ステレンラストがつくるワインは、クラスによって大きく雰囲気を変えます。
「安くて美味しい」を詰め込んだようなバリューラインと、醸造家の理想を反映したトップレンジ。
生産規模がある程度大きいからこその、多くの人に続けて楽しんでもらうための工夫があります。
一度飲んだらまた飲みたくなる、他のワインも飲みたくなる!その秘訣をご紹介します。
一口飲んで「こんなに美味しいのにお手頃!」
こんなに美味しくて、この値段なんだ!
高級感がある!ワイングラスでゆっくり飲みたい
4000円でこんな素晴らしいワインがあるなんて!
大阪の某百貨店のワイン祭をはじめ、一般消費者向けの試飲販売。
〇プラカップで少量の試飲
〇多くのお客様はそれほどワインに詳しくない
そんな条件のもと、毎回のように大人気なのが、このステレンラストがつくるワインだといいます。
ステレンボッシュのワイン生産
今回ご紹介するステレンラストは、南アフリカの西ケープ州、ステレンボッシュというエリアにあります。
ステレンラストのロゴに「Since 1928」とあるとおり、この地でもうすぐ100年。比較的歴史の長い生産者です。
南アフリカワインの中心ステレンボッシュ
南アフリカ全体が約9万haに対して、その栽培面積は約1.5万ha。1/6を占める南アフリカ最大の産地です。
国内で唯一ワインの醸造・栽培を学べるステレンボッシュ大学もあり、名実ともに南アフリカワインの生産の中心と言えるでしょう。
生産量が多いといって、決して安ワインを大量生産する産地ではありません。かといって高級ワインばかりというわけでもなく、手ごろなワインからフランスやアメリカに対抗しうるワインまで、幅広く生産している地域です。
ステレンボッシュの風土
ステレンボッシュ全体の気候をざっくり表すなら、程よく乾燥しており温暖です。
年間平均気温が16.2℃で、年間降水量約800mm。土壌や樹齢などによっては灌漑を必要としません。ただし地中海性気候であり雨は冬場に偏っていますので、ブドウの生育期は安定しており病害のリスクは低いです。
夏季の平均最高気温27.1℃。平均最低気温が15.5℃。まずまず寒暖差があります。
このようにブドウ栽培に恵まれた環境であり、古くからワインづくりの地として開拓されてきました。なのでステレンボッシュには歴史が長いワイナリーがたくさんあります。
ステレンボッシュの中で栽培条件を決めるもの
ステレンボッシュは広いエリアです。なのでステレンボッシュの中のどこに位置するかで、ワインの特性は変わります。
その要因は主に、標高や山との位置といった地形によるものと、畑の位置が海からどれだけ離れているかです。
南アフリカはある程度緯度が低い産地であり、日差しは強いです。山の麓に畑がある場合、標高が高ければ冷涼なのは世界中同じです。それに加えて山が日照を遮るかどうかも重要です。
例えば山の西側斜面にある畑なら、朝日に照らされ始める時間が遅くなるので、日照時間が短くなり畑は少し冷涼になります。
加えて海からの距離が重要です。南アフリカの沿岸には南極からの寒流が流れています。ゆえにステレンボッシュの南にあるフォールス湾の海水温も冷たく、海からの風は冷却効果を持ちます。
南に行くほど畑は冷涼になるのです。
ステレンラストの畑
ステレンラストは2か所に分かれて畑を所有しています。
おしゃれなテイスティングルームの建物もあるヘルダーバーグ地区と、それより少し北側で醸造設備のあるボタラリー地区。
ともにステレンボッシュとしては南側の涼しいエリアです。
もし気候がワインの味わいに直結するのなら、ステレンボッシュのワインとしては繊細で上品な部類になるはず。
とはいえそこにはつくり手の哲学や狙いが介入するので、ワインは気候だけでは語れません。
120haのブドウを売り続けるために
ステレンラストが所有する畑は120haもあります。
もし仮に単位面積当たりの収量が60hl/haだとしたら、年間96万本ものワインがつくられる計算です。
ワインをその量つくり続けるためには、それだけ売り続けなければいけません。
南アフリカには安くて美味しいワインがたくさんあります。たくさんのワインの中から、自分たちがつくるワインを購入しつづけてもらう工夫が必要。ステレンラストのワインからはそれを感じます。
受ける味をつくる
美味しいワインを低価格につくれば、消費者に好まれる。そりゃ当たり前です。でも「美味しいワイン」って、ものすごく難しいですよね。「美味しいってなに?誰に対しての美味しいなの?」
