
「味はイマイチなのに価格は高い」と思われていたのは昔の話。日本ワインはますます注目を集めています。改めて基本から知りたいのであれば、代表産地の典型的なワインを試しましょう。5つのGI認定道府県から、代表となる品種のワインをご紹介します。いつも飲む輸入ワインと比較して、品質の向上とコストパフォーマンスに驚いてください。
5道府県のおすすめワイン8選
現在日本を代表するワイン産地として認定されているのは5つの道府県。認定順に山梨、北海道、長野、山形、大阪です。
それぞれを代表する品種のワインの中から、典型的な味わいでコストパフォーマンスの高いものをご紹介します。
日本ワインの代表品種
山梨|甲州
シャトー・メルシャンは日本における最大手生産者の一つ。スーパーで売られる国内製造ワインもつくっているからと侮ることなかれ。長野県に近年建設した「椀子ヴィンヤード」は世界的に注目されています。
日本ワインの品質が高いだけでなく、研究や醸造技術の普及・教育にも力を入れており、まさしく業界をリードする存在。この甲州は樽熟成によって少しリッチな味わいに仕上げたもので、甲州らしい苦みが料理を引き立てます。
甲州について
甲州はワイン用のブドウとして日本で最も多く栽培されています。DNAのルーツを分析したところ、甲州は7割ほどヨーロッパ系ブドウの遺伝子を持つことがわかりました。シルクロードを通って交雑を繰り返しながら、日本に伝来したと考えられます。
非常に晩熟、熟すのが遅く、高温の気候でないと糖度が上がりません。なのでその生産のほとんどが山梨県。甲府盆地の酷暑により、11月ごろになってようやく甘いブドウが出来上がるのです。


赤ワインならまずこの品種から
山梨|マスカット・ベーリーA
ガツンと濃厚という品種ではないのですが、不思議とオーク樽熟成との相性がいいのがマスカット・ベーリーA。ヨーロッパ系ブドウとは少し違うイチゴやベリーの風味が、甘い樽香と調和します。この落ち着いた質感を感じたなら、樽なしのベーリーAと比べてみると面白いでしょう。
マスカット・ベーリーAについて
新潟県に岩野原葡萄園を開いた川上善兵衛氏。彼が研究・開発した数多くのブドウ品種の代表格が、このマスカット・ベーリーAです。栽培・醸造の条件次第で「キャンディ香」という甘い香りが生まれます。これが出すぎると他の個性が隠れるので良くないとされますが、程度であればチャーミングで魅力的な個性と言えるでしょう。
北の大地はドイツ系品種が伝統
北海道|ケルナー
北海道には古くから耐寒性のあるドイツ系品種が持ち込まれており、ケルナーはワイン用ブドウとしては生産量第3位。北海道ワインは日本ワインの生産量で日本一を誇り、そのスケールメリットを活かしてコストパフォーマンスに優れたワインをつくります。みずみずしい果実味とさらっとした口当たりで、いくらでも飲めてしまいそう!
ケルナーについて
1929年にドイツで開発された白ブドウ品種。寒い気候でも糖度が上がりやすく、収穫量が多いのが特徴です。プレミアムワインには向いていないためドイツでは栽培面積が減っていますが、カジュアルワインとしては素晴らしい。リースリングよりは柔らかい酸味を持ち、日常的に気軽に楽しめる味わいです。
輸入ワインとコスパで比べてみて!
長野|メルロー
メルローやシャルドネといったフランス系品種の栽培が盛んなのは、じつはここ長野県。いくつものワイン特区が制定され、観光にも力を入れています。果実味の滑らかな質感とわずかなグリーンノートといった、メルローの特徴がしっかり表現されてこの価格は安い!
フランス系品種の安定感は長野県!
長野 シャルドネ
長野県のシャルドネは低価格帯から「優等生」的なものが多いです。この品種が好きなら文句なく楽しめる、クリーンで繊細な味わい。その中で傑出したものを探したければ、倍以上の予算は必要。ここ数年できちんとグレードが定まってきたイメージです。
生食用・ワイン用ともに活躍する品種
山形|デラウェア
小粒な食用ブドウとしてもなじみの深いデラウェア。ワイン用ブドウとしても重要で、山形県では最も多くつくられています。第3セクターとしてコストパフォーマンスの高いワインをつくる朝日町ワイン。果皮を漬けて色を出したオレンジワインのスタイルも、デラウェアの魅力をよく表現しています。
デラウェアについて
デラウェアはワイン用白ブドウでは生産量第3位。アメリカ原産のブドウで小粒なのが特徴。食用ブドウとしては紫色に熟してから収穫されますが、ワイン用に酸味を優先される場合は、まだ緑色の状態で収穫され、「青デラ」と呼ばれることも。山形県が最大産地で、大阪府でも多く栽培されています。


