ワインのできるところ

ジョージアワインのよくある誤解!?現地で人気のワインは実は・・・

2023年1月15日

 
 
実はそれ、誤解です!なんとジョージアワインの9割はクヴェヴリを使わず作られています。
そもそも今話題のオレンジワインとは?
ジョージアワインはどう変わっている?
近年注目があつまる古くて新しいこの生産地を、基礎からじっくりご紹介します。
 
 

世界遺産登録 ワイン発祥の地ジョージア

 
ジョージアは、黒海に近い南コーカサス地域に位置しており、北にロシア、南東にトルコが隣接しています。
面積は日本のたった約5分の1という小さい国です。
 
 
なんと8000年以上前からワイン造りが行われているそうで、世界最古のワイン産地だと考えられています。今日世界中で生産されているワイン用ブドウ品種はすべて、ジョージア原産の品種が起源なんだそうです。
 
そのため、ジョージアは『ワインのゆりかご』と呼ばれています。
 
 

世界遺産 クヴェヴリを使ったワインづくり

 
そんなジョージアでは、『クヴェヴリ』という壺を使って醗酵・醸し・熟成をする伝統的な製法が存在します
 
クヴェヴリとは、卵型をした素焼きの壺です。ジョージアの土を使い、クヴェヴリ職人が900~1200度という高温で焼き上げて作ります。
粘土で作られたクヴェヴリの内側には、蜜蝋を塗ってコーティングすることもあります。
 
 
これを土の中に完全に埋め、そこにブドウを入れて発酵させます。発酵の際に発生するガスで果汁の対流が起こり、かき混ぜなくても果皮の成分がしっかり抽出されます
 
この伝統的な製法が、2013年にユネスコ世界遺産に認定されました。
ワイン関係のユネスコ認定は数多くありますが、その景観とワイン造りがほとんど。
ワインの製法が認定されたのは、ジョージアが初めてです。
 
 

ジョージアのオレンジワインはなぜ世界遺産認定されたの?

 
ユネスコ世界遺産に認定されたのは、他の産地のワインづくりと製法も出来上がるワインも大きく異なるから。そしてその製法がはるか昔から続いてきたからです。
 
その大きな違いが白ワインの醸造において。
クヴェヴリには伝統的に、ブドウを房のまま入れます。黒ブドウも白ブドウも両方です。
 
通常白ワインは発酵前にブドウを絞って、ジュースのみを発酵させます。果皮や種と一緒に、赤ワインのように発酵を行う点が大きな違いです。
 
 
こうして出来上がる白ワインは、果皮から抽出される成分や酸化の影響を受けてオレンジ色になります
 
 

醸し発酵によるオレンジワインの味わいの違い

 
果皮や種と一緒に発酵させることを「醸し発酵」と呼びます。
「醸し発酵」による色合いから、多くの国では「アンバーワイン」、日本では「オレンジワイン」と呼ばれます。
 
オレンジワインの製法。白ブドウについても房ごとクヴェヴリに入れて醸し発酵を行うのが、通常の白ワインとの大きな違い
 
オレンジワインが白ワインと異なるのは、その色合いだけではありません。
通常白ワインには感じない「渋味」。果皮の影響で、オレンジワインには渋味をしっかり感じるのです。
 
このジョージアのオレンジワインを飲めば、その味わいが特徴的であることをハッキリ感じられます。
 

口に含んだ時に感じる白ワインとの大きな違いは渋味。それは香りからも感じられて、どことなく『渋そうな』アロマがあります。柑橘の実というより皮のような香りもオレンジワインっぽいです。

 
 

クヴェヴリ熟成に限らないオレンジワイン

 
オレンジワインとクヴェヴリはセットではありません。通常のワインに使われるステンレスタンクでも、果皮や種と一緒に醸し発酵させれば、オレンジワインをつくることができます
 
 
オレンジワインがつくられるのはジョージアだけではありません。ヨーロッパに限らずニューワールドの様々な国でつくられ始めています
しかし多くの国ではステンレスタンクによる醸造。ジョージアのオレンジワインに比べると個性は控えめなものが多いように感じます。
 
 

ジョージアワインの近代化

 
このようなクヴェヴリを使った製法が今でも受け継がれています。その一方で、ジョージアのワインづくりが8000年前から変わってないなんてことは、決してありません。
 
ヨーロッパから近代的な醸造技術が持ち込まれ、近代的なワインづくりも行われ始めました
ジョージアは立地的にロシアが重要な輸出先です。ロシア向けには量が要求されます。その際に近代的な設備の方が有利だったという背景もあるそうです。
 
 

クヴェヴリ醸造はわずか10%以下!

