一見相性は良くないように思えるスパイシーなカレーライスとワインの相性。
双方をより楽しむためには、カレーもワインも種類を厳選して組み合わせる必要があります。
無印良品のレトルトカレー10種類に対して、4種類のワインを総当たり式で検証しました。
その中で見つけたヒリヒリする余韻を甘くリセットする魔法のような組み合わせをご紹介します。
カレーに”合う”とはどんな状態を言うのか
「私はこのカレーと一緒にこのワインを飲んだら美味しいと思いました。だからおすすめです。」
そんな主観的であいまいな検証をするつもりはありません。
そもそも、99%の人はカレーを食べながら「あ~ワイン飲みたいな~」とはならないでしょう。
カレーのサイドドリンクは、普通は水。
つまり、最低でも水を飲む時より美味しいか、心地よいか、満足できないと、わざわざワインを合わせる意味がありません。
ではどんな状態なら「カレーにワインが合っている」といえるのか
カレーにワインが合うとは
- カレーの風味にワインの風味がプラスされ、なおかつ調和している《風味の調和》
- 水を飲む時よりもスッキリと後味をリセットしてくれて、次の1口が食べたくなる《しっかりリセット》
- カレーの後をひく香辛料の辛味を中和してまろやかにしてくれる《辛味をマイルドに》
私が想像できた、今回の検証で体感できたのはこの3つです。
上記の少なくとも一つが達成されていて初めて「カレーにワインが合っている」と定義します。
カレーに”合いそうな”ワインとは
実験とは仮説・検証・考察でワンセット。
まずは仮説として「カレーに合いそうな」ワインを検証してみます。
カレーにはゲヴュルツトラミネール
これは私の考えではなく、「カレーにはゲヴュルツトラミネールが合う」というのは、ソムリエの間では割と一般的です。
しかし、カレーにもいろいろな種類がありますし、ゲヴュルツトラミネールも甘味の強弱があります。(ゲヴュルツトラミネールについては、産地の如何はあまり影響しない品種だと考えます)
カレーにはゲヴュルツトラミネールの定説が本当なのか。カレーの種類で合う合わないがあるのかを検証します。
検証に用いたヨハネショフ・セラーズのゲヴュルツトラミネールは、同品種で当店でもトップクラスの品質のもの。香りのボリューム、凝縮感、余韻の長さともに申し分のない、パワフルゲヴュルツです。
豆知識 ゲヴュルツトラミネール
イタリア原産と考えられる品種で、「ゲヴュルツ=スパイシーな」「トラミネール=トラミンのブドウ」というのが語源だとか。
代表的なアロマティック品種で、ライチのような甘い香りにバラやマンゴーなどのトロピカルフルーツのアロマが強烈にあふれ出します。半辛口に仕上げられることが多く、酸味は控えめ。アルコール度数の上がりやすい品種で、余韻に苦味が残ります。
静止状態のときにはライチやマンゴスチン。スワリングして炒めた大豆のような香ばしい香りが立ち上る。口に含んだ瞬間はまずそのとろみのあるような質感が強く感じられ、ほのかな甘みが口全体に広がる。飲み込んでその甘味がひいてくると、舌奥にこの品種らしいほのかな苦味が残る。余韻が非常に長い。
このワインは長くメーカー欠品しています。代わりとしてこちらがおすすめ。
パワフルな味わいのワインをつくる生産者なので、ピリ辛なカレーとバランスをとってくれるでしょう。
微発泡+ほのかな残糖感
カレーのスパイスは多種多様ですが、唐辛子やコショウはだいたいのものに使われます。それらは風味にもなりますが、口への刺激を狙って入っています。
刺激と刺激を合わせる、という意味でスパークリングワイン。しかし、辛味でヒリヒリした口には、やさしい泡の方がいいかと考え、微発泡をチョイス。
某カレーCMの「リンゴとハチミツ」じゃないですが、カレーはちょっと甘味を加えても美味しいです。なのでワインにも少し残糖感、甘味があった方がやさしく包んでくれそうと予想しました。
さらに、カレーは結構植物性の油を使用します。なので酸味は高めのワインの方がスッキリまとめてくれそうと予想。
以上の条件から、「ワビサビ スプーミー グリューナー・ヴェルトリーナー」を選びました。
アロマは柑橘に近いが、同時にグリーンの印象を受ける。ライムなど。ほのかに酵母のニュアンスも感じる。やさしい泡の軽い口当たりで、戻り香は黄色からオレンジのイメージ。
ブドウジュースの風味をプラス
カレーのレシピの中には、赤ワインを使うものもあります。味わいに深みを持たせるためです。
先ほども述べた「ちょっと甘味があるくらいがいい」という点と、赤ワインの風味を加えるという狙いをもって、「ランブルスコ」を選んでみました。
