ニュージーランドは非常に新しいワインの産地でありながら、それを活かして成功を収めています。
ブドウ品種は他にもあるもので価格優位性も高くないのに、国際市場で存在感を示しているのです。
他にお気に入りの国があったとしても、ニュージーランドワインは飲み比べる価値があります。
品種と産地の点からこの国のワインをどう飲み進めると面白いか、ご紹介します。
ワイン産地としてのニュージーランド
ニュージーランドに最初にブドウの樹が植えられたのは1819年。(※)
実際にワインづくりを広めていったのは、「オーストラリアのブドウ栽培の父」と言われた、ジェームズ・バズビー氏でした。
その黎明期からしても世界的には遅いのですが、ワイン産地として意味を持ち始めたのは1970年代後半になってからです。
※日本ソムリエ協会 2022年度教本による
国家としてのニュージーランド
ニュージーランドの面積は、北島・南島あわせて約27万㎢。日本の7割ほどです。
それに対して人口はわずかに500万人。福岡県より若干少ないくらいです。
ちなみに「人間より羊の方が多い」なんていわれることもありますが、その通り。羊は3000万頭いるそうです。
最大の都市は北島のオークランドで、人口の3割強が住んでいるといいます。もともと少ない人口が偏って住んでいるということは、都市部以外で人の居住地はかなりまばらだということです。
ちなみにオークランドは商業の中心地ですが首都ではありません。首都は北島の南端、ウェリントンです。
国際市場と戦えるワインが必要
総人口が少ないことは、そのまま国内市場が小さいことを意味します。
オーストラリアとともにニュージーランドも旧宗主国はイギリスです。
当初は移住してきた人たちが自家消費するためや、キリスト教に必要だからと少量つくっていたのでしょう。
しかし国家としてワインづくりを推進するとするなら、ワインをつくる土地に対して国内で飲む人間が少なすぎます。
ゆえにワインは輸出して海外に販売するのが基本。
2020年の数値で、生産量約330万hL(ヘクトリットル)のうち、約290万hLが輸出されています。
アメリカやフランス、ドイツのように、国内市場が大きくて国内消費の量が大きな国とは、経営方針の取り方が違います。
ニュージーランドの気候
ニュージーランドのほぼ全域が西岸海洋性気候に属します。
暑すぎず寒すぎずの「温帯」に属する地域のうち、夏涼しく冬暖かいのが東岸海洋性気候(日本など)との違い。雨季と乾季の差が小さいことが地中海性気候(イタリアやカリフォルニア、南アフリカなど)との違いです。
世界でもトップクラスに過ごしやすい気候であると言えます。
ブドウにとっては夏の暑さが穏やかなので、上品なワインをつくりやすい環境です。
ただ生育期もある程度雨が降るので、ブドウの樹の成長が促進されてしまいます。樹自体の成長に栄養が使われると、あまり高品質なブドウになりません。樹の成長を抑制する高い選定技術が求められる産地と言えます。
※後に紹介する気温データはWeather Sparkから引用しています。
ニュージーランドの栽培面積とワイナリー
2020年の数字でニュージーランドのワイナリーは717社。それに対して総栽培面積は約4万haなので、単純計算すれば1社平均55haほど。
もちろんこれはあくまで平均値。大手の数社がかなりの量のワインをつくり、大多数が小規模生産者という構図は他国と大きくは変わらないはずです。
それでもワイナリーが平均的につくるワインの量が多いというのは、国際競争力を持つ上で重要です。
NZワインその1 マールボロのソーヴィニヨン・ブラン
ニュージーランドワインにおいて最も重要な産地は、なんといってもマールボロ(Marlborough)です。中でもソーヴィニヨン・ブランは、「マールボロのソーヴィニヨン・ブラン」としてスタイルを確立し、世界中で楽しまれています。
マールボロの位置と気候
