「赤ワインの品種の中ではピノ・ノワールが好き」 ではどこが好きですか?
香りの華やかさ、渋味の少なさ、上品な酸味・・・・
全てが満点でなくてよければ、他のブドウ品種でも似た風味を楽しむことができます。
晩酌のワインがマンネリ気味な方、これで楽しみの幅が広がるかもしれませんよ!
安くて美味しいピノ・ノワールは本当に少ない
よく飲むワインのブドウ品種を尋ねたらピノ・ノワール。私の周りにはそんな方が多いですし、私自身もやはりよく口にします。
頻繁に開けるワインなら、本音はできるだけ価格を抑えたいところ。でもピノ・ノワールに関しては、飲む頻度を減らしてでも「良いものだけを飲みたい」という気持ちが働きます。
安いピノ・ノワールでは満足できないことを、何度も経験しているからです。
「物足りない」と「美味しくない」
高級なワインや価格は低いにせよ感動的なワインを経験した人は、程度の差こそあれ目の前のワインと記憶にある美味しかったワインを比べてしまうものです。
「前飲んだワインは、グラスに鼻を近づけなくてもハッキリ香りを感じたのに・・・」「余韻がそんなに続かないな・・・」
そういう『物足りなさ』はあったとしても、それをネガティヴにとらえる人は少ないはず。だって目の前のワインは普段飲み用のもの。価格の桁が違うのですから。
しかし「不快な味」を持つワインは、『物足りなさ』とは別の問題です。
ネガティヴな味や臭いがある。例えば気になる雑味や苦みがあったり、ケミカルな臭いを感じる。果実味の凝縮感が低すぎてバランス悪く感じたり・・・
こういった純粋に「美味しくない」と感じさせる臭いや味のあるワインは、例え安かったとしても許容できるものではありません。
ただしこの許容できるラインというものは人それぞれ。私自身は「雑味が強くてあまり扱いたくない」と感じるワインでも、「気にならないよ!美味しい」という人もいます。線引きの難しいところです。
ピノ・ノワールは『不快な味』が目立ちやすい
カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネは、1000円台、2000円台の低価格なものでも、『物足りなさ』は感じても『不快な味』は感じないものが多いです。商品選定の段階で不快な味を持つものは全部却下しても、十分な数の候補が残ります。
しかしピノ・ノワールに関しては、『物足りなさ』を感じる上に『不快な味』もあるものが非常に多いんです。
それはピノ・ノワールの味筋も影響します。「華やかな香りと淡く繊細な味わい」といった方向性なので、ネガティヴなものを感じやすいんです。
それに対して「果実の凝縮感がある力強い味わい」といった方向なら、少々の雑味は強い味の陰に隠れて感じにくいでしょう。
3000円以下のピノ・ノワールの難しさ
「3000円以下のピノ・ノワールについては、ちゃんとピノ・ノワールの風味を持っていれば合格」
納得のいくワインの供給は少なく、それでいて需要は高いので、他の品種に比べて採用ラインは少し低いかもしれません。
心からおすすめしたワインばかりを置くのが理想ではあります。しかし、低価格のピノ・ノワールに関しては、「この価格なら仕方ない」という妥協の元扱っているものもいくつかあります。
安くて美味しいピノ・ノワールがつくりにくい理由
まずピノ・ノワールというブドウ品種は、ブルゴーニュ原産と考えられている冷涼地域を好む品種です。
温暖な地域だとブドウの糖度が上がりやすいため、糖度の上昇に風味の成熟が追いつかないのです。
一方で暖かく乾燥した環境は、ブドウの病害リスクを下げるため、安価なワインをつくるためにはそうした畑が選ばれます。人件費を抑えつつ大量生産しやすいのです。
またピノ・ノワールは土壌の性質を味わいに反映しやすい品種であり、土を選びます。
こういった理由から、ブドウの品質を落とさずに機械化して大量生産できる環境というのは、世界を見渡してもあまりないようです。
本当にピノ・ノワールじゃないとダメ?
「ピノ・ノワールが好き」といっても、いろいろな味わいのピノ・ノワールがありますよね。
たまらなくエレガントなブルゴーニュのピノ・ノワールがお好きな方は多いでしょうが、そればかりではないはず。
カリフォルニアの果実感豊かなものがお好きな方。
地域問わず樽熟成の風味が強いものが好みな方。
よくわからないけどピノ・ノワールが一番心地よく飲める。そんな方は渋みの少なさと軽やかさを魅力に感じているのかもしれません。
ブルゴーニュのグラン・クリュの代わりになる赤ワインはありません。でも普段飲み用にそんな高望みはしてないはず。
3000~5000円程度のピノ・ノワールの味わいを想定しましょう。そのクラスなら、ピノ・ノワールの代わりとなるワインがあるんじゃないでしょうか?
