Pick Up 生産者

ワインの味に表現する「美しさ」 ピュアさを突き詰めるドメーヌ・ボー

2024年9月25日

 
富山に誕生した「ドメーヌ・ボー」のワインが目指すのは、その名の通り「美しい」味わい。ワイナリー誕生の経緯とビジョンを知れば、それがお題目ではないことに納得できます。ワインづくりを通して地域に貢献し続ける姿に、将来に期待し応援したくなるでしょう。味と価格に消費者目線を感じるドメーヌ・ボーのワインは、食卓に笑顔をもたらすこと間違いなしです。
 

まずはこれ!普段飲み価格で試せる看板ワイン

 
あるワイナリーに興味を持った時、ラインナップの中でどれから試すべきかは悩ましい問題です。
ブドウ品種に特定のお気に入りがあるならそれでもいいでしょう。でも「好みはあるけれど、美味しければどれでも楽しめるよ」という方も多いはず。
 
もし生産者が「これがうちの名刺代わりです」と考えるワインがあるなら、そこは素直に従うべきでしょう。それで他のワインも飲むか否かを判断すればいいのです。
 
ドメーヌ・ボーはそのワインが明確です。ワイナリーの名前を冠した「ドメーヌ・ボー ブラン/ルージュ」です。
 
あえてどちらか1本をということであれば、個人的にはこの「ブラン」がおすすめ
 
KATAYAMA
ネガティブな香りが一切なく、素直にシャルドネの香りが明るくピュアに立ち上ります。まさに「美しい」味わい。その分主張の強いワインではありませんが、3000円という価格なら決して悪くない。特別な日のワインではなく、いつもの夕食に飲んでほしいワインだと考えれば、十分にリピートの選択肢に挙がるでしょう。
 
執筆時2022VT
 
KATAYAMA
フレッシュなベリー系果実味主体のシンプルな風味。これまた悪いところを探すのが難しい「美しい」味わいです。赤ワインにどしっと甘濃い味わいを求める方には不向き。一方で普段上品なピノ・ノワールを好んでいる方にとっては、「お!たまにはこういうのもいいな」と思えるようなスムースさを感じさせてくれるでしょう。
 
執筆時2021VT
 
これらは執筆時のヴィンテージでは購入したブドウからつくっています。やがては立野原にある自社畑のブドウのみに移行していく予定だと聞いています。
 
 

一番は「ピュアさ」 9つのアピールポイント

 
ドメーヌ・ボーは自身の特徴でありアピールポイントとして、次の9つを挙げています。
 
美しい」を大切に 立野原の美しい景色を守りたい
情熱は伝播する」 情熱、それは伝播し、人の絆を生み出すもの
素=ピュア」 クリーンでピュアなワインを造る
グローカル」 Global+Local 一流の田舎から世界の心を動かすワインを造る
身士不二」 その土地の幸に寄り添うワインを造りたい
オンリーワン」 私たちにしか造り出せないワインを
自然の恵み」 多様性に満ちた土壌がもたらす恵の結晶
地域貢献」 ワインを通じて地域の活性化
開拓者魂」 富山のワインの未来を切り開いていく

 

 
公式のHPに載っていることを繰り返しても価値はありませんので、詳しくは述べません。
この中で特に1つを選ぶとすれば、まず飲み手の方に知っていただきたいのは「素=ピュア」であることだといいます。
 
 

現場に強く求める「クリーンな味」

 
社長の中山安治氏のスタンスは、基本として現場のことは現場に任せることだといいます。
その中で醸造家の松倉氏をはじめとしたスタッフに、これだけは強く要求していること。それが「美しい味のワインをつくること」だといいます。
 
Domaine Beau
「Beau」というフランス語は、英語にするなら「Beautiful」。美しいという意味。
これを一番大事にしているのです。
 
 

「美しい」「きれい」な味のワインとは

 
それを求めるのは、そうでない味わいのワインがあるということ。美しくない、きれいでない味わいのワインは決して提供したくないという決意の表れです。
 
では「汚い味」のワインとは何か。
定義は難しいですが、醸造の欠陥に由来する臭いが明確にあるものは「汚い」と言っていいでしょう
ブドウ果汁が酵母の働きでアルコールに変わることでワインができます。その過程で望ましくない酵母や雑菌が働いてしまうと、不快な風味が生まれてしまいます。
 
 
 
