです。働いていたということは一流ワインのつくり方を熟知しているということ。「元従業員が畑の一部でつくる」というのですから、それで数分の1の価格はお得です。
もちろんその0.5haの畑だけでは生活できませんから、他にワインをつくっています。そちらは「シャトー・ラ・クロワ・ペイレール」という名義であり、地域も離れています。
「お得にワインを飲みたい」という気持ちをくすぐってくれるうえに、2016年という少しこなれたヴィンテージ。執筆時は輸入元さんの在庫は潤沢ですが、これに関しては次以降のヴィンテージが続くか不透明です。今のうちに楽しんでおくのがいいでしょう。
バローロ「らしくなさ」が心地よい
イタリアのバローロと言えば強烈なタンニンが特徴の赤ワイン。素晴らしい熟成ポテンシャルと上品さを持ちます。
高級感が抜群な反面、「飲みやすい」ワインの対極でしょう。ワイン初心者には嫌われやすい要素がたくさんあります。
テッレ・デル・バローロは400軒もの農家が集まる協同組合。ゆえに生産量が多く、コアな愛好家だけをターゲットにしていては、ワインを売り切ることは難しいはずです。だからこそバローロとしては控えめな酸味、バローロとしてはやさしいタンニンという味筋で、リリースしたときから親しみやすい味と価格が魅力です。
この「リゼルヴァ」も長い樽熟成と瓶熟成を経てリリース。バローロですから10年そこらで決して「古酒」なんて言えませんが、これほどの香りの複雑さは若いワインではありません。それでいてこれからさらに熟成していくことも期待できます。
食後にソファーでリラックスしながらこのワインをゆっくり嗜む。きっと時間の流れがより穏やかなものに感じることでしょう。
少し熟成した赤ワインがもたらす魅力
今回ご紹介しているのは、「出来上がったばかりの若いワイン」ではないけれど、「古酒」とも言えないもの。つまり少しだけ熟成した赤ワインです。
〇若いワインにはない風味や口当たりがあること
〇古酒と違ってそう高価でもなくハズレが少ないこと
大きくはこの2つの理由で、ちょっと熟成したワインに注目すべきです。
若い赤ワインと少し熟成した赤ワインの違いとは?
ワインの香りの質、どんな香りを感じるかは、熟成によって変化します。
一般に若いころはフルーツや花などの香りが強く現れます。それが年月を経ると皮革や腐葉土、紅茶やドライフラワーなどの複雑な熟成香が現れはじめます。
文字に表してもあまり「美味しそう」と感じないですよね。熟成した美味しいワインを飲む経験があって初めて、熟成ワイン特有の香りを「美味しそう」と感じるように刷り込まれていくのだと考えています。
香りとともに味わいも変化します。
赤ワインの場合顕著なのはタンニンの変化。時間とともにタンニンが重合したり澱となって析出したりすることで、渋味がまろやかになります。単に渋味が穏やかなのとはちがい、渋味がありつつも滑らかで心地よく感じるようになっていきます。だから「渋味がイヤならもともとタンニンの少ないワインを選べばいいじゃない」というのとは違います。
ワインの熟成と『飲み頃』
盛んに目にするワインの「飲み頃」という表現は、厳密に定義しようとすると非常に難しい言葉です。
ワインが瓶詰され出荷されたときの美味しさを100点とします。それが次第に90点、80点と落ちていき、60点になるまでを「飲み頃」とする。あくまで点数はイメージですが、「飲み頃」という言葉はそういう風に使われます。
中には点数が下降する前に、120点、150点というようにさらに美味しくなるワインもあります。その美味しさの頂点が「飲み頃のピーク」であり、ピークの点数が高いワインを「熟成ポテンシャルがある」というように評します。
ただしこの点数は、イメージをもってもらうために例えとして表したもの。ワインの風味において何を重視するかで、飲み頃やピークの判断に違いが出ます。凝縮した果実味が好きな人と、繊細で複雑な熟成香が好きな人では、あらゆる基準が異なります。
この「飲み手の好みの多様性」は全てのワインに言えること。熟成ワインに関しても意見が分かれるのが面白いところで、決して「古いワインが素晴らしい」というのは違います。
ちょっと高いワインだからこそ熟成する
手頃なワインの多くは発売されたときが飲み頃です。熟成によって風味が増して美味しくなるものは一部で、その多くはだんだんとパッとしない風味になっていきます。フレッシュなフルーツ感がは、魅力のワインなどは特に、そのフレッシュさが失われるとともに劣化していきます。
一方で中価格帯のワインは、熟成ポテンシャルを持つ割合がぐっと高まります。数年単位で風味を増していくでしょう。
かといって数万円もするような高級ワインよりは早く変化が現れます。5000円前後のワインは3~5年も保管すればある程度はっきり風味の違いを感じます。