 
クヴェヴリにはメリットもありますが、たくさんのデメリットもあります。
 

クヴェヴリのデメリット

  • 地中に埋めるので温度管理ができない
  • 洗浄が大変(ホースで流したうえでポンプで吸い上げる必要がある)
  • 原始的な手法である分手間がかかる
  • ステンレスタンクに比べ大型化しにくい

 
クヴェヴリは廉価なワインを大量に生産することにはまったく向かないのです。
 
 
それにオレンジワインはその味わいから、「スッキリとした白ワインを飲みたい」という気分の時には全く向きません。
ステンレスタンクやオーク樽による発酵・熟成が取り入れられていくのは自然の流れでした。
 
現在ではジョージアワインの全生産量のうち、クヴェヴリを使ったものはわずか3~10%
 
ジョージアワインの90%以上はステンレスタンクやオーク樽熟成
 
「ジョージアといえばクヴェヴリのオレンジワイン!」というのは、イメージだけ。数字で見ると実はごく僅かなのです。
 
 

クヴェヴリでワインの味わいはどう変わる?

 
ジョージアのオレンジワインが独特というのは、一度でも飲んだことがある方は感じておられるでしょう。
でもブドウ品種や産地が違うなら、ワインの風味は違って当然。オレンジワインが独特なのは、果たして醸造の特徴か、産地や品種の特徴か。
最も分かりやすいのは、同じジョージアで同一品種のクヴェヴリ/ステンレスタンク醸造を飲み比べることです。
 
完全に同じ品種とは行きませんが、こちらの3本でクヴェヴリ/ステンレスタンクの違いをご紹介します。
 
  クヴェヴリ醸造 ステンレスタンク醸造
香り アプリコットやドライフルーツ、ナッツ、紅茶などの香り 花や柑橘、白桃のフレッシュな香り
タンニン(渋味) 力強く、深見や骨格がしっかり感じられる ほとんど渋味は感じない
ボリューム 中程度からしっかり飲みごたえがあるものまで 軽めから中程度
 

 
 

カリンや白桃、花の香りが強く出て、柑橘系の果皮の風味も感じられ、まるで日本の甲州ブドウのような味わい

 
 

POINT

〇クヴェヴリ
 果皮や種も一緒に醗酵させるため、フェノール成分が豊富でより複雑でボリュームの出るワインに仕上がる
〇ステンレスタンク
 よりフレッシュで花や柑橘のニュアンスを楽しめる味わいで、比較的軽やかなワインになる

 
もちろんこの2本の違いには、ブドウ品種の違いも現れています。
聞きなれないこの2つの品種の特徴は次のとおりです。
 
 

ムツヴァネの特徴

 
ジョージア語で「緑の」を意味するこのブドウは、果皮が薄くタンニンが控えめです。ミネラル感を感じるだけでなく、白桃やピーチ系のドライフルーツの華やかな風味を持っています。
 
ジョージアの固有品種「ムツヴァネ」のブドウ写真
 
このブドウをクヴェヴリで醗酵・熟成すると、アプリコットやドライフルーツなどの香りを感じます。比較的しっかりとタンニンの感じられるスタイルとなり、アタックにも桐のようなニュアンスが現れます。
 
カヘティ地方で呼ばれる「ムツヴァネ・カフリ」も同じブドウです。
 

 
 

ヒフヴィの特徴

 
白い花やエキゾチックな西洋ツゲのアロマと、熟した黄桃フルーツの風味を持っており、やわらかい酸が特徴的です。
ヒフヴィはいろいろなタイプのワインそれぞれに美味しいブドウです。辛口はもちろん半甘口や甘口、酒精強化ワインもつくられています。
 
ジョージアの固有品種「ヒフヴィ」のブドウ写真
 
このブドウをクヴェヴリで醗酵・熟成することにより、ドライフルーツやアプリコットのニュアンスが強くなります
 

 
 

ステンレスタンクのジョージアも味合わないともったいない!

