
手頃な価格であと1,2本。普段飲み用ワインのストックには、ちょっと珍しいワインがおすすめ。品種・地域・醸造法により風変りに仕上がったワインは、似たようなものがなかなかありません。好奇心を刺激するとともに、過去の美味しかったワインと比べられないからこその満足感。予想のつかないワインにチャレンジする勇気を持てば、晩酌ワインはもっと楽しいものになるはずです。
珍しさポイントで選ぶおすすめワイン6選
このワインはなぜ珍しいのか。主に次の3つに注目してみます。
品種:他の地域では見かけない土着品種や珍しい構成など
産地:あまり見かけない産地やその産地としては珍しい品種やワインのスタイル
製法:一般的ではない醸造法の一工夫がある
これらをポイントにして、☆5つで珍しさを評価してみました。
味わいはもちろんすべておすすめです。あとはあなたの冒険心と安心を求める気持ちの天秤で決めてみてください。
珍しさ★5 3口目まで印象の変わる『おもろい』ワイン
珍しさのポイント
製法+3 産地+2
このワインでまずとっても珍しいのが製法。
貴腐ワインの原料となる貴腐ブドウは、成熟期のブドウに貴腐菌がつくことでできます。朝夕の霧にのって貴腐菌がつき、ブドウの果皮に穴をあけます。そして晴れた日中に水分が蒸発することで、レーズン状の甘味が凝縮したブドウになります。糖度上昇だけでなく、貴腐菌による風味ももたらされます。


では貴腐菌がついたときすぐに収穫すればどうなるか。貴腐の風味はあるのに適度な糖度のブドウは、辛口ワインに仕上げることもできます。このワインがまさにそれ!
もう一つ面白いのが、飲み進めると大きく印象が変わること。
一口目は「なんかよく分からないワイン」
二口目は「フレッシュなリンゴを丸かじりしたような風味」
三口目で「貴腐菌による不思議な風味が面白い」
この酵母のニュアンスがとんかつの衣によくあうとの輸入元さま情報。
つくり方も感じ方の変化もフードペアリングも興味深い、「おもろい」ワインです。
珍しさ★2 ソーヴィニヨン・ブランがグイグイくるロゼ
珍しさのポイント
製法+1 品種+1
ロゼワインは基本的に黒ブドウからつくられます。なので黒ブドウの特徴が味わいにあらわれ、白ワインに比べボリューミーな果実味やコクを持つものが多い傾向です。
しかしこのワインは一味違う。ロゼワインなのに97%は白ブドウのソーヴィニヨン・ブランなのです。むしろ色のついたソーヴィニヨン・ブラン。この品種の爽やかな白ワインに、3%だけシラーを加えて色とベリーの果実感を加えたもの。そんなイメージです。
だからその味わいもソーヴィニヨン・ブランの品種特性が主体。同じ生産者がソーヴィニヨン・ブランもつくっているので、比べてみたら確かに共通項は多い。キリっと爽やかな風味が暑い季節にはたまりません。


じゃあもうソーヴィニヨン・ブランでいいのでは?それも違う。
3%とはいえ確かにベリーの香りが加わり、よりチャーミングな風味です。
白ブドウを混ぜるロゼワインは世界各地で時折見かけますが、これほど白ブドウが主張するのは珍しいということでご紹介しました。
珍しさ★3 タイプミス?いえいえ「カベルネ・ブラン」です
珍しさのポイント
品種+3
この白ワインはカベルネ・ブランとミュラー・トゥルガウのブレンドでつくられます。
「カベルネ・フラン」の書き間違えと疑われるかもしれませんが、あっています。
カベルネ・ブランは近年開発されたPIWI品種の一つ。「カビ耐性品種」のことで、ヨーロッパ系ブドウ以外の種と掛け合わせることで、病気の耐性を持つものが開発されています。農薬を使わない/控えた栽培が低コスト・安定的にでき、サスティナブルな農法を採用しやすいと注目を集めています。
比較的よく見かけるものだと、「レゲント」や「ムスカリス」などでしょうか。カベルネ・ブランはそのレゲントとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配です。


「この品種の特徴は・・・」と話せるほど、情報も経験もありません。ただ、一度だけ飲んだカベルネ・ブラン単一の別のワインからは、ゴボウのような土っぽい香りを感じました。
このワインの香りは意外にも素直に、フルーツや花などの華やかなもの。この生産者はカベルネ・ブランをブレンド材料として使うのがこだわりだそうで、ミュラー・トゥルガウが良い感じに個性を中和してくれているのでしょう。ほのかな甘味のあるふっくらとした果実味で、親しみやすい味わいです。
珍しさ★3 美しい茜色のオレンジワイン?
珍しさのポイント
製法+2 品種+1
白ブドウを赤ワインのように仕込む「オレンジワイン」」は、ここ10年ほどで一気に人気になったカテゴリ。濃淡の差こそあれ、その名の通りオレンジ色、あるいは琥珀色をしているワインが多いです。でもこのワインはどう見たって「オレンジ色」の範疇ではありません。
その理由は果皮がピンク色に熟す「ピノ・グリ」を使っているから。加えてゲヴュルツトラミネールもある程度濃い色に熟します。アントシアニンなどの色素が割と豊富な白ブドウを使うので、こんな茜色になるのです。


