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ゲミシュター・サッツとは?畑の個性を表現するヴィーニンガーのワイン

2022年11月20日

 
 
「その土地の味を表現する」と生産者は言うけれど、通常はブドウ品種の特徴や生産者の腕も一緒に感じられます。
複数の品種を一緒に栽培、まとめて醸造することで、品種の個性を目立たなくする。
その「混植混醸 = ゲミシュターサッツ」と単一品種のワイン、両方で国際的な評価を受ける生産者がいます。
2つの面から楽しめるヴィーニンガーのワインを通して、ウィーン近郊のワインをご紹介します。
 
 

オーストリアワインの4ステップ

 
オーストリアはもともと大きな国ではありませんが、さらに西側から2/3はほとんどアルプス山脈が占めます。
だからワインづくりは東側の一部のエリアのみ。しかしそのワインの特徴は「オーストリアワイン」と一言でくくれないほど様々です。
 
 
しかし無秩序に多様なのではありません。大きく4つの地域に分けることができます。
それぞれの地域に気候の特徴があり、その気候に適した土着品種があり、それぞれに名産ワインがあります
 
ヴァッハウヴェストシュタイヤーマルクブルゲンランドと3回にわたりご紹介してきました。
最後は首都ウィーン近郊のワインです。
 
過去3回の記事はこちらのリンクからご覧ください。
 
 

世界で唯一、首都でワイン生産 ウィーン

 
ウィーンは現在、商業的にワイン生産が行われる唯一の首都です。
575haの畑はほかのオーストリアの産地と比較して圧倒的に小さいです。
 
 
第1回でご紹介したヴァッハウを含む「ニーダーエスタライヒ」という生産地域の東よりに浮島のように位置します。なので周りの地区とそう気候が変わるわけではありません。
それでもウィーンが独立した生産地域と認められているのは、「ゲミシュター・サッツ」という伝統があるからです。
 
 

ウィーンについて

 
ウィーンはオーストリアの首都。400㎢ほどの土地に約180万人が暮らしています。
モーツァルトやベートーベン、シューヴェルトが活躍した地であることから、「音楽の都」と呼ばれています。
美術館などもたくさんあり、観光資源が多いので、多くの外国人が訪れる地です。
 

シュテファン大聖堂

 
チョコレートケーキの代表銘柄「ザッハトルテ」もウィーン発祥ですね。
 
 
気候としては、最も暑い7月の平均最高気温が25.6℃。最も寒い1月の平均最低気温がー2℃なので、東京・大阪などと比べてずいぶん寒く涼しい気候です。
Wikipediaによる)
 
年間降水量は620mmとブドウ栽培ができる範囲でかなり少な目。少ない降水量はワインの病気の少なさに寄与します。
 
 
 

主要品種はグリューナー・ヴェルトリーナー

 
ウィーンでも最も重要な品種はグリューナー・ヴェルトリーナーです。しかしその銘醸地であるヴァッハウと比べるなら、あまり高級なものはつくられていません
 
 
ヴァッハウの北西から吹き込む冷たい風と、急斜面による豊かな日照が高品質の秘訣。ヴァッハウとその地の生産者ヘーグルを紹介した際に述べました。どちらもウィーンにはない要素です。
なのでウィーンにおいてグリューナー・ヴェルトリーナーは、普及品の価格帯を狙ってつくられています。
 

大都市を見下ろすブドウ畑はめったにない光景です。

 
ウィーンでつくられる高級ワインは、シャルドネやピノ・ノワールなどの国際品種、そして伝統的な「ゲミシュター・サッツ」です。
 
 

ゲミシュター・サッツとは

 
複数品種をブレンドするワインは珍しくありません。しかし通常は、ブドウ品種ごとにワインにして熟成させ、それぞれ出来上がったワインをブレンドします。味わいを見ながらブレンド比率を調整できるので、より醸造家が目指した味わいに近いワインをつくりあげることができます。
 
しかしゲミシュター・サッツとは「混植混醸」です。ブドウは畑の時点で混ざっています。アメリカで「フィールドブレンド」と呼ばれるものと形態は同じです。
一つの畑にいろいろな品種のブドウが植わっていても、それをまとめて収穫してしまいます。熟すのが早いピノ・ブランと熟すのが遅いリースリングも同じタイミングで収穫するのです。
 
 
収穫時点で同じカゴに入るのですから、当然発酵タンクも同じです。こうやってブドウ品種ごとの特徴というものを無視した製法がゲミシュターサッツです
 
 