有名ワイナリー入口の1本に
山形|シャルドネ
高畠町は市町村単位でデラウェアとシャルドネの生産量日本一。その名を冠した高畠ワイナリーは、ワールドクラスのシャルドネの生産者としてよく名前の挙がります。上級ワインの美味しさは言わずもがなですが、この手頃なスパークリングですらワイナリーの実力をよく表現しています。
栽培の歴史で産地認定
大阪|デラウェア
大阪府はワイナリーが8軒しかなく、生産量では岩手県などに劣ります。にもかかわらず代表産地に認定されているのは、気候とデラウェアからつくるワインに特徴と歴史があるから。比較的夏に雨が少ない気候ゆえ、熟度が高くジューシーなワインが生まれます。
日本ワインブームの背景にあるもの
国税庁による統計で、2023年における全国のワイナリー数は468圃場。順調に増え続けており、それに伴ってかメディアの露出も増加。ワインショップに行けば日本ワインコーナーがあり、様々な銘柄が手に入るようになってきました。
この人気の背景には何があるのでしょうか。
「日本ワイン」の表示ルール制定
日本ワイン躍進の切っ掛けになったのは、「日本ワイン」という表記が明確に定義されたことでしょう。
2015年に制定、2018年に施行された法律。そこで「日本ワイン」と表示するためには、100%国内産の原料を使用する必要があると決まりました。
海外からの輸入原料を使ったものは「国内製造ワイン」と、明確に区別されることとなったのです。


例えばスーパーなどで売っている紙パックに入ったワイン。それらはたいてい、チリなどから濃縮されたブドウ果汁を輸入し、国内の工場でワインにしています。ガラス瓶に入った輸入ワインより輸送効率が良いので、手頃に提供できるのです。
消費者は「日本ワイン」の文字を目印に、その2つを判別し購入できるようになりました。
代表産地の証拠である「GI」の制定
「GI」とはGeografical Indicationsの略で、地理的表示制度のことです。
これは簡単に言うなら地域のブランド商品。分かりやすいのは「神戸ビーフ」などでしょう。他の産地の牛肉は「神戸ビーフ」を名乗れない代わりに、その名を冠していれば一定の品質が保証されます。
食品に関しては農林水産省、お酒に関しては国税庁という管轄の違いはあるものの、日本では多くのお酒がGI認定されています。代表的なものとしては長崎県の「壱岐焼酎」など。焼酎や日本酒が多い中で、ワインも5か所認定されており、それが先述の5つの道府県です。
この名称は通商関係にある諸外国でも互いに保護されます。日本で「Napa Valley」のワインをつくれない代わりに、アメリカでも「GI Yamanashi」のブランドは守られるのです。
ワイン文化が成熟しているヨーロッパ市場への輸出を見据えるならば、いわゆる「ワイン法」による品質保証は大切なことです。
参考:国税庁HP
和食のユネスコ世界文化遺産登録
ユネスコは2013年、「和食」を「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に登録しました。
これは10年以上前のことですし、直接的に日本ワインの振興につながっとはあまり考えていません。
一方で日本の食文化への関心が高まり、他の要因もあわせて、日本への観光客が増えたのは事実。インバウンドの需要にあわせて、飲食店で働くソムリエには、輸入ワインばかりでなく自国のお酒への理解が求められます。旅先で食事するなら、その土地ならではの料理とお酒を楽しみたいという人は多いでしょう。
ソムリエ教本において、日本ワインや日本酒のウエイトが増えていったのもこのころからだと思います。


