オレンジワインとは白ブドウを赤ワインのように醸造したものを指します。
白ワインと違って果皮の色がつくので、その色合いはオレンジや黄色になります。
海外では「アンバーワイン」とも呼ばれるこのワイン、メディアにも時々取り上げられ、ずいぶんメジャーなワインになってきました。
オレンジワインの製法、その楽しみ方と入門に向いた銘柄をご紹介します。
新しくて古い、ジョージアのオレンジワイン
人類が最初にワインをつくった国をご存知でしょうか。
フランスやイタリアみたいな主要国ではなく、実は東ヨーロッパに位置するジョージアです。
今から約8000年前からワインづくりが行われていたそうで、その証拠として土器に入ったブドウの種が遺跡から見つかっています。
そしてこのジョージアで昔から行われていた製法で作られるのが、オレンジワインなのです。
ジョージアでのワインづくり
ジョージアの伝統的なワインづくりは、クヴェヴリという容器を使って行われます。
クヴェヴリとは卵型をした素焼きの壺。900~1200度という高温で焼いてつくられます。
中に蜜ろうを塗ってコーティングすることもあります。
大きさは小さなものから大人が入れるほど大きなものまで。
これを地中に埋めてワインづくりが行われます。
ユネスコの世界無形文化遺産
このクヴェヴリに潰したブドウを入れて保管すると、酵母の働きによってワインになります。
悪くいってしまえば非常に原始的。地中に埋めるので温度管理はできず、発酵の終了は自然任せです。
この伝統的な製法が、2013年にユネスコの世界無形文化遺産に認定されました。
ワイン関係のユネスコ認定は数多くあります。
ブルゴーニュのクリュ(畑)。
オーストリア、ヴァッハウ渓谷。
ボルドー、サンテミリオン地区の街並み。
たいていはその景観とワインづくり。
ワインの製法が認定されたのは、ジョージアが初めてです。
果皮や種も一緒に醸造
クヴェヴリに入れる際、果皮や種と一緒にアルコール発酵が起こるのがポイント。
赤ワインにおいてはこれは普通のことです。
しかし白ワインは通常、圧搾したジュースだけを発酵させるのです。
ジョージアには当然、黒ブドウも白ブドウもあります。
白ブドウからこの製法でつくられたワインは、オレンジ色や琥珀色のワインとなるのです。
なので「ジョージアのワインは全てオレンジワイン」とは言えません。
「ジョージアの伝統的な製法で白ブドウを醸造したものが、オレンジワイン」なのです。
オレンジワインとロゼワインの違い
オレンジワインとロゼワインは、時に見た目では区別がつかないくらい似ています。
しかし作り方を知ればその違いは明白。オレンジワインは白ブドウを使う。ロゼワインは黒ブドウを使う。これが最大の相違点です。
白ブドウの果皮の色を引き出したのがオレンジワインであり、黒ブドウの果皮の色をあまりつかないようにしたのがロゼワインなのです。
ただ、オレンジワインにはロゼワインとよく似た風味のものもあるんです。
ブラインドテイスティングでは間違えちゃうかもしれません。
どうしてこの製法をとった?