醸造家でない私に、その原因を詳しく語ることはできません。ただ完璧な状態でないブドウをコントロールしない醸造をしたとき、その「汚い味」は生まれやすいというのは間違いないでしょう。
完璧でないブドウとは、腐敗果や昆虫などの異物混入などが考えられます。日本の湿度の高い夏はカビ病が非常に発生しやすいですし、ブドウの粒の間にはクモがすぐ巣をはります。選果でそれを取り除くのは大変な手間がかかります。
 
 
清潔な環境で醸造し適切な添加物を用いれば、質の低いブドウからまずまず飲めるワインをつくることは可能です。でないと輸入して1000円のワインはつくれません。
ただし意図した発酵が進むようにコントロールする必要があります。ブドウ任せでは素直に「美味しい」と言えるワインにはならないでしょう。
 
 

わたしたちは「自然派」ではありません

 
近年非常に多く目にする「自然派」の文字。その定義や是非は一旦置いておきます。
 
「自然派」を名乗る作り手の中には、「不介入主義」を掲げる人が多くいます。
醸造において極力手を加えないことがいいことだ。発酵において培養酵母を用いず、添加物は少量の亜硫酸以外何も使わない。それが土地の個性を表現することにつながると。
 
 
こう主張して素晴らしいワインをつくる生産者もたくさんいます。
一方で明らかな醸造上の欠陥を持つワインが、「自然派ワイン」を免罪符に販売されている例もあるのが確かです。そういった欠陥ワインからは、決して土地の個性も品種の特徴も感じません。
 
自然派」を言い訳に不快なワインを販売する生産者とは、自分たちドメーヌ・ボーは違う
それが「私たちは『自然派』ではありません」という言葉に込めた思いでしょう。
 
 
その根底には、中山社長の酒屋としての経験、そこで培った『消費者目線』があります。
 
 

ドメーヌ・ボー設立の経緯

 
創立者である中山安治氏はもともと酒屋。45年間にわたって主に日本酒を販売してきたといいます。
その事業は決して順調とは言えなかったそうです。45年前に比べると、酒の販売競争は極めて激化している中で、お酒の消費量は減っていますから。
 
 
そんな折、「体が痺れるほど素晴らしいワイン」に出会ったそうです。
 
「こんなワインを自分もつくりたい」という動機で醸造家を目指すという話は時折耳にします。でも中山氏の原動力はそこではありませんでした。
 
 

ワイン造りを通した地域貢献

 
酒を売るのではなく、その魅力を伝える伝道師として生きていこう
 
単に美味しいだけでない、お酒の魅力とはなにか。
それを問いかけたとき、気づいたのはこれまで地域の人々に支えられてきたことだったといいます。地域の人が長年お酒を買って飲んでくれていたからこそ、今の自分がある。
 
 
その恩に報いる形の一つが、魅力的なワイン・ワイナリーをつくることでした。
たくさんの人が飲んでくれるワインをつくれば、この地に雇用が生まれる。ワイナリーを訪れる観光客が増えれば町が活性化する。素晴らしいワインを生み出すこの地に注目が集まる。
 
そうした地域に貢献し続けるワイナリーが、自分が死んだ後100年、200年先まで残っていくために
これがドメーヌ・ボーのビジョンなのです。
2018年、当時中山氏67歳での挑戦でした。
 
 

酒屋であったがゆえの消費者目線

 
45年も酒屋として販売に携わってきたのです。消費者に一番近いところにいただけあってか、消費者の立場に立ったワイン造りをされているように感じます。特に価格において。
 
日本におけるワイン造りは、なかなか廉価品の大量生産に向いていません。
その理由はいくつも挙げられます。高温多湿・多雨な気候による栽培コストの高さ。企業が農地を保有することの難しさ。平坦な農地の少なさ。食用ブドウの方が高価に売れること。・・・・
なので手頃につくろうとしても、コストパフォーマンスのいい輸入ワインに味と値段で勝てるかというと、疑問です。
 
それもあってか欧州系のブドウでつくる生産者は、少量・高品質なワインをつくるところが多いです。品質のために、「自社畑は自分の目の届く広さで」という方針のところも。
必然、ワインは高価になります。生産本数が少ないから、ある程度値段をとらないと採算が合わないのです。それ自体を批判する意図は全くありません。生産者の選択ですから。
 