ピノ・ノワールの風味を分解する
ピノ・ノワールに似たワインを探すには、まずはピノ・ノワールのどういった風味に我々が惹かれているのかを考察する必要があります。
自分で飲むワインを選んでいるときに、「うーん、ピノ・ノワールにしようかな~」と考える。それは次の5つのような風味のポイントに期待してのことではないでしょうか。
ピノ・ノワール 味わいのポイント
〇華やかな香りのボリューム
「ピノ・ノワールグラス」という専用のワイングラスがあるくらい、高品質なピノ・ノワールはその場を支配する香りのボリュームを持ちます。
〇飲み疲れしない軽やかなボディ感
話を聞いていると、ワインを飲み始めて濃厚なワインが好きになってから、次第にピノ・ノワールが好きになったという方が多いです。その中にはピノ・ノワールの軽い口当たりが「飲んでて楽」と感じている方も多いようです。
〇穏やかなタンニン
「渋い赤ワインは苦手だけど、ピノ・ノワールなら飲める」という方もいます。上記の軽い口当たりとあわせて「飲みやすい」と感じるのでしょう。
〇上品な酸味
酸味のボリュームが高く、果実味とのバランスがとれていてスマートな味わいのとき、上品な印象を持ちます。「上品な赤ワイン」でまず思い浮かぶのはピノ・ノワールでしょう。
〇熟成能力
何十年も熟成させることで、風味は複雑に、口当たりはなめらかに、余韻は長くなっていく。十分なタンニンと高い酸味を持つピノ・ノワールは高い熟成能力を持つことも、愛好家を夢中にさせています。
普段のみの価格では期待しないポイント
上記のような魅力を全て兼ね備えたピノ・ノワールは、そりゃ美味しいです。でも、そんなケチのつけどころのないワイン、3000円そこらで望むべくもありません。妥協できるところは妥協しましょう。
まず、日常消費用のワインに熟成能力は要りません。5年後に飲むんじゃなくて、数日後に飲むんですから。むしろタンニンや酸味は強すぎない方が、気軽に楽しめます。
ボリュームのある華やかな香りは、正直他のブドウ品種で再現するのは難しいです。
香りのボリュームは、ブドウ品種やワインのグレードだけでなく、醸造法や熟成の度合い、温度など様々な要素の影響を受けます。高いワインなのに開けたてはあまり香りがない、なんてこともままあります。だから逆に香りの強さ自体は、そこそこピノ・ノワールに太刀打ちできるんです。
でも質は違う。特にブルゴーニュのピノ・ノワールの洗練された香りは、他の品種ではマネできないところだと考えます。
香りは似てないと思った方がいいです。
代替ピノ・ノワールを探すうえで譲れないポイント
口当たりの軽やかさはマストじゃないでしょうか。
「私の周りの人は」になりますが、今上品系のピノ・ノワールのような赤ワインが好きな人の多くが、かつて濃厚系が好きだった時期があるといいます。そのうちがっつり重たく力強いワインを飲むのがしんどくなって、繊細なのを好みだしたと。
そういう人にとって、例えばイタリアの「タウラージ」のようなどっしり重量感のあるワインは、ちょっとでいいんです。たまに集まって飲むときのグラス1杯でいい。
1日で飲むにせよ、数日に分けるにせよ、一人で1本飲むのなら軽やかなのがつかれなくていい。そういう方にとってピノ・ノワールの口当たりがちょうどいいのでしょう。
ピノ・ノワール"っぽい"ワインにも、この特徴は持っていてほしい!