輸入ワインに精通したプロが、改めて日本ワインに注目し、そして発信していく。それを見た・飲んだ人がさらに拡散する。
その繰り返しがやがて日本ワインブームにつながった一因と言えるでしょう。
日本ワインの『逆境』とは
そんな追い風のある日本ワインですが、昔も今もワインづくりにおいては「逆境」の中にあります。それゆえに国内市場において流通するワインの約7割は輸入品。輸送コストの安さがあるはずの日本ワインは、わずか5%程度なのです。
ワイン用ブドウの栽培に向かない気候
日本の東岸海洋性気候、あるいはアジアモンスーン気候は、ヨーロッパを起源とするワイン用ブドウの栽培に向いていません。簡単に言うと、高温多湿すぎるのです。
ブドウの生育期間は、おおよそ4月から10月くらい。日本ではその季節、継続的に雨が降ります。数週間雨が降らないこともありますが、四方を海に囲まれており、湿度の高い状態が続きます。
雨や湿度はカビ系の病気の原因です。その防除のコストはワインの価格に反映されます。
湿度の高さと関係して、気温の日較差が小さくなります。日本はワイン産地として、生育期の夜間の気温がかなり高いです。ブドウが夜間に休まないため、酸味成分が分解されます。引き締まった酸味を感じにくいのはそのためです。


日本には「黒ぼく土」と呼ばれる豊かな土壌が広く分布しています。保水性が高く穀物や野菜の栽培には適していますが、ブドウには豊かすぎて樹勢が強くなり、ブドウに栄養が集中しません。保水性が高いと粒が大きくなり、風味の凝縮感が下がります。
こうした環境は、ワインづくりに適した産地と比較すると、品質が低いワインが割高になる要因です。
ただしこれは、「日本は・・・」という大きな主語でとらえた話。その中で優良生産者は、局所的で優れた気候の土地を選び、様々な工夫を重ねてハードルを乗り越えていったのです。
大規模化が難しい栽培環境
チリやオーストラリアなどで少し大規模なワイナリーを訪れれば、「見渡す限りはうちの畑だよ」なんてことが普通にあります。一方、日本でそのような大規模のブドウ畑はほとんどありません。
理由の一つは土地。そもそも日本の国土の75%は山岳部であり、栽培の用意な平野ではありません。というより広い平野部は既に住宅や商業・工業のためのエリアとして開発されています。
ブドウは斜面の畑での栽培に向いた作物とは言えるでしょう。ドイツをはじめとして、斜面だからこそ高品質なブドウが栽培できる例もあります。とはいえ作業効率は悪く、大規模化を阻む要因です。


加えて農地法による制限もありました。投機目的の土地取得などを防ぐため、企業が農地を取得することができなかったのです。結果としてブドウ栽培農家は小規模で高齢化も進んでいます。「効率化して大規模に生産を」という流れはなかったのです。
2009年に規制が緩和されてから、状況は少しずつ変わりつつあります。
製造環境におけるハンディキャップ
当たり前ですが、ワインはブドウがあればつくれるというものではありません。
ブドウを植えるには、欲しい品種の苗木と、その台木が必要です。(※)
ワインを製造し販売するためには、ワインボトルやコルクなどの栓が必要。発酵や熟成につかうオーク樽も、継続的に購入する必要があります。
発酵タンクや瓶詰ラインといった醸造器具も、基本的には輸入品です。
大きなワイン産地では当たり前にホームセンターで売っているようなもの。ワイン後進国である日本では、それを入手するのも一苦労であり割高なのです。
※台木
「フィロキセラ」というブドウの根に住み着くアブラムシへの対策で、アメリカ系ブドウにヨーロッパ系ブドウを接ぎ木して植えるのがスタンダードです。台木の種類により土壌の適正なども変わるため、その土地にあった品種・台木を選び抜くには長い年月が必要です。
円安により割高感が減った
こういった逆境と言える要因により、日本ワインは同等品質の輸入ワインに比べ、コストパフォーマンスが悪い状態が続いてきました。
特にヨーロッパ系品種。シャルドネやメルローは世界中で広く栽培されるので、輸入ワインと比較されやすいです。3000円の日本ワインを飲んでも、こないだ飲んだ2000円のチリワインに劣って感じたのでは、なかなかリピートしようとはならないでしょう。
しかしこの5年ほどで、輸入ワインの価格は結構上がりました。主な要因は物価高と円安です。ブルゴーニュやシャンパーニュ、トスカーナなどの人気産地で、プレミアムワインが高騰したのはまた別の話です。それを除けば、体感で2~4割ほどの値上げでしょうか。
日本ワインも値上げしています。資材が高騰し、人件費も上がっているので当然です。でも輸入ワインに比べれば、上昇幅は小さなもの。
加えて醸造技術の向上により、純粋に平均的な品質も上がっているように感じます。