マールボロは南島の樹北端にある産地。
中心となる都市はブレナムですが、そこでも人口わずか2.8万人です。
季節 | 夏 | 冬 |
平均最高気温 | 23℃ | 12℃ |
平均最低気温 | 14℃ | 5℃ |
平均年間降水量 711mm
冬の寒さは少し厳しいですが、それでも東京の1月平均最低気温が2℃であることを考えると、過ごしやすい環境です。
「マールボロ ソーヴィニヨン・ブラン」の大流行
1980年代につくり始めたソーヴィニヨン・ブランが、イギリスをはじめ世界中で大流行。畑がどんどん拡大し、マールボロはニュージーランドきってのワイン産地に短期間で成長します。
それまでソーヴィニヨン・ブランといえば、ボルドーやロワールだったはずです。それらと比べたときの特徴は「青草やハーブのフレッシュなアロマ」に加えて「グァバやパッションフルーツなどのトロピカルフルーツのアロマ」でしょう。「グラシィ」や「ハーベイシャス」と表現されることも多いです。
高い酸味を持ちながら熟した果実味のあるスッキリ系のワインとして、世界的に斬新なスタイルを、たくさんの人が好んで飲んだのです。
NZで最重要ワイン
現在ニュージーランドの栽培面積のうち、75%がマールボロにあります。
そのマールボロの栽培面積のうち、なんと80%がソーヴィニヨン・ブランなのです。
つまりニュージーランドワインの6割は、マールボロのソーヴィニヨン・ブランであるということ。間違いなく最重要ワインです。
「ニュージーランドワインといえばソーヴィニヨン・ブラン」と言っても、数字の上では言い過ぎじゃない。(それだけじゃもったいないですが)
初めてニュージーランドワインを飲むとすれば、このワインの他には考えられません。
最初の1本としておすすめな典型的ワイン
マールボロ産ソーヴィニヨン・ブランのスタイルとして基本なのは、ステンレスタンクで発酵・熟成を行ったもの。そして自然酵母ではなく培養酵母で発酵させたものです。
このスタイルのワインに顕著なハーブ香。それはこの地域でよく用いられる「QA23」という酵母が作り出すものだそうです。ワイン情報に使用酵母まで書かれていることは稀ではありますが、自然酵母のものを避ければいいでしょう。
現在もマールボロ産ソーヴィニヨン・ブランの最大手と言えるのが2社。クラウディ・ベイとヴィラ・マリアです。
クラウディ・ベイの方がより高品質なワインに特化。(当店で取り扱いはありません)
ヴィラ・マリアの方がリーズナブルなクラスから広くラインナップしています。
他にはこのインヴィーヴォもおすすめ。むやみに個性を主張しようとせず、皆に好かれる典型的な味わいを手ごろにつくろうという方針がよく現れています。
NZでは機械収穫が多い
「機械化するよりも手間をかけて手摘みした方が高品質」
多くの方はそんなイメージをお持ちではないでしょうか。
調査の結果、「そうでもないよ?」と分かったのが、このマールボロのソーヴィニヨン・ブランなんです。
機械収穫は手摘みに比べて人件費が安いのはもちろん、スピードが速いというメリットがあります。また夜間収穫も容易です。
ブドウの熟度がジャストなタイミング、早朝のまだ気温が低いうちに短時間で収穫できる。それゆえワインのフレッシュさが保たれて、より美味しいワインができる。そう考えられているのです。
加えて人手確保の問題もあるでしょう。
2.8万haも栽培面積があるのに、マールボロ全体でも4万人ちょっとしか人が住んでいないんです。
どこもかしこも手収穫しようとしたら、とてもじゃないですが人手が足りません。
NZワインその2 マールボロのピノ・ノワール
ニュージーランドにおいて、ソーヴィニヨン・ブランの次に重要な品種はピノ・ノワールです。
ピノ・ノワールはお金を取りやすいブドウであり、いくつもの地域で栽培されています。もし手ごろなニュージーランド産ピノ・ノワールを探すなら、マールボロが一番です。