 
シャルドネだけ飲んでたら満足。そんな方は別にジョージアワインに手を出す必要はありません。
でも「いろいろなワインを飲むからこそ楽しいんだ!」という方は、ジョージアワインをスルーするべきではありません。なにせジョージアには500を超える固有のブドウ品種が栽培されています。
 
 
クヴェヴリ熟成のワインは確かに際立った特徴を持ちます。でもステンレスタンクでつくるものも、ブドウ品種をよりハッキリ感じられて、多様性があります。そして実はステンレスタンクでつくるものの方が圧倒的に多い
どっちも楽しまないともったいないですよね
 
 

それぞれのワインに向いた楽しみ方

 
製法が違い、味わいが違う。
それはつまり、そのワインに適した楽しみ方も違うということです。
クヴェヴリ醸造のオレンジワインとステンレスタンク醸造の白ワイン。それぞれにおすすめな飲み方をおすすめします。
 
 

クヴェヴリワインはゆっくり楽しんで

 
クヴェヴリはオーク樽と同様、ある程度の酸素を通します。
なので適度に酸化したワインは、口当たりまろやかに仕上がります。
熟成中に酸素に"慣れて"いるので、他のワインに比べ酸化に強く日持ちします
 
 
クヴェヴリを使ったワインは、約1週間は十分楽しめるものが多いです。開けたては少し硬い印象があっても、1週間かけて少しずつやわらかくなっていきます。その変化を毎日楽しむことができるのも、大きな魅力です。
 
 

クヴェヴリワインのフードペアリング

 
クヴェヴリのオレンジワインには、わずかな酸化熟成による複雑さと渋味を感じます。
こんなワインにおすすめなのが、煮物や鍋などの出汁をつかった和食。それから醤油・味噌などの発酵食品です。
 
 
意外なペアリングが麻婆豆腐やカレー!ボリュームがあるのでスパイシーな料理とも合うんです。
 
 

ステンレスタンクのワインは入り口として

 
「オレンジワインが話題だから、前にワインバーで飲んでみた。でも普通の白ワインとあまりに違うから、どこまでが品種の個性で、どこからがオレンジワインの味によるものか、よく分からなかった
 
我々プロも、初めてジョージアのクヴェヴリ・オレンジワインを飲んだ時は「なんじゃこりゃ」とビックリしたいものです。
 
ステンレスタンク熟成のものも、ワイン単体としてもちろん美味しいです。
しかし本当に意味を持つのは、やはりオレンジワインと並べたとき。ステンレス→クヴェヴリと飲むことで、「オレンジワインならではの風味」がより理解できるはずです。
 
 

ステンレスタンクのワインのフードペアリング

 
ステンレスタンクでつくればブドウ品種の個性がより現れます。なので相性のいい料理は「ブドウ品種による」としか。
 
なのでいくつか例を挙げてみます。
今回ご紹介した「ムツヴァネ - ヒフヴィ」と相性がいいのは、シンプルなシーフード料理
レモンやライムの柑橘系の香りとフレーバーに、皮の内側の白いわたのようなほのかな苦みがシーフード料理ととても合い、お料理全体を引き締めてくれます。
 
ステンレス醸造のジョージアワインはシーフード料理によく合う
 
おすすめ料理はイカの蒸し焼き!イカの柔らかい食感と旨みとワインの相性が大抜群です!
 
 

古くて新しい注目の生産地ジョージア

 
世界最古のワイン産地ジョージアには、8000年前からつづくクヴェヴリによるワインづくりが有名です。世界で他にないスタイルのワインなので、ユネスコの世界文化遺産にも登録され、とても話題になりました。
 
しかしその実、クヴェヴリワインは生産量としては10%以下とごく一部。ステンレスタンクやオーク樽熟成した近代的なワインが大半です。
 
だからといってそれらのワインにジョージアの個性がないわけではありません。約500種類の土着品種がそれぞれの特徴を主張しています。
 
クヴェヴリワイン、ステンレスタンクのワイン。それぞれの良さをそれぞれの方法で味わうなら、ジョージアワインの魅力は120%になるでしょう





※投稿に記載しているワインのヴィンテージ・価格は執筆時のものです。現在販売しているものと異なる場合があります。
購入の際は必ず商品ページにてご確認ください。




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