ヒューゲルのピノ・グリ
どちらも酸味が落ちやすい品種ですから、それを補う意味でもリースリングでしょう。ただそれでも「爽やか」というタイプではなく、どちらかというとどっしり飲みごたえがあるタイプ。香りには甘いニュアンスがあるのですが、味わい自体はドライでコクのあるタイプです。
珍しさ★2 樽熟成の素材に工夫あり
珍しさのポイント
製法+2 産地+1
このワインの変わったところは、強くローストしたオーク樽でワインを熟成することです。
ワインショップでもスーパーでもたくさんのワインが並んでいます。美味しいワインをつくる基本はブドウとはいえ、ブドウの質だけで似たようなワインに対して個性を示すのは難しい。できたとしてもコストがかかってしまいます。
個性を持たせるなら栽培よりも醸造法に一工夫した方が、手頃で面白いワインがつくれます。
熟成に使うオーク樽を、かなりのヘビーロースト。そうすると樽材にメイラード反応が起こり、コーヒーのような甘く香ばしい香りが生まれ、それがワインに付与されます。メイラード反応とは熱による糖とアミノ酸の重合反応のことで、カラメルソースや料理の焼き色など、身近にあるものです。フレンチオークではなくアメリカンオークを使うことで、その甘い香りはより強くなります。
南アフリカでピノタージュ種に対して行うものは時折見かけます。しかし王道のワインが多いフランスで、しかもアメリカンオークでこの製法をとるのは珍しい!香ばしい風味の濃厚系赤ワインです。
珍しさ★3 料理次第で化けそう!楽しみな品種
珍しさのポイント
品種+2 産地+1
「マルスラン」という品種について、「こんな風味」というイメージを既にもっておられる方は稀でしょう。
カベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュを交配してつくられた品種で、南フランスの手頃なワインでは時々見かけます。しかしあまり手のかかった高価なワインはつくられていないか、日本にあまり入ってきていないのでしょう。この価格帯のマルスランは初めて飲みました。
なのでこれがマルスランの特徴なのか、それとも日本で育てるがゆえの特徴なのかは分かりませんが、変わった香りを感じます。
例えるならば仏壇や線香。あまり目立ったフルーツ感がなく、かといってスパイスや花でもない。なんとも奥ゆかしい香りを持ちます。


オーク樽由来ではないタンニンがある程度あり、適度な酸味とともに食事を引き立てそう。とはいえパッとどんな料理が良いかは思いつきませんでした。
ワイナリー公式ページでのおすすめはメンチカツとうなぎ。そう考えるとこの不思議な香りは少し山椒に似ているかもしれません。料理との相性次第でぐっと表情を変えそうなワインです。
ただし残念ながら、ワイナリーが自社畑のワインに注力するため、このヴィンテージが最初で最後。気になる方はお早めに。
珍しさ★4 どことなく日本を感じるのはなぜ?
珍しさのポイント
品種+2 産地+2
デュナイは1958年にスロバキアで開発された交配品種。マスカット・ブーシェとブラウアー・ポルトギーザーを交配させたものに、さらにザンクト・ローランを交配させたものだそうです。この時点で「全く馴染みのないよくわからない品種」というのは伝わったかと思います。
2011年時点の情報では、栽培地はスロバキアで62haのみ。現在まで増えている可能性はありますが、とってもマイナーな品種であることは間違いありません。
情報としては濃厚な色合いでフルボディな赤ワインになるというもの。しかしこのワインに関してはワイナリーのスタンダードクラスであるため、それほど濃くはありません。ステンレスタンク発酵・熟成であるため、きっとこれが素直なデュナイの風味であるはずです。
馴染みのない品種だけあり、香りもなかなか嗅ぎなれないもの。あえて近いものを探すなら、ブラック・クイーンや甲斐ノワール。もしくはヤマブドウ系の品種。いずれにせよ日本で交配された黒ブドウっぽい、野性的で洗練されていない香りがあるのです。