マールボロ産ピノ・ノワールの特徴
ダークチェリーやプラムのようなよく熟したベリーのような香り。そこにベーキングスパイスのような香りが加わります。酸味はピノ・ノワールとしては中程度かやや低め。味わいに重たさを感じるものが多いのが、マールボロのピノ・ノワールの特徴です。樽香が前に出たしっとりとした口当たりのものはあまりなく、果実感が強調されるものが多いです。
酸味や余韻にブルゴーニュのような洗練された印象はあまりありません。どちらかというと「濃い」印象を持つものが多い傾向にあります。
最初の1本としておすすめな典型的ワイン
マールボロにも高級品はありますが、他の地域と比較する上ではまずは廉価品から味わうことをおすすめします。
div>このワインもアロマの傾向は赤いベリーよりも黒いベリー。この価格でも「薄さ」は感じませんが、ブルゴーニュ的な上品さを期待するとちょっと違和感を覚えるかもしれません。
産地のプライスリーダー
ニュージーランドにおけるワイン産業の大部分がマールボロに集まっているのです。
ワイン生産に関連する産業、ワインの資材や運搬などの業者も当然多いはず。そうすれば自然と他の地域に比べコストが下がります。
スケールメリットによる効率化で、ニュージーランドワインにおいてはマールボロのコストパフォーマンスが頭一つ抜けていると言えるでしょう。
だからこそ他の地域では少量・高品質ワインの生産に特化している傾向が見られます。
NZワインその3 セントラル・オタゴ
ニュージーランド最南端、そして世界的にみてもほぼ最南端の産地がセントラル・オタゴです。
(チリにもほぼ同緯度にワイン産地があります)
オタゴ地方としての中心はダニーデンという都市ですが、位置は南東の海側。このあたりはワインの産地ではありません。
ワイン産地は内陸側に位置しており、クイーンズタウンが主要な街です。
このあたりは避暑地としてつかわれる観光地で、市街地の人口が3万人程度なのに対し、年間130万人の観光客が訪れるといいます。
セントラル・オタゴの位置と気候
「南にあるから寒い」セントラル・オタゴについてはそう単純な話ではありません。
南島に背骨のように走る南アルプス山脈。セントラルオタ後のブドウ畑はその山脈の麓のあたりに広がるので、地形や標高の影響を大きく受けます。なので「セントラル・オタゴは・・・」とひとくくりに語るのは少々無理がある。さらに細かく分けたリージョンで語る必要がありそうです。
南島の中でもとりわけ東西に長いオタゴ地方。このあたりは「半大陸性気候」と位置付けられます。
西岸海洋性気候の違うのは、昼夜の寒暖差や夏と冬との寒暖差が大きいこと。
季節 | 夏 | 冬 |
平均最高気温 | 19℃ | 5℃ |
平均最低気温 | 9℃ | -1℃ |
年間降水量は750mmほどとマールボロと変わらないのですが、地形により狭い範囲でも大きな差があることが予想されます。クイーンズタウンではこの通りですが、ブドウ畑のある当たりでは300~400mmの雨が冬場にまとめて降るといいます。(※)
セントラル・オタゴのピノ・ノワール
先述の通りセントラル・オタゴは、平均気温として冬の寒さが厳しい冷涼な気候。だから線の細い上品なワインができるかといえば、案外そうでもないんです。
夏場の”平均の"最高気温は19℃ながら、日によっては34℃くらいまで上がるといいます。日照時間が長いので、内陸だということもあり最高気温は上がりやすいのです。なのでとある生産者はセントラル・オタゴを「ニュージーランドで一番寒く一番暑い」と語ります。
それもあってブドウの熟度が不足することはあまりありません。日照時間が長いとブドウは太陽光から実を守るため、果皮を厚くします。しかし夜間は冷えますので酸味はしっかり保たれます。
その結果、アルコール度数高めでタンニンも豊富、それでいて酸味も高いメリハリのある味わいのピノ・ノワールがつくられます。
