高脂肪タイプの白カビチーズである「サンタンドレ」にあうワインは何か。
非常に多くの種類があるチーズ、組み合わせを選ばなければ互いにもったいない味わいに。
白カビタイプのワインは、実はあうワインのタイプはかなりシビアです。
サンタンドレにあうワイン/あわないワインの理由を深く考察します。
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チーズはワインに"基本"あわない
チーズの基本的な味や質感は、ワインの繊細な違いを感じ取る邪魔をします。
それは乳脂肪が味蕾をマスクし、タンパク質が赤ワインのタンニンを捕まえてしまうからです。
ただしそれは全てではありません。中にはピッタリとあう組み合わせもたくさんあります。
何があうのか/あわないのかを判断するには、まずはチーズのタイプにどんなものがあるかを知るところから始めましょう。
今回は白カビチーズをとりあげます。
白カビチーズとは
白カビチーズは加熱処理をしていないナチュラルチーズの一種。そのなかで熟成の際に白カビを繁殖させ、その分解酵素によって旨味を引き出したチーズの総称です。
英語では「Bloomy Rind Cheese」と呼びます。
白カビチーズの作り方
暖めたミルクに乳酸菌を加え、レンネット(凝乳酵素)を加えると塊のカードとホエイ(乳清)に分かれます。
カードを成形して水分を抜き塩漬けにします。その後表面にカビを吹きかけて、温度管理のうえ熟成させます。
その際に用いるカビは「ペニシリウム・カメンベルティ」という種類です。
熟成の期間は比較的短い方です。もちろん種類によりますが、10日以上や4週間以上など。その分出荷後の味の変化も早いので、食べごろの見極めが大切なチーズです。
白カビチーズの代表銘柄
デパートのチーズ売り場などで入手しやすい、代表的な白カビチーズをご紹介します。
カマンベール・ド・ノルマンディー
「カマンベール・ド・ノルマンディー」はその名の通りフランスのノルマンディー地方でつくられる白カビチーズです。
無殺菌乳からつくると決まっており、そのためか独特の臭いがあります。
1ポーションで2000円くらいはしますので、通常のカマンベールチーズと比べると結構高いです。
カマンベールチーズ
「カマンベール・ド・ノルマンディー」の名称が原産地呼称により保護されるよりも早く、「カマンベールチーズ」は世に広まってしまいました。ゆえにチーズの1つのタイプとして、世界中でつくられています。
スーパーなどで売られているものは、白カビをはやして熟成後に加熱処理をして、熟成を止めています。それにより賞味期限が伸びて、大量生産し大量に流通させることが可能となり、気軽に楽しみやすい価格で提供されています。
その分風味はプロセスチーズに近く、ワインとの相性という点ではなかなか難しいのが実情です。
ブリー・ド・モー
「ブリー・ド・モー」は日本ではカマンベールチーズの陰にかくれがちですが、実ははるかに長い歴史を持っており、一説には1200年前からつくられているといいます。カマンベールチーズよりも大きく、直径36~37㎝の円盤状につくられ、ケーキのように切って販売されます。
1814~1815年にウィーンであった会議では、60以上のチーズを抑えて満場一致でNo.1チーズに選ばれ、「チーズの王様」と呼ばれるようになりました。
そのほかの白カビチーズ
そのほかにチーズ売り場などで見かける白カビチーズは次の通り。
馬の蹄の形につくられる「バラカ」。ブルゴーニュ地方のチーズです。
ハートの形などに成形される「ヌーシャテル」は、カマンベールより塩味が強くシャープな味わいだそうです。ノルマンディー地方のチーズです。
ブルゴーニュ生まれながら、シャンパーニュ地方の町の名がついた「シャウルス」。塩味も酸味も強めで、コクがある味わいです。
熟成すると中身がやわらかくなってくるものが多いです。それに伴って旨味も強くなるので、匂いのクセは強いですがチーズ好きにはたまらないでしょう。
白カビチーズは乳脂肪分の割合に注目
熟成が短いチーズということもあってか、全般にミルク感が強いのが白カビチーズの特徴。
種類の違いによる味わいの違いを知るには、乳脂肪分の割合に着目してみましょう。
有名なカマンベール・ド・ノルマンディーやブリー・ド・モーは乳脂肪45%以上。これが標準的な値です。
それに対してクリームを加えることで乳脂肪分を高くつくるチーズもあります。
バラカは70%以上。今回扱う「サンタンドレ」は75%以上。温度が上がってくるとまるでバターのような風味を感じます。
サンタンドレにあうワイン
白カビチーズは青カビチーズに比べると風味は強烈ではありません。
だからワインの味が負けるということはあまりないはず。
そのかわりよくあるのが、「カビ臭さが際立つ」
サンタンドレを含め、白カビチーズのカビの生えた皮の部分。そこだけ食べてもあまり美味しくないですよね。その風味が相性の悪いワインで10倍に引き立ちます。生臭い、かび臭いような残念な味。
あわない組み合わせはそれで容易に感じ取れます。
サンタンドレは「故郷のワイン」がない
チーズに相性のいいワインを探すときのヒントが、「故郷のワイン」。つまり同じ生産地のチーズとワインから検証することです。
しかしそれはサンタンドレには使えません。その生産地はフランスのノルマンディー地方。ワインの産地ではないからです。
さらにサンタンドレは当初よりアメリカの市場をターゲットに好みにあわせてつくられたそうです。
これに関しては「高脂肪の白カビチーズなら、スパークリングワインがいいよ」というとある人からの助言で見つけた次第です。
【Good!】シャルドネ主体のフランチャコルタ
イタリア・ロンバルディア州のスパークリングワイン、「フランチャコルタ」。高級スパークリングワインです。
フランチャコルタは瓶内2次発酵の期間がある程度長くても、シャンパンに比べてトーストやブリオッシュの香りが出にくい印象。それだけスキっと爽やかな風味のものが多いです。
このワインも白い花や柑橘の風味を感じるだろうと期待してセレクト。
結果としては大成功。白カビの香りが全く気になりません。スパークリングの泡の質感と、サンタンドレのバターのようなクリーミーさがつながります。
ワイン単独では白い花のニュアンスを感じるのですが、チーズとあわせたときは黄色い花やマンダリンオレンジのようなニュアンスに変化します。
この一体感と風味の変化は、思わず「おおっ!」っとこぼれるほど。
【Excellent】リースリングゼクト
白い花のニュアンスを持つ爽やかなスパークリングワインとしては、リースリングでつくるものも期待できます。
もう少し安いリースリングの泡もあるのですが、サンタンドレのクリーミーな質感には瓶内2次発酵の細かい泡感が重要になりそうだと予想し、このワインをセレクト。
この相性ばバッチリでした!