クヴェヴリはオーク樽と同様、ある程度の酸素を通しますし、蜜蝋コーティングをしなければワインもにじみ出てきます。
つまりワインがある程度酸化するということ。
適度な酸化はワインに必要です。簡単に言うとワインをまろやかにしてくれます。
しかし酸化し過ぎは劣化です。
ワインを酸素から守ってくれるもの、それはタンニンです。渋味のもとであるタンニンは、果皮や種からワインに溶け出します。
オレンジワインはタンニンを含むから渋い。これがオレンジワイン最大の特徴です。
きっと現代のように、白ブドウの果汁のみで発酵させても、古代ジョージアではうまくいかなかったでしょう。
現代のようにガラス瓶とコルク栓によって酸素を遮断できません。
酸化してしまうのです。
果皮や種と同時に醸す製法だったからこそ美味しものを作ることができ、現代まで受け継がれてきたのでした。
クヴェヴリでつくるオレンジワイン。
COCOSでは、ジョージアを代表する白ブドウであるルカツィテリと、キシィという土着品種をつかったクヴェヴリワインをご紹介しています。
ジョージアでメジャーなブドウを3つ挙げるなら、ルカツィテリ、ムツヴァネ、サペラヴィ。
前者2つが白ブドウで、オレンジワインがつくられます。
今回ご紹介するシュフマンはドイツ系の生産者。
伝統的な製法を尊重するだけでなく、衛生管理の面では最新技術を用いており、極めてクリーンな味わいの欠点のないワインをつくります。
それが同じオレンジワインでもルカツィテリとキシィという2つのブドウの違いを浮かび上がらせています。
ジョージアのオレンジワインは3000円以上の比較的高めの価格であることが多いです。これはクヴェヴリでのワインづくりがあまり大量生産に向いていない点が大きいです。
その中でシュフマンのオレンジワインは非常にお手頃価格なのがうれしいところ♪
クヴェヴリを使わないオレンジワイン
今や世界中から多くの醸造家が、その製法を学びにジョージアを訪れています。
彼らは自国に帰ると、もともと栽培していたブドウで、今ある設備でオレンジワインの製法を試みます。
そう、クヴェヴリでなくともステンレスタンクで醸しても、オレンジワインは作れるのです。
もちろん同じものにはなりません。
ジョージアのクヴェヴリでつくるオレンジワインほど複雑な風味は出ません。
代わりに果皮のニュアンスがもっとピュアに表れる、クセが控えめのワインになります。
オレンジワイン初心者の方は、ステンレスタンク醸造の個性控えめなものから入ってみてもいいでしょう。
イタリア ステンレスタンクのオレンジワイン
こちらのカンティーナ・ライナがトレッビアーノ・スポレッティーノでつくるオレンジワインは、果皮と一緒の発酵も8日間と短く、オレンジワインの入り口としてとっつきやすさがあります。
オレンジの皮のような風味がはっきりしており、飲みこんだ後にタンニンを感じます。
このタンニンがお肉”も”使った料理、白ワインだと少し弱いものに対して面白い。
白ワインビネガーだけで食べる水餃子との相性はぜひ試していただきたいです。
オーストラリア ステンレスタンクのオレンジワイン
オーストラリアでもオレンジワインが作られています。たとえばローガンワインズがつくるこのクレメンタイン・ピノ・グリ。
果汁に果皮をつけておく時間が短いので、渋味はかなり穏やか。
ワインだけで飲んで注意すれば感じるレベルです。
それよりもピノ・グリの皮由来の、コクのある口当たりが特徴。
これまたとっつきやすいオレンジワインです。
オレンジワインの風味
オレンジワインだからオレンジの味がする・・・ってわけではありませんが、オレンジの皮の部分のような、ちょっと苦味をともなった柑橘のニュアンスはよく感じます。
他によく挙げられる表現としては、ヘーゼルナッツ、アプリコット、蜂蜜など。
とはいえ「赤ワインの香りといえば?」と言われて困るように、品種や産地・生産者で風味は千差万別。
白ワインとは全く違うと言っていい味わいなので、その変化を楽しんでください。
この香りがしたらご用心 酢酸エチル
ワインに時折感じる香りとして「酢酸エチル」があります。
身近なものでは、マニキュアの除光液に使われ(アセトンではなく、ツンとする香りの方)、セメダインにも感じられる他、パイナップルなどのフルーツにも含まれています。
子供のころ、「トラバルーン」「プラバルーン」というおもちゃで遊んだことはないですか?
割れない風船のようなもので、ストローの先に赤い樹脂をつけて膨らませます。
この臭いが主に酢酸エチルです。
ココスでは欠陥ワインと判断します
これは、アルコール発酵の後も発酵が続いて生成された酢酸(お酢)とアルコールが結びついて作られるもので、人体には無害です。
しかし、微量でも感じやすいので、ワインの香りを支配してしまいます。
赤ワイン白ワインにも感じることがありますが、全部この香りになってしまえば面白くないですよね。
とはいえ『ワインの欠陥』として不良品として交換を求めることはできません。
COCOSでは、試飲の上この香りが全く感じられないか、他の香りと比べてほぼ感じないものしか扱わない方針です。
オレンジワイン = 自然派ワイン?