ゲミシュター・サッツのねらいとは

 
我々がワインを口にしたとき感じる味わいには、様々な要素が影響します。
その中で大きなものは、「産地の特徴」「ブドウ品種の特徴」「生産者の特徴」「ヴィンテージの特徴」です。
 
 
いろいろなブドウ品種をごちゃまぜにしてつくれば、それぞれの品種特性は平均化されます。結果としてワインに「ブドウ品種の特徴」があまり感じられません。
その結果「産地の特徴」や「ヴィンテージの特徴」が際立つというのが、ゲミシュター・サッツでワインをつくる生産者の狙いです。
ゲミシュター・サッツにより「テロワールが表現される」と考えるのです。
 
 

なぜ産地特徴を強調する?

 
ワインがこれほど種類が多い理由の一つは、この産地の特徴をほかのお酒に対して感じやすいからです。
そしてその特徴がはっきりすればするほど、類似品がつくられにくいのです。だってその畑はそこにしかないから。
 
 
ブルゴーニュの「ロマネ・コンティ」という畑でつくられるワインは、とても高価に取引されます。だから「ロマネ・コンティみたいなワインをつくりたい」という生産者はたくさんいます。でもつくれません。なぜならロマネ・コンティはヴォーヌ・ロマネ村のそこにしかないから。他の畑ではその香味は表現できないと多くの人が考えるからです。
 
ロマネコンティほど有名でなくても、畑の特徴の現れたワインは飲み手を楽しませてくれます。同じようにつくっているのに、畑が違えば味わいが違うと。
オンリーワンのワインであると感じ取れるほど、飲み手は相応の価格に納得できるでしょう
 
 
しかしブドウ品種の特徴が強く表れていると、産地の特徴が感じ取りにくくなります
 
例えばゲヴュルツトラミネールという品種。ライチやバラのような甘い香りが強烈で、品種特徴はこの上なく感じ取れます。ゆえにアルザスのゲヴュルツトラミネールとニュージーランドのゲヴュルツトラミネール。ブラインドテイスティングで判別するのは難しいんじゃないでしょうか。
 
 

フリッツ・ヴィーニンガーさんが認めたゲミシュター・サッツ

 
ゲミシュター・サッツは今や、ウィーンを代表するワインとしてオーストリアのワイン法で認められています。その地位向上に貢献したフリッツ・ヴィーニンガー氏は、実はかつて「ミスター・シャルドネ」と呼ばれるほど樽熟成したシャルドネで名をはせた人物です。
 
 

シャルドネとピノ・ノワールの名手

 
ヴィーニンガー家はもともとワインづくりをしていた家系です。
しかしながらオーストリアでは、ワイナリーの跡継ぎに対して海外での研修を推奨しています。国際的な視野を持ってオーストリアワインを盛り立ててくれることを期待してです。
 
 
フリッツ・ヴィーニンガー氏はカリフォルニアで修行しました。樽熟成した高品質なシャルドネの技術を持ち帰り、オーストリアでも同様のワインで成功します。
「オーストリアといえばグリューナー・ヴェルトリーナー」というのは、世界市場向けにオーストリア側が意図的につくったもの。実はオーストリアで最も人気のあるワインは、樽シャルドネだそうです。
 
ヴィーニンガーのワインとして、プレミアムクラスのシャルドネとピノ・ノワールをリリースしています。
「シャルドネ グラン セレクト」は、どこのワインと比べても価格相応の価値を感じさせてくれるワインです。ドイツの高級シャルドネとは違った、マットな口当たりが素晴らしいワインです。
 
 
ヴィーニンガーの「ピノ・ノワール セレクト」も決してバカにできません。ドイツのピノ・ノワールとは全く別物。しいて言うならオレゴンが近いバランスでしょうか。
 
 
自然酵母由来と思われる複雑な風味が魅力です。
 
これらのワインは間違いなくワールドクラス。どこに出しても恥ずかしくない、確かな醸造技術が感じられる高品質なワインです。
ただし、この2つのワインにオーストリアを感じられるかというと、筆者にはわかりません。似たようなワインがほかにありそうな気もします。
 
 

「ニュスベルク」の畑で衝撃を受ける

 
そんな折、1999年に「ニュスベルク」という非常に条件のいい畑を譲りうけました。そこにはゲミシュター・サッツをつくるべく、複数の品種が混植されていました。
 
 
当初フリッツ氏は、樹をひっこぬいてシャルドネを植えるつもりだったといいます。高い評価を受け自慢のシャルドネをもっとつくるために購入した畑なのです。
しかし購入したのがもうすぐ収穫というタイミングでした。せっかくのブドウ、捨ててしまうのはもったいない。1回だけもとのブドウでワインをつくって、それから植え替えよう。
 