これが大雑把にいう教科書的なセントラル・オタゴのピノ・ノワールです。
栽培面積はおよそ2000haほどと非常に小さなもの。その約8割をピノ・ノワールが占めています。
※2022年度ソムリエ教本による
教科書的とそうでないピノ・ノワール
アルコール度数高め、パワフルでメリハリのあるピノ・ノワールとしては、このプロフェッツ・ロックが典型でしょう。
div>現在販売中の2021年は13.5%のアルコールですが、年によっては14.5%くらいまで上がることもあります。
マールボロと同じく黒系果実の風味を感じますが、酸味の上品さと洗練された印象はずっと上です。
これが教科書的とするなら、ギブストン・ヴァレー・ワイナリーは正反対。風味は赤系果実でアルコールも低め。濃厚さよりもエレガンスに特化した味わいです。
その味わいはいわゆる『薄旨』。色も淡く全く別物のスタイルです。
ワナカ湖という細長く深い湖近くにある「リッポン・ヴィンヤード」は、最も山脈に近いワイナリー。吹きおろしの冷たい風で冷却されるからか、リッポンもギブストン・ヴァレー・ワイナリー寄りの上品系です。
セントラル・オタゴのワインは6000円から
このとおりセントラル・オタゴのピノ・ノワールは、スタンダードクラスから高いです。
3000円台のものもなくはないのですが、一般的には6000円くらいからのスタート。高額です。
これは先述の通り、安さではマールボロには勝てないから。
6000円で比較するなら、マールボロのピノ・ノワールと比べても別に割高感はありません。
まだまだ若い産地でありながら、ピノ・ノワールとしてはブルゴーニュに次ぐ産地の一つとしてカウントされる銘醸地です。
セントラル・オタゴの火付け役
セントラル・オタゴでのワインづくりがスタートしたのは1980年代。黎明期から一気に銘醸地として世界が注目するようになったのは、フェルトン・ロードという生産者の功績です。1997年がファーストヴィンテージのそのワインがアメリカやイギリスで高い評価を獲得。それがこの地でのワインづくりに投資を呼び込むきっかけとなりました。
産地は「バノックバーン」と呼ばれる地区。比較的温暖でブドウの熟度が高く、酸味はやや穏やか。タンニンはあまり強くなく丸い印象なのが特徴です。
ただフェルトン・ロードのワイン自体は、自然酵母由来の複雑な香りが特徴として強く出ています。「セントラル・オタゴの特徴を掴む」という目的で飲むのには適していないかもしれません。
NZワインその4 マーティンボローのピノ・ノワール
マーティンボローは、首都ウェリントンの北東に広がる「ワイララパ」という産地のサブリージョン。ワイララパ全体でも1000haほどと小さく、マーティンボローとしては約600haほどしかありません。
ゆえにここのワイナリーは基本的に少量高品質なワインづくり。ほとんどが小規模生産者です。
マーティンボローの位置と気候
マーティンボローは西側に山脈、東側にも穏やかな丘陵地帯がある、平たい地形。
あまり近くに主要な都市はないので、少し北に離れたマスタートンという街の気温は次の通り。
季節 | 夏 | 冬 |
平均最高気温 | 22℃ | 11℃ |
平均最低気温 | 13℃ | 5℃ |
年間降水量は900mmちょっとと、ワイン産地としてはやや多めです。
マーティンボローのピノ・ノワール
ここでもワインの主役はピノ・ノワール。栽培面積の半分以上を占めます。
北西の山脈の切れ目から非常に強い風が吹き、それが夜間の気温を急激に下げるといいます。上記の数字以上に、実際のブドウ畑は昼夜の寒暖差があるのでしょう。また豊かな日照により品種を問わず果皮を厚くするので、骨格のしっかりとしたワインが生まれるとされています。
生産者は自分たちのワインの特徴を「Core = 芯がある」と表現するそうです。
最初の1本としておすすめな典型的ワイン
マーティンボローを代表する老舗生産者として必ず名前が挙がるのが、アタ・ランギです。