そもそも全てのワインが「美味しいワインをつくろうとして」つくられている訳ではありません。その最たるものがブルゴーニュワイン。特に人気のある生産者ほど「テロワールやヴィンテージの特徴を素直に表現した。なるべく自分の手の介入を少なくした」といいます。
ボルドーやシャンパーニュの大規模生産者は「ワイナリーのスタイルを守ったワインをつくる」というところが多いように思います。醸造家個人の意思ではない、ワイナリーとしての「美味しいワインとはこういうもの」があって、それを目標にワインをつくるわけです。
ターゲットとなる市場にてワイン消費者の嗜好を分析し、それに沿ったワインをつくる。そういったことは本当に大規模な生産者しか行っていません。
というのも大多数のワインはそんなに生産規模が多くなく、個性的なワインを好むニッチな市場で十分に売り切れるからです。
ステレンラストがそういったマーケティングに沿ったワインづくりをしているかどうかは、情報がありません。しかし結果的に『ワイン通ではなく一般的な消費者に受ける味をつくっている』というのは間違いないと考えます。
一般に受ける味とは
市場ボリュームのある一般消費者に受ける味とはなにか。それがわかれば苦労しません。そんな方程式があれば、きっとほとんどの生産者が似たようなワインをつくるようになってしまいます。
だから「こんな味はヒットする」なんて最適解はありませんが、一般消費者に嫌われにくいワインの特徴なら予想できます。
まず酸味は高すぎない方がターゲットが広がります。
高級なワインほど高い酸味を持つものなので、ワイン愛好家の酸味に対する味覚はおおよそマヒしています。彼ら彼女らの「ちょうどバランスのいい酸味」は、一般的には酸っぱいです。
ちなみに筆者片山はかなりの酸フェチ(別名:酸性人)なので、片山の「酸が低い」は一般人の「酸がやや高い」です。
「風味の複雑さ」は高品質なワインに必要な要素ですが、一般的な消費者がみなそれを求めているわけではないと考えます。むしろ風味は2,3種類とシンプルだとしても、ハッキリとした特徴が現れているなら、喜ばれるワインとなる可能性があります。いわゆる『わかりやすいワイン』です。
※「わかりやすいワイン」という表現をプロはよく使いますが、一般の人からするとよくわかりませんよね。ダメな言葉だと思います。
一般受けが抜群なステレンラストの2つのレンジ
ステレンラストのワインポートフィリオとして、おそらく5つのクラスに分けてワインが展開されています。
そのうち同社のHPに掲載されているのが4つのクラス。最上位クラスは掲載されていないようです。
そして日本には3つ。正確には4つのレンジのワインが入ってきています。全てのワインが輸入されているわけではなく、輸入元さんのラインナップや競合商品などを考慮して厳選されています。
下から3つのクラスのワインは、「あ~これ受ける味だよね」というのを強く感じる味わいです。
プレミアムレンジ
ステレンラストのHP上では下から2つ目。「Stellenrust Premium Range」が、ここで紹介する白いラベルのワインです。
「難しいことは何もしていないんだろうな」と感じる、品種の特徴を素直に表したワイン。それでいて2000円強の手ごろな価格帯は、ついリピートしたくなります。
シュナン・ブランという品種はともするとボディ感が弱く、下手に安いワインを選ぶとペラッペラな印象を受けます。
しかしステレンラストのこのワインは、30~44年となかなか高い樹齢のブドウをつかっているのと、一部オーク樽発酵していることにより、十分なボリューム感があります。
このピノタージュの方は、「赤ワインとしての嫌われにくさ」を備えたワインです。
手ごろな赤ワインは風味の複雑さやボリュームに欠けがちです。でもそれは価格的に仕方のないことであり、それが原因でそのワインを嫌うことはあまりないでしょう。
しかし「酸味が強すぎる」「渋みが強すぎる」「果実味・酸味・渋みのバランスが悪い」などは、「不味いワイン」と感じる原因となり得ます。
その点でこのワインは、高い味は全くしませんが、嫌われる要素を徹底排除したワインです。めちゃすごいワインではないけど、ハズレのないワインなんです。
なお生産者のHPには、この下のクラスとして「Kleine Rust Range」というものがあります。
スーパー・プレミアム・レンジ & キュレーターズ・レンジ
ベーシックなレンジの上には、「Super Premium Range」と「Curator's Range Limited Edition」の2つのクラスがあります。
しかしどちらもダークブラウンのラベルであり、正直違いはよくわかりません。
「Super Premium Range」のうち日本で手に入るのはこの4つ。