 
一方で「ワイン造りを通した地域への恩返し」を考えたとき、きっとドメーヌ・ボーはあえてその方針をとらなかったのでしょう
特別な日に期待をかけて飲むワインではなく、日常生活に根付く何度も飲みたい味。そして価格。それが100年後まで楽しまれ続けるように。
 
それを狙ってかドメーヌ・ボーのラインナップは、大手ほど手ごろなものはないものの、比較的良心的な値段です。手を出しづらい価格のものはなく、1つ気に入ったなら飲み進めやすい。
掲げるビジョンに共感した人が応援の気持ちも込めて手を出しやすい価格、そしてその期待に確実に応える「美しい」味です。
 
 

ドメーヌ・ボーのラインナップ

 
COCOSでは2024年にドメーヌ・ボーを取り扱い始めたばかり。
2024年9月現在のラインナップをご紹介しますが、売れ行きを見てラインナップを拡充していきます。
 
全てのワインはこちらのリンクでご覧ください。   
 
 

自社畑「立野原」シリーズ

 
このシリーズがドメーヌ・ボーの醸造施設のまわりにある自社畑からつくられるもの。
普段から海外のワインを飲んでいる方にはなじみの深い、ヨーロッパ系品種が植えられています
まだ実験段階ではあるのでしょう。品種は多様で14haの畑に13品種。これからもいろいろと製品化されていくのだろうと期待が持てます。
 

ワイン仲間と未来を話しながら

 
まだ若いワイナリーということは、ワイン好きの方でも知らない人がたくさんいるということ。一緒にワインを飲む機会があるなら、「富山にこんなワイナリーができたんだよ」と紹介するのはいかがでしょうか。
シャルドネは世界中でつくられる品種で、丁寧につくればどこでもある程度の品質のものができます。だからこそ比べやすい
他の日本のシャルドネと比べてどうか。世界でみたときこのシャルドネにはどんな魅力があるのか。ヴィンテージが進めばもっと美味しくなっていきそうかどうか。
語り合ってみるのも楽しいんじゃないでしょうか。
 
 

難しい品種への挑戦

 
日本ワインでゲヴュルツトラミネールはあまり見かけません。聞いた話では樹が成長する勢いが強すぎてコントロールが難しく、質の高い実をつけにくいのだとか。加えて日本の夏は高温なので、酸味が落ちすぎる心配もあるのでしょう。
そこをリースリングをブレンドすることでいいとこどりを狙ったのがこのブレンドの白ワイン。品種の個性がしっかりと風味に現れており華やかな香りが広がります。
これも友人との家での飲み会にピッタリ。珍しさもあって手土産に良いかもしれません
 

毎年違うブドウを混醸でつくる

 
フランス語でブレンドすることをassemblage アッサンブラージュといいます。それを南砺市(なんとし)でやるから「ナンサンブル」。
悪い見方をすると「余ったブドウの寄せ集め」のようにも感じますが、別に悪いことではない。タンクの容量に対してピッタリのブドウが収穫できたりしませんから、その有効活用とも考えられます。それにこういうワインこそ醸造家のセンスが出るので興味深い
品種ごとに醸造してアッサンブラージュではなく、「混醸」つまりタンクの段階で複数品種を混ぜるのが、この味わいのポイントなんだとか。毎年表情が違うので定期的に飲むのが楽しいロゼワインです。
 
 
立野原のブドウはまだ植えたばかり。一般にブドウは樹齢が高い方が質が高いと考えられています。つまりこの味わいはこれからもっと良くなっていくということ。将来がより楽しみです。
 
 

地域の特徴を特徴を表現する産地シリーズ

 
富山県は長野県と境を接し、その向こうの山梨県とも近い立地。その強みを活かして購入したブドウでもワインをつくります。

長野の銘醸地の味を

 
ヨーロッパ系ブドウで考えるなら、長野県の安曇野市は日本有数の名産地といっていいでしょう。近年たくさんのワイナリーが設立されています。
なじみ深い2品種のブレンドだからこその、悪いところを感じさせないバランス感。日本の赤ワインらしくパワフルさとは無縁ですが、だからこそ普段の夕食にあわせて心地よく楽しめます。
 
 

価格を追求したアントシリーズ

 
様々な理由はあれど、日本ワインに割高感があるのは否めません。特に設立から間もないワイナリーにおいては。
つくり手の立場に立てば仕方ないのは分かるのですが、消費者としては日常的に飲むには少し手を出しにくいと感じるのも分かります。
 
きっとこのシリーズは中山社長の消費者目線から生まれたのでしょう。約2000円という価格にこだわったといいます。
 
トロピカルフルーツのような熟した香りがふんわり香ります。軽やかな口当たりですがバランス感が良く、悪いところがないワイン。価格を考えると素晴らしい!
 