 
1回だけのつもりでつくったゲミシュター・サッツが、めちゃくちゃ美味しかった。シャルドネの方がいいと思っていたフリッツ氏の価値観を覆してしまったのです。
それがきっかけでゲミシュター・サッツの良さに目ざめ、このワインを世界に発信するブランドワインにすることに心血を注いだのです。
 
 
 

ゲミシュター・サッツで表現するテロワールワイン

 
当店ではヴィーニンガーがつくるゲミシュターサッツのワインを3つ扱っています。
そのうち一つは「ウィーナー・ゲミシュターサッツ」というスタンダードクラス。このクラスは畑名表記が許可されていません。
 
KATAYAMA
香りからは程よく熟れたフルーツを感じるのですが、「オレンジのような」みたいに言い切れるほどハッキリしません。このなんとも言葉にしづらい感じがゲミシュターサッツならではなのでしょうか。口に含むとはつらつとした感触があるのですが、そんなに酸味は高くありません。口全体でほのかな苦味を感じ、これが食中酒として飲んだ時に旨いんです。完全なるメシワインですね!
 
実際にこのワインも、複数の畑からつくられます。それはつまり、「ウィーン全体の特徴とヴィンテージの特徴を表すように」という意図でつくられているワインだということです。
 
このほかに2つ、畑名を表記した上級ワインを扱っています。
 
 

最高の畑の最高の区画から

 
緯度の高い産地において、南向きの畑は効率的に日照を受けられる理想的な条件。
先述の「ニュスベルク」の畑の中で、貝殻石灰質土壌の南向き斜面。そんな申し分のない区画が「ローゼンガルトル」です。
 
 
 
貝殻石灰質土壌らしく、チョーク状の細やかなミネラル感が、ほのかな苦みとなって表れることもあります。しかしこのワインに関しては、ブドウの凝縮感が非常に高く、その苦みが目立つことはないでしょう。
 
 

畑の冷涼さを感じる1本

 
この「リート ヴァイスライテン」の畑も貝殻石灰質土壌です。
(オーストリアワインで「リート○○」とつけば畑名。単一畑でつくられたワインであることがわかります)
その点では先ほどのローゼンガルトルと同じです。違いはヴァイスライテンの畑が北東向きであること
 
 
北半球では南向き斜面が最も効率よく日照を得ることができます。これは日差しの弱まる高緯度地域であるほどメリットが大きくなります。ブドウが熟しやすくなるのです。
その典型的なものがドイツの急斜面の畑です。
 
 
ただしこの数十年で地球温暖化の影響が大きく現れてきました。日当たりのいい南向きの斜面でなくとも、北東向きの比較的冷涼な畑でもブドウは十分に熟すことができます
 
畑の向きの違いが、上品な高い酸味となって現れます
執筆時に二つのワインのヴィンテージが違うので単純な比較はできませんが、それぞれの酸度は次の通り。
 
  • ローゼンガルトル 2017年 5.1g/L
  • ヴァイスライテン 2018年 5.9g/L
 
酸度=酸味の強さというわけではありませんが、ヴァイスライテンの方が上品に感じるのは毎年だそうです。
 
 

「ハイサンノイマン」ブランド

 
上記のヴァイスライテンは、厳密には「ヴィーニンガー醸造所」のワインではありません。「ハイサンノイマン」というワイナリーです。ただ、どちらもオーナーはフリッツ・ヴィーニンガーさん
当然ゲミシュター・サッツを大事にするつくりも一緒なので、同じように輸入されています。
 
 
ヴィーニンガーの方は生産規模の記載がありませんでしたが、ハイサンノイマンの方だけでも年産11万本。
ヴィーニンガーさんがウィーンを代表する生産者であることは疑いようがありません。
 
 

オーストリアの新酒「ホイリゲ」もゲミシュター・サッツ

 
ボジョレー・ヌーヴォーのように、オーストリアにも新酒を楽しむ習慣があります。
それが「ホイリゲ」です。
 
 

ホイリゲの本来の意味

 
「ホイリゲ」の言葉としての意味は「今年の」だそうです。しかし実際に使われるのは、ワイナリー直営の期間限定の居酒屋。220年以上前に当時の皇帝が「年間300日以内に限り、自家製ワインを販売し料理を提供するお店をやってもいい」と許可を出しました。
その居酒屋のことを「ホイリゲ」と呼び、毎年11月11日にその年の新酒が解禁されます。
 
