際立った個性を持つ極めて長寿なリースリング
マーカス・モリトールはモーゼル中部のヴェーレナー・クロスターベルクの地で8代続く家族経営のワイナリーである。現当主マーカスは1984年、若干20歳という若さで両親からワイナリーを引き継ぐが、当時から野心にあふれ、明確なビジョンを持っていた。すなわち、モリトール家の伝統のもと、このモーゼルの地で際立った個性を持つ極めて長寿なリースリングを生み出すことである。このビジョンのもと、わずか4haであった畑は複数回にわたる拡張によって規模が拡大していく中で、1988年にはモーゼルでピノ・ノワールを再植樹した最初のワイナリーのひとつとなり、2003年にはエクスレ度(収穫時のブドウの糖度)で331°Oeという世界記録を打ち立てるといった偉業を成し遂げ、現在ではモーゼルで最大規模となる100haの畑を所有し、質・量ともに満たす数少ないワイナリーとなる。
畑はモーゼル中部のブラウネベルクからトラーベン・トラールバッハまでの15ヵ所にまたがり、大部分は最良の急斜面に位置し、ベルンカステラー・ドクトール、ヴェーレーナー・ゾンネンウーアー、ユルツィガー・ヴュルツガルテンやエルデナー・トレップヒェンといた超一級の銘醸畑を所有している。川の蛇行に沿って点在するこれらの畑には様々な土壌が見られ、灰色や青色のデヴォニアン・スレート、火山活動によって形成された赤色のスレート、トリアー近郊でみられる多彩な砂岩などがある。マーカスはこうしたバラエティに富むテロワールから辛口・中辛口・甘口という3つの異なるスタイルに加え、さらに赤ワインも造っているため彼のワインはあらゆる種類のモーゼルワインを代表しているといっても過言ではない。
膨大な数の全てのワインが卓越した品質を持っている
マーカス・モリトールでは毎年多く種類のワインが生産されるが、驚きなのはこの膨大な数の全てのワインが卓越した品質を持っているということである。その秘密は、まずブドウの木にある。マーカスは樹齢100年に及ぶ接ぎ木していない古木を所有しており、その古木から高い割合でマッサル・セレクションを行っている。次に栽培における非常に献身的な姿勢であり、畑には熟練者を50人も雇って夏の間のキャノピー・マネジメントと2ヵ月に及ぶ収穫をともにする。一粒の実でさえ、少なくとも2度の選定を受け、特に辛口に関しては、ほんのわずかでもボトリティスが付いていれば、他に感染しないようしっかりと区別される。健全なブドウは区画ごとに数回摘果を行い、成熟度別に注意深く分類する。
また、収穫に関しては、より高いリスクが伴うとしても非常に遅く行う。こうすることで、ブドウの酸度がより熟し、攻撃的でなくなること、またエキス濃度が上昇し、フェノールの成熟度がより高くなること、そしてこれらの要素がワインのストラクチャーに素晴らしい効果を与えるといった多くのメリットを享受できるのだ。
醸造では、培養酵母や添加剤、清澄剤を使わないといた伝統的なワイン造りで、スタイルとヴィンテージによっては最長で2日間スキンコンタクトした後、垂直式の圧搾機でプレスし、リースリングの多くは1000~3000Lの伝統的なオーク樽で発酵・熟成させる。
歴史的にも非常に高い評価を得る
こうしたこだわりを持って造られるマーカスのワインは、歴史的にも非常に高い評価を得ており、1996年にはTBAが当時の最高値となる1000ドイツマルクを付け、2012年にもTBAがオークションにて2750ユーロという最高額を更新。世界最高峰との呼び名の高いエゴン・ミュラーやJJプリュムらと肩を並べ、品質・価格の面で全く引けを取らない。さらに、甘口のアウスレーゼにおいては、2011VTがドイツで3ワイナリー目となるWA100点を獲得、2013VTではドイツ史上初となる3アイテム同時に100点獲得という歴史的快挙を成し遂げる。一方、中辛口においても2015VTで100点、さらに辛口でも2015VTで99+点を獲得しており、リースリング以外の品種でも「低価格帯でこれだけ洗練されていて、複雑なピノ・ブランは滅多に見つけられない」とロバート・パーカーから絶賛され、ピノ・ノワールにおいては、ヴィノム誌のブラインド・テイスティングでドイツトップピノ・ノワール一位を獲得、またインターナショナル・シュぺートブルグンダー・シンポジウムのグランド・ピノ・ノワール・アワード2011、2012で優勝と世界的な評価を得ている。品種や甘口・辛口といった枠を飛び越えるマルクスのワインは、モーゼルのエリアにとどまらず、今やドイツを代表するワイナリーであると断言できる。
なお、ワイン名についている星マークは、*は良質、**は上級、***は最上級を意味している。この星マークは糖度(糖分が多ければ多いほど良い)ではなく、フィネス(良質であればあるほど良い)に対応している。