「前とは違うワインを飲みたい。だけど好みじゃないものは買いたくない。」
みなそう思っていても、好みのワインばかりを買うのは難しいもの。好みのポイントがなかなかわからないからです。
それを知るためには、ワインの味わいを大きく左右するポイントを知るのが大切。
自分の「好き!」を知って好みのワインを買う方法をご紹介します。
「ワインの風味」と「感じ方」
前提として、全く同じワインを飲んだとしても同じに感じるとは限りません。
ワインの風味以外に、自分が美味しいと感じるかどうかを左右する要素はいくつかあります。
下記にその要素を挙げますが、本記事では一旦これらの要素は別にして論じます。
- 自身の健康状態
- 自身の精神状態(ストレスなど)
- 初体験効果(初めて飲むワインは印象を強く感じる)
- ワインに関する知識や経験
- 月の巡り(※)
月の巡りについて
ビオディナミの理論によると、ワインを飲んで美味しいと感じる日と感じない日があると言います。
その原因として月の巡りによる引力の影響を与えています。
ビオディナミという農法では、ビオディナミカレンダーに従ってブドウの選定作業や瓶詰作業などをすることが推奨されています。
そしてそれは飲むときにも同じで、「花」や「果実」の日がいいと言うのです。
これについてはニュージーランドの実験にて否定されていますが、プロの中でも「その影響はある」という人もいます。
(WINEREPORTさんの有料記事で読めます https://www.winereport.jp/archive/645/)
個人的には否定派です。
ワインの味を決定づけるキードライバー
自分が好きと感じるワインの条件が分かれば、その条件に当てはまるワインを買う限り基本的にハズレは引きません。
だから「前と違ったワインを買いたいけど、失敗したくない」という方は、ぜひ考えてみてください。
自分が好きと感じるワインの共通点を。
といってすぐに思いつくものではないでしょう。条件は一つではないのですから。
なので私見になりますが、ワインの味わいに影響を大きく与えるポイントを順番に挙げました。
- タイプ(赤、白、泡、ロゼなど)
- 品種(シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンなどのブドウ品種)
- 価格
- 産地
- オーク樽による熟成法や醸造方法
- 生産者
- ヴィンテージ
この順番で「自分はどうだろう?」と考えてみてください。
ワインのタイプ
赤ワインと白ワインの味わいは、そりゃ大きく違います。
炭酸が入っているスパークリングワインも当然別物。
ロゼワインっぽい白ワインのような、厳密に分けづらいものもあります。
最近ならオレンジワインや黄ワインなどもご存知の方、多いでしょう。
それらのワインのタイプは、ワインの味を決める最大級のファクターです。
なので、「私は白ワインが好き」「赤ワインしか飲まない」という方もいらっしゃいます。
一方でワインを飲みなれてくるにつれ、「赤ワイン、白ワインの中にも好きなのも嫌いなのもある。それに気分や食事で使い分けるから、どれが好きとかないよ」となってきませんか。
「普段は白ワインしか飲まないけど、高い赤ワインはそりゃ好きだよ」とか。
ワインのタイプでは分類が大まかすぎて、好みを絞りきれません。
ブドウ品種
同じ赤ワインといっても、ブドウ品種によって大きくその味わいは違います。
ワインの入門書の中には「ブドウ品種を知ってワインを選ぼう」という趣旨のものがたくさんあります。
ワインスクールなども、初心者向けのクラスはまず有名なブドウ品種の特徴を扱います。
それほどワインの味わいにブドウ品種は重要なのです。
というのも、ブドウ品種は好きに植えられるわけではありません。その品種によって味わいの特徴があるのと同様、適した気候や土壌の適正もあるのです。
また、ヨーロッパの歴史ある産地の中には、栽培していいブドウの種類が決まっているところも少なくありません。それは何も無暗な規制ではありません。長い歴史の中で最適なブドウ品種が分かっているので、勝手に変なブドウを植えて産地のイメージを損なわないためです。
だから、ある程度ブドウ品種と産地はセットなんです。「この品種のワインなら、ここかあそこ」みたいに。
それゆえにブドウ品種である程度ワインの味わいが決まるのです。
価格
高いワインと安いワインの味わいは違います。
当たり前ですよね。500円のワインと1000円のワイン、2000円、5000円、2万円・・・味わいは当然違います。
何十万円となってくると、希少価値が値段を左右するので話はややこしくなります。ちょっと置いておきましょう。
値段でどう味わいが変わるのか。とっても簡単に言うと『濃さ』です。
もちろん例外はいろいろありますよ。ただ、「2万円の力強いワインの味わいを1000円で探す」なんてのは不可能です。
やはり高価でありながら売れ続けているワインには、その価格を納得させてくれる味わいがあります。
ただ、価格は味わいを左右するとはいえ、これが好みのワインを見つけるヒントになるかというと、微妙ですよね。
そりゃ高いワインばかり飲みたいもん!それができないから、いろいろ知恵を絞っているわけで。
