薄いけど薄くない!
どこまでも上品で親しみやすい!
相反する魅力を併せ持つ不思議なブルゴーニュ
色は淡いが薄い訳ではない
フレデリック・フェリのワインをグラスに注ぐとき、まず驚愕する。
「ちょっと濃いめのロゼ?」
そう思うほど色合いが淡いのだ。特にヴォーヌ・ロマネが顕著だ。
安物のワインの色は薄い。
それは1本の樹にたくさんの房をつけさせて収穫量を増やすため、十分な栄養が行きわたらず色素が成熟しないから。
だがフレデリック・フェリのワインを安物と勘違いするなどありえない。
グラスを手にする前からボリュームのある香りに圧倒されるからだ。
色素が濃くないだけで、しっかり旨味を蓄えた質の高いブドウを使っている証拠だ。
口に含んで今一度驚愕する。
タンニンは強くない。若いワインなのにシルクのようにきめ細かいタンニンが、やさしく口蓋を刺激する。
かといって酸が高すぎるわけでもない。酸味はあるが収れんする感じはないのだ。
酸味のしっかりとしたワインはよく「上品」と表現される。
上品さと親しみやすさは相反することが多い。
例えば美しすぎる女性は一種の近寄りがたい雰囲気を持つように。
高い酸味をもつワインには、時に「孤高」なイメージを抱く。
それがフレデリック・フェリのワインには不思議と感じない。
上品な酸味の中に優しさを感じ、とても親しみ安いのだ。
香り高く、気高い女性のようなヴォーヌ・ロマネ。
粘土の多い土壌から力強いボディを持ったワインを生むジュヴレ・シャンベルタン。
彼女の手にかかれば、若いうちから非常に喜ばしいワインとなる。
そう、彼女。
現在フレデリック・フェリで醸造を担うのは、女性エノログのロランス・ダネル氏。
2018年に初めて輸入された彼女のワインについて、情報はまだ十分とは言えないが、少しでもその秘密に迫るべくお伝えしたい。
フレデリック・フェリ=ジャン・ド・ガボット
フレデリック・フェリはドメーヌ・ジャン・フェリ・エ・フィスというワイナリーの別ブランド。
フェリ家の歴史は19世紀まで遡ることができるが、当初は野菜などを栽培する農家であった。
20世紀初頭まで特に力を入れていたのは、ワインではなくラズベリーやカシス。
ワインづくりは1940年代から始まったが、当初はバルクワインを売るネゴシアン業が中心。
本格的にドメーヌ元詰めがスタートしたのは1988年。この時がジャン・フェリのスタートと言っていいだろう。
2011年にはほとんどの畑をオーガニックに転換。
その理由をこう語る。
「ブドウとは一流の女性だ。季節ごとに時間をかけて手入れする必要があるが、古くなればなるほどどのような環境で育ってきたのかを如実に表現する。
我々はブドウの樹自体とその環境、それを管理する人々に敬意を抱いている。だからこそ素晴らしいブドウができ、素晴らしいワインとなるのだ。」
女性醸造家のロランス・ダネル氏は、2016年からドメーヌに参画。
翌年には醸造長として腕を振るっています。
このジャン・フェリの別ブランドとしてスタートしたのが、「ドメーヌ・ジャン・ド・カボット」。
2018年に日本初入荷し、輸入元様の試飲会でお披露目された際には1番人気に。
誰もがこの珍しい縦書きエチケットとその味わいに驚愕した。
それが1年後、現当主の名前を冠した「ドメーヌ・フレデリック・フェリ」と名義変更。
2019年末に入港したロットから、新しいドメーヌ名のエチケットとなっている。
コストパフォーマンスなんて言葉は忘れよう 他にないのだから
正式には「フレデリック・フェリ」であるが、少し前に入荷したものは「ジャン・ド・カボット」と表記されており、「ジャン・フェリ」とは別ブランドの関係にある。
大変ややこしい事情であるが、このタイミングでよかった。
まだまだフレデリック・フェリを知る人は少ない。初回入荷分は試飲会からほどなく完売したという。
自分の舌を信じて、この安いとは言えない名もないドメーヌのワインを仕入れたレストランのソムリエ。
そして幸運にもそのレストランでフレデリック・フェリのワインに出会った愛好家だけだ。
この品質と他にないスタイル。
あえて似たようなものを挙げるなら、フィリップ・パカレ、プリューレ・ロック、ラルロと言った『薄旨系ピノ』の生産者だろう。
ブルゴーニュのトップ生産者として名高いカレラのワインは、当然高くフレデリック・フェリの1.5倍は超える。
また自然派ワインであることを全面に出した彼らのワインは、その香りを苦手する人も少なくない。
比べてフレデリック・フェリの香りは清潔で素直だ。
この先人気が出ることは間違いないだろう。
潤沢な数があるわけでもなく、メディアへの露出もないからゆっくりとではあるが、品質は裏切らない。
ブルゴーニュ愛好家としては、一度はチェックしておくべき生産者と言えよう。