軽い口当たりと穏やかなタンニンはセット
濃くなりやすい品種で軽やかなワインをつくろうとする。その際に工夫することは、ブドウの果皮からの成分抽出を穏やかにすることです。
赤ワインは果皮や種と果汁を一緒にタンクに入れて発酵させます。すると発生したガスにより果皮が浮いて、果帽と呼ばれる蓋のような状態になります。この状態では果皮と果汁があまり触れないので、色や風味が果汁にあまり移りません。
だから発酵中には、果帽を果汁の中に押して沈める「パンチングダウン」や、タンク下部から果汁を抜き取って上からシャワーのようにかける「ポンピングオーバー」を行います。こうして色が濃く風味豊かなワインにするのです。
淡い口当たりにするためには、この果帽管理を穏やかに行います。あまりパンチングダウンやポンピングオーバーを行わないのです。あるいは、発酵中に果汁を抜き取ってしまい、果皮と分けた状態で残りの発酵を完了させる。そんなロゼワインのような作り方をしているのかもしれません。
こうするとその品種にしては口当たりが軽く、渋くない赤ワインが出来上がります。
そんな穏やかで優しい抽出をして、それでいて香りのボリュームがあるワインをつくる。そのためにはひたすらに原料となるブドウの質が高くないといけません。そうでないと単なる「薄い」ワインになってしまいます。
これも濃厚なワインよりも淡い口当たりのワインの方が値段が高い理由です。
普段飲みできるピノ・ノワール"っぽい"赤ワイン6選
先ほどご紹介した5つのポイントのうち、熟成能力を除く4つ。
どの点でピノ・ノワール"っぽい"のかを明らかにしながら、普段飲みできる価格の銘柄を6本ご紹介します。
ピノ好きの方にとってマストだと考える「軽い口当たり」の条件は、全てのワインが満たしています。
ピノ・ノワールの子供なら似ていて当然!?
ピノタージュがどれもピノ・ノワールに似ているわけじゃありませんが、「ピノ・ノワールの掛け合わせでできた品種なんだから、似たワインをつくれるんじゃない?」というコンセプトでつくる生産者もいます。ロングリッジもそのひとつ。やさしい味わいに仕上げられています。銘柄伏せて飲んだらだまされるかも!?
果実丸かじり系グビグビワイン!?
穏やかな渋味 軽い口当たり
ガメイの赤ワインって割と両極端で、タンニンしっかりの筋肉質なワインもあれば、ボジョレー・ヌーヴォーのような軽やかなワインも。このワインはどちらかというと後者で、ハッキリ現れたシンプルなフルーツ感が魅力なのが、この「ザ・トクシック・ガメンジャー」です。気づいたらグラスが空になってるかも?
火山が育む『山の』ピノ・ノワール!?
香りの華やかさ 軽い口当たり 上品な酸味
シチリア島みたいな暑いところで、ピノ・ノワールみたいな上品なワインがつくれるなんて!その理由は標高にあります。ベナンティの畑があるのは高地ゆえの昼夜の寒暖差が大きい過酷な環境で、引き締まった果実感を持ちながら軽い口当たりの赤ワインに仕上がっています。
「エトナ・ロッソ」としては手ごろなエントリーレンジ。なので渋味は少しありますが穏やかです。
ワインってのは品種の足し算じゃないんだぜ?
香りの華やかさ 軽い口当たり 上品な酸味
「ネッビオーロは渋い赤ワイン」そのイメージを覆す、6品種のまぜこぜワイン。この「ランゲ・ロッソ」は果皮のからタンニンをなるべく出さないようにつくるので、華やかな香りがありながらも軽やか。きっと生産者であるG.D.ヴァイラ自身が「日常で何度も飲みたい味わい」を狙ってつくっているのでしょう。
ピノ・ノワール名手の『地元消費用ワイン』
穏やかな渋味 軽い口当たり
地元消費用ワインは安くてみんながガブガブ飲んで資金を回転させてくれるものじゃないと!だから渋味も熟成ポテンシャルもいらなくて、小難しいこと抜きにそこそこ美味しくて、何度飲んでも飽きないものがいい!ベッカーがつくるポルトギーザーはそんな狙いの1000mlボトルです!
タイプは違えどクオリティーは負けてない!
香りの華やかさ 穏やかな渋味 軽い口当たり 上品な酸味
この「ブルグイユ ポリュックス」をピノ・ノワールと間違えるかって言われると、それはない。方向性が違うからです。果実の香りを覆うスモーキーさ。軽快ながらもマットな滑らかさをもった口当たりは、たぶんピノ・ノワールでは表現できない。後追いではない個性を感じられます。
価格無制限で似た味わいのワインを探すなら・・・
上記のワインは「いつもの晩酌に自宅で飲むなら」と想定して選びました。
それ以上の価格帯になってくると、十分に美味しいピノ・ノワールも買えてしまいます。わざわざピノに似ていることを期待して、違う品種を選ぶ必要はないのです。
しかし別のシチュエーションならどうでしょう。
ついピノ・ノワールを選びがちだから変化をつけたい。ピノ・ノワール好きの方にあっと言わせるプレゼントをしたい。
もう少し上の価格帯で似ているものを、知っておいて損はないでしょう。
エトナ・ロッソの一部はピノ・ノワールに似ている?