サンソーはフランス原産の品種で、ローヌ地方からラングドック・ルーション地方にかけて多く栽培されています。別に珍しい品種というわけではありませんが、高品質なものは珍しい。果実味主体でタンニンが穏やか、シンプルな味わいになりやすいので、高い値段をつけにくいのです。
フランスよりむしろ南アフリカの方が、上質なものを見つけやすいかもしれません。
このワインは渋みや酸味が穏やかであり、決して5000円の味はしません。しかしストロベリーやレッドチェリーのような赤いベリーのアロマに土のニュアンスが混ざる複雑さは、決して安ワインではない。1964年植樹という非常に古い樹のなせる業でしょう
このラインナップで特に「一般消費者の味覚にあわせる」意図を感じるのがこのシャルドネです。
同地域・同価格帯のシャルドネ、ロングリッジやグレネリーのエステート・リザーヴに比べて、やや樽が強め。30%とやや多めに使う新樽熟成の効果でしょう。そのためかバタースコッチのような豪華な風味があります。よく熟したブドウに由来するネクタリンのような香りとあわせて、やや派手な仕上がりです。
産地的には収穫時期をもう少し早めて、上品な味わいに仕上げることもできたはず。そちらの方が"今風"なのでしょうがあえてそれをしなかった。
それはきっとステレンラストとして、「みんなは(プロじゃない普通の消費者は)こっちの方が好きでしょ?」という判断なのでしょう。
私がステレンラストのワインを初めて飲んだのは、このロゼ泡です。2000円台のスパークリングとしてかなり完成度が高いなと感じました。
カベルネ・フランを主体にシュナン・ブランなどをブレンド。南アフリカとしては珍しい構成ですが、これはロワールのスタイルをまねたからです。ラベルに表記される「Clement de Lure」はそういう意味なのでしょう。「MCC」というのは「Methode Cap Classique」の略で、瓶内2次発酵を行う伝統的な製法でつくっていることを示しています。
ステレンラストのつくるワインらしく、風味として特に奇抜なものはありません。ロゼの泡らしい、チェリーや赤いベリーの風味が中心で、きめ細かい泡とほどよく長い余韻。標準的かやや多いくらいの甘味もあり、試飲会受け抜群です。
私が2020年に訪問した際はお昼前後の時間帯。ボタラリーの畑は真夏らしい猛暑でした。湿気が少ないため大阪よりは過ごしやすいものの、気温は35℃近くあったんじゃないでしょうか。
昼間の様子からは想像できないのですが、秋に入ると朝晩は霧が立ち込めるといいます。その霧が貴腐菌をもたらし、貴腐のシュナン・ブランのブドウが得られます。
マスカット・オブ・アレキサンドリアは乾燥によって糖度を高めます。完熟した後で茎を折って水分の供給をとめ、樹上で乾燥させて濃厚に甘いブドウを収穫します。
アプリコットやハチミツのような豊潤で凝縮感のある甘口ワイン。これもまたデザートワインとしては濃すぎず酸味も低めという味わい。
ソーテルヌを飲みなれている人ではなく、デザートワインを飲みなれていない人をターゲットとしているのでしょう。
ここまでがスーパー・プレミアム・レンジ。見た目は変わりませんが、次のシュナン・ブランはキュレーターズ・リミテッドエディションというさらに上のクラスと位置付けられています。
蜜の甘い風味がオーク樽の香りと混然一体となり、素晴らしい重層感をもたらす。これがこのワインの最大の特徴であり、2000円近辺のシュナン・ブランではおそらく表現不可能な味わいです。
シュナン・ブランの味わいが軽くて物足りなく、あまりこの品種が好きではない。そんな方にこそ試してほしいワインです。
KATAYAMA
オーク樽熟成しているといっても、4~6年目の樽を使っているのでヴァニラの香りはそう強くは感じません。なので生産者としては、夏場はよく冷やしてソーヴィニヨン・ブランの代わりにと勧めています。 否定はしないのですが、スッキリさを求めて飲むなら、プレミアムレンジの方で十分かな。
せっかくなら10~12℃くらいまで温度を上げて、風味の複雑さと口当たりの厚みが強調される状態で味わうことをおすすめします。
職人技でつくる「アーティソンズ」
ステレンラストのフラッグシップである「アーティソンズ」は、これまでのクラスとは大きく雰囲気を変えます。
コンセプトのとおり職人技で少量生産しているのが伝わってくるような味わい。
ターゲットは一般消費者ではなくワイン通なのでしょうが、きっとあまりターゲットのことは考えていません。醸造家がつくりたいように理想を追求してつくったワイン。そのように感じるのです。
ワイン通が続々と虜にされています!