輸入元さんいわく、その風味が醤油をつかった料理にあうのだとか。イチオシはピリ辛こんにゃく。
一風変わったワインらしく、「この料理にはワインじゃないでしょ?」と思うようなものこそおすすめです。
珍しいワインをおすすめする理由1
珍しいワインは『安心感』と『美味しさの期待値』では、よく見かけるタイプのワインに劣ります。
それでも珍しいワインをおすすめするのは、家飲みワインでもっとワクワクしてほしいから。「こないだまとめ買いしたワイン、どれから飲もうかな」と楽しみにしながら、自宅への帰り道を歩いていただきたいからです。
美味しいワインを選ぶ正攻法
前提として、誰もが美味しいと感じるワインはありません。「美味しい」という主観的な感情は、個人の好みや経験値に大きく左右されるからです。
でも誰だって、口に合わないワインにまでお金は掛けたくないですよね。
ワイン選びの失敗をなくす一番の正攻法は、自分が好きだと感じたワインに似たものを選ぶことです。


美味しかったワインの生産者がつくる別のワインを選ぶ。
同じ品種・産地・価格帯・醸造スペックのワインを選ぶ。
そうすれば味わいの方向性はそう変わることはありませんから、ある程度期待通りのワインを飲めるでしょう。
その代わりに思いもよらない風味のワインと出会うチャンスは少なくなってしまいます。
あえて定番を外すことのワクワク感
「え!?こんな香りのワイン、初めて飲む!」そのワクワク感はいろいろなワインを飲む醍醐味です。
「期待通りの味のワイン」というのは、「飲まなくても予想がついてしまう」ということの裏返しです。それを退屈に感じてしまう方も中にはいるでしょう。


ワインは最も種類が豊富なお酒です。
世界中でつくられていること。1400種類以上の様々なブドウ品種で風味が変わること。ブドウのグレードや醸造法でも風味は様々に変化すること。
それゆえ何万、何十万種類という飲み切れないほどのワインがつくられているのです。
想像もつかないようなワインがいくらでもあるのに、似たようなワインばかり飲むのはもったいなく感じませんか?飲める量にもお金にも限りはあるのです。ならあえて未知の扉を開けたくなるはずです。
飲んだことのない味のワインを開けるワクワク感を大切にしたい!
こんな方はちょっとワインの上級者かもしれません。でも他にもお酒がいろいろあるなかでもワインが好きという方には、こんな知的好奇心が旺盛な方も多いことでしょう。
珍しいワインをおすすめする理由2
もう一つのおすすめポイントは、「経験にある高価で美味しいワインと比べなくていい」という点です。というのも、お気に入りの品種でコスパ枠のワインを選ぶと、記憶にある名作ワインと比べてしまうかもしれないからです。
これはとりわけ予算が限られるとき。例えば「通販の送料無料ラインまであと1、2本ついで買いしたい」というような場合に当てはまります。
記憶にある美味しかった1本と・・・
たとえば「ピノ・ノワールのワインが好き」という方なら、そう確信するほど美味しかった1本ないし数本のワインがあるはず。きっかけになる1本、感動するような1本って、たいていの場合まあまあいいお値段すると思うのです。
手頃で美味しいワインは無数にあっても、“心を揺さぶる一本”は往々にして高価――そんな経験はありませんか。


その記憶が鮮明であるほど、比べてしまうんですよね。
「家飲みワインの予算に合わせてだから、このワインまずまず優秀。けれども前に飲んだあれに比べると見劣りしちゃうな」
不満というほどではない物足りなさ。それを値段で納得させているのかもしれません。
珍しいワインは比べられない
前日に高級なステーキを食べたとて、昼食の牛丼がわびしく感じることはきっとありません。ステーキと牛丼には全く違った美味しさがありますから。
ワインも同じ。味わいのタイプが大きく違うものどうしは、どちらが美味しいか比べる意味はないのです。
珍しいワインなら記憶の中の美味しかった1本と比べて、物足りなさは感じにくいでしょう。だから限られた予算で普段飲みワインを探すとき、慣れ親しんだタイプのワインをあえて避けることをおすすめします。
珍しいワインでワインをもっと楽しく
「珍しいワインは玄人向け」ということはありません。
確かにまだほとんどワインを飲んだことのない方に、わざわざ珍しいタイプのワインをおすすめしたりはしません。まずは入手しやすく多くの人に好かれている、定番の品種・ベタなタイプのワインをおすすめします。
そのなかでまずは自分の好きなタイプ・苦手なタイプがあることを知ってもらいたい。好きなタイプの共通点が分かれば、自分でワインを選んで買えるようになります。
ただしそばかりでは、つい同じようなワインばかりに偏りがち。「セラーを開けたら赤ワインはピノ・ノワールしか入ってない」って方もいらっしゃるでしょう。


好きなものばかり飲むのも悪くありませんが、たまには好みを外すリスクをとってみるのも面白いでしょう。これだけワインの種類は豊富なのです。これまで以上にあなたの口にあうワインに出会えるかもしれないのです。
「へ~変わった風味。おもしろいね!」
そう楽しめるようになれば、自宅でワインを嗜む生活は次のステージに入ったと言えるでしょう。