オレンジワインだからといって自然派ワインというわけではありません。しかし中にはいわゆる自然派の作り方をしているものも少なからずあります。
自然派ワインとは
自然派ワインの明確な定義はないので、ここでは詳しくは語りません。
簡潔にポイントを2つ。
栽培においてはオーガニックなどの除草剤・殺虫剤を使わないか限りなく抑え、化学肥料を用いない。
醸造においては培養酵母をほぼ用いず、様々な添加物や亜硫酸を減らし、技術に走らない手法をとる。
そういったワインを自然派ワインと呼んでいます。
自然派ワインの醸造
この亜硫酸をなるべく減らすというのがポイントです。
亜硫酸はワインの殺菌と酸化防止に用いられます。
亜硫酸を加えなかったり、下手に減らしすぎると酸化してワインが劣化するリスクが高まります。
発酵が止まらずお酢になったり、予期せぬ悪い風味が生まれることがあるのです。
よって適正量の亜硫酸は必要。
しかしなるべく多くは加えたくない。
そこで注目したのが果皮に含まれるタンニン。
タンニンはワインを酸化から守ってくれる作用、抗酸化作用があります。特に果皮の厚いブドウ品種は白ブドウでもしっかりタンニンを含むので、オレンジワインに用いられやすいです。
一時期「赤ワインはアンチエイジングに効果的」としてブームになったのはその抗酸化作用があるからです。
なお、アンチエイジング効果のほどは眉唾と思ってください。
フリウリの生産者がオレンジワインに注目
ジョージアに次いでオレンジワインが有名な地域。それはイタリアのフリウリです。
フリウリ・ヴェネツィア・ジューリア州。
そこの地ブドウ、リボッラ・ジャッラは果皮が厚く、そこには良質なタンニンが含まれています。
自然派の生産者は、このタンニンをうまく生かす方法を考え、ジョージアの手法を学んでオレンジワインをつくったのです。
ヨスコ・グラヴナー、ラディコン、ダリオ・プリンチッチなどが有名な生産者です。
オレンジワインに自然派ワインが多いわけ
ワインをなるべく自然のままにつくりたい。
余計なものを加えたくない。
亜硫酸を加える量をなるべく少なくしたいが、輸出した先でワインが酸化してしまっていては大変。
先ほど挙げたフリウリの生産者をはじめ、そう考える自然派の生産者がたどり着いた手法の一つが、オレンジワインでした。
そういう経緯があるから、オレンジワインには自然派が多いのです。
全部が美味しい訳ではない
良質なタンニンを抽出し、それがきちんと酸化防止に働いてくれるオレンジワイン。
そのためには質の高いブドウが必須です。
形だけまねても、美味しいオレンジワインはつくれません。
今回オレンジワインを選ぶにあたり、結構な数のワインを却下しました。
多くは先述の”酢酸エチル”の香りゆえにです。
まるであの香りが自然派の香り、オレンジワインの香りみたいにされている現状があります。
それは断固として違う。
自然派ワインにボトル差があり、開けてみるまでわからないのは仕方ないし、逆に魅力と考えてもいいでしょう。
しかし明らかに欠陥の香りなのに、「自然派ワインだから」で済ませてしまうのは違うと考えるのです。
COCOSのバイヤーである橋本も片山も、そういった自然派ワインに見られがちな欠陥に寛容ではないです。
時にチャレンジングなものを仕入れることはありますが、他店に比べると比較的無難なところを揃えていると考えます。
注意!オレンジワインの適温
オレンジワインは白ワインほど冷やさないのがポイント。
とはいえ室温だとちょっと高すぎることも。
15℃くらいを目標に。
飲み始める30分前くらいに冷蔵庫から出して、もし冷たすぎたら手でワイングラスを覆うように持って、少し温めながら楽しみましょう。
なぜって?それは赤ワインと同じつくり方をしているから。
※先ほどご紹介したクレメンタインのオレンジワインは、白ワインくらいの温度で飲むことを推奨されています。
オレンジワインの楽しみ方