一方で例えば「バローロ」のようなポテンシャルの高い長熟型赤ワインだと、10年程度では大して変化を感じられません。「何十年後にも楽しめるから素晴らしい」という評価もあれば、「熟成するのを待ってられない」という見解もあります。
若いワインとの違いを感じる目安
「〇年くらい熟成させれば違いを楽しめる」これを画一的に言うことはできません。ただし5000円前後の赤ワインを想定して、タイプ別に考えるなら、ある程度目安は示せます。
ワインのタイプ | 代表的な品種や産地 | 熟成の目安 |
---|---|---|
タンニンの強いタイプ | ネッビオーロやタナ種など | 10年以上 |
適度なタンニンで濃厚、酸味の低いタイプ | 南イタリアのハイクラスやカリフォルニアのエントリークラス | 5年程度 |
適度なタンニンで酸味も高いタイプ | ボルドーやマーガレットリヴァーなど | 5~8年 |
タンニンは穏やかで酸味高く上品なタイプ | 冷涼産地のピノ・ノワール | 5年程度 |
フルーツ感主体でまろやかなタイプ | グルナッシュやジンファンデルなど | 3年程度 |
このうえでより価格が高くなるほど、熟成が進むスピードはゆっくりになる傾向があります。
またスクリューキャップのものや、高級で丈夫な天然コルクをつかっているようなワインは、熟成のスピードがよりゆっくりです。
飲み頃のピークは上記の年数よりもっと後でしょう。しかしこれくらい熟成していれば、熟成の効果をわずかなりとも感じ始めます。少なくとも「まだ待つべきだった、もったいないことをした」という後悔はないはず。
熟成のピークの見極めは多くの経験を要します。飲むのを我慢して我慢して、開けてみたら飲み頃を過ぎつつあり、期待したほどの味でなかった。そんなガッカリの危険もあります。
だからこそ、飲み頃のピークではなくその手前。ようやく熟成の風味が現れはじめたころのものが、失敗が少なく安心なのです。
限定でないがゆえの安心感
今回ご紹介したワインは、「在庫あるだけで終売!」というような数量限定のものではありません。決して多くはありませんが、執筆時には輸入元さんにまだ同じヴィンテージの在庫があり、追加発注が可能です。
だからこそある程度良い状態が期待できる安心感があります。
もっと古い、20年を超えるような「古酒」となると、日本に入荷するのが数本だけ。1本ということすらあります。そうなると輸入元さんも試飲で1本開けるわけにはいきません。
ワインは経過年数が長いほど保管状態の影響を大きく受けますし、ボトル差も大きくなります。「絶対に美味しい」なんてことは期待してはいけません。古いワインは伸るか反るかのギャンブル的な要素があります。
一方で今回のような少し熟成したワインは、数量があるので輸入元さんは何度も試飲しています。我々も味を確かめた上で仕入れを決めています。
もちろんワインに100%はありませんが、それでも開けて残念な味になっている可能性はかなり低い。スポットで入荷する熟成ワインに比べて安心感があります。
熟成ワインを年末に飲むべき理由
上記のとおり長い年月をかけてワインは熟成していきます。であれば飲むのが今月か来月か、半年後でもそう大きく味わいは変わりません。
いつ飲んでも美味しいだろうことは承知の上で、年末のこの時期におすすめしたい理由があります。
寒い季節にぴったりの温度で楽しめる熟成ワイン
熟成したワインの飲みごろ温度は少し高めです。高い温度でこそ特有の熟成香が開いてくるからです。
若い赤ワインの飲み頃温度が13~15℃くらいだとすると、しっかり熟成したワインなら18~20℃くらいまで上げた方がいいでしょう。
少し熟成したワインなら、その間の16~18℃くらいを目安にするといいはずです。
寒い季節って冷たい飲み物はあまり気が進みませんよね。人肌まで温めては流石にワインの味が壊れてしまいますが、それでも他のワインに比べると体を冷やすことが少な目です。
人が集まる時期にこそ飲んで欲しい
もう一つは欠点を補うもの。熟成したワインは日持ちしないという欠点がありますが、3,4人以上で飲むならそれは欠点になり得ません。
ワインには発酵時に生じた亜硫酸が含まれていますし、瓶詰後の保存を想定してある程度の量が添加されています。亜硫酸は酸化防止剤として働き、抜栓前も抜栓後もワインを酸化から守る働きをします。しかし年月を経れば亜硫酸は消費され、酸素から守る力は弱まります。
5000円程度のちょっと熟成したワインなら、「抜栓時から加工曲線」ということはあまりありません。眠りから覚めるように抜栓後数十分かけてピークに達し、そのあとゆるやかに下降していくのが通常です。しかしそれは若いワインに比べて非常に早く、何も対策しなければ翌日にはフレッシュな果実味が失われ、酸っぱさや渋味が目立つワインになっていますでしょう。