今回ベナンティをご紹介した「エトナ・ロッソ」。ネレッロ・マスカレーゼという品種はピノ・ノワールに似て軽やかな口当たりですが、ややタンニンは感じます。
6000~8000円クラスになると、ピノ・ノワールもそれなりのタンニンを感じます。だからこれくらいの価格帯の方が、もっと2つの品種の間に共通点を見出せるかもしれません。
当店では現在取り扱いはございませんが、高価格帯のエトナ・ロッソは上品でしなやかで素晴らしいワインです。
上品系ブルネッロはピノ・ノワールに似ている?
イタリアきっての銘醸ワインのひとつ、「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」。サンジョヴェーゼの亜種である「サンジョヴェーゼ・グロッソ」からつくられます。本来はタンニンも酸味も高い品種。しっかり樽熟成してつくられるので、高級ボルドーワインを思わせる力強く厚みのある味わいのものが主流です。
一方で一部の生産者は抽出を淡くして、エレガンスだけを掬い取ったようなワインをつくります。
レアワインにつき既に完売しており、昨年も入ってこなかったこのワイン。
サン・ジュゼッペのつくるブルネッロは、優しい口当たりに美しい酸味がベース。若いうちから締め付けるような荒いタンニンはなく、まるで高級ブルゴーニュのような上品な味わいです。
冷涼産地のグルナッシュはピノ・ノワールに似ている?
グルナッシュといえば主な産地は南ローヌ。そこではどちらかというと、ずっしり重たくてアルコールが高くて力強いワインがつくられています。ピノ・ノワールとは正反対。
でも実はグルナッシュのブドウ自体にそういった特徴が強いわけではありません。かつてロバート・パーカーをはじめとした評論家がそういったワインに高い点数をつけ、それでよく売れました。だからか、割と低価格帯から濃厚さをアピールしたスタイルのワインが多いです。
南アフリカのスワートランド。そこにはグルナッシュの古木が植わった畑が残っています。昼間は高温ですが夜間は冷えるこの地で、ローヌのスタイルとは真逆のワインをつくる生産者が現れはじめました。
こちらもレアワインですぐに完売しました。
サディがつくる「ソルダード」は、アルコールを抑えてエレガンスを全面にだしたつくり。渋味も穏やかで、口当たりはなめらかなピノ・ノワールのような雰囲気があります。
このスタイルのヒットを受けて、数名の生産者がエレガント・グルナッシュをつくりはじめています。ただし、ワインは5000円スタートと結構するので、仕入れをためらっている段階です。
バローロはブルゴーニュに似ている
その1本のワインはもちろん素晴らしいが、楽しみ方はそれで終わらない。
畑がどこにあるのか。標高は?斜面の向きは?土壌は?醸造法は?・・・・
そういった「クリュ」と「テロワール」の概念は、ブルゴーニュもバローロも同じです。違いとしてタンニンの量が挙げられますが、ブルゴーニュも1級畑以上はしっかりとしたタンニンを持つものが多い。
1本だけじゃない。知識をもって比べて楽しむ魅力には共通点を見出せます。
自分の『好き』を考察すれば新たな『好き』につながる
本来『好き』という感情には、理由がありません。あなたがそのピノ・ノワールを好きなのは、好きだからです。
しかしワインに関しては、「どこが好きなんだろう?」「どんなポイントに魅かれているんだろう」と考えるのは、決して無駄ではありません。
「わたしはこういう味わいが好き」と分かれば、品種や価格にとらわれず好みにあうワインを選ぶことができます。
特にブドウ品種でワインを選ぶところから入った人は、ブレンドワインの美味しさを見逃しがちです。
ピノ・ノワールのワインは今後も高騰を続けていくでしょう。
今回ご説明したとおり、上質なピノ・ノワールをつくれる環境は限られており、今後生産量が爆発的に伸びることはほぼあり得ません。
消費者の知識が高まり情報が共有されることで、ますます銘醸地・優良生産者に人気が集中し、価格が高騰していくでしょう。これはブルゴーニュだけの話ではありません。
そのときに「赤ワインではピノ・ノワールだけが好き」なのか、「ピノ・ノワール"も"好き」なのか。
限られた予算の中で、どちらが心行くまでワインを堪能できるでしょうか。
ピノ・ノワール"っぽい"ワインも試してみることは、賢くワインを消費する第1歩となることでしょう。