「〇〇円くらうのワインが好き」というより、「こういうときは〇〇円くらいのワイン、特別なときには▲▲円くらいのワイン」というのが普通でしょう。
産地
例えば「イタリア、トスカーナ州の赤ワイン」と言ったら、ある程度ワインのタイプが想像できる。
これができるから、好みのワインを産地で絞ることができるのです。
ただし、「産地」という言葉にはいろいろな意味が含まれます。
その産地の気候、土壌、地形、主要なブドウ品種、国民性や醸造技術・・・
これらのどの要素を気に入っているかさらに深堀りすれば、他にも好きそうな産地が見えてきます。
先ほどの例を使うと
〇トスカーナの温暖な気候のもとでつくられるタイプのワインが好きなのか
〇主要なブドウ品種はサンジョヴェーゼなので、タンニンも酸味も高く力強いワインが好きなのか
前者なら、例えば南アフリカのステレンボッシュやカリフォルニアのナパ・ヴァレーなどのワインも好きな可能性が高いでしょう。
後者なら、イタリアのトスカーナ周辺の州でつくられるサンジョヴェーゼを試した後、少量つくられるオーストリアやカリフォルニアのサンジョヴェーゼにチャレンジしてもいいかもしれません。
醸造方法
醸造方法の好みとは、例えば新しいオーク樽で熟成した風味がしっかりある方が好きなのか、控えめなのがすきなのか、といったことです。
ピノ・ノワールなら、全房発酵の割合が高いものか、除梗したものか。
シャンパンなら、瓶内2次発酵の期間が長い方が好きか、フレッシュなものが好きか。
自然酵母由来の風味がハッキリ現れているかどうか。
ここまで来ると、結構専門的な内容になってきます。
醸造方法の違いと味の違いが結びついて、「あ、だから自分はこっちのワインのほうが好きなんだ」となれば面白いのです。ただ、それには前提知識をしっかり蓄える必要があります。
初心者は一旦置いておくといいでしょう。
生産者
同じ生産地で同じブドウ品種のワインをつくっていても、やっぱり生産者によって美味しさは違います。
例えばボルドー。オー・メドック地区でカベルネ・ソーヴィニヨンを主体にしたブレンドの赤ワインをつくっている生産者はたくさんいます。
年間5万本10万本とつくっているので、それほど希少価値があるわけでもないとします。片や2000円3000円で取引され、片や5万円以上で取引される。
何が違うって、生産者が違うとしか言えないんですが、それだけ確かな味わいで培ったブランド価値があるということです。
なので生産者によってもワインの味は違うのですが、「好みのワインを探す」という点ではそんなには役に立たないでしょう。
何かがきっかけで飲んだワインが美味しかったとします。ならそれは、その生産者がいい腕しているから、という可能性も十分あります。
だからぜひ、その生産者がつくる他のワインも飲んでみてください。
でも他に作っているワインっていっても、せいぜい20種類程度。それに品種はいろいろあったとしても、基本的に同じ地域です。
「この生産者がつくるフランスのワインが気に入った!カリフォルニアでもつくっていると聞いたから飲んでみよう」なんて生産者はそんな多くありません。
だから展開の幅が小さいんです。種類として、生産者だけで探すのでは物足りない。
でも、お気に入りの生産者を見つけるのは、ワインを深く楽しむ上で非常にいいことだと思います。
ヴィンテージ
「ワインって良い年と悪い年とあるんでしょ?」
こういう認識を持っておられる方も増えました。
ヴィンテージによるワインの味わいの差はあります。
ただ、その程度は産地によって大きくことなります。
その要因の大きなものは雨です。雨が降る量・日数とタイミングが影響を与えます。
例えばアルゼンチンの山間部やオーストラリアの内陸部のように、基本的にブドウの生育期は雨が降らない、という地域もあります。そういったところは、川や井戸から水を引いて栽培しており、人間がコントロールできます。だからヴィンテージの差というものがあまり生まれません。
それに対して雨のタイミングが不安定な地域もあります。北半球なら5月6月ごろの開花の時期に雨が降れば、受粉が妨げられて収穫量に影響します。9月10月ごろの収穫期に降れば、ブドウが水を吸って凝縮感が下がることもあります。近年は暑すぎる夏によってブドウが光合成を止めてしまうことがあるのも問題になっています。
ヨーロッパの伝統産地に、ヴィンテージの特徴が大きく表れるワインが多い傾向にあります。
少しググれば、いろいろなヴィンテージチャートが参照できます。
ワイン初心者の方は、まずはヴィンテージチャートの評価が高い年を試してみるといいでしょう。しかしワイン通の中には「一般的に難しい年と言われているものにこそ、光るものがある」という人もいます。
ものによってヴィンテージ差はあるが、単純に良い悪いという語り方はできない。ただ特徴がそれぞれにあるだけ。こう認識すべきです。
ヴィンテージについては、他の要素で好みを絞ったあと。好きなスタイルのワインがある程度わかった上で、年による違いを楽しんでみるといいでしょう。
「好き!」と感じたあるワインから次の1本を探る
先に述べた自分の好みを探る方法について、一例を挙げてみましょう。
あるワインを飲んで「美味しい!」と感じた時、そこからどう広げていくかを考えます。
取りあげるのは、当店で長くベストセラーを続けるこの1本。
このワインはどんなワイン?