いつもと違う色のワインだからって、妙に構える必要はありません。
赤ワイン、白ワインのように、お家で気軽に開けて飲めばいいのです。
とはいえ「オレンジワインだからできる」楽しみ方もあるので、2つご紹介します。
食べ物とのペアリング
オレンジワインは、赤ワインのようなベリーの風味はなく、しかしタンニンがあるので、相性のいい料理も少し変わります。
よくおすすめとして目にするのが、カレーをはじめとしたスパイスの効いたインド・ネパール料理。
トウガラシを使った韓国料理など。
個人的におすすめなのは、プレーンなチーズ。
チーズ専門店で売っているようなのでなく、スーパーで売っているミルキーなねっとりとしたチーズです。
オレンジワインのタンニンが乳脂肪と結びつくため、チーズ単品で食べたときの口の中のねっとり感をぬぐい去ってくれます。ワインもまろやかに感じます。
1週間かけて飲む
オレンジワインが白ワインと違うのは、果皮からのタンニンが溶けだしワインを酸素から守るところにあるのは、先述のとおり。
つまりオレンジワインは日持ちします。
果皮を漬けている時間が長いほどタンニンが多く溶け出し、酸素から守ってくれます。
タンニンが多く含まれると、口に含んだ時ぎゅっと歯茎が引っ張られるような感覚があります。
なので大雑把には「クセの強いオレンジワインほど日持ちする」と思ってください。
普通の白ワインなら酸化の臭いが出てきてしまうころでも、オレンジワインなら1週間程度は十分楽しめるものが多いです。
(冷蔵庫にて1度抜いたコルクをまたさして保管したとして)
一方で、オレンジワインは意外と飲み疲れします。
一度にあまりたくさんは飲みづらいのです。
途中に他のお酒・ワインをはさみながらちょっとずつ飲むのがおすすめの楽しみ方です!
オレンジワインっぽくてオレンジワインじゃない
ワインの色はロゼワインと言っていいほど赤みがかっている。
味わいには果皮のニュアンスも感じるのに、これでも扱いが”白ワイン”なのがこの、ベッカーがつくる「カルクメルゲル・グラウアーブルグンダー」。
こんな色になる理由は、品種のピノ・グリ。
「グリ」というのはフランス語で「灰色」という意味で、実際にピノ・グリは熟すと灰色がかったピンク色になります。
この色素がワインに出るように、”発酵前の”果汁を長く果皮に漬けておきます。
オレンジワインのように”果皮とともに発酵”しているわけではないので、この色でも”白ワイン”扱いなのです。
オレンジワインと何が違う?
発酵”前”の果汁に果皮を漬けるが、発酵”中”は漬けていない。
これがどう違いに現れるかと言うと、特にタンニンの抽出量です。
というのも、果皮や種に含まれるタンニンは、アルコールの存在下でよく溶け出るからです。
オレンジワインかそうではないかの定義は、明確に決められているわけではありません。
しかしここがポイントになるのは、多くの方に同意してもらえると思います。
難しいことはさておき、このワインが美味しいのは確か。
ちょっと変わったワインを飲みたい方にはぴったりです!
多様なワインの一環として、オレンジワイン
「オレンジワインが美味しいから、こればっかり飲んでいる。赤も白も飲まなくなった」
そんなワインのプロには出会ったことはありません。みなさん、いろいろあるワインのなかで1つの選択肢として扱っています。
果皮を浸すことでタンニンを抽出したオレンジワインは、白ワインより飲みごたえがありフードペアリングの方向性も違います。
白ワインよりも高い温度で楽しむべきであり、より日持ちするものが多い傾向です。
中にはロゼワインと似た風味のオレンジワインもありますが、その多くは全く別物。赤ワインとも白ワインともロゼワインとも違います。
ジョージアから学ぶオレンジワインの製法は、ワインの多様性を広げてくれました。ワイン好きでありながら、一度も飲まないのは『損している』と言えるでしょう。