こちらはエントリークラスなので開けたてからすぐ飲めます。一方で上級のピノ・ノワールを飲むなら、数時間前に栓を開けておいた方が最初から美味しく飲めるでしょう。
それほどしっかりとした骨格、豊富なタンニンを持つピノ・ノワールです。
個人的には骨格の強さの割にベリー系の香りの印象が、黒系というより赤系が多いように感じます。
NZワインその5 ホークス・ベイのシラー他
ホークス・ベイはNZにおいて、マールボロに次いで2番目に大きな生産地。5000ha弱の栽培面積があります。
ホークスベイの主要都市はネイピアとヘイスティングス。ともに人口6万人くらいです。
ホークス・ベイのワインづくりで特筆すべきはブドウ品種。カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラーといったフランス系黒ブドウにおいて、ニュージーランドきっての産地なのです。
決して黒ブドウばかりではなく、シャルドネやソーヴィニヨン・ブランも栽培されています。
ホークス・ベイの位置と気候
ホークス・ベイは北島の東側。その名の通り浜辺の産地ですが、偏西風地帯なので「海から多くの湿気が入ってきて雨が多い」ということはとくにありません。ヘイスティングスで年間700mm強。ただ、ワイン産地としてはやや多い方でしょう。
だからでしょうか。ホークス・ベイのワインで「やたらとパワフル」というのにはまだ出会ったことがありません。
季節 | 夏 | 冬 |
平均最高気温 | 24℃ | 13℃ |
平均最低気温 | 15℃ | 7℃ |
マーティンボロー近くのマスターストンの気温+2℃といった傾向で、非常に過ごしやすい気候です。
注目すべきはシラー
美味しいワインはもちろんたくさんあります。しかし世界の市場で見たときに価値があるであろうワインは、まずはシラーでしょう。
シラー/シラーズといえば、フランス・ローヌ地方の「コート・ロティ」や「エルミタージュ」。それにオーストラリアの「バロッサ・ヴァレー」や「マクラーレン・ヴェイル」などが銘醸地。数万円クラスの高級ワインも生み出されます。
それらの産地と比べると、ホークス・ベイは冷涼で雨も多く、凝縮感で匹敵するワインはおそらく生み出せません。その代わりにアルコール度数が少し低くてパワフルすぎず、上品で軽快な飲み口のシラーをつくることができます。
スミレの花や白コショウの風味がより顕著で、タンニンを抑えたシラー。ローヌやバロッサ・ヴァレーの低価格帯に似たようなワインは見つかりません。
最初の1本としておすすめな典型的ワイン
シラーの力強さが苦手という人、私のまわりにある程度いるように感じます。そういう人たちでもきっと文句を言わず飲むだろうワインがこちら。
このトゥー・リヴァースというワイナリーは2004年設立と非常に若く、マールボロが本拠地です。ホークス・ベイのブドウを使ったワインもつくっているということは、それだけ急成長を遂げているという証拠。生産量は多いです。
その所以なのか、変に飾らず幅広い消費者に好かれる味をつくるのが上手。このワインも「ホークス・ベイのシラー」のスタイルが2000円台のワインとして過不足なくあらわされています。
NZワインその6 オークランドのシャルドネ
オークランドはニュージーランド最大の都市で、約160万人が住みます。国内最大のオークランド国際空港もあり、玄関口として多くの観光客を迎えます。
都市に人が集まれば、第3次産業が発達して第1次産業の比率は落ちるからでしょうか。オークランドのブドウ栽培面積は300ha未満で、非常に小さいです。
しかしニュージーランドワインにおいて重要でないかというとそうでもなく、数は少ないけれど著名で優良な生産者がいくつもあります。
オークランドの位置と気候
オークランドはニュージーランドの中でもかなり北寄りの産地。なので国内では非常に温暖なエリアです。