ブルゴーニュやシャンパーニュなどの高級ワインをよく飲む人をも「こんなワインがあったのか!」とびっくりさせる。それがこの「マザーシップ」です。
ブドウの区画はボタラリー・ヒルズの1964年に植樹したもので、「オールド・ブッシュ・ヴァイン」と同じです。おそらくその畑の中でも特に上質なブドウができるところがあり、それを他と混ぜるのがもったいなかったのでしょう。
蜜のような甘いアロマをまず感じるのは、「オールド・ブッシュ・ヴァイン」と共通。酸味がより美しく現れているように感じます。そして何より口当たりの厚みがすごい!
卵型のコンクリートタンクを一部使っているのが効いてるのではないでしょうか。この形のタンクは、発酵で生じるガスによってタンク内のワインが自然と循環します。それにより澱(おり)との接触効果が高まり、コクを増しているのだと推測します。
この価格なのに、百貨店の試飲販売でよく売れることが頷けます。
全世界向けのリストには載せられません!
ステレンラストのワインを輸入しているのは当然日本だけではありません。だからオフィシャルHPは数十か国のインポーターやプロ・消費者が見ることがあります。
そこに生産量150ケースやそこらの数が少なすぎるワインは、とても掲載できないでしょう。「うちも買わせてくれ」とトラブルのもとです。
この「ホワイト・サンソー」がまさにその少量生産。
スーパー・プレミアム・レンジのサンソーと同じ、樹齢が60年近くの古い畑です。それくらい古いと樹が突然変異を起こし、黒ブドウなのに色がつかないことがあるそうです。
その変異が房単位でおこるのか樹単位でおこるのかまでは不明ですが、その白変異したものだけを集めてつくるのがこのワイン。シャンパーニュでよくあるブラン・ド・ノワールというわけではありません。
白桃や白い花などの華やかで上品なアロマ。なめらかな口当たりの丸みのある酸味で、ブドウの質の高さが伝わってくるワインです。
グルナッシュ・ブランやマルサンヌなどの品種ともやはり味わいが違うので、ワイン通の人ほど頭が混乱することでしょう。
3haの畑のなかの0.2ha
一つの畑の中でも、区画によって風味が違うというのはよくあること。
シラーズの区画の中には、スミレ、黒コショウ、ブルーベリー、ミント、それぞれのアロマが際立つところがあるそうです。
それらの区画の中心部分。0.2haのほんのわずかな区画は、これら4つの要素を全て併せ持つことがわかりました。その区画のブドウだけでつくる特別なキュヴェが「アフター・エイト」です。
きっと4つの区画をブレンドしても、「アフター・エイト」のようにはならなかったのでしょう。
オーストラリアのバロッサ・ヴァレーやマクラーレン・ヴェイルのものと比べると、フレッシュで冷涼感があります。これは一部全房発酵しているからかもしれません。
シラー/シラーズのパワフルさはあまり強調せず、スムースな飲み口が魅力な味わいに仕上がっています。
職人芸で少量生産だから「昔の醸造器具」
アーティソンズのシリーズのエチケットに描かれているのは、昔のワインづくりの道具です。
ワインづくりのテクノロジーは日々進歩しており、効率よく安定した醸造を行うための機械がどんどん導入されています。
安くて美味しいワインを飲みたい/つくりたいなら、そういった最新技術は必須ですし、ステレンラストも積極的に導入しています。
一方で昔ながらの手作業での少量生産ワインにも、きっとその手法でしか出せない魅力というのがあるのでしょう。
ワインづくりは商売です。たくさんの人に買って飲んで喜んでもらい、また買ってもらう。そのためにはマーケティングに沿ったワイン生産が大切なのでしょう。
一方でワインをつくる醸造家としては、きっと多くの人が「感動するようなすごいワインをつくりたい」と思っているはず。そのためには大量にはつくれないことが往々にしてあります。
ステレンラストでは若手の醸造家が何人も働いているそうです。「アーティソンズ」はそんな彼らの夢の結晶なのでしょう。
2つの顔を持つワイン ステレンラスト
ワインのプロではなく一般の消費者が喜ぶ味わいのワインをつくる、ステレンラスト。
ワイン通があっと驚くような醸造家の想いがつまったワインをつくる、ステレンラスト。
いろいろな種類のワイン、そのスタンダードクラスとトップレンジで、ワインの雰囲気が驚くほど変わります。
もしワインの好みがあるなら、ご自身の好みにあわせて。どんなものでも飲んでみたいなら、まずはシュナン・ブランを。
2本を飲み比べることで、ワインを通してつくり手の想いを感じてみませんか?