口の中で感じる反応は、先ほどの「ベラヴィスタ」とあわせたときと同様。しかしそれが1段階洗練されて感じます。
もうチーズを食べてスパークリングワインを飲んでを空になるまで繰り返してしまいそう。そう思えるほどの相性でした。
このペアリングを楽しむには、チーズは事前に冷蔵庫から出して室温にもどしておくこと。それからスパークリングワインも冷やしすぎず、10~12℃くらいで飲むといいでしょう。
【BAD】黒ブドウのシャンパン
「シャンパンもスパークリングワインなのだから、同じように合うんじゃない?」
そう考えてあわせたのがこちら。
ムニエ主体、黒ブドウのみのリーズナブルなシャンパンです。香りには黒ブドウらしいベリーのニュアンスと、ほどよいイースト香を感じます。
これが絶望的に悪い相性。白カビの臭さが炭酸の泡に乗って一気に鼻を抜けていきます。
サンタンドレのなめらかな質感と甘い風味も感じません。チーズもワインも台無しにしてしまう組み合わせです。
【BAD】フルーティーな軽めの赤ワイン
白カビチーズ全般と相性のいいワインとして、フルーティーな軽めの赤ワインがおすすめされているのを見たことがあります。
ニューワールドでつくる手ごろなピノ・ノワールや、軽い口当たりのジンファンデル。あまり樽熟成の風味が出ていないローヌ系品種あたりでしょうか。
今回はオレゴンでつくる珍しいブレンドのこちらの赤ワイン。
オーク樽熟成していないので、チャーミングな赤い風味がピュアに感じられます。風味の複雑さや飲みごたえはありませんが、香りのボリュームは意外と豊かでいいワインです。
ただ、サンタンドレとの相性はダメ。ワインの風味がかき消される。ワインが負けてしまう組み合わせです。
チーズの味わいをとっても、圧倒的にチーズだけで食べた方が美味しい!
これも全く引き立てあっていませんでした。
【考察】スパークリングがOKでシャンパンがNGな訳
今回の検証で興味深かった点は、スパークリングワインは相性が良く、シャンパンはNGだったところです。
これはなぜか。答えがハッキリわかるわけではありませんが、考察してみたいと思います。
カギは産地とブドウ品種?
この差を生んだ原因としてまず思い浮かぶのがブドウ品種でしょう。
フランチャコルタはシャルドネ主体。今回のシャンパンは黒ブドウのみ。白カビの風味には、白ブドウがもたらす風味が必要だった。
その可能性は高そうです。
ではブラン・ド・ブランのシャンパンなら好相性だったのか?ある程度マシではあるでしょうが、おそらくピッタリはあわないでしょう。多くのシャンパンが持つ酵母の風味は、あまり白カビの風味と相性が良くないように予想します。
もっと安いスパークリングワインは?
もっと手ごろなスパークリングワインであわせられないものか。例えばカヴァなど。
物によってはいけそうな予感もあります。ただカヴァはシャルドネやリースリング主体のスパークリングワインに比べ、酸味が低い傾向にあります。
お肉とワインの相性でもそうですが、脂肪分高めの料理には酸が高めのワインのほうがバランスをとりやすいです。
白カビチーズの中でもとくに脂肪分の高いサンタンドレには、ある程度酸味の高さが必要だろうと予想します。
瓶内2次発酵の期間が長めのものの方がいいでしょう。予想ですが目安として3年以上。
バチバチっとした泡よりも、クリーミーな泡の方が、サンタンドレのなめらかな口当たりにマッチするでしょう。
白カビチーズはワインとあわせにくいという認識を
この企画、どうせならサンタンドレではなくAOPチーズとそれにピッタリなワインをご紹介したかったのが本音です。
しかしそれが見つけられなかったというのが正直なところ。
白カビチーズはナチュラルチーズの中では身近にあり入手しやすいものです。
ただぴったり合うワインを探す難易度は結構高い。「フルーティーな赤ワイン」のようなぼんやりとした絞り込みでは残念な結果に終わる可能性が高いです。あうワインの条件はもっとシビアなんです。
具体的なご提案が少ないのは単に筆者の力量不足なのは否めません。でも「白カビチーズはワインとはあわせにくい」という認識は間違いないはずです。