季節 | 夏 | 冬 |
平均最高気温 | 23℃ | 14℃ |
平均最低気温 | 17℃ | 8℃ |
オークランドの西側には、それほど高い山がありません。西から湿気を運んでくる風を遮るものがないのです。
それゆえオークランドの年間降水量はかなり多く、1200mmほど。大阪とさほど変わりません。
オークランドでまずは試してみるべき1本
品種が多様でどれも突出していないので、「オークランドを代表する1本」というのは選べません。
なので生産者の技量として世界に十分勝負できる「クメウ・リヴァー」を紹介します。
1944年設立とこの地の草分け的な生産者。
本当は1つ上のキュヴェ「エステート・シャルドネ」を紹介したかったのですが、ただいま欠品中(2023年6月25日現在)
しかしエントリークラスにあたる「ヴィレッジ」の出来もなかなか。樽香も酸味も突出せず「バランス感」がアピールポイントなので、飲んでみなければ醸造家の実力を感じ取るのは難しいでしょう。この1本で様子を見てから、上級クラスにトライするのがいいと考えます。
オークランドの著名ワイナリー。
オークランドの北部には「マタカナ」という小地区があります。その地で有名なのが「プロヴィダンス」。メルローを中心としたブレンドワインをつくり、2万円以上で取引されます。(ファインズさん輸入、当店取り扱いなし)
オークランドからフェリーですぐ。「ワイヘケ島」というリゾート地もワイン産地です。
西宮市ほどの小さな島ですが、ここでニュージーランド最高額のワインがつくられています。「デスティニー・ベイ」という生産者のトップキュヴェ「マグナ・プラミア」です。
ほかにもサム・ハロップMWがプライベート・ワイナリーを持っており、シャルドネやシラーを生産しています。
NZワインその7 "サニー・ネルソン"
マールボロの西側に隣接するネルソン。エリアとしてはマールボロとそう変わらない大きさですが、ブドウ畑はそれほど多くなく1000ha程度。マールボロと違い、趣味で始めたような小規模生産者が多いといいます。
ブドウ品種はソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリ、ピノ・ノワールと、マールボロと共通。ワインの価格は比較的安いです。
ネルソンの位置と気候
西側にある地域なので、雨が多いです。
人口5万人ほどの都市ネルソンの平均年間降水量は1000mm弱。マールボロと大きく違います。
季節 | 夏 | 冬 |
平均最高気温 | 23℃ | 12℃ |
平均最低気温 | 15℃ | 4℃ |
気候はマールボロとあまり変わりません。
数字上では特別なところはとくにないのですが、ワインにおいては「サニーネルソン」と呼ばれているそうです。
日照量が多くワインの風味によく熟した明るい果実味が現れる。そういわれているのです。
「サニー・ネルソン」がよくわかる1本
こちらはマールボロと比較することでより面白いかもしれません。
マールボロで顕著なハーブや青草の香りが控えめになり、よりトロピカルフルーツのアロマが前に出てきます。
ネルソンが日照量が多いかについては未確認なのですが、ワインの風味で比較するなら納得できます。
品種に保守的(?)なニュージーランド
「ニュージーランドはフランス由来の国際品種ばかり。あまり他の品種にチャレンジしようとしない」
確かにニュージーランドの主要ブドウ品種は、次の通り見慣れたものが上位に並びます。
順位 | 白ブドウ | 黒ブドウ |
1位 | ソーヴィニヨン・ブラン | ピノ・ノワール |
2位 | シャルドネ | メルロー |
3位 | ピノ・グリ | シラー |
4位 | リースリング | カベルネ・ソーヴィニヨン |
とあるセミナーでサム・ハロップMWは「保守的だ」と述べておられました。
一方でキムラセラーズの木村さんは別意見です。
「ニュージーランドの人はのんびりしているから」と。