 
そこで飲まれる新酒は、ワイングラスではなくジョッキで提供されるのだとか。
 
冒頭で述べた通り、ウィーンは唯一の首都にあるワイン産地。首都だけあり多くの人が住み、働いています。
推測にはなりますが、収穫の時期になるとアルバイトが募集されるんじゃないでしょうか。あるいは親戚・友人がワイナリーを営んでいるとか。
いつもはほかの仕事をしているけど、毎年収穫を手伝っている。自分の手で収穫したブドウとなると、新酒の味わいもまた格別でしょう。ワイナリーが営む「ホイリゲ」では、自分で収穫したブドウがワインとなって楽しめるわけです。
 
 

日本で楽しめる「ホイリゲ」

 
ホイリゲの習慣が特に浸透しているのがウィーン周辺。そしてウィーンで伝統的につくられるのがゲミシュターサッツということもあり、当店にもゲミシュター・サッツのホイリゲが入荷します。
 
 
当店では3年前から取り扱いを始めました。年々その人気が高まっており、2022年は白5ケースほぼ全量が予約完売。日本で流通する銘柄数が少ない割には、認知度が高いようです。
 
 

ゲミシュター・サッツの活躍の場

 
ではゲミシュター・サッツはどんな時に飲むべきワインなのか。
もちろん「どんなときでも!」と答えたいところではありますが、あえて挙げるなら「ヘルシーな家庭料理」と「懐石料理」です。
ポイントはいろいろな料理をちょっとずつ食べるのと、それぞれがあまりヘビーでないことです。
 
 

ゲミシュター・サッツのブドウ品種

 
ゲミシュター・サッツは「ブドウ品種の特徴が平均化される」とは述べましたが、全く関係なくなるわけではありません。ブレンドされるそれぞれの品種の個性はぼんやり現れます。
 
 
ウィーンで栽培されるブドウは、グリューナー・ヴェルトリーナーを第一に、リースリングやヴァイスブルグンダー、ノイブルガー、ヴェルシュリースリングなど。
いずれも上品な口当たりで酸味がやや高めなものが多いです。そしてフードペアリングにおいては、あまり苦手とする食材がない品種です。
 
 

ブレンドだから何かしらが合う!

 
ブドウ品種それぞれに、得意とする料理・苦手とする料理があります
単一品種だと、相性がいいときはピタっとあうけど、ハズレたときはとっても残念。
その点ゲミシュター・サッツのようなブレンドのワインは、様々な料理に対して平均以上の相性を見せてくれます。ブレンドされている品種のどれかが、その料理とよく合うのです。
 
 
「なんでもあう」とは申しません。特に味の濃い煮込み料理や「がっつり肉!」みたいな料理は苦手とするところでしょう。
しかし「いろいろな料理をちょっとずつ」といったものには無類の強さを発揮します。その代表格が懐石料理。
 
 
煮物などの出汁のきいた料理。生の魚。酢の物。油をつかった揚げ物・・・・すべてに1本で対応しようと思えば、ゲミシュター・サッツの有用性がより際立ちます
お寿司などもいいでしょう。とある日本トップクラスのソムリエさんが勧めているそうですが、様々なネタを順に楽しむお寿司において、コースを通して楽しめることは非常に重要です。
 
その利点は家庭料理にも応用できます。
晩酌に3本4本と様々なワインを開けるのは現実的ではありません。でもいくつも料理を食べたほうが、栄養バランスは良い。いろいろ食べる料理すべてにこれ1本でOKというワインこそ、晩酌向けのワインです。
 
 

伝統製法で感じるウィーン

 
畑にブドウ品種をごちゃまぜに植えて、それをまとめて収穫しワインにする。
原始的な製法にも奇抜な製法にも聞こえますが、実はその狙いはテロワールの表現にあります。
 
畑がどんな位置にあるのか。どんな気候でどのような土壌なのか。そのヴィンテージはどんな特徴があったのか。
ブドウ品種の特徴が平均化されることで、畑やヴィンテージの個性が際立ちます
 
それが「ゲミシュター・サッツ」です。
 
 
ワイン選びの基本はブドウ品種の特徴を知って自分の好みに当てはめることです。
その選び方が成功していると、つい品種ブレンドのワインを敬遠しがちです。
そんな方はこう考えてください。「ゲミシュター・サッツというブドウ品種」だと。
品種名にこだわっていては体験できない面白さ、そして使い勝手の良さが、ウィーン伝統のゲミシュター・サッツにはあります。





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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