4品種をブレンドしている効果がよく出ています。シンプルなベリー系の香りを持つフレッシュな赤ワインで、これまた悪いところのないワイン。しかし日本の赤ワインを2000円で悪いところがない味にまとめるのが、いかに難しいことか!
 
「日本ワインで2000円」というのは、甲州やマスカット・ベーリーAといった既に産地が確立されてきた品種ならたくさんあります。しかしヨーロッパ系品種では稀。
老舗であったりビールメーカーがバックについていたりしないのにこの価格。素晴らしい企業努力です。
 
 

美しさを取り戻した立野原

 
ドメーヌ・ボーができてよかった
既に地域貢献は地元の人に喜んでもらえているといいます。
 
 

荒れ果てた立野原が・・・

 
ドメーヌ・ボーのある富山県南砺市、立野原の丘陵地帯。そこは戦時中には演習場だったそうです。民家のない農地ですが、日本のたいていの田舎と同様の問題を抱えていました。持ち主の高齢化と後継者不足により、耕作放棄地が増えてきていたのです。
 
「地元の人にとっては、目をそらして通り過ぎたくなる場所」
 
しかしその土地は、同じ富山県でも高岡市出身の中山氏にとっては「まさに黄金の丘」と映ったのです。
 
 

立野原が甦った

 
中山氏の情熱とドメーヌ・ボーの地域貢献は、すでに地元の人を笑顔にしています。
 
2018年当初、徐々に荒れ果てていく立野原で畑を取得しようと交渉する中山氏に、地域の人々は冷ややかでした。同じ富山県出身とはいえ「よそ者」だったといいます。
 
しかし耕作放棄地を美しいブドウ畑へと変えていくうちに、そしてそこで人々が志高く働くうちに、周りの見る目も変わります。
この地域が過疎化し廃れていく姿は見るに忍びなかった。中山さんがきてくれたことで、立野原がこんなに美しく甦りました。
ある日そんな言葉をもらったといいます。
 
 
 

立野原コート・ドール構想

 
コート・ドール(黄金の丘)というのは、ブルゴーニュ地方のコート・ド・ニュイ、コート・ド・ボーヌをあわせた地区を言います。多くのワイン好きが憧れ、一度は訪れてみたいと夢見る地域。そして素晴らしいワインを生み出し世界中の人々を魅了する場所
 
立野原をそんな場所にする構想を、中山氏は設立時から持っていたといいます。
 
ドメーヌ・ボーのワイナリーだけではない。立野原全体を魅力的なものとし、全国から訪れたくなる場所にする。そのためには他の農産物も自慢であり、アートやグルメ、グランピングなども楽しめる場にしたい。
 
 
近年山梨県や長野県ではワインツーリズムが非常に盛んです。近い将来、ドメーヌ・ボーを中心として富山もワイン好きが訪れる場所になっていくかもしれません。
 
 

日本の未来を応援する気持ちをこめて

 
ワインがこれほど種類が多いのには、ブドウの特性がワインに明確に現れるからという理由があります。そして全く同じ環境はないので、そのブドウはそこでしかつくれない。
立野原のワインは世界中でそこでしかつくれないのです。
 
だからこそ、世界中の輸入ワインがより取り見取りの日本で、わざわざワインをつくる意味があります
 
 
単純な味と値段なら、輸入ワインの方がコストパフォーマンスが良く感じることも多いでしょう。しかしそれらの生産国にも黎明期はあったはずで、何十年前、何百年前のワインは今ほど美味しくはなかったはず。
ならば日本のワインがこれから数十年かけて、世界で選ばれる品質へと成長していく可能性はあります。
 
日本ワインの発展のためには、今の消費が不可欠です。ワインが売れなければワイナリーは倒産しかありませんから。
だからちょっとだけ応援の気持ちを込めてもいいのでは?日本ワインの未来に期待して、一見コスパの悪い選択をあえてすることも、ワインをより楽しむことにつながるかもしれません。





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




YouTubeバナー

-Pick Up 生産者
-, ,