10年前の日本ワインに、「価格の割に味はイマイチ」というイメージがある方こそ、今一度現在の日本ワインを試していただきたい。そしていつもの輸入ワインと比べていただきたい。
今回ご紹介したような日本ワインは、コストパフォーマンスで決して大きく劣るものではないでしょう。ネガティブなイメージが払しょくされ驚くはずです。
コスパを重視するなら老舗生産者を選ぶ
日本ワインの品質は全体的に上がっていると、筆者は考えています。一方でそこにコストパフォーマンスまで考えるなら、選び方を考える必要があるでしょう。
コスパを考えるなら、何十年とつづく老舗生産者のワインを選ぶことです。
ワイナリー設立にはお金がかかる
これは全世界のワイナリー共通ではありますが、設立したての生産者にコストパフォーマンスを求めるのは酷というものです。設備投資のための資金は、多くの場合借り入れでしょうから。
例外と言えるのは、巨大な資本をバックグラウンドに持つワイナリーくらいでしょう。
老舗ワイナリーといえども、設備は更新しないといけませんし、プロモーション費用なども必要です。それでも資金繰りは比較的良いところが多いでしょう。というより、資金繰りに成功しているところしか残っていません。
「昔から続いてきた大規模生産者のワインは安くて美味しい」
言葉にしてしまえばつまらないかもしれませんが、それが真実だと考えます。
新興ワイナリーを見つける楽しさ
老舗ワイナリーが良いワインを造り続ける一方で、多くの新しいワイナリーが誕生しています。
そういったワインの中には、価格に品質が伴っていないものも正直あります。中にはワインとしての欠陥がありながら販売されているものすらあります。


しかし中には友人・知人に教えたくなるような、素晴らしいものも見つかります。
小規模なスタートアップのワイナリーにとって、プロモーション活動に力を入れるのは簡単ではありません。だからこそあなたの口コミが力になります。
新興ワイナリーをこまめにチェックして、あなたの「推し」生産者を見つけるのも、ブームの今だからこその日本ワインの楽しみ方です。
基本⇒レア⇒新興 おすすめの楽しみ方
今回ご紹介したワインは、あくまで産地の基本です。既にワイン産地として日本の中で確立されてきた地域。その代表的で優等生的なワインです。昔から日本ワインを飲んでおられる方にとっては、「あー、このワインね」といったところ。
そういった基本を知った上で、レアな日本ワインを求めてみるのもいいでしょう。
日本ワインは生産量を増やしにくいので、評価が高いものが過剰に人気になる傾向があります。抽選販売だったり発売開始時のクリック合戦だったり。入手争奪戦になるワインは確かに美味しいです。
ただし数が足りないときは転売されるまでになり、少し流通量が増えると見向きもされなくなる。そんないびつな需給関係は、決して健全とは言えません。
それを経た後で、あなたの「推し」ワイナリーを見つけることをおすすめします。見学受け入れをしているところは、実際に足を運んでみるのもいいでしょう。消費者が生産者に直にコンタクトしやすいのは、輸入ワインにはない魅力です。
ごく一部のレアなワインを除き、「もっと美味しさを知ってほしいが難しい」と感じている造り手は多いです。あなたの「推し」がそのワイナリーの、そして日本ワインの未来につながるかもしれないのです。
そこには「価格に対する味」以上の価値があるはずです。