プルテックスのアンチオックスやアルゴンガスであるパワーセーブProなどを使えばある程度防げます。しかし完璧とは言えず、その日限りの味わいを3,4日程度に伸ばすことができたら万歳という程度。ワインによっては対策をしたうえで翌日劣化していた経験もあります。
だからこそ年末にこそ開けたい。忘年会、クリスマス、正月と親族など、年末には親族や友人数名で集まる機会が多いはず。そういう機会に少し熟成したワインを用意すれば、「なかなか手に入らなさそうな古いワイン」という特別感もアピールすることにもつながり、多くの人を満足させられることでしょう。
一年の締めくくりにふさわしい特別感
一年を振り返り、自分の頑張りを労う季節。あるいは新年を見越してさらなる飛躍を心に誓う季節。
特別な時期だからこそ、いつもと少し違う体験をしたいものです。
飲むワインをちょっといいものにしてみるのが、手軽にできる「特別な体験」の一つ。
「ちょっと熟成」といっても、数年の年月が必要です。時間の魔法がかかったからこそ味わえる香りや味わいに酔いしれるひととき。それは忙しさに沸騰しがちな頭をリセットしてくれて、おうち時間をよりリラックスできるものにしてくれるでしょう。
少し熟成したワインをより美味しく飲むコツ
ワインの感じ方はその飲み方によっても変わります。飲み方とはワインの温度や抜栓後の取り扱い、ワイングラスの選択などです。
どうせ飲むならレストランほど完璧でなくとも、なるべく美味しく飲みたいもの。ワインのポテンシャルを引き出すコツをご紹介します。
熟成ワインはより高めの温度で
先述のように熟成によってもたらされる香りは、高めの温度でより豊かに感じます。
若いワインよりも2~3℃高め。16~18℃を目安とするといいでしょう。
暖房のかかった部屋に置いておけば、じわじわと温度が上がってきます。2,3人程度の少人数で飲む場合は、少し低めからスタートして徐々にあたため、風味の変化を楽しんでもいいでしょう。
逆に7人以上となると1杯勝負ですので、最初から18℃付近の温度にしっかり調整すべきです。
適度な早め抜栓
「熟成ワインは日持ちしない」と申しましたが、早く飲みすぎるのも考え物。経験的に開けた直後はあまり風味が開いてくれないものが結構あります。5~10分、あるいは30分程度の時間でぐっと良くなるかも。
かといって3時間前に開けてしまうと、今度は酸化が心配です。
開けた直後に味見をして、すぐに飲み始めるか待つかを決める。その判断力を培っていけるのが理想です。何本か飲むワインがあるときは、開けてすぐ美味しいワインもあり順番を柔軟に入れ替えられると、ベストな状態で楽しめるでしょう。
いつもより大き目なグラスで
熟成ワインの大きな魅力である、複雑で豊かな香り。それを最大限味わいたいなら、いつもより少し大きめのワイングラスを使用するといいでしょう。
ボルドータイプのグラス、ブルゴーニュタイプのグラスともに、およそ700mlを超えると「大ぶり」と言っていいでしょう。ワインの持つポテンシャルを最大限に引き出すことができるはずです。
できればその日のうちに飲み切るか保存法を工夫
先述のとおり熟成したワインは日持ちしにくいです。数日かけてより美味しくなっていくのは、なかなか特殊なワインだけ。
抜栓したその日のうちに飲み切ってしまうのが理想的です。
パーティーシーンなら問題ない。しかし普段の晩酌にて1日1本飲み切るのが難しい場合もあります。
その場合は先述のアルゴンガス&アンチオックスのような保存グッズを使って、酸化を防ぐ工夫をすることで翌日の楽しみが増します。
「今しか味わえない」飲み頃ワインの魅力で年末を贅沢に
厳密に言うなら全てのワインは一期一会です。
全く同じ天候だったヴィンテージなどありませんから、その年の味はオンリーワン。さらにそれが年月を経ることで風味が変化していく「熟成」があります。
とはいえブドウ品種の違いなどに比べれば、相対的に小さな違い。「普段からワインは良く飲んでいるけれど、ヴィンテージや熟成による違いなんて考えたことなかった」という方も多いはずです。
しかし今回ご紹介するように、5年、7年、10年と熟成したなら、明確な風味の違いを感じます。
一方でこういったちょっと熟成ワインは、同じ味が長く続きはしません。熟成で変化していくから。同じ銘柄・ヴィンテージのワインは遠からず完売し、より新しいものに切り替わってしまうからです。選択肢の数は、若いヴィンテージのワインに比べると圧倒的に少ないです。
だからこそ一期一会。だからこそ「今しか味わえない」ワインです。
その特別なワイン、特別な体験は、きっとあなたの心にワクワクと驚きをプレゼントしてくれるでしょう。