食用赤ブドウやブルーベリー、カシスリキュールのアロマ。泡感はとてもクリーミーで、甘味も飲み込んだ後に感じる程度。口当たりは軽めでタンニンはほとんど感じない。ランブルスコの中ではスッキリ飲める味わいだが、ドルチェのランブルスコを想像して飲むと物足りないかもしれない。
ついでに、たまたま開いてたから
検証実験の日に飲みかけだったという強い理由により、南アフリカのシラーズも参戦。
このワインは熟成に使った樽が小さいため、オーク樽の風味がハッキリと感じられます。
オーク樽熟成したシャルドネは、バターやクリームを使った料理と相性がいいです。
なので樽香の効いたこのワイン、「バターチキンカレー」に合うんじゃないかなという期待も込めていました。
1日目よりも樽のロースト感が強い。ユーカリや炭のようなアロマ。口当たりはスムーズで、あまり重たさは感じない。余韻にヴァニラの風味と優しく刺激するタンニンを感じる。香ばしいロースト香が鼻を抜けていく
こちらのワインは完売しました
代わりに同じステレンボッシュのシラーズとしてこちらを提案します。
無印良品のカレーとワインの相性を検証する
下記のリンクのとおり、無印良品のショッピングサイトでは非常に多様なカレーが扱われています。
さすがに全てを検証することはできませんでしたが、タイプの大きく異なる8種類を同時に開けて、1種類ずつワインを飲み比べました。
カレー単体ではなく、同ページから購入できる「ジャスミン米」、つまり長粒種のタイ米でいただきましたが、カレーとワインの相性には影響を与えないと考えます。
ワイン名略称
Ge |
ヨハネショフ・セラーズ ゲヴュルツトラミネール |
GV |
ワビサビ スプーミー グリューナー・ヴェルトリーナー |
La |
メディチ・エルメーテ ランブルスコ コンチェルト |
Sh |
ステレラスト シチミ スパイス シラーズ |
欧風ビーフカレー
多くの日本人が「おうちで食べるカレー」として思い浮かべるものに最も近いのが、「欧風ビーフカレー」でしょう。色もどろっとした質感も、「カレーライス」のカレーのイメージそのまま。
欧風ビーフカレーとの相性
Ge:× |
トロピカル感が余計に感じられる |
GV:〇 |
水よりもちょっとだけスッキリリセットさせてくれる |
La:× |
なぜかヨーグルト感が残る |
Sh:× |
バラバラな印象 渋味が目立つ |
マッサマンカレー
口に含んだ瞬間はココナッツミルクの甘味が目立つが、飲み込んだ後は唐辛子の刺激が残るカレー。
マッサマンカレーとの相性
Ge:◎ |
喉にツンと来る辛味が緩和され、ココナッツミルクとゲヴュルツトラミネールの甘味が合わさって長く続く |
GV:× |
ワイン単体ではそれほど強い印象のなかったワビサビが、完全にカレーに勝ってしまう。ワインの味しか残らない。 |
La:× |
後に苦味のようなものが残る |
Sh:× |
全く風味が調和していない |
イエローカレー
イエローカレーもココナッツミルクの甘味を感じるのはマッサマンカレーと共通だが、もう少しスパイスが強い。ターメリックの風味がよく効いている。だいたいこのあたりから汗が顔から滴り落ちてくる。
イエローカレーとの相性
Ge:◎ |
見事な中和!ワインによってスパイスの刺激が中和されてマイルドになり、次の1口もしっかり風味を味わえる。ただし、少し苦味が残る。 |
GV:× |
このワインの苦味ばかりが目立ち、スパイスの刺激を緩和しない |
La:△ |
悪くはないが相乗効果はない。なら水でいい。 |
Sh:× |
余韻に苦味が残る |
レッドカレー
無印良品の辛さの表記で、5段階評価の5!つまり最高レベルに辛い。ココナッツミルクの甘い風味はある程度あるものの、それよりもスパイスの刺激が強い。そうそうに舌が痛くなってくる。
レッドカレーとの相性
Ge:△ |
スパイスの刺激を中和してくれてはいるが、力不足。まろやかにしてなお、痛さが勝つ |
GV:× |
ただのすれ違う通行人のごとく、なにも変化を与えない。 |
La:× |
完全にカレーの勝ち。ワインが感じられない。 |
Sh:× |
後味に焦げ臭さが残る |
グリーンカレー
ココナッツミルクの甘さがあり、レッドカレーに比べてレモングラスなどの爽やかな風味が強い。辛さはどちらも痛い。
グリーンカレーとの相性
Ge:△ |
ゲヴュルツトラミネールのコクが強調される。悪くはないがイエローほどではない。 |
GV:× |
ワビサビが強すぎてカレーが消えてしまう。ごはんナシだと少しマシになる。 |
La:× |
苦味が強調されて最悪。 |
Sh:× |
七味シラーズが勝ってしまって、まろやかさがない。スパイスの痛みだけが残る。 |
キーマカレー
ひき肉をつかったキーマカレーは、欧風カレーと同様どろっとしており、辛味もそう強くなく、日本人になじみやすい味わいでしょう。