よく熟したベリーやプルーンのようなフルーツのアロマと、ヴァニラやコーヒーのような甘い香りを持つ《タイプ:赤ワイン》です。
この香りは《ブドウ品種:カベルネ・ソーヴィニヨン》のブドウ品種の特徴と、新樽を含めた《醸造:オーク樽熟成》の効果が表れています。味わいの力強さと程よいタンニンも、ブドウ品種と醸造方法の特徴です。
このワインが作られるのは《産地:ナパ・ヴァレー》で、一概に温暖とは言えない産地ですが、味わいからは結構温暖な畑のブドウがつかわれていると推測できます。
価格は《価格:¥4000円台半ば》であり、ナパ・ヴァレーのワインとしては比較的安価ですが、ワイン全体としてはまずまずのハイレンジと言えるでしょう。
このワインについては「〇〇さんがつくっています」というような明確な生産者がいるわけでなく、そのまま《生産者:ナパ・ハイランズ》というブランドです。
《ヴィンテージ:2019年》は、評価としては高い年。ただ、あまりヴィンテージ差の現れるワインではありません。
このワインが気に入ったとして、次のワインをどう探しましょうか?
まずは生産者
「悪くないけど、もうちょっとこんな感じだったらな・・・」これくらいの感触ならスキップしてもいいです。
でも「うわ!これ美味しい!リピートしてもいいけど、他にも美味しいのあるなら・・・」という感じなら、まず考えるべきは同じ生産者の別のワインです。
ナパ・ハイランズのブランドでは、同じクラス(同じくらいの価格)として、メルローの赤ワインとシャルドネの白ワインがラインナップされています。
また、上級レンジとして、より狭い産地のブドウに絞ったこちらのワインがあります。
同じ生産者、同じブランドのワインは、気に入る可能性が結構高いです。
なのでまずはこのラインナップから試してみることをおすすめします。
ただ、これだけです。3本飲んでしまえば終わり。
なので次いきましょう。
ワインのタイプ・・・はスキップ
きっとこのブログを読んでくださっているかたは、ある程度はいろんなワインを飲んできた方がほとんど。
「家で飲むのは白ワインが多い」みたいな傾向はあっても、白ワインでも好き嫌いがあることに気づいているでしょう。
何が言いたいかというと、「ナパ・ハイランズのカベルネが好きだから、私は赤ワインが好きだ!」なんて単純な話ではないと納得していただけるだろう、ということです。
だから、ワインのタイプについてはスキップします。
品種:カベルネ・ソーヴィニヨンが好き?
このワインの豊かな香りのボリューム、熟したベリー系の果実味、程よい酸味とタンニンはカベルネ・ソーヴィニヨンの特徴です。
ただし、「温暖な生産地の」という条件つきで。
ならば、私はカベルネ・ソーヴィニヨンが好きなんじゃないかな?