流行に非常に鈍感で、「ほかの国で流行っている」と聞いて10年後くらいに、「じゃあ我々もやってみようか」と試してみる。そんな雰囲気なんだと。
これだけ気候が穏やかで過ごしやすければ、人もそんな感じになるのかもしれませんね。
世界の規範となるニュージーランドワイン
ワインをネット通販で販売する者として、ニュージーランドワインは売りやすいと感じています。
というのもどこでも栽培されている国際品種を使いながら、他の地域では替えの効かない多くのワインを生産しているからです。
ニュージーランドワインの歴史は浅いです。だからこそ他国が成功してきた手法を学び、最短ルートでワイン生産国として成長してきました。
そして今やワイン生産の成功事例として、世界をリードする存在とすら言えるでしょう。
世界でオンリーワン
美味しくて価格以上の価値があるワインは、世界中いたるところでつくられています。
しかしそれを知ってもらわなければ、消費者に手に取ってもらうことはできません。
美味しさを知ってもらう方法はいくつかあります。その中で「同価格帯の他国のワインと比べて何が違って何が魅力なのか」を言語化できれば、そりゃ強いというものです。
例えばマールボロのソーヴィニヨン・ブランのスタイルは、チリや南アフリカにマネされています。これらの国で似たような味わいのソーヴィニヨン・ブランを探そうと思えば見つかります。
しかし同等クオリティーで比較したとき、ニュージーランド産は決して高くない。この2か国よりはるかに人件費が高いのに、信じがたいことです。
全てのワインがワールドクラスとは申しません。しかしピノ・ノワール、シャルドネ、ピノ・グリ、ボルドー・ブレンド・・・・これらの品種においてそうそう替えの効かないワインがつくられていることは確かです。
だから我々としてもニュージーランドワインを勧めやすいのです。
サスティナブルなワインづくり
サスティナブル・ワイングローウィング・ニュージーランドという認証があります。
今やオーガニックなどの認証を受けたワインは珍しくありません。ニュージーランドでは「ビオ・グロ」というオーガニック認証が、厳しい基準で環境に配慮したルールとして有名です。
ニュージーランドのすごいところは、96%ものブドウ栽培地が、サスティナブル・ワイングローイング・ニュージーランドに加入している点です。おオーガニックに限らないにせよ、ほぼ全ての生産者が何かしらのサスティナブルな認証を得ているのです。
これはひとえに生産者・消費者のサスティナビリティへの関心の高さでしょう。その根源は、「自然の中で生きている」という意識ではないかと考えます。
ニュージーランドはSDGsにおいて世界をリードする存在といえます。
世界のワインづくりのお手本として
ワイナリーの2代目3代目がこぞって研修に行き、地元でそのノウハウを活かそうとする、世界でお手本となっている地域はいくつかあります。
ブルゴーニュ、シャンパーニュ、ボルドー、ナパ・ヴァレーなどはその最たるものでしょう。
これらの地域は純粋なるワインの品質と価格。それらが研修生を魅了していると言えるでしょう。
それらの選択肢の中に、ニュージーランドが入っても不思議ではありません。
必要に応じて機械をつかった栽培を行うノウハウ。
環境保護の意識が高く、向こう100年のワインづくりを考えたサスティナビリティ。
これらの点では世界を一歩リードする存在でしょう。
個々の産地として違いを楽しむ
「ニュージーランドといえばソーヴィニヨン・ブラン」
この認識は決して間違っていません。ただ、それだけでないのも確かです。
ニュージーランドにも様々な産地があり、それぞれに得意とする品種や注力しているワインがあります。
「ニュージーランドワイン」としてまとめるのではなく、「マールボロの」「セントラル・オタゴの」など個々の産地として認識して、新たなワインに出会ってみてはいかがでしょうか。