キーマカレーとの相性
Ge:△ |
ややこのワインの風味が過剰に感じる |
GV:〇 |
スッキリ中和してくれる感じ。水よりもさっぱりとしたリセットができる |
La:〇 |
コンチェルトの甘味が強調され、風味は調和している |
Sh:× |
味わいがやや過剰。 |
バターチキンカレー
バターや生クリームをふんだんに使っておりクリーミー。辛味もあるが甘味も感じるマイルドな味わい。
バターチキンカレーとの相性
Ge:△ |
苦味が強調される。 |
GV:〇 |
中和して拭い去ってくれる。次の一口が食べたくなるリセット感。 |
La:× |
苦味が強調される。 |
Sh:〇 |
他のカレーに比べたら一番よく、バターチキンカレーの滑らかさがワインにうまくつながる。 |
猪肉と3種の豆のカレー
他のカレーはルーのスパイス感が味の主体だったため、具材の風味が強いものならまた相性も変わると考えて、ジビエを使ったカレーを選んでみました。
猪肉がたくさん入っており、牛肉や豚肉よりも強い肉の風味がカレーの旨みを深めている。
猪肉と3種の豆のカレーとの相性
Ge:△ |
いいってほどではない。ワインが勝ってしまう。 |
GV:〇 |
結構いい。物足りないところも過剰なところもなく、上手く調和している。 |
La:× |
果実感が過剰。ベリー感が猪肉と調和していない感じ。 |
Sh:× |
樽感が余計に残ってしまい、焦げ臭い。 |
ベストペアリングは・・・・
今回の検証で最も優れたペアリングだと感じたのは・・・
「マッサマンカレー × ヨハネショフ・セラーズ ゲヴュルツトラミネール」
これこそ辛味を心地よさに昇華するマリアージュ。カレーを飲みこんだ後に残るオイリーさやヒリヒリ感は、水を飲んでもしばらくは続いてしまいます。このワインを飲んだ時には、オイリー感はきれいにリセットされるだけでなく、スパイスのヒリヒリ感がとてもマイルドになり、心地よく次の一口を楽しむことができます。
イエローカレーも同様の方向でなかなか良く、迷いました。ゲヴュルツトラミネールの苦味が気にならない方なら、より辛いイエローカレーの方がより変化を楽しめるかもしれません。
レッドカレー、グリーンカレーも方向性は悪くないです。あとはバランスだけ。
総評としてはこのワインはココナッツミルクを使ってスパイスのしっかり効いた辛めのカレーの刺激をマイルドにつつんでくれます。ただし、辛味の刺激が強すぎると、中和しきれません。
次点
もう一つ優れたペアリングを挙げるとすれば
「キーマカレー × ワビサビ スプーミー グリューナー・ヴェルトリーナー」
先述のとおり、水ではそう簡単にリセットできないカレーの味の濃さを、きれいにスッパリ切ってくれます。
ワインを合わせたからビックリするほど美味しくなることはありませんが、「食が進む」という点では十分相性がいいと言えるでしょう。
甘口ワインをあわせてみたら・・・
「可能な組み合わせはなるべく試そう」と、この検証の翌日、甘口ワインをあわせてみました。
結果から言うとダメ。ワインの味しか感じなくなります。
ほどほどの甘口ワインでも、カレーを食べワインを飲んだ後に、「あ~美味しいワイン」としか感じません。カレーが出てこないのです。
まして貴腐ワインと合わせると、もう貴腐ワインが支配的。カレー食べていようが関係ありません。
わずかながら、ワインの甘味が強調されるような感じも受けました。ただ、一緒に食べる・飲む意味はないといっていいでしょう。
総評 カレーに合うワインは?
カレーに合うワインは、定説の通りゲヴュルツトラミネールが非常に興味深いです。
ただし、ココナッツミルクを使ってスパイスが強く効いたカレーの刺激をマイルドにするという点において。
今回検証に用いたヨハネショフ・セラーズのものは、ゲビュルツトラミネールの中でも高級品です。
「もう少し安いゲビュルツトラミネールでもいいんじゃない?」当然そう考えるでしょう。
予想にはなりますが、ワインの凝縮感とスパイスの強さのバランスが重要です。
力強いゲビュルツトラミネールほど、しっかり辛いカレーも魔法のように中和することができる。
そんなに辛くないカレーなら、あっさり目のゲヴュルツトラミネールがベターというふうに。
「スパイスカレーにはゲヴュルツトラミネール」
これは覚えておいて損はないでしょう。
「お水よりもしっかり口の中をリセットしてくれる」という意味では、ワビサビ スプーミーも優秀でした。
これに関しては、「代わりに似たようなものを」といってもなかなか見つからないかも。ただし、今回の結果からココナッツミルクと相性が悪いのかもと予想されます。
無印良品がお近くになくても、通販で取り寄せることができます。
今度の週末は、カレーとワインでちょっと驚きの相性を体感してみては?