十分あり得ます。
それを確かめるには、産地としては遠い、温暖産地のカベルネ・ソーヴィニヨンを飲んでみることです。
例えばこのあたり。
南アフリカのある程度温暖な産地のものです。
こちらはワシントン州のもの
この2つがどちらも好きなら、あなたは「カベルネ・ソーヴィニヨン好き」かもしれないと推測できます。
醸造方法:オーク樽熟成
本当は産地の方が重要なのですが、説明の都合で醸造方法についてお話します。
先述の2本はどちらもしっかり樽熟成の風味も感じられます。
だから品種の特徴だけでなく、醸造方法の特徴もしっかりあらわれており、そちらが好みだった可能性もあるということです。
カベルネ・ソーヴィニヨンの樽熟成していないレベルの高いワイン、というのは私の知る限り存在しません。
だから樽熟成とは切り離して考えるのは難しいです。
というのも、カベルネ・ソーヴィニヨンは結構多くのタンニンを含む品種だからです。
その渋味は、新樽をつかった樽熟成の過程でまろやかになります。
また、ブドウの熟度が高くても、果実味に渋味が包まれるように感じ、渋さが目立ちません。
対照的なものと比べてみましょう。
こちらのオーストラリアのカベルネは、半分は樽熟成していません。
ゆえに渋味の感じ方が大きく異なり、まろやかという表現は当てはまりません。代わりに口全体を刺激するフレッシュ感があります。
もしこちらのワインが苦手なら、「しっかり樽熟成して渋味のまろやかな赤ワイン」が好きなのかもしれず、ブドウ品種のカベルネ・ソーヴィニヨンは重要でないのかもしれません。
産地:ナパ・ヴァレー
先述のように、このワインはナパ・ヴァレーのなかでも温暖な産地でつくられています。(厳密には味わいからの推測です)
温暖な産地なら、より熟したベリーの風味をもつ力強い果実味が特徴となり、酸味も比較的穏やかなワインが多いです。
それが好きなのか確かめるため、同じ産地で違うブドウ品種も飲んでみましょう。
先ほどご紹介したナパ・ハイランズのメルローももちろんいいのですが、わかりやすくするためにもっと違うものにして。
ジンファンデルは糖度が上がりやすい品種で、カベルネ・ソーヴィニヨンよりもよりジューシーな果実味を持つものが多いです。代わりに酸味は控えめな傾向です。
これも好きだったとしたら、さらに大きく変えてみる。
もしオーストラリアの温暖産地で別の品種でも好みに合うなら、あなたの好みを決める重要ファクターは「産地が温暖であること」かもしれません。
価格:4000円台半ば
4000円台半ばのこの価格は、多くの人にとって日常つかいには少し高いでしょう。
特別な日はこれでいいにしても、普段はもっと手ごろなもので好みに合うものを探したい。
ナパ・ハイランズはそもそも「価格の割に高品質」と言われるワインなので、より安い価格帯で同じくらい美味しいものを探すのは簡単ではありません。
なのでちょっとずつ価格を下げていって、「これだけ安くて味わいの差も少しなら、こっちの方がいいかな」という感想から、「このワインなら飲んでも不満が残っちゃうから、もう少し高くても仕方ないよね」に切り替わるラインを見極めるのがポイント。
それがあなたが「好き!」と感じるワインの最低ラインかなと推測できます。
《4000円弱》
《3000円強》
《約2500円》
《約2000円》
《約1500円》
やっぱり安くなるほど凝縮感も下がり、満足度は減ってきます。
なのであとは、ご自身のお財布事情と味覚の天秤で、妥協点を探っていくのがいいでしょう。
「嫌い」は自分の「好き」を知る重大ヒント
自分の好みを知る上で、実は「好き」と感じるワインよりも「嫌い」と感じるワインの方がヒントになることが多いです。
「好き」と感じるワインとの共通点・相違点から、好みの傾向がより見えてくるからです。
ワインを飲む機会があれば、なるべくスマホでラベルを撮っておいてください。
我々ソムリエに相談してもらえれば、好きと感じたワインと嫌いと感じたワインから、上記のようなポイントをもとに好みが推測できます。ワインが多いほど精度が上がりますが、ワインの名前なんてなかなか覚えてられませんよね。だから写真です。
美味しくないワインの写真を残しておこうとはあまり考えないかもしれません。
でももし自分の好みがまだはっきりとはわかっていないなら、その写真があなたにピッタリのワインと出会うきっかけになるかもしれません。
余談:片山の好み
余談になりますが、筆者片山自身は自分の好みをどう分析しているのか、紹介しておきます。
ワインのタイプ、赤・白・ロゼ・スパークリングはどれもよく飲みます。どれが好きというのはありません。
ブドウ品種はリースリングとピノ・ノワールに好きなものが多いですが、ピノ・ノワールで嫌いなものも多いので、実はあまり強い要素ではないと考えています。いくらか苦手な品種はあります。
最も重要なファクターと考えているのが産地。冷涼な産地で日照時間が長すぎないところが好きなようです。
ピノ・ノワールでもセントラル・オタゴのように冷涼かつ日照時間が長いところは、実はそれほど好みではないんです。
また、個人的には「酸味がなければワインじゃない!」と思ってますので、酸味の低いワインはグラス1杯以上飲めません。
高い方には際限がなく、リースリングは酸度が7.0g/Lを超えてからテンションが上がってきます。
醸造方法は新樽が強すぎなければ問題なく、タンニンの強弱はどちらもいけます。だからバローロなども好きです。
価格帯はそりゃ高いものが好きです(笑)
なお、甘口も大好きです。
このように詳細に分析していたら、飲む前からある程度予想はついてしまいます。
それでも、時としてワインは予想を超えてくる。好みじゃないはずのタイプの中にビックリするような美味しいものがある。
だからワインはやめられないんですよね。
みなさまもまず、自分の「好き」を知って、ワイン